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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1178887
審判番号 不服2005-11430  
総通号数 103 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-06-16 
確定日 2008-06-06 
事件の表示 特願2002-217713「シリコンウエーハの熱処理用治具」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月26日出願公開、特開2004- 63617〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年7月26日の出願であって、平成17年5月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年6月16日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年7月19日付けで手続補正がなされたものである。
その後、当審において、平成18年8月1日付けで審尋がなされ、同年10月5日に回答書が提出されている。

2.平成17年7月19日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)について
[補正却下の決定の結論]
平成17年7月19日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を補正するとともに、明細書の段落【0010】を補正するものであって、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は以下のとおりである。
「【請求項1】
シリコンからなる熱処理用治具であり、少なくともシリコンウェーハと接触する表面が、アルカリエッチングによる0.3μm?100μm(RMS)の表面荒さを有するとともに、
前記アルカリエッチング前の前記表面状態が、機械加工仕上げ面または酸エッチング仕上げ面であり、かつ表面荒さが300μm以下であり、
前記アルカリエッチング後に該アルカリエッチング時の汚染を除去するため酸洗浄又はSC洗浄をおこなうもので、前記アルカリエッチングのエッチング液がKOH溶液とされ、このKOH濃度が20%以上とされ、処理温度が60℃以上とされることを特徴とするシリコンウエーハの熱処理用治具。」

(2)補正事項の整理
本件補正について整理すると、本件の補正事項は、補正前の請求項1の「前記アルカリエッチング後に該アルカリエッチング時の汚染を除去するため酸洗浄又はSC洗浄をおこなうこと」を、補正後の請求項1の「前記アルカリエッチング後に該アルカリエッチング時の汚染を除去するため酸洗浄又はSC洗浄をおこなうもので、前記アルカリエッチングのエッチング液がKOH溶液とされ、このKOH濃度が20%以上とされ、処理温度が60℃以上とされること」と補正するものである。

(3)本件補正についての検討
(3-1)補正の目的の適否について
上記補正事項について検討すると、これは実質的に、補正前の請求項1について、「前記アルカリエッチングのエッチング液がKOH溶液とされ、このKOH濃度が20%以上とされ、処理温度が60℃以上とされること」を付加するものであるが、補正前の請求項1には、「アルカリエッチング」自体の記載はあるものの、アルカリエッチングのエッチング液については何ら特定されておらず、その溶液濃度や処理温度は、発明を特定するために必要な事項としては何ら記載されていない。
よって、本件補正事項は、特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではないから、同法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。また、本件補正事項が、請求項の削除、誤記の訂正、及び明りょうでない記載の釈明のいずれの事項を目的とするものにも該当しないことは明らかである。
したがって、請求項1についての補正は、特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とするものではないから、本件補正は、同法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていない。

(3-2)独立特許要件の検討
上記(3-1)で検討したとおり、請求項1についての補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていないが、仮に、請求項1についての補正が特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しているとして、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについても、更に検討する。

(3-2-1)補正後の発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、上記「2.(1)本件補正の内容」に記載したとおりのものである。

