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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09C
管理番号 1183703
審判番号 不服2006-10505  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-05-22 
確定日 2008-08-01 
事件の表示 平成9年特許願第508912号「二酸化チタン顔料の加水分解的製造法」拒絶査定不服審判事件〔平成9年2月27日国際公開、WO97/07058、平成11年11月9日国内公表、特表平11-513054〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1996年8月8日を国際出願日とする出願(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 1995年8月19日(DE)ドイツ連邦共和国)であって、平成18年2月9日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年5月22日に拒絶査定に対する審判が請求され、その後、同年6月20日付けで手続補正がされたが、該補正は、平成19年2月27日付け補正の却下の決定により却下され、そして、同日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、請求人から同年8月28日付け意見書、同年10月12日付け上申書、及び同月26日付け上申書が提出されたものである。

2.本願発明
上記のように、平成18年6月20日付けの手続補正は却下されたので、本願発明は、平成17年12月21日付けの手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」ともいう。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1、2の記載は以下のとおりである。

「1.加水分解可能なチタン化合物を強力な撹拌下に、0?100℃で、かつPH値を3?5の範囲に調節し、かつこのPH値を0.3単位の範囲内で一定に保持して、完全に加水分解することにより得られる、二酸化チタン顔料。
2.加水分解可能なチタン化合物を強力な撹拌下に、かつPH値を3?5の範囲に調節し、かつこのPH値を0.3単位の範囲内で一定に保持して、0?100℃で完全に加水分解することを特徴とする、請求項1記載の二酸化チタン顔料の製法。」
(以下、上記請求項1、2に係る発明をそれぞれ「本願発明1」、「本願発明2」ともいう。)

3.平成19年2月27日付けの拒絶理由
当審で通知した平成19年2月27日付けの拒絶理由は、
(理由A’)本願発明1、2は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が、本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、及び
(理由B’)本願は、明細書の記載に不備があるから、(i)平成14年改正前特許法第36条第6項第1号及び(ii)同条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、
という理由を含むものである。
そして、上記(理由A’)について、刊行物として特開昭50-1098号公((以下、「刊行物1」という。)が引用され、
上記(理由B’)の(i)平成14年改正前特許法第36条第6項第1号に係る理由について、「加水分解可能なチタン化合物から加水分解により二酸化チタンを製造する方法においては、通常、水酸化チタンあるいは酸化チタン水和物等を経て、さらに、pHをアルカリ性側に調整して沈殿物を得、その後焼成することにより目的物を得ているものであるが、本願発明の実施例1、2では、(a)四塩化チタン及び水酸化ナトリウムをpH3で撹拌下、水に添加する工程、(b)引き続き撹拌下水酸化ナトリウム溶液を添加してpH8に調節する工程、(c)濾別・洗浄する工程、(d)100℃/0ミリバール(審決注:100℃/20ミリバールの誤記と認められる。)で乾燥させる工程(以下、これらの工程をそれぞれ、「(a)工程」、「(b)工程」、「(c)工程」、「(d)工程」ともいう。)、の組合せにより平均粒度5nm及び比表面積253m^(2)/g(審決注:実施例2は、比表面積286m^(2)/g)の二酸化チタン顔料を製造しているように、沈殿物を得た後、焼成工程を行なうことなく、比較的温和な条件の乾燥工程で二酸化チタン顔料を得ているものである。他の実施例についても調整するpH値に違いはあるものの、同様に(a)?(d)の工程によるものである。発明の詳細な説明には他に(a)工程のみで二酸化チタン顔料を製造する方法について記載はない。
一方、請求項1に係る発明は、それらの工程のうち(a)工程に該当する工程で特定された製造方法により得られた二酸化チタン顔料に係る発明であるから、発明の詳細な説明に記載したものであるとすることはできない。
請求項2の二酸化チタン顔料の製造方法に係る発明についても同様である 。」を含む理由が示され、
また、上記(理由B’)の(ii)平成14年改正前特許法第36条第6項第2号に係る理由について、「請求項1に「PH値を0.3単位の範囲内で一定に保持」とあるが、どのようなpH範囲で一定であるのか不明瞭である。すなわち、例えばpH4についていえば、pH4を含む最大pHと最小pHの差が0.3以内に保持することか(例.pH3.9?4.2)、pH4±0.3(すなわち、pH3.7?4.3)にすることか、pH4±0.15(すなわち、pH3.85?4.15)にすることか、それともそれ以外の範囲にすることか不明であり、さらに、「0.3単位」とあるが、0.3単位が何単位あるのか、又は1単位がいくつであるのか不明である(それが2単位だと0.6の幅を許容することとなるのか、又は1単位が1以外のものであるのか、等)。他の請求項の同じ表現についても同様である。(なお、水素イオン濃度の記号は「pH」と表記すべきものと思われる。)」、及び
「請求項1に「強力な撹拌下」とあるが、その程度が不明である。例えば、回転翼による撹拌であれば回転翼の回転速度が何回転以上であるのか、それとも、剪断速度による規定か、撹拌翼の振動による場合であればどの程度の振動であるのか、気体の噴流による撹拌であれば噴出速度、噴出断面積がどの程度のものか不明であり、さらに、それらの撹拌方法のうちのいずれかについて規定しているのかということ自体不明である。」を含む理由が示された。

