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審決分類 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する A01H
審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する A01H
管理番号 1189283
審判番号 訂正2008-390111  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2008-10-10 
確定日 2008-11-20 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第4024676号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4024676号に係る明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許4024676号は,2001年11月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年11月17日,米国)を国際出願日として特許出願されたものであって,平成19年10月12日に特許権の設定登録がなされ,平成20年10月10日に本件訂正審判が請求されたものである。


第2 請求の趣旨
本件審判の請求の趣旨は,特許第4024676号発明の願書に添付した明細書を,審判請求書に添付した訂正明細書のとおり,すなわち,下記1.および2.のとおり訂正することを求めるものである。

1.請求項6,請求項14,請求項18,発明の詳細な説明の段落【0084】および同段落【0086】における「アシルCoAシンターゼ」を「アシルCoAシンテターゼ」と訂正する(以下,「訂正事項1」という。)。

2.発明の詳細な説明の段落【0016】および【0019】における「PHAシンテターゼ」を「PHAシンターゼ」と訂正する(以下,「訂正事項2」という。)。


第3 訂正の適否についての判断
1.訂正事項1について
(1)訂正の目的
本願明細書の段落【0007】?【0008】に,「従って,本発明の目的は,PHAの産生のために,生物においてアシルCoAシンテターゼおよびPHAシンターゼと共に,PhaGを発現することである。従って,本発明のさらなる目的は,中間鎖長のPHAの産生のために,生物においてアシルCoAシンテターゼおよびPHAシンターゼと共に,PhaGを発現することである。」と記載されていることからも明らかなように,本願明細書には請求人が訂正を請求する箇所以外はいずれも「アシルCoAシンテターゼ」なる用語が用いられており,「アシルCoAシンターゼ」なる記載はない。
ここで,「シンターゼ」なる用語については,今堀和友他監修「生化学辞典(第3版)」(東京化学同人)(1998年)第717頁右欄には,「かつては,シンターゼとシンテターゼは厳密に区別されたが,1984年の酵素命名法の改定から区別なくシンターゼが用いられ,EC6群のものに限り,シンテターゼに置き換えてもよいとされている。」と記載されており,「アシルCoAシンテターゼ」を「アシルCoAシンターゼ」と表記すること自体は,当該酵素の表記として本来の意を表示しないもの,すなわち誤記であるとはいえない。
しかしながら,上記のとおり明細書には上記箇所以外では「アシルCoAシンテターゼ」なる用語が用いられており,同一明細書内で同一の酵素を別名で表記することは,別名で表記された酵素は異なる酵素であるかのごとく誤解を招くため,そのような記載は不明りょうな記載である。
したがって,特許請求の範囲の請求項6,請求項14,請求項18,発明の詳細な説明の段落【0084】および同段落【0086】において,「アシルCoAシンターゼ」という用語を,明細書の他の記載と整合するように明細書に使用された「アシルCoAシンテターゼ」という用語に統一するように訂正することは,明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。

(2)新規事項の追加および拡張・変更の有無について
「アシルCoAシンテターゼ」なる用語は,願書に最初に添付した明細書に記載されていたものであり,上記「第3 1.(1)」のとおり訂正事項1は明細書の用語を統一するためのものであるから,訂正事項1は新規事項を追加するものではなく,また,特許請求の範囲を拡張・変更するものではないことは明らかである。

2.訂正事項2について
(1)訂正の目的
請求人は,本願の国際出願当初明細書第8頁4行,および第9頁3?4行に記載される「PHA synthase」が「PHAシンテターゼ」と誤訳されたものを訂正することを目的とするものであると主張する。
確かに,請求人が指摘する国際出願当初明細書に対応する国際公開公報の箇所には「PHA synthase」と表記されており,「PHAシンテターゼ」とは「PHAシンターゼ」の誤訳であることは明らかである。
したがって,訂正事項2は,誤訳訂正を目的とするものであると認められる。

また,本願明細書の段落【0007】?【0008】に,「従って,本発明の目的は,PHAの産生のために,生物においてアシルCoAシンテターゼおよびPHAシンターゼと共に,PhaGを発現することである。従って,本発明のさらなる目的は,中間鎖長のPHAの産生のために,生物においてアシルCoAシンテターゼおよびPHAシンターゼと共に,PhaGを発現することである。」と記載されていることからも明らかなように,本願明細書には請求人が訂正を請求する箇所以外はいずれも「PHAシンターゼ」なる用語が用いられており,「PHAシンテターゼ」なる記載はない。
したがって,発明の詳細な説明の段落【0016】および同段落【0019】において,「PHAシンテターゼ」という用語を,明細書の他の記載と整合するように明細書に使用された「PHAシンターゼ」という用語に統一するように訂正することは,上記「第3 1.(1)」で述べたものと同様の理由により,明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるということもできる。

(2)新規事項の追加および拡張・変更の有無について
「PHAシンターゼ」なる用語は,願書に最初に添付した明細書に記載されていたものであり,訂正事項2については,上記「第3 2.(1)」で述べたとおり,明細書の用語を統一するためのものであるということもできる。
したがって,訂正事項2は新規事項を追加するものではなく,また,特許請求の範囲を拡張・変更するものではないことは明らかである。

(3)独立特許要件について
上記「第3 2.(1)」で述べたとおり,訂正事項2は誤訳訂正を目的とするものであり,具体的には明細書の発明の詳細な説明の段落【0016】および【0019】における「PHAシンテターゼ」を「PHAシンターゼ」と訂正するものである。
本件特許の特許請求の範囲には,「PHAシンターゼ」なる用語が上記訂正前から統一して用いられており,訂正事項2により,特許請求の範囲に記載されている事項によって構成される発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであることに変わりがないことは明らかである。


