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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1181544
審判番号 不服2005-25325  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-12-28 
確定日 2008-07-17 
事件の表示 特願2001-394423「熱処理炉用ヒータ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月11日出願公開、特開2003-197552〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年12月26日の出願であって、平成17年11月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年12月28日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、その後当審において、平成20年1月15日付けで審尋がなされ、その後同年3月17日に回答書が提出されたものである。

2.平成17年12月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)について
[補正却下の決定の結論]
平成17年12月28日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)本件補正の内容
補正前の請求項1を補正後の請求項1とし、なおかつ、【0004】を補正するものであって、補正後の請求項1は以下のとおりである。
「【請求項1】
発熱体と、
前記発熱体を覆う筒状の断熱壁と、
前記断熱壁の外周側に設けられた第1筒体と、
前記第1筒体の外周外方に配置されて当該ヒータの外皮を構成する第2筒体とを備えた熱処理炉用ヒータであって、
前記断熱層は、所定温度以下の使用温度では前記発熱体の輻射熱を効果的に遮断するように厚さが決定されたものであり、
前記第2筒体は、熱処理炉の使用温度が前記所定温度を超える場合に前記第1筒体から外側に熱が伝わるのを防ぐ真空断熱層を、前記第1筒体との間で形成するものであることを特徴とする熱処理炉用ヒータ。」

(2)本件補正の内容の整理
補正事項を整理すると以下のとおりである。
(a)補正事項1
補正前の請求項1に、「前記断熱層は、所定温度以下の使用温度では前記発熱体の輻射熱を効果的に遮断するように厚さが決定されたものであり、」を追加すること。
(b)補正事項2
補正前の請求項1の「前記断熱壁の外周側に設けられた第1筒体とを有する熱処理炉用ヒータであって、 前記第1筒体の外周外方に配置されて前記ヒータの外皮を構成するとともに、」を、補正後の請求項1の「前記断熱壁の外周側に設けられた第1筒体と、 前記第1筒体の外周外方に配置されて当該ヒータの外皮を構成する第2筒体とを備えた熱処理炉用ヒータであって、」と補正し、なおかつ、補正前の請求項1の「熱処理炉の使用温度」の前に、「前記第2筒体は、」を追加し、さらに、補正前の請求項1の「所定温度」を「前記所定温度」と補正すること。
(c)補正前の明細書の【0004】を補正後の明細書の【0004】と補正すること。

(3)本件補正についての検討
(3-1)補正の目的の適否及び新規事項の追加について
(a)補正事項1について
補正事項1についての補正は、「前記断熱層は、所定温度以下の使用温度では前記発熱体の輻射熱を効果的に遮断するように厚さが決定されたものであり、」との構成を追加することで、「前記断熱層」(「前記断熱壁」の誤記と認められる。)の厚さを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする。
また、願書に最初に添付した明細書の【0009】には、「また、断熱壁2では、熱処理炉の使用温度が所定温度、例えば600℃以下である場合に上記発熱体1の輻射熱を効果的に遮断するように、厚さ寸法等が決定されており、上記所定温度以下での熱処理を効率よく行えるようになっている。」との記載があるから、補正事項1についての補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものである。
(b)補正事項2について
補正事項2についての補正は、補正事項1についての補正に伴い、記載順序を変更したものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
(c)補正事項3について
補正事項3についての補正は、特許請求の範囲についての補正に伴い、明細書の対応する記載を整合させるためのものであり、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものである。

したがって、補正事項1及び2についての補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とし、同法同条第3項の規定に適合する。

ここで、補正事項1及び2についての補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たし、かつ同法同条第4項第2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものであるから、本件補正について、同法同条第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて更に検討する。

