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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H01J
管理番号 1180369
審判番号 無効2004-80158  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-09-22 
確定日 2008-06-30 
事件の表示 上記当事者間の特許第3346291号「誘電体バリア放電ランプ、および照射装置」の特許無効審判事件についてされた平成17年 4月19日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成17年(行ケ)第10506号平成20年 2月21日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第3346291号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許無効審判被請求人ウシオ電機株式会社は、下記ア記載の特許の特許権者であり、その手続経緯概要は下記イのとおりである。
ア 特許第3346291号 「誘電体バリア放電ランプ、および照射装置」
特許出願 平成10年7月31日
出願番号 特願平10-217187号
設定登録 平成14年9月6日
イ 本件無効審判請求 平成16年9月22日
請求人:日本電池株式会社
(承継人(株)ジーエス・ユアサパワーサプライ)
答弁書 平成16年12月20日
弁駁書 平成17年2月4日
審決 平成17年4月19日
審決の結論:本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
出訴(平成17年(行ケ)第10506号)平成17年5月28日
判決 平成20年2月21日
判決の主文:特許庁が無効2004-80158号事件について
平成17年4月19日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
判決確定 平成20年3月10日

第2 本件発明
本件特許3346291号の請求項1及び請求項2に係る発明(以下、「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された次に掲げるとおりのものである。
「【請求項1】石英ガラスからなる放電容器の内部に誘電体バリア放電によってエキシマ分子を形成する放電用ガスが充填され、この放電容器の少なくとも一部に光透過性部分が形成されている誘電体バリア放電ランプにおいて、
前記光透過性部分における非水素結合性OH基の割合が、全体のOH基に対して、0.36以下であることを特徴とする誘電体バリア放電ランプ。
【請求項2】誘電体バリア放電により放電容器内にエキシマが生成されて紫外線が放出される誘電体バリア放電ランプと、この誘電体バリア放電ランプを収納し、誘電体バリア放電ランプからの紫外線を取り出す窓部材よりなる照射装置において、
前記窓部材は、石英ガラスよりなり非水素結合性OH基の割合が全体のOH基に対して、0.36以下であることを特徴とする照射装置。」

第3 審判請求人の主張の概要
1 審判請求書における主張
本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明は、本件出願前に日本国内において公然実施された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、したがって、本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、同法123条第1項第2号の規定により無効とすべきものであると主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第3号証を提出している。
<証拠方法>
甲第1号証 信越石英株式会社「Shin-Etsu QUARTZ
PRODUCTS 製品ガイド」
甲第2号証 PHYSICAL REVIEW B VOLUME 59
NUMBER 6 抜粋(1999年2月1日発行)
甲第3号証 特開平5-138014号公報(平成5年6月1日発行)
甲各号証及び特許法29条2項違反の理由についての主張は、概略以下の通りである。
(1)甲各号証について
・甲第1号証は、信越石英株式会社の製品カタログであって、当該カタログの第9頁には合成石英ガラスの Suprasil F310 が記載されている。また、当該カタログの最終頁には、1995年7月3日に発行されたものであることが記載されており、Suprasil F310は、1995年7月3日には日本国内において公然と譲渡の申出がされた事実が示されている。また、第10頁には、Suprasil F310はランプ用透明石英ガラスとして用いられ、真空紫外から赤外までの透過率特性に優れていることが記載されている。すなわち、真空紫外を放射する誘電体バリアランプにも使用可能であることが示されている。
・甲第2号証(PHYSICAL REVIEW B VOLUME59,NUMBER 6,1998年7月6日受理、1999年2月1日頒布)には、次の記載がある。
(2-A)「本研究には、市販されている4種類の合成シリカガラスを用いた:直接法で作成されたES(日本石英硝子株式会社)およびSuprasil P20(信越石英株式会社、P20)、並びに気相軸付け法(VAD)で作成されたSuprasil F310およびSuprasil F300(信越石英株式会社、F310およびF300)である。」(甲第2号証:第4066頁第21行?第4066頁第27行(甲第2号証の翻訳文:第2頁第24行?第2頁第27行))。
(2-B)第4068頁の図3下図には、Suprasil F310試料の紫外線430時間照射時(as-irradiated 430h)のOHの吸収ピークが記載されている(甲第2号証の翻訳文:第5頁の図3右図)。
・甲第3号証(特開平5-138014、平成5年(1993)6月1日発行)には、図1及び図2とともに次の記載がある。
(3-A)「少なくとも1つの高出力光源、充填ガスで充填された1つの放電空間(4)、この場合、充填ガスは、静電放電の作用下に、光線、有利にエキシマー光線を出射し、放電空間(4)が、壁面によって仕切られていて、この壁面の少なくとも1つが誘電性物質からなり、かつ放電空間中で発生した光線のために透過性であり、直接的に放電空間(4)の1つの壁面と境を接する1つの処理空間(6)、放電空間(4)の外に電極の対(2、7)およびこの放電の供給のために2つの電極(2、7)に接続した交流電源(12)を有し、この場合、放電空間(4)の中への電気エネルギーの接続が、本質的に容量的に、処理すべき物質によって処理空間(6)中で行われる照射装置において、処理空間(6)が、非金属性物質または非金属性物質で隙間なく被覆された物質からなる壁面のすべての面で、閉鎖されていることを特徴とする、照射装置。」(甲第3号証;【特許請求の範囲】の【請求項1】)。なお、ここで、(3-A)の「静電放電」は誘電体バリア放電に相当する。
(3-B)「【実施例】図1および2に記載の照射装置は、内側の誘電性管1、例えばガラス管または石英管1を包含し、内側に、金属層2、有利にアルミニウム層を備えている。前記の層2は、光源の内側電極を形成している。この内側管1は、同心円状、かっこの管から間隔をあげて、UV-透過物質、例えば石英からなる中間の誘電性管3によって囲まれている。2つの管1および3の間の空間は、光源の放電空間4を形成している。」(甲第3号証:段落【0008】)
(2)特許法29条2項違反の理由
信越石英株式会社製の合成石英ガラス Suprasil F310は本件特許の出願前に公然と譲渡の申出がされた物であることは、甲第1号証から明らかである。
この合成石英ガラス Suprasil F310の「非水素結合性OH基の割合が全体の OH 基に対していかなる値であるか」については甲第1号証に記載がないが、甲第2号証には、甲第1号証と同じ合成石英ガラス SuprasilF310について、その赤外線吸収スペクトルを測定した結果が図3に示されている。そこで、合成石英ガラス Suprasil F310 の非水素結合性OH基の割合を、甲第2号証の図3(Suprasil F310試料の紫外線430時間照射時)を解析して求めるため、甲第2号証の図3のグラフをスキャナーで読み取り、各プロット値をソフトにより読み取った。その上で、全体のOH基に対する非水素結合のOH基の割合を本件特許明細書記載の計算方法と同一の方法により計算したところ、0.237が得られた。読み取り誤差を考慮しても、Suprasil F310では、非水素結合性OH基の割合が、全体のOH基に対して、0.36以下となっていた。
本件特許の出願前に公然実施された上述の甲第1号証発明と、本件特許発明とを比較すると、前者が誘電体バリア放電ランプ用の合成石英ガラスに係る発明であるのに対し、後者が「石英ガラスからなる放電容器の内部に誘電体バリア放電によってエキシマ分子を形成する放電用ガスが充填され、この放電容器の少なくとも一部に光透過性部分が形成されている誘電体バリア放電ランプ」に関するものである点で相違する。
しかしながら、誘電体バリア放電ランプにおいて「石英ガラスからなる放電容器の内部に誘電体バリア放電によってエキシマ分子を形成する放電用ガスが充填され、この放電容器の少なくとも一部に光透過性部分が形成されている」構成は、例えば甲第3号証に記載されているように周知であるから、この周知技術に甲第1号証発明を組み合わせて本件特許発明を想起することは極めて容易である。

