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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200580340 審決 特許
無効200680065 審決 特許
無効2007800085 審決 特許
無効200580313 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部無効 2項進歩性  H01L
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  H01L
管理番号 1191065
審判番号 無効2008-800013  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-01-25 
確定日 2008-12-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3638486号発明「半導体素子の実装方法及び金属ペースト」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3638486号の請求項1?5に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3638486号は、平成11年12月10日に特許出願されたものであって、平成17年 1月21日にその設定登録がなされ、その後、当審において、以下の手続を経たものである。

特許無効審判の請求 平成20年 1月25日
審判事件答弁書の提出 平成20年 4月14日
訂正請求 平成20年 4月14日
弁駁書の提出 平成20年 5月23日
上申書の提出(請求人) 平成20年 7月 7日
上申書の提出(被請求人) 平成20年 7月 7日
口頭審理陳述要領書の提出(請求人) 平成20年 9月25日
口頭審理陳述要領書の提出(被請求人) 平成20年 9月25日
口頭審理(特許庁第1審判廷) 平成20年 9月25日

第2 訂正請求による訂正の適否
1.訂正事項
平成20年 4月14日付け訂正請求は、本件明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであって、以下のa?vの訂正事項からなる。

以下、訂正前の明細書を「特許明細書」という。

a 特許請求の範囲の請求項1において、「平均粒径が1?10nm」とあるのを、「非水系溶媒中で且つイオン性有機物の存在下で金属塩をその分解還元温度以下でかつ該イオン性有機物の分解温度以下で加熱して、平均粒径が1?10nm」と訂正する。

b 特許請求の範囲の請求項1において、「の実質的に金属成分からなる」とあるのを、「の金属成分からなる」と訂正する。

c 特許請求の範囲の請求項1において、「金属ペーストを調整する工程と、」とあるのを、「金属ペーストを調製する工程と、」と訂正する。

d 特許請求の範囲の請求項2において、「前記被覆層は、有機性陰イオンである」とあるのを、「前記イオン性有機物は、炭素数5以上の脂肪酸、アルキルベンゼンスルフォン酸またはアルキルスルフォン酸である」と訂正する。

e 特許請求の範囲の請求項3において、「0.1?1μm程度の」とあるのを、「0.1?1μmの」と訂正する。

f 特許請求の範囲の請求項3において、「導電率が高い金属」とあるのを、「Ag,Au,PdまたはAl」と訂正する。

g 特許請求の範囲の請求項5において、「平均粒径が1?10nm」とあるのを、「非水系溶媒中で且つイオン性有機物の存在下で金属塩をその分解還元温度以上でかつ該イオン性有機物の分解温度以下で加熱して、平均粒径が1?10nm」と訂正する。

h 特許請求の範囲の請求項5において、「の実質的に金属成分からなる」とあるのを、「の金属成分からなる」と訂正する。

i 特許請求の範囲の請求項5において、「溶媒に分散させて調整した」とあるのを、「溶媒に分散させて調製した」と訂正する。

j 特許明細書の段落【0008】において、「平均粒径が1?10nm」とあるのを、「非水系溶媒中で且つイオン性有機物の存在下で金属塩をその分解還元温度以上でかつ該イオン性有機物の分解温度以下で加熱して、平均粒径が1?10nm」と訂正する。

k 特許明細書の段落【0008】において、「の実質的に金属成分からなる」とあるのを、「の金属成分からなる」と訂正する。

l 特許明細書の段落【0008】において、「金属ペーストを調整する工程と、」とあるのを、「金属ペーストを調製する工程と、」と訂正する。

m 特許明細書の段落【0009】において、「金属ペーストを調整できるばかりでなく、」とあるのを、「金属ペーストを調製できるばかりでなく、」と訂正する。

n 特許明細書の段落【0012】において、「前記被覆層は、有機性陰イオンである」とあるのを、「前記イオン性有機物は、炭素数5以上の脂肪酸、アルキルベンゼンスルフォン酸またはアルキルスルフォン酸である」と訂正する。

