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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 E04B
管理番号 1187936
審判番号 不服2007-3462  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-05 
確定日 2008-11-14 
事件の表示 特願2002-312873「横架材の接合装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月27日出願公開、特開2004-150011〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年10月28日にされた特許出願であって、平成18年12月15日付けで拒絶査定がされたところ、平成19年2月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成18年11月24日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】 横架材の端面に係合溝を縦設し、該係合溝の相対する側壁の内側に前記端面側先端を横架材の前記端面より前記係合溝の奥壁方向に離開させて重ね合わせて、補強板を前記横架材に止着し、該横架材の前記側壁に前記補強板を通じて掛止杆を架設し、この掛止杆を嵌合掛止する切欠を上端に備えた一対の側板を取付板の両側に相対設して構成した接合金具を、前記取付板において柱の側面にボルトで固着すると共に、この接合金具の前記側板には、前記切欠に前記掛止杆を掛止して前記係合溝に前記側板を係合したとき、前記横架材および前記補強板を通じて嵌挿する接合杆嵌挿用の透孔を設けた、横架材の接合装置。」(以下、「本願発明」という。)

3.先願明細書に記載された発明
これに対して、原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前の他の出願であって、本願の出願後に出願公開された特願2002-27597号(特開2003-227175号公報参照)の願書に最初に添付した明細書および図面(以下、「先願明細書」という。)には、「横架材の接合装置」に関して、第1図ないし第7図とともに以下の記載がある。

(1a)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、横架材の接合装置、さらに詳しくは木造建物の柱や胴差などの構造材に梁、桁などの横架材を接合する装置に関するものである。」

(1b)「【0010】
【発明の実施の形態】この発明の一実施の形態を、添付図面を参照して説明する。図1は構造材に横架材が接合された状態の正面図、図2は同横断平面図である。1は柱や胴差などの構造材、2は梁や桁などの横架材である。構造材1の接合面には横断面略コ字状の接合部材3が固定されている。図3にも示すように接合部材3は例えば板金などからなり、背板3aと、該背板の両側縁からそれぞれ同じ向きに直角に折り曲げ形成された両側板3b,3cを有し、該両側板の上端には上方開口のV字状受溝5a,5bが形成され、下部にはピン孔6a,6bが相対向する位置に穿設されている。そして、背板3aを構造材1の接合面に当接させるとともに、背板3aと構造材1に形成した通孔7,8にボルト10を挿通したうえナット11で締結することにより、固定されている。
【0011】一方、図4にも示すように横架材2の接合面には所定間隔で、すなわち接合部材3の背板3aの幅よりやや大きい間隔でスリット13,14が縦向きに形成されている。スリット13,14で挟まれた横架材2の接合面側部分は、接合時に接合部材3を受け入れ可能な大きさの空隙部16に切欠形成されている。スリット13,14には板金など金属製の接合板17,18が嵌入されたうえ、その嵌入先端側に複数個形成したピン孔21と、これと対応する横架材2に複数個形成したピン孔22の間に挿通されたピン23により固定されている。接合板17,18はピン23により固定されると、スリット13,14に完全に被覆して嵌入された状態となる。
【0012】接合板17,18及び横架材2の接合面側には接合部材3の受溝5a,5b及びピン孔6a,6bと対応する上部及び下部にピン孔25,26及びピン孔27,28がそれぞれ形成されている。接合板17,18及び横架材2の両上部ピン孔25,27間にはピン30が差し渡されて挿通され、該ピンは接合部材3の受溝5a,5bで受け止められている。また、接合板17,18及び横架材2の両下部ピン孔26,28間にはピン31が差し渡されて挿通され、これにより接合板17,18はピン30が受溝5a,5bから抜け出るのが阻止されて接合部材3と係止される。」

(1c)「【0020】前記各実施の形態で示した接合部材3,43、接合板17,18,57及び該接合板が嵌入固定される横架材2のスリット13,14,53等の形状や構造は好ましい一例であり、実施に際しては必要によりその具体的な形状等は任意に変更することが可能である。……また、各実施の形態では接合板17,18,57をスリット13,14,53に完全に被覆するようにしたが、必ずしも完全に被覆する必要がなく、接合側を一部被覆しないようにしてもよい。」

(1d)上記(1b)を参照して図2および図4をみると、横架材2の接合面にスリット13,14を形成し、スリットで挟まれた接合面側部分に切欠形成された空隙部16の相対する側壁の内側に重ね合わせて接合板17,18を、横架材2に対してピン23により固定することが記載されている。