第4 むすび
以上のとおり,本件訂正審判により請求人が求めている訂正事項1および2に係る訂正は,いずれも特許法第126条第1項および第3項ないし第5項の規定に適合するので,この訂正を認める。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
脂肪酸生合成経路からの中間鎖長のポリヒドロキシアルカノエートの産生
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】3-ヒドロキシアシル-ACPチオエステラーゼの触媒活性を有する酵素をコードする導入遺伝子およびアシル-CoAシンテターゼまたはアシルCoAトランスフェラーゼの触媒活性を有する酵素をコードする1つ以上の導入遺伝子を発現する、トランスジェニック生物であって、中間鎖長のPHAは脂肪酸の生合成経路により蓄積し、該トランスジェニック生物は細菌および植物からなる群より選択され、そして該生物はPHAシンターゼをさらに発現する、トランスジェニック生物。
【請求項2】前記アシル-CoAシンテターゼが3-ヒドロキシアシル-CoAシンテターゼである、請求項1に記載の生物。
【請求項3】前記アシル-CoAシンテターゼがalkKである、請求項1に記載の生物。
【請求項4】前記PHAシンターゼをコードする導入遺伝子さらに発現する、請求項1または2に記載の生物。
【請求項5】異種の3-ヒドロキシアシル-CoAシンテターゼ活性をさらに発現する、請求項1に記載の生物。
【請求項6】請求項1に記載の生物であって、3-ヒドロキシアシル-ACPチオエステラーゼ、中間鎖長のPHAシンターゼおよび中間鎖長の3-ヒドロキシ脂肪酸アシルCoAシンテターゼからなる群より選択される酵素を発現し、ここで、該生物が植物細胞、植物組織または植物全体である、生物。
【請求項7】選択マーカー遺伝子をさらに発現する、請求項5に記載の生物であって、ここで、該生物は植物全体である、生物。
【請求項8】請求項1に記載の生物であって、3-ヒドロキシアシル-ACPチオエステラーゼ、中間鎖長のヒドロキシ酸を組み込むPHAシンターゼおよび中間鎖長の3-ヒドロキシ脂肪酸アシルCoAシンテターゼからなる群より選択される酵素を発現し、ここで、該生物が細菌である、生物。
【請求項9】請求項6に記載の生物であって、ここで、前記導入遺伝子の発現が、組織または種子、葉、色素体およびペルオキシソームからなる群より選択されるオルガネラに標的化される、生物。
【請求項10】前記細菌がE.coliであり、PHAが該細菌内で蓄積する、請求項7に記載の生物。
【請求項11】トランスジェニック生物におけるPHA生合成経路を操作する方法であって、該方法は、3-ヒドロキシアシル-ACPチオエステラーゼの触媒活性を有する酵素をコードする導入遺伝子およびアシル-CoAシンテターゼまたはアシルCoAトランスフェラーゼの触媒活性を有する酵素をコードする1つ以上の導入遺伝子を含む構築物を提供する工程であって、中間鎖長のPHAは脂肪酸の生合成経路により蓄積し、該トランスジェニック生物は細菌および植物からなる群より選択され、該構築物はPHAシンターゼをさらに含む工程、ならびに該生物を作製する工程を包含する、方法。
【請求項12】前記酵素が、3-ヒドロキシアシル-CoAシンテターゼの触媒活性を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】前記生物が植物である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】請求項11に記載の方法であって、前記構築物が、3-ヒドロキシアシル-ACPチオエステラーゼ、中間鎖長のPHAシンターゼおよび中間鎖長の3-ヒドロキシ脂肪酸アシルCoAシンテターゼからなる群より選択される酵素を発現し、ここで、前記生物が植物細胞、植物組織または植物全体である、方法。
【請求項15】請求項11に記載の方法であって、前記構築物が、3-ヒドロキシアシル-ACPチオエステラーゼ、中間鎖長のヒドロキシ酸を組み込むPHAシンターゼ、および中間鎖長の3-ヒドロキシ脂肪酸アシルCoAシンテターゼからなる群より選択される酵素を発現し、ここで、前記生物が細菌である、方法。
【請求項16】PHAを作製する方法であって、該方法が、3-ヒドロキシアシル-ACPチオエステラーゼの触媒活性を有する酵素をコードする導入遺伝子およびアシル-CoAシンテターゼまたはアシルCoAトランスフェラーゼの触媒活性を有する酵素をコードする1つ以上の導入遺伝子を発現するトランスジェニック生物を成長させる工程を包含する方法であって、該トランスジェニック生物は細菌および植物からなる群より選択され、そして該生物はPHAシンターゼを発現する、方法。
【請求項17】前記アシル-CoAシンテターゼが3-ヒドロキシアシル-CoAシンテターゼである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】請求項16に記載の方法であって、前記生物が、3-ヒドロキシアシル-ACPチオエステラーゼ、中間鎖長のPHAシンターゼおよび中間鎖長の3-ヒドロキシ脂肪酸アシルCoAシンテターゼからなる群より選択される酵素を発現し、ここで、前記生物が植物細胞、植物組織または植物全体である、方法。
【請求項19】請求項16に記載の方法であって、前記生物が、3-ヒドロキシアシル-ACPチオエステラーゼ、中間鎖長のヒドロキシ酸を組み込むPHAシンターゼ、および中間鎖長の3-ヒドロキシ脂肪酸アシルCoAシンテターゼからなる群より選択される酵素を発現し、ここで、前記生物が細菌である、方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
(発明の背景)
多数の微生物は、ポリ[(R)-3-ヒドロキシアルカノエート](PHA)の細胞内貯蔵を蓄積する能力を有する。PHAは、生分解性および生体適合性の熱可塑性物質であり、再生可能資源から生成され、広範囲の産業的用途および生物医学的用途を有する(Williamsら、1996,CHEMTECH 26,38-44)。PHA生体高分子は、異なるモノマー組成物および広範囲の物理学的特性を有する、広範なクラスのポリエステルを含む。現在まで、約100の異なるモノマーが、PHAポリマーに組み込まれている(SteinbuechelおよびValentin,1995,FEMS Microbiol.Lett.128;219-228)。PHAは、PHAの側鎖の長さに従って2つの群に分けられ得る。短い側鎖を有するPHA(例えば、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)(R-3-ヒドロキシ酪酸単位のホモポリマー))は、結晶性熱可塑性物質であり、一方、中間の長さの側鎖を有するPHA(例えば、ポリヒドロキシオクタン酸またはポリヒドロキシデカン酸)は、より弾性である。
【0002】
細菌において、各PHA群は、特定の経路により産生される。短いペンダント基のPHAの場合、3つの酵素(β-ケトチオラーゼ、アセトアセチル-CoAレダクターゼ、およびPHAシンターゼ)が、関与する。例えば、PHB生合成において、アセチル-補酵素Aの2つの分子が、β-ケトチオラーゼにより縮合されて、アセトアセチル-補酵素Aを生じる。次いで、後者は、レダクターゼにより、キラル中間体であるR-3-ヒドロキシブチリル-補酵素Aに還元され、次いで、PHAシンターゼ酵素により重合される。短い鎖長のPHAシンターゼは、代表的には、4-ヒドロキシ酸単位および5-ヒドロキシ酸単位の両方を含む、C3?C5ヒドロキシ酸モノマーの重合を可能にする。この生合成経路は、Ralstonia eutropha、Alcaligenes latus、Zoogloea ramigeraなどのような多数の細菌において見出されている(Madison,L.L.およびHuisman,G.W.Microbiology and Molecular Biology Reviews 1999,63,21-53)。
【0003】
中間鎖長のペンダント基のPHAは、多くの異なるPseudomonas細菌により産生される。ヒドロキシアシル-補酵素Aモノマー単位は、脂肪酸β酸化経路および脂肪酸生合成経路に元々は由来し得る。次いで、このモノマー単位は、より大きなC6?C14モノマー単位を好む基質特異性を有する、PHAシンターゼにより、ポリマーに転換される(Madison,L.L.およびHuisman,G.W.Microbiology and Molecular Biology Reviews 1999,63,21-53)。Pseudomonas生物において、長いペンダント基のPHAの産生を担うPHAシンターゼは、具体的に、phaA遺伝子およびphaC遺伝子により、pha遺伝子座にコードされることが見出されている(米国特許第5,245,023号、同第5,250,430号;Huismanら、1991,J.Biol.Chem.266:2191-2198)。
【0004】
短い鎖長のペンダント基および中間鎖長のペンダント基の両方から構成されるコポリマーもまた、広範な基質特異性を有する、PHAシンターゼを有する細菌において産生され得る。例えば、Pseudomonas sp.A33(Appl.Microbiol.Biotechnol.1995,42,901-909)、Pseudomonas sp.61-3(Kato,M.,Bao,H.J.,Kang,C.-K,Fukui,T.,Doi,Y.Appl.Microbiol.Biotechnol.1996,45,363-370)、およびThiocapsa pfennigii(米国特許第6,011,144号)全ては、短い鎖長のモノマー単位および中間鎖長のモノマー単位のコポリマーを産生することが報告されているPHAシンターゼを有する。
【0005】
phaGによりコードされる酵素が、Pseudomonas putidaおよびPseudomonas aeruginosaの両方において最近同定され、そしてこれらの生物において、脂肪酸生合成と中間鎖長のPHA形成との間(図1の経路Aを参照のこと)を結びつけるものであることが報告されている(Rehm,B.H.A.,Kruger,N.,Steinbuchel,A.J.Biol.Chem.1998,273,24044-24051;WO98/06854;米国特許第5,750,848号;Hoffmann,N.,Steinbuchel,A.,Rehm,B.H.A.FEMS Microbiology Letters,2000,184,253-259)。これらの研究において、PhaGは、部分的に精製された酵素調製物が、APCの存在下で、3-ヒドロキシデカノイルCoAを3-ヒドロキシデカノイルACPへと転換する能力に基づいて、3-ヒドロキシアシル-アシルキャリアタンパク質-補酵素Aトランスフェラーゼとして同定された(Rehm,B.H.A.,Kruger,N.,Steinbuchel,A.J.Biol.Chem.1998,273,24044-24051)。Pseudomonas fragi(天然では、貯蔵物質としてPHAを産生しない生物)におけるphaGおよびPhaCの発現は、グルコネートからのPHAの産生を可能にした(Fiedler,S.,Steinbuchel,A.,Rehm,B.H.A.Applied and Enviromental Microbiology 2000,66,2117-2124)。しかし、E.coliにおいて、中間鎖長のシンターゼおよびPhaGの発現の際に、ポリマーは観察されなかった(Rehm,B.H.A.,Kruger,N.,Steinbuchel,A.J.Biol.Chem.1998,273,24044-24051)。E.coliは、P.fragiのように、少量の、低分子量のPHBの非顆粒形態を産生し得るが(Reusch,R.N.Can.J.Microbiol.1995,41(補遺1),50-54)、貯蔵ポリマーの顆粒を産生できない。
【0006】
米国特許第5,750,848号は、Pseudomonas putida由来のphaG遺伝子が、C8単位およびC10単位を含むポリヒドロキシアルカノエート(PHA)生体高分子の生合成のための(D)-3-ヒドロキシアシル-CoA前駆体を産生するために有用な、3-ヒドロキシアシルACP-CoAトランスフェラーゼ活性をコードする。しかし、この活性は確認されていない。
【0007】
従って、本発明の目的は、PHAの産生のために、生物においてアシルCoAシンテターゼおよびPHAシンターゼと共に、PhaGを発現することである。
【0008】
従って、本発明のさらなる目的は、中間鎖長のPHAの産生のために、生物においてアシルCoAシンテターゼおよびPHAシンターゼと共に、PhaGを発現することである。
【0009】
(発明の要旨)
Pseudomonas oleovorans由来のphaG遺伝子およびPHAシンターゼ1遺伝子を発現する組換えE.coli系は、中間鎖長のPHAを蓄積しないことが発見された。しかし、培地は、有意なレベルの3-ヒドロキシ酸を含んでいたことが見出された。ここで、PhaGタンパク質は、3-ヒドロキシアシル-ACPチオエステラーゼとして機能したことが示された。phaG遺伝子、phaC1遺伝子およびalkK遺伝子を発現するE.coli系は、PHAを産生する。これらの結果は、E.coliまたは他の細菌においてPHAを産生するための、新規の代謝操作アプローチを提供するのみならず、他の生物(例えば、作物(plant crop))においてPHAを産生するための、いくつかの新規のアプローチを提供する。
【0010】
本明細書中で記載される方法は、作物の葉もしくは種子の色素体において、または細菌のような植物以外の生物において、例えば、アシルCoAシンテターゼもしくはCoAトランスフェラーゼ、またはPHAシンターゼ遺伝子と共に(2つのサブユニットのシンターゼの場合、高等植物のペルオキシソーム、細胞質ゾルもしくは色素体において)、3-ヒドロキシアシル-ACPチオエステラーゼ活性を有する酵素を発現することを包含する。これは、チオエステラーゼおよびPHAシンターゼの色素体発現のようないくつかの場合では、色素体において、3-ヒドロキシアシル-CoAシンテターゼ活性を有する遺伝子を発現するのにもまた有用である。PHAシンターゼが、細胞質ゾルにおいて発現される場合、必要に応じて、(D)-3-ヒドロキシアシル-CoAシンテターゼの触媒活性を有する酵素をコードする遺伝子の発現を増加することが有用であり得る。PHAシンターゼが、ペルオキシソームに対して標的化される場合、このペルオキシソームに対する(D)-3-ヒドロキシアシル-CoAシンテターゼの触媒活性を有する酵素を標的とすることもまた有用であり得る。
【0011】
3-ヒドロキシアシル-ACPチオエステラーゼの触媒活性を有する酵素をコードする導入遺伝子構築物が開発されている。1つの実施形態では、この導入遺伝子構築物は、さらに、アシルCoAシンテターゼまたはCoAトランスフェラーゼをコードする遺伝子を含む。別の実施形態では、この導入遺伝子構築物は、さらに、アシルCoAシンテターゼまたはCoAトランスフェラーゼをコードする遺伝子、およびPHAシンターゼをコードする遺伝子を含む。
【0012】
この導入遺伝子構築物は、PHAの産生のために、任意の生物および/またはその細胞において発現され得る。1つの例では、PHAは、例えば、C8ヒドロキシ酸単位およびC10ヒドロキシ酸単位を有する、中間鎖長のPHAである。別の例では、この生物は細菌である。別の例では、この生物は、植物である。PHAは、適切な条件下で、生物またはその細胞を増殖させることにより産生され得る。
【0013】
本明細書中に記載される方法はまた、植物油組成物の修飾を可能にして、C8ヒドロキシ酸または脂肪酸およびC10ヒドロキシ酸または脂肪酸のレベルを増大させる。
【0014】
(発明の詳細な説明)
E.coliが、PhaGおよびPhaCを発現する場合に、グルコースから中間鎖長のPHAを形成することができないことは、この経路が、Pseudomonadsではない、非ネイティブのPHAプロデューサー中に操作される場合、さらなる酵素活性が要求され得ることを示唆する。米国特許第5,750,848号は、PHA陰性の細菌において、3-ヒドロキシアシルACPの3-ヒドロキシアシルCoAへの転換を可能にする、酵素または酵素の組み合わせを単離するためのスクリーニング方法を記載するが、このような酵素は、文献にも特許にも記載されていない。Klinkeら(Klinke,S.,Ren,Q.,Witholt,B.,Kessler,B.Appl.Environ.Microbiol.1999,65,540-548)は、E.coliにおける、チオエステラーゼおよびPHAシンターゼの同時発現の際のPHA産生を実証した。この研究に用いられるチオエステラーゼは、3-ヒドロキシアシルACPを3-ヒドロキシ脂肪酸へ転換しないが、代わりに、アシルACPを脂肪酸に転換するので、宿主細胞のネイティブのβ-酸化酵素は、PHA形成のために3-ヒドロキシアシルCoAを形成することが要求される。従って、このストラテジーは、植物に限定される。なぜならば、β酸化酵素は、ペルオキシソームに主に局在し、これによりPHAが産生され得る場所が制限されるからである。
【0015】
PhaGおよびPhaCを発現する異種系における、中間鎖長のPHA生成に必要な酵素活性としてのアシルCoAシンテターゼが、発見されている。アシルCoAシンテターゼは、遊離脂肪酸、補酵素AおよびATPの、脂肪酸アシルCoAおよびAMPへの転換を触媒する(図1の経路C;Black,P.N.、DiRusso,C.C.、Metzger,A.K.、Heimert,T.L.、J.Biol.Chem.1992、267、25513-25520を参照のこと)。PhaGが、インビボの3-ヒドロキシアシルACP-CoAトランスフェラーゼ反応を完了することを可能にするために、補充的アシルCoAシンテターゼを必要とすることは、PhaGが、予測とは異なり、3-ヒドロキシアシルACPチオエステラーゼ活性のみをコードすることを示唆する(図1の経路Bを参照のこと)。アシルCoAシンテターゼの遺伝子は、単離され、そして特徴づけられており、これらとしては、E.coli由来のfadD遺伝子(Black,P.N.、DiRusso,C.C.、Metzger,A.K.、Heimert,T.L.、J.Biol.Chem.1992、267、25513-25520)、Pseudomonas oleovorans由来のalkK遺伝子(van Beilen,J.B.、Eggink,G.、Enequist,H.、Bos,R.、Witholt,B.、Molecular Microbiology 1992、6、3121-3136)およびPlasmodium falciparum由来のPfacs1遺伝子(Matesanz,F.、Duran-Chica,I.、Alcina,A.、J.Mol.Biol.1999、291、59-70)が挙げられる。
【0016】
アシルCoAシンテターゼのように、CoAトランスフェラーゼもまた、3-ヒドロキシ脂肪酸を、3-ヒドロキシアシルCoAに転換できる。CoAトランスフェラーゼは、アシルCoAから遊離脂肪酸への、CoAの転移を触媒する(図1の経路Dを参照のこと)。3-ヒドロキシアシルACPチオエステラーゼとCoAトランスフェラーゼとの同時発現は、3-ヒドロキシアシルACPの、その対応する3-ヒドロキシアシルCoAへの首尾よい転換を可能にするはずである。WO 98 39453は、CoAトランスフェラーゼ活性およびPHAシンターゼ活性を利用して、宿主生物において短い鎖長のPHAを生成する方法を記載するが、3-ヒドロキシACPを3-ヒドロキシアシルCoAに転換するための、3-ヒドロキシアシルACPチオエステラーゼおよびCoAトランスフェラーゼの組み合わせた使用を記載していない。宿主生物において、容易に利用可能なCoAチオエステラーゼから、中間鎖長の脂肪酸にCoAを転移し得るCoAトランスフェラーゼを得るために、ゲノムDNAライブラリーが、適切な中間鎖長のPHAシンターゼおよび3-ヒドロキシアシルACPチオエステラーゼを発現する、PHAマイナス細菌において、構築およびスクリーニングされ得る。あるいは、既存のCoAトランスフェラーゼ(例えば、Clostridium Kluyveri由来のorfZ遺伝子(Sohling,B.およびGottschalk,G.、J.Bacteriol.1996、178、871-880))の遺伝子シャッフリングを使用して、宿主生物において容易に利用可能なCoAチオエステラーゼから、中間鎖長の脂肪酸へCoAを転移する能力を有する、新規CoAトランスフェラーゼを作製し得る。所望の活性を有する新規CoAトランスフェラーゼは、適切な中間鎖長のPHAシンターゼおよび3-ヒドロキシアシルACPチオエステラーゼを発現するPHAマイナス細菌においてスクリーニングされ得る。
【0017】
植物を操作して、3-ヒドロキシアシルACPチオエステラーゼ、中間鎖の3-ヒドロキシ酸を取り込み得るPHAシンターゼ、および(D)-3-ヒドロキシアシル-CoAシンテターゼ活性またはCoAトランスフェラーゼ活性のいずれかを有する酵素の触媒活性を有する酵素を発現させることによって、脂肪酸生合成経路から、中間鎖長の(D)-3-ヒドロキシ酸を含むPHAを生成するための方法論が、開発されてきた。本明細書中に記載される方法論は、脂肪種子およびバイオマス作物の両方を操作して、所望のPHA生体高分子を生成するために有用である。
【0018】