o 特許明細書の段落【0012】において、「0.1?1μm程度の」とあるのを、「0.1?1μmの」と訂正する。

p 特許明細書の段落【0012】において、「導電率が高い金属」とあるのを、「Ag,Au,PdまたはAl」と訂正する。

q 特許明細書の段落【0012】において、「半導体素子の実装方法である。この導電率が高い金属としては、Ag,Au,PdまたはAl等が挙げられる。これにより、」とあるのを、「半導体素子の実装方法である。これにより、」と訂正する。

r 特許明細書の段落【0013】において、「平均粒径が1?10nm」とあるのを、「非水系溶媒中で且つイオン性有機物の存在下で金属塩をその分解還元温度以上でかつ該イオン性有機物の分解温度以下で加熱して、平均粒径が1?10nm」と訂正する。

s 特許明細書の段落【0013】において、「の実質的に金属成分からなる」とあるのを、「の金属成分からなる」と訂正する。

t 特許明細書の段落【0013】において、「溶媒に分散させて調整した」とあるのを、「溶媒に分散させて調製した」と訂正する。

u 特許明細書の段落【0022】において、「金属ペーストを調整し、」とあるのを、「金属ペーストを調製し、」と訂正する。

v 特許明細書の段落【0023】において、「粘性等の物性値を調整することができる。」とあるのを、「粘性等の物性値を調製することができる。」と訂正する。

2.各訂正事項についての判断
(1)訂正の目的の適否
(ア)上記訂正事項a及びgについては、訂正前の請求項1及び5に記載された「複合金属超微粒子を予め作製」する際の条件を「非水系溶媒中で且つイオン性有機物の存在下で金属塩をその分解還元温度以上でかつ該イオン性有機物の分解温度以下で加熱して」と限定するものであり、これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(イ)上記訂正事項b、h、k及びsについては、訂正前の特許請求の範囲を含む特許明細書の記載を不明りょうなものとしていた「実質的に」との文言を削除するものであり、これらの訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(ウ)上記訂正事項c、i、l、m、t及びuについては、訂正前の特許請求の範囲を含む特許明細書中の明らかな誤記である「調整」を「調製」に訂正するものであり、これらの訂正は、誤記の訂正を目的とするものに該当する。

(エ)上記訂正事項dについては、訂正前の請求項2に記載された「被覆層」を構成する有機性陰イオン、即ちイオン性有機物を「炭素数5以上の脂肪酸、アルキルベンゼンスルフォン酸またはアルキルスルフォン酸である」と限定するものであり、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(オ)上記訂正事項e、oについては、訂正前の特許請求の範囲を含む特許明細書の記載を不明りょうなものとしていた「程度」との文言を削除するものであり、これらの訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(カ)上記訂正事項fについては、訂正前の請求項3に記載された「導電率が高い金属」を「Ag,Au,PdまたはAl」に限定するものであり、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(キ)上記訂正事項j、n、p及びrについては、特許請求の範囲の記載の訂正に伴って、これに対応する特許明細書の発明の詳細な説明の記載とを整合させるために訂正するものであり、これらの訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(ク)上記訂正事項qについては、特許明細書の記載を不明りょうなものとしていた「導電率が高い金属としては、Ag,Au,PdまたはAl等が挙げられる。」との記載を削除するものであり、この訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(ケ)上記訂正事項vは、誤記の訂正を目的とするものに該当する。

以上のとおりであるから、上記訂正事項a?vは、特許法第134条の2第1項ただし書き各号に掲げる事項を目的とするものである。

(2)新規事項の有無
上記訂正事項a?vは、特許明細書の段落【0017】や段落【0022】等の記載に係るものであるか、明りょうでない記載の釈明や誤記の訂正に当たるもののいずれかであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものといえる。
よって、これらの訂正は、新規事項を追加するものに該当しない。

(3)特許請求の範囲の実質的拡張・変更の有無
上記訂正事項a?vは、発明の目的の範囲内で特許請求の範囲の記載を減縮するか、または、明りょうでない記載の釈明や誤記の訂正のいずれかに当たるものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.訂正についての結論
以上のとおり、訂正事項a?vは、特許法第134条の2第1項ただし書き、同条第5項で準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものであるから、これらの訂正事項からなる平成20年 4月14日付け訂正を認める。

