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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16C
管理番号 1184746
審判番号 不服2006-16374  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-07-28 
確定日 2008-09-18 
事件の表示 特願2003- 1832「すべり軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月29日出願公開、特開2004-211859〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年1月8日の出願であって、平成18年6月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年7月28日に審判請求がなされ、その後、当審において平成20年3月31日付けで拒絶理由が通知されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、平成17年11月25日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 軸受合金層と、この軸受合金層の表面に設けた固体潤滑剤と樹脂からなるオーバレイ層とを備えたすべり軸受において、
上記オーバレイ層の表面に同一形状の凹凸形状を等間隔に形成するとともに、上記軸受合金層はオーバレイ層との境界を細かい粗さを持つ平坦な面に形成したことを特徴とするすべり軸受。
【請求項2】 上記凹凸形状の凹部に上記軸受合金層が露出していることを特徴とする請求項1に記載のすべり軸受。
【請求項3】 上記規則的な凹凸形状は、所定のピッチで形成された溝形状およびそれに隣接する突起形状、もしくは所定の間隔で整列する所定の穴形状であって、オーバレイ層の全域若しくはその一部に形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載のすべり軸受。
【請求項4】 上記オーバレイ層はMoS2、グラファイト、BN(窒化ホウ素)、WS2(二硫化タングステン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ふっ素樹脂、Pbより1種あるいは2種以上を組合せて添加したPAI樹脂又はPI樹脂であり、また上記軸受合金層は、銅系軸受合金又はアルミニウム系軸受合金であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のすべり軸受。」

3.本願発明について
(1)本願発明1
本願発明1は、上記「2.本願発明」に記載したとおりである。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開昭58-108299号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が記載されている。
(あ)「本発明は……、すべり軸受の表面に、固体潤滑剤を含有した潤滑皮膜を形成し、或は軸受面に下地皮膜を施こし、その上に潤滑皮膜を形成することにより、耐焼付性に優れたアルミニウム合金軸受を提供することを目的とする。」(第2頁左上欄第3?8行)
(い)「以下、本発明の実施例について説明する。先ず、裏金鋼板上にAl系合金から成るライニング材を圧接した後、円筒状又は半割円筒状等の軸受に成形し、次いでその軸受表面に固体潤滑剤を含有した潤滑皮膜を被覆する。この潤滑皮膜は、合成樹脂例えばフツ素樹脂、フエノール樹脂或はエポキシ樹脂等を基材とし、この基材に二硫化モリブデン、グラフアイト、窒化ほう素、二硫化タングステン、ポリテトラフルオロエチレン樹脂のうちから適宜選択して添加した混合物で形成され、この混合物はタンブリング法、スプレイ法、浸漬法又ははけ塗り法等により塗布されて構成されている。」(第2頁左上欄第9?20行。なお、「Al系合金」の「l」は原文では筆記体である。以下、同様。)
(う)「尚、上記組成に係る合金から成るライニング面の厚さは0.1?1mm程度とし、その表面粗さは従来よりも若干あらく0.8?2μm程度とすることが好ましい。又、Snを含まないAl系合金であつても良いことはいうまでもない。」(第2頁右下欄第19行?第3頁左上欄第3行)
(え)「このようにして、すべり軸受の表面を固体潤滑剤を含有した潤滑皮膜で被覆することにより、初期なじみの段階で耐焼付性を著しく向上させることができる。」(第3頁左上欄第4?7行)
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、下記の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「Al系合金からなるライニング材と、このライニング材の表面に固体潤滑剤を含有した潤滑皮膜を形成し、潤滑皮膜は合成樹脂を基材とし、この基材に二硫化モリブデン、グラフアイト、窒化ほう素、二硫化タングステン、ポリテトラフルオロエチレン樹脂のうちから適宜選択して添加される混合物で形成されるすべり軸受において、
