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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20056282 審決 特許
不服200627219 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A23L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1190325
審判番号 不服2006-8586  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-28 
確定日 2009-01-07 
事件の表示 特願2004-371762「酸性環境中において高エステルペクチンを用いてタンパク質を安定化するためのプロセス」拒絶査定不服審判事件〔平成17年5月19日出願公開、特開2005-124579〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成8年7月12日に出願された特願平9-506259号(パリ条約による優先権主張1995年7月14日、英国。以下、この日を「本願優先日」という。)の一部を特許法第44条第1項の規定により、平成16年12月22日に新たな特許出願としたものであって、平成17年6月24日付けの拒絶理由通知に対して、同年9月29日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、平成18年1月25日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年4月28日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同日に手続補正がされたものである。

第2 平成18年4月28日の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成18年4月28日の手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成18年4月28日の手続補正(以下、「本件補正」といい、その補正後の明細書を「本願補正明細書」という。)は、請求項1を、補正前の請求項1の「d)」において下線の事項を加入して、以下のとおりにするものである。
「プロセスであって、以下:
a)ペクチンをブロックワイズで酵素的に脱エステル化し得る精製ペクチンメチルエステラーゼ(PME)酵素を、該ペクチン骨格の長さを実質的に減少するために酵素ポリガラクツロナーゼで事前に処理されていないペクチンに添加する工程;
b)ペクチンをブロックワイズで酵素的に脱エステル化し得る精製ペクチンメチルエステラーゼ(PME)によって、該ペクチンからブロックワイズに酵素的に脱エステル化したペクチンを調製する工程であって、ここで、
i)該ブロックワイズに酵素的に脱エステル化したペクチンが高エステルペクチンであり;そして
ii)該ブロックワイズの酵素的に脱エステル化したペクチンは、70%?80%のエステル基を含み、好ましくは、76%のエステル基を含む、
工程;
c)該ブロックワイズに酵素的脱エステル化したペクチンを少なくとも1つのタンパク質を含む酸性環境に添加する工程;および
d)該ブロックワイズに酵素的に脱エステル化したペクチンによって、
該酸性環境の粘度に不利な影響を与えることなく、該タンパク質を安定化する工程、
を包含する、プロセス。」

2 補正の適否
2-1 目的要件
補正後の請求項1の「該酸性環境の粘度に不利な影響を与えることなく」という事項は、補正前の請求項1の発明特定事項のいずれも限定するものでもないから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号で規定する、いわゆる限定的減縮を目的とするものということができず、同項の他の各号に掲げる、請求項の削除、誤記の訂正、或いは明りょうでない記載の釈明を目的とするものともいうことができないから、本件補正は、同項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

2-2 独立特許要件
仮に、この補正が、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものであるとしても、その補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)は、以下に示すように、本願優先日前に頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、本件補正は、同法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