(3-2)独立特許要件の検討
(3-2-1)本願の請求項3に記載された発明
補正後の請求項1及び請求項3は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
発熱体と、
前記発熱体を覆う筒状の断熱壁と、
前記断熱壁の外周側に設けられた第1筒体と、
前記第1筒体の外周外方に配置されて当該ヒータの外皮を構成する第2筒体とを備えた熱処理炉用ヒータであって、
前記断熱層は、所定温度以下の使用温度では前記発熱体の輻射熱を効果的に遮断するように厚さが決定されたものであり、
前記第2筒体は、熱処理炉の使用温度が前記所定温度を超える場合に前記第1筒体から外側に熱が伝わるのを防ぐ真空断熱層を、前記第1筒体との間で形成するものであることを特徴とする熱処理炉用ヒータ。」
「【請求項3】
前記第1及び第2筒体の間に常設された前記真空断熱層を具備することを特徴とする請求項1記載の熱処理炉用ヒータ。」
ここで、補正後の請求項1の「前記断熱層」は、「前記断熱壁」の誤記と認められるから、補正後の請求項3に係る発明は、以下のとおりのものである。
「【請求項3】
発熱体と、
前記発熱体を覆う筒状の断熱壁と、
前記断熱壁の外周側に設けられた第1筒体と、
前記第1筒体の外周外方に配置されて当該ヒータの外皮を構成する第2筒体とを備えた熱処理炉用ヒータであって、
前記断熱壁は、所定温度以下の使用温度では前記発熱体の輻射熱を効果的に遮断するように厚さが決定されたものであり、
前記第2筒体は、熱処理炉の使用温度が前記所定温度を超える場合に前記第1筒体から外側に熱が伝わるのを防ぐ真空断熱層を、前記第1筒体との間で形成するものであり、
前記第1及び第2筒体の間に常設された前記真空断熱層を具備することを特徴とする熱処理炉用ヒータ。」