ライニング材は潤滑皮膜との境界を0.8?2μm程度の表面粗さを持つ面に形成したすべり軸受。」
(2-2)引用例2
特開平4-83914号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(か)「さらに、オーバレイのなじみ性について検討すると、…すなわち、オーバレイの軟質金属の塑性変形は静的条件下の機械試験でも50-80%が上限であり、これと同等程度の片当りは塑性変形により吸収されない。
したがって、本発明はアルミニウム系軸受合金のなじみ性を改良することによって耐焼付性及び耐疲労性を高めることを目的とする。」(第2頁左上欄第15行?右上欄8行)
(き)「本発明に係るすべり軸受材料は、アルミニウム系軸受合金の表面に、固体潤滑剤90?55重量%及びポリイミド系バインダ10?45重量%からなるコーティング層を形成したことを特徴とする。」(第2頁右上欄第10?14行)
(く)「本発明においてアルミニウム系軸受合金とは、…を含有する軸受合金である。これらの合金は高強度とともに高疲労強度を有するので、耐疲労性が必要とされる軸受のライニングとして特に好適に使用される。」(第2頁右上欄第16行?左下欄第4行)
(け)「ライニング上に形成されるコーティング層のポリイミド樹脂バインダは固体潤滑剤を結合するとともに、軸により削り取られ、摩耗によるなじみ作用を発揮し、さらに腐食に対して極めて安定な性質を有する。樹脂一般はこのような性質を多少なりとももっているが、樹脂がある程度以上の耐熱性と耐摩耗性をもっていないと、コーティング層が過度に摩耗してしまうので、これらの性質が優れたポリイミド樹脂を使用する。……ポリイミド樹脂としては、芳香族ポリイミド、ポリエーテルイミドまたは芳香族ポリアミドイミド、あるいはこれらのジイソシアネート変性、DAPI変性、DONA変性、BPDA変性、スルホン変性樹脂のワニスなどを使用することができる。ポリイミド樹脂系バインダの量が10%未満であると結合力が不足して摩耗が大きくなり、一方45%を超えると摩擦係数が高くなり焼付きが起こりやすくなるので、その量は10?45%の範囲内とする。好ましくは20?30%である。」(第2頁左下欄第4行?右下欄第4行)
(こ)「固体潤滑剤はMoS_(2),BN,WS_(2),グラファイト等を使用することができる。」(第2頁右下欄第5?6行)
(さ)「以下、コーティング層の形成方法を説明する。被処理物であるアルミニウム軸受合金をすべり軸受形状のライニングに加工した後、苛性ソーダなどのアルカリ液中において脱脂処理し、続いて水洗及び湯洗を行い表面に付着したアルカリを除去する。コーティング層の密着性を高くする必要がある時、特にライニングを軸受使用中に広い面積で露出させることが望ましくないときは、脱脂後アルカリエッチングと酸洗の組み合わせによりライニングの表面を粗すか、あるいはボーリング等によりライニング表面に凹凸を形成してもよい。」(第3頁左上欄第7?17行)
(し)「本発明の軸受材料はライニングのみからなる従来材に比較して片当り条件下で優れた耐疲労性及び耐焼付性を発揮する。」(第3頁右上欄第11?13行)
(す)「第1図に本発明実施例のすべり軸受の断面を模式的に示す。1は厚さ1.2mmのSPCCよりなる裏金、2は厚さ0.3mmのアルミニウム系軸受合金(Al-12Sn-1.8Pb-1.0Cu-3.0Si-0.3Cr)、3は下地処理された表面(アルカリエッチング・酸洗、粗さRz4.5μm)、4は密着層(厚さ1μmの燐酸亜鉛層)、5はコーティング層である。」(第3頁左下欄第7?13行)
以上の記載事項及び図面からみて、引用例2には、下記の発明(以下、「引用例2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「アルミニウム系軸受合金からなるライニングの表面に、固体潤滑剤とポリイミド系バインダからなるコーティング層を形成したすべり軸受において、
上記ライニングの表面はRz4.5μm程度の粗さを持つ面に形成したすべり軸受。」
(3)対比
本願発明1と引用例1発明とを比較すると、引用例1発明の「Al系合金からなるライニング材」は本願発明1の「軸受合金層」に相当する。同様に、「固体潤滑剤を含有した潤滑皮膜」は、「潤滑皮膜は合成樹脂を基材とし、この基材に二硫化モリブデン、グラフアイト、窒化ほう素、二硫化タングステン、ポリテトラフルオロエチレン樹脂のうちから適宜選択して添加される混合物で形成される」のであるから、「固体潤滑剤と樹脂からなるオーバレイ層」に相当する。したがって、本願発明1の用語に倣って整理すると、両者は、
「軸受合金層と、この軸受合金層の表面に設けた固体潤滑剤と樹脂からなるオーバレイ層とを備えたすべり軸受。」である点で実質的に一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願発明1は「上記オーバレイ層の表面に同一形状の凹凸形状を等間隔に形成するとともに、上記軸受合金層はオーバレイ層との境界を細かい粗さを持つ平坦な面に形成した」という事項を備えているのに対し、引用例1発明は「ライニング材は潤滑皮膜との境界を0.8?2μm程度の表面粗さを持つ面に形成した」という事項を備えている点。
なお、本願発明1と引用例2発明とを比較しても、上記のように本願発明1と引用例1発明とを比較した場合と実質的に同様の一致点、及び相違点が認められる。