第3 本件特許発明
平成20年 4月14日付け訂正請求は、上記「第2 3.」に記載したとおり、認められたので、本件請求項1?5に係る発明(以下、「本件特許発明1」?「本件特許発明5」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】 非水系溶媒中で且つイオン性有機物の存在下で金属塩をその分解還元温度以上でかつ該イオン性有機物の分解温度以下で加熱して、平均粒径が1?10nmの金属成分からなるコア部の周囲を、炭素数が5以上の有機物からなる被覆層で被覆した複合金属超微粒子を予め作製し、該複合金属超微粒子を溶媒に分散させて金属ペーストを調製する工程と、該金属ペーストを回路基板の端子電極上に付着させて主に複合金属超微粒子からなる金属ペーストボールを形成する工程と、該金属ペーストボール上にフェイスダウウン法を用いて半導体素子の電極を接続する工程と、低温焼成により半導体素子と回路基板とを電気的に接続する工程とを有することを特徴とする半導体素子の実装方法。
【請求項2】 前記コア部は、正に帯電したAg,AuまたはPb金属超微粒子で、前記イオン性有機物は、炭素数5以上の脂肪酸、アルキルベンゼンスルフォン酸またはアルキルスルフォン酸であることを特徴とする請求項1記載の半導体素子の実装方法。
【請求項3】 前記金属ペーストには、0.1?1μmのAg,Au,PdまたはAlと樹脂分とが添加されていることを特徴とする請求項1または2記載の半導体素子の実装方法。
【請求項4】 前記低温焼成を200?250℃の温度範囲で行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の半導体素子の実装方法。
【請求項5】 非水系溶媒中で且つイオン性有機物の存在下で金属塩をその分解還元温度以上でかつ該イオン性有機物の分解温度以下で加熱して、平均粒径が1?10nmの金属成分からなるコア部の周囲を、炭素数が5以上の有機物からなる被覆層で被覆した複合金属超微粒子を予め作製し、該複合金属超微粒子を溶媒に分散させて調製したことを特徴とする金属ペースト。」

第4 請求人の求めた審決及び主張
審判請求人は、「特許第3638486号発明の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された発明についての特許を無効にする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として下記の書証を提示し、以下に示す無効理由により、本件特許は無効とすべきであると主張する。

(証拠方法)
甲第1号証:特開平9-326416号公報
甲第2号証:特開平10-183207号公報
甲第3号証:特開平10-312712号公報
甲第4号証:国際公開第97/33713号パンフレット
甲第5号証:特表2000-512339号公報(甲第4号証の翻訳文)
甲第6号証:「化学辞典」、株式会社 東京化学同人、1994年10月 1日発行、第249頁、「界面活性剤」の欄、第36頁、「アニオン界面活性剤」の欄
甲第7号証:「化学辞典」、株式会社 東京化学同人、1994年10月 1日発行、第1131頁、「非水溶媒」の欄
甲第8号証:「化学大辞典3」、共立出版株式会社、817頁
甲第9号証:「化学大辞典3」、共立出版株式会社、811頁
甲第10号証:「荏原製作所記載例の再現実験、検証実験報告書」(荒川 孝保作成)

(無効理由)
1.無効理由1
本件特許の請求項1?5に係る発明は、甲第1号証?甲第4号証に記載される発明に基いて、出願前の当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、当該請求項1?5に係る発明の特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

2.無効理由2
本件特許の請求項1?5に係る発明について、特許請求の範囲の記載は、発明を明確に記載しておらず、当該特許の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

3.無効理由3
本件特許の請求項1?5に係る発明について、発明の詳細な説明には、請求項1?5に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、当該特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

4.無効理由4
本件特許の請求項5に係る発明は、仮に、「調整」という記載が、「調製」の誤記と判断される場合には、甲第2号証に記載される発明を含むものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、当該請求項5に係る発明の特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

第5 被請求人の求めた審決及び反論
これに対して、被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、「本件発明1?5についての特許は、いずれも、請求人が主張した無効理由1?4によって無効とされるべきものではない」と主張する。