(3-2-2)刊行物に記載された発明
刊行物1.特開平10-321543号公報
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平10-321543号公報(以下、「刊行物1」という。)は、「ウェハ支持体及び縦型ボート」(発明の名称)に関するものであって、図1とともに以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ウェハの熱処理時に用いる縦型ボートを構成するウェハ支持体であって、少なくとも石英ガラス、炭化珪素、シリコン、及び炭化珪素とシリコンの複合体の1種類からなり、表面粗さがRaで0.05μm以上、かつRmaxで50μm以下であることを特徴とするウェハ支持体。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、大径のウェハの熱処理時にもウェハとウェハ支持体との接着が起こらないウェハ支持体及び縦型ボートに関するものである。」
「【0002】
【従来の技術】半導体製造プロセスにおいては、シリコンウェハ(以下、ウェハという)に対して拡散、酸化、CVD等の熱処理が行われる。このような熱処理時に使用されるボートとしては、例えば垂直配置した支柱に形成した溝にウェハを水平に載置する縦型ボートがある。ところが、近年においては、ウェハが8インチ径や12インチ径へと大径化する傾向にあり、これに伴って上記縦型ボートは、支持部にウェハの荷重が集中したり、自重によってウェハが反ったりして、スリップが生じ易いといった問題が生じている。」
「【0009】そして、従来の支柱に形成した溝で水平載置する場合には応力集中を軽減するとの観点よりできるだけ小さい方がよいと言われていたウェハとの接触面の表面粗さは、拡散接合を抑制するためには大きい方がよいとの仮説をたて、さらに検討を重ねた結果、本発明に至った。
【0010】本発明は、ウェハの熱処理時に用いる縦型ボートを構成するウェハ支持体の表面粗さを、Raで0.05μm以上、Rmaxで50μm以下とした。これにより、熱処理工程においてウェハとウェハ支持体とに形成されるSiO_(2)層とが各々面接触することがなく、ウェハとウェハ支持体とが接着しない。」
「【0019】(実施例B)上記実施例Aと同様の素材及び形状で、その表面をサンドブラスト加工し、平面度が0.1mm以下で、表面粗さがRa1.41μm、Rmax16.68μmのウェハ支持体を作成した。そして、このウェハ支持体に12インチウェハを載置し、上記と同様の処理を施したところ、ウェハとウェハ支持体の表面には接着が見られず容易に取り出すことができ、また、スリップも発生しなかった。」
「【0023】・・・本発明は、上記した炭化珪素、Si+SiCの他、ウェハ支持体3の材質として、石英ガラス、シリコンなどで作成してもよく、外形の寸法及び形状についても、その趣旨を逸脱しない条件での変形は可能であり、そのように変形した場合においても上記と同様の作用効果を得ることができる。」
ここで、刊行物1に記載のものは、ウェハの熱処理時に用いる縦型ボートを構成するウェハ支持体であって、その材質は、「シリコン」で作成してもよいことが記載されているから、刊行物1には、以下の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されている。
「シリコンウェハの熱処理時に用いる縦型ボートを構成するウェハ支持体であって、シリコンからなり、表面粗さがRaで0.05μm以上、かつRmaxで50μm以下であることを特徴とするウェハ支持体。」

刊行物2.松永正久・井田一郎・小川智哉・高須新一郎編,エレクトロニクス用結晶材料の精密加工技術,株式会社サイエンスフォーラム,1985年1月30日,pp.440-443
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である「エレクトロニクス用結晶材料の精密加工技術」(以下、「刊行物2」という。)は、図-5、図-10乃至図-12とともに以下の事項が記載されている。
「通常、ウエーハのエッチングは選択エッチ性がなく、表面あらさが小さく、かつエッチング能率の高いフッ・硝酸系の混合液が使われている。」(第440頁左欄第18行?第20行)
「次にWA#1,200でラップした(100)ウエーハのエッチング深さと表面あらさの関係を図-5に示す。加工変質層とみられる20?30μmの除去で表面あらさが急激に向上し、40μmのエッチングでほぼ一定の値に落着くことがわかる。」(第441頁右欄第8行?第12行)
「KOH,NaOH等アルカリ性液によるエッチング形態は反応律速形であり、(100)面は(111)面に対して60?100倍エッチング速度が速い。この選択エッチ性のため、(100)面をエッチングすると全体的に表面あらさが大きく、部分的には深さが12μmに及ぶ正方形の逆ピラミッド型エッチピットが現れ、後の仕上げポリシングに長時間要することになる。」(第442頁右欄第13行?第19行)
また、図-11には、溶液濃度と表面あらさの関係が示されており、KOHとNaOHについて、溶液温度85?90℃で、溶液濃度を約5%?30wt%としたとき、表面あらさRmaxが2μm程度となる結果が示されている。

