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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B65D
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 B65D
管理番号 1178614
審判番号 不服2006-16814  
総通号数 103 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-03 
確定日 2008-05-26 
事件の表示 特願2002- 24328「金属製ボトル缶及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月12日出願公開、特開2003-226337〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年1月31日に出願したものであって、平成18年6月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月3日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年8月31日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成18年8月31日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年8月31日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】 金属製の缶基体の上部に口金部が形成されると共に、該口金部にねじ部及び上端を外側に折り返したカール部が形成された金属製ボトル缶において、前記口金部より下方には、ベースコート層とインキ層とオーバーコート層とがこの順に積層して形成され、前記口金部には、サイズコート層とオーバーコート層とがこの順に積層して形成され、
かつベースコート層とサイズコート層とが重なり合わないように形成されていることを特徴とする金属製ボトル缶。
【請求項2】 請求項1の金属製ボトル缶において、
前記金属製の缶基体は、一枚の金属板に絞り加工及びしごき加工により形成され、かつ化成処理が行なわれていることを特徴とする金属製ボトル缶。」
から
「【請求項1】 金属製の缶基体の上部に口金部が形成されると共に、該口金部にねじ部及び上端を外側に折り返したカール部が形成された金属製ボトル缶において、前記口金部より下方には、ベースコート層とインキ層とオーバーコート層とがこの順に積層して形成され、前記口金部には、サイズコート層とオーバーコート層とがこの順に積層して形成され、
かつ前記ベースコート層と前記サイズコート層とが重なり合わないように形成されるとともに前記ベースコート層と前記サイズコート層の間にクリアランスが形成されていることを特徴とする金属製ボトル缶。
【請求項2】 請求項1の金属製ボトル缶において、
前記金属製の缶基体は、一枚の金属板に絞り加工及びしごき加工により形成され、かつ化成処理が行なわれていることを特徴とする金属製ボトル缶。」
と補正された。
上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定する事項である「ベースコート層とサイズコート層」について、「ベースコート層とサイズコート層の間にクリアランスが形成されている」との限定事項を付加するものである。
付加された限定事項である「ベースコート層と前記サイズコート層の間にクリアランスが形成されている」は、願書に最初に添付した明細書の詳細な説明の【0035】には、「なお、本実施の形態においては、図2に示すようにベースコート層21とサイズコート層23とが重なり合わないように形成されているが、図5に示す他の実施の形態のように、ベースコート層21の上に重なるようにサイズコート層23が形成されてもよい。」と記載されているのみで、クリアランスに関する明確な記載がないが、図2の記載から、ベースコート層とサイズコート層の間にクリアランスが形成されている点が看取できる。
しかも、補正後の請求項1及び2に記載された発明は、補正前の請求項1及び2に記載された発明と、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではない。
したがって、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで、本件手続補正後の上記請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明1」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)先願発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された特願2002-21226号(特開2003-221039号公報参照)の願書に最初に添附した明細書及び図面(以下、「先願明細書」という。)には、以下の記載がある。
(a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 金属容器の製造工程において、容器本体の外周面に塗装される下地塗装を、少なくとも2種類以上に塗装分けしたことを特徴とする金属容器。
