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審決分類 |
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C09J 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C09J 審判 査定不服 特39条先願 特許、登録しない。 C09J 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09J |
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管理番号 | 1177325 |
審判番号 | 不服2006-16920 |
総通号数 | 102 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-06-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-08-03 |
確定日 | 2008-05-09 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第 92986号「異方性導電フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成10年10月13日出願公開、特開平10-273633〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成9年3月27日の出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。 ・平成16年6月10日付けで拒絶理由を通知 ・平成16年8月16日に意見書及び手続補正書を提出 ・平成18年6月27日付けで拒絶査定 ・平成18年8月3日に拒絶査定に対する審判請求 ・平成18年9月4日に手続補正書を提出 ・平成19年6月5日付けで審尋(審尋に対する回答書の提出はない。) 第2 平成18年9月4日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成18年9月4日付けの手続補正を却下する。 [補正の却下の決定の理由] 1 補正の内容 平成18年9月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲に 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 接着剤に導電性粒子を分散してなり、厚さ方向に加圧することにより厚さ方向に導電性が付与される異方性導電フィルムにおいて、前記接着剤がエチレンと酢酸ビニルとアクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーとの共重合体100重量部に対して有機過酸化物又は光増感剤を0.1?10重量部、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物及びアリル基含有化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を0.1?50重量部配合してなる熱又は光硬化性接着剤であり、 前記共重合体における酢酸ビニル含有率が20?80重量%、アクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーの含有率が0.01?10重量%であって、しかも前記共重合体のメルトインデックスが1?3000であることを特徴とする異方性導電フィルム。 【請求項2】 接着剤に導電性粒子を分散してなり、厚さ方向に加圧することにより厚さ方向に導電性が付与される異方性導電フィルムにおいて、前記接着剤がエチレンと酢酸ビニルとマレイン酸及び/又は無水マレイン酸との共重合体100重量部に対して有機過酸化物又は光増感剤を0.1?10重量部、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物及びアリル基含有化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を0.1?50重量部配合してなる熱又は光硬化性接着剤であり、 前記共重合体における酢酸ビニル含有率が20?80重量%、マレイン酸及び/又は無水マレイン酸の含有率が0.01?10重量%であって、しかも前記共重合体のメルトインデックスが1?3000であることを特徴とする異方性導電フィルム。 【請求項3】 前記接着剤が、前記共重合体100重量部に対し、シランカップリング剤を0.01?5重量部添加してなる請求項1又は2記載の異方性導電フィルム。 【請求項4】 前記接着剤が、前記共重合体100重量部に対し、エポキシ基含有化合物を0.1?20重量部添加してなる請求項1,2又は3記載の異方性導電フィルム。 【請求項5】 前記接着剤が、前記共重合体100重量部に対し、炭化水素樹脂を1?200重量部添加してなる請求項1乃至4のいずれか1項記載の異方性導電フィルム。 【請求項6】 前記導電性粒子が、前記共重合体に対して0.1?15容量%含有される請求項1乃至5のいずれか1項記載の異方性導電フィルム。 