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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E05B
管理番号 1186852
審判番号 不服2007-2996  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-25 
確定日 2008-10-27 
事件の表示 平成8年特許願第294518号「対震錠」拒絶査定不服審判事件〔平成10年5月12日出願公開、特開平10-121809〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成8年10月16日に出願されたものであって、その請求項1に係る発明は、平成18年11月27日提出の手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】施解錠操作に応じてフロント板から出入りできるように案内されたデッドボルトと、錠箱内において回動可能に支承されると共に上記デッドボルトと係合できるように配設され、シリンダ錠の内筒又はサムターンによって回動されてデッドボルトの出入りを制御するデッドカムと、デッドボルトとほぼ平行に移動可能に案内され、フロント板から突出する方向の前方に常時付勢されたラッチボルトと、この付勢されたラッチボルトの内端部にフロント板側の前方から係合し、扉操作部材の操作時これと連動してラッチボルトを引込ませる方向に駆動するリトラクターとを有するものにおいて、デッドボルトの近傍にこれとほぼ平行に延在するロッキングバーを設け、その後端を回動可能に支承すると共に、前端をデッドボルトに形成された係止部に後方から係合する方向に付勢し、以て、デッドボルトが外方に突出する施錠時、デッドボルトの没入位置への引込みを阻止し、一方、デッドカムの解錠方向の回動の初期において、これと連動してデッドボルトとロッキングバーとの係合を解く解除部材を設け、他方、錠箱内においてラッチボルトと交差するようにほぼ上下方向に延在し、ラッチボルトに関しデッドボルトとは反対側の基端を回動自在に支承され、自由端をデッドボルトに係合させた規制部材を設け、デッドボルトがフロント板から突出する施錠時、規制部材の自由端部がラッチボルトのラッチヘッドに近接してその移動軌跡と干渉するようにし、以て、施錠時ラッチボルトが錠箱内に没入しようとする動きをラッチヘッドと規制部材の自由端部との係合、及び規制部材の自由端とデッドボルトとの係合を介してロッキングバーに阻止させるようにしたことを特徴とする対震錠。」(以下、「本願発明」という。)