【請求項2】 口部の近辺に加工度が高い塑性加工を施した金属容器において、容器本体の外周面の下地塗装が、少なくとも加工度が高い部分に設けられる塗料と、加工度が低い部分に設けられる塗料とに分けて塗装される金属容器であって、前記加工度が高い部分に設けられる塗料がサイジングニスであり、前記加工度が低い部分に設けられる塗料がベースコートであることを特徴とする請求項1記載の金属容器。
【請求項3】 前記下地塗装において、少なくとも1種類の塗装を省いたことを特徴とする請求項1又は2記載の金属容器。
【請求項4】 前記金属容器が、金属材料からインパクト加工、絞り加工または絞りしごき加工により一体成形で造られるものモノブロックの金属容器であることを特徴とする請求項1乃至3記載の金属容器。
【請求項5】 下地塗装工程において、一台の下地塗装機を用いて、容器本体の外周面の下地塗装を、少なくとも2種類の塗料で塗装分けしたことを特徴とする金属容器の製造方法。
【請求項6】 下地塗装工程において、一台の下地塗装機を用いて、加工度が高い部分に設けられる塗料をサイジングニス、加工度が低い部分に設けられる塗料をベースコートに塗装分けしたことを特徴とする請求項5記載の金属容器の製造方法。
【請求項7】 前記下地塗装工程において、少なくとも1種類の塗装を省いたことを特徴とする請求項5又は6記載の金属容器の製造方法。」
(b)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は金属容器に関し、さらに詳しくは、容器本体の外周面の下地塗装を、少なくとも2種類以上に塗り分けすると共にサイジングニスの使用量を削減することにより、製造コストの節約を図った金属容器に関する。」
(c)「【0002】
【従来の技術】従来、金属容器の製造工程において、容器本体の外周面に印刷を施す印刷工程の前に、アルミニウム等の金属素材の傷や表面の荒れを覆い隠し、金属素材の保護を図ると共に、その上に施される印刷インクの本来の色相を正しく表現することを目的として、下地塗装(ベースコート)が行われていた。また、アルミニウム等の金属素材と、印刷インク及びトップコートニスの強い密着性が要求される、比較的加工度が高い部分には、ベースコートに代えて透明なサイジングニスが下地塗装され、このサイジングニスとトップコートニスとの相乗効果により、後工程(口部のネッキング加工、ねじ加工等)における印刷塗料の剥がれ、割れを防止していた。・・・」
(d)「【0012】・・・なお、ベースコート2、3は、白色顔料を使用したホワイトコティング、黄色顔料を使用したクリームコーティングの他、アルミを混入したシルバーコート等であり、酸化チタン顔料と樹脂塗料が混合されている。混合される樹脂塗料は、アクリル系、エポキシ系、ポリエステル系、アミノ系、変性アルキッド系等である。」
(e)「【0013】図3、図4、図7?図9はこの発明に係る第2実施の形態を示す図面である。この第2実施の形態の特徴は、図3及び図4に示すように、容器本体11の口部13には、雄ねじ部15が形成されているねじ付き金属容器である。このようなねじ付き金属容器は、図7に示すような製造工程を経て製造される。図7(a)は、アルミニウムの板材を、有底筒状に成形するカッピング工程、図7(b)は、胴部をしごいて引き延ばすアイアニング工程、図7(c)は、口部先端を切り揃えるトリミング工程、図7(d)は洗浄・乾燥工程、図7(e)は下地塗装工程、図7(f)は下地塗装の上に印刷を施す、印刷・乾燥工程、図7(g)(h)は、口部のネッキング工程、図7(i)は、口部のねじ加工工程、図7(j)は、口部先端のカール加工工程・2次洗浄工程、図7(k)は、完成した製品を示したものである。」
(f)「【0014】この第2実施の形態は、図7(e)に示す下地塗装工程において、容器本体11の外周面に施される下地塗装が、サイジングニス14とベースコート12に塗り分けられている点である。口部13の加工度が高い部分Xには、サイジングニス14が塗装され、胴部16の加工度が低い部分Yには、ベースコート12のホワイトコーティング等が塗装されている。この第2実施の形態において、加工度が低い部分Yのベースコート12を省くこともできる。一般に、サイジングニス14は、金属素材と印刷インク及びトップコートとの密着性を高める機能を有し、比較的加工度が高い部分の下地塗装の塗料として用いられている。樹脂塗料としては、エポキシ系、アクリル系、ビニル系、ポリエステル系等の塗料が用いられる。なお、第2実施の形態において、図3に示す形態は口部13の加工度が高い部分Xのみにサイジングニス14を下地塗装し、テーパー状の肩部17と胴部16の加工度が低い部分Yには、ベースコート12であるホワイトコーティング等を下地塗装した実施の形態であり、・・・。」
(g)「【0016】次に、この発明の作用について説明する。・・・この発明に係る第2実施の形態においては、口部13の加工度が高い部分Xには、サイジングニス14を塗装し、胴部16の加工度が低い部分Yには、ベースコート12の白色のホワイトコーティング等を塗装分けすることが可能となるので、従来のように、加工度が低い部分に高価なサイジングニス14を塗装する必要がなく、ベースコート12を塗装するか、又はベースコート12を塗装しない対応が可能となる。この第2実施の形態において、サイジングニスの使用量を73%削減することができた。」