(1)刊行物の記載事項
ア 刊行物1
原査定で引用した「食品工業(1991年 7月30日)41?50頁「酸性乳ドリンクの製造法」」(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1a) 「さまざまなハイドロコロイドが食品加工に利用されている中で、酸性乳ドリンク製品の安定剤として広く使用されているペクチンを取り上げ、その安定化の機構ならびに安定性の良い製品の製造法について述べる。」(41頁左欄「はじめに」1?5行)
(1b) 「酸性乳ドリンクとして、ヨーグルトドリンク、ホエードリンク、ジュースミルク、…これらドリンクは、酸性のタ蛋白質粒子の分散液である」(41頁左欄「はじめに」6?11行)
(1c) 「牛乳を酸性化するとカゼインミセルは会合し、酸性カゼイン粒子になる。酸性乳ドリンクのpHは、大体3.6?4.2の範囲内であり、カゼインの等電点(約4.6)に近い。そのため、酸性カゼイン粒子のチャージが非常に弱いので電気的な反発力が弱く、普通は凝集し沈殿分離する。酸性カゼイン粒子の分散状態を安定に保つために、通常は安定剤の添加が必要となる。安定剤としては、古くから指摘されているように、ペクチンや…を用いることができる。これらはいずれも遊離のカルボキシル基を持ったハイドロコロイドであり、同じような作用機構によって酸性カゼイン粒子を分散安定化するものと推測されている。…ペクチンの中でこのような安定化効果のあるのは、ハイメトキシルペクチンである。」(41頁左欄「はじめに」14行?41頁右欄7行)
(1d) 「ペクチンは分子量5?15万のポリガラクチュロン酸である。構成糖であるガラクチュロン酸は、フリーの酸として及びメチルエステルとして存在している…ペクチンの性質はそのDEの値に依存して大きく変化する。」(41頁右欄「1.ペクチンの一般説明」11行?42頁左欄3行)
(1e) 「酸性乳の安定剤として有効なのは、DEの高い(一般に70%以上)ものである。ペクチン分子のフリーのガラクチュロン酸部分は親水性であり、そのエステル部分は非親水性である。この二者の存在(界面活性剤的分子構造)が酸性乳の安定化のための重要な要素となっている。このような見方をすれば、図3に示したようにDEが同じペクチンでも、typeAよりも、typeBのような形態のペクチン分子の方が、強い安定化力を発揮することが推測できる。」(42頁左欄10行?右欄7行)
(1f) 「

」(42頁)
(1g) 「pH=4.0のヨーグルトにペクチンを添加し、ホモゲナイズしてから殺菌したヨーグルトドリンクの粘度を図5に示した^(3))。ペクチンの添加量を0.15%程度まで増すに従って粘度は上昇する。これは酸性カゼイン粒子の表面にペクチンが吸着されることによって、粒子のプラスのチャージがペクチンのマイナスチャージで中和され、その結果粒子間の電気的な反発力が低下して、粒子同士の付着力が増すため、粘度が上昇したものと考えられる。さらにペクチンの添加量を0.3%まで増すと急激に粘度が低下する。マイナスのチャージを持ったペクチン分子を多量吸着することによって、酸性カゼイン粒子の表面チャージはマイナスになり、それが強くなるに従って粒子間の電気的反発力が増して摩擦が少なくなったためである。0.3%付近で粘度の変曲点が見られ、ペクチン濃度がこれ以上になると粒子表面はペクチン分子によって完全にカバーされ、その電気的な反発力によって安定な分散状態が保たれるようになる。変曲点の現われるペクチン濃度は安定化のための最低必要量である。」(43頁左欄6行?右欄3行)
(1h) 「

」(43頁右上)

イ 刊行物2
原査定で引用した「J.J.DOESHURG,Pectic substances in fresh and preserved fruits and vegetables,I.B.V.T-Communication,(1965)No.25,p.78-79」(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(2a) 「オレンジからのペクチンエステラーゼによる鹸化は、近接したメチルエステル基のみ遊離カルボキシル基へ加水分解し、SCHULTZら(426)及びSPEISERら(451)が示唆するように鎖状分子に沿って線状に進むようである。したがって、ペクチンエステラーゼにより部分的に鹸化されたペクチニン酸は、Fig.41に示すように遊離カルボキシル基とエステル化カルボキシ基のブロックワイズ分布を示す。部分的な酵素鹸化ペクチニン酸において、遊離カルボキシル基のこの分布の態様は、酸又はアルカリ下で鹸化したペクチニン酸と比較して、酸又はアルカリに対し異なる対応をとるためと考えられる。同程度のエステル化では、酵素鹸化ペクチニン酸は、他のペクチニン酸によりもカルシウム塩や酸による凝固により敏感である。」(78頁末行?79頁10行を当審において翻訳したもの)
(2a) 「

」(79頁)