2 平成17年2月4日付け弁駁書における主張
市販のSuprasil F310の非水素結合性OH基の濃度が0.36以上であるとしても、そのガラスによって放電容器を形成した誘電体バリア放電ランプを点灯させれば、その石英ガラスの非水素結合性OH基の濃度は早期(25時間紫外線照射後)に0.36以下になるのだから、誘電体バリア放電ランプとして使用することにより非水素結合性OH基が0.36以下となる合成石英ガラスの発明が公然と実施(譲渡の申出)がされていたことに帰し、この公然実施発明と、甲第3号証に記載された、合成石英ガラスからなる放電容器内にエキシマ分子を形成する放電用ガスが充填された誘電体バリア放電ランプの発明とを組み合わせて本件特許発明を想起することは極めて容易であり、また、誘電体バリヤ放電ランプを内蔵した照明装置において、紫外線を取り出す窓部材を設け、窓部材にはランプの放電容器と同様に紫外線の透過率特性に優れた石英ガラスを用いることは周知であると主張し、参考資料を提出している。
<参考資料>
参考資料1 信越石英株式会社「Shin-Etsu QUARTZ
PRODUCTS 製品ガイド」
参考資料2 信越石英株式会社「ランプ用透明石英ガラス」
参考資料3 レーザー研究第23巻第12号(平成7年12月)
第27頁?第31頁
参考資料4 特開平5-174793号公報
参考資料5 「信越石英株式会社 ・技術情報・・・93LT001」
参考資料6 「Shin-Etsu QUARTZ Technical
Data Sheet ‘98/7 98LT001」

第4 被請求人の主張の概要
被請求人は請求人の主張に反論するとともに乙1号証及び乙2号証を提出している。
(1)甲各号証について
・ 甲第1号証は、合成石英ガラス Suprasil F310 を記載しており、また、Suprasil F310 がランプ用透明石英ガラスとして用いられること、および、真空紫外から赤外までの透過率特性に優れていることが記載される。
・ 甲第2号証は、合成石英ガラス Suprasil F310 のOH基の吸光特性を示している。なお、甲第2号証は、本件特許発明の出願日(1998年7月 31日)より遅い1999年2月1日に頒布された文献であり、本件特許発明に対して公知文献ではない。
・ 甲第3号証は、誘電体バリア放電ランプが記載されており、請求書第5頁8行?6頁1行に記載する内容が記載される。

(2)請求人の主張に対する反論
・請求人は‘甲第1号証の合成石英ガラスSuprasil F310と、甲第2号証の合成石英ガラスSuprasil F310は同じ物であるから’と判断しているが、甲第1号証の合成石英ガラスSuprasil F310と、甲第2号証の(請求人が解析した)合成石英ガラスSuprasi1 F310は同じものではない。請求人が解析した甲第2号証の合成石英ガラス SuprasilF310 は、紫外線を430時間照射させた後の合成石英ガラスであり、甲第1号証に記載される合成石英ガラスSuprasil F310は、このような処理を施したことが何ら記載されていないからである。甲第1号証に記載される合成石英ガラスSuprasil F310は、いかなる状態の合成石英ガラスであるかは必ずしも明らかではないが、少なくとも紫外線を430時間照射させて、市販のものと異なる性質に変化した合成石英ガラスと同じものとする根拠は存在せず、むしろ受理時(as-received)の合成石英ガラスに相当すると考えられる。
・被請求人は、請求人と同様の方法により、甲第2号証のFIG3のグラフから非水素結合性OH基の濃度を、430時間照射後のSuprasil F310のみならず、受理時(as‐received)のSuprasil F310について解析した。その結果、430時間照射後のSuprasil F310の非水素結合性OH基の濃度は0.243、受理時(as‐received)のSuprasil F310の濃度は0.484と導かれ、430時間照射後のSuprasil F310は、特許発明の0.36以下に該当しているものの、 受理時(as‐received)のSuprasil F310は、特許発明の0.36以下に該当していない。第2号証の受理時のSuprasil F310は、市販品の合成石英ガラスに相当すると考えられるから、甲第1号証のSuprasil F310の非水素結合性OH基の濃度も、本件特許発明の数値範囲から外れる可能性がきわめて高いといえる。
・以上のように、甲第1号証の合成石英ガラスの非水素結合性OH基の濃度は、甲第1号証からは明らかでなく、仮に、甲第2号証の記載を参酌したとしても本件特許発明に規定される数値範囲と異なっているから、請求人の甲第1号証の認定には誤りがある。さらに、甲第1号証と甲第3号証の組み合わせによる、請求人の無効理由も、誤った認定に基づくものであり、本件請求項1に係る発明は、無効理由を有するものではない。
・本件請求項2に係る発明は、前記請求項1に関する内容を同じ理由で無効理由を有するものではない。加えて、本件請求項2に係る発明は、誘電体バリア放電ランプを内蔵した照射装置の窓部材である石英ガラスに対して非水素結合性OH基の濃度を規定している。甲第1号証は、ランプの石英ガラスとして、Suprasil F310を採用できることは記載しているものの、ランプを内蔵した照射装置の窓部材としてSuprasil F310を使うことまでは記載していない。
<乙号証>
乙第1号証 請求書11頁5行に記載されるベクトルχの各成分値(C1?C5)に相当する値を示す表
乙第2号証 請求書12頁20行に記載される式1の各∫I(x)dxに相当する値を示す表

第5 甲各号証及び参考資料の記載事項
1 甲第1号証は、「Shin-Etsu QUARTZ PRODUCTS 製品ガイド」との表題を有する信越石英株式会社の製品カタログであって、本件発明に関連した事項について、以下のように記載されている。
(ア)「透明石英ガラスは、通常のガラス類と比べて、光透過性が紫外から赤外の全波長にわたって非常に高いという特徴があります。特に短波長の紫外領域では、他のどんなガラスより良好な透過性を示します。」(4頁)
(イ)「合成石英ガラス 合成(「信越石英の主要品種」の項目) SUPRASIL-F300,310(「品種名」の項目) ファイバ用・ランプ用 (「用途」の項目) 管・棒(「形状」の項目)」(4頁下段の表の抜粋)
(ウ)「SUPRASIL-F300 SUPRASIL-F310(「品種名」の項目) 超高純度の合成石英ガラス管・棒で、泡や異物がなく金属不純物を含有していません。F300は最高品質の光ファイバー用石英素材で、高強度で長尺の光ファイバーが高収率で得られます。F310はOH基を含有しますが、他の特性はF300と同等です。(「特徴」の項目)」(9頁下段「光通信用透明石英ガラス」の表の抜粋)
(エ)「ランプ用石英ガラス管として、Mシリーズ(M-235,M282,M382)、HERALUX、及び合成石英ガラスSUPRASIL-F300,F310があります。いずれも独自のツールフリー法で製造、管の内外面は平滑で欠陥がありません。UVランプ材として適しており、Mシリーズはオゾンレスタイプ、HERALUXはオゾンタイプです。また、SUPRASIL-Fシリーズは、真空紫外から赤外までの透過率特性に優れています。」(10頁)
(オ)「Shin-Etsu QUARTZ PRODUCTS ’95.7.3」(最終頁最下段)