【請求項7】 前記導電性粒子の粒径が0.1?100μmである請求項1乃至6のいずれか1項記載の異方性導電フィルム。」 とあるのを、 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 接着剤に導電性粒子を分散してなり、厚さ方向に5?50kg/cm^(2)の加圧力で加圧することにより厚さ方向に導電性が付与される異方性導電フィルムにおいて、前記接着剤がエチレンと酢酸ビニルとアクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーとの共重合体100重量部に対して有機過酸化物又は光増感剤を0.1?10重量部、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物及びアリル基含有化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を0.1?50重量部配合してなる熱又は光硬化性接着剤であり、 前記共重合体における酢酸ビニル含有率が20?80重量%、アクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーの含有率が0.01?10重量%であって、しかも前記共重合体のメルトインデックスが1?3000であることを特徴とする異方性導電フィルム。 【請求項2】 接着剤に導電性粒子を分散してなり、厚さ方向に5?50kg/cm^(2)の加圧力で加圧することにより厚さ方向に導電性が付与される異方性導電フィルムにおいて、前記接着剤がエチレンと酢酸ビニルとマレイン酸及び/又は無水マレイン酸との共重合体100重量部に対して有機過酸化物又は光増感剤を0.1?10重量部、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物及びアリル基含有化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を0.1?50重量部配合してなる熱又は光硬化性接着剤であり、 前記共重合体における酢酸ビニル含有率が20?80重量%、マレイン酸及び/又は無水マレイン酸の含有率が0.01?10重量%であって、しかも前記共重合体のメルトインデックスが1?3000であることを特徴とする異方性導電フィルム。 【請求項3】 前記接着剤が、前記共重合体100重量部に対し、シランカップリング剤を0.01?5重量部添加してなる請求項1又は2記載の異方性導電フィルム。 【請求項4】 前記接着剤が、前記共重合体100重量部に対し、エポキシ基含有化合物を0.1?20重量部添加してなる請求項1,2又は3記載の異方性導電フィルム。 【請求項5】 前記接着剤が、前記共重合体100重量部に対し、炭化水素樹脂を1?200重量部添加してなる請求項1乃至4のいずれか1項記載の異方性導電フィルム。 【請求項6】 前記導電性粒子が、前記共重合体に対して0.1?15容量%含有される請求項1乃至5のいずれか1項記載の異方性導電フィルム。 【請求項7】 前記導電性粒子の粒径が0.1?100μmである請求項1乃至6のいずれか1項記載の異方性導電フィルム。」 と補正することを含むものである。 2 補正の適否 (1) 本件補正は、要するに、請求項1及び2に、「厚さ方向に5?50kg/cm^(2)の加圧力で加圧する」と、厚さ方向に加圧する際の加圧力の範囲を新たに規定するものということができる。 しかしながら、本件補正前の請求項1及び2には、厚さ方向に加圧する際の加圧力の範囲について何ら規定されていないことから、厚さ方向に加圧する際の加圧力がどの程度であるかは、発明を特定するために必要な事項であったということができず、平成18年法律第55号による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項、 「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。) 」 との事項を目的とするものではない。 また、この出願の明細書の発明の詳細な説明の段落【0032】に、 「この場合、上記接着時の加圧で、加圧方向(フィルム厚さ方向)に導電性が生じるが、この加圧力は適宜選定され、通常5?50kg/cm^(2)、特に10?30kg/cm^(2)の加圧力とすることが好ましい。」 と記載されており、厚さ方向に加圧する際の加圧力として「5?50kg/cm^(2)の加圧力」は、通常一般的なものということができるので、そもそも、厚さ方向に加圧する際の加圧力の範囲を5?50kg/cm^(2)の加圧力と規定しても、特許請求の範囲を減縮したことにはならない。 さらに、このような補正が、誤記の訂正でも、明りょうでない記載の釈明にも該当しないことは明らかである。 したがって、本件補正は、平成18年法律第55号による改正前の特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とするものとはいうことができない。 (2) 仮に、本件補正が、平成18年法律第55号による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするということができたとしても、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明は、以下のア?