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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20056282 審決 特許
不服200627219 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
管理番号 1187848
審判番号 不服2005-25028  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-12-26 
確定日 2008-11-10 
事件の表示 特願2002-365674「ゼリー含有食品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月15日出願公開、特開2004-194549〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年12月17日の出願であって、平成17年10月31日付けで手続補正がされ、平成17年11月18日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成17年12月26日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、平成18年1月25日付けで手続補正がされ、その後、平成19年9月20日付けで平成18年1月25日付け手続補正が却下されるとともに、拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成19年11月26日付けで意見書が提出されるとともに、手続補正がされたものである。

2.本願発明
本願に係る発明は、平成19年11月26日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載されるとおりのものであって、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「基食材の空隙内部にゼリー状食材が充填されたゼリー含有食品を製造する方法であって、
少なくとも一部が多孔質構造の空隙を有し、食品を凍結乾燥して得られる食材である基食材を、減圧処理した後、減圧状態に保ちながら、寒天を含有するゼリー液と接触し、次いで昇圧して、基食材中にゼリー液を含浸させる工程と、
表面のゼリー液を除去する工程と、
基食材中のゼリー液をゲル化させる工程と
を有することを特徴とするゼリー含有食品の製造方法。」

3.当審拒絶理由の概要
当審で通知された拒絶理由の概要は、特許請求の範囲の請求項1乃至8に係る発明(平成17年10月31日付け手続補正書により補正されたもの)は、本願出願前に頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
刊行物1:特開2001-238612号公報
刊行物2:特開昭52-3847号公報

4.引用例の記載事項及び引用例に記載された発明
(1)引用例の記載事項
当審拒絶理由に引用された「特開2001-238612号公報」(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(a)「【請求項1】食品を、減圧処理した後または減圧状態で、液体成分と接触させて、食品中に液体成分を含浸させることを特徴とする食品の含浸処理方法。
【請求項2】含浸を、食品を減圧処理し、減圧状態に保ちながら液体成分と接触し、次いで昇圧して行う、請求項1に記載の食品の含浸処理方法。」(特許請求の範囲の項)
(b)「たとえば、本発明で用いることのできる食品としては、葉菜、根菜、きのこなどの野菜、果物、穀物、豆、肉、魚、皮、卵、卵殻、骨、練り製品、これらの加工品、家畜用の餌などが挙げられ、このうち穀物、肉、魚、野菜、果物および加工食品から選ばれる食品が好ましく用いられる。これらの食品は、含浸処理の際に、生の状態であってもよく、適宜切断されていてもよく、粉砕されていてもよく、乾燥されていてもよく、加熱が施されていてもよく、また、冷凍されていてもよい。」(段落【0012】)
(c)「含浸する液体成分として、・・・寒天、こんにゃく液などの食物繊維成分;にかわ、ゼラチンなどのゼラチン質」(段落【0014】?【0015】)
(d)「このような(A)法によれば、含浸前の食品の細孔、空隙または管状組織中に、水分、低揮発成分などの液体成分あるいは空気などの気体成分のいずれかが含まれている場合であっても、含浸する液体成分と好適に置換して、含浸処理を好適に達成することが出来る。」(段落【0025】)
(e)「真空引きを終了し、その後、真空-加圧含浸タンクをエアパージし、続いて圧搾空気を導入してタンク内を加圧して、0.8MPaで10分間保持した後エアパージした。試料をタンクおよびビーカーから取り出し、表面の油をスクレーパーで除去して、菜種油含浸マグロ赤身(A)を得た。」(段落【0047】)

同「特開昭52-3847号公報」(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(f)「本発明者は冷凍乾燥の果実がその原形を保持したまま吸収力と復元性のある点に着目して前記の糖液の濃度漸増の代りに、冷凍真空乾燥を行った果実内に・・・果実全体に糖汁が浸透したゼリード果実を製造することに成功したのである。」(2頁左上欄7?13行)
(g)「(2)冷凍真空乾燥済の苺(・・)のヘタの部分に十字の切れ目を入れる。一方、蔗糖100部(・・)ブドウ糖100部、クエン酸0.2部、苺フレーバー0.1部、ペクチン2部(・・)に熱湯を加え、静かに加熱溶解してBx.70°のゼリードシロップを製造して、冷却して50℃に保っておく。
(3)・・・
(4)上記のゼリードシロップを50℃のまゝ径1mmの注射針を用いてヘタ部の十字部からゼリードシロップを注入し、さらに残部のシロップに1時間浸漬する。」(2頁左下欄4行?右下欄1行)