その存在が、phaGおよび中間鎖長のPHAシンターゼ(PhaC)を発現する組換えE.coliにおける脂肪酸生合成経路からのポリマーの生成に必要な酵素活性としての、アシルCoAシンテターゼの同定のための方法および材料もまた、本明細書中に記載される。具体的には、E.coliおよびArabidopsis thalianaにおいて、PhaG、3-ヒドロキシアシル-ACP-CoAトランスフェラーゼとして以前に特徴付けられた酵素(米国特許第5,750,848号)およびPhaCの同時発現によって、細胞内に含まれたポリマーが得られないことが実証されている。細菌系において、培養物上清への3-ヒドロキシ酸の排出が観察され、このことは、PhaGが触媒する脂肪酸生合成からの炭素の転換が生じていることを示す。alkK、中間鎖長の3-ヒドロキシ脂肪酸に対する活性を有する、P.oleovorans由来のアシルCoAシンテターゼの同時発現は、中間鎖長ポリマーの細胞内蓄積および培養培地中に排出される3-ヒドロキシ酸の量の減少を生じる。phaCおよびphaGを発現するE.coli細胞が、alkKの発現の際にのみポリマーを生成する能力は、PhaGが、E.coliにおいて、インビボで、3-ヒドロキシアシルACPチオエステラーゼとして作用するが、アシルACP-CoAトランスフェラーゼとしては作用しないことを示唆する。phaCおよびphaGを発現する植物もまた、脂肪酸生合成経路からの首尾よいPHA生成のために、補充的アシルCoAシンテターゼを必要とする。
【0019】
PHAシンターゼは、当該分野で公知であり、そして、例えば、米国特許第6,143,952号に記載される公知の技術によって、他のPHAシンターゼから開発され得る。
【0020】
本明細書中に記載されるDNA構築物は、植物へ導入遺伝子を導入し得る形質転換ベクターを含む。多くの利用可能な植物形質転換ベクター選択が存在する(Gene Transfer to Plants(1995)、Potrykus,I.およびSpangenberg,G.編、Springer-Verlag Berlin Heidelberg New York;「Transgenic Plants:A Production System for Industrial and Phamaceutical Proteins」(1996)、Owen,M.R.L.およびPen,J.編、John Wiley&Sons Ltd.England、ならびにMethods in Plant Molecular Biology-a laboratory course mannual(1995)、Maliga,P.、Klessig,D.F.、Cashmore,A.R.、Gruissem,W.およびVarner,J.E.編、Cold Spring Laboratory Press、New York)。一般に、植物形質転換ベクターは、5’および3’の調節配列(プロモーター、転写終結シグナルおよび/またはポリアデニル化シグナルを含む)の転写制御下の1つ以上の目的のコード配列、および選択マーカー遺伝子またはスクリーニングマーカー遺伝子を含む。5’調節配列についての通常の要件としては、プロモーター、転写開始部位およびRNAプロセシングシグナルが挙げられる。3’調節配列としては、転写終結シグナルおよび/またはポリアデニル化シグナルが挙げられる。
【0021】
多数の植物プロモーターが公知であり、そして目的の遺伝子の、構成的発現または環境的もしくは発生的に調節された発現のいずれかを生じる。植物プロモーターは、異なる植物組織または小器官において、導入遺伝子の発現を制御するように選択され得、その全ての方法は、当業者に公知である(GasserおよびFraley、1989、Science 244;1293-1299)。適切な構成的植物プロモーターとしては、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV)および増強されたCaMVプロモーター(Odellら、1985、Nature、313:810)、アクチンプロモーター(McElroyら、1990、Plant Cell 2:163-171)、AdhIプロモーター(Frommら、1990、Bio/Technology 8:833-839;Kyozukaら、1991、Mol.Gen.Genet.228:40-48)、ユビキチンプロモーター、ゴマノハグサ(Figwort)モザイクウイルスプロモーター、マンノピンシンターゼプロモーター、ノパリンシンターゼプロモーターおよびオクトピンシンターゼプロモーターが挙げられる。有用な調節可能なプロモーター系としては、ホウレンソウ硝酸誘導性プロモーター、ヒートショックプロモーター、リブロース二リン酸カルボキシラーゼの小サブユニットのプロモーターおよび化学的誘導性プロモーターが挙げられる(米国特許第5,364,780号;同第5,364,780号;同第5,777,200号)。
【0022】
1つの実施形態において、3-ヒドロキシアシルACPチオエステラーゼおよびアシルCoAシンテターゼの触媒活性を有する酵素は、3-ヒドロキシアシルACPを3-ヒドロキシアシルCoAに転換するために利用される。PHAシンターゼの同時発現は、PHA形成を可能にする。1つの実施形態において、十分な量で存在する場合、宿主生物の内因性アシルCoAシンテターゼ活性が利用される。代替の実施形態において、宿主生物のアシルCoAシンテターゼ活性は、アシルCoAシンテターゼをコードする遺伝子(例えば、Pseudomonas oleovorans由来のalkK遺伝子(van Beilen,J.B.、Eggink,G.、Enequist,H.、Bos,R.、Witholt,B.、Molecular Microbiology 1992、6、3121-3136))の過剰発現によって補充される。
【0023】
別の実施形態において、3-ヒドロキシアシルACPチオエステラーゼの酵素活性を有する酵素およびアシルCoAトランスフェラーゼ活性をコードする酵素が利用される。この実施形態において、アシルCoAトランスフェラーゼは、宿主生物において容易に利用可能なアシルCoAから、3-ヒドロキシ脂肪酸へのCoAの転移を触媒し、3-ヒドロキシアシルCoA形成を生じる。PHAシンターゼの同時発現は、PHA形成を可能にする。
【0024】
1つの実施形態において、3-ヒドロキシアシルACPチオエステラーゼに関連する活性を有する酵素をコードする遺伝子、またはPhaGにいくらか相同な酵素をコードする遺伝子は、分子進化または遺伝子シャッフリング技術によって改変され、中間鎖長の3-ヒドロキシアシルACPチオエステラーゼ活性を有する新規酵素が得られる。米国特許第5,750,848号は、PhaGの改変体を生成することを記載するが、関連の酵素を改変して、新規の3-ヒドロキシアシルACPチオエステラーゼ活性を生じることは記載していない。本発明のこの局面の1つの実施形態において、Pseudomonas aeruginosa由来のrhlAB遺伝子(これは、ラムノシルトランスフェラーゼ活性をコードする(Ochsner,U.A.、Fiechter,A.、Reiser,J.、J.Biol.Chem.1994、269、19787-19795))は、遺伝子シャッフリングによって改変される。具体的には、rhlAB、rhlAまたはrhlBコード領域、あるいは上記のコード領域のいずれかのセグメントは、遺伝子シャッフリングによって改変されて、中間鎖長の3-ヒドロキシアシルACPチオエステラーゼ活性をコードする酵素を生じる。シャッフルされた遺伝子のライブラリーは、phaG変異株の補完についてか、または適切なPHAシンターゼおよび3-ヒドロキシアシル-CoAシンテターゼを発現する異種細菌において、試験され得る。
【0025】
1つの実施形態において、導入遺伝子は、葉でのみ発現される。この目的のために適切なプロモーターとしては、35Sエンハンサーの後ろのC4PPDKプロモーター(Sheen、J.、EMBO、1993、12、3497-3505)または葉での発現に有用な他の任意のプロモーターが挙げられる。葉特異的な導入遺伝子の1つの実施形態において、3-ヒドロキシアシルACPチオエステラーゼ、PHAシンターゼおよびアシルCoAシンテターゼ活性の酵素活性を有する酵素をコードする導入遺伝子の5’末端は、導入遺伝子とインフレームで連結された葉緑体標的化ペプチドをコードする配列を含むように操作される。葉緑体標的化配列は、葉緑体または色素体に対してタンパク質を標的化し得る任意のペプチド配列である(例えば、アルファルファのリブロース二リン酸カルボキシラーゼの小サブユニットの一過性(transit)ペプチド(Khoudi,H.、Vezina,L.-P.、Mercier,J.、Castonguay,Y.、Allard,G.、Laberge,S.、Gene 1997,197、343-351)またはpea rubisco葉緑体標的化シグナル(Cashmore,A.R.(1983)、Genetic Engineering of plants、Kosuge,T.、Meredith,C.P.およびHollaender,A.編(Plenum、New York)、29-38頁;Nawrath,C.、Poirier,Y.およびSomerville,C.(1994)PNAS.91:12760-12764))。葉緑体への全てのポリペプチドの輸送は、葉緑体中のポリマーの蓄積を生じる。1つの実施形態において、葉緑体標的化CoAトランスフェラーゼは、アシルCoAシンテターゼの代わりに使用される。この実施形態において、CoAトランスフェラーゼは、宿主生物に存在するアシルCoAから、3-ヒドロキシ脂肪酸にCoAを転移させ、PHAシンターゼについてのモノマー単位を形成する。
【0026】
葉特異的な導入遺伝子の発現の別の実施形態において、phaG導入遺伝子のみが、葉緑体標的化ペプチドをコードする配列を含むように操作される。PhaCをコードする導入遺伝子は、小器官を標的化せず、細胞質ゾルへのポリペプチドの輸送を可能にする。この実施形態において、中間鎖長の3-ヒドロキシ脂肪酸は、PhaGによって脂肪酸生合成から誘導され、そして葉緑体から細胞質ゾルへ優先的に輸送され、その結果、これらは、トリアシルグリセロールに取り込まれ得るか、または分解のためにペルオキシソームに指向される。細胞質ゾルPhaCの存在は、それらが分解されるか、または脂質に取り込まれる前に、異常な脂肪酸の一部から、PHAへの転換を可能にする。1つの実施形態において、植物の内因性アシルCoAシンテターゼは、細胞質ゾルに指向されるアシルCoAシンテターゼをコードする導入遺伝子の発現によって、補充される。本発明の代替の実施形態において、CoAトランスフェラーゼは、アシルCoAシンテターゼの変わりに利用される。
【0027】
代替の実施形態において、導入遺伝子は、発生中の種子においてのみ発現される。この目的のために適切なプロモーターとしては、napin遺伝子プロモーター(米国特許第5,420,034号;同第5,608,152号)、アセチル-CoAカルボキシラーゼプロモーター(米国特許第5,420,034号;同第5,608,152号)、2Sアルブミンプロモーター、種子保存タンパク質プロモーター、ファゼオリンプロモーター(Slightomら、1983、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:1897-1901)、オレオシンプロモーター(plantら、1994、Plamt Mol.Biol.25:193-205;Rowleyら、1997、Biochim.Biophys.Acta.1345:1-4;米国特許第5,650,554号;PCT WO93/20216)、ゼインプロモーター、グルテリンプロモーター、デンプンシンターゼプロモーター、デンプン分枝酵素プロモーターなどが挙げられる。
【0028】
種子特異的な導入遺伝子発現の1つの実施形態において、3-ヒドロキシアシルACPチオエステラーゼ、PHAシンターゼおよびアシルCoAシンテターゼの触媒活性を有する酵素をコードする導入遺伝子の5’末端は、導入遺伝子とインフレームで連結された、色素体標的化ペプチドをコードする配列を含むように操作される。色素体標的化配列は、葉緑体または色素体にタンパク質を標的化し得る任意のペプチドである。全てのポリペプチドを色素体に指向させることにより、種子の色素体におけるポリマーの優先的な蓄積を生じる。代替の実施形態において、色素体標的化CoAトランスフェラーゼは、アシルCoAシンテターゼの代わりに利用される。
【0029】
種子特異的発現の別の実施形態において、phaG導入遺伝子のみが、色素体標的化ペプチドをコードする配列を含むように操作される。PhaCをコードする導入遺伝子は、小器官に標的化されず、細胞質ゾルへのポリペプチドの輸送を可能にする。この実施形態において、PhaGによる脂肪酸生合成に由来する3-ヒドロキシアシル脂肪酸は、色素体から輸送されて、細胞質ゾルのPhaCによって、発生中の種子の細胞質ゾル中でPHAに転換される。1つの実施形態において、植物の内因性アシルCoAシンテターゼは、細胞質ゾルに指向されるアシルCoAシンテターゼをコードする導入遺伝子の発現によって補充される。代替の実施形態において、CoAトランスフェラーゼは、アシルCoAシンテターゼの代わりに利用される。
【0030】
代替的実施形態において、PHA生成は、葉または種子のペルオキシソームに標的化され得る。この実施形態において、phaG導入遺伝子の5’末端は、この導入遺伝子とインフレームで連結した葉緑体標的化ペプチドまたはプラスチド標的化ペプチドをコードする配列を含むように操作される。phaC導入遺伝子は、N末端またはC末端の適切なペルオキシソーム標的化配列とインフレームで連結される。ペルオキシソーム標的化シグナルは、葉または種子のペルオキシソームにタンパク質を標的化し得る任意のペプチド配列(例えば、Brassica napusイソクエン酸リアーゼのC末端の34アミノ酸)(Olsen,L.J.,Ettinger,W.F.,Damsz,B.,Matsudaira,K.,Webb,M.A.,Harada,J.J.1993,Plant Cell,5,941-952)である。PhaGによる葉緑体またはプラスチドの脂肪酸生合成から転送された3-ヒドロキシアシル脂肪酸は、オルガネラから外に輸送され、そして分解のためにペルオキシソームに輸送されるか、またはトリアシルグリセリドに組み込まれるかのいずれかである。ペルオキシソームに標的化されたPhaCの存在により、ペルオキシソームに入った3-ヒドロキシ脂肪酸がPHAに変換される。中間鎖長の3-ヒドロキシ脂肪酸の種子中のトリアシルグリセリドへの組み込みは、新規な植物油を生成させる。1つの実施形態において、植物の内因性アシルCoAシンテターゼは、ペルオキシソームに方向付けられたアシルCoAシンテターゼをコードする導入遺伝子の発現により補完される。代替的実施形態において、ペルオキシソームに標的化されたCoAトランスフェラーゼが、アシルCoAシンテターゼの代わりに利用される。
【0031】
各転写物の最も3’側の末端において、ポリアデニル化シグナルが操作され得る。ポリアデニル化シグナルとは、mRNAの細胞質ゾルへの輸送の前に、核におけるmRNAのポリアデニル化を生じ得る任意の配列(例えば、ノパリンシンターゼの3’領域)(Bevan,M.,Barnes,W.M.,Chilton,M.D.,Nucleic Acids Res.1983,11,369-385)をいう。
【0032】
代替的実施形態において、この遺伝子は、1つのプロモーターおよび1つのポリアデニル化シグナルから発現が達成されるように、操作され得る。1つの実施形態において、遺伝子は、ポリプロテインとして発現され得、ウイルスプロテアーゼの作用を介して成熟コード配列へ切断され得る(Dasgupta,S.,Collins,G.B.,Hunt,A.G.The Plant Journal,1998,16,107-116;米国特許第5,846,767号)。代替的実施形態において、各コード領域は、1つのポリシストロニックmRNA上の複数部位における翻訳開始を可能にする、内部リボソーム進入部位に続いている(WO98/54342)。
【0033】
記載された発明の実施において有用な選択マーカー遺伝子としては、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子nptII(米国特許第5,034,322号、同第5,530,196号)、ハイグロマイシン耐性遺伝子(米国特許第5,668,298号)、およびホスフィノスリシンに対する耐性をコードするbar遺伝子(米国特許第5,276,268号)が挙げられる。EP0530129A1は、増殖培地に添加された不活性化合物を活性化するする酵素をコードする導入遺伝子を発現させることにより、形質転換した植物を、形質転換していない系統より大きく成長させることを可能にするポジティブ選択系を記載する。米国特許第5,767,378号は、トランスジェニック植物のポジティブ選択のためにマンノースまたはキシロースを用いることを記載する。有用なスクリーニング可能なマーカーとしては、β-グルクロニダーゼ遺伝子(Jeffersonら、1987,EMBO J.6:3901-3907;米国特許第5,268,463号)およびネイティブ緑色蛍光タンパク質遺伝子または改変緑色蛍光タンパク質遺伝子(Cubittら、1995,Trends Biochem Sci.20:448-455;Pangら、1996,Plant Physiol.112:893-900)が挙げられる。これらのマーカーのいくつかは、形質(例えば、投入側にさらなる作物的価値を提供する、目的の植物への除草剤耐性)を導入する付加された利点を有する。
【0034】
これらのベクターを用いた適切な作物植物宿主の形質転換は、一定範囲の方法および植物組織により達成され得る。適切な植物としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:バイオマス作物(例えば、タバコ、アルファルファ、およびアメリカクサキビ(switch grass))、および脂肪種子作物(例えば、トウモロコシ、ダイズ、綿実、ヒマワリ、ヤシ、ココナツ、ベニバナ、アマ、および落花生)ならびにマスタード(Sinapis albaが挙げられる)、およびBrassica科(napus、rappa,sp.carinataおよびjunceaが挙げられる)。これらのベクターを用いた形質転換に適切な組織としては、以下が挙げられる:プロトプラスト、細胞、カルス組織、リーフディスク、花粉、分裂組織など。適切な形質転換手順としては、Agrobacterium媒介形質転換、微粒子銃(biolistics)、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、ポリエチレングリコール媒介プロトプラスト形質転換、リポソーム媒介形質転換、シリコン繊維媒介形質転換(米国特許第5,464,765号)などが挙げられる。(Gene Transfer to Plant(1995),Potrykus,I.およびSpangenberg,G.編 Springer-Verlag Berlin Heidelberg New York;「Transgenic Plants:A Production System for Industrial and Pharmaceutical Proteins」(1996)、Owen,M.R.L.and Pen,J.編 John Wiley&Sons Ltd.,EnglandならびにMethods in Plant Molecular Biology-a laboratory course manual(1995),Maliga,P.,Klessig,D.F.,Cashmore,A.R.,Gruissem,W.およびVarner,J.E.編,Cold Spring Laboratory Press,New York)。トウモロコシのような単子葉植物の形質転換は、米国特許第5,591,616号に記載される。
【0035】
構築物を用いてトランスジェニック植物を作製するために、上記の方法にいずれか1つによる形質転換後に、以下の手順が用いられて、導入遺伝子を発現する形質転換植物が得られ得る:形質転換された植物細胞を選択培地上で選択する;この形質転換された植物細胞を再生して、分化した植物を生成する;所望のポリペプチドを所望の組織位置および細胞位置で得るようなレベルで導入遺伝子を発現する形質転換植物を選択する。
【0036】
特定の有用な作物については、形質転換手順が確立されている(Gene Transfer to Plants(1995),Potrykus,I.およびSpangenberg,G.編 Springer-Verlag Berlin Heidelberg,New York;「Transgenic Plants:A Production System for Industrial and Pharmaceutical Proteins」(1996)、Owen,M.R.L.およびPen,J.編,John Wiley&Sons Ltd.,EnglandならびにMethods in Plant Molecular Biology-a laboratory course manual(1995),Maliga,P.,Klessig,D.F.,Cashmore,A.R.,Gruissem,W.and Varner,J.E.編 Cold Spring Laboratory Press,New York)。
【0037】
本明細書中に開示される方法はまた、例えば、以下により植物油組成のC8およびC10のヒドロキシ酸または脂肪酸のレベルを増大させるために用いられ得る:a)3-ヒドロキシアシル-ACPチオエステラーゼの触媒活性を有する酵素をコードする導入遺伝子を発現させる、およびb)この植物を、植物油組成の生成のために適切な条件下で生長させる。
【0038】
以下の実施例は、ネイティブでない細菌PHAプロデューサーの改変、および脂肪酸生合成経路からの中間鎖長PHA生成のための植物をさらに例示する。
【0039】
(実施例)
(実施例1:PhaGおよびPhaCについてのE.coli発現カセットの構築)
PhaGをコードする遺伝子を、プライマーphaGF-EcoRIおよびphaGR-KpnIを用いてPseudomonas putidaゲノムDNAからPCRにより単離し、E.coli発現ベクターpTRCNのEcoRI部位およびKpnI部位にクローニングして、プラスミドpMTX-phaGを形成した。pMTX-phaGにおけるphaG挿入物の配列(配列番号9)は、Genbankに列挙された配列と同一であることが分かった(登録番号AF052507)。
【0040】
【化1】