イのとおり特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 なお、下記のイについては、平成19年6月5日付けで、同趣旨の審尋を行い、請求人に対して回答書により意見を述べる機会を与えたところであるが、請求人からは何ら応答がなかった。 ア この出願は、明細書の記載が下記(ア)の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 したがって、特許請求の範囲の記載は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」との要件に適合しないものである。 (ア) 本件補正後の請求項1に係る発明では、接着剤の構成成分であるエチレンと酢酸ビニルとアクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーとの共重合体について、「酢酸ビニル含有率が20?80重量%、アクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーの含有率が0.01?10重量%であ」ると規定している。 一方、発明の詳細な説明には、次のような記載がある。 (i)「本発明は、上記事情を改善したもので、作業性がよく、かつ架橋密度が高く、耐久性に優れた異方性導電フィルムを提供することを目的とする。」(【0005】) (ii)「以下、本発明につき更に詳しく説明する。本発明の異方性導電フィルムは、接着剤中に導電性粒子を分散させてなるものであり、この場合、接着剤としては、メルトインデックス(MFR)が1?3000、好ましくは1?1000、更に好ましくは1?800であり、下記(A)?(C)から選ばれるポリマーを主成分とする熱又は光硬化性接着剤を使用するものである。このようにMFRが1?3000で、かつ酢酸ビニル含有率が20?80重量%の下記(A)?(C)の共重合体を使用することにより、硬化前は粘着性が上がり、作業性がアップすると共に、硬化物は3次元架橋密度がアップし、強固な接着力を発現し、耐湿耐熱性が向上するものである。」(【0008】) (iii)「また、前記ポリマーとしてエチレンと酢酸ビニルとアクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーとの共重合体を用いる場合、この共重合体の酢酸ビニル含有率は20?80重量%であり、好ましくは20?60重量%である。酢酸ビニル含有率が20重量%より低いと高温時に架橋硬化させる場合に充分な架橋度が得られず、一方、80重量%を超えると樹脂の軟化温度が低くなり、貯蔵が困難となり、実用上問題である。・・・」(【0010】) これらの記載からみて、少なくとも、本願発明の異方性導電フィルムにおいて、「作業性が良く、かつ架橋密度が高い」という特性を備えるために、硬化前は粘着性が上がり、作業性がアップ(作業性が良くなること)するとともに、硬化物は三次元架橋密度がアップし、強固な接着力を発現させ得るポリマーを用いる必要があり、そして、そのために、特に酢酸ビニル含有率に注目し、これが20?80重量%であるエチレンと酢酸ビニルとアクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーとの共重合体を使用するものであるということができる。 一方で、具体的に記載されているエチレンと酢酸ビニルとアクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーとの共重合体については、発明の詳細な説明の段落【0044】の【表2】の実施例1又は同【0045】の【表3】の実施例3で使用されている「エチレン-酢酸ビニル-グリシジルメタクリレート共重合体^(*1)」のみであって、これは、酢酸ビニル含有率が8重量%のものにすぎない。 そして、出願時の技術常識を参酌しても、硬化前の粘着性や硬化物の三次元架橋密度などに関し、酢酸ビニル含有率が8重量%のエチレンと酢酸ビニルとアクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーとの共重合体を用いた例が記載されてさえいれば、酢酸ビニル含有率が20?80重量%であるエチレンと酢酸ビニルとアクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーとの共重合体を用いた場合に、実際に所期の作用効果を発現することができ、発明の課題を解決できると認識し得るということはできず、したがって、発明の詳細な説明の記載を、請求項1に記載された発明まで拡張又は一般化し得るものではない。 イ この出願は、明細書の記載が下記(ア)?(イ)の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 したがって、特許請求の範囲の記載は、「特許を受けようとする発明が明確であること。」との要件に適合しないものである。 (ア) 本願発明の実施例1及び3におけるエチレンと酢酸ビニルとアクリレート系モノマーとの共重合体の酢酸ビニル含有率は8重量%であって、請求項1における酢酸ビニル含有率の20?80重量%の範囲外(実施例に相当しない)である。