2 甲第2号証は、1999年2月1日に頒布された「PHYSICAL REVIEW B VOLUME59,NUMBER 6」の4066頁?4073頁に掲載された「Effect of Xe2* light(7.2eV)on the infrared and vacuum ultraviolet absorption properties of hydroxyl groups in silica glass」(「Xe2*光(7.2eV)がシリカガラス中で水酸基の赤外および真空紫外吸収特性に及ぼす影響」;訳文として請求人の提出した「甲第2号証の翻訳文」を採用した。以下の訳文も同様とする。但し、明らかな誤記は、特に断ることなく訂正する。)と題する論文(1998年7月6日受理)であり、本件発明に関連した事項について、図面と共に以下のように記載されている。
(ア)「On the other hand, the ≡SiOH group gives intense optical absorption in the vacuum ultraviolet (vuv) region near the absorption edge of the glass.8-10 Although much effort has been made to determine specific forms of ≡SiOH in silica glass, it is still not known what particular kinds of ≡SiOH present in silica are responsible for the measured absorption of vuv light.
The present study focuses on clarifying the detailed form of the ≡SiOH absorbing vuv photons near the absorption edge in silica glass. As a hint for how to solve the problem Shelby11 reported that the 3672cm-1 ≡SiOH band was shifted to smaller wave number resulting from the creation of a shoulder on the low-frequency side of this band by irradiation with gamma rays up to 10-100 MGy. On our first atempt, we selected xenon-excited-dimmer (Xe2*) light (i.e. 7.2 eV) emitted from the Xe dielectric-barrier discharge lamp. This emission band originates from decay of the excited state of Xe2*.12 It was hoped that the band-edge absorption due to ≡SiOH would be excited by this irradiation and that consequent changes of the ≡SiOH absorption properties would be observed. By comparing the absorption property changes inducted by vacuum heat treatment with those inducted by the irradiation, we will discuss the origin of the ≡SiOH absorption in the vuv region of the silica glass.」(4066頁;「一方、≡SiOH基は、ガラスの吸収端近傍の真空紫外(vuv)領域に極めて強い光吸収を生じさせる8-10。シリカガラス中の≡SiOHの特異形態を究明するために多くの努力が費やされてきたが、シリカ中に存在する≡SiOHのどのような特殊な種類が、測定されたvuv光の吸収に関与しているかについてはまだ明らかにされていない。本研究では、シリカガラス中の吸収端近傍でvuv光子を吸収する≡SiOHの詳しい形態を解明することに重点を置く。問題を解明するヒントとして、Shelby11は、10‐100MGyのγ線照射によって3672cm-1の≡SiOH帯の低周波側にショルダーが構築された結果、この帯がより小さい波数へシフトしたことを報告した。最初の試みとして、Xe誘電体バリア放電ランプから発せられるキセノン励起二量子体(Xe2*)光(7.2eV)を選んだ。この発光帯は、Xe2*の励起状態の崩壊から生じるものである12。≡SiOHによる帯端吸収がこの照射によって励起され、その結果として生じる≡SiOH吸収特性の変化が観察されることを期待した。真空熱処理によって誘起された吸収特性の変化と照射によって誘起されたその変化を比較することにより、シリカガラスのvuv領域における≡SiOHの発生について論議する。」訳文2/13頁)
(イ)「Four commercially available kinds of synthetic silica glass were used in this study: ES (Nippon Silica Glass Co., Ltd.) and Suprasil P20 (P20, Shinetsu Ouartz Products Co., Ltd.) which were made by the direct method and Suprasil F310 and Suprasil F300 (F310 and F300, Sinetsu Quarts Products Co., Ltd.) which were made by the vapor phase axis deposition (VAD) method. The ES, P20, and F310 samples contain 1200-1300, ?700, and ?300 weight (wt) ppm of ≡SiOH, respectively, while the concentration of ≡SiOH of the F300 sample is less than 1 wt ppm, according to the manufacture's catalog. These samples were selected to vary the absorption intensity in vuv absorption edge region and at 3673 cm-1 absorption band. In general, these materials include metallic impurities at levels below 0.1 wt ppm. Samples of 20×10×0.5mm3 were prepared with optically polished two faces.
The samples were irradiated with the Xe dielectric-barrier discharge lamp (UEM20-172, Ushio, Inc.) under a nitrogen-flow atmosphere. The lamp emits relatively monochromatic light whose maximum intensity was located at 7.2 eV with an effective band width of 1.5 eV. The lamp spectrum is shown in Fig.1. The irradiance at the place where the samples were mounted was measured to be 14±0.8mWcm-2, and the temperature at the surface of the samples was 413±12K. All irradiations were performed continuously for a fixed duration: they were 25, 100, and 430 hours for all of the samples except for Suprasil F300 which was irradiated for 240 hours.」(4066頁?4067頁;「本研究には、市販されている4種類の合成シリカガラスを用いた:直接法で作成された ES(日本石英硝子株式会社)およびSuprasil P20(信越石英株式会社、P20)、並びに気相軸付け法 (VAD)で作成されたSuprasil F310およびSuprasil F300(信越石英株式会社、F310およびF300)である.製造者のカタログによると、ES、P20、およびF310試料は、それぞれ、1200‐1300、?700、および?300 wt ppmの≡SiOHを含有し、F300試料の≡SiOH濃度は1 wt ppm以下となっている。これらの試料は、vuv吸収端領域および3673cm-1吸収帯で吸収強度を変える為に選ばれた。一般的に言って、これらの材料は、0.1wt ppm以下のレベルでは金属不純物を含有している。両面を光学的に研磨して20×10×0.5mm3の試料を作成した。試料には、窒素流雰囲気で Xe誘電体バリア放電ランプ(UEM20-172、ウシオ電機株式会社)を照射した。ランプは相対的に単色光を発し、1.5eV の有効帯域幅で最大強度は7.2eV の位置にあった。ランプスペクトルを図1に示す。試料を取り付けた場所の放射照度は14±0.8 mWcm-2と測定され、試料表面の温度は413±12Kであった。すべての照射は一定時間継続して行われた:240時間照射したSuprasil F300を除いて、すべての試料に対して25、100、および430時間照射した。」訳文2/13頁)
(ウ)「Figure 2(a) shows the difference spectra in vuv region obtained by subtracting spectra of as-received samples from the ones of samples irradiated for 100 hours for the ES, P20, and F310 samples and 240 hours for 300 sample. By Xe2* light irradiation, a decrease in absorption from 7.4 eV up to 8.0 eV (upper limit of the measurement) was observed for the ES, P20, and F310 samples. Only the F300 sample, which does not contain ≡SiOH as low as the detection limit, did not show any decrement in the absorption at all, or even an increase. Figure 2(b) shows the decrement of absorption for ES, P20, and F310 samples with the irradiation time, where one notes that the longer the time, the greater the decrement of absorption. This negative change in vuv absorption induced by the Xe2* irradiation is, hereafter, called "beta absorption." The contour of the 3673 cm-1 absorption band of ≡SiOH was also deformed by the irradiation. Figure 3 shows the changes in the absorption band shape for the ES, P20, and F310 samples, respectively. For each sample, the wave number of the absorption maximum shifted to lower wave number side and the bandwidth became broader with increasing irradiation time. For example, the wave number of the absorption maximum and the full width at half maximum of the band were 3673 and 119 cm-1 before irradiation for the ES sample, while they were measured to be 3647 and 161 cm-1, respectively, after 430 hours irradiation. The magnitude of the peak shift was smaller for the band with initial peak position at high wave number. Almost same results were obtained for the P20 and F310 samples. As seen in Fig.3, the absorption intensities at the absorption maximum were, on the other hand, almost unchanged by the irradiation for each sample containing ≡SiOH.」(4067頁?4068頁;「図2(a)に、ES、P20、およびF310試料に対しては100時間、並びにF300試料に対しては 240 時間照射した試料のスペクトルから、受領時の試料のスペクトルを差し引いて求めたvuv領域の差スペクトルを表示する。Xe2*光照射によって、ES、P20、およびF310試料では、7.4eVから 6.0eV(測定の上限)に及ぶ吸収の減少が観察された。検出可能範囲では≡SiOHを含有していないF300試料のみにおいて、いかなる吸収の減少も、もしくは増加さえも全く見られなかった。図2(b)は、ES、P20、およびF310試料の照射時間に伴う吸収の減少を示しており、時間が長ければ長いほど、吸収の減少が大きくなっているのがわかる。Xe2*照射によって誘起されたvuv吸収のマイナスの変化は、以下「β吸収」と称する。≡SiOHの3673cm‐1吸収帯の輪郭も、照射によって変形した。図3に、ES、P20、およびF310試料の吸収帯形状の変化をそれぞれ表示する。各試料で、吸収極大波数は波数のより低い側へシフトし、帯域幅は照射時間の増大に伴ってより広くなった。例えば、吸収極大波数およびその帯の半値全幅は、ES試料で照射前には、3673および119cm-1であったが、430時間の照射後には、それぞれ 3647および161cm-1と測定された。ピークシフトの大きさは、初期のピーク位置が高波数にあった帯の方がより小さくなっていた。P20およびF310試料に関しては、ほとんど同じ結果が得られた。一方、図3に示すように、吸収極大での吸収強度は、≡SiOHを含む各試料では照射による変化はほとんど見られなかった。」訳文5/13頁)
(エ)「Moreover, since the 3694cm-1 band is a specific part of the complex ≡SiOH's 3673 cm-1 bands, the beta absorption is closely correlated with a particular form of ≡SiOH whose absorption band is located at around 3694 cm-1 in ir region.
At least two ≡SiOH classes have been proposed; one is essentially gaslike or isolated ≡SiOH, whose absorption is located at 3690 cm-1, while the tail (?3620 cm-1) is due to weakly interacting ≡SiOH groups.7 In order to obtain a more detailed understanding of the origin of the absorption band at around 3694 cm-1, band separations in the 3200-4000 cm-1 region were performed for the spectra obtained for the ES sample. Davis and Tomozawa6 reported a band separation technique using a Pearson VII band expressed as
I(ν)=Imax[1+K2(νmax-ν)2]-N, (4)
where K is a scaling factor given by
K=(2l/N-1)l/2/B (5)
I(ν) is the band intensity as a function of wave number ν, Imax is the maximum intensity, νmax is the wave number at the maximum of the band, B is the half width at half maximum, and N is a constant between 1 and 10, where 1 gives a Lorentzian profile and 10 gives approximately a Gaussian profile. By following the Pearson VII method, the features shown in Fig.9 were calculated; the six component bands used are listed in Table II. These six bands were also cited in the paper by Davis and Tomozawa6 i.e., band No.1 at 3426 cm-1 assigned to asymmetric stretching of molecular water bound to the silica network and symmetric stretching of free/hydrogen bonded (H bonded) molecular water inside the glass, band No.2 at 3551 cm-1, band No.3 at 3612 cm-1 due to OH stretching of ≡SiOH's which are H bonded to the oxygen of neighboring ≡SiOH, band No.4 at 3661 cm-1, band No.5 at 3694 cm-1 due to OH stretching of ≡SiOH, and band No.6 at 3810 cm-1, possibly arising from combination torsion and OH stretching of ≡SiOH. It is seen in Fig.9 that the species decreased by irradiation were the elements No.4 and No.5 and the increased ones were the Nos.1, 2, and 3 bands, respectively. The beta absorption generated by 430 hours irradiation corresponded to the 40% of the total amount of ≡SiOH for the ES sample. On the other hand, for the sum of the intensities of the 3694 and 3661 cm-1 ≡SiOH band elements, the percentage of the absorption intensity diminished by irradiation relative to that before irradiation was also 40%. As a matter of fact, two of the ratios were strikingly coincident with each other, as in the case of the P20 and F310 samples, as well.」(4071頁?4072頁;「更に、3694cm-1帯は錯体≡SiOHの3673cm-1帯の特定の部分であることから、β吸収は、その吸収帯がir領域の3694cm-1周辺に位置する≡SiOHの特別の形態と密接に関連する。少なくとも2つのクラスの≡SiOHが、提示されている;1つは、基本的に気体状もしくは孤立した≡SiOHでその吸収は3690 cm-1に位置しており、一方テール部(?3620cm-1)は相互作用が弱い≡SiOH基に起因している。3694cm-1周辺での吸収帯の起源をより詳細に理解するために、ESの試料で得たスペクトルに関して3200‐4000cm-1領域の帯域分離が実施された。DavisとTomozawa6は、次の式で表される PearsonVII帯を用いた帯域分離法を報告した。
I(ν)=Imax[1+K2(νmax-ν)2]-N, (4)
ここで、Kは倍率であり、次式で求める。
K=(2l/N -1)l/2 /B (5)
I(ν)は波数νの関数としての帯の強度、Imaxは最大強度、νmaxは帯の極大での波数、Bは半値半幅、およびNは1と10の間の定数であり、1はローレンツプロファイル、10はほぼガウスプロファイルである。PearsonVII法に従い、図9に表示される特徴を算出した;使用した6つの成分帯を表2にまとめる。これらの6帯は、DavisとTomozawa6の論文にも引用されている;即ち、シリカネットワークに結合した水分子の非対称伸縮およびグラス中の自由/水素結合(H結合)水分子の対称伸縮に帰属される 3426cm-1の帯No.1、≡SiOH近傍の酸素にH結合している≡SiOHのOH伸縮による3551cm-1の帯No.2と3612cm-1の帯No.3、≡SiOHのOH伸縮による3661cm-1の帯No.4と3694cm-1の帯No.5、並びに≡SiOHのねじれと0H伸縮の組合せから起こると思われる3810cm-1の帯No.6である。図9から、照射によって減少した種はNo.4およびNo.5のエレメント、並びに増大した種は帯No.1、2、および3であることがわかる。430時間照射によって生成されたβ吸収は、試料ESでは≡SiOH総量の40%に相当した。一方、3694および3661cm-1の≡SiOH帯エレメントの強度の合計では、照射前の吸収強度と比較して、照射によって低下した吸収強度の比率も40%であった。実際、P20およびF310の試料の場合と同様に、2つの比率は互いに驚くほど一致していた。」訳文10/13、11/13頁;尚、提出翻訳文における「3551cm-1の帯No.2、≡SiOH近傍の酸素にH結合している≡SiOHのOH伸縮による 3612cm-1の帯No.3」、「3661cm-1の帯No.4、≡SiOHのOH伸縮による3694cm-1の帯No.5」との記載では「≡SiOHのOH伸縮による」の係りが不適切であり、上記のように「≡SiOH近傍の酸素にH結合している≡SiOHのOH伸縮による3551cm-1の帯No.2と3612cm-1の帯No.3」、「≡SiOHのOH伸縮による3661cm-1の帯No.4と3694cm-1の帯No.5」と訂正した。)
(オ)「(3) Supposing that the isolated ≡SiOH absorption band at 3694 cm-1 consisted mainly of the 3694 and 3661 cm-1 bands, the ratio of the diminished isolated ≡SiOH was the same as the ratio of the decrease in intensity of vuv absorption spectra (PE>7.4 eV).」(4073頁;「(3)3694cm-1の孤立した≡SiOH吸収帯は主に3694および3661cm-1帯から構成されていると仮定すると、減少した孤立した≡SiOHの比率は、vuv吸収スペクトル(PE>7.4ev)の強度の減少の比率と同じであった。」訳文13/13頁)