刊行物3.UCS半導体基盤技術研究会編,シリコンの科学,株式会社リアライズ社,1996年6月28日,pp.286-289
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である「シリコンの科学」(以下、「刊行物3」という。)は、図5とともに以下の事項が記載されている。
「酸エッチされたウェハと比較して、表面粗さはアルカリ中において増大し、エッチング除去とともにほぼ一定値になる。(図5b)」(第289頁第3行?第4行)

刊行物4.特開平6-349795号公報
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平6-349795号公報(以下、「刊行物4」という。)は、「半導体ウエーハの製造方法」(発明の名称)に関するものであって、図1乃至図7とともに以下の事項が記載されている。
「【0003】ところで、前記エッチング工程でのエッチング処理には、混酸等の酸エッチング液を用いる酸エッチングと、NaOH等のアルカリエッチング液を用いるアルカリエッチングとがある。そして、酸エッチングでは、高いエッチング速度が得られ、ウエーハ表面には図4に示すように周期10μm以下、P-V(Peak toValley)値0.6μm以下の細かな粗さの凹凸が観察されるのに対し、アルカリエッチングでは、エッチング速度は遅く、ウエーハ表面には図5に示すように周期10?20μmの大きな粗さの凹凸(P-V値が1.5μmを超えるものもある)が観察される。」
「【0020】ここで、本実施例に係る半導体ウエーハの製造方法を図1に基づいてその工程順に説明する。
【0021】先ず、スライス工程Aでは、不図示の単結晶引上装置によって引き上げられた単結晶インゴットが棒軸方向に対して直角或いは或る角度をもってスライスされて複数の薄円板状のウエーハが得られる。
【0022】上記スライス工程Aによって得られたウエーハは、割れや欠けを防ぐために、その外周エッジ部が次の面取り工程Bで面取りされ、この面取りされたウエーハは、ラッピング工程Cで不図示のラップ盤を用いてラッピングされて平面化される。
【0023】次に、平面化された上記ウエーハは、次のエッチング工程Dで例えばNaOHの45%水溶液をアルカリエッチング液として用いたアルカリエッチングを受け、これに蓄積された加工歪が除去されるが、このとき、ウエーハの両面には、図5に示したような周期10?20μmの大きな粗さの凹凸(P-V値が1.5μmを超えるものもある)が発生する。但し、ウエーハの表面には酸エッチング特有のORP凹凸は発生せず、図6に示すように、該ウエーハの平坦度は或る程度(許容範囲内で)良好に保たれている。」

刊行物5.特開平1-170019号公報
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平1-170019号公報(以下、「刊行物5」という。)は、「不純物拡散方法」(発明の名称)に関するものであって、第5図、第6図とともに以下の事項が記載されている。
「この発明は、このような背景の下になされたもので、ウェーハ2表面に不純物元素化合物を供給する場合に、ウェーハと石英ボートとが癒着する現象を防止して、製品歩留まり率を低下させることがない不純物拡散方法を提供することを目的とする。
[問題点を解決するための手段]
上記問題点を解決するためにこの発明は、石英ボートの溝部表面に、その頂点がウェーハ表面と点接触する凸部を多数形成し、この状態でウェーハを溝部に挿入して、石英ボート上に立設させた。」(第3頁右上欄第10行?第20行)
「なお、本実施例においては、溝部6fの凸部6gを形成する方法として石英粉末7を吹き付けるサンドブラスト法を用いたが、本発明はこれに限るものではなく、・・・さらに、サンドブラスト法に限らず、支持部材6cを化学的にエツチングして溝部6f表面を凹凸状に形成しても全く同様の効果が得られるものである。」(第4頁右下欄第8行?第18行)