一方、段落【0010】にはエチレンと酢酸ビニルとアクリレート系モノマーとの共重合体酢酸ビニル含有率が20重量%より低いと高温時に架橋硬化させる場合に充分な架橋度が得られない旨の記載があるにもかかわらず、【表1】?【表3】における実施例1及び3における接着力は、酢酸ビニル含有率が20重量%以上のほかの共重合体と同等であることからすると、エチレンと酢酸ビニルとアクリレート系モノマーとの共重合体を用いる場合における酢酸ビニルの含有率の技術的意義が不明であり、加圧力を規定し、特定の組成・物性を規定した接着剤を用いた異方性導電フィルムの発明における加圧力と組成、各物性値との関係、及びその技術的意義も理解することができず不明である。 (イ) 本件補正後の請求項1に係る発明では、加圧力を「5?50kg/cm^(2)」と限定しているが、当該数値限定と(加圧することにより厚さ方向に導電性が付与される)異方性導電フィルムの特定における技術的意義などが不明であり、さらに、当該加圧力に係る数値限定と接着剤における共重合体の組成あるいはメルトインデックスとの関係も明確でない。しかも、本願明細書の実施例、比較例及び参考例においては、実際に用いた加圧力については何ら記載がない。 3 むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号による改正前の平成18年改正前特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とするものではない。 また、仮に、本件補正が、平成18年法律第55号による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするということができたとしても、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないので、本件補正は、平成18年法律第55号による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。 したがって、その余のことを検討するまでもなく、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 この出願の発明について 平成18年9月4日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、この出願の発明は、平成16年8月16日付けでした手続補正により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される下記のとおりのものである。(以下、順に「本願発明1」?「本願発明7」といい、これらをまとめて「本願発明」ということもある。) 「 【請求項1】 接着剤に導電性粒子を分散してなり、厚さ方向に加圧することにより厚さ方向に導電性が付与される異方性導電フィルムにおいて、前記接着剤がエチレンと酢酸ビニルとアクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーとの共重合体100重量部に対して有機過酸化物又は光増感剤を0.1?10重量部、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物及びアリル基含有化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を0.1?50重量部配合してなる熱又は光硬化性接着剤であり、 前記共重合体における酢酸ビニル含有率が20?80重量%、アクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーの含有率が0.01?10重量%であって、しかも前記共重合体のメルトインデックスが1?3000であることを特徴とする異方性導電フィルム。 【請求項2】 接着剤に導電性粒子を分散してなり、厚さ方向に加圧することにより厚さ方向に導電性が付与される異方性導電フィルムにおいて、前記接着剤がエチレンと酢酸ビニルとマレイン酸及び/又は無水マレイン酸との共重合体100重量部に対して有機過酸化物又は光増感剤を0.1?10重量部、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物及びアリル基含有化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を0.1?50重量部配合してなる熱又は光硬化性接着剤であり、 前記共重合体における酢酸ビニル含有率が20?80重量%、マレイン酸及び/又は無水マレイン酸の含有率が0.01?10重量%であって、しかも前記共重合体のメルトインデックスが1?3000であることを特徴とする異方性導電フィルム。 【請求項3】 前記接着剤が、前記共重合体100重量部に対し、シランカップリング剤を0.01?5重量部添加してなる請求項1又は2記載の異方性導電フィルム。 【請求項4】 前記接着剤が、前記共重合体100重量部に対し、エポキシ基含有化合物を0.1?20重量部添加してなる請求項1,2又は3記載の異方性導電フィルム。 【請求項5】 前記接着剤が、前記共重合体100重量部に対し、炭化水素樹脂を1?200重量部添加してなる請求項1乃至4のいずれか1項記載の異方性導電フィルム。 【請求項6】 前記導電性粒子が、前記共重合体に対して0.1?15容量%含有される請求項1乃至5のいずれか1項記載の異方性導電フィルム。 