4.当審の判断
(1)(理由B’)の(ii)平成14年改正前特許法第36条第6項第2号に係る理由について
まず、請求項1の記載(本願発明1)が明確であるか否かを検討する。
(1-1)(理由B’)の(ii)に係る、「PH値を0.3単位の範囲内で一定に保持」とあるが、どのようなpH範囲で一定であるのか不明瞭である。」旨の拒絶理由について
この拒絶理由に対して、請求人は、平成19年8月28日付け意見書の(2)において「(2)「pH値を0.3単位の範囲内で一定に保持する」の「単位」につきましては、指摘事項3 (4) あ で指摘された可能性の中で、pH4についていえば、pH4±0.3(すなわち、pH3.7?4.3)を意味します。」と述べ、さらに、平成19年10月12日付け上申書の(4)において「(4)(36条6項2号について)
あ 0.3単位だけのpH-値-変動について
出願当初明細書の第3頁21?25行には、0.3単位の変動が、最小および最大の値に基づいている、すなわち、見捨ててはいけない0.3pH-値-単位の絶対範囲であることがまさに明らかに記載されています(「本発明により、加水分解の間、ガラス電極で測定して、pH値をpH3?8、特に3?5に保持し、この際本発明において加水分解反応の間、最高値および最低値に関して最高でも、0.3、有利に0.2単位の範囲内で変動するべきである。」)。従って、当業者であれば、何がpH-値-単位であり、かつ0.3単位が任意の方向の0.3だけのpH-値の変化を意味することが理解できます。」と述べている。
これを検討するに、上記「この際本発明において加水分解反応の間、最高値および最低値に関して最高でも、0.3、有利に0.2単位の範囲内で変動するべきである。」なる記載からみて、「PH値を0.3単位の範囲内で一定に保持」は、あるpH値の変動において、それより大きい値の上限(最高値)、または小さい値の下限(最低値)を0.3単位の範囲内でのpH値の変動に保持すること、すなわち、「あるpH値を±0.3のpH値の範囲内で一定に保持」を意味すると矛盾なく理解できる。
(1-2)(理由B’)の(ii)に係る、「「強力な撹拌下」とあるが、その程度や方法が不明である。」旨の拒絶理由ついて
これについて、請求人は、平成19年10月12日付け上申書の(4)において「(4)(36条6項2号について)・・・
い 「強力な撹拌」の定義については、発明の詳細な説明に記載されておりません。しかしながら、これは発明に本質的な特徴ではありません。」と述べている。
これを検討するに、本願明細書には、「強力な撹拌」の定義についてなんら記載されていないが、本願明細書全体の記載からみて、「強力な撹拌」は、特別なものではなく、各反応原料の接触を良好にするために通常当業者が行う程度のものと認められ、その攪拌方法や程度によって、得られる反応生成物の特性が変化するものとも認められないので、請求項1に、「強力な撹拌」の程度や攪拌の方法が記載されていないことが、ただちに、平成14年改正前特許法第36条第6項2第の規定を満たさないというものではない。(1-3)小括
以上のとおりであるから、請求項1の記載に関して、平成14年改正前特許法第36条第6項第2号違反は認められず、本願発明1は明確である。そして、同様の理由により、本願発明2も明確である。