(3-2-3)対比・判断
ここで、補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)と刊行物発明とを対比する。
(a)刊行物発明の「シリコンウェハ」は補正発明の「シリコンウェーハ」に相当する。そして、「縦型ボートを構成するウェハ支持体」は、ウェハの処理に用いる治具の一種であるから、刊行物発明の「熱処理時に用いる縦型ボートを構成するウェハ支持体」は、補正発明の「熱処理用治具」に相当する。
(b)刊行物発明は、ウェハとの接触面の表面粗さを改良したものであるから、刊行物発明の「表面」は、補正発明の「少なくともシリコンウェーハと接触する表面」に相当することは明らかであり、刊行物発明の「表面粗さ」は、補正発明の「表面荒さ」に相当する。(なお、本審決においては、以下、「粗さ」を「荒さ」に統一して表記する。)
よって、補正発明と刊行物発明とは、
「シリコンからなる熱処理用治具であり、少なくともシリコンウェーハと接触する表面が、所定の表面荒さを有することを特徴とするシリコンウエーハの熱処理用治具。」
であることで一致しており、ただ、以下の2点で相違している。
(相違点1)
補正発明は、シリコンウェーハと接触する表面が、「0.3μm?100μm(RMS)の表面荒さ」を有するのに対して、刊行物発明は、その表面荒さがRaで0.05μm以上、かつRmaxで50μm以下である点。
(相違点2)
補正発明は、表面が「アルカリエッチング」による表面荒さを有するとともに、「前記アルカリエッチング前の前記表面状態が、機械加工仕上げ面または酸エッチング仕上げ面であり、かつ表面荒さが300μm以下であり、 前記アルカリエッチング後に該アルカリエッチング時の汚染を除去するため酸洗浄又はSC洗浄をおこなうもので、前記アルカリエッチングのエッチング液がKOH溶液とされ、このKOH濃度が20%以上とされ、処理温度が60℃以上とされる」のに対して、刊行物発明はこのような製造工程を採用していない点。