(2)引用例1に記載された発明
引用例1には、摘示(a)に示した「食品の含浸処理方法」、すなわち、「食品を、減圧処理した後または減圧状態で、液体成分と接触させて、次いで昇圧して行う、食品中に液体成分を含浸させることを特徴とする食品の含浸処理方法」が記載されているところ、食品は乾燥されていてもよく(摘示(b))、含浸する液体成分として、寒天が挙げられ(摘示(c))、この液体成分を食品の細孔、空隙または管状組織中に含浸させるものである(摘示(d))から、引用例1には、
「乾燥した食品を、減圧処理した後または減圧状態で、寒天の液と接触させて、次いで昇圧して行う、食品の細孔、空隙または管状組織中にこの液体成分、すなわち、寒天の液を含浸させる、食品の含浸処理方法」という発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

4.対比
本願発明と引用発明1とを対比するに、引用発明1の「乾燥した食品」は、本願発明の「基食材」に相当し、引用発明1の「寒天の液」は、本願発明の「寒天を含有するゼリー液」に相当し、このようなゼリー液は普通ゲル化させて食に供するものであるからゲル化工程があることは自明といえ、引用発明1においても、食品には「細孔、空隙または管状組織」があるから、これは「少なくとも一部が多孔質構造の空隙を有し」ているものといえる。また、引用発明1の「含浸処理方法」は、「寒天の液、すなわち、寒天を含有するゼリー液を含浸させた食品の製造方法」といえ、両者ともに、減圧処理した後減圧状態に保ちながら含浸させているから、両者は、
「基食材の空隙内部にゼリー状食材が充填されたゼリー含有食品を製造する方法であって、
少なくとも一部が多孔質構造の空隙を有し、食品を乾燥して得られる食材である基食材を、減圧処理した後、減圧状態に保ちながら、寒天を含有するゼリー液と接触し、次いで昇圧して、基食材中にゼリー液を含浸させる工程と、
基食材中のゼリー液をゲル化させる工程と
を有することを特徴とするゼリー含有食品の製造方法。」
で一致し、以下の点で、相違している。
相違点1:基食材が、本願発明では「食品を凍結乾燥して得られる食材」であるのに対し、引用発明1では「乾燥した食品」である点
相違点2:工程として、本願発明では「表面のゼリー液を除去する工程」を有するのに対し、引用発明1では、このような工程について、特に記載はない点

5.判断
(1)相違点1について
冷凍乾燥した食品(苺)の内部にゼリーを含有する食品は、引用例2の摘示(g)から明らかなように、本出願前公知のものであり、さらに、同引用例には「冷凍乾燥の果実がその原形を保持したまま吸収力と復元性」を有することも記載されている(摘示(f))。そして、冷凍乾燥と凍結乾燥とは同じことであるから、基食材として、単に「乾燥した食品」に代えて、より原形を保持し、より吸収力と復元性を備えた、「凍結乾燥した食品」を使用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、引用発明1において、基食材として「食品を凍結乾燥して得られる食材」を用いることは当業者にとって容易である。

(2)相違点2について
引用発明1に係る含浸処理食品は、摘示(d)によれば、含浸前の食品の細孔、空隙または管状組織中に液体成分を含浸させ、食品の内部にゼリー液を含浸するものであるから、食品の表面にゼリー液が付着している、といえる。
ここで、付着したゼリーに関しては、これを除去した方が食しやすく美観も良いものであるなら除去すればよいし、逆に、付着したゼリーをそのままにしておいた方が食感美観ともに優れるならば、除去をしなければよい。すなわち、表面のゼリー液を除去する工程を設けるか否かは、得られるゼリー含有食品に応じて適宜選定すれば足る程度のことであるから、この程度のことは当業者が適宜なし得る範囲のものである。
また、摘示(e)には、「表面の油をスクレーパーで除去」との記載があり、この記載からも、食品の表面に付着した余分なゼリー液を除去することは、適宜実施し得る程度のことといえる。
したがって、引用発明1において、「表面のゼリー液を除去する工程」を設けることは当業者が適宜なし得ることにすぎない。