2.刊行物の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由で引用され、本願出願前に頒布された実願平03-030132号(実開平04-125371号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】 錠ケースのフロント表面より出没可能に設けられ、切欠凹部を有するデッドボルトと、上記錠ケースに回動可能に嵌挿され、外周面に突設された作動片が上記切欠凹部に係入するカムプレートとを有する錠装置において、上記デッドボルトの切欠凹部の反対面に係合段部を設け、上記錠ケースの内壁面に枢軸を立設し、該枢軸に一端が枢着されたガードレバーの他端に係止部を設け、該係止部を、突出した上記デッドボルトの上記係合段部に係合する方向にばねにより付勢し、上記作動片に設けられた支軸に一端を枢着されるカムリンクの他端に、上記ガードレバーに係合する係合部と上記作動片の回動時に上記ガードレバーを押動する押動部とを設けたことを特徴とするデッドボルトの安全装置。」、
(1b)「【0011】
【作用】
上記のように構成されたデッドボルトの安全装置は次のようになる。
解錠されている錠装置を施錠操作すると、カムプレートが施錠方向に回動し、カムプレートの作動片がデッドボルトの切欠凹部を押動し、デッドボルトが突出する。
一方、作動片の支軸に一端を枢着されたカムリンクが、作動片の回動中途において他端の押動部がガードレバーを押動し、ガードレバーの係止部がデッドボルトの係合段部より離隔するが、作動片が施錠位置に回動したときにカムリンクの押動部がガードレバーから離隔するので、ガードレバーの係止部がデッドボルトの係合段部に係合し、作動片及びガードレバーの係止部がそれぞれデッドボルトの両側を突出状態に保持する。
従って、外部からデッドボルトに力を加えても、デッドボルトは突出状態に保持される。
【0012】
施錠されている錠装置を解錠操作すると、カムプレートが解錠方向に回動し、カムプレートの作動片がデッドボルトの切欠凹部を押動し、デッドボルトが没入する。
一方、作動片の支軸に一端を枢着されたカムリンクが、作動片の回動中途において他端の押動部がガードレバーを押動し、ガードレバーの係止部がデッドボルトの係合段部より離隔し、係合を解除されたデッドボルトが没入する。
カムリンク一端はカムプレートに枢着され、他端の係合部がガードレバーに係合しているので、従来例のような滑り接触の摩擦抵抗はなく、カムプレートの回動は極めて軽くなる。」、
(1c)「【0013】
【実施例】
本考案の実施例について図面を参照して説明すると、図1,図2,図3はカバーを除去した錠装置の正面図であり、図1は施錠状態を、図2は施錠状態から解錠動作に入るときに状態を、図3は解錠状態を示す。
図1において、ドアの端部に設けられる錠ケース1は、ドアの端部側にフロント2及びセカンドフロント3が取り付けられ、錠ケース1の一方の開口にカバー28(図4参照)が取り付けられ、フロント2及びセカンドフロント3を貫通するデッドボルト挿入用孔4にデッドボルト5が挿入され、デッドボルト5に貫設されるピン6の両端部が、錠ケース1及びカバー28に設けられた長孔7に挿入される。従って、デッドボルト5はフロント2の表面から出没する方向に移動可能である。
【0014】
錠ケース1に取り付ける2個の支持金具8には、カムプレート挿入用孔9が設けられ、2個の支持金具8の間に挿入されるカムプレート10の両面には、カムプレート挿入用孔9に挿入されるボス部10aが設けられ、カムプレート10の中央には、駆動軸(図示しない)が挿入される非円形の孔11が設けられ、カムプレート10の外周面に作動片12が突設され、作動片12の先端は、デッドボルト5の上面に形成された切欠凹部13に係入する。
【0015】
作動片12に設けられた孔に支軸14が嵌挿され 錠ケース1の内壁面に立設されたばね支持軸15と支軸14にばね16の両端部が係止される(図4参照)。従って、ドア表面からシリンダ錠或いはサムターンを操作して駆動軸を回動すると、カムプレート10が図1に示す施錠角度又は図3に示す解錠角度に回動し、ばね16により施錠角度或いは解錠角度に保持され、デッドボルト5がフロント2の表面から突出或いは没入する。
【0016】
錠ケース1の内壁面に立設された枢軸17にガードレバー18が枢着され、枢軸17に巻回されたばね19の一端19aがガードレバー18に当接し、他端19bが錠ケース1に当接する。
従って、ガードレバー18は、先端に設けられる係止部20がデッドボルト5の下面に当接する方向に付勢され、デッドボルト5が突出しているときには、デッドボルト5の下面に形成された係合段部21に係合する。
【0017】
支軸14に一端を枢着されたカムリンク22の他端には、ガードレバー18に設けられた長孔23に係合する係合部24と、係合部の側面から突出する押動部25が設けられる。
そして、押動部25がガードレバー18を押動すると、ガードレバー18が枢軸17を支点として反時計方向に回動し、係止部20が係合段部21より離隔する。
符号26はラッチボルトであり、錠ケース1の回動可能に嵌挿されたハブ27の回動により、フロント2の表面から出没する。」、
(1d)「【0018】
以上のように構成されたデッドボルトの安全装置の作用を説明する
図3に示す解錠状態において、ドア表面のシリンダ錠或いはサムターンを施錠操作すると、シリンダ錠及びサムターンに連結された駆動軸が非円形の孔11に係合しているので、カムプレート10が図3において時計方向に回動し、カムプレート10の作動片12に一端を枢着されたカムリンク22が下方に移動し、押動部25がガードレバー18を押動する。
【0019】
押動されたガードレバー18は枢軸17を支点として反時計方向に回動し、デッドボルト5の下面に当接していた係止部20がデッドボルト5より離隔する。
一方、作動片12に切欠凹部13を押されたデッドボルト5がフロント2の表面より突出する。
カムプレート10が図1に示す施錠角度まで回動する前に、カムリンク22が上方に移動するので、ガードレバー18は時計方向に回動し始め、カムプレート10が施錠角度になったときに、デッドボルト5の突出が完了し、係合段部21に係止部20が係合する。
そして、デッドボルト5が相手側の框に設けられたストライクに係合し、ドアが施錠される(図1参照)。
【0020】
図1に示す施錠状態では、デッドボルト5の上側が作動片12によって係止され、デッドボルト5の下側が係止部20によって係止されるので、施錠中にデッドボルト5に外力を加えても、デッドボルト5には外力によるモーメントが作用せず、確実に施錠状態に保持される。
【0021】
施錠されている錠装置を解錠操作すると、カムプレート10が解錠方向に回動し、カムプレート10の回動途中において、作動片12がカムリンク22を下方に押動し、係止部20が係合段部21より離隔し(図2参照)、更にカムプレート10が解錠方向に回動すると、作動片12に切欠凹部13を押されたデッドボルト5がフロント2表面に没入し、の作動片がデッドボルトの切欠凹部を押動し、デッドボルトが没入する(図1参照)。
【0022】
カムリンク22の一端は作動片12の支軸14に枢着され、他端の係合部24がガードレバー18の長孔23に係合しているので、作動片12,カムリンク22,ガードレバー18によって殆ど摩擦抵抗のないリンク機構が構成され、従来例のような滑り接触の摩擦抵抗はなく、カムプレート10の回動は極めて軽くなる。」、
(1e)「【0023】
【考案の効果】
本考案は以上のように構成されているので、施錠中においては、デッドボルトが両側をそれぞれ作動片及びガードレバーによって係止されており、デッドボルトに外力が加わった場合においてもデッドボルトにモーメントが作用することなく施錠状態に保持される。
又、カムプレートを回動操作するときに、従来のような滑り接触の摩擦抵抗がないので、施錠操作及び解錠操作が極めて軽く、操作し易い。」。
(1f)【図1】、【図2】には、ラッチボルト26は、内端部から中間部間に亘って設けたバネで付勢されていること、ハブ27は、ラッチボルト26の内端部にフロント2側の前方から係合することが示されている。