以下、各相違点について検討する。
(相違点1について)
刊行物発明においては、表面の荒さを「Ra」(所謂、「中心線平均荒さ」:平均値に対する偏差の絶対値についての平均)の単位で表しており、一方、補正発明においては、「RMS」(所謂、「二乗平均荒さ」:平均値に対する偏差の二乗値の平均に対する平方根)の単位で表しているため、両者は同じ表面の荒さであっても、その凹凸形状等により数値が異なる場合があるが、その差は格別大きいものではなく、ほぼ、近い数値が得られることは当業者にとって自明のことにすぎない。そして、刊行物発明の「Raで0.05μm以上、かつRmaxで50μm以下」である表面荒さの実施例として、刊行物1には「表面粗さがRa1.41μm、Rmax16.68μm」のウェハ支持体が記載されており(実施例B参照)、この実施例の表面荒さは、補正発明の「0.3μm?100μm(RMS)の表面荒さ」に含まれるものと認められる。
したがって、補正発明において、シリコンウェーハと接触する表面が、「0.3μm?100μm(RMS)の表面荒さ」を有することは、刊行物発明との実質的な相違点ではなく、仮に相違点であるとしても、刊行物発明に基づいて、シリコンウェーハと接触する表面として、補正発明の表面荒さの範囲に含まれる表面荒さを選択することは、当業者が容易になし得ることである。
(相違点2について)
まず、補正発明が、熱処理用治具の表面を所定の表面荒さとするために、「アルカリエッチング」を用いていることについて検討すると、刊行物1には、ウェハ支持体の表面を所定の表面荒さとするために、その表面をサンドブラスト加工したことが開示されている(段落【0019】)。
しかしながら、表面を所定の荒さとするために、サンドブラスト加工以外にも様々な手段が存在することは当業者にとって周知の技術的事項であり、刊行物5に、ウェーハ支持部材の表面を凹凸状に形成する際に、「サンドブラスト法に限らず、支持部材6cを化学的にエツチングして溝部6f表面を凹凸状に形成しても全く同様の効果が得られるものである。」(第4頁右下欄第15行?第18行)と記載されているように、表面を所定の荒さとするために、サンドブラスト加工に代えて化学的な「エッチング」を用いることは、従来から通常に採用されている方法にすぎない。
そして、アルカリエッチング後のシリコン表面が、酸エッチングと比較して粗い表面となることは、刊行物2の図-11(エッチング後の表面あらさRmaxが2μm程度)、刊行物3(「酸エッチされたウェハと比較して、表面粗さはアルカリ中において増大」すること。[第289頁第3行])、及び刊行物4(「酸エッチングでは、高いエッチング速度が得られ、ウエーハ表面には図4に示すように周期10μm以下、P-V(Peak toValley)値0.6μm以下の細かな粗さの凹凸が観察されるのに対し、アルカリエッチングでは、エッチング速度は遅く、ウエーハ表面には図5に示すように周期10?20μmの大きな粗さの凹凸(P-V値が1.5μmを超えるものもある)が観察される。」[段落【0003】])の記載から明らかなように、半導体分野における技術常識にすぎないから、刊行物発明や補正発明に特定される程度のシリコンの表面荒さを得るために、アルカリエッチングを使用し、治具の表面をアルカリエッチングにより処理された表面荒さを有するものとすることは、当業者が何の困難もなくなし得ることである。
次に、補正発明の「前記アルカリエッチング前の前記表面状態が、機械加工仕上げ面または酸エッチング仕上げ面であり、かつ表面荒さが300μm以下であり、 前記アルカリエッチング後に該アルカリエッチング時の汚染を除去するため酸洗浄又はSC洗浄をおこなうもので、前記アルカリエッチングのエッチング液がKOH溶液とされ、このKOH濃度が20%以上とされ、処理温度が60℃以上とされる」ことについてみると、そもそも、補正発明は、「熱処理用治具」という「物」の発明であるから、その新規性進歩性は「物」の構造として判断されるべきであるのに対して、補正発明の上記の特定事項は実質的に製造工程を特定するものであって、刊行物発明と比較してどのような構造的差異を生じるかが明確ではないが、一応、上記の特定事項に関する容易想到性についても検討する。
半導体ウエハ処理に用いる治具を形成するにあたり、機械加工を利用して治具を構成する部材を所定の形状に加工し、その後、化学的エッチングを行って、機械加工時に生じたダメージ層の除去或いは最終的形状への加工を行うことは、以下の周知刊行物1?3に記載されるように周知・慣用の技術である。また、一般に、エッチング後に洗浄を行うことも、周知刊行物3?5に記載されるように周知の技術的事項である。
周知刊行物1:特開2002-76100号公報
「【0017】上記シリコンボート1を製造するには、まずシリコンボート1を構成する上記の各部材を、ダイヤモンド砥粒のブレードによりシリコン材料を切削加工(機械加工)して成形する。次に、切削時に生じた上記各部材の表面のダメージ層を、部材の組み立て前又は組み立て後にフッ硝酸(例えば、HF/HNO_(3)=1/10)又はアルカリ系エッチャント(例えば、KOH等)による化学的エッチングで除去又は薄くする。」
周知刊行物2:特開平9-213645号公報
「【0006】次に、前記構成に基づく従来の各ウェーハ支持装置の形成・組立て動作を図8に基づいて説明する。まず、横型の組立式ウェーハ支持装置にあっては一対の支持本体部材1、2、一対の側枠部材3、4及び4個の保持片51、?、54を多結晶又は単結晶シリコンのインゴットから概略の所定形状に切出す(ステップ11)。なお、縦型の組立式ウェーハ支持装置では一対の支持本体部材6、7、基板8及び天板9を多結晶又は単結晶シリコンのインゴットから概略の所定形状に切出す(ステップ11)。この切出された各部材を予め設計された所定の加工精度で研削加工を行なう(ステップ12)。この研削加工された各部材の結晶に残留する加工歪層及び汚れを除去するためにHF、HNO_(3)の混酸を用いて化学エッチング処理を行なう(ステップ13)。
【0007】前記化学エッチング処理された各部材を各々組立てる(ステップ14)。」
周知刊行物3:特開2000-269150号公報
「【0046】
【実施例】「実施例1」シリコン単結晶インゴットから切り出した後、グラインダーによる研磨加工及びエッチング加工により、周縁が円形、中央部に最深部を有する凹球曲面形状のウエハ載置面(上面)を備え、下面が平面の図3に示すような凹面・平面型形状のプレート状治具を作製し、このプレート状治具をアンモニア水と過酸化水素から成る洗浄水を用いて洗浄した。」
周知刊行物4:特開平11-138422号公報
「【0005】上述の加工ダメージ層の深さはラッピング加工条件によっても異なるが、一般的には数ミクロンから十数ミクロンに及ぶ。このダメージ層の除去には、混酸あるいはアルカリ液でのエッチング手法が使われる。酸またはアルカリの化学的作用によりウェーハの表面が侵食され除去されるのであり、液の種類、温度、浸漬時間等の諸条件を調節し、除去に必要な厚さを調整する。・・・エッチング後のウェーハは洗浄、乾燥され、検査による選別を経て、最終的な鏡面を得るために次のポリッシング工程に移る。」
周知刊行物5:特開平10-74771号公報
「【0070】実施例5
CZ法により育成された酸素濃度12.5?15×10^(17)atoms/cm^(3)[old ASTM]のシリコンインゴットを丸目加工し、その後スライス加工を施し、さらに沸酸・硝酸混合水溶液またはKOH水溶液にて表面をエッチングし、その後SC-1及びSC-2洗浄を行ったシリコン単結晶ウェーハを対象に、前述した図1の熱処理ボートを用いて、10枚のシリコン単結晶ウェーハを一群として30群を順次縦方向に段積みすることにより搭載枚数を300枚とした。」