(3)本願発明の効果について
本願発明の効果は、明細書の段落【0046】に記載されるように、「本発明によれば、多孔質構造を有する基食材の空隙内部に、ゼリーが充填された新規なゼリー含有食品およびその製造方法を提供することができる。本発明のゼリー含有食品は、菓子、惣菜、調理用食材、携帯用食品、栄養補助食品、老人・病人・乳幼児食、非常食、ダイエット食、各種機能性食品など、食品として、多くの用途に用いることができる。」ものであるといえる。
しかしながら、ゼリー含有食品は数多く知られ周知であり、菓子、惣菜、調理用食材等、多くの用途に用いることができることも周知といえる(必要なら、審査段階で示した、特開平9-224591号公報、特開平8-116884号公報等参照。)。
そうしてみると、本願発明の効果について、引用例1及び2に記載された事項から予測されるところを超えて優れているとはいえない。

(4)まとめ
以上のことから、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物である引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.請求人の主張について
請求人は、平成19年11月26日付け意見書の「(3)引用例との対比」において、
「引用例1には、食品を凍結乾燥して得られる食材である基食材に、寒天を含有するゼリー液を含浸させることに関しては具体的には何ら検討されておらず、さらに緻密な表面構造を有する凍結乾燥食材に対して分子量の大きい寒天を含浸する場合の問題点やその解決方法については何ら教示されておりません。」(第3段落)、
「本願発明では、ゼリー液として寒天を含有するゼリー液を用いておりますが、寒天を含有するゼリー液と、ペクチンやゼラチンを含有する液とでは、含浸時におけるゼリー液の性状が大きく異なり、凍結乾燥食品、たとえば凍結乾燥果実などの表面が緻密な構造を有する食品に対しての含浸では、その挙動が大きく異なります。」(第9段落)、
「熱水中で溶解させた場合であっても、熱水中に粒状のゲルが分散した状態をとっており、圧力などの強い力作用が付与されないかぎりは、寒天成分は凍結乾燥果実などの凍結乾燥食品の緻密な細孔を通過することができません。このためたとえば引用例2の方法において寒天を含有するゼリー液を用いたとしても、寒天成分は含浸されず、ゼリード果実は得られません。」(第10段落)、
「分子量の大きさや溶解、加工温度管理の困難さから鑑みて、引用例2の方法により寒天を含有するゼリー液の含浸はできないと考えられます。」(第11段落)、
等、述べ、ペクチンやゼラチンを含有する液と寒天を含有する液とでは、その挙動が大きく異なり、引用例2の方法を用いても、寒天を含有するゼリー液の含浸はできないと主張している。
しかしながら、本願明細書には、ゼリー液として寒天とゼラチンは併記されており、それぞれの特質について説明されてはいるものの、ゼリー液として寒天を用いる場合に、ゼラチンと同じ方法ではうまくいかないことは記載されておらず、また、寒天を用いる場合には、含浸方法としてゼラチンを用いる場合とは異なる格別の工夫を採用せねばならない、ということも記載されていない。
付け加えるに、上記第9段落の主張に対しては、本願明細書の表1によれば、圧力が付与された場合(実施例3)も付与されない場合(実施例1)も、どちらも、ゼリー液は含浸されている。
そうしてみると、意見書における請求人の主張は、明細書の記載に基づかないもの、とせざるを得ず、このような主張は採用できない。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物である引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本出願に係る他の請求項について検討するまでもなく、本出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-17 
結審通知日 2008-09-19 
審決日 2008-09-30 
出願番号 特願2002-365674(P2002-365674)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 左海 匡子  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 鈴木 紀子
安藤 達也
発明の名称 ゼリー含有食品の製造方法  
代理人 吉武 賢次  
代理人 紺野 昭男  
代理人 横田 修孝  
代理人 中村 行孝  

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