第6 甲第1号証ないし甲第4号証の記載事項
1.甲第1号証:特開平9-326416号公報
本件出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、図1とともに、以下の事項が記載されている。
〔1a〕「【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子を回路基板の端子電極部に実装する方法であって、上記回路基板の端子電極上に、金属の超微粉末を溶剤に分散させて調製した金属ペーストのボールを形成する工程と、半導体素子の電極を、上記回路基板の端子電極上に形成した金属ペーストのボール上にフェースダウン法で接続する工程と、上記金属ペースト中の溶剤を蒸発させて半導体素子と回路基板とを電気的に接続する工程、もしくは、上記溶剤を蒸発させた後、低温焼成により半導体素子と回路基板とを電気的に接続する工程を、少なくとも用いることを特徴とする半導体素子の実装方法。
【請求項2】
請求項1において、金属ペーストは、金もしくは銀の超微粒子を含む低温接合用貴金属ペーストであることを特徴とする半導体素子の実装方法。
・・・
【請求項4】
請求項1において、低温焼成により半導体素子と回路基板とを電気的に接続する工程は、200?250℃の温度範囲で行うことを特徴とする半導体素子の実装方法。」(【特許請求の範囲】の請求項1?4)

〔1b〕「本発明は半導体素子(チップ、ペレットまたはダイ等)の電極部と、回路基板上の端子電極部とを電気的に接続する方法に係り、特に金属超微粒子を含む低温接合用金属ペーストを用いたフェースダウンボンディング法による半導体素子の実装方法およびその方法で作製した半導体装置に関する。」(【0001】)

〔1c〕「【発明の実施の形態】
図1(a)?(c)は、本発明の実施の形態で例示する半導体素子の実装方法の工程を示す図である。
図1(a)は、本発明の半導体素子を実装する場合の電極接続部の拡大図を示すもので、1は回路基板、2は端子電極部、3は低温接合用貴金属ペースト(真空冶金(株)製パーフェクトゴールド)で、Au(金)微粒子(平均径が約0.01μm程度)と分散溶剤としてトルエンを含むペーストを用いて、高さ約2μmのボール状に形成したものである。まず、図1(a)に示すように、回路基板1上の端子電極部2に、マイクロピペットを用いて、上記低温接合用貴金属ペースト3を滴下し、高さ約2μm程度のボールを形成した。図1(b)は、上記低温接合用貴金属ペースト3のボール部に対応する半導体素子4の電極パット部をフェースダウン法でマウントした時の正面を示す模式図である。上記の図1(b)に示すように、ワイヤを用いないで直接ペレットをステムの導体にフェースダウンボンディングするフリップチップボンディング法により半導体素子4を実装し、5分間、半導体素子4の重量によるレベリングの後、100?150℃で約10分間の熱風乾燥炉により加熱して、低温接合用貴金属ペースト3中に含まれているAu微粒子の分散溶剤であるトルエンを蒸発、気化させて電気的接続を行った〔図1(c)〕。図1(c)は、トルエン気化後の、回路基板1および半導体素子4の正面を示す模式図である。さらに、200?250℃で30分間の熱風炉により低温焼成を行うことにより、より強固で信頼性の高い電気的接続を実現することができた。なお、上記実施の形態では、Au(金)微粒子(平均径が約0.01μm程度)と分散溶剤としてトルエンを含むペーストを用いたが、Ag(銀)微粒子を使用した場合も上記実施の形態と同様の信頼性の高い電気的接続を実現することができた。」(【0006】)

〔1d〕「【発明の効果】
本発明の半導体素子の実装方法によれば、請求項1に記載のように、・・・工程を、少なくとも用いる半導体素子の実装方法としているので、従来のはんだ付けのような高温加熱による熱応力を受けたり、また、はんだの横広がりによるショートの危険性が全然なく、電極の間隔が狭く、微細ピッチの電極接続であっても隣の電極とショートすることなく、低温接合用金属ペーストにより強固で信頼性の高い電気接続を実現できる効果がある。
また、請求項2に記載のように、請求項1において、金属ペーストは、金もしくは銀等の超微粒子を含む低温接合用貴金属ペーストを用いるので、上記請求項1の共通の効果に加えて、高性能の電気接続を実現できる効果がある。
・・・
また、請求項4に記載のように、請求項1において、低温焼成により半導体素子と回路基板とを電気的に接続する工程は200?250℃の温度範囲で行うので、上記請求項1の共通の効果に加えて、いっそう信頼性の高い電気接続を実現できる効果がある。」(【0007】)

2.甲第2号証:特開平10-183207号公報
本件出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、図1?3とともに、以下の事項が記載されている。
〔2a〕「【発明の属する技術分野】
本発明は、超微粒子及びその製造方法に関する。」(【0001】)