したがって、以上の記載及び図3、4、7-9によれば、先願明細書には、次の発明が記載されているものと認められる。
「金属容器本体に口部13が形成されると共に、該口部13に雄ねじ部15及び口部先端にカール加工された金属容器において、前記口部13より下方には、ベースコート12と印刷とがこの順に積層して形成され、前記口部13には、サイジングニス14が形成され、かつ前記ベースコート12と前記サイジングニス14とが重なり合わないように形成されている金属容器。」(以下、「先願発明」という。)

(3)対比、判断
(3-1)本願補正発明1と先願発明との対比
本願補正発明1と先願発明とを比較すると、先願発明の「金属容器本体」、「口部13」、「雄ねじ部15」、「口部先端にカール加工された(部分)」、「金属容器」、「ベースコート12」、「印刷」及び「サイジングニス14」は、それぞれ本願補正発明1の「金属製の缶基体」、「口金部」、「ねじ部」、「カール部」、「金属製ボトル缶」、「ベースコート層」、「インキ層」及び「サイズコート層」に相当する。

したがって、本願補正発明1と先願発明を対比すると、両者は、
「金属製の缶基体の上部に口金部が形成されると共に、該口金部にねじ部及び上端を外側に折り返したカール部が形成された金属製ボトル缶において、前記口金部より下方には、ベースコート層とインキ層とがこの順に積層して形成され、前記口金部には、サイズコート層が形成され、かつ前記ベースコート層と前記サイズコート層とが重なり合わないように形成されている金属製ボトル缶。」
の点で一致し、以下の点で一応相違している。

相違点1
本願補正発明1は、ベースコート層とサイズコート層の間にクリアランスが形成されているのに対し、先願発明は、クリアランスが存在しているか否か明らかでない点。