(3-2-2)刊行物に記載された発明
刊行物1. 特開平1-300517号公報
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に日本国内において頒布された特開平1-300517号公報には、「加熱装置」(発明の名称)に関して、第1図及び第5図とともに、以下の事項が記載されている。
「(作 用)
発熱体からの熱を保温する保温材層の間に空間層を設ける為保温効果の比較的優れている流体例えば空気を空間層に例えば密封した容器又は開放状態あるいは空間層を真空にした容器で断熱材とし、見掛上熱容量を大きくし、加熱装置の温度特性を改善すると同時に、密封された容器内で加熱装置の加熱時、加熱された高温の上記空気を温度の低い新らしい空気で必要に応じて置換し又降温を所望する時には冷却機能をもった空気を流入流通させることにより加熱装置の降温特性を改善することもできるものである。
(実施例)
以下、本発明装置を半導体加熱装置に適用した一実施例につき、図面を参照して説明する。
第1図は加熱装置の基本的な構成を示す図である。即ち半導体加熱装置は円筒状例えば高純度炭化珪素からなる均熱管もしくは石英製プロセスチューブ(3)とが設けられ、この均熱管もしくはプロセスチューブ(3)を囲繞する如くカンタル線(商品名)を巻いた抵抗加熱ヒーターからなる円筒状発熱体(1)が設けられ、この発熱体(1)を囲繞する如く外周に例えばセラミック系材料からなる円筒状第1の保温材層(2a)が設けられ、この保温材層(2a)を同心円状に囲繞する如く円筒上空間層例えばアルミナ磁器製の空洞をもち、空洞内流体の置換及び封じ込め、あるいは真空状態を保持可能なごとく保温冷却器(5)が設けられている。
この保温冷却器(5)を囲繞する如く上記保温材層(2a)と同種又は異種材料からなる保温材層(2b)で全体を保温する構成とし、保温材層(2b)の外側を例えばステンレス製のカバー(6)で覆うがごとく構成されている。また上記保温冷却器(5)は複数個の流体取り入れ口(7)を具備し、その反対側には複数個の流体取り出し口(8)を有し、図示しない流体制御装置に接続されている。そこで、加熱装置本来の目的で使用の時は図示しない流体制御装置等により、保温冷却器(5)の流体取り入れ口(7)及び流体取り出し口(8)を開閉制御し、流体例えば、熱伝導率の比較的小さい空気を封じ込み断熱層とする。そして所定の温度特性を達成できる様に保温冷却器(5)の形状、寸法、材質及び封じ込める流体の比熱を決定できる。
前記の如く、一般には断熱効果をよりよくすると、加熱装置の温度特性のうち均熱長Lの改善をすることができるが、その反面装置全体の熱容量が増大し、例えば降温速度を大きくすること、言い換えると温度を早く下げる様な装置の過渡特性が悪くなる。しかし降温時は保温冷却器(5)の空洞内に封じ込められた高温の流体例えば高温の空気を流体取り入れ口(7)及び流体取り出し口(8)を開閉制御し、低温の流体例えば常温の空気と置換してやることにより、また急速冷却などの場合には冷却した流体例えば冷却空気と置換することにより希望する冷却速度で、加熱装置の降温サイタルを制御することが可能であり、従来あい矛盾する二つの特性改善をするものである。」(第3頁左上欄第10行ないし右下欄第6行)
「実施例-4(材質及び形状に関連して)
第5図は縦型加熱装置用の一体型保温冷却器の斜視図である。円筒形の二つの主面、即ち、外囲円管壁(10)と内囲円管壁(11)で包まれた空洞(12)が気密に保持される如く構成され、例えば、空気層が一つの断熱層を形成し、保温効果を助長し、加熱装置の温度特性である静特性の改善に効力を発揮し、その空洞(12)の一部に設置された流体取入れ口(7)及び流体取り出し口(8)により、加熱装置の降温には、より低温の流体を挿入置換することにより、効果的な降温特性を出すのに有効に作用する。次に材質に関しては、例えば、1200℃の如き高温用に関しては、アルミナ磁器を使用すると、耐熱性等に優れ良好である。アルミナ材は比較的熱伝導率が大きいので内囲円筒壁(11)の温度が側壁内の熱伝導により均一化の方向に作用するのみならず、空洞(12)内の気密流体、例えば空気の場合、内囲円筒壁(11)からの輻射熱により加熱され、空洞(12)内で対流が起こり、内囲円筒壁(11)面の温度分布をより均一化させる方向に作用する。-方、低温用、例えば700℃程度の用途に関してはステンレスを応用できる。形状的には第5図に示すものと同等でよいが、アルミナ磁器等の焼物と比較し、寸法精度も良く、精密な温度冷却器となる。その効果はアルミナ磁器と同じであるが、ステンレスの如き金属の場合は、特に気密性も優れた容器を制作可能なことにより、ステンレス魔法ビンに類似な、保温冷却器を準備できる。即ち、予めステンレス板の片面を鏡面研磨を施したものを用意し、通常使用されている加工方法により、鏡面を、容器内面にして第5図に示す如き容器を作る。半導体プロセスで低温仕様の加熱装置では、そのシステム中に真空系が具備されている場合が多い。そこで加熱装置を温度上昇させる時、容器空洞(12)内を真空に保つことは容易である。材料を、例えばアルミナの如き焼物を採用した場合は、容器の内囲円筒壁(11)から外囲円筒壁(10)への熱移動は、容器空洞(12)内の流体分子の内囲円筒壁(11)への衝突時に起こる熱の授受と輻射熱により内囲円筒壁(11)から外囲円筒壁(10)への熱移が起こる。しかし、空洞(12)内を真空に保持すると、熱の移動は輻射熱のみに限られ、保温効果はより改善される。降温時は、真空を昇圧し常気圧に一度戻すこと以外は、前記のものと同一で要求を満足できる。輻射熱の反射効果を保持するためには内面の酸化防止の目的で不活性気体を、冷却流体に使用することが望ましい。尚、輻射熱による壁面温度上昇をより効果的にする為少なくとも外囲円筒(10)内面に金鍍金層を付けることもできる。」(第5頁左上欄第12行ないし左下欄第20行)
「これら加熱装置は熱処理装置、酸化装置、拡散装置、CVD装置、エピタキシャル成長装置などの半導体加熱装置の炉に適用して特に有効である。」(第6頁左上欄第16行ないし第19行)

よって、刊行物1には、以下の発明が記載されている。
「発熱体(1)と、
発熱体(1)を囲繞する如く外周に設けられた円筒状第1の保温材層(2a)と、
第1の保温材層(2a)を同心円状に囲繞する内囲円管壁(11)と、
内囲円管壁(11)と空洞(12)を形成する外囲円管壁(10)とを備えた加熱装置であって、
外囲円管壁(10)は、真空に保持した容器空洞(12)を内囲円管壁(11)との間で形成するものである加熱装置。」

刊行物2.特開平10-242066号公報
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された特開平10-242066号公報には、「反応容器」(発明の名称)に関して、図1とともに以下の事項が記載されている。
「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、内部を真空状態にする石英製反応容器において、大気圧を受ける壁部を複数層構造として、前記壁部の層間に、大気圧より低い所定の圧力のガスを密閉した構造としたことを特徴とする反応容器が提供される。
【0009】このようにすれば、外側の大気圧と内側の真空との間にその中間の圧力の層が形成されるので、壁部の各層の厚みを薄くしても大気圧に耐えることができるようになる。このように壁部の板厚を薄くできれば、溶接加工で歪が発生することが抑制され、また、加工後のアニールによって溶接歪が除去されやすくなる。その結果、製作時および使用時において歪による破損の心配が無くなり、安全性が向上する。
【0010】また、反応容器内の処理物を加熱して使用する場合は、従来、壁部より外側の大気へ熱が逃げていたが、壁部に大気圧より低い圧力の雰囲気の領域を形成するため、これが断熱効果を奏し、内側より外側への熱の逃げが減少し、反応容器内の温度分布特性が向上し、反応容器への反応副生成物の付着を抑制することができる。」