刊行物1記載の「ハブ27」が、ハンドル・レバー等の扉操作部材の操作と連動して回動することは明らかであるから、上記(1a)ないし(1f)の記載及び図面の記載並びに技術常識によれば、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる。
「施解錠操作に応じてフロント2から出入りできるように案内されたデッドボルト5と、
錠ケース1内において回動可能に支承されると共に上記デッドボルト5と係合できるように配設され、シリンダ錠或いはサムターンによって回動されてデッドボルト5の出入りを制御するカムプレート10と、
デッドボルト5とほぼ平行に移動可能に案内され、フロント2から突出する方向の前方に常時付勢されたラッチボルト26と、
この付勢されたラッチボルト26の内端部にフロント2側の前方から係合し、扉操作部材の操作時これと連動してラッチボルト26を引込ませる方向に駆動するハブ27とを有するものにおいて、
デッドボルト5の近傍にこれとほぼ平行に延在するガードレバー18を設け、その後端を回動可能に支承すると共に、前端をデッドボルト5に形成された係合段部21に後方から係合する方向に付勢し、以て、デッドボルト5が外方に突出する施錠時、デッドボルト5の没入位置への引込みを阻止し、 一方、カムプレート10の解錠方向の回動の初期において、これと連動してデッドボルト5とガードレバー18との係合を解くカムリンク22を設けた錠装置。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。)