3 甲第3号証は、本件発明の出願前に頒布された刊行物である特開平5-138014号公報であり、本件発明に関連した事項について、図面とともに以下のように記載されている。
(ア)「【請求項1】 少なくとも1つの高出力光源、充填ガスで充填された1つの放電空間(4)、この場合、充填ガスは、静電放電の作用下に、光線、有利にエキシマー光線を出射し、放電空間(4)が、壁面によって仕切られていて、この壁面の少なくとも1つが誘電性物質からなり、かつ放電空間中で発生した光線のために透過性であり、直接的に放電空間(4)の1つの壁面と境を接する1つの処理空間(6)、放電空間(4)の外に電極の対(2、7)およびこの放電の供給のために2つの電極(2、7)に接続した交流電源(12)を有し、この場合、放電空間(4)の中への電気エネルギーの接続が、本質的に容量的に、処理すべき物質によって処理空間(6)中で行われる照射装置において、処理空間(6)が、非金属性物質または非金属性物質で隙間なく被覆された物質からなる壁面 のすべての面で、閉鎖されていることを特徴とする、照射装置。」(2頁左欄)
(イ)「【0008】
【実施例】図1および2に記載の照射装置は、内側の誘電性管1、例えばガラス管または石英管1を包含し、内側に、金属層2、有利にアルミニウム層を備えている。前記の層2は、光源の内側電極を形成している。この内側管1は、同心円状、かつこの管から間隔をあけて、UV-透過物質、例えば石英からなる中間の誘電性管3によって囲まれている。2つの管1および3の間の空間は、光源の放電空間4を形成している。外に向かって、放電空間4は、誘電性物質、例えばガラスまたは石英からなる外側管5によって仕切られている。この管3および管5の間の空間は、照射装置の処理空間6を形成している。有利にアルミニウムからなる第2の金属層7は、管6の外側面の上へ取付けられ、かつ光源の外側電極を形成している。」(3頁左欄)