したがって、機械加工の後に化学的エッチングを行って治具を作製することが周知・慣用の技術であり、また、化学的エッチングの1つの目的がダメージ層(周知刊行物4によれば十数ミクロン)の除去であって厚い層のエッチングを想定していないことを考慮すれば、化学的エッチングを行う前の段階(即ち、機械加工終了段階)で、最終的に目的とする表面荒さになるべく近づくように機械加工を行うことは当然のことであり、刊行物発明の目的とする表面荒さが「Rmaxで50μm以下」(なお、補正発明では0.3μm?100μm(RMS))であることからも、アルカリエッチング前の表面状態を、表面荒さが300μm以下の機械加工仕上げ面とすることは、当業者が直ちに想到し得ることである。
そして、シリコンに対するアルカリエッチングのエッチング液として、KOH溶液を用い、そのKOH濃度を「20%以上」とし、処理温度を「60℃以上」とすることは、刊行物2の図-11に例示されるように、当業者が必要に応じて適宜選択し得る程度の条件にすぎない。
また、エッチング後にSC洗浄等の洗浄を行うことも、周知刊行物3?5に記載されるように周知の技術的事項であり、この洗浄は補正発明の洗浄と異なるところはないから、エッチング時の汚染を除去する作用を有することは当然のことである。
したがって、刊行物発明において、上記周知・慣用の技術的事項を適用し、補正発明のごとく、表面が「アルカリエッチング」による表面荒さを有するとともに、「前記アルカリエッチング前の前記表面状態が、機械加工仕上げ面または酸エッチング仕上げ面であり、かつ表面荒さが300μm以下であり、 前記アルカリエッチング後に該アルカリエッチング時の汚染を除去するため酸洗浄又はSC洗浄をおこなうもので、前記アルカリエッチングのエッチング液がKOH溶液とされ、このKOH濃度が20%以上とされ、処理温度が60℃以上とされる」ようにすることは、当業者が容易になし得ることである。