【0041】
プラスミドpSU18-KPS1.2N#3(Pseudomonas oleovorans由来のシンターゼ1を発現する)を、以下のように多工程手順を用いてプラスミドpKPS1.2から、構築した。プラスミドpKS1.2は、ベクターpKK223-3(Amersham Pharmacia Biotech,Piscataway,NJ)におけるそのネイティブなリボソーム結合部位とともにphaCを含む。このフラグメントは、WO91/00917に記載の6.459kb EcoRIフラグメントの塩基535?2241に等価である。隣接するBamHI部位およびHindIII部位を含むpKPS1.2のphaCフラグメントを、pTRCNにサブクローニングして、pTRCNKPS1.2を形成した。pTRCN-KPS1.2を発現するE.coliの粗溶解物のSDS-PAGE分析により、検出可能なシンターゼの発現は示されなかった。
【0042】
さらにシンターゼの発現を最適化するために、最適なE.coliリボソーム結合部位を、PCRを用いてそのシンターゼの開始コドンの上流に配置した。0.43kbフラグメントを、プラスミドpTRCN-KPS1.2から、プライマーPosyn1-NおよびPosyn1-nrSacIIを用いて増幅し、ベクターpTRCNのEcoRI/SmaI部位に、EcoRI/平滑末端化フラグメントとしてクローニングした。
【0043】
【化2】