4 参考資料1は、上記甲1号証の(ア)ないし(エ)と同様の記載内容を有し、(オ)に相当する最終頁最下段に「Shin-Etsu QUARTZ PRODUCTS ’94.7.3」との記載がある信越石英株式会社の製品カタログである。
5 参考資料2は、同じく信越石英株式会社の「ランプ用透明石英ガラス」の製品カタログであり、第1頁の品種表に合成石英ガラス SUPRASIL-F310のOH基含有量が約300ppmであること、同頁の左下段にSUPRASIL-F310の波長と透過率との関係を示す紫外線の透過率のグラフが記載されており、また、第2頁の最下段に「Shin-Etsu QUARTZ PRODUCTS Co.,Ltd.2004.9.14」との記載がある。

6 参考資料3は、レーザー研究第23巻第12号(平成7年12月)の第27頁?第31頁に掲載された「誘電体バリア放電エキシマランプの原理と応用」と題する刊行物であり、本件発明に関連した事項について、図面とともに以下のように記載されている。
(ア)「これらの光化学反応用の光源には、紫外領域あるいは真空紫外領域のある特定の波長範囲にだけ、高効率の放射を有することが望まれる。・・・最近になり、誘電体バリア放電を励起源としたエキシマランプが開発され、実用化されるに到った。」(27頁左欄)
(イ)「Fig.1を使用して、誘電体バリア放電の動作原理について簡単に説明する。ランプは石英ガラスの2重構造になっており、内管の内側には金属電極、外管の外側には金属網電極がそれぞれ施されている。また石英ガラス管内には、放電ガスが充満されている。電極間に高周波、高電圧電圧を印加すると、2枚の誘電体を通して放電空間に電圧が印加され、この電圧が放電空間の放電破壊電圧以上になると放電空間で放電が発生する。・・・すなわち、直径は0.1mm程度、寿命は数十ns程度の放電プラズマが、放電空間に多数本発生することになる。この放電プラズマにより、放電ガスの原子が励起されて、瞬間的にエキシマ状態(Xe2*)となる。このエキシマ状態が基底状態に戻るときに、そのエキシマ特有のスペクトルを発光(エキシマ発光)する。発光スペクトルは、充填された放電ガスの組成によって設定することが出来る。」(27頁右欄?28頁左欄)
(ウ)「126nm,146nmランプは照射窓にMgF2を用いている6,7)が他ランプの照射窓は石英ガラスを使用している。発光スペクトルはほぼ単色光である。」(28頁左欄)
(エ)「大面積を照射出来るタイプのランプ10)をFig.6に示す。・・・合成石英ガラス窓付きのランプハウス内で発光長250mmの管形Xeエキシマランプ4本を並列点灯する方式である。」(30頁右欄)
(オ)「3.3 寿命 初期出力の70%まで減衰する時間を寿命と定義すると,約1000時間の値が得られている。」(29頁右欄)

7 参考資料4は、本件発明の出願前に頒布された刊行物である特開平5-174793号公報であり、本件発明に関連した事項について、図面とともに以下のように記載されている。
(ア)「【0018】【実施例】図1および図2に模式的に示された照射装置はUV高出力ビーム発生器を有する。このUV高出力ビーム発生器は、外部の誘電管1(例えば石英ガラス製)およびそれに同心配置された内部の誘電管2からなる。内部誘電管の内壁には内部電極3が設けられている。2つの管1と2の間のリング状空間はビーム発生器の放電室4を形成する。内部管2はガス気密に外部管1へ差し込まれており、外部管には前もってガスまたはガス混合体が充填されている。このガスは無声放電の影響の下でUVビームまたはVUVビームを放射する。
【0019】外部電極5として目の粗い金属メッシュを用いるか、または外部電極は管長手方向に延在する個々の金属ワイヤまたは金属条材からなる。外部電極は外部管1のほぼ上側半周囲にわたって延在する。条材状の電極構成の場合、個々の条材は軸上に分布された複数の個所で相互に接続される。外部電極5も、外部誘電管1も、生成されたUVビームに対して透過性である。管1の下側周囲には反射器6が設けられている。これは例えば蒸着したアルミニウム層により実現することができる。この反射器は外部電極5と同じ電位にある。
【0020】上に述べたビーム発生器は金属壁部7、8、9、17、18により画定された冷却剤浴10に浸漬される。この浴には冷却剤流入部11と冷却剤流出部12を介し、冷却剤、有利には蒸留水が流過する。上部にはUV透過性の窓13、例えば石英ガラス製が設けられている。」(3頁左欄?右欄)

8 参考資料5及び参考資料6は、信越石英株式会社の「技術情報」及び「Technical Data Sheet」との表題を有する資料であり、ともにSUPRASIL-F310の紫外線の透過率のグラフが記載されているものと認められる。