(2)(理由B’)の(i)平成14年改正前特許法第36条第6項第1号に係る理由について、
(2-1)(理由B’)の(i)に係る、「請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとすることはできない。請求項2の二酸化チタン顔料の製造方法に係る発明についても同様である。」旨の拒絶理由について
この拒絶理由に対して、請求人は、「形成されたTiO_(2)は、pH3で定量的に沈殿するものであり、pH-値-増大の工程は単に方法の促進に役立つに過ぎないものであり、かつ発明に本質的なものではありません。本願発明の所望の生成物特性は、工程b)?d)の前に既に存在しています。」(平成19年10月12日付け上申書の(3))と述べている。
これを検討するに、仮に、本願実施例1、2での、「引き続き撹拌下水酸化ナトリウム溶液を添加してpH8に調節する工程」((b)工程)が、通常行われる沈殿の促進に係る工程であり、「濾別・洗浄する工程」((c)工程)も通常の工程であって、(b)工程、(c)工程を経ても、(a)工程で得られた沈殿物の性状は変化しないとしても、続く(d)工程は、100℃/20ミリバールという特別な条件での乾燥であり、しかも、通常行われることが多い、焼成工程は行われていないのである。そして、二酸化チタンの製造において、請求項1に記載されている(a)工程に該当する如き加水分解から得られる沈殿物は、それに続く、乾燥の条件や焼成の条件により、その性状が変化しうるものであることは当業者に周知の技術的事項である(例えば、特開昭50-1098号公報(刊行物1)参照)から、請求人が主張するように、仮に、本願発明1の所望の生成物特性が、(b)工程?(d)工程の前に既に存在している場合であっても、(そうであれば、なおさら)、後続の工程はその特性を変化させないような条件のものであることが必須となり、後続の工程の特定が必要となるのである。そして、本願の実施例はいずれも、上記したように、乾燥工程((d)工程)が、100℃/20ミリバールという特別の条件のものであり、さらに、焼成工程は行わないものであるから、これらの条件があってはじめて、本願の目的とする効果を奏する二酸化チタン顔料が製造されるものと認められる。しかも、本願の発明の詳細な説明には、(a)工程のみで(他の工程の条件に関わりなく)本願の目的とする効果を奏する二酸化チタン顔料が製造されることについての記載はなく、発明の効果はすべて、上記(b)工程?(d)工程を経た後の二酸化チタン顔料に関するものである。
したがって、請求項1に記載された、(a)工程に該当する工程だけで特定され、他の工程には限定されない製造方法により得られた二酸化チタン顔料に係る発明(本願発明1)は、発明の詳細な説明に記載したものであるとすることはできない。請求項2の二酸化チタン顔料の製造方法に係る発明(本願発明2)についても同様である。

なお、請求人は、さらに、平成19年10月12日付け上申書の(3)で、「工程c)およびd)は、詳細な説明に開示されています(出願当初明細書の第5頁第8行、「濾過および乾燥により)」と述べている。しかし、この拒絶理由は、発明の詳細な説明に記載されている工程、条件が、請求項1に記載されていないことを指摘しているのであるから、該請求人の主張は的を射ないものである。
また、請求人は同上申書で「本願発明の所望の生成物特性は、工程b)?d)の前に既に存在しています。この点につきましては、出願人によれば、実験により証明するつもりであるとのことです。」とも述べている。しかし、該(a)工程に該当する工程だけで(後続の工程および条件に関わりなく)発明が特定され、本願の目的とする効果を奏する二酸化チタン顔料が製造されることを認めるに足る実験に関する書面等の証拠はない。
したがって、平成14年改正前特許法第36条第6項第1号に係る上記請求人の主張はいずれも採用できない。
(2-2)小括
以上のとおり、本願発明1、2は、発明の詳細な説明に記載したものであるとすることはできないから、本願は、平成14年改正前特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、拒絶をすべきものである。