【0044】
DNA配列決定により、PCRフラグメントの野生型配列が単離されたことを確認した。インタクトなシンターゼ遺伝子を、PCRフラグメントの直ぐ後ろにあるSacII/HindIII部位に、1.2kb C末端SacII/HindIIIシンターゼフラグメントをサブクローニングすることにより再構築して、プラスミドpTRCN-KPS1.2Nを形成した。プラスミドpTRCN-KPS1.2NのDNA配列は、配列番号10に示される(pKPS1.2N)。pTRCN-KPS1.2を発現するE.coliの粗溶解物のSDS-PAGE分析により、ベクターpTRCN単独を含むコントロール株の粗溶解物中に存在しない、約60kDaのバンドの発現が示された。
【0045】
プラスミドpSU-PhaC_(P.o.)trc.PhaG(1つのプラスミドからPhaCおよびPhaGの両方を発現する)を、以下の多工程クローニング手順を用いて作製した。強いE.Coliリボソーム結合部位とシンターゼの完全なコード領域とを含む1.64kb EcoRI/HindIIIフラグメントを、プラスミドpTRCN-KPS1.2Nから単離し、pSU18のEcoRI部位およびHindIII部位にクローニングし、プラスミドpSU18-KPS1.2#3を形成した。ベクターpSU18は、pSU2718に由来する中間コピー数のプラスミドであり(Martinez,E.;Bartolome,B.;de la Cruz,F.Gene 1988,68,159)、p15A複製起点およびクロラムフェニコール耐性マーカーを含む。プラスミドpMTX-phaGに由来するtrcプロモーターおよびphaGをコードするフラグメントを、以下のようにpSU18-KPS1.2N#3に挿入した。1.002kbフラグメントを、プライマーtrc-phaG.c、プライマーtrc-phaG.rおよびテンプレートpMTX-phaGを用いてPCRにより生成し、pSU18-KPS1.2N#3のHindIII部位にクローニングした。得られたプラスミドpSU-PhaC._(P.o.)trc.PhaGは、pSU18のlacプロモーターの後ろにphaC、およびtrcプロモーターの後ろにphaGを含む。プラスミドpSU-PhaC_(P.o.)trc.PhaGについてのPhaC._(P.o.)trc.PhaG挿入物の配列を、配列番号11に示す。
【0046】
【化3】