第6 当審の判断
1 「合成石英ガラスSuprasil F310」について
甲第1号証は、「Shin-Etsu QUARTZ PRODUCTS 製品ガイド」との表題を有する信越石英株式会社の製品カタログであって、その最終頁最下段に「Shin-Etsu QUARTZ PRODUCTS ’95.7.3」との記載があるところから、少なくとも本件発明の出願前に頒布されたものと推認できる。また、上記第5「1(イ)」乃至「1(エ)」の記載から、ランプ用石英ガラス管として、OH基を含有する合成石英ガラスSURASIL-F310があり、真空紫外から赤外までの透過率特性に優れ、UVランプ材として適していることが読み取れる。
そこで、「OH基を含有し、真空紫外から赤外までの透過率特性に優れ、UVランプ材として適している石英ガラス」である合成石英(シリカ)ガラス「Suprasil F310」(以下、「石英ガラスF310」という。)について、その市販時期及び含有する「非水素結合性」OH基の割合を検討する。
(ア)石英ガラスF310が市販された時期
甲2号証は本件発明の出願前に頒布された刊行物ではないが、上記掲載論文の受理日は、本件発明の出願前の1998年7月6日であることが認められる。上記第5「2(イ)」の記載から、石英ガラスF310は、信越石英株式会社から市販(commercially available)されており、それを入手し試料として研究に使用したことが認められるところ、提出論文の作成はその受理日以前になされたことから、論文作成のための実験に使用した試料の入手が、本件発明の出願前になされたことは明らかである。そうすると、石英ガラスF310は、信越石英株式会社から本件発明の出願前に市販されていたものと認められる。
(イ)石英ガラスF310に含有される本件発明でいう「非水素結合性」OH基の割合
「非水素結合性」OH基に関して、本件発明の特許明細書において「【0014】ここで、非水素結合性OH基とは、図2(a)に示すようにOH基が一つのケイ素(Si)とのみ結合するものを意味し、図2(b)、(c)において点線で示すような、いわゆる水素結合を持たないものを意味している。」と記載されている。
また、このような非水素結合性OH基の存在位置に関しては、同じく特許明細書において、「【0015】石英ガラス中のOH基は複数の文献(例えば、Phys.Chem.Glasses,3(1962)129, J.Non-Cryst.Solid,139(1992)35など)にあるように波長27.1μm(振動数3672cm-1)に幅の広い吸収帯を示す。後者の文献には、この吸収帯は2種類のOH基、即ち、上記幅の広い吸収帯のうち高周波領域側には非水素結合性OH基が、そして低周波領域側には水素結合性OH基が位置していることを述べている。図2(a)に示した分子構造式が前者であり、図2(b)(c)に示した構造式が後者である。」と記載されており、3672cm‐1吸収帯におけるこのような2種類のOH基の存在位置を利用して両OH基の濃度割合を測定する方法に関しては、同じく特許明細書において、「【0016】このように振動数3672cm-1の吸収帯において、非水素結合性OH基と水素結合性OH基の存在位置が示されていることを利用して、本発明者らは、両OH基の濃度割合を測定する方法を以下のようにした。すなわち、石英ガラス中に含まれるOH基のうち、上記2種類のOH基の濃度比率を計るためには、まず、振動数3672cm-1の幅の広い吸収帯を細かく分けてみた。すなわち、ガウス分布で表される5つの吸収帯(「要素バンド」と呼ぶ)を仮定して、この5つの要素バンドの和が赤外透過スペクトル測定された振動数3672cm-1の幅の広い吸収帯にできるだけ一致するように要素バンドの強度を設定する方法を確立した。この点をさらに詳細に説明する。一般に、ガウス分布は、Ix=(C/σ√2π)exp(-(x-y)2/2σ2)で表される。ここで、Cは係数、xは振動数、σは分散、vは要素バンドの中心波数である。5つの要素バンドの中心波数と分散とは何れの場合も図5の値に設定する。ここで、強度を決定するCは、5つの要素バンドの和が測定された振動数3672cm-1の吸収帯にできるだけ一致するように適当に設定する。図中、非水素結合性OH基は1,2の要素バンドに相当し、水素結合性OH基とは3,4,5が相当する。
【0017】図6は5つの要素バンドの波形を示すもので、横軸は光の振動数、縦軸は対象物である石英ガラスでの光吸収である。このようにして求めた5つの要素バンドから非水素結合性OH基を求める。全体のOH基に対する非水素結合性OH基の割合とは、破線で示した要素バンド1と要素バンド2の面積の和(すなわち、非水素結合性OH基の要素バンドの和)を、振動数3672cm-1の広い吸収帯の面積で除したものである。ここで、振動数3672cm-1の吸収帯の面積とは、振動数4000cm-1の吸収帯と振動数3000cm-1の吸収帯での値を直線で結んだものを基線(この基線をゼロラインとして、それ以下の光強度は加算しない)として、振動数3672cm-1の吸収帯について3200cm-1?3770cm-1までの範囲で求めた面積をいう。したがって、ある石英ガラスの非水素結合性OH基の濃度が、全体のOH基に対してどのくらいであるかを評価するには、図6に示すような要素バンドの波形を求めて上記面積の割合を求めることで判定できる。」と記載されている。
一方、甲2号証においては、本件発明の「非水素結合性」OH基に対応するOH基として、「孤立した≡SiOH」(isolated ≡SiOH)が、また、本件発明の5つの「要素バンド」に対応するものとして、本件発明の要素バンドを含むPearsonVII帯が示され、そのうちの3661cm-1の帯No.4と3694cm-1の帯No.5が≡SiOHのOH伸縮によるものとされている(上記第5「2(エ)」の記載参照)。また、本件発明のように各バンドをガウス分布で表す点に関しては、4071頁に記載されている(4)式の指数Nについて、Nが10の場合はほぼガウスプロファイルであるとの記載があり、PearsonVII帯に関するTABLE II(4072頁)には、指数Nは、3612cm-1の帯No.3が4.5、3661cm-1の帯No.4が8.7、3426cm-1の帯No.1、3551cm-1の帯No.2、及び3694cm-1の帯No.5は10であることが示されている(上記第5「2(エ)」の記載及びPearsonVII帯に関するTABLE II(4072頁)参照)。
このことから、上記のNo.3及びNo.4の帯を除く他の帯は、ほぼガウス分布で表すことができるものである。また、No.4の帯の指数は8.7と10に近くガウス分布で近似し得るものであり、No.3の帯についてもガウス分布で近似することにより多大の誤差を生じる等の格別の不都合が生じるものとも認められないから、本件発明の明細書に記載されている非水素結合性OH基の割合を求めるための手法を、甲2号証に示されている試料受領時(as-received)の合成石英(シリカ)ガラス「Suprasil F310」に適用して、含有される「非水素結合性」OH基の割合を求めることに格段不都合はないものと認められる。
試料受領時(as-received)の石英ガラスF310は、石英ガラスF310の市販品を入手し、試料として加工したものではあるものの、その加工により非水素結合性OH基の割合を大きく変更させるものでないことは実験の趣旨から当然要請されるところであるから、この試料受領時(as-received)の石英ガラスF310の分析結果から、市販品入手時の石英ガラスF310に含有される非水素結合性OH基の割合、即ち、石英ガラスF310に含有される非水素結合性OH基の割合を推認し得るものである。
試料受領時の石英ガラスF310の非水素結合性OH基の割合を調べるために利用可能なデータとして、4068頁の図3(b)があり、図3(b)には、合成石英ガラスF310を含む試料の表面を、最大強度7.2eVのランプスペクトルを持つXe誘電体バリア放電ランプで、試料表面温度を413±12Kとし一定時間継続してXe2*光照射した場合の、照射による≡SiOHの3673cm‐1吸収帯の輪郭の変形が、試料の受領時(as-received)と430時間照射時との対比でグラフで示されている(上記第5「2(イ)」及び「2(ウ)」の記載及び図3参照)。
このデータ中の試料の受領時(as-received)のデータを使用して上記割合を推定するため、図3(b)のグラフから数値を読み取り、得られた数値データを利用して各要素バンドのガウス分布の係数Cを求め、これにより非水素結合性OH基の割合が計算されている。
上記の計算に基づき得られた受理時の非水素結合性OH基の割合に関しては、被請求人が提出した乙第2号証によれば、0.484との値が示され、また、請求人が提出した弁駁書によれば0.481との値が示されており、いずれにしても0.36を越える0.48程度の値であることは明らかである。