(3-2-3)対比・判断
平成17年12月28日付けで補正された請求項3に係る発明(以下、「補正発明」という。)と刊行物1に記載された発明(以下、「刊行物発明」という。)とを対比検討する。

(a)刊行物発明の「第1の保温材層(2a)」は、保温効果を備えるものであることは明らかであり、発熱体(1)を囲繞する如く外周に設けられた円筒状のものであるから、補正発明の「筒状の断熱壁」に相当する。
(b)刊行物発明の「内囲円管壁(11)」、「外囲円管壁(10)」は、円管であり、筒状のものであることは明らかであるから、それぞれ補正発明の「第1筒体」、「第2筒体」に相当する。
(c)刊行物発明の「真空に保持された容器空洞(12)」は、「内囲円管壁(11)」と「外囲円管壁(10)」との間に形され、「空間層を真空にした容器で断熱材」(第3頁左上欄第14行)とするものであるから、補正発明の「前記第1筒体から外側に熱が伝わるのを防ぐ真空断熱層」に相当する。
(d)刊行物発明の「加熱装置」は、「熱処理装置、酸化装置、拡散装置、CVD装置、エピタキシャル成長装置などの半導体加熱装置の炉に適用」(第6頁左上欄第17行ないし第19行)するものであって、「発熱体(1)」を包含するものであるから、補正発明の「熱処理炉用ヒータ」に相当する。
したがって、補正発明と刊行物発明とは、
「発熱体と、
前記発熱体を覆う筒状の断熱壁と、
前記断熱壁の外周側に設けられた第1筒体と、
前記第1筒体の外周外方に配置された第2筒体とを備えた熱処理炉用ヒータであって、前記第2筒体は、前記第1筒体から外側に熱が伝わるのを防ぐ真空断熱層を、前記第1筒体との間で形成するものであることを特徴とする熱処理炉用ヒータ」である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点1
補正発明は、「前記第1筒体の外周外方に配置されて当該ヒータの外皮を構成する第2筒体」を備えているのに対して、刊行物発明は、「内囲円管壁(11)」の周囲を囲む「外囲円管壁(10)」を備えているものの、「外囲円管壁(10)」はヒータの外皮ではない点。
相違点2
補正発明の「断熱壁は、所定温度以下の使用温度では前記発熱体の輻射熱を効果的に遮断するように厚さが決定されたものであ」るのに対して、刊行物発明の「第1の保温材(2a)」は、その厚さが明らかでない点。
相違点3
補正発明の「第2筒体は、熱処理炉の使用温度が前記所定温度を超える場合に前記第1筒体から外側に熱が伝わるのを防ぐ真空断熱層を、前記第1筒体との間で形成するもの」であるのに対して、刊行物発明の「外囲円管壁(10)」は、真空からなる容器空洞(12)を「内囲円管壁(11)」との間で形成するものの、使用温度が所定温度を越える場合に真空からなる容器空洞を形成することが明らかでない点。
相違点4
補正発明は、「前記第1及び第2筒体の間に常設された前記真空断熱層を具備する」のに対して、刊行物発明は、真空からなる容器空洞(12)を備えているものの、常設されたものではない点。

