• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09J
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09J
管理番号 1177149
審判番号 不服2006-13550  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-28 
確定日 2008-04-28 
事件の表示 特願2001-368725「感熱性粘着剤層を有する発泡体シート及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 6月20日出願公開、特開2003-171628〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年12月3日の出願であって、平成18年5月9日付けで手続補正がされ、平成18年5月25日付けで拒絶査定がされ、同年6月28日に拒絶査定に対する審判請求がされ、その後、同年7月28日付けで手続補正がされ、平成19年5月2日付けで当審の拒絶理由(最後)が通知されるとともに、同日付けで平成18年7月28日付けの手続補正を却下する決定がされ、その拒絶理由通知の指定期間内の平成19年6月14日付けで意見書が提出されると共に、同日付けで手続補正がされたものである。

2.平成19年6月14日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成19年6月14日付けの手続補正を却下する。

[理由]
2-1.補正の内容
平成19年6月14日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし3の
「【請求項1】 発泡体シートの少なくとも一面に、常温では非粘着性であるが、加熱することにより粘着性を発現し、その後も長期間粘着性が持続する感熱性粘着剤が塗工されてなる感熱性粘着剤層を有する発泡体シートであって、 前記発泡体シートは、熱硬化性樹脂からなり、接触角70度以上105度以下であることを特徴とする感熱性粘着剤層を有する発泡体シート。
【請求項2】 前記発泡体シートの適所に補強材としてシート状物が積層されていることを特徴とする請求項1記載の感熱性粘着剤層を有する発泡体シート。
【請求項3】 基材を、接触角70度以上105度以下の熱硬化性樹脂からなる発泡体シートとし、粘着剤を、常温では非粘着性であるが、加熱することにより粘着性を発現し、その後も長期間粘着性が持続する感熱性粘着剤とし、 該感熱性粘着剤を水分散型エマルジョンとし、これを前記発泡体シートの少なくとも一面に塗工することを特徴とする感熱性粘着剤層を有する発泡体シートの製造方法。」との記載を、
「【請求項1】 発泡体シートの少なくとも一面に、常温では非粘着性であるが、加熱することにより粘着性を発現し、その後も長期間粘着性が持続する感熱性粘着剤が塗工されてなる感熱性粘着剤層を有する発泡体シートであって、 前記発泡体シートは、ウレタン発泡体からなり、接触角70度以上105度以下であることを特徴とする感熱性粘着剤層を有する発泡体シート。
【請求項2】 前記発泡体シートの適所に補強材としてシート状物が積層されていることを特徴とする請求項1記載の感熱性粘着剤層を有する発泡体シート。
【請求項3】 基材を、接触角70度以上105度以下のウレタン発泡体からなる発泡体シートとし、粘着剤を、常温では非粘着性であるが、加熱することにより粘着性を発現し、その後も長期間粘着性が持続する感熱性粘着剤とし、 該感熱性粘着剤を水分散型エマルジョンとし、これを前記発泡体シートの少なくとも一面に塗工することを特徴とする感熱性粘着剤層を有する発泡体シートの製造方法。」と補正することを含むものである。

2-2.補正の適否について
上記特許請求の範囲の請求項1、3に係る本件補正は、本件補正前の発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)であった、
「発泡体シートは、熱硬化性樹脂からなり、」との記載を、
「発泡体シートは、ウレタン発泡体からなり、」(補正事項(a)という。)と
「接触角70度以上105度以下の熱硬化性樹脂からなる発泡体シートとし、」との記載を、
「接触角70度以上105度以下のウレタン発泡体からなる発泡体シートとし、」(補正事項(b)という。)と
補正するものである。

補正事項(a)及び(b)は、発泡体シートの材料について、発明特定事項であった「熱硬化性樹脂」を「ウレタン発泡体」と補正するもので、これにより補正前の樹脂材料は「熱硬化性樹脂」に限られていたものが、ウレタン発泡体といった場合、その材料としてウレタン樹脂材料に特定しているものの、ウレタン樹脂には熱硬化性樹脂だけでなく、熱可塑性樹脂に分類されるものもあることから、「熱硬化性樹脂」に限らないものとなった。
したがって、補正事項(a)及び(b)に係る本件補正は、特許請求の範囲を拡張するものであって、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするもの、いわゆる、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当しないし、また、特許法第17条の2第4項各号に掲げる、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当しないことも明らかである。
以上のとおりであるから、他の補正について検討するまでもなく、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に適合しない。

2-3.まとめ
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.当審の拒絶理由(最後)の内容
平成19年5月2日付け拒絶理由通知書で示した拒絶理由(以下、「本件拒絶理由」という。)は、概要、以下のとおりのものと認める。