そうすると、これら記載事項および図面並びに当業者の技術常識からみて、先願明細書には、次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されているものと認められる。
(先願発明)
「横架材2の接合面にスリット13,14を縦向きに形成し、スリットで挟まれた接合面側部分に空隙部16を切欠形成し、該空隙部16の相対する側壁の内側に、板金などの金属製の接合板17,18を、スリット13,14を完全に被覆する、あるいは、スリット13,14の接合側を一部被覆しない、のいずれかとなるように重ね合わせて、前記横架材2にピン23により固定し、該横架材2の前記側壁に前記接合板17,18の上部ピン孔25を挿通させてピン30を差し渡し、このピン30を受け止める受溝5a,5bを上端に形成した両側板3b,3cを背板3aの両側縁からそれぞれ同じ向きに折り曲げ形成された接合部材3を、前記背板3aにおいて構造材1の接合面にボルト10で固定し、この接合部材3の前記側板3b,3cには、前記受溝5a,5bに前記ピン30を差し渡して前記空隙部16に前記側板3b,3cを係合したとき、前記横架材2および前記接合板17,18を挿通して差し渡されるピン31が挿通されるピン孔6a,6bを穿設した、横架材の接合装置。」

4.対比
本願発明と先願発明とを対比すると、
先願発明の「横架材2」は本願発明の「横架材」に相当し、以下同様に、「接合面」は「端面」に、「ピン30」は「掛止杆」に、「受溝5a,5b」は「切欠」に、「両側板3b,3c」は「一対の側板」に、「背板3a」は「取付板」に、「接合部材3」は「接合金具」に、「構造材1の接合面」は「柱の側面」に、「挿通して差し渡されるピン31」は「通じて嵌挿する接合杆」に、「ピン孔6a,6b」は「透孔」に、それぞれ相当する。
また、先願発明の「ピン23により固定」は本願発明の「止着」に、以下同様に、「接合板17,18の上部ピン孔25を挿通させて(ピン30を)差し渡し」は「補強板を通じて(掛止杆を)架設し」に、「受け止める」は「嵌合掛止する」に、「上端に形成した」は「上端に備えた」に、「両側縁からそれぞれ同じ向きに折り曲げ形成された」は「両側に相対設して構成した」に、「固定」は「固着」に、「(受溝5a,5bにピン30を)差し渡して」は「掛止して」に、「挿通される」は「嵌挿用の」に、「穿設した」は「設けた」に、それぞれ相当する。

そして、先願発明の「板金などの金属製の接合板17,18」は、その材質として「板金などの金属製」を採用しており、木造建物に用いられる梁、桁などの横架材に対して、「補強」の作用を有することが明らかなので、本願発明の「補強板」に相当するといえる。
さらに、先願発明の、横架材の端面に「スリット13,14を縦向きに形成し、スリットで挟まれた接合面側部分」に「切欠形成」された「空隙部16」は、柱に横架材を接合した状態において、接合金具および補強板を収納する空間であるから、本願発明の、横架材の端面に「縦設」された「係合溝」に相当するものである。

そうすると、本願発明と先願発明とは、
「横架材の端面に係合溝を縦設し、該係合溝の相対する側壁の内側に重ね合わせて、補強板を前記横架材に止着し、該横架材の前記側壁に前記補強板を通じて掛止杆を架設し、この掛止杆を嵌合掛止する切欠を上端に備えた一対の側板を取付板の両側に相対設して構成した接合金具を、前記取付板において柱の側面にボルトで固着すると共に、この接合金具の前記側板には、前記切欠に前記掛止杆を掛止して前記係合溝に前記側板を係合したとき、前記横架材および前記補強板を通じて嵌挿する接合杆嵌挿用の透孔を設けた、横架材の接合装置。」の点で一致し、以下の点で一応相違する。

[相違点]
補強板を係合溝の相対する側壁の内側に重ね合わせて止着する構成に関して、本願発明では、補強板の端面側先端を横架材の端面より係合溝の奥壁方向に離開させているのに対し、先願発明では、補強板により係合溝の側壁を完全に被覆する、あるいは、係合溝の接合側を一部被覆しない、のいずれかとなるようにしているものの、係合溝を一部被覆しないものについては具体的な実施例やその作用は示されていない点。