以下、各相違点について検討する。
相違点1について
熱処理装置等の加熱装置において、真空断熱層を形成する外側の壁をヒータの外皮とすることは、例えば、特開平6-168899号公報(「【0015】図1に示すヒータユニット7は、図2で示した従来のヒータユニット1と同様天井付円筒型ヒータユニットであり、該ヒータユニットの外壁となる部分は、内部が真空断熱層8となる円筒容器9になっており、該円筒容器9の内側は後述する発熱体10、電気絶縁体11、発熱体支持器12で構成される発熱部を具備している。」を参照)、及び特開平7-283160号公報(「【0014】前記発熱体5の周囲には、これを取り囲むように発熱体5と気密な空間を介して例えばタングステン等の金属板からなる熱輻射板6が設けられている。この例においては5枚の円筒状の第1?第5の熱輻射板61?65が発熱体5側から同心円状に互いに気密な空間を介して設けられており、第5の熱輻射板65の外側には、例えばアルミニウムやステンレスからなり、冷却手段例えば冷却水路を備えた外装体71が設けられている。外装体71には熱輻射板6間に形成された気密な空間に開口するように第2の排気管72が接続されており、さらにこの排気管72はバルブV1を介して例えば真空ポンプからなる減圧手段73に接続され、またバルブV2を介して外部に開口するかあるいは不活性ガス源に接続されている。ここで発熱体5と熱輻射板6との間に気密な空間が介在するとは、この例では各熱輻射板61?65が設けられている空間が外装体71により機密な空間とされていることであり、各熱輻射板61?65の上部には連通孔60が形成されていて、前記減圧手段により発熱体5と第1の熱輻射板61との間、及び各熱輻射板61?65との間の各空間が減圧できるように構成されている。」を参照)に記載されているように、従来周知の技術にすぎないから、刊行物発明において、当該従来周知の技術を採用することにより、補正発明の如く「前記第1筒体の外周外方に配置されて当該ヒータの外皮を構成する第2筒体」を備えることは当業者が容易になし得たものである。
なお、請求人は、平成20年3月17日付回答書において、要するに、熱処理炉において、断熱体等の断熱手段は、全体として所定の断熱性能を発揮するように設計されるものであり、周知文献1等(特開平7-283160号公報および特開平6-168899号公報)から認定されるべき周知技術は、発熱体の周囲に断熱体を設けずに真空断熱層のみで断熱手段を構成することであって、引用文献1(本審決における「刊行物1」)のように空間層は必ず保温材層に包囲されるという技術思想があるものに対して、周知文献1等から認定されるべき周知技術を適用することはできない旨主張している。
しかしながら、請求人の主張しているように、熱処理炉における断熱手段は全体として所定の断熱性能を発揮するように設計されるものではあるが、当業者が求める断熱性能を達成するものであれば、断熱手段の構成全体をどのようにするかは当業者が適宜設計しうる程度のものである。このことは、刊行物1及び周知文献1等にあるように、断熱手段が、保温材層のみ、真空断熱層のみ、保温材層及び真空断熱層の組み合わせから構成されるように様々な態様を取りうることからも明らかである。そして、刊行物1には、確かに保温材層を外囲円管壁の外側に設けることが示されているが、開示される目的の1つは加熱装置の温度特性のうち静特性を改善することであり、このような目的の下では最外層が保温材層でなければならないという理由はないから、求める断熱特性に応じて、断熱手段の構成を変えることは、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内でしかなく、保温材層と真空断熱層のどちらを最外層として組み合わせるかは、当業者が適宜選択しうる設計的事項にすぎないものである。そして、周知文献1等には、真空断熱層を構成するための部材がヒータの外皮となることが示されていることに変わりはないから、刊行物発明において、外囲円管壁の外側に保温材層を設けずに、ヒータの外皮とすることは当業者が容易になし得たものである。よって、請求人の主張は採用しない。