(2)刊行物に記載された発明
ア 刊行物1に記載された発明
刊行物1は、「酸性乳ドリンク製品の安定剤として広く使用されているペクチンを取り上げ、その安定化の機構ならびに安定性の良い製品の製造法について述べる」(摘示(1a))ものである。刊行物1には、ペクチンは「ポリガラクチュロン酸」であり、「構成糖であるガラクチュロン酸は、フリーの酸として及びメチルエステルとして存在している」(摘示(1d))ものであること、「酸性乳の安定剤として有効なのは、DE(審決注:エステル化度)の高い(一般に70%以上)ものである」(摘示(1e))ことが記載されている。
そうすると、刊行物1には、高エステル化度(一般に70%以上)のペクチンを酸性乳に添加して酸性乳を安定する方法が示されているということができ、本願補正発明の表現ぶりにならって記載すると、
「高エステル化ペクチンであり、
ペクチンは、70%以上のエステル基を含み、
そのペクチンを酸性乳に添加し、
そのペクチンによって、酸性乳を安定化する方法」
という発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

イ 刊行物2に記載された発明
刊行物2には「オレンジからのペクチンエステラーゼによる鹸化」について記載するものであって、そのペクチンエステラーゼを用いたペクチンの鹸化は「近接したメチルエステル基のみ遊離カルボキシル基へ加水分解」するものであり、その結果得られる「部分的に鹸化されたペクチニン酸は、Fig.41に示すように遊離カルボキシル基とエステル化カルボキシ基のブロックワイズ分布を示す」ものであることが記載されている。
上記によれば、そのペクチンエステラーゼは、オレンジから得られたものであって、ペクチンに添加してその「メチルエステル基のみ遊離カルボキシル基へ加水分解」するもの、すなわち、「脱エステル化」するものであり、そのペクチンエステラーゼにより「部分的に鹸化されたペクチニン酸は、Fig.41に示すように遊離カルボキシル基とエステル化カルボキシ基のブロックワイズ分布を示す」ものであるから、ブロックワイズで酵素的に脱エステル化し得る「ペクチンメチルエステラーゼ」酵素ということができ、ペクチンからブロックワイズに酵素的に脱エステル化したペクチンを調製するものであるということができる。
そうすると、本願補正発明の記載にならって記載すると、刊行物2には、
「ペクチンをブロックワイズで酵素的に脱エステル化し得るペクチンメチルエステラーゼ(PME)酵素を、ペクチンに添加する工程;
ペクチンをブロックワイズで酵素的に脱エステル化し得るペクチンメチルエステラーゼ(PME)によって、該ペクチンからブロックワイズに酵素的に脱エステル化したペクチンを調製する工程」
の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。

(3)対比
本願補正発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「酸性乳」は、「酸性の蛋白質粒子の分散液」(摘示(1b))であるから、本願補正発明の「少なくとも1つのタンパク質を含む酸性環境」であるといえ、引用発明1のペクチンについて、刊行物1にはポリガラクチュロン酸骨格を実質的に減少させたものとすべきことは記載されていないから、両者のペクチンは共に該ペクチン骨格の長さを実質的に減少するために酵素ポリガラクツロナーゼで事前に処理されていないものであって、エステル化度が70%?80%で重複するものといえる。そうすると、両者は、
「プロセスであって、以下:
i)ペクチンが該ペクチン骨格の長さを実質的に減少するために酵素ポリガラクツロナーゼで事前に処理されていない高エステルペクチンであり;そして
ii)該ペクチンは、70%?80%のエステル基を含み;
該ペクチンを少なくとも1つのタンパク質を含む酸性環境に添加する工程;および
該ペクチンによって、該タンパク質を安定化する工程、
を包含する、プロセス。」
で一致するが、以下の点で相違が認められる。
(A) 本願補正発明におけるペクチンは、ブロックワイズで脱エステル化したものであって、「a)ブロックワイズで酵素的に脱エステル化し得る精製ペクチンメチルエステラーゼ(PME)酵素を、…ペクチンに添加する工程;
b)ペクチンをブロックワイズで酵素的に脱エステル化し得る精製ペクチンメチルエステラーゼ(PME)によって、該ペクチンからブロックワイズに酵素的に脱エステル化したペクチンを調製する工程」により調製されるものであるのに対して、引用発明1におけるペクチンは、ブロックワイズで脱エステル化したペクチンであるか明らかでなく、上記のような工程により調製されたものであるかも明らかではない点
(B) タンパク質を安定化する工程が、本願補正発明においては、「該酸性環境の粘度に不利な影響を与えることなく」行うものであるのに対し、引用発明1においては、そのように行うものであるかは明らかでない点