(2)原査定の拒絶の理由で引用され、本願出願前に頒布された特開昭56-167073号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(2a)「この発明は扉錠に関するもので、地震などによって扉錠に大きな側圧が作用した場合でも、確実に解錠ができ、いち早く避難ができるようにしたものである。
従来の扉錠にあっては、大きな側圧が作用した場合、非常に重いものゝハンドル操作によってラッチは下げ得た。しかしながらに、デッドボルトに大きな側圧が作用すると、作動することができない。これはシリンダーやサムターン等のデッドボルト操作部材は小さいので、大きな力を伝えることができない為である。この為通常、扉錠のラッチの厚みはデッドボルトより大きく設けて、側圧が作用した時ラッチが受孔に当接し、側圧を全てラッチで受けるようにしてある。故に施錠状態に於て大きな側圧が作用した時、デッドボルトを先に作動させて後退し、次にハンドルでラッチを下げれば解錠できるが、若し、ラッチを先に後退させた場合、側圧は全てデッドボルトにかかり、デッドボルトを後退させることはできず解錠が全く不可能となる。」(1頁左下欄19行?右下欄18行)、
(2b)「本発明は上記従来扉錠の問題点を解決したものである。以下図示する実施例に基づいて説明すると、(1)はデッドボルトで、錠ケース(2)に枢支されたデッドハブ(3)の回動によって錠ケース(2)のフロント(4)から出没作動する。(5)はシリンダーあるいはサムターン(図示せず)の作動によってデッドハブ(3)を回動させる操作部材である。(6)はラッチで、バネ(7)を介して出没作動する。(6a)はラッチに固定したラッチ柄、(6a)(当審注:(6b)の誤記)はラッチ柄に固着したワッシャである。(8)はラッチハブでハンドル(図示せず)の軸(9)が挿通さた、ハンドルの回動に一体回動し、操作部(8a)により摺動片(10)を介してラッチ(6)を後退させる。(11)はハブバネで、ラッチハブ(8)を常に第1図反時計方向に付勢する。そしてハブ(8)に設けた当接部(8b)が錠ケース(2)に固定した柱(2a)に当接し、バネ(11)の付勢による回動が阻止されている。(13)は錠ケース(2)に枢支(13a)した制御片で、先端の係止部(13b)がラッチハブ(8)の係合部(8b)に係脱してラッチハブ(8)の回動を阻止あるいは許容する。(12)は一端(12b)が前記制御片(13)の係合部(13c)と係合し、他端がデッドボルト(1)に枢支(12a)されるアームである。」(2頁左上欄4行?右上欄5行)、
(2c)「次に上記構成より成る本発明の扉錠の作用を説明する。第1図はデッドボルト(1)が突出した状態、即ち施錠状態を示す。この施錠状態では、制御片(13)の係入部(13b)がラッチハブ(8)の係合部(8b)に係入しているので、ラッチハブ(8)は回動不可能、即ちハンドル(図示せず)は回動できず、ラッチ(6)を後退させることはできない。解錠の方法はシリンダーあるいはサムターン(図示せず)を操作して、操作部材(5)を介してデッドバブ(3)を反時計方向に回動して、デッドボルト(1)を後退させて解錠する。(第2図)この時、デッドボルト(1)に枢支(12a)されているアーム(12)もデッドボルトと一体に後退しながら回動し、前記制御片(13)の係合部(13c)と係合する一端(12b)が回動して制御片(13)を反時計に方向に回動させ、制御片(13)の係止部(13b)とラッチハブ(8)との係合が外れる。そしてラッチハブ(8)は回動可能となるので、ハンドル(図示せず)を介してラッチ(6)を後退させて開扉することができる。
即ち、デッドボルト(1)が後退した時にのみ、ハンドルによってラッチ(6)を後退させることができる。」(2頁右上欄6行?左下欄6行)、
(2d)「更には、制御片(13)によりハンドルの回動を阻止してラッチボルト(6)の後退を阻止する方法として、第1図および第2図では制御片(13)の係止部(13b)がラッチハブ(8)に係脱して、ラッチハブ(8)の回動を阻止する方法を示しているが、制御片(13)の係止部(13b)がラッチ(6)又はラッチ柄(6a)に直接係脱してラッチの後退を阻止あるいは許容してハンドルの回動を許容あるいは阻止するようにしても良い…」(補正の掲載の1頁左下欄17行?右下欄4行)、
(2e)「2.特許請求の範囲
シリンダーあるいはサムターンの操作によってデッドボルトを出没させて施解錠し、ハンドルの操作によってラッチを後退させるようにした扉錠に於て、ラッチボルト(6)の後退を、あるいはラッチハブ(8)の回動を阻止および許容する制御片(13)を設け、該制御片(13)をデッドボルト(1)の出没作動に連動させ、デッドボルト(1)の突出時には該制御片(13)がラッチボルト(6)の後退を阻止してハンドルの回動を阻止し、デッドボルト(1)の後退時にはラッチボルト(6)の後退を許容してハンドルの回動を許容するように設けたことを特徴とする扉錠。」(補正の掲載の2頁左上欄)。

上記(2a)ないし(2e)の記載及び図面の記載並びに技術常識によれば、刊行物2には、次の発明が記載されていると認められる。
「施解錠操作に応じてフロント(4)から出入りできるように案内されたデッドボルト(1)と、
錠ケース(2)箱内において回動可能に支承されると共に上記デッドボルト(1)と係合できるように配設され、シリンダーあるいはサムターンの操作によって回動されてデッドボルト(1)の出入りを制御するデッドハブ(3)と、
デッドボルト(1)とほぼ平行に移動可能に案内され、フロント(4)から突出する方向の前方に常時付勢されたラッチボルト(6)と、
ラッチボルト(6)と交差するようにほぼ上下方向に延在するアーム(12)を設け、該アーム(12)は、一端(12b)が、錠ケース(2)内においてラッチボルトに関しデッドボルトとは反対側に枢支(13a)した制御片(13)の係合部(13c)と係合し、他端がデッドボルト(1)に枢支(12a)されるものであり、
デッドボルト(1)がフロント(4)から突出する施錠時、アーム(12)に伴って回動する制御片(13)の係止部(13b)が、ラッチハブ(8)、ラッチ(6)又はラッチ柄(6a)に係合するようにした扉錠。」(以下、「刊行物2記載の発明」という。)