〔2b〕「粒子径が100nm以下の超微粒子は、その特性が一般の粒子とは大きく異なる。・・・特に、金属超微粒子は、電子材料用の配線形成材料として、低温焼結ペースト等への応用が考えられている。」(【0002】)

〔2c〕「【発明の実施の形態】
以下、本発明をその実施の形態とともに説明する。
・・・
本発明の超微粒子は、金属有機化合物及び当該金属有機化合物に由来する金属成分から主として構成されており、実質的にその中心部が金属成分からなり、その周りが金属有機化合物により取り囲まれている、平均粒径が1?100nmであることを特徴とする。
・・・
本発明において、金属有機化合物は、有機金属化合物のほか、金属アルコキシド等も包含する。金属有機化合物としては、特に制限されず、またいずれの市販品も使用できる。例えば、・・・これらの中でも、特にオレイン酸塩、パラトルイル酸塩、ステアリン酸塩、n-デカン酸塩、金属エトキシド、金属アセチルアセトネート等が好ましい。脂肪酸塩としては、特に直鎖脂肪酸が好ましく、炭素数は通常6?30程度、より好ましくは10?18である。
・・・
金属成分は、上記金属有機化合物に由来するものであれば特に制限されないが、好ましくはCu、Ag、Au、Zn、Cd、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pd、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、V、Cr、Mn、Y、Zr、Nb、Mo、Ca、Sr、Ba、Sb及びBiの少なくとも1種とする。本発明の金属成分としては、これらの金属単身、これらの金属の混合物、或いはこれらの金属の合金等のあらゆる状態を包含する。
・・・
本発明の超微粒子は、金属有機化合物及び当該金属有機化合物に由来する金属成分から主として構成されており、実質的にその中心部が金属成分からなり、その周りを金属有機化合物が取り囲んだ状態となっている。ここで、金属有機化合物とそれに由来する金属成分とは、その一部又は全部が化学的に結合した状態で一体化して存在している。この点において、従来のコーティング品と異なる。本発明の超微粒子の構造を模式図(イメージ図)を図1に示す。
・・・
本発明の超微粒子は、例えば金属有機化合物を、空気を遮断して不活性ガス雰囲気下において、その金属有機化合物の分解開始温度以上、かつ、完全分解温度未満の温度範囲内で加熱することによって製造することができる。
・・・
加熱温度は、金属有機化合物が完全に分解しない限り特に制限されない。すなわち、その金属有機化合物の分解開始温度以上、かつ、完全分解温度未満の温度範囲内とすれば良い。分解開始温度とは、その金属有機化合物の有機質成分が分解しはじめる温度をいい、また完全分解温度とはその金属有機化合物の有機質成分が完全に分解してしまう温度をいう。
・・・
また、加熱するに際し、金属有機化合物に各種アルコール類を添加することもできる。これにより、加熱温度を低くできる等の効果が得られる。アルコール類としては、少なくとも上記効果が得られる限り特に制限されず、例えばグリセリン、エチレングリコール、ラウリルアルコール等が挙げられる。アルコール類の添加量は、用いるアルコールの種類等に応じて適宜定めることができるが、通常は金属有機化合物100重量部に対して5?20重量部程度、好ましくは10?15重量部とすれば良い。
・・・
加熱が終了した後、必要に応じて精製を行う。精製方法は、公知の精製法も適用でき、例えば遠心分離、膜精製、溶媒抽出等により行えば良い。」(【0010】?【0028】)

〔2d〕「【発明の効果】
本発明の製造方法では、特に金属有機化合物を一定雰囲気下で比較的低温で加熱処理することにより、従来とは異なる構造の超微粒子を得ることができる。
・・・
すなわち、本発明の超微粒子は、金属コアの周りを金属有機化合物が取り囲んだ構造になっているため、分散安定性に優れ、溶剤に分散させると可溶化状態となる。例えば、そのままトルエン、ヘキサン、ケロシン等に分散して用いても良く、また公知のペースト化剤に配合してペーストとして用いることもできる。」(【0029】?【0030】)