よって、補正後の請求項1に係る発明は、刊行物1?5及び周知刊行物1?5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(3-4)むすび
したがって、請求項1についての補正は、特許法第17条の2第4項に掲げる事項のいずれをも目的とするものではなく、また、仮に、請求項1についての補正が、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとしても、補正後の請求項1に係る発明は、刊行物1?5及び周知刊行物1?5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、その特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
したがって、請求項1についての補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしておらず、又、仮に満たしているとしても、同法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであるから、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成17年7月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成17年1月17日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載されている事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
シリコンからなる熱処理用治具であり、少なくともシリコンウェーハと接触する表面が、アルカリエッチングによる0.3μm?100μm(RMS)の表面荒さを有するとともに、
前記アルカリエッチング前の前記表面状態が、機械加工仕上げ面または酸エッチング仕上げ面であり、かつ表面荒さが300μm以下であり、
前記アルカリエッチング後に該アルカリエッチング時の汚染を除去するため酸洗浄又はSC洗浄をおこなうことを特徴とするシリコンウエーハの熱処理用治具。」

4.刊行物に記載された発明
刊行物1?5に記載される事項は、「2.(3-2-2)刊行物に記載された発明」に記載したとおりであり、刊行物1には、前記の「刊行物発明」が記載されている。

5.対比・判断
ここで、本願発明と刊行物発明とを対比する。
(a)刊行物発明の「シリコンウェハ」は本願発明の「シリコンウェーハ」に相当する。そして、「縦型ボートを構成するウェハ支持体」は、ウェハの処理に用いる治具の一種であるから、刊行物発明の「熱処理時に用いる縦型ボートを構成するウェハ支持体」は、本願発明の「熱処理用治具」に相当する。
(b)刊行物発明は、ウェハとの接触面の表面荒さを改良したものであるから、刊行物発明の「表面」は、本願発明の「少なくともシリコンウェーハと接触する表面」に相当することは明らかであり、刊行物発明の「表面粗さ」は、本願発明の「表面荒さ」に相当する。
よって、本願発明と刊行物発明とは、
「シリコンからなる熱処理用治具であり、少なくともシリコンウェーハと接触する表面が、所定の表面荒さを有することを特徴とするシリコンウエーハの熱処理用治具。」
であることで一致しており、ただ、以下の2点で相違している。
(相違点1)
本願発明は、シリコンウェーハと接触する表面が、「0.3μm?100μm(RMS)の表面荒さ」を有するのに対して、刊行物発明は、その表面荒さがRaで0.05μm以上、かつRmaxで50μm以下である点。
(相違点2)
本願発明は、表面が「アルカリエッチング」による表面荒さを有するとともに、「前記アルカリエッチング前の前記表面状態が、機械加工仕上げ面または酸エッチング仕上げ面であり、かつ表面荒さが300μm以下であり、 前記アルカリエッチング後に該アルカリエッチング時の汚染を除去するため酸洗浄又はSC洗浄をおこなう」のに対して、刊行物発明はこのような製造工程を採用していない点。