(3)(理由A’)の特許法第29条第2項に係る理由について
(3-1)刊行物1(特開昭50-1098号公報)に記載された事項
(1a)「チタン化合物の酸性水溶液及びそれに対する塩基性沈澱剤水溶液を水性溜り中に別々に、各々の流量が特定のpHを維持するように加え、水和チタニアを沈澱させ、沈殿物を洗浄し、乾燥した沈澱物をか焼することにより成る方法において、チタニウム化合物として硫酸第二チタンを、塩基性沈澱剤として水酸化アンモニウムを用い、4.0?8.0の範囲のpHを維持し、このようにすることによつて初期のゲル化の危険なしに不純物の無い状態にまで沈澱を完全に洗浄出来、はじけを避けるための中間的な熱処理を不要にすることを特徴とする大きな細孔のあるチタニアを製造する方法。」(1頁左下欄;請求項1)
(1b)「反応物の流れの添加期間中は強く撹拌して相互の緊密な接触を確実にする。」(2頁左下欄下から4行?下から5行)
(1c)「一般に硫酸第二チタンと水強化アンモニウムの量は広く変化し得る。最も重要なことは、2つの原料の流れを受ける水槽のpHをあらかじめ定められた値とするに十分な量で各々の反応体が存在することである。」(3頁左下欄8行?12行)
(1d)「実施例1 水1000mlを適当な容器に入れて急速に撹拌する。次に毎分約39mlの割合で硫酸第二チタン溶液950ml(1ml中に100gの鋭錘石TiO_(2)と350gのH_(2)SO_(4)を含有)を添加する。同時に水酸化アンモニウム(28%NH_(3))溶液を容器中のpHが4.5?5.0を保つに充分な毎分約15mlの割合で別に添加し、水和チタニアの連続的沈澱を得る。反応の起こっている間47℃の発熱が観られる。全反応体を添加した後水酸化アンモニウムを加えてpHを6.5に調整し、生成した沈澱を1時間半放置する。次いで沈澱を濾過し、公知の塩化バリウム試験により洗滌液に硫酸イオンがなくなるまで沈澱を水洗する。湿潤ケーキを110℃で3時間乾燥し次いで250℃で1晩乾燥すると、細孔容積1.8cc/g、表面積285m^(2)/gを有する白色ケーキ80gが得られる。次にケーキを粉砕し、50メッシュ篩を通し次いで600℃で1時間か焼する。分析したところか焼された物質の細孔容積は1.05cc/g、表面積は55m^(2)/gである。他方、もし粉砕したケーキを750℃で1時間か焼したならば細孔容積0.93cc/gで表面積35m^(2)/gのものが得られる。」(3頁左下欄下から2行?4頁左上欄2行;実施例1)
(審決注:上記摘記中の「か焼」の「か」は仮名書きに変えている。)

(3-2)対比・判断
(i)本願発明1について
刊行物1の実施例1で用いられている硫酸第二チタンは加水分解可能なチタン化合物であり、該実施例1で得られるチタン化合物はチタニア、すなわち二酸化チタンである(摘記1a、1d)。そして、刊行物1には、反応物の流れの添加期間中は強く撹拌すること(摘記1b)、及び、反応中は、pH値を4.0?8.0の範囲に維持すること(摘記1a)が記載されており、具体的に、実施例1には、急速に攪拌し、硫酸第二チタンから水和チタニアの沈殿を得るために水酸化アンモニウムを添加している間はpHを4.5?5.0に保っていること、及び、反応の起こっている間47℃の発熱が観られることが記載されており(摘記1d)、しかも、刊行物1の発明の目的は、高品質のチタニア(二酸化チタン)を得るものであるから(摘記1a)、そこでは、完全な加水分解がされたと認められる。
したがって、刊行物1には、
「加水分解可能なチタン化合物を強い撹拌下に、反応の起こっている間は47℃であって、かつpH値を4.0?8.0の範囲に調節し、かつこのpH値を4.5?5.0に保って、完全に加水分解することにより得られる、二酸化チタン。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
そこで、本願発明1と引用発明を対比すると、引用発明の「強い攪拌」は、本願発明1の「強力な攪拌」に該当し、二酸化チタンは、通常二酸化チタン顔料とも呼ばれるものであるから、両者は、
「加水分解可能なチタン化合物を強力な撹拌下に、pH値を4?5の範囲に調節し、完全に加水分解することにより得られる、二酸化チタン顔料。」の点で一致し、(ア)反応の間のpH値を、本願発明1は「0.3単位の範囲内で一定に保持」しているのに対し、引用発明は「4.5?5.0に保っている」点、及び、(イ)反応温度が、本願発明1は「0?100℃」であるのに対し、引用発明は「47℃」である点で相違する。
これら相違点を検討する。
(i-1)相違点(ア)について
本願発明1のpH値を「0.3単位の範囲内で一定に保持」することは、上記「4.(1)(1-1)」で検討したように、「あるpH値を±0.3のpH値の範囲内で一定に保持」することである。ここで、引用発明がpH値を「4.5?5.0に保っている」ことは、表現を変えれば、「pH4.75を±0.25のpH値の範囲で一定に保持している」ことであり、これは、pH値を「0.3単位の範囲内で一定に保持」することに該当するものである。したがって、相違点(ア)は実質的な相違点ではない。