「本願について、平成18年 5月 9日付けでされた手続補正は、下記のとおり、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものでないので、特許法第17条の2第3項の規定に違反する。」

そして、本件拒絶理由において、具体的には、以下のとおり「3.(2)補正の適否についての検討」で指摘している。
指摘a:「本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、『当初明細書』という。)には、『熱硬化性樹脂』との記載はないし、ましてや、発泡体シートの材料が熱硬化性樹脂からなるとの記載はない。
さらに、詳述する。発泡体シートの素材に関する記載としては、当初明細書の段落【0010】に『この発泡体としては、EPDMゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴムなどの合成ゴム、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル、ポリ塩化ビニルなどのオレフィン系発泡体及びウレタン発泡体などの可とう性発泡体を挙げることができ、独立気泡であっても連続気泡であってもよい。』及び段落【0022】に『表1に示す各実施例及び比較例の発泡体シートは、次の通りである。
Pu(1) ポリエステル系ウレタン発泡体
Pu(2) ポリエーテル系ウレタン発泡体
Pu(3) ポリエール系ウレタン発泡体
Pu(4) 防水性ポリエーテル系ウレタン発泡体
Pu(5) ポリエーテル系ウレタン発泡体
Pu(6) ポリエステル系ウレタン発泡体
EPDM エチレンプロピレン共重合体ゴム発泡体
PP(1) ポリプロピレン発泡体
PP(2) PP(1)の粘着剤を塗工する面にコロナ処理』と記載されている。
そして、一般に合成樹脂は、ゴムとは区別されているもので、合成樹脂は、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂に二大別される(必要ならば、『化学大辞典3』1997年9月20日、縮刷版第36刷、共立出版株式会社発行、第548頁、『合成樹脂』の項を参照されたい。)。このことは、上記段落【0010】及び段落【0022】の発泡体シートの素材の例示とも合致している。
してみると、上記記載から、本願発明において用いられる発泡体シートの材料が熱硬化性樹脂からなるものであるとの記載もなければ、熱硬化性樹脂であることが自明であるともいえない。
したがって、『発泡体シート』を『熱硬化性樹脂からなる』ものに限定する補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内でするものではない。」

4.当審の判断
本件拒絶理由について検討する。
4-1.本願の明細書の記載
本件の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「当初明細書」という。)によれば、特許請求の範囲請求項1及び発明の詳細な説明には、以下のとおりに記載されていると認める。
a1.「【請求項1】 発泡体シートの少なくとも一面に、常温では非粘着性であるが、加熱することにより粘着性を発現し、その後も長期間粘着性が持続する感熱性粘着剤が塗工されてなる感熱性粘着剤層を有する発泡体シートであって、前記発泡体シートが接触角70度以上105度以下であることを特徴とする感熱性粘着剤層を有する発泡体シート。」(特許請求の範囲請求項1)
a2.「この発泡体としては、EPDMゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴムなどの合成ゴム、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル、ポリ塩化ビニルなどのオレフィン系発泡体及びウレタン発泡体などの可とう性発泡体を挙げることができ、独立気泡であっても連続気泡であってもよい。」(段落【0010】抜粋)
a3.「感熱性粘着剤層2の感熱性粘着剤は、熱可塑性樹脂、粘着付与剤及び固体可塑剤を基本組成とし、常温では非粘着性であるが、加熱することにより粘着性を発現し、その後も長期間粘着性が持続するものである。・・・(中略)・・・この感熱性粘着剤は、熱可塑性樹脂のガラス転移点及び粘着付与剤、固体可塑剤の軟化点を調整することで、加熱により粘着性を発現させる温度調整を行なう。感熱性粘着剤は、発泡体シート1の融点より低い温度で粘着性を発現することが必要であるが、発泡体は使用する材質によって融点が異なるため、前記のようにして温度調整を行なう。」(段落【0016】抜粋)
a4.「以下、発泡体シートの材質及び特性を変えた実施例及び比較例を挙げ、その試験結果を表1に示す。」(段落【0020】抜粋)
a5.「表1に示す各実施例及び比較例の発泡体シートは、次の通りである。
Pu(1) ポリエステル系ウレタン発泡体
Pu(2) ポリエーテル系ウレタン発泡体
Pu(3) ポリエール系ウレタン発泡体
Pu(4) 防水性ポリエーテル系ウレタン発泡体
Pu(5) ポリエーテル系ウレタン発泡体
Pu(6) ポリエステル系ウレタン発泡体
EPDM エチレンプロピレン共重合体ゴム発泡体
PP(1) ポリプロピレン発泡体
PP(2) PP(1)の粘着剤を塗工する面にコロナ処理」(段落【0022】)