【0047】
(実施例2:PhaGおよびPhaCを発現する組換えE.coli株における3-ヒドロキシオクタン酸および3-ヒドロキシデカン酸の生成)
炭素源としてグルコースを用いてE.coliにおいてPHAを生成する試みにおいて、宿主株JM109(Promega,Madison,WI)を、以下からなる群より選択されるプラスミドを用いて形質転換した:pSU-PhaC._(P.o.)trc.PhaG(中間鎖長のシンターゼおよびPhaGの発現プラスミド)、pSU18(pSU-PhaC._(P.o.)trc.PhaGについてのコントロールベクター)、およびpTRCN(さらなる遺伝子を挿入することができるプラスミド)。JM109/pTRCN/pSU18およびJM109/pSU-PhaC._(P.o.)trc.PhaGの開始培養物(5mL)を、アンピシリン(100mg/L)およびクロラムフェニコール(25mg/L)を含有するLB培地(Difco)に単一コロニーを用いて接種した。この培養物を30℃で一晩増殖させた。開始培養物を、アンピシリンおよびクロラムフェニコールを含有するLB培地(5mL)中に希釈し(1:100)、250RPMで攪拌しながら30℃で10時間増殖させた。この培養物を採取し、細胞を2.5mLの培地E塩(Vogel,J.H.およびBonner,D.M.,J.Biol.Chem.1956,218,97-106)を用いて2回洗浄した。細胞ペレットを2.5mLの培地E塩中に再懸濁し、1mLの懸濁液を用いて、遺伝子発現のためにフラスコに接種した。培養を、100mLの培地E塩、1.5%グルコース、1mg/Lチアミン、100mg/L アンピシリン、および25mg/Lクロラムフェニコールを含有する500mLのエルレンマイヤーフラスコ中で行った。このフラスコを、600nmでの吸光度が0.4に達するまで30℃でインキュベートした。遺伝子発現を0.4mM IPTGを用いて誘導し、採取する前に、フラスコをさらに48時間、30℃でインキュベートした。
【0048】
細胞を、12,000gでの遠心分離によって、培養上清から分離した。細胞ペレットを、25mLの培地E塩で2回洗浄し、凍結乾燥器中で一晩乾燥させた。その細胞上清の一部(3mL)を、液体N_(2)中で凍結させ、そして凍結乾燥器中で蒸発させて乾燥させた。細胞ペレット、細胞上清サンプル、および3-ヒドロキシアルカン酸標準(3-ヒドロキシヘキサノエート、3-ヒドロキシオクタノエート、3-ヒドロキシデカノエート、3-ヒドロキシドデカノエート)を、これらを以下のように、対応するブチルエステルに変換することによって、ガスクロマトグラフィーによる分析用に調製した。加ブタノール分解試薬[9部ブタノール:1部HCl:1mg/mL内部標準メチル安息香酸]のアリコート(2mL)を、ネジ蓋付きバイアル中のこのサンプルに添加し、そしてこのサンプルを、110℃で2時間インキュベートした。このバイアルを冷却し、そして水(3mL)を添加した。このサンプルをボルテックスにかけ、そして卓上遠心分離器における遠心分離によって、水層および有機層を分離した。その有機相のアリコート(1μL)を、Hewlett Packardガスクロマトグラフに連結したSPB-1溶融シリカキャピラリーGCカラム(30m;内径0.32mm;0.25μmフィルム;Supelco;Bellefonte,Pa.)上で、分配比1:50および流速2mL/分を使用して分析した。この分析についての温度プロフィールは、以下の通りであった:80℃、2分;1分につき10℃で250℃まで;250℃、2分。
【0049】
PhaCおよびPhaGを発現する株JM109/pSU-PhaC._(P.o.)trc.PhaG/pTRCNおよびコントロールベクターのみを含む株JM109/pSU18/pTRCNの細胞ペレット全体のGC分析は、PHAモノマー単位のブチルエステルに対応するいかなるピークも生じなかった。しかし、ブチル3-ヒドロキシオクタノエートと同等な保持時間を有するピークおよびブチル3-ヒドロキシデカノエートと同等な保持時間を有するピークが、加ブタノール分解により誘導体化されたJM109/pSU-PhaC._(P.o.)trc.PhaG上清のGCクロマトグラムにおいて、観察された。加ブタノール分解により誘導体化された既知量の3-ヒドロキシオクタン酸および3-ヒドロキシデカン酸を含むピークと比較することにより、そのピークは0.14mMブチル3-ヒドロキシオクタノエートおよび0.32mMブチル3-ヒドロキシデカノエートを含むことが、見出された(表1)。株JM109/pSU18/pTRCN由来の培養上清は、3-ヒドロキシ酸のブチルエステルに対応するいかなるピークも含まなかった(表1)。
【0050】
(実施例3:PhaG、PhaC、およびアシルCoAシンテターゼ(AlkK)についてのE.coli発現カセットの構築)
3-ヒドロキシアシルCoA(図1、経路A)の代わりに3-ヒドロキシアシルACPから遊離脂肪酸へのPhaG触媒変換(図1、経路B)は、PhaGおよびPhaCを発現するE.coli株由来の誘導体化培養上清のGCクロマトグラムにおいて3-ヒドロキシアシルブチルエステルが観察されることについての、1つの説明を提供し得た。実施例2に記載されるE.coli蓄積研究において、ネイティブE.coliアシルCoAシンテターゼは、FadR(転写調節因子として機能するE.coliタンパク質)(Black,P.N.、DiRusso,C.C.、Metzger,A.K.、Heimert,T.L.、J.Bio.Chem.1992、267、25513?25520)によるアシルCoAシンテターゼをコードする遺伝子(fadD)の転写抑制に起因して、使用された最小培地増殖条件において誘導されなかったかもしれない。あるいは、FadDは、中間鎖長の3-ヒドロキシ脂肪酸について基質特異性を有さないかもしれない。
【0051】
アシルCoAシンテターゼの添加によりポリマー形成が促進されるか否かを試験するために、alkKによりコードされる細胞質ゾルアシルCoAシンテターゼ(van Beilen,J.B.;Eggink,G.;Enequist,H.;Bos,R.;Witholt,B.、Mol.Microbiol.1992,6,3121?3136)を、Pseudomonas oleovoransゲノムDNAから、プライマーPosynrbs.cおよびPosynrbs.rを使用して増幅した。
【0052】
【化4】