相違点2ないし相違点4について
まず、相違点3及び相違点4について検討した後、相違点2について検討する。
(a)相違点3及び相違点4について
補正発明は、「第2筒体は、熱処理炉の使用温度が前記所定温度を超える場合に前記第1筒体から外側に熱が伝わるのを防ぐ真空断熱層を、前記第1筒体との間で形成するもの」との構成を備えるものであり、熱処理炉の使用温度が前記所定温度を超える場合について、第1筒体から外側に熱が伝わるのを防ぐ真空断熱層を形成することが理解できるが、この相違点3についての構成から、熱処理炉の使用温度が前記所定温度以下の場合について、真空断熱層を形成するか否かは不明である。しかしながら、相違点4に関する構成では、「前記真空断熱層」は常設されたものであるから、補正発明の「熱処理炉用ヒータ」は、ものの構成としては、熱処理炉の使用温度が所定温度を超えるか否かに関係なく、「真空断熱層」を常に備えているものであって、熱処理炉の使用温度範囲においては、「真空断熱層」は、第1筒体から外側に熱が伝わるのを防ぐ機能を有しているものであることが理解できる。
そこで、相違点3及び相違点4について検討する。
刊行物2には、「本発明によれば、内部を真空状態にする石英製反応容器において、大気圧を受ける壁部を複数層構造として、前記壁部の層間に、大気圧より低い所定の圧力のガスを密閉した構造としたことを特徴とする反応容器が提供される。」(【0008】)、「反応容器内の処理物を加熱して使用する場合は、従来、壁部より外側の大気へ熱が逃げていたが、壁部に大気圧より低い圧力の雰囲気の領域を形成するため、これが断熱効果を奏し、内側より外側への熱の逃げが減少し、反応容器内の温度分布特性が向上し、反応容器への反応副生成物の付着を抑制することができる。」(【0010】)との記載があるから、反応容器において、大気圧を受ける壁部を複数層構造として、前記壁部の層間に、大気圧より低い所定の圧力のガスを密閉した構造とすること、つまり、真空層を常設することが示されており、しかも、この真空層は、断熱効果を奏するものであるから、刊行物2には、真空断熱層を常設する技術が開示されていることになる。
一方、刊行物1には、「発熱体からの熱を保温する保温材層の間に空間層を設ける為保温効果の比較的優れている流体例えば空気を空間層に例えば密封した容器又は開放状態あるいは空間層を真空にした容器で断熱材とし、見掛上熱容量を大きくし、加熱装置の温度特性を改善する」(第3頁左上欄第11行ないし第16行)ことが記載されており、空間層を真空にした容器を断熱材として用いることで、加熱装置の温度特性を改善できることが示されている。そして、この加熱装置の温度特性の改善は、加熱装置を使用するときの断熱性に着目していることは明らかである。
そうすると、刊行物1には、加熱装置の温度特性である静特性の他に、動特性の改善をも目的とすることが示されているものの、加熱装置の使用時の静特性を重視して、刊行物発明において、刊行物2に開示された、真空断熱層を常設する技術を適用することにより、真空を保持した容器空洞12を常設したものとすることは当業者が容易になし得たものである。

(b)相違点2について
本願明細書には、「【0009】・・・また、断熱壁2では、熱処理炉の使用温度が所定温度、例えば600℃以下である場合に上記発熱体1の輻射熱を効果的に遮断するように、厚さ寸法等が決定されており、上記所定温度以下での熱処理を効率よく行えるようになっている。」「【0011】・・・制御部11は、上記熱処理炉の使用温度に基づいて、真空ポンプ10を動作させるものであり、熱処理炉の使用温度が上記所定温度を超える場合に第1筒体3から外側に熱が伝わるのを防ぐ真空断熱層12を、第1及び第2筒体3,4の間に形成する。尚、第2筒体4の下端部4cには、給気口13が気密に取付けられており、真空断熱層12が不要である場合、つまり熱処理炉の使用温度が所定温度以下である場合に、第1及び第2筒体3,4の間に空気を供給して断熱層12を解消する。・・・
【0012】以上のように構成された本実施形態のヒータでは、熱処理炉の使用温度が所定温度を超える場合、上記真空断熱層12を第1及び第2筒体3,4の間に形成するので、熱処理炉の使用温度が高い場合でも、発熱体1の輻射熱が当該ヒータの外部に熱放散されるのを確実に防止することができる。その結果、上記従来例と異なり、熱処理炉の使用温度が高い場合でも、発熱体1への供給電流を必要以上に増やすことなく効率よく被処理物を加熱することができ、発熱体1の電力消費量が増加するのを防止することができる。
【0013】また、本実施形態では、制御部11が熱処理炉の使用温度に基づき真空ポンプ10を動作させ真空断熱層12を形成するので、使用温度が変更されたときでもその変更に容易に対処し発熱体1への供給電流が必要以上に増加するのを防ぐことができる。しかも、熱処理炉の使用温度が所定温度を超える場合で上記真空断熱層12による断熱効果を必要とする場合にのみ、制御部11は真空ポンプ10を動作させるので、当該ポンプ10の消費電力量を最低限に抑えることができる。」という記載があることから、相違点2に関する構成について、その技術的意義は、熱処理炉の使用温度が所定温度を超える場合にのみ真空断熱層を形成し、所定温度以下であれば断熱壁のみで効率的に熱処理が行え、真空ポンプの消費電力量を最低限に抑えることができるというものと認められる。
しかしながら、請求項3に係る発明は、真空断熱層を常設するものであって、使用温度が所定温度を超えるか否かということと真空断熱層を形成するか否かということとは関係がないものであるから、請求項3に係る発明において、「断熱壁は、所定温度以下の使用温度では前記発熱体の輻射熱を効果的に遮断するように厚さが決定されたもの」であることは、本願明細書の上記摘示箇所に開示される作用効果とは無関係であり、また、本願明細書の他の部分には、特段の作用効果を奏するような膜厚であることの開示はないから、単にそのような膜厚に設定した程度のものでしかない。
そして、上記(a)において検討したとおり、刊行物発明において、刊行物2に開示された、真空断熱層を常設する技術を適用することにより、真空を保持した容器空洞12を常設したものとすることは当業者が容易になし得たものであり、その場合において、本願明細書には、補正発明の「断熱壁」の厚さに関して技術的意義は何ら開示されていないから、刊行物発明において、保温材層の厚みをどの程度とするかは、保温材層及び真空に保持された容器空洞の両方の構成を併せた全体の構成としての断熱性が十分なものであるように考慮した上で、当業者が適宜なし得た設計事項にすぎず、刊行物発明において、保温材層の厚みを所定温度以下の使用温度で発熱体の輻射熱を効果的に遮断するように決定することは当業者が適宜選択し得た程度のものである。