3.対比
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「フロント2」、「錠ケース1」、「カムプレート10」、「ハブ27」、「ガードレバー18」、「カムリンク22」は、それぞれ、本願発明の「フロント板」、「錠箱」、「デッドカム」、「リトラクター」、「ロッキングバー」、「解除部材」に相当し、刊行物1記載の発明の「錠装置」と、本願発明の「対震錠」とは、「錠」である点で共通するから、両者は、次の一致点及び相違点を有する。
[一致点]
「施解錠操作に応じてフロント板から出入りできるように案内されたデッドボルトと、錠箱内において回動可能に支承されると共に上記デッドボルトと係合できるように配設され、シリンダ錠の内筒又はサムターンによって回動されてデッドボルトの出入りを制御するデッドカムと、デッドボルトとほぼ平行に移動可能に案内され、フロント板から突出する方向の前方に常時付勢されたラッチボルトと、この付勢されたラッチボルトの内端部にフロント板側の前方から係合し、扉操作部材の操作時これと連動してラッチボルトを引込ませる方向に駆動するリトラクターとを有するものにおいて、デッドボルトの近傍にこれとほぼ平行に延在するロッキングバーを設け、その後端を回動可能に支承すると共に、前端をデッドボルトに形成された係止部に後方から係合する方向に付勢し、以て、デッドボルトが外方に突出する施錠時、デッドボルトの没入位置への引込みを阻止し、一方、デッドカムの解錠方向の回動の初期において、これと連動してデッドボルトとロッキングバーとの係合を解く解除部材を設けた錠。」
[相違点]
本願発明は、錠箱内においてラッチボルトと交差するようにほぼ上下方向に延在し、ラッチボルトに関しデッドボルトとは反対側の基端を回動自在に支承され、自由端をデッドボルトに係合させた規制部材を設け、デッドボルトがフロント板から突出する施錠時、規制部材の自由端部がラッチボルトのラッチヘッドに近接してその移動軌跡と干渉するようにし、以て、施錠時ラッチボルトが錠箱内に没入しようとする動きをラッチヘッドと規制部材の自由端部との係合、及び規制部材の自由端とデッドボルトとの係合を介してロッキングバーに阻止させるようにした対震錠であるのに対し、刊行物1記載の発明は、このような規制部材を有していない点。

4.判断
上記相違点について検討する。
a.刊行物2記載の発明は、地震などによって扉錠に大きな側圧が作用した場合、ラッチボルトを先に後退させた時は、側圧は全てデッドボルトにかかり、デッドボルトを後退させることはできず解錠が不可能となるとの課題を解決するために、デッドボルトを突出させた状態では、ラッチボルトを後退させることができないようにした扉錠、すなわち「対震錠」に関するものである。
そして、刊行物2記載の発明の「錠ケース(2)」、「フロント(4)」は、本願発明の「錠箱」、「フロント板」に相当し、刊行物2記載の発明の「アーム(12)」と「制御片(13)」とは、全体としてラッチボルト(6)の移動を規制するものであるから「規制手段」ということができ、「制御片(13)の係止部(13b)が、ラッチ(6)又はラッチ柄(6a)に係合する」とは、「規制手段がラッチボルトの移動軌跡と干渉する」状態といえるから、刊行物2記載の発明は、「錠箱内においてラッチボルトと交差するようにほぼ上下方向に延在し、一側がラッチボルトに関しデッドボルトとは反対側に回動自在に支持され、他側がデッドボルトに回動自在に支持される規制手段を設け、デッドボルトがフロント板から突出する施錠時、規制手段がラッチボルトの移動軌跡と干渉するようにし、施錠時ラッチボルトが錠箱内に没入しようとする動きをラッチヘッドと規制手段の係合により阻止させるようにしたもの」といえる。

b.そうすると、刊行物1記載の発明において、地震などによって扉錠に側圧が作用しデッドボルトを後退させることができなくなることを防止するために、刊行物2記載の発明を適用して、錠箱内においてラッチボルトと交差するようにほぼ上下方向に延在し、一側がラッチボルトに関しデッドボルトとは反対側に回動自在に支持され、他側がデッドボルトに回動自在に支持される規制手段を設け、デッドボルトがフロント板から突出する施錠時に、規制部材がラッチボルトの移動軌跡と干渉するように構成することは、当業者が容易に想到しうることである。