【請求項7】 前記導電性粒子の粒径が0.1?100μmである請求項1乃至6のいずれか1項記載の異方性導電フィルム。」 第4 原査定の理由の概要 原査定の理由3は、要するに、この出願の請求項1?7に係る発明は、その出願日前の出願である特願平8-219894号の請求項2又は請求項10に係る発明(以下、これらをまとめて「先願発明」という。)と同一であるから、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないというものである。 ここで、上記特願平8-219894号については、平成19年1月12日付けで拒絶査定され、その後拒絶査定不服審判の請求も出願の取下げもなされることなく、前記拒絶査定が確定している。 (なお、特許法等の一部を改正する法律(平成10年法律第51号)の附則第2条の規定により、平成10年法律第51号による改正後の特許法第39条第5項は適用されない。) 第5 当審の判断 1 先願発明について (1) 原査定の理由3で提示した、この出願の出願日前の出願である特願平8-219894号の請求項2に係る発明、請求項2が引用する請求項1に係る発明、請求項10に係る発明及び請求項10が引用する請求項9に係る発明は、それぞれ以下のとおりのものである。 「 【請求項1】 導電性粒子を接着剤中に分散してなる異方性導電フィルムにおいて、前記接着剤が、エチレン-酢酸ビニル共重合体;エチレンと酢酸ビニルとアクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーとの共重合体;エチレンと酢酸ビニルとマレイン酸及び/又は無水マレイン酸との共重合体;エチレンとアクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーとマレイン酸及び/又は無水マレイン酸との共重合体;並びにエチレン-メタクリル酸共重合体の分子間を金属イオンで結合させたアイオノマー樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマーを主成分とする熱硬化性接着剤であり、前記導電性粒子が前記ポリマーに対して0.1?15容量%含有されており、前記導電性粒子の粒径が0.1?100μmであり、前記熱硬化性接着剤が、ポリマー100重量部に対し、有機過酸化物を0.1?10重量部、シランカップリング剤を0.01?5重量部、エポキシ基含有化合物を0.1?20重量部添加してなることを特徴とする異方性導電フィルム。 【請求項2】 熱硬化性接着剤が、ポリマー100重量部に対し、アクリロイル基含有化合物、メタクリロイル基含有化合物及びアリル基含有化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を0.1?50重量部添加してなることを特徴とする請求項1記載の異方性導電フィルム。 【請求項9】 導電性粒子を接着剤中に分散してなる異方性導電フィルムにおいて、前記接着剤が、エチレン-酢酸ビニル共重合体;エチレンと酢酸ビニルとアクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーとの共重合体;エチレンと酢酸ビニルとマレイン酸及び/又は無水マレイン酸との共重合体;エチレンとアクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーとマレイン酸及び/又は無水マレイン酸との共重合体;並びにエチレン-メタクリル酸共重合体の分子間を金属イオンで結合させたアイオノマー樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマーを主成分とする光硬化性接着剤であり、前記導電性粒子が前記ポリマーに対して0.1?15容量%含有されており、前記導電性粒子の粒径が0.1?100μmであり、前記光硬化性接着剤が、ポリマー100重量部に対し、光増感剤を0.1?10重量部、シランカップリング剤を0.01?5重量部、エポキシ基含有化合物を0.1?20重量部添加してなることを特徴とする異方性導電フィルム。 【請求項10】 光硬化性接着剤が、ポリマー100重量部に対し、アクリロイル基含有化合物、メタクリロイル基含有化合物及びアリル基含有化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を0.1?50重量部添加してなることを特徴とする請求項9記載の異方性導電フィルム。」 (2) 先願発明について、他の請求項を引用した形式による記載を改めて記載すると、それぞれ以下のとおりのものとなる。 ア 特願平8-219894号の請求項2に係る発明(以下、「先願発明1」という。) 