相違点2
本願補正発明1は、オーバーコート層が形成されているのに対し、先願発明は、オーバーコート層が存在しているか否か明らかでない点。

(3-2)判断
上記相違点について検討する。
相違点1について
本願補正発明の相違点1に係る構成の技術的意義について検討する。
平成18年8月31日付けの手続補正書により補正された明細書(以下、「本願補正明細書」という。)の詳細な説明【0006】に、【発明が解決しようとする課題】として、「サイズコート塗料は、透明に形成されるので、その上に塗装されるインキが、ボトル缶の下地の金属色の影響により、発色性が良くないという問題があった。この問題を解決するために、サイズコート塗料の替わりに顔料を含有したベースコート塗料を塗装し、ベースコート層を形成することが考えられるが、この場合、ネックイン工程におけるトリマー刃で上端部をトリミングする時に、ベースコート塗料の中に含まれるチタン等の金属が原因となり、トリマー刃の寿命が著しく低下する不具合が発生する。」と記載され、上記課題を解決するために、詳細な説明【0010】に、【課題を解決するための手段】として、「口金部より下方には、ベースコート層とインキ層とオーバーコート層とがこの順に積層して形成され、前記口金部には、サイズコート層とオーバーコート層とがこの順に積層して形成されている」が記載され、詳細な説明【0037】に、【発明の効果】として、「ベースコート層の上にインキ層が形成されるので、下地の金属色の影響を受けずに発色性の良い印刷が施された金属性ボトル缶を得ることができる。また、口金部にサイズコート塗料を塗装したので、トリミング時に顔料に起因されるトリマー刃の摩耗を防止することができる。」が記載されている。
上記の記載から、本願補正発明1は、発色性の良い印刷を施すことを目的としてベースコート層の上にインキ層が形成され、機械加工における不具合が発生するのを防ぐことを目的として、口金部にサイズコート塗料を塗装していることが開示されているといえる。
そして、ベースコート層とサイズコート層の間のクリアランスについては、本願補正明細書の図2に図示されているように、隣接するベースコート層とサイズコート層の間にクリアランスを有する構成となっていることが見て取れる。しかし、本願補正明細書の詳細な説明において【0035】に、「図2に示すようにベースコート層21とサイズコート層23とが重なり合わないように形成されているが、図5に示す他の実施の形態のように、ベースコート層21の上に重なるようにサイズコート層23が形成されてもよい。」と記載されているのみである。
以上のとおり、本願補正明細書及び図面を参酌しても、ベースコート層とサイズコート層の間のクリアランスを具体的にどの程度のものにするかはもとより、クリアランスによりどのような作用効果が奏せられるかについて何ら記載されていない。
したがって、一般に塗装表面に複数の種類の塗料を塗り分けてコート層を形成するにあたり、両者が重なるようにすることも、クリアランスを設けることも、形成するコートの種別に応じて適宜選択し得る程度の事項であることを踏まえると、上述の本願補正明細書の図2に関する記載は、まさに、こうした2種類のコート層を形成する際の一態様を述べたにすぎないものと解すべきものである。
一方、先願発明においては、上記摘記事項(c)に「印刷インクの本来の色相を正しく表現することを目的として、下地塗装(ベースコート)が行われていた。また、アルミニウム等の金属素材と、印刷インク及びトップコートニスの強い密着性が要求される、比較的加工度が高い部分には、ベースコートに代えて透明なサイジングニスが下地塗装され、このサイジングニスとトップコートニスとの相乗効果により、後工程(口部のネッキング加工、ねじ加工等)における印刷塗料の剥がれ、割れを防止していた。」と記載され、本願補正発明1と同様な目的の達成のために、上記摘記事項(a)、(f)、(g)に記載されたように「口部13の加工度が高い部分Xには、サイジングニス14を塗装し、加工度が低い部分Yには、ベースコート12を塗装分けする」ことが記載され、 図3、図4、図9にも図示されているようにX部分のサイジングニス14とY部分のベースコート12とが重なり合わないように形成されていることが開示されている。
よって、先願発明は加工度が高い部分と加工度が低い部分を塗り分けることに技術的意義があるものであり、先願発明には、ベースコート12とサイジングニス14の間にクリアランスが形成されているかいないかについて、明確な記載はないものの、一般に塗装加工の分野において、塗り分けを行う際には多少の誤差が含まれるものであり、容器の塗装の工程において、塗装加工に使用する複数のローラの寸法、配置や傾き等によって、隣接する層の間に、クリアランスが生じたり、クリアランスが生じなかったりするものである。
したがって、先願発明はベースコート層とサイズコート層の間にクリアランスを形成することまで排除しているものとはいえず、上述のとおり先願発明においても適宜選択し得る程度の事項に過ぎないものであるから、上記相違点1は実質的なものとはいえない。

また、請求人は本願補正発明1のクリアランスの作用効果について、審判請求書において「印刷性、加工性、耐食性といったボトル缶の機能自体に関わるクリアランスを形成させることにより、焼付け乾燥を経ることなく混色をさせずにベースコートとサイズコートを塗装することは、当業者が想到し得る技術ではない」旨主張する。
しかし、前述のとおり、本願補正明細書を参酌してもベースコート層とサイズコート層の間のクリアランスを具体的にどの程度のものにするかはもとより、クリアランスによりどのような作用効果が奏せられるかについて何ら記載されていないのであるから、この主張は具体的根拠を欠くものであり採用できない。