〔2e〕「実施例4
金属有機化合物としてオレイン酸銀を用いて超微粒子を調製した。
・・・
まず、公知の方法に従ってオレイン酸銀を調製した。市販のオレイン酸ナトリウムを純水に60℃に加熱溶解した。別に当量の硝酸銀を純水に溶解し、先のオレイン酸ナトリウム水溶液に加えた。析出したオレイン酸銀を吸引濾過器を用い濾別した後、乾燥機を用いて乾燥した。
・・・
このようにして得られたオレイン酸銀100gを秤量し、これを容量500mlのナス型フラスコに投入し、沸点250℃のナフテン系炭化水素溶媒を100ml加え、ヘリウム気流下(流量100ml/min.)で加熱した。加熱温度は250℃とし、この温度で4時間保持した。加熱にともなって白色のオレイン酸銀は、はじめに溶融し、その後加熱分解して変性し、徐々に変色して最終的には紫色の液体になった。得られた試料を限外濾過膜にて精製して粉末を得た。
・・・
この変性した粉末を透過型電子顕微鏡で観察したところ、粒径が約4nmの超微粒子から構成されていた。さらに、粉末X線回折を行ったところ、金属銀のコアが確認された。また、熱分析により金属成分の比率を求めたところ、有機基が約20重量%を占めており、元素分析の結果等からオレイン酸基であることが確認できた。
・・・
さらに、この超微粒子からなる粉末をトルエン及びn-ヘキサンに分散させたところ、いずれの場合にも沈殿は認められず、透明な状態となった。すなわち、可溶化状態となっていることが認められた。」(【0050】?【0054】)

3.甲第3号証:特開平10-312712号公報
本件出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
〔3a〕「【請求項1】 粒子サイズ4?15μmの粒子を50体積%以上含む銅系金属粉末と、少なくとも一種の樹脂バインダー及び溶剤を含む導電性ペーストであって、且つ有機酸と平均粒子サイズ1?100nmの金属超微粒子を含有することを特徴とするはんだ付け可能な導電性ペースト。」(特許請求の範囲の【請求項1】)

〔3b〕「【発明の属する技術的分野】
本発明はプリント配線材料や電子部品などに利用される導電性ペーストと、その導電性塗膜に関するものであり、詳細には良好なはんだ付け性を有する塗膜を提供できる直接はんだ付けが可能な導電性ペーストとその導電性塗膜に関するものである。
・・・
【従来の技術】
一般に導電性ペーストは、その応用面の広さやプロセスの簡略化などによるコストメリットの点から、工業的な利用範囲が広がっている。 なかでもフェノール樹脂、エポキシ樹脂やメラミン樹脂などの有機樹脂バインダーと、銀、銅、カーボンなどの導電性粉末と溶剤などから構成される導電性ペーストは、材料が安価であること、適用範囲が広いこと、低温硬化のため他の基材あるいは部品への悪影響の少ないこと、また、メッキを使わずに回路形成や電極の形成が可能なため、プロセスが簡素化できることや、有害な廃液を生じないため、環境問題を低減できるなどの点から、注目度の高い材料となっている。」(【0001】?【0002】)

〔3c〕「 本発明に用いる銅系金属粉末の形状としては、球状、多面体状、鱗片状、フレーク状及びこれらの混合物として用いることができる。不定形の粒子を用いた場合、硬化塗膜表面に樹脂バインダーが偏在するため、はんだぬれ性が悪化し、好ましくない。好ましい粒子形状としては、球状、多面体状、鱗片状、フレーク状であり、さらに好ましくは、球状、多面体状である。いずれの形状にしても、機械的に粉体を加工する公知の方法を用いることが可能である。・・・ また、本発明に用いる銅系金属粉末は、必要であれば、Al、Zn、Sn、Pb、Si、Mn、Bi、Mo、Cr、Ir、Nb、Sb、B、P、Mg、Li、C、Na、Ba、Ti、In、Au、Pd、Pt、Rh、Ru、Zr、Hf、Y、Laなどの金属、半金属及びそれらの化合物からなる粉末を添加しても構わない。」(【0015】?【0016】)