「導電性粒子を接着剤中に分散してなる異方性導電フィルムにおいて、前記接着剤が、エチレン-酢酸ビニル共重合体;エチレンと酢酸ビニルとアクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーとの共重合体;エチレンと酢酸ビニルとマレイン酸及び/又は無水マレイン酸との共重合体;エチレンとアクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーとマレイン酸及び/又は無水マレイン酸との共重合体;並びにエチレン-メタクリル酸共重合体の分子間を金属イオンで結合させたアイオノマー樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマーを主成分とする熱硬化性接着剤であり、前記導電性粒子が前記ポリマーに対して0.1?15容量%含有されており、前記導電性粒子の粒径が0.1?100μmであり、前記熱硬化性接着剤が、ポリマー100重量部に対し、有機過酸化物を0.1?10重量部、アクリロイル基含有化合物、メタクリロイル基含有化合物及びアリル基含有化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を0.1?50重量部、シランカップリング剤を0.01?5重量部、エポキシ基含有化合物を0.1?20重量部添加してなることを特徴とする異方性導電フィルム。」 イ 特願平8-219894号の請求項10に係る発明(以下、「先願発明2」という。) 「導電性粒子を接着剤中に分散してなる異方性導電フィルムにおいて、前記接着剤が、エチレン-酢酸ビニル共重合体;エチレンと酢酸ビニルとアクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーとの共重合体;エチレンと酢酸ビニルとマレイン酸及び/又は無水マレイン酸との共重合体;エチレンとアクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーとマレイン酸及び/又は無水マレイン酸との共重合体;並びにエチレン-メタクリル酸共重合体の分子間を金属イオンで結合させたアイオノマー樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマーを主成分とする光硬化性接着剤であり、前記導電性粒子が前記ポリマーに対して0.1?15容量%含有されており、前記導電性粒子の粒径が0.1?100μmであり、前記光硬化性接着剤が、ポリマー100重量部に対し、光増感剤を0.1?10重量部、アクリロイル基含有化合物、メタクリロイル基含有化合物及びアリル基含有化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を0.1?50重量部、シランカップリング剤を0.01?5重量部、エポキシ基含有化合物を0.1?20重量部添加してなることを特徴とする異方性導電フィルム。」 2 本願発明2と先願発明1について (1) 対比 本願発明2と先願発明1とを対比する。 また、先願発明1の「導電性粒子を接着剤中に分散」及び「共重合体」は、その表現ぶりが異なるだけであって、本願発明2の「接着剤に導電性粒子を分散」及び「ポリマー」に相当することが明らかである。 さらに、本願発明2では、「有機過酸化物又は光増感剤」が配合されて「熱又は光硬化性接着剤」とされているが、有機過酸化物を配合された場合には熱硬化性接着剤に、光増感剤が配合された場合には光硬化性接着剤になることは明らかである。 そうすると、本願発明2と先願発明1とは、 「接着剤に導電性粒子を分散してなる異方性導電フィルムにおいて、前記接着剤がポリマー100重量部に対して有機過酸化物を0.1?10重量部、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物及びアリル基含有化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を0.1?50重量部配合してなる熱硬化性接着剤であることを特徴とする異方性導電フィルム。」 である点で一致し、以下の点で一応相違する。 ア 異方性導電フィルムについて、本願発明2は「厚さ方向に加圧することにより厚さ方向に導電性が付与され」る異方性導電フィルムであるのに対し、先願発明1は単に異方性導電フィルムと記載されているだけで、「厚さ方向に加圧することにより厚さ方向に導電性が付与され」るものであるかどうかが不明である点。(以下、「相違点1」という。) イ 接着剤の構成成分であるポリマーについて、本願発明2は「エチレンと酢酸ビニルとマレイン酸及び/又は無水マレイン酸との共重合体」であって、さらに、「前記共重合体における酢酸ビニル含有率が20?80重量%、マレイン酸及び/又は無水マレイン酸の含有率が0.01?10重量%であって、しかも前記共重合体のメルトインデックスが1?3000である」のに対し、先願発明1は「エチレン-酢酸ビニル共重合体;エチレンと酢酸ビニルとアクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーとの共重合体;エチレンと酢酸ビニルとマレイン酸及び/又は無水マレイン酸との共重合体;エチレンとアクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーとマレイン酸及び/又は無水マレイン酸との共重合体;並びにエチレン-メタクリル酸共重合体の分子間を金属イオンで結合させたアイオノマー樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマー」である点。(以下、「相違点2」という。) (2) 一応の相違点についての検討 ア 相違点1について 先願発明1の「異方性導電フィルム」について詳細に検討すると、特願平8-219894号の明細書(以下、「先願発明の明細書」という。)