よって、補正発明は、刊行物1及び2に記載された発明及び従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(3-3)小むすび
よって、補正発明を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであり、適法でない補正を含む本件補正は、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成17年12月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成17年9月20日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであり、そのうちの請求項3に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、請求項3が引用する請求項1及び請求項3に記載されている事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項3】発熱体と、
前記発熱体を覆う筒状の断熱壁と、
前記断熱壁の外周側に設けられた第1筒体とを有する熱処理炉用ヒータであって、
前記第1筒体の外周外方に配置されて前記ヒータの外皮を構成するとともに、熱処理炉の使用温度が所定温度を超える場合に前記第1筒体から外側に熱が伝わるのを防ぐ真空断熱層を、前記第1筒体との間で形成する第2筒体とを備え、
前記第1及び第2筒体の間に常設された前記真空断熱層を具備することを特徴とする熱処理炉用ヒータ。」

4.刊行物記載の発明
刊行物1及び刊行物2には、上記2.「(3-2-2)刊行物に記載された発明」の「刊行物1.」及び「刊行物2.」に記載されるとおりの事項が記載され、刊行物1には、以下の発明が記載されている。
「発熱体(1)と、
発熱体(1)を囲繞する如く外周に設けられた円筒状第1の保温材層(2a)と、
第1の保温材層(2a)を同心円状に囲繞する内囲円管壁(11)と、
内囲円管壁(11)と空洞(12)を形成する外囲円管壁(10)とを備えた加熱装置であって、
外囲円管壁(10)は、真空に保持した容器空洞(12)を内囲円管壁(11)との間で形成するものである加熱装置。」

5.対比・判断
本願発明と刊行物発明とを対比検討する。
(a)刊行物発明の「第1の保温材層(2a)」は、保温効果を備えるものであることは明らかであり、発熱体(1)を囲繞する如く外周に設けられた円筒状のものであるから、本願発明の「筒状の断熱壁」に相当する。
(b)刊行物発明の「内囲円管壁(11)」、「外囲円管壁(10)」は、円管であり、筒状のものであることは明らかであるから、それぞれ本願発明の「第1筒体」、「第2筒体」に相当する。
(c)刊行物発明の「真空に保持された容器空洞(12)」は、「内囲円管壁(11)」と「外囲円管壁(10)」との間に掲載され、「空間層を真空にした容器で断熱材」(第3頁左上欄第14行)とするものであるから、本願発明の「前記第1筒体から外側に熱が伝わるのを防ぐ真空断熱層」に相当する。
(d)刊行物発明の「加熱装置」は、「熱処理装置、酸化装置、拡散装置、CVD装置、エピタキシャル成長装置などの半導体加熱装置の炉に適用」(第6頁左上欄第17行ないし第19行)するものであって、「発熱体(1)」を包含するものであるから、本願発明の「熱処理炉用ヒータ」に相当する。
したがって、本願発明と刊行物発明とは、
「発熱体と、
前記発熱体を覆う筒状の断熱壁と、
前記断熱壁の外周側に設けられた第1筒体とを有する熱処理炉用ヒータであって、
前記第1筒体の外周外方に配置された第2筒体とを備えたことを特徴とする熱処理炉用ヒータ。」である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点5
本願発明は、「第2の筒体」が、「前記第1筒体の外周外方に配置されて当該ヒータの外皮を構成」しているのに対して、刊行物発明は、「内囲円管壁(11)」の周囲を囲む「外囲円管壁(10)」を備えているものの、「外囲円管壁(10)」はヒータの外皮ではない点。
相違点6
本願発明の「第2筒体」は、「熱処理炉の使用温度が前記所定温度を超える場合に前記第1筒体から外側に熱が伝わるのを防ぐ真空断熱層を、前記第1筒体との間で形成する」ものであるのに対して、刊行物発明の「外囲円管壁(10)」は、真空からなる容器空洞(12)を「内囲円管壁(11)」との間で形成するものであって、使用温度が所定温度を越える場合に真空からなる容器空洞を形成することが明らかでない点。
相違点7
本願発明は、「前記第1及び第2筒体の間に常設された前記真空断熱層を具備する」のに対して、刊行物発明は、真空からなる容器空洞(12)は常設されたものではない点。