(4)判断
ア 相違点(A)について
刊行物1には、図3に2タイプのペクチンが示され、フリーのカルボキシル基同士及びメチルエステル基同士が、typeBにおいては隣り合って偏在していることが認められる。そうすると、typeBのペクチンは、本願補正発明の「ブロックワイズ」のペクチンであるということができる。そして、「図3に示したようにDEが同じペクチンでも、typeAよりも、typeBのような形態のペクチン分子の方が、強い安定化力を発揮する」(摘示(1e))ことが示唆されている。
そうすると、当業者であれば、より強い安定化を目的として引用発明1に用いるペクチンをtypeBの形態のペクチン、すなわち、ブロックワイズのペクチンとすることは当然のことであり、そのブロックワイズのペクチンは、特定の酵素によってペクチンを脱エステル化する方法で得られることが知られている(刊行物2、上記(2)イの引用発明2の方法)のであるから、この方法を採用することは当業者が容易に想到し得ることである。なお、酵素を製造に使用する際には、精製したものを用いることは、通常のことである。
よって、引用発明1のペクチンを、ブロックワイズで脱エステル化したものであって、「a)ブロックワイズで酵素的に脱エステル化し得る精製ペクチンメチルエステラーゼ(PME)酵素を、…ペクチンに添加する工程;
b)ペクチンをブロックワイズで酵素的に脱エステル化し得る精製ペクチンメチルエステラーゼ(PME)によって、該ペクチンからブロックワイズに酵素的に脱エステル化したペクチンを調製する工程」により調製されるものとすることは、当業者にとって格別困難なことであるとは認められない。

イ 相違点(B)について
本願補正発明に係る「該酸性環境の粘度に不利な影響を与えることなく」という発明特定事項の意味は必ずしも明らかではないので、本願補正明細書の発明の詳細な説明を参酌すると、「実施例1」の「ヨーグルトの粘度(MPa)」の項において、
「オレンジPME処理ペクチン1944-96-2は、ペクチン用量が0.25%(または0.35%)(これは、他の未処理ペクチン(例えば、Grindsted^(TM )Pectin AM453)を用いた場合、ほぼ2倍高い粘度を与える)であったにも関わらず、非常に低い粘度を有するヨーグルトを安定化し得る。」(段落【0302】)
の記載等がされている。
そうすると、上記「該酸性環境の粘度に不利な影響を与えることなく」とは、ある酸性環境にペクチンを安定化のために添加した場合に、少なくともその酸性環境の粘度を高くしないこと、或いはより低い粘度とすることであると解される。
刊行物1の図5(摘示(1h))は、「pH=4.0のヨーグルトにペクチンを添加し、ホモゲナイズしてから殺菌したヨーグルトドリンクの粘度」(摘示(1g))がペクチンの添加量に対して示されているものであって、この図5によれば、ペクチンの添加量を0.15%程度まで増すに従って粘度は上昇すること、0.15%程度からペクチンの添加量を更に3%まで増すと急激に粘度が低下すること、0.3%付近で粘度の変曲点が見られること、それ以上のペクチン添加量を増やすと粘度が若干上昇していくものの、低い粘度であること、が示されている。
そして、この図5の現象について、摘示(1g)には、ペクチンを添加したヨーグルトドリンクでは、ペクチンの添加量を0から増してゆくと、まず、「酸性カゼイン粒子の表面にペクチンが吸着されることによって、粒子のプラスのチャージがペクチンのマイナスチャージで中和され、その結果粒子間の電気的な反発力が低下して、粒子同士の付着力が増すため、粘度が上昇し」、次いで「マイナスのチャージを持ったペクチン分子を多量吸着することによって、酸性カゼイン粒子の表面チャージはマイナスになり、それが強くなるに従って粒子間の電気的反発力が増して摩擦が少なくなったため」粘度が減少し、ペクチン濃度が変曲点以上になると「粒子表面はペクチン分子によって完全にカバーされ、その電気的な反発力によって安定な分散状態が保たれるようになる。」と説明され、「変曲点の現われるペクチン濃度は安定化のための最低必要量である」ことが記載されている。
すなわち、ペクチンを添加したヨーグルトドリンクなど酸性カゼイン粒子を含む酸性環境では、ペクチンの添加量を0から増すにつれて粘度は上昇するが、酸性カゼイン粒子の表面にペクチンが粒子のプラスのチャージがペクチンのマイナスチャージで中和されるまで吸着された後は、ペクチンの添加量を増すと粒子の表面チャージのマイナスが強くなり粘度が低下し、変曲点以上のペクチンの添加量では粒子表面はペクチン分子によって完全にカバーされ、その電気的な反発力によって安定な分散状態が保たれ、低い粘度でヨーグルトを安定化し得ること、すなわち、カゼイン等のタンパク質を含む酸性環境において「粒子表面はペクチン分子によって完全にカバーされ、その電気的な反発力によって安定な分散状態が保たれる」量、例えば、変曲点以上でその近傍の量、のペクチンを添加すれば、その「少なくとも1つのタンパク質を含む酸性環境」が低い粘度でカゼイン等のタンパク質を安定化させ得ることが示唆されているといえる。
そうすると、引用発明1において、ペクチンの添加量を変曲点以上でその近傍の量とすること等により、「該酸性環境の粘度に不利な影響を与えることなく」タンパク質を安定化することは、当業者にとって格別困難なこととは認められない。