2 本件発明の出願前に公然実施された発明
請求人は、石英ガラスF310に関して、審判請求書において、非水素結合性OH基の割合が全体のOH基に対して0.36以下の解析結果が得られる、石英ガラスF310試料の紫外線430時間照射時のものが本件発明の出願前に公然実施されていたものである旨の主張を行い、また、弁駁書において、市販の石英ガラスF310の非水素結合性OH基の濃度が0.36以上であるとしても、そのガラスによって放電容器を形成した誘電体バリア放電ランプを点灯させれば、その石英ガラスの非水素結合性OH基の濃度は早期に0.36以下になるのだから、誘電体バリア放電ランプとして使用することにより非水素結合性OH基が0.36以下となる合成石英ガラスの発明が公然と実施(譲渡の申出)がされていたことに帰する旨主張しているので、この点について検討する。
信越石英株式会社から市販された石英ガラスF310は、石英ガラスF310を所定の温度範囲で所定時間紫外線照射を行った後に得られた加工後の合成石英ガラスではなく、加工前のものであり、加工前の市販の時点では非水素結合性OH基の割合が0.48程度であって、0.36以下という条件を満たしていないことは、上記1で検討したとおりである。
そして、請求人の提出した証拠方法からは、上記の加工後の合成石英ガラスが譲渡等により公然と実施された事実は認めることができない。
すなわち、石英ガラスF310は,平成6年発行の参考資料1、平成7年発行の甲第1号証、平成16年発行の参考資料2の製品カタログに掲載され、本件出願前に市販されていたことからすれば、本件出願前に、これをカタログに記載された用途に適する「ランプ」が製造された可能性があるとしても、上記の証拠のみでは,本件出願前に石英ガラスF310を放電ランプの光透過性部分又は照射装置の窓部材に使用して「石英ガラスF310使用の誘電体バリア放電ランプ」ないし「石英ガラスF310使用の照射装置」が製造されたうえ,公然販売又は使用されたとまでは認めるには十分でないというべきである。
しかして、本件発明の出願前に公然実施されていた石英ガラスF310に係る発明(以下、「石英ガラスF310発明」という。)は、以下のものとと認められる。
「非水素結合性OH基の割合が0.48程度であり、真空紫外から赤外までの透過率特性に優れ、UVランプ材として適している石英ガラス」

3 本件特許発明1と「石英ガラスF310発明」との対比/判断
本件特許発明1(前者)と石英ガラスF310発明(後者)とを対比すると、両者は「UVランプ材として適している所定割合の非水素結合性OH基を含む石英ガラス」の点の構成で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
前者が、「石英ガラスからなる放電容器の内部に誘電体バリア放電によってエキシマ分子を形成する放電用ガスが充填され、この放電容器の少なくとも一部に光透過性部分が形成されている誘電体バリア放電ランプ」であるのに対し、後者にはこのような誘電体バリア放電ランプの構成が示されていない点。
[相違点2]
石英ガラスに含まれる非水素結合性OH基の割合に関し、前者が0.36以下としているのに対し、後者は0.48程度であって、0.36以下という条件を満たしていない点。
相違点について検討する。
[相違点1]について
前者の有する「石英ガラスからなる放電容器の内部に誘電体バリア放電によってエキシマ分子を形成する放電用ガスが充填され、この放電容器の少なくとも一部に光透過性部分が形成されている誘電体バリア放電ランプ」の点の構成については、上記「第5」6の刊行物(レーザー研究第23巻第12号(平成7年12月))の記載(ア)中の「最近になり、誘電体バリア放電を励起源としたエキシマランプが開発され、実用化されるに到った。」、記載(イ)中の「ランプは石英ガラスの2重構造になっており、内管の内側には金属電極、外管の外側には金属網電極がそれぞれ施されている。」、記載 (ウ)中の「ランプの照射窓は石英ガラスを使用している。」との記載並びに上記「第5」3の刊行物(特開平5-138014号公報)の記載(ア)中の「エキシマー光線を出射し、放電空間(4)が、壁面によって仕切られていて、この壁面の少なくとも1つが誘電性物質からなり、かつ放電空間中で発生した光線のために透過性であり」、記載(イ)中の「内側の誘電性管1、例えばガラス管または石英管1」との記載等からみて、上記の点の構成は従来周知のものと認められる。そして、このような従来周知の構成の放電ランプの放電容器の石英ガラスとして、後者の「真空紫外から赤外までの透過率特性に優れ、UVランプ材として適している」石英ガラスを使用することは、当業者が格別の推考力を要することなくなし得る程度のことと認められる。
[相違点2]について
石英ガラスに含ませるOH基の割合に関して、本件特許明細書には次のように記載されている。
「【0005】ところで、この石英ガラスは適量のOH基(水酸基)を含ませる方が、純粋なシリカ(SiO2 )で構成するより、放射する紫外線によるダメージを軽減できるということが知られている。つまり、石英ガラスにOH基を含ませる方が良いわけであるが、その含有量があまりに多くなるとOH基自体による紫外線吸収によって早期に所望の放射量が得られなくなるという問題がある。逆に、OH基の含有量があまりに少なすぎる場合は、紫外線のダメージを受けてしまい石英ガラスの劣化を招くなどの問題を生ずる。
【0006】【発明が解決しようとする課題】そこで、この発明が解決しようとする課題は、OH基を含有した石英ガラスを光透過性部分とした誘電体バリア放電ランプ、および誘電体バリア放電ランプを光源とし、OH基を含有した石英ガラスを窓部材とした照射装置であって、石英ガラスの紫外線によるダメージを良好に抑え、かつ、十分な紫外線放射量を得ることができる構造を提供することである。
【0007】【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、この発明にかかる誘電体バリア放電ランプは、石英ガラスからなる放電容器の内部に誘電体バリア放電によってエキシマ分子を形成する放電用ガスが充填され、この放電容器の少なくとも一部に光透過性部分が形成されており、この光透過性部分における非水素結合性OH基の割合が全体のOH基に対して、0.36以下であることを特徴とする。
【0008】さらに、この発明にかかる照射装置は、誘電体バリア放電により放電容器内にエキシマが生成されて紫外線が放出される誘電体バリア放電ランプと、この誘電体バリア放電ランプを収納し、誘電体バリア放電ランプからの紫外線を取り出す窓部材よりなる構成において、前記窓部材は、石英ガラスよりなり非水素結合性OH基の割合が全体のOH基に対して、0.36以下であることを特徴とする。」
また、非水素結合性OH基の果たす役割については、次のように記載されている。
「【0013】この点をもう少し説明する。本発明者らは、石英ガラスにOH基が含まれる場合は、いかなる場合であってもOH基自身による紫外線の吸収が起こるという従来の常識(例えば、「J,Spectrosc,Soc,Jap,vol.41,2(1992)81」には、石英ガラス中のOH基は168nm以下の波長の光を吸収することが開示される)を覆し、種々の研究のすえ、石英ガラスに含まれるOH基のうち非水素結合性OH基がこの現象に深く関与していることを見出したのである。すなわち、水素結合性OH基は紫外光、特には真空紫外光の吸収が大きいものではないということである。従って、真空紫外光を放射させる誘電体バリア放電ランプやこの誘電体バリア放電ランプを光源とする照射装置にあっては、光透過性部分や光透過窓を構成する石英ガラスは、非水素結合性OH基の濃度を限りなく少なくして、水素結合性OH基の濃度をある程度維持することによって、真空紫外光の石英ガラス自身による吸収を良好に抑えることができるとともに、紫外線照射によるダメージを軽減できるというものである。」
さらに、全体のOH基に対する非水素結合性OH基の割合と紫外線透過量の関係については、次のように記載されている。
「【0018】次に、全体のOH基濃度に対する非水素結合性OH基の割合と紫外線透過量の関係を示す。図4は縦軸に波長160nmの光の透過率(%)を表し、横軸に非水素結合性OH基の相対濃度を表す。図より、石英ガラス中の非水素結合性OH基の濃度が0.36より小さい場合は、真空紫外光、図においては波長160nmの光の透過率が13%以上であることがわかる。そして、非水素結合性OH基濃度が0.30より小さい場合に透過率は16%以上となり、さらにOH基濃度が0.27以上の場合は0.18以上となり、急激に透過率が増加していることがわかる。」
上記の記載から、
・ 放射する紫外線によるダメージを軽減するためには、石英ガラスにOH基を含ませる方が良いが、その含有量があまりに多くなるとOH基自体による紫外線吸収によって早期に所望の放射量が得られなくなるという問題があること
・ このOH基自体による紫外線吸収という現象に深く関与しているのは、非水素結合性OH基であること
・ したがって、この非水素結合性OH基の濃度を限りなく少なくし、紫外線吸収が大きくない水素結合性OH基の濃度をある程度維持することによって、真空紫外光の石英ガラス自身による吸収を良好に抑えるとともに、紫外線照射によるダメージを軽減することができること
・ また、石英ガラス中の非水素結合性OH基の濃度が0.36より小さい場合は、真空紫外光の透過率が13%以上であること
が読み取れる。
ところで、審判事件弁駁書の5頁の表及び関連記載によれば,甲第2号証の図3及び図7から読み取ったデータに基づき、本件明細書の段落【0016】【0017】記載の算出方法によって、石英ガラスF310(信越石英化学株式会社製の合成石英ガラスSuprasil F310)について、Xe誘電体バリア放電ランプを照射した際の、受理時(照射前)、25時間照射後、100時間照射後、430時間照射後の非水素結合性OH基割合を求めたものが示されており、同表によれば石英ガラスF310においては、非水素結合性OH基の割合は、受理時(照射前)に0.481であったものがランプ照射後にその割合が徐々に減少し、25時間照射後に0.353、100時間照射後に0.353(本件出訴の平成17年(行ケ)第10506号において0.309の誤りと判明。)、430時間照射後に0.237となっており,本件特許発明1で特定される0.36以下の範囲のものとなっていることが認められる。上記表の数値は、甲第2号証の図3及び図7から読み取ったデータに基づくものであるので、数値自体厳密に正確なものとはいえず、また,ガラスの厚みにより要する時間の多少はあるにせよ、上記表によれば,非水素結合性OH基を含む石英ガラスに誘電体バリア放電ランプを照射すれば、使用当初の非水素結合性OH基の割合が0.36以上であっても、相応の時間(数十時間程度)が経過すると、0.36以下になることは推測に難くないものと認められる。
本件特許発明1は、放電容器が石英ガラスからなる誘電体バリア放電ランプであるから、Xeを放電ガスとして使用すれば、石英ガラスがXe誘電体バリア放電ランプからの紫外線を照射されることになる。
そうすると、誘電体バリア放電ランプの寿命が約1000時間とされる(参考資料3の29頁右欄「寿命」の欄)ところ、使用当初の非水素結合性OH基の割合が0.36以上か否かにかかわらず、数10時間程度の照射で0.36以下という本件特許発明1の要件を満たすことになるので、本件特許発明1を特定するに当たり、非水素結合性OH基の割合を0.36以下と規定したことは、使用につれて変化する特定OH基の割合について、単に、使用中のある時点(寿命と対比して、使用開始から相当短い時点)の数値を特定したにすぎないことになり、真空紫外光の石英ガラス自身による吸収を良好に抑えるとともに紫外線照射によるダメージを軽減することができるといった、本件明細書記載の格別の技術的意義を生ずるような特定とはいえず、単なる設計的事項以上のものということはできない。
したがって、本件特許発明1において、非水素結合性OH基に着目し、その割合を特定したことに技術的意義は認められず,単なる設計的事項以上のものということはできない。