【0053】
そのPCR産物をEcoRIおよびBamHIで消化し、そして発現ベクターpTRCNのEcoRI部位およびBamHI部位中にクローニングして、プラスミドpTRCNalkKを形成させた。この細菌発現構築物pTRCNalkK中のalkKの配列は、配列番号12に示される。Genbank中のalkKの配列(Genbank登録番号X65936)に対してこのPCR産物を比較することによって、2つの差異が明らかとなった。(「ATG」の「A」から346塩基の)「c」の代わりに「t」が観察され、コード配列中のロイシンの代わりにフェニルアラニンが生じた。(「ATG」の「A」から386塩基の)「a」の代わりに「g」が観察され、コード配列中のヒスチジンの代わりにアルギニンが生じた。6つの別個のPCR産物が、両方の配列矛盾を含んだ。このことは、これらの矛盾が、PCRにより導入された変異ではないが、このPCR反応においてテンプレートとして使用された遺伝子の真のコード配列を反映することを、示唆する。
【0054】
AlkKのアシルCoAシンテターゼ活性を、以下の手順を使用して評価した。DH5α/pTRCNおよびDH5α/pTRCN-AlkKの5mL開始培養物を、100mg/Lアンピシリンを含む2×YT中に調製した。この培養物を接種し、30℃で16時間振盪した。この培養物を、250mLのエルレンマイヤーフラスコ中の100mLの2×YT中に1:100希釈した。その細胞を、600nmでの吸光度が約0.6になるまで、30℃でインキュベートした。0.4mM IPTGを用いて遺伝子発現を誘導し、そのフラスコを30℃に4時間戻した。遠心分離によってその細胞を収集し、10mM Tris-Cl緩衝液(pH7.5)中に再懸濁し、そして超音波処理によって破壊した。エルマン試薬[5,5’-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸);DTNB](Ellman,G.L.、1959、Arch.Biochem.Biophys.82 70?77)を使用して410nmで補酵素Aの消費をモニターすることによって、アシルCoAシンテターゼ活性を評価した。このアッセイ混合物(500μl)は、200mM KH_(2)PO_(4)(pH7)、7.5mM CoA、3.75mM ATP、5mM MgCl_(2)、4.2mM脂肪酸酵素を含んだ。オクタン酸および3-ヒドロキシオクタン酸を、この反応における脂肪酸基質として使用した。この反応は室温で実施し、そして酵素の添加によって開始した。アリコート(10μl)を30秒毎に取り出し、そして140μlの5%トリクロロ酢酸中でクエンチした。微小遠心分離機における1分間の遠心分離によって、沈殿したタンパク質を除去し、そしてその上清のアリコート(100μl)を、690μlの500mM KPi(pH7.4)中に希釈した。DTNBストックのアリコート[500mM KPi(pH7.4)中の10mMストック溶液10μl]を添加し、そしてそのサンプルを、室温で2分間インキュベートした。その反応の各時点で消費されたCoAの量を、410nmでの吸光度の値(ε=13.7mM^(-1)cm^(-1))から定量した(図2および図3)。
【0055】
株DH5α/pTRCN-AlkKは、上記の酵素アッセイ手順を使用してオクタン酸存在下でアシルCoAシンテターゼについてアッセイした場合に、0.22 U/mgの活性を有した。コントロール株であるDH5α/pTRCNは、0.00081 U/mgの活性を有した。3-ヒドロキシオクタン酸の存在下でアッセイした場合、コントロール株DH5α/pTRCNで観察された0.00063 U/mgと比較して、DH5α/pTRCN-AlkKは、0.21U/mgを有した。
【0056】
(実施例4:PhaC、PhaG、およびAlkKを発現するE.coliにおける中間鎖長のPHAの生成)
細胞質ゾルアシルCoAシンテターゼの存在によってPhaGおよびPhaCを発現するE.coli株におけるポリマー生成が可能になる否かを決定するために、実施例2に記載されるポリマー蓄積研究のために株JM109/pSU-PhaC._(P.o.)trc.PhaG/pTRCN-AlkKを調製した。加ブタノール分解により誘導体化された細胞全体のGCクロマトグラムは、20.1モル%の3-ヒドロキシオクタン酸および79.9モル%の3-ヒドロキシデカン酸から構成される、2.2乾燥細胞重量%のポリマーを含んだ(表1)。JM109/pSU-PhaC._(P.o.)trc.PhaG/pTRCN-AlkK上清のGCクロマトグラム中の3-ヒドロキシブチルエステルの存在は、0.16mMのブチル3-ヒドロキシデカノエートを生じブチル3-ヒドロキシオクタノエートを生じなかったJM109/pSU-PhaC._(P.o.)trc.PhaG細胞上清(表1)のGCクロマトグラムと比較して、有意に減少した。ポリマー生成のためにE.coliにおいて補助的アシルCoAシンテターゼ活性が必要なことは、PhaGが、インビトロでは3-ヒドロキシアシルACPチオエステラーゼ活性のみを有する(図1、経路B)ことを示唆する。
【0057】
実施例2に記載される実験において、アシルCoAシンテターゼの発現をアシルCoAシンテターゼ転写のFadR調節が妨げるか否かを決定するために、FadR^(-)株LS5218[fadR 601,atoC 512(con);CGSC株#6966;E.coli Genetic Stock Center、Yale University]を、ポリマー蓄積研究のための宿主株として使用した。株LS5218/pSU18(コントロール株)およびLS5218/pSU-PhaC._(P.o.)trc.PhaG(PhaCおよびPhaGの発現株)を、実施例2に記載されるように調製して培養した。但し、LS5218に関するすべての実験において、0.4%グルコースを炭素源として使用した。株LS5218/pSU-PhaC._(P.o.)trc.PhaG(PhaCおよびPhaGの発現株)は、9.9モル%の3-ヒドロキシオクタン酸および90.1モル%の3-ヒドロキシデカン酸からなる、4.5乾燥細胞重量%のポリマーを含んだ(表1)。その培養上清において、中間鎖長の3-ヒドロキシ酸は観察されなかった(表1)。株LS5218/pSU18(コントロール株)は、ポリマーの細胞内蓄積を生じず、そして中間鎖長ヒドロキシ酸を培養上清中に排出しなかった(表1)。これらの結果は、アシルCoAシンテターゼ転写のFadR調節は、株JM109/pSU-PhaC._(P.o.)trc.PhaGにおけるネイティブアシルCoAシンテターゼの発現を妨げ(実施例2)、ポリマー形成を妨げたかもしれないことを、示唆する。
【0058】
表1.観察された3-ヒドロキシアシルブチルエステルの濃度^(a)
【0059】
【表1】

【0060】
^(a)誘導体化された培養上清および細胞サンプルにおいてガスクロマトグラフィーによって観察された。上清サンプルは、凍結乾燥し、加ブタノール分解試薬で誘導体化し、そしてガスクロマトグラフに注入した。そのサンプル中の3-ヒドロキシアシルブチルエステルを、既知量の標準サンプル3-ヒドロキシ脂肪酸の加ブタノール分解誘導体化によって定量した。
【0061】
^(b)少量の化合物が検出されたが、定量不能である。
【0062】
(実施例5:PhaGおよびPhaCの葉緑体特異的発現のための植物ベクターの構築、ならびにArabidopsis thalianaの形質転換)
PhaG発現用構築物およびPhaC発現用構築物を、植物の葉緑体中のPhaGおよびPhaCがPHA生成をもたらすか否かを決定するための形質転換用に調製した(図4Aおよび図4B)。
【0063】
プラスミドpCambia-Rbc.PhaG.PhaC1(図4A)は、植物形質転換ベクターであるpCambia 2300(Center for the Application of Molecular Biology to International Agriculture,Canberra,Australia)の誘導体であり、アルファルファrubiscoプロモーター(Khoudi,H.,Vezina,L.P.,Mercier,J.,Castonguay,Y.,Allard,G.,Laberge,S.、1997、Gene 197:343?351)、アルファルファrubisco葉緑体標的化シグナル(Khoudi,H.,Vezina,L.P.,Mercier,J.,Castonguay,Y.,Allard,G.,Laberge,S.、1997、Gene 197:343?351)、PhaGコード遺伝子、およびアルファルファrubisco終結配列(Khoudi,H.,Vezina,L.P.,Mercier,J.,Castonguay,Y.,Allard,G.,Laberge,S.、1997、Gene 197:343?351)をコードする発現カセットと、その後に続く、アルファルファrubiscoプロモーター、アルファルファrubisco葉緑体標的化シグナル、Pseudomonas aeroginosa由来のPhaC1コード遺伝子(Timm,A.およびSteinbuchel,A.、J.Appl.Microbiol.1992,209,15?30)、およびアルファルファrubisco終結配列をコードする発現カセットと、を含む。
【0064】
プラスミドpBI-C4PPDK.PhaG.Rbc.PhaC(図4B)は、植物形質転換ベクターであるpBI101(Clontech,PaloAlto,California)の誘導体であり、35S-C4PPDKプロモーター(Sheen,J.EMBO 1993,12,3497?3505)、エンドウマメrubisco葉緑体標的化シグナル(エンドウマメrubiscoタンパク質のN末端の24アミノ酸をコードするDNAを含む)(Cashmore,A.R.,1983、Genetic Engineering of Plants、Kosuge,T.,Meredith,C.P.およびHollaender,A.編(Plenum,New York)、p29?38;Nawrath,C.,Poirier,Y.およびSomerville,C.,1994、PNAS.91:12760?12764)、およびNos終結配列(Bevan,M.,Barnes,W.M.,Chilton,M.D.,Nucleic Acids Research 1983,11,369?385)をコードする発現カセットと、その後に続く、アルファルファrubiscoプロモーター、アルファルファrubisco葉緑体標的化シグナル、Pseudomonas aeroginosa由来のPhaC1コード遺伝子、およびアルファルファrubisco終結配列をコードする発現カセットと、を含む。
【0065】
プラスミドを、Agrobacterium株GV3101/pMP90(Konz,C.およびSchell,J.、Mol.Gen.Genet.1986,204,383?396)を用いて、CloughおよびBentのAgrobacterium媒介性花浸漬(floral dip)手順(Clough,S.J.およびBent,A.F.、Plant Journal,1998,16,735?743)を使用して形質転換した。成熟長角果から種子を単離し、そしてその種子を、1/2×ムラシゲ最小有機培地(Life Technologies,Rockville,MD)、0.7%寒天、1×ガンボーグB5ビタミン(Sigma,St.Louis,MO)および50μg/mLカナマイシンを含む選択培地上に、プレーティングした。7日後、カナマイシン選択耐性である緑色実生と、カナマイシン選択感受性である白色実生が、プレート上に出現した。この緑色実生を、土壌に移し、そして成熟させた。
【0066】
ポリマー分析のために、成熟植物(約6週齢)由来の葉を、回収しそして凍結乾燥させた。乾燥組織(30?150mg)を挽いて、そしてヘキサンのアリコート(2?5mL)を各チューブに添加した。サンプルを、時折ボルテックスに供しながら、70℃にて4時間加熱した。ヘキサン画分を、遠心分離によって固形の細胞材料から分離し、そしてきれいなチューブに移した。チューブ中の残った細胞細片を、さらなるヘキサンのアリコート(1mL)で洗浄し、そしてこのヘキサン洗浄液を、先の工程由来のヘキサン画分と共にプールした。
【0067】
このヘキサン画分を、1容量のNaHCO_(3)の飽和溶液での抽出(2回)、その後の1容量のH_(2)Oでの抽出によって、さらに精製した。ヘキサン画分(フラクションA)を、フード中70℃にて、エバポレートして乾燥させた。先の工程由来の炭酸水素塩溶液相を、プールし、HClでpH2までに酸性化し、1容量のヘキサンで抽出し、そして得られたヘキサン層(フラクションB)を、フード中70℃にて、エバポレートして乾燥させた。
【0068】
フラクションAおよびB由来のサンプルならびに3-ヒドロキシアルカン酸標準(3-ヒドロキシヘキサノエート、3-ヒドロキシオクタノエート、3-ヒドロキシデカノエート、3-ヒドロキシドデカノエート)のサンプルを調製し、実施例2において先に記載したように、これらを対応するブチルエステルに変換することによって、ガスクロマトグラフィーで分析した。pCambia-Rbc.PhaG.PhaC1で形質転換した66個のトランスジェニックArabidopsis植物およびpBI-C4PPDK.PhaG.Rbc.PhaCで形質転換した9個のトランスジェニックArabidopsis植物から調製されたフラクションAおよびBのGCクロマトグラムは、微量のポリマーおよびモノマーのいずれをも含まなかった。ポリマーは、存在する場合、フラクションA中に予測され、一方、モノマーは、存在する場合、フラクションB中に予測された。pBI-C4PPDK.PhaG.Rbc.PhaCで形質転換した12個のトランスジェニック植物およびpCambia-Rbc.PhaG.PhaC1で形質転換した8個のトランスジェニック植物由来の葉のRT-PCRを、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応のためのProSTAR HF Single-Tube RT-PCRキット(Stratagene,La Jolla,California)を使用して行った。12個のpBI-C4PPDK.PhaG.Rbc.PhaC植物のうち4個が、phaGおよびphaCの両方について予測されたサイズの転写物を含んだ(表2)。分析した8個のpCambia-Rbc.PhaG.PhaC1植物のうち、phaGおよびphaCの両方について予測されたサイズの産物を含むのは0個であったが、いくつかの植物が、phaGまたはphaCのいずれかの転写物を含んだ(表2)。
表2.コントロール植物由来のRNAサンプルに対して行ったRT-PCR反応の結果
【0069】
【表2】