ウ 本願補正発明の効果について
(ア) 本願補正発明に係る、該酸性環境の粘度に不利な影響を与えることなく、タンパク質をを安定化するとの効果は、刊行物1及び2に記載された事項及び技術常識から予測されるところを超えて優れているということができず、本願補正明細書等を検討しても、他に格別の効果を認めることはできない。
(イ) 請求人は、審判請求書の「(3.1引用文献の記載)」において、
「本願発明の特徴のうち重要な点の1つは、上述したように、「ブロックワイズに酵素的に脱エステル化したペクチンによって、該酸性環境の粘度に不利な影響を与えることなく、該タンパク質を安定化する」ことにあります。」、
「引用文献1の図5を見ると、上述の変曲点は、ペクチン添加量にして0,25%であり、それより添加すると大きく粘度が低下することがわかります。つまり、粘度に影響を受けずに安定化しかつ粘度を低くたもつためには、少なくとも濃度が0.3%程度である必要があります。
対照的に、本願発明のブロックワイズに酵素的に脱エステル化されたペクチン(=ペクチン1944-96-2)の場合、0.25%おいても良好な粘度の値が得られております。」と主張している。
しかし、刊行物1の図5の場合においては、添加量に対して0.3%程度が最低の粘度(摘示(1g)でいう「変曲点」。請求人の上記主張でいう「変曲点」ではない。)である上述の粘度変化があることが認められるとしても、その変曲点(最低の粘度)におけるペクチン添加量は、「粒子表面はペクチン分子によって完全にカバーされ、その電気的な反発力によって安定な分散状態が保たれる」(摘示(1g))最少量なのであるから、ペクチンの特性(エステル度、平均鎖長、分子量等)、「少なくとも1つのタンパク質を含む酸性環境」のpH、タンパク質量、酸性カゼイン粒子径、粒度分布等、その他の要因が関連して変動するものであると認められる。
したがって、刊行物1の図5の場合においては「粘度に影響を受けずに安定化しかつ粘度を低くたもつためには、少なくとも濃度が0.3%程度である必要」があるとしても、その場合とはペクチン、酸性環境等の諸要因が異なる本願補正発明の特定の実施例において、「粘度に影響を受けずに安定化しかつ粘度を低くたもつために」、「少なくとも濃度が0.3%程度である必要」があるとはそもそもいえないのであるから、刊行物1の図5の記載を根拠に、本願補正発明の特定の実施例において「0.25%おいても良好な粘度の値が得られ」ることが格別の効果である、と評価することはできるものではない。
そして、上記のとおり、変曲点(最低の粘度)におけるペクチン添加量は、ペクチン、酸性環境等の諸要因が異なれば変動するのであるから、本願補正発明の特定の実施例においてペクチン添加量が図5の場合における0.3%程度よりやや少量である0.25%において、低い粘度でタンパク質を安定化することができることは、予測される域を出るものではない。さらに加えて、図5には変曲点(最低の粘度)においてのみならず、それ以上はもとより、それより少量のペクチン添加量の範囲においても低い粘度でタンパク質を安定化することができることも示されているのであるから、0.3%程度よりやや少量である0.25%おいて、低い粘度でタンパク質を安定化することができることは、予測される域を出るものではない。
また、上記のとおり、変曲点(最低の粘度)におけるペクチン添加量は、ペクチン、酸性環境等の諸要因が異なれば変動するのであるから、本願補正発明の特定の実施例においてペクチン添加量0.25%において、低い粘度でタンパク質を安定化することができるという効果が示されるとしても、諸要因の一部のみ規定するものである本願補正発明全体が奏する効果であると認めることもできない。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。