相違点2について
先願明細書は、上記摘記事項(a)及び(b)にそれぞれ記載されているように、金属容器の製造方法における本体外周面の下地塗装工程の塗装分けに関する技術が開示されており、詳細な説明には、本願補正発明1に記載のオーバーコートに相当する明確な記載はない。
しかし、先願明細書の上記摘記事項(c)において「従来、金属容器の製造工程において、容器本体の外周面に印刷を施す印刷工程の前に、・・その上に施される印刷インクの本来の色相を正しく表現することを目的として、下地塗装(ベースコート)が行われていた。また、アルミニウム等の金属素材と、印刷インク及びトップコートニスの強い密着性が要求される、比較的加工度が高い部分には、ベースコートに代えて透明なサイジングニスが下地塗装され、このサイジングニスとトップコートニスとの相乗効果により、後工程(口部のネッキング加工、ねじ加工等)における印刷塗料の剥がれ、割れを防止していた。」と記載され、金属容器の塗装工程において、最外層にトップコートニスを形成する点が開示されている。また、先願発明に記載されているのは、塗装工程において、特に下地塗装の工程に関する技術であり、下地塗装が形成された後に、下地塗層の上にトップコートニスを形成することを否定するものではなく、先願発明には、本願補正発明1のオーバーコート層に相当するトップコートニスが実質的に記載されているといえる。
また、金属缶の塗装の分野において、ベースコート層とインキ層とオーバーコート層とがこの順に積層して形成されることは、周知慣用の技術である。(例えば、特開2001-192027号公報の【0002】、特開平8-229621号公報【00027】【0028】参照)
したがって、金属容器の塗装の分野の先願発明において、下地塗装の上にオーバーコート層が形成される点は、実質的に開示されているに等しいものといえる。
よって、上記相違点2は実質的なものとはいえない。

なお、請求人は、平成19年12月26日付の回答書において、「クリアランスが形成された部分には、オーバーコート層のみが形成されている」と補正する用意があるとし、補正案を提示し、その作用効果について、「オーバーコート層のみが形成された部分を形成することによりオーバーコート層の特性を精度よく評価することが可能となる」旨主張する。
ベースコート層とサイズコート層の間にクリアランスが形成され、その上にオーバーコート層が積層されれば、クリアランスが形成された部分には、オーバーコート層のみが形成されていることは明らかである。
しかし、前述のとおり、本願補正明細書を参酌してもベースコート層とサイズコート層の間のクリアランスが形成された部分に形成されたオーバーコート層を具体的にどの程度のものにするかはもとより、クリアランスが形成された部分には、オーバーコート層のみが形成されていることによりどのような作用効果が奏せられるかについて何ら記載されていないのであるから、この主張は具体的根拠を欠くものであり採用できない。

したがって、本願補正発明1は、先願発明と同一であり、しかも、本願補正発明1の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願補正発明1は、特許法第29条の2の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成18年8月31日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成18年4月28日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりである。
「金属製の缶基体の上部に口金部が形成されると共に、該口金部にねじ部及び上端を外側に折り返したカール部が形成された金属製ボトル缶において、前記口金部より下方には、ベースコート層とインキ層とオーバーコート層とがこの順に積層して形成され、前記口金部には、サイズコート層とオーバーコート層とがこの順に積層して形成され、
かつベースコート層とサイズコート層とが重なり合わないように形成されていることを特徴とする金属製ボトル缶。」

(1)先願発明
原査定の拒絶の理由に引用された先願明細書及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明1は、前記「2.(1)」で検討した本願補正発明1から、「ベースコート層とサイズコート層」について、「間にクリアランスが形成されている」を省いたものである。
そうすると、本願発明1の構成要件を全て含み、さらに一部の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明1が、前記「2.(3)対比、判断」に記載したとおり、先願発明のものと実質同一であるから、本願発明1も、同様の理由により先願発明のものに実質的に記載された構成のものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明1は、先願発明と同一であり、しかも、本願発明1の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明1は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願出願は、拒絶されるべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-03-27 
結審通知日 2008-04-01 
審決日 2008-04-15 
出願番号 特願2002-24328(P2002-24328)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B65D)
P 1 8・ 161- Z (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 裕一渡邊 真谷治 和文  
特許庁審判長 松縄 正登
特許庁審判官 中西 一友
田中 玲子
発明の名称 金属製ボトル缶及びその製造方法  
代理人 青山 正和  
代理人 志賀 正武  
代理人 山崎 哲男  

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