4 本件特許発明2と「石英ガラスF310発明」との対比/当審の判断
本件特許発明2(前者)と石英ガラスF310発明(後者)とを対比すると、両者は「UVランプ材として適している所定割合の非水素結合性OH基を含む石英ガラス」の点の構成で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
前者が、「誘電体バリア放電により放電容器内にエキシマが生成されて紫外線が放出される誘電体バリア放電ランプと、この誘電体バリア放電ランプを収納し、誘電体バリア放電ランプからの紫外線を取り出す窓部材よりなる照射装置」であるのに対し、後者にはこのような照射装置の構成が示されていない点。
[相違点2]
石英ガラスに含まれる非水素結合性OH基の割合に関し、前者が0.36以下としているのに対し、後者は0.48程度であって、0.36以下という条件を満たしていない点。
相違点について検討する。
[相違点1]について
前者の有する「誘電体バリア放電により放電容器内にエキシマが生成されて紫外線が放出される誘電体バリア放電ランプと、この誘電体バリア放電ランプを収納し、誘電体バリア放電ランプからの紫外線を取り出す窓部材よりなる照射装置」の点の構成については、上記「第5」「6」の刊行物(レーザー研究第23巻第12号(平成7年12月))の記載(ア)中の「最近になり、誘電体バリア放電を励起源としたエキシマランプが開発され、実用化されるに到った。」、記載(エ)中の「合成石英ガラス窓付きのランプハウス内で発光長250mmの管形Xeエキシマランプ4本を並列点灯する方式である。」との記載並びに上記「第5」「7」の刊行物(特開平5-174793号公報)の記載(ア)中の「【0020】上に述べたビーム発生器(当審注;図1および図2に模式的に示された照射装置のUV高出力ビーム発生器)は金属壁部7、8、9、17、18により画定された冷却剤浴10に浸漬される。・・・上部にはUV透過性の窓13、例えば石英ガラス製が設けられている。」との記載等からみて、上記の点の照射装置の構成及び窓部材として石英ガラスを用いることは従来周知のものと認められる。そして、このような従来周知の構成の照射装置の窓部材として、後者の「真空紫外から赤外までの透過率特性に優れ、UVランプ材として適している」石英ガラスを使用することは、当業者が格別の推考力を要することなくなし得る程度のことと認められる。
[相違点2]について
相違点2は上記「3」の相違点2と同じであるから、相違点2については、上記「3」の相違点2において指摘した理由と同様の理由により、単なる設計的事項以上のものということはできない。

第7 むすび
以上、本件の請求項1及び請求項2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定に該当するから、本件特許は無効にすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-04-05 
結審通知日 2005-04-06 
審決日 2008-05-20 
出願番号 特願平10-217187
審決分類 P 1 113・ 121- Z (H01J)
最終処分 成立  
特許庁審判長 二宮 千久
特許庁審判官 山川 雅也
堀部 修平
登録日 2002-09-06 
登録番号 特許第3346291号(P3346291)
発明の名称 誘電体バリア放電ランプ、および照射装置  
代理人 水澤 圭子  
代理人 内田 敏彦  
代理人 萩野 義昇  
代理人 ▲高▼木 芳之  
代理人 村上 二郎  
代理人 後呂 和男  
代理人 五十畑 勉男  

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