(5)まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3 補正の却下の決定のまとめ
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものであり、仮に、この補正が、同条第4項第2号に掲げる事項を目的とするものであるとしても、その補正後における特許請求の範囲に記載された発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるとはいえないから、本件補正は、同法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成18年4月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成17年9月29日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであり、請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「プロセスであって、以下:
a)ペクチンをブロックワイズで酵素的に脱エステル化し得る精製ペクチンメチルエステラーゼ(PME)酵素を、該ペクチン骨格の長さを実質的に減少するために酵素ポリガラクツロナーゼで事前に処理されていないペクチンに添加する工程;
b)ペクチンをブロックワイズで酵素的に脱エステル化し得る精製ペクチンメチルエステラーゼ(PME)によって、該ペクチンからブロックワイズに酵素的に脱エステル化したペクチンを調製する工程であって、ここで、
i)該ブロックワイズに酵素的に脱エステル化したペクチンが高エステルペクチンであり;そして
ii)該ブロックワイズの酵素的に脱エステル化したペクチンは、70%?80%のエステル基を含み、好ましくは、76%のエステル基を含む、
工程;
c)該ブロックワイズに酵素的脱エステル化したペクチンを少なくとも1つのタンパク質を含む酸性環境に添加する工程;および
d)該ブロックワイズに酵素的に脱エステル化したペクチンによって、該タンパク質を安定化する工程、
を包含する、プロセス。」

2 原査定の理由2及び刊行物
拒絶査定における拒絶の理由2の概要は、本願発明は、その優先日前に頒布された刊行物である
引用例1(食品工業,1991年 7月30日,41-50頁)
及び
引用例2(J.J.DOESHURG,Pectic substances in fresh and preserved fruits and vegetables,I.B.V.T-Communication,(1965)No.25,p.78-79)
に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
その理由において引用された引用例1,2は、それぞれ、上記の第2の「2-2」における刊行物1,2である。そして、それらの記載事項及びそれらに記載された発明は、同(1)、(2)に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、本件補正発明における「該酸性環境の粘度に不利な影響を与えることなく」という発明特定事項がないものに相当するから、本願発明と引用発明1との相違点は、上記第2の「2-2」(3)における相違点(A)に対応するものだけということができる。
そうすると、本願発明は、同(4)において示した理由と同様の理由により、引用発明1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができる。

4 まとめ
よって、本願発明は、本願優先日前に頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、その余を検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-12 
結審通知日 2008-08-13 
審決日 2008-08-28 
出願番号 特願2004-371762(P2004-371762)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (A23L)
P 1 8・ 575- Z (A23L)
P 1 8・ 121- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 左海 匡子  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 坂崎 恵美子
唐木 以知良
発明の名称 酸性環境中において高エステルペクチンを用いてタンパク質を安定化するためのプロセス  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  
代理人 安村 高明  

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