の発明の詳細な説明の段落【0001】には、 「本発明は、相対峙する回路間に載置し、回路間を加圧、加熱することにより回路間に導電性粒子を介在させて接続すると共に、フィルムを形成している接着剤により接着固定する目的に使用される厚み方向にのみ導電性を有する異方性導電フィルムに関する。」 と記載されていて、ここで、異方性導電フィルムが、相対峙する回路間に載置される場合には、回路間が厚さ方向であるということができ、また、回路の間を加圧して回路間方向に導電性を付与していることが明らかであるから、先願発明1の異方性導電フィルムも「厚さ方向に加圧することにより厚さ方向に導電性が付与され」るものということができる。 したがって、相違点1は、実質的に相違点とはいえないものである。 イ 相違点2について 先願発明1の「エチレン-酢酸ビニル共重合体;エチレンと酢酸ビニルとアクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーとの共重合体;エチレンと酢酸ビニルとマレイン酸及び/又は無水マレイン酸との共重合体;エチレンとアクリレート系及び/又はメタクリレート系モノマーとマレイン酸及び/又は無水マレイン酸との共重合体;並びにエチレン-メタクリル酸共重合体の分子間を金属イオンで結合させたアイオノマー樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマー」について詳細に検討すると、先願発明の明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】には、 「また、前記ポリマーとしてエチレンと酢酸ビニルとマレイン酸及び/又は無水マレイン酸との共重合体を用いる場合、当該共重合体の酢酸ビニル含有率は10?50重量%であることが好ましく、更に好ましくは14?45重量%である。酢酸ビニル含有率が10重量%より低いと高温時に架橋硬化させる場合に充分な架橋度が得られず、一方、50重量%を超えると接着層の強度や耐久性が著しく低下してしまう傾向となる。更に、当該共重合体のマレイン酸及び/又は無水マレイン酸の含有率は0.01?10重量%であることが好ましく、更に好ましくは0.05?5重量%である。この含有率が0.01重量%より低いと接着力の改善効果が低下し、一方、10重量%を超えると加工性が低下してしまう場合がある。」 と記載されており、そして、酢酸ビニル含有率については、本願発明2で規定される範囲と20?50重量%の部分で重複し、マレイン酸及び/又は無水マレイン酸の含有率については、本願発明2で規定される範囲と同じものである。 さらに、先願発明の明細書の発明の詳細な説明の段落【0046】の【表2】中の実施例No.6及び同【0048】の【表3】中の実施例No.10では、ポリマーとして「エチレン-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体^(*4)」のみが使用され、そして、「エチレン-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体^(*4)」は、「三菱化学社製 MODIC E-100H 、酢酸ビニル含有率約20重量%、無水マレイン酸含有率約0.5重量%」である(ここで、「三菱化学社製 MODIC E-100H 、酢酸ビニル含有率約20重量%、無水マレイン酸含有率約0.5重量%」は、本願発明の実施例2又は4で具体的に使用されている「エチレン-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体」と同じものである。)。 また、「メルトインデックスが1?3000」との範囲は、極めて広範囲なメルトインデックスの範囲であって、「エチレン-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体」の通常一般的なメルトインデックスの範囲を当然含むものということができる(なお、前記「三菱化学社製 MODIC E-100H 、酢酸ビニル含有率約20重量%、無水マレイン酸含有率約0.5重量%」のメルトインデックスは、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0044】の【表2】などの記載からみて、2.3である。)。 そうすると、先願発明2では、ポリマーについて選択肢を有する規定となっているものの、酢酸ビニル含有率約20重量%、無水マレイン酸含有率約0.5重量%であって、メルトインデックスが2.3である「エチレン-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体」を単独で用いる場合について記載されているということができ、そして、先願発明2の酢酸ビニル含有率約20重量%、無水マレイン酸含有率約0.5重量%であって、メルトインデックスが2.3である「エチレン-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体」は、少なくとも、本願発明2で規定される「エチレンと酢酸ビニルとマレイン酸及び/又は無水マレイン酸との共重合体」、すなわち、「前記共重合体における酢酸ビニル含有率が20?80重量%、マレイン酸及び/又は無水マレイン酸の含有率が0.01?10重量%であって、しかも前記共重合体のメルトインデックスが1?3000である」ものということができる。 