c.ところで、本願発明の規制部材は「ラッチボルトに関しデッドボルトとは反対側の基端を回動自在に支承され、自由端をデッドボルトに係合させた」ものであり、施錠時、規制部材の自由端部がラッチボルトのラッチヘッドに近接」するものであるのに対し、刊行物2記載の発明における規制手段は、ラッチボルト(6)と交差するようにほぼ上下方向に延在するアーム(12)と、ラッチボルトに関しデッドボルトとは反対側に枢支(13a)した制御片(13)とからなり、該アーム(12)は、一端(12b)が制御片(13)の係合部(13c)に対し、上下方向に移動しながら回動可能に係合し、他端がデッドボルト(1)に枢支(12a)されるものであり、施錠時、アーム(12)に伴って回動する制御片(13)の係止部(13b)が、ラッチ(6)又はラッチ柄(6a)に係合するものである。
ここで、本願発明の規制部材の「自由端をデッドボルトに係合させた」とは、実施例によれば、規制部材の自由端をデッドボルトの係止孔に係合させることであり、規制部材の自由端は、デッドボルトの出没動作に伴って、係止孔に対し上下方向に移動しながら、基端を中心に回動することは明らかであるから、本願発明の規制部材は、一端(基端)がラッチボルトに関しデッドボルトとは反対側に回動自在に枢支され、他端(自由端)がデッドボルトに、上下方向の移動を吸収しつつ回動自在に係合支持されるものといえる。
また、本願発明の規制部材の「自由端部がラッチボルトのラッチヘッドに近接」において、「自由端部」とは、「基端」以外の回動可能な部分を意味すると解される。

d.刊行物2記載の発明において、規制手段のアーム(12)は、デッドボルト側の端部を回動可能に枢支し、他端を、制御片(13)の係止部(13b)に対し上下方向に移動しながら回動可能に係合することで、アーム(12)がデッドボルト側の端部を中心に回動する際の、アーム(12)他端の上下方向の変位を吸収しているものであり、規制手段の両端を回動可能に支持するに際し、どちらかの端部を上下方向の変位を吸収するように係合させる必要があることが示されているが、ラッチボルト側を枢支し、デッドボルトとは反対側を係合するか、デッドボルトとは反対側を枢支し、ラッチボルト側を係合するかで、作用効果に差異はないから、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用して、ラッチボルトの規制手段を設けるに際し、デッドボルトとは反対側の基端を回動可能に枢支し、他側をラッチボルト側に上下方向に移動しながら回動自在に係合するように設計することは適宜なしうる程度のことである。
また、制御片(13)はアーム(12)とともに回動するものであること、及び、デッドボルト係合部とラッチヘッド係合部を一つの規制部材に形成することは、例えば、拒絶理由通知において先行技術として提示した昭和8年実用新案出願公告第1214号公報の他、昭和9年実用新案出願公告第1605号公報に記載されているように本願出願前周知であることから、制御片(13)をアーム(12)と一体の規制部材とし、「基端」以外の部分にラッチヘッドに近接する係合部を形成することも適宜なしうることである。
そして、刊行物1記載の発明は、施錠時デッドボルトが錠箱内に没入しようとする動きをロッキングバーに阻止させるものであるから、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用して規制部材を設けると、施錠時ラッチボルトが錠箱内に没入しようとする動きをラッチヘッドと規制部材の自由端部との係合、及び規制部材の自由端とデッドボルトとの係合を介してロッキングバーに阻止させることになる。

次に、本願発明の作用効果について検討すると、本願発明の作用効果として明細書に記載されている「デッドボルトを引込ませた後でないとラッチボルトを引込ませることができないので、地震等の非常時突出状態にあるデッドボルトに先んじてラッチボルトを引込ませてしまう危険性を完全に無くすことができる。」(段落【0043】)は、刊行物2記載の発明から予測できるものであり、「施錠時においてデッドボルトはデッドカム及びロッキングバーの2つの部材で係止されるので、破錠(不正解錠)に対する安全性の向上を図ることができる」(段落【0044】)は、刊行物1記載の発明から予測できるものであって、本願発明の作用効果は全体として、刊行物1、2記載の発明及び上記周知技術から予測できる程度のものであって、格別顕著なものとはいえない。

したがって、本願発明は、刊行物1及び刊行物2記載の発明並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1及び刊行物2記載の発明並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-29 
結審通知日 2008-09-01 
審決日 2008-09-12 
出願番号 特願平8-294518
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横井 巨人  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 家田 政明
宮崎 恭
発明の名称 対震錠  
代理人 飯田 岳雄  

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