5.当審の判断
前記相違点について検討する。
先願発明の横架材の接合装置は、横架材を柱(「構造材」)の側面に接合するための接合装置であるから、安定した接合状態を得るために、横架材の端面と柱の側面との接合部に隙間が生じないように、横架材に止着される補強板の端面が、横架材の端面から突出することがないようにすることは当然の課題であるといえ、この課題を解決するために、横架材に補強板を止着するのに、補強板により係合溝の側壁を完全に被覆する、すなわち、横架材の端面と補強板の端面とを面一とする、もしくは、係合溝の接合側を一部被覆しないようにする、すなわち、横架材の端面よりも補強板の端面を係合溝の奥壁方向に離間させる、のいずれかとなるようにしている。
一方、建材の加工精度、変形等を考慮して、組み合わされる建材のそれぞれの大きさを調節して設計することが当業者の技術常識であることを鑑みると、先願明細書には建材の加工精度、変形等を考慮して「横架材の端面よりも補強板の端面を係合溝の奥壁方向に離間させる」ことが示されているといえ、それにより導き出される作用、効果も当業者の技術常識の範囲内のものであり顕著なものであるとはいえない。

してみると、上記相違点として挙げた技術事項は、実質的な相違点とはいえず、本願発明と先願発明は同一である。

なお、請求人は審判請求書において、
「本願発明は、横架材に縦設した係合溝の相対する側壁の内側に、「前記端面側の先端を横架材の前記端面より前記係合溝の奥壁方向に離開させて重ね合わせて、補強板を前記横架材に止着し」た構成を備え、この構成によって前記端面側の先端と、横架材を接合する柱の側面との間に隙間が形成され、従って、補強板の前記「端面側の先端」は柱側面に接触することはなく、また、隙間が形成されることにより、プレスによる折曲げ加工に有り勝ちな角部(接合金具の取付と側板)の膨らみの逃げ場(係合部)ともなって柱側面と横架材端面は隙間が生じることなく互いに確実に密接して接合状態の外観的見栄えが損われることのない接合装置を提供できるのである。」と主張する。
しかしながら、本願の出願当初の図面には、本願発明の実施形態として、横架材に縦設した係合溝の相対する側壁の内側に、前記端面側の先端を横架材の前記端面より前記係合溝の奥壁方向に離開させて重ね合わせて、補強板を前記横架材に止着した構成を備えることが記載されていたとしても、その構成により、柱側面と横架材端面は隙間が生じることなく互いに確実に密接して接合状態の外観的見栄えが損われることがないとの効果を有することについては、本願の出願当初の明細書および図面には明示的に記載されていない。そして、上記構成を有することにより、上記効果が得られるとしても、その効果は、先願発明における、補強板により係合溝の接合側を一部被覆しない、との構成が自ずから有している効果に過ぎない。

さらに、請求人は審判請求書において、
「これに対し、引用文献1(先願の特許公開公報:当審注)記載の発明は、「接合面(本発明の端面)と外向き一側縁(本願発明の端面側の先端)が面一となるように」金属製接合板(本願請求項発明の補強板)が横架材に嵌入して固定するもので、この点において本願発明と異なる。
そして、金属製接合板や横架材の加工精度、これらの組付け精度或いは木材の乾燥収縮、吸水膨潤等によって接合板の前記外向き一側縁が横架材の接合面より突出するおそれが常にあることを考えると、引用文献1には、この相違点により前記「柱側面と横架材端面との間に隙間が生じることなく、互いに確実に密接して外観的見栄えが損われることがない」とする「隙間」を利用した技術思想(本願発明に係る)は記載されていないというべきである(なお、引用文献1には前記「面一」の点は明細書中に記載されていないが、同文献1に係る発明は「面一」が当初の図面に記載されているものとされ、「面一」を要件にして特許第3653503号として登録されたものである)。」と主張する。
しかしながら、先願明細書には、記載事項(1c)に示すとおり、横架材の接合装置において、補強板により係合溝の側壁を完全に被覆する、および、補強板により係合溝の接合側を一部被覆しない、の2つの態様が記載されている。
そして、先願は、手続補正により、その2つの態様のうち、補強板により係合溝の側壁を完全に被覆する、すなわち、接合面と外向き一側縁が面一とする態様を選択し、その選択した態様を有する構成により、その後特許を受けるものとなったに過ぎない。
よって、請求人の上記主張は先の判断に影響を及ぼすものではない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、先願発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記先願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-29 
結審通知日 2008-09-09 
審決日 2008-09-24 
出願番号 特願2002-312873(P2002-312873)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西村 隆  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 家田 政明
伊波 猛
発明の名称 横架材の接合装置  
代理人 江藤 剛  
代理人 江藤 剛  

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