したがって、相違点2も、実質的に相違点とはいえないものである。 (3) 小括 よって、本願発明2は、先願発明1と同一である。 3 本願発明2と先願発明2について 先願発明1と先願発明2とを対比すると、先願発明1は「有機過酸化物」が配合されている「熱硬化性接着剤」であるのに対し、先願発明2は「光増感剤」が配合されている「光硬化性接着剤」である点でのみ相違する。 そうすると、本願発明2と先願発明2とは、 「接着剤に導電性粒子を分散してなる異方性導電フィルムにおいて、前記接着剤がポリマー100重量部に対して光増感剤を0.1?10重量部、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物及びアリル基含有化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を0.1?50重量部配合してなる光硬化性接着剤であることを特徴とする異方性導電フィルム。」 である点で一致し、上記「第5」の「2(1)」において指摘した、本願発明2と先願発明1との相違点と同様の点で一応相違する。 しかしながら、これら一応の相違点についての判断は、上記「第5」の「2(2)」と同様である。 よって、本願発明2は、先願発明2と同一である。 4 本願発明3と先願発明1又は2について 本願発明3は、本願発明2において、「接着剤が前記共重合体100重量部に対し、シランカップリング剤を0.01?5重量部添加してなる」ものであることを、さらに規定するものである。 しかしながら、先願発明1又は2も、接着剤が、ポリマー100重量部に対し、シランカップリング剤を0.01?5重量部添加してなるものであるから、本願発明3で前記のとおり規定したところで何ら相違するものではなく、そして、その余の一応の相違点についての判断は、上記「第5」の「2(2)」又は「第5」の「3」と同様である。 したがって、本願発明3は、先願発明1又は2と同一である。 5 本願発明4と先願発明1又は2について 本願発明4は、本願発明2又は3において、「接着剤が前記共重合体100重量部に対し、エポキシ基含有化合物を0.1?20重量部添加してなる」ものであることを、さらに規定するものである。 しかしながら、先願発明1又は2も、接着剤が、ポリマー100重量部に対し、エポキシ基含有化合物を0.1?20重量部添加してなるものであるから、本願発明4で前記のとおり規定したところで何ら相違するものではなく、そして、その余の一応の相違点についての判断は、上記「第5」の「2(2)」、「第5」の「3」又は「第5」の「4」と同様である。 したがって、本願発明4は、先願発明1又は2と同一である。 6 本願発明6と先願発明1又は2について 本願発明6は、本願発明2?4のいずれかにおいて、「導電性粒子が前記共重合体に対して0.1?15容量%含有される」ものであることを、さらに規定するものである。 しかしながら、先願発明1又は2も、「導電性粒子が前記共重合体に対して0.1?15容量%含有される」ものであるから、本願発明6で前記のとおり規定したところで何ら相違するものではなく、そして、その余の一応の相違点についての判断は、上記「第5」の「2(2)」、「第5」の「3」、「第5」の「4」又は「第5」の「5」と同様である。 したがって、本願発明6は、先願発明1又は2と同一である。 7 本願発明7と先願発明1又は2について 本願発明7は、本願発明2?4、6又は7のいずれかにおいて、「導電性粒子の粒径が0.1?100μmである」ことを、さらに規定するものである。 しかしながら、先願発明1又は2も、「導電性粒子の粒径が0.1?100μmであ」るものであるから、本願発明7で前記のとおり規定したところで何ら相違するものではなく、そして、その余の一応の相違点についての判断は、上記「第5」の「2(2)」、「第5」の「3」、「第5」の「4」、「第5」の「5」又は「第5」の「6」と同様である。 したがって、本願発明7は、先願発明1又は2と同一である。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明2?4、6及び7は、先願発明1又は先願発明2と同一であって、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものであるから、この出願は、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-03-05 |
結審通知日 | 2008-03-12 |
審決日 | 2008-03-26 |
出願番号 | 特願平9-92986 |
審決分類 |
P
1
8・
4-
Z
(C09J)
P 1 8・ 572- Z (C09J) P 1 8・ 537- Z (C09J) P 1 8・ 575- Z (C09J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 橋本 栄和 |
特許庁審判長 |
石井 淑久 |
特許庁審判官 |
鴨野 研一 安藤 達也 |
発明の名称 | 異方性導電フィルム |
代理人 | 小林 克成 |
代理人 | 石川 武史 |
代理人 | 小島 隆司 |
代理人 | 重松 沙織 |