4-2.本件拒絶理由についての判断
(1)本件拒絶理由について
本件拒絶理由は、前記指摘aとして記載したように当初明細書の発明の詳細な説明には、本願発明において用いられる発泡体シートの材料が熱硬化性樹脂からなるものであるとの記載もなければ、熱硬化性樹脂であることが自明であるともいえない点を挙げ、このことを本件拒絶理由の根拠とするものである。
以下に、詳述する。

(2)判断の妥当性について
発泡シートの材料が明らかにされている段落は、摘示a2ないしa4として記載したところの、段落【0010】、段落【0016】及び段落【0022】である。発明の詳細な説明の記載にはそれ以外に明示的に記載するところはない。
そこで、各段落の記載内容について検討する。
段落【0010】では、発泡体シートを、その材料により区分して表記され、材料として合成ゴム発泡体、オレフィン系発泡体、ウレタン発泡体が例示され、「可とう性発泡体を挙げることができる」と括られている。この記載からは、例示された材料のような材料に限られ、全体を包括する概念として「可とう性」を有する発泡体となるような材料であるということまでは導き出せるが、「熱硬化性樹脂」という材料、すなわち、熱硬化性樹脂と括ることができるいずれかの材料を用いた発泡体シートであるということは導き出すことはできない。
また、段落【0016】には、感熱性粘着剤の融点より高い融点を有する発泡体シートであること及び発泡体が材質により融点が異なるなどとの記載があり、この記載からは、発泡シートの材料として融点をもつ材質、すなわち「熱可塑性」の材料に括ることができるものだけが導き出すことができるものといえ、やはり、熱硬化性樹脂と括ることができる材料を導き出すことはできない。このことは、前記した段落【0010】の記載内容とも齟齬しない。
さらに、本願の発明の実施例として記載されている具体的な材料を開示している段落【0020】、段落【0022】に記載のPu(1)ないしPu(6)、EPDM、PP(1)、PP(2)として例示された材料をみても明らかなとおり、前記した段落【0010】に対応した材料区分毎の実施例が例示されているものと解される。すなわち、Puはウレタン発泡体の、EPDMは合成ゴム発泡体の、PPはオレフィン系発泡体の具体的な例として実施例として記載されているものと解され、それ以外の解釈を採り得ないものである。
以上のことから、当初明細書の全体を概括すると、一つの流れで明細書は記載されているものと解され、材料として上位概念化できるのは、段落【0010】に挙げられた合成ゴム発泡体、オレフィン系発泡体、ウレタン発泡体と括ること及びそれらを括ることができる上位の材料までで、「熱硬化性」という概念で材料を括ることも、具体的な材料として「熱硬化性樹脂」という材料概念を導き出すこともできるものではない。
そして、さらに、記載内容から解釈を進めるとしたら、段落【0016】の記載からみて、それら合成ゴム発泡体、オレフィン系発泡体、ウレタン発泡体は熱可塑性のものである蓋然性が高く、これからもの「熱硬化性」という材料の概念で括ることも、具体的な材料として「熱硬化性樹脂」という材料概念の材料が記載されているといえるものでもない。
したがって、「発泡体シート」を「熱硬化性樹脂からなる」ものに限定する補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内でするものではない。

よって、本件拒絶理由は、妥当である。

(3)請求人の主張
これに対し、請求人は、平成18年5月9日付け意見書の「2.補正の根拠(1)」において、「請求項1は、発泡体シートを「熱硬化性樹脂」に限定したものであり、明細書の段落番号0010、0022および0021の表1等の記載による。」と主張する。
しかしながら、前記「4-2.(2)」に詳述したとおり、当初明細書には「熱硬化性樹脂」という上位概念化された樹脂材料の記載もないし、請求人が挙げた各段落に記載された内容からは、「熱硬化性樹脂」という材料の概念は導き出すことはできないし、当初明細書の記載から自明な事項ともいえない。
段落【0021】の表1を挙げているが、段落【0022】には表1で使用した発泡体シートの略記号表記の説明がされており、発泡体シートの材料は段落【0022】の記載を検討することで足りているもので、段落【0021】の略号表記の記載からは到底、導き出せないことは明らかである。
請求人の主張は、妥当性を欠くものといわざるを得ない。

5.むすび
以上のとおり、この出願の願書に添付した明細書又は図面について、平成18年5月9日付けでした手続補正に係る補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものでないので、特許法第17条の2第3項の規定に違反するから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-03-04 
結審通知日 2008-03-05 
審決日 2008-03-18 
出願番号 特願2001-368725(P2001-368725)
審決分類 P 1 8・ 561- WZ (C09J)
P 1 8・ 55- WZ (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 泰之  
特許庁審判長 石井 淑久
特許庁審判官 鈴木 紀子
井上 彌一
発明の名称 感熱性粘着剤層を有する発泡体シート及びその製造方法  
代理人 清水 定信  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