以下、各相違点について検討する。
(相違点1について)
刊行物発明においては、表面の荒さを「Ra」(所謂、「中心線平均荒さ」:平均値に対する偏差の絶対値についての平均)の単位で表しており、一方、本願発明においては、「RMS」(所謂、「二乗平均荒さ」:平均値に対する偏差の二乗値の平均に対する平方根)の単位で表しているため、両者は同じ表面の荒さであっても、その凹凸形状等により数値が異なる場合があるが、その差は格別大きいものではなく、ほぼ、近い数値が得られることは当業者にとって自明のことにすぎない。そして、刊行物発明の「Raで0.05μm以上、かつRmaxで50μm以下」である表面荒さの実施例として、刊行物1には「表面粗さがRa1.41μm、Rmax16.68μm」のウェハ支持体が記載されており(実施例B参照)、この実施例の表面荒さは、本願発明の「0.3μm?100μm(RMS)の表面荒さ」に含まれるものと認められる。
したがって、本願発明において、シリコンウェーハと接触する表面が、「0.3μm?100μm(RMS)の表面荒さ」を有することは、刊行物発明との実質的な相違点ではなく、仮に相違点であるとしても、刊行物発明に基づいて、シリコンウェーハと接触する表面として、本願発明の表面荒さの範囲に含まれる表面荒さを選択することは、当業者が容易になし得ることである。
(相違点2について)
まず、本願発明が、熱処理用治具の表面を所定の表面荒さとするために、「アルカリエッチング」を用いていることについて検討すると、刊行物1には、ウェハ支持体の表面を所定の表面荒さとするために、その表面をサンドブラスト加工したことが開示されている(段落【0019】)。
しかしながら、表面を所定の荒さとするために、サンドブラスト加工以外にも様々な手段が存在することは当業者にとって周知の技術的事項であり、刊行物5に、ウェーハ支持部材の表面を凹凸状に形成する際に、「サンドブラスト法に限らず、支持部材6cを化学的にエツチングして溝部6f表面を凹凸状に形成しても全く同様の効果が得られるものである。」(第4頁右下欄第15行?第18行)と記載されているように、表面を所定の荒さとするために、サンドブラスト加工に代えて化学的な「エッチング」を用いることは、従来から通常に採用されている方法にすぎない。
そして、アルカリエッチング後のシリコン表面が、酸エッチングと比較して粗い表面となることは、前記刊行物2?4の記載から明らかなように、半導体分野における技術常識にすぎないから、刊行物発明や本願発明に特定される程度のシリコンの表面荒さを得るために、アルカリエッチングを使用し、治具の表面をアルカリエッチングにより処理された表面荒さを有するものとすることは、当業者が何の困難もなくなし得ることである。
次に、本願発明の「前記アルカリエッチング前の前記表面状態が、機械加工仕上げ面または酸エッチング仕上げ面であり、かつ表面荒さが300μm以下であり、 前記アルカリエッチング後に該アルカリエッチング時の汚染を除去するため酸洗浄又はSC洗浄をおこなう」ことについてみると、半導体ウエハ処理に用いる治具を形成するにあたり、機械加工を利用して治具を構成する部材を所定の形状に加工し、その後、化学的エッチングを行って、機械加工時に生じたダメージ層の除去或いは最終的形状への加工を行うことは、前記周知刊行物1?3に記載されるように周知・慣用の技術であり、また、化学的エッチングの1つの目的がダメージ層(前記周知刊行物4によれば十数ミクロン)の除去であって厚い層のエッチングを想定していないことを考慮すれば、化学的エッチングを行う前の段階(即ち、機械加工終了段階)で、最終的に目的とする表面荒さになるべく近づくように機械加工を行うことは当然のことであり、刊行物発明の目的とする表面荒さが「Rmaxで50μm以下」(なお、本願発明では0.3μm?100μm(RMS))であることからも、アルカリエッチング前の表面状態を、表面荒さが300μm以下の機械加工仕上げ面とすることは、当業者が直ちに想到し得ることである。
そして、一般に、エッチング後にSC洗浄等の洗浄を行うことも、前記周知刊行物3?5に記載されるように周知の技術的事項であり、この洗浄は本願発明の洗浄と異なるところはないから、エッチング時の汚染を除去する作用を有することは当然のことである。
したがって、刊行物発明において、上記周知・慣用の技術的事項を適用し、本願発明のごとく、表面が「アルカリエッチング」による表面荒さを有するとともに、「前記アルカリエッチング前の前記表面状態が、機械加工仕上げ面または酸エッチング仕上げ面であり、かつ表面荒さが300μm以下であり、 前記アルカリエッチング後に該アルカリエッチング時の汚染を除去するため酸洗浄又はSC洗浄をおこなう」ようにすることは、当業者が容易になし得ることである。

よって、本願発明は、刊行物1?5及び周知刊行物1?5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願は、請求項2に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-04-07 
結審通知日 2008-04-08 
審決日 2008-04-23 
出願番号 特願2002-217713(P2002-217713)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 572- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 園子  
特許庁審判長 河合 章
特許庁審判官 井原 純
北島 健次
発明の名称 シリコンウエーハの熱処理用治具  
代理人 志賀 正武  
代理人 高橋 詔男  
代理人 青山 正和  
代理人 村山 靖彦  

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