(4)判断
[相違点1]について
まず、上記に摘記したとおり、引用例1には「裏金鋼板上にAl系合金から成るライニング材を圧接した後、円筒状又は半割円筒状等の軸受に成形し、次いでその軸受表面に固体潤滑剤を含有した潤滑皮膜を被覆する。」、及び「尚、上記組成に係る合金から成るライニング面の厚さは0.1?1mm程度とし、その表面粗さは従来よりも若干あらく0.8?2μm程度とすることが好ましい。」との記載があり、また、本願の段落【0009】には「以下に上記実施例におけるすべり軸受1の実験結果について記載すると、…そしてこのうち本発明に係るすべり軸受(以下発明品)の軸受合金層2表面はショットブラストやエッチングによってその表面粗さが2μmRz以下となるように加工されており、…」と記載されていることからみて、引用例1発明のライニング材は、実質的に、潤滑皮膜との境界を細かい粗さを持つ平坦な面に形成したものであると認められる。
次に、すべり軸受において、摺動面を構成する軟質材料層表面に同一形状の凹凸形状を等間隔に形成することは、例えば、実公平4-39461号公報(特に第2欄第24行?第3欄第7行、第1図参照)、特開平3-249426号公報(特に第4図参照)に示されているように周知である。摺動面における潤滑油保持等のために引用例1発明に上記の周知事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
そして、本願発明の作用効果も、引用例1、2に記載された発明、及び周知事項に基づいて当業者が予測し得た程度のものである。

なお、審判請求人は平成20年5月30日付け意見書において、
「しかしながら、上述した全ての刊行物ならびに公知文献において、オーバレイ層に限らず軸受合金層を含めたとしても、1つの層について、その裏面側(オーバレイ層では軸受合金層との接触面、軸受合金層では裏金との接触面)を平坦な面とし、かつ当該1つの層の表面に同一形状の凹凸形状を等間隔に形成することで、当該1つの層全体を均質なものとして製造するという技術的内容については、記載も示唆も認められません。
換言すると、刊行物ならびに公知文献には、上記1つの層について上述した(1)(2)の特徴を組み合わせることを示唆する記載は全く認められず、また本願発明の作用効果を予期させるような記載も認められません。
(4-2)より具体的には、本願請求項1の発明では、1つの層について、上記2つの特徴を組み合わせることで初めて上記作用効果が得られるのであり、1つずつの特徴が別個に存在していたとしても、本願発明の作用効果は得られません。
刊行物1、2は、オーバレイ層について、その裏面側(軸受合金層との接触面)を平坦な面としていますが、…
(4-4)以上を要するに、「オーバレイ層の表面に同一形状の凹凸形状を等間隔に形成する」こと自体は容易なことと思慮されますが、かかる技術と、「軸受合金層とオーバレイ層との境界を細かい粗さを持つ平坦な面に形成」する技術とは全く別個に存在するものであります。
そして、従来のそれぞれ別個の技術は、本願発明の作用効果とは異なる別個の技術的効果を有するものであり、両者を組み合わせた際に得られる作用効果については、上記各公知文献には全く記載されておらず、示唆されてもいません。」と主張している。
しかし、すべり軸受において、摺動面を構成する軟質材料層表面に同一形状の凹凸形状を等間隔に形成することは周知であること、及び、摺動面における潤滑油保持等のために引用例1発明に上記の周知事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものと認められることは、上記のとおりである。
また、軸受のなじみ作用が軟質の表面材料の塑性変形等により生じることは上記引用例2にも示されているように当業者に明らかであり、引用例1発明において、ライニング材が実質的に潤滑皮膜との境界を細かい粗さを持つ平坦な面に形成したものであるすべり軸受の潤滑皮膜の表面に上記周知事項を採用した場合に、潤滑皮膜に略均一な塑性変形が生じ得ることは当業者にとって容易に予測し得る程度のことにすぎない。

(5)むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用例1、2に記載された発明、及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
そして、本願発明1が特許を受けることができないものである以上、本願発明2?4について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-17 
結審通知日 2008-07-18 
審決日 2008-08-07 
出願番号 特願2003-1832(P2003-1832)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 礒部 賢  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 水野 治彦
川上 益喜
発明の名称 すべり軸受  
代理人 神崎 真一郎  

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