なお、請求人は、平成19年8月28日付け意見書において、「本願発明と刊行物1の教示との本質的な相違は、刊行物1が0.3単位、有利には0.2単位の狭い幅でpH値を維持することがなぜ重要であるかを認識していない点にあります。刊行物1は、単に絶対的なpH範囲、すなわち4.5?6.5の意味を強調していますが、しかし、許容されるpH値変動に関して述べていません。当業者は、刊行物1から、絶対的なpHが重要であることを読み取りますが、しかし、合成の間により大きな変動が回避されるべきであることを読み取れません。」と主張している。しかし、刊行物1においても、「各々の流量が特定のpHを維持するように加え」(摘記1a)、「最も重要なことは、2つの原料の流れを受ける水槽のpHをあらかじめ定められた値とするに十分な量で各々の反応体が存在することである。」(摘記1c)と、反応中、定められたpH値が維持されるよう各反対体の量を調節することが記載されており、さらに、実施例に、「pHが4.5?5.0を保つに充分な毎分約15mlの割合で別に添加し」(摘記1d)と具体的に狭いpH値変動範囲に保つことが記載されていることからも明らかなように、反応の間にpH値の大きな変動が回避されるべきことが教示されているから、該請求人の主張は採用できない。
また、請求人は、平成19年10月26日付け上申書として、本発明によるpH値範囲内での製造おける、1)0.3以下のpH値-変動と、2)0.3よりも大きいpH値-変動に係る比較実験を提出した。しかし、該実験は、具体的な実験条件が不明であり、直ちに採用できるものではないうえ、上記に示したように引用発明も本願発明1と同様に、pH値を「0.3単位の範囲内で一定に保持」するものと認められるので、該上申書によって上記判断が左右されるものでもない。
(i-2)相違点(イ)について
引用発明での反応温度「47℃」は、刊行物1の一実施例の場合の反応温度であり、各々の反応物の濃度や反応量によっては、その前後の反応温度で反応が進行することは技術常識であるから、該実施例の前後の反応温度を検討することは、当業者の適宜なしうるところである。しかも、本願明細書の記載をみても、本願発明1の反応温度0?100℃に格別の臨界的意義を認めることもできないから、相違点(イ)は、格別のものではない。
したがって、本願発明1は、当業者が、上記刊行物1に記載された発明(引用発明)に基づいて容易に発明をすることができたものである。
(ii)本願発明2について
本願発明2は、本願発明1の製造方法で特定された二酸化チタン顔料の発明を単に製造方法のカテゴリーの発明としたものであるから、上記(i)に示したのと同様の理由により、上記刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(iii)小括
以上のとおりであるから、本願発明1、2は、当業者が、上記刊行物1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明1、2は、発明の詳細な説明に記載したものであるとすることはできないから、本願は、平成14年改正前特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、かつ、本願発明1、2は、本願出願前に頒布された上記刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余のことを検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-29 
結審通知日 2008-03-05 
審決日 2008-03-18 
出願番号 特願平9-508912
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C09C)
P 1 8・ 121- WZ (C09C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 泰之  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 岩瀬 眞紀子
井上 彌一
発明の名称 二酸化チタン顔料の加水分解的製造法  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 山崎 利臣  

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