【0070】
(実施例6:PhaG、PhaCおよびAlkKを使用する葉の葉緑体または種子の色素体におけるPHA産生のための植物発現カセット)
phaGおよびphaCのRNA転写物の首尾よい産生にもかかわらず、Arabidopsis thalianaが葉緑体中でPHAを産生し得ないことは、植物の葉緑体が、その葉緑体においてPhaGが発現される場合に、3-ヒドロキシアシルACP-CoAトランスフェラーゼ反応を首尾よく完了し得ないかもしれないことを示唆する。中間鎖長の3-ヒドロキシ酸に対して活性を有するアシルCoAシンテターゼと共にPhaGの3-ヒドロキシアシルACPチオエステラーゼ活性を補充することは、PHA合成のための3-ヒドロキシアシルCoAの首尾よい形成を可能にし得る。
【0071】
植物発現構築物pUC-C4PPDK.TS.AlkKにおけるalkKの配列を、配列番号13に示す。配列「tctaga」(配列番号14)および「ggtacc」(配列番号15)は、クローニング目的のために導入される、それぞれ、XbaI制限酵素部位およびKpnI制限酵素部位である。開始コドン「ATG」および終止コドン「TGA」を、大文字で示す。PCR産物で観察された2つの配列の差を、太字のイタリックの大文字で示す。プラスミドpUC-C4PPDK.TS.AlkKを開始プラスミドとして使用して、alkKを含む他の植物発現構築物を作製した。
【0072】
葉の葉緑体におけるPHA産生のために、プラスミドpCambia-C4PPDK.TS.PhaG.TS.AlkK.TS.PhaC_(P.o.)(図5A)を設計した。プラスミドpCambia-C4PPDK.TS.PhaG.TS.AlkK.TS.PhaC_(P.o.)は、以下を含む:35S-C4PPDKプロモーター、エンドウrubisco葉緑体標的化シグナル(エンドウrubiscoタンパク質のN末端24アミノ酸をコードするDNAを含む)、PhaGをコードするフラグメント、Nos終結配列、35S-C4PPDKプロモーター、エンドウrubisco葉緑体標的化シグナル(エンドウrubiscoタンパク質のN末端24アミノ酸をコードするDNAを含む)、AlkKをコードするフラグメント、Nos終結配列、35S-C4PPDKプロモーター、エンドウrubisco葉緑体標的化シグナル(エンドウrubiscoタンパク質のN末端24アミノ酸をコードするDNAを含む)、Pseudomonas oleovorans由来のPhaCをコードするフラグメントおよびNos終結配列。
【0073】
プラスミドpCambia-C4PPDK.TS.PhaG.TS.AlkK.TS.PhaC_(P.o.)を、実施例5において先に記載されるように、Arabidopsisに形質転換し得るか、または以下の手順に記載されるように、Tobaccoに形質転換し得る。無菌条件下での層流中で、タバコ植物由来の葉を、10% ブリーチおよび0.1% Tween 20の溶液を含む1リットルのビーカー中で15分間滅菌する。滅菌した葉を、1リットルの水中で10分間洗浄し、そして水をデカントし、そしてこの洗浄工程をさらに2回繰り返す。葉のインタクトな部分を、小刀で小片に切断し、葉の任意の損傷領域を排除する。MS懸濁液のアリコート(20mL)を、形質転換される構築物を保持するAgrobacterium株GV3101/pMP90(Konz,C.およびSchell,J.Mol.Gen.Genet.1986,204,383-396)の5mLの一晩培養物と混合する[MS懸濁液は、(1Lあたり)4.3gのMS塩、1mLのB5ビタミン(Sigma,St.Louis,MO)、30gのスクロース、2mgのp-クロロフェノキシ酢酸、および0.05mgのキネチンを含む(pH5.8)]。タバコの葉の小片を、この溶液に導入し、そして数秒ボルテックスする。葉を取り出し、滅菌濾紙で拭き取り、そしてペトリ皿に置いて過剰のAgrobacterium溶液を除去する。タバコ細胞培養物のアリコート(1mL)を、ペトリ皿中の凝固MS-104の培地の表面に添加し、滅菌した濾紙の小片を、その培養物の表面上に直接置く[MS-104培地(pH5.8)は、(1Lあたり)4.3gのMS塩、1mLのB5ビタミン、30gのスクロース、1mgのベンジルアミノプリン、0.1mgのナフタレン酢酸、および8gのフィトアガー(phytagar)を含む]。これらのタバコの葉の小片を、濾紙の表面上に置き、そして25℃で2日間インキュベートする。葉の小片を、表面を表にして、MS選択培地を含むペトリ皿に移し、そして培地内に穏やかに押し込む[MS選択培地(pH5.8)は、(1Lあたり)4.3gのMS塩、1mLのB5ビタミン、30gのスクロース、1mgのベンジルアミノプリン、0.1mgのナフタレン酢酸、500mgのカルベニシリン、50mgのカナマイシン、および6.5gのフィトアガーを含む]。皿をパラフィルムでラップし、25℃で3週間インキュベートする。葉を、新鮮なMS選択培地に移し、そして25℃でのインキュベーションを、小植物(plantlet)が現れるまで継続する。小植物をカルスから分離し、そして10mLのMS発根培地を含む試験管(24×3cm)に置く[MS発根培地(pH5.8)は、(1Lあたり)4.3gのMS塩、1mLのB5ビタミン、30gのスクロース、および6.5gのフィトアガーを含む]。根が1cmの長さに達した場合、その形質転換した植物を、土に移し、そして逆さにした透明なプラスチックカップ(底に穴を開けておく)でカバーする。4日後または5日後に、カップを取り外し、そして形質転換したタバコ植物を、Percival Scientific Arabidopsis成長チャンバ中で成長させた(23℃、70%湿度、16時間(明)、8時間(暗))。トランスジェニックArabidopsis植物について実施例5において先に記載した抽出手順を使用して、ポリマーについて分析し得る。
【0074】
種子特異的な、色素体に基づくPHA産生のために、以下を含むプラスミドを構築し得る(図6A):種子特異的プロモーター、PhaGに融合された色素体標的化シグナル、ポリアデニル化シグナル、種子特異的プロモーター、AlkKに融合された色素体標的化シグナル、ポリアデニル化シグナル、種子特異的プロモーター、PhaCに融合された色素体標的化シグナル、ポリアデニル化シグナル。以下のような種子特異的プロモーターが、種子特異的な、色素体に基づくPHA産生構築物を構築するために、有用である:ナピン(napin)遺伝子プロモーター(米国特許第5,420,034号;米国特許第5,608,152号)、アセチル-CoAカルボキシラーゼプロモーター(米国特許第5,420,034号;米国特許第5,608,152号)、2Sアルブミンプロモーター、種子貯蔵タンパク質プロモーター、ファゼオリンプロモーター(Slightomら、1983、Proc.Natl.Acad.Sci.USA:80:1897-1901)、オレオシンプロモーター(plantら、1994、Plant Mol.Biol.25:193-205;Rowleyら、1997、Biochim.Biophys.Acta.1345:1-4;米国特許第5,650,554号;PCT WO93/20216)、ゼインプロモーター、グルテリンプロモーター、デンプンシンターゼプロモーター、デンプン分枝化酵素プロモーターなど。
【0075】
種子特異的な、色素体に基づくPHA産生構築物を、実施例5に記載されるように、Arabidopsisに形質転換し得る。あるいは、この構築物を、以下の手順を(Moloney M.M.、Walker J.M.、Sharma K.K.Plant Cell、1989、8、238-242)を使用して、Brassica napusに形質転換し得る。Brassica napus cv.Westarの種子を、10%の市販のブリーチ(Javex,Colgate-Palmolive Canada Inc.)中で、30分間、ゆっくりと振盪しながら、浮遊させて滅菌する。種子を、滅菌蒸留水中で3回洗浄する。種子を、Murashige-Skoog(MS)塩およびビタミン、3% スクロースおよび0.7% フィトアガーを含む発芽培地(pH5.8)に、1プレートあたり20個の密度で置き、そして60?80μEm^(-2)s^(-1)の光強度での16時間の明/8時間の暗の光周期に、24℃にて4?5日間維持する。構築物を、エレクトロポレーションを使用して、Agrobacterium tumefaciens株EHA101(Hood EE、Helmer GL、Fraley R.T.、Chilton M.D.、J.Bacteriol.1986、168、1291-1301)に導入する。子葉の葉柄の形質転換の前に、各構築物を有する株EHA101の単一コロニーを、5mLの最小培地(形質転換ベクターについての適切な選択抗生物質を補充した)中で、28℃にて48時間成長させる。1mLの細菌懸濁物を、微量遠心管における1分間の遠心分離によってペレット化する。ペレットを、1mLの最小培地中に再懸濁する。
【0076】
形質転換のために、子葉を、その基部に約2mmの葉柄を含むように、4?5週齢の実生から切り取る。それらの葉柄の切断表面を有する個々の子葉を、希釈細菌懸濁物に1秒間浸し、そして即座に、共培養培地(20μMのベンジルアデニンを補充した、3% スクロースおよび0.7% フィトアガーを含むMS培地)中に約2mmの深さに包埋する。播種した子葉を、1プレートあたり10個の密度でプレートし、そして同じ成長条件下で48時間インキュベートする。共培養後、子葉を、3% スクロース、20μM ベンジルアデニン、0.7% フィトアガー(pH 5.8)、300mg/L チメンチニン(timentinin)および植物形質転換ベクターの選択のための適切な抗生物質を補充したMS培地を含む、再生培地に移す。
【0077】
2?3週間後、再生苗条を得て、切断し、そしてMagentaジャー中の「苗条伸長」培地(3% スクロース、300mg/L チメンチニン、0.7% フィトアガーおよび適切な抗生物質を含むMS培地)に維持する。伸長した苗条を、「発根」培地(MS培地、3% スクロース、2mg/L インドール酪酸、0.7% フィトアガーおよび500mg/L カルベニシリンを含む)に移す。根の発生後、小植物を、栽培用ミックス(Redi Earth,W.R.Grace and Co.Canada Ltd.)に移した。植物を、同じ成長条件下で霧チャンバ(75%相対湿度)中で維持する。
【0078】
(実施例7:PhaG、PhaCおよびAlkKを使用する葉または種子の細胞質ゾルにおけるPHA産生のための植物発現カセット)
葉緑体または色素体における3-ヒドロキシアシルACPチオエステラーゼ活性の発現は、3-ヒドロキシ脂肪酸を産生する脂肪酸生合成からの炭素の流れを導くはずである。葉緑体および色素体は、通常、3-ヒドロキシ脂肪酸を蓄積しないので、これらの分子は、オルガネラから搬出され、そしてトリアシルグリセリドに組み込まれるか、またはペルオキシソームに輸送されて分解されるかの、いずれかであるはずである。脂肪種子穀物の種子におけるトリアシルグリセリドへの中間鎖長の3-ヒドロキシ酸の組み込みは、新規な種子脂肪を産生する。細胞質ゾルアシルCoAシンテターゼおよび細胞質ゾルPHAシンターゼの存在は、細胞質ゾル中の中鎖3-ヒドロキシ脂肪酸を中間鎖長のPHAに変換し得る。
【0079】
プラスミドpCambia-C4PPDK.TS.PhaG.AlkK.PhaC_(P.o.)(図5B)は、細胞質ゾルPHA産生のために設計された植物形質転換ベクターである。これは、葉緑体におけるPhaGの葉特異的発現のための配列、および細胞質ゾルにおけるAlkKおよびPhaCの葉特異的発現のための配列をコードする。プラスミドpCambia-C4PPDK.TS.PhaG.AlkK.PhaC_(P.o.)は、以下を含む:35S-C4PPDKプロモーター、エンドウrubisco葉緑体標的化シグナル(エンドウrubiscoタンパク質のN末端24アミノ酸をコードするDNAを含む)、PhaGをコードするフラグメント、Nos終結配列、35S-C4PPDKプロモーター、AlkKをコードするフラグメント、Nos終結配列、35S-C4PPDKプロモーター、Pseudomonas oleovorans由来のPhaCをコードするフラグメントおよびNos終結配列。プラスミドpCambia-C4PPDK.TS.PhaG.AlkK.PhaC_(P.o.)を、先の実施例に記載されるように、ArabidopsisまたはTobaccoに形質転換し得る。
【0080】
種子特異的な、細胞質ゾルPHA産生のために、以下を含むプラスミドを構築し得る(図6B):種子特異的プロモーター、PhaGに融合された色素体標的化シグナル、ポリアデニル化シグナル、種子特異的プロモーター、AlkKをコードするフラグメント、ポリアデニル化シグナル、種子特異的プロモーター、PhaCをコードするフラグメントおよびポリアデニル化シグナル。種子特異的な、細胞質ゾルPHA産生構築物を、先の実施例に記載したように、Arabidopsisまたは脂肪種子穀物(例えば、Brassica napus)中に形質転換し得る。
【0081】
(実施例8:PhaG、PhaCおよびAlkKを用いる、葉または種子のペルオキシソームにおけるPHA産生のための植物発現カセット)
葉緑体または色素体から搬出された中間鎖長の3-ヒドロキシ脂肪酸の一部分は、分解のためにペルオキシソーム中に進入し得るので、アシルCoAシンテターゼおよびPHAシンターゼの葉または種子のペルオキシソームへの標的化は、PHAを生じ得る。プラスミドpCambia-C4PPDK.TS.PhaG.AlkK.perox.PhaC_(p.o.)perox(図5B)は、葉に基づくペルオキシソームPHA蓄積について設計された植物形質転換ベクターである。この構築物は、以下を含む:35S-C4PPDKプロモーター、エンドウrubisco葉緑体標的化シグナル(エンドウrubiscoタンパク質のN末端24アミノ酸をコードするDNAを含む)、PhaGをコードするフラグメント、Nos終結配列、35S-C4PPDKプロモーター、AlkK(Brassica napusイソシトレートリアーゼのC末端34アミノ酸から構成されるC末端ペルオキシソーム標的化シグナル(Olsen,L.J.,Ettinger,W.F.,Damsz,B.,Matsudaira,K.,Webb,M.A.,Harada,J.J.1993,Plant Cell,5,941-952)に融合される)をコードするフラグメント、Nos終結配列、35S-C4PPDKプロモーター、Pseudomonas oleovoransに由来するPhaC(Brassica napusイソシトレートリアーゼのC末端34アミノ酸から構成されるC末端ペルオキシソーム標的化シグナルに融合された)をコードするフラグメント、およびNos終結配列。プラスミドpCambia-C4PPDK.TS.PhaG.AlkK.perox.PhaC_(p.o.)peroxを、先の実施例に記載するように、ArabidopsisまたはTobacco中に形質転換し得る。
【0082】
種子特異的な、ペルオキシソームPHA産生のために、以下を含むプラスミドを構築し得る(図6C):種子特異的プロモーター、PhaGに融合された色素体標的化シグナル、ポリアデニル化シグナル、種子特異的プロモーター、ペルオキシソーム標的化シグナルに融合されたAlkKをコードするフラグメント、ポリアデニル化シグナル、種子特異的プロモーター、ペルオキシソーム標的化シグナルに融合されたPhaCをコードするフラグメントおよびポリアデニル化シグナル。種子特異的な、ペルオキシソームPHA産生構築物を、先の実施例に記載したように、Arabidopsisまたは脂肪種子穀物(例えば、Brassica napus)中に形質転換し得る。
【0083】
(実施例9:短い鎖長および中間鎖長のモノマーユニットから構成されるコポリマーの産生)
ポリヒドロキシブチレートおよび中間鎖長のモノマーユニットから構成されるコポリマーを、細菌または植物において、3-ヒドロキシブチリルCoAおよび中間鎖長の3-ヒドロキシアシルCoA形成のための経路を同時発現させることよって産生し得る(図1)。短い鎖長のモノマーユニット形成のために、β-ケトチオラーゼ(phaA)およびアセトアセチル-CoAレダクターゼ(phaB)からなる経路は、2ユニットのアセチルCoAをR-3-ヒドロキシブチリルCoAに転換する(図1)。中間鎖長のモノマーユニットを形成するために、3-ヒドロキシアシルACP-チオエステラーゼ(例えば、PhaG)およびアシルCoAシンテターゼ(例えば、AlkK)からなる経路は、脂肪酸生合成に由来する中間鎖長の3-ヒドロキシアシルACPを、3-ヒドロキシアシルCoAに転換する(図1)。短いかまたは中間鎖長のモノマーユニットのコポリマーへの重合は、広範な基質特異性を有するPHAシンターゼ(例えば、Pseudomonas sp.A33(Appl.Microbiol.Biotechnol.1995,42,901-909)、Pseudomonas sp.61-3(Kato,M.,Bao,H.J.,Kang,C.-K,Fukui,T.,Doi,Y.Appl.Microbiol.Biotechnol.1996,45,363-370)またはThiocapsa pfennigii(米国特許第6,011,144号)由来のシンターゼ)を用いて達成される。
【0084】
PHBおよび中間鎖長のモノマーユニットから構成されるコポリマーを、葉の葉緑体または種子の色素体において生産するために、β-ケトチオラーゼ(phaA)、アセトアセチル-CoAレダクターゼ(phaB)、広範な基質特異性を有するPHAシンターゼ(phaC)、3-ヒドロキシアシルACPチオエステラーゼおよびアシルCoAシンテターゼをコードする遺伝子を、葉緑体または色素体の標的化シグナルに融合し、ポリマー産生のために、これらのポリペプチドを葉緑体または色素体に指向させる。
【0085】
PHBおよび中間鎖長のモノマーユニットから構成されるコポリマーを、葉または種子の細胞質ゾルにおいて生産するために、3-ヒドロキシアシルACPチオエステラーゼをコードする導入遺伝子を、葉緑体または色素体の標的化シグナルに融合し、このポリペプチドを、葉緑体または色素体に指向させる。全ての他のポリペプチド(β-ケトチオラーゼ、アセトアセチル-CoAレダクターゼ、広範な基質特異性PHAシンターゼおよびアシルCoAシンテターゼを含む)を細胞質ゾルに標的化し、細胞質ゾル中にポリマー蓄積を得る。
【0086】
PHBおよび中間鎖長のモノマーユニットから構成されるコポリマーを、葉または種子のペルオキシソームにおいて生産するために、3-ヒドロキシアシルACPチオエステラーゼをコードする導入遺伝子を、葉緑体または色素体の標的化シグナルに融合し、このポリペプチドを、葉緑体または色素体に指向させる。全ての他のポリペプチド(β-ケトチオラーゼ、アセトアセチル-CoAレダクターゼ、広範な基質特異性PHAシンターゼおよびアシルCoAシンテターゼを含む)を、ペルオキシソーム標的化シグナルに融合し、ポリマー生産のために、これらのポリペプチドをペルオキシソームに指向させる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
図1は、脂肪酸生合成からの、中間鎖長のポリヒドロキシアルカノエート形成ならびに短い鎖長および中間鎖長のポリヒドロキシアルカノエートコポリマー形成について提唱される経路である。
【図2】
図2は、DH5α/pTRCNalkK株およびDH5α/pTRCN株から調製した粗抽出物における、オクタン酸の存在下での、CoAの消費を経時的に示すグラフである。
【図3】
図3は、DH5α/TRCNalkK株およびDH5α/pTRCN株から調製した粗抽出物における、3-ヒドロキシオクタン酸の存在下での、CoAの消費を経時的に示すグラフである。
【図4】
図4Aは、pCambia-Rbc.PhaG.PhaCにおける挿入地図を示す。pCambia-Rbc.PhaG.PhaCは、アルファルファ葉緑体標的化シグナルに融合されたalfalfa rubiscoプロモーター、PhaGをコードするフラグメント、alfalfa rubisco終止配列をコードするフラグメント、アルファルファ葉緑体標的化シグナルに融合されたalfalfa rubiscoプロモーター、Pseudomonas aeroginosa由来のPhaCをコードするフラグメント、およびalfalfa rubisco終止配列をコードするフラグメントを含む。図4Bは、pBI-C4PPDK.PhaG.Rbc.PhaCにおける挿入地図を示す。このpBI-C4PPDK.PhaG.Rbc.PhaCは、35S-C4PPDKプロモーター、pea rubiscoタンパク質のN-末端の24アミノ酸をコードするDNAを含むpea rubisco葉緑体標的化シグナル、PhaGをコードするフラグメント、Nos終止配列、アルファルファ葉緑体標的化シグナルに融合されたalfalfa rubiscoプロモーター、Pseudomonas aeroginosa由来のPhaCをコードするフラグメント、およびalfalfa rubisco終止配列をコードするフラグメントを含む。
【図5】
図5Aは、葉の葉緑体におけるポリマーの蓄積のためのphaG、alkKおよびphaCの葉特異的発現のための、植物形質転換ベクターにおける挿入地図である。図5Bは、葉の細胞質ゾルにおけるポリマーの蓄積のためのphaG、alkKおよびphaCの葉特異的発現のための、植物形質転換ベクターにおける挿入地図である。図5Cは、葉のペルオキシソームにおけるポリマーの蓄積のためのphaG、alkKおよびphaCの葉特異的発現のための、植物形質転換ベクターにおける挿入地図である。
【図6】
図6Aは、種子の色素体におけるポリマーの蓄積のためのphaG、alkKおよびphaCの種子特異的発現のための、植物形質転換ベクターにおける挿入地図である。図6Bは、種子の細胞質ゾルにおけるポリマーの蓄積のためのphaG、alkKおよびphaCの種子特異的発現のための、植物形質転換ベクターにおける挿入地図である。図6Cは、種子のペルオキシソームにおけるポリマーの蓄積のためのphaG、alkKおよびphaCの種子特異的発現のための、植物形質転換ベクターにおける挿入地図である。
【配列表】

















 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2008-11-10 
出願番号 特願2002-543002(P2002-543002)
審決分類 P 1 41・ 853- Y (A01H)
P 1 41・ 852- Y (A01H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 長井 啓子  
特許庁審判長 平田 和男
特許庁審判官 光本 美奈子
種村 慈樹
登録日 2007-10-12 
登録番号 特許第4024676号(P4024676)
発明の名称 脂肪酸生合成経路からの中間鎖長のポリヒドロキシアルカノエートの産生  
代理人 安村 高明  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  
代理人 安村 高明  
代理人 森下 夏樹  

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