以下、各相違点について検討する。
相違点5について
上記2.「(3-2-3)対比・判断」「相違点1について」において検討したと同様に、熱処理装置等の加熱装置において、真空断熱層を形成する外側の壁をヒータの外皮とすることは、従来周知の技術にすぎないものであるから、刊行物発明において、当該従来周知の技術を採用することにより、本願発明の如く「前記第1筒体の外周外方に配置されて前記ヒータの外皮を構成する」「第2筒体」を備えることは当業者が容易になし得たものである。

相違点6及び相違点7について
本願発明は、「熱処理炉の使用温度が所定温度を超える場合に前記第1筒体から外側に熱が伝わるのを防ぐ真空断熱層を、前記第1筒体との間で形成する第2筒体」との構成を備えるものであり、熱処理炉の使用温度が前記所定温度を超える場合について、第1筒体から外側に熱が伝わるのを防ぐ真空断熱層形成することが理解できるが、この相違点6についての構成から、熱処理炉の使用温度が前記所定温度以下の場合について、真空断熱層を形成するか否かは不明である。しかしながら、相違点7に関する構成では、「前記真空断熱層」は常設されたものであるから、本願発明の「熱処理炉用ヒータ」は、ものの構成としては、熱処理炉の使用温度が所定温度を超えるか否かに関係なく、「真空断熱層」を常に備えているものであって、熱処理炉の使用温度範囲においては、「真空断熱層」は、第1筒体から外側に熱が伝わるのを防ぐ機能を有しているものであることが理解できる。
そこで、相違点6及び7について検討する。
上記2.「(3-2-3)対比・判断」「(a)相違点3及び相違点4について」において検討したと同様に、刊行物2には、真空断熱層を常設する技術が開示されており、一方、刊行物1には、「発熱体からの熱を保温する保温材層の間に空間層を設ける為保温効果の比較的優れている流体例えば空気を空間層に例えば密封した容器又は開放状態あるいは空間層を真空にした容器で断熱材とし、見掛上熱容量を大きくし、加熱装置の温度特性を改善する」(第3頁左上欄第11行ないし第16行)ことが記載されており、空間層を真空にした容器を断熱材として用いることで、加熱装置の温度特性を改善できることが示されている。そして、この加熱装置の温度特性の改善は、加熱装置を使用するときの断熱性に着目していることは明らかである。
そうすると、刊行物1には、加熱装置の温度特性である静特性の他に、動特性の改善をも目的とすることが示されているものの、加熱装置の使用時の静特性を重視して、刊行物発明において、刊行物2に開示された、真空断熱層を常設する技術を適用し、真空を保持した容器空洞12を常設したものとすることにより、本願発明の如く「熱処理炉の使用温度が所定温度を超える場合に前記第1筒体から外側に熱が伝わるのを防ぐ真空断熱層を、前記第1筒体との間で形成する第2筒体とを備え、 前記第1及び第2筒体の間に常設された前記真空断熱層を具備する」構成とすることは当業者が容易になし得たものである。

よって、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明及び従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願は、請求項1及び2に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-14 
結審通知日 2008-05-20 
審決日 2008-06-04 
出願番号 特願2001-394423(P2001-394423)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 恩田 春香小出 輝  
特許庁審判長 河合 章
特許庁審判官 井原 純
橋本 武
発明の名称 熱処理炉用ヒータ  
代理人 渡邊 隆文  

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