4.甲第4号証:国際公開第97/33713号パンフレット(甲第4号証の翻訳文である甲第5号証:特表2000-512339号公報参照)
本件出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
〔4a〕「9. A method of isolating matel particles, comprising the steps of: preparing a highly dispersed colloidal suspension of particles comprising at least one metal in an organic solvent; adding to the suspension an encapsulant material to at least substantially encapsulate the particles with the encapsulant material; and separating discrete, encapsulated particles from the suspension.
...
11. The method of claim 9, wherein the metal particles are ultrafine particles having a diameter of 100 nm or less.
12. The method of claim 9, wherein the metal particles are fine particles having a diameter greater than 100 nm and less than 1500 nm.
...
24. Isolated particles formed according to the process of claim 9.」(第28頁第26行?第31頁第13行)
[「9.金属粒子を単離するための方法であって:有機溶媒中の少なくとも一種の金属を含んで成る粒子の高度に分散されたコロイド状懸濁物を調製する;前記懸濁物」に封入材料を添加して前記粒子を当該封入材料で少なくとも実質的に封入する;そして、前記懸濁物から独立の封入粒子を分離する;段階を含んで成る方法。
・・・
11.前記金属粒子が100nm以下の直径を有する超微小粒子である、請求項9記載の方法。
12.前記金属粒子が100nmより大きく、且つ1500nm未満の直径を有する微小粒子である、請求項9記載の方法。
・・・
24.請求項9記載の方法に従って形成された単離された粒子。」(甲第5号証の第3頁第14行?第5頁第12行参照)]

第7 平成20年 9月25日の口頭審理(以下、「口頭審理」という。)について
口頭審理において、請求人及び被請求人はそれぞれ次のとおり陳述した(「第1回口頭審理調書」参照)。

<請求人>
「1 請求の趣旨及び理由は、審判請求書、平成20年5月23日付け弁駁書及び平成20年9月25日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述。
2 甲第2号証に記載の「オレイン酸銀」は本件発明でいう「イオン性有機物」であり、「金属塩」である。
3 本件発明の「炭素数5以上」は上限が不明なので、発明が不明確である。」

<被請求人>
「1 答弁の趣旨及び理由は、平成20年4月14日付け答弁書及び平成20年9月25日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述。
2 甲第1号証?甲第10号証の成立を認める。
3 甲第2号証に記載の「オレイン酸銀」は「金属塩」であることを認める。
4 甲第2号証に記載の「オレイン酸基」は「イオン性有機物」であることを認める。
5 甲第2号証に記載の「250℃」は、オレイン酸銀の分解還元温度以上であり、かつオレイン酸基の分解温度以下であることを認める。
6 甲第2号証に記載の超微粒子に含まれるオレイン酸基及びオレイン酸銀は炭素数5以上の有機物であることを認める。
7 請求項3について、不明瞭ならば放棄する用意がある。」

第8 当審の判断
1.無効理由1、4について
(1)無効理由4について
(ア)甲第2号証に記載された発明
上記「第6 2.」に示した甲第2号証の摘記事項〔2a〕?〔2e〕を総合勘案すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲第2号証発明」という。)が記載されていると認められる。

「超微粒子を用いてなる電子材料用の配線形成材料としての低温焼結ペーストであって、
上記超微粒子は、
(1)市販のオレイン酸ナトリウムを純水に60℃に加熱溶解し、別に当量の硝酸銀を純水に溶解し、先のオレイン酸ナトリウム水溶液に加え、析出したオレイン酸銀を吸引濾過器を用い濾別した後、乾燥機を用いて乾燥してオレイン酸銀を調製する工程、
(2)このようにして得られたオレイン酸銀100gを秤量し、これを容量500mlのナス型フラスコに投入し、沸点250℃のナフテン系炭化水素溶媒を100ml加え、ヘリウム気流下(流量100ml/min.)で250℃の温度で4時間保持して加熱する工程、
(3)加熱にともなって白色のオレイン酸銀は、はじめに溶融し、その後加熱分解して変性し、徐々に変色して最終的には紫色の液体となり、得られた試料を限外濾過膜にて精製して粉末を得る工程、
により得られ、この変性した粉末は、粒径が約4nmの超微粒子から構成されたものであって、その中心部に金属銀のコアを有するとともに、その周りが約20重量%のオレイン酸基により取り囲まれたものであり、
この超微粒子からなる粉末をトルエン及びn-ヘキサンに分散させて透明な状態とした上記低温焼結ペースト。」

(イ)対比・判断
そこで、本件特許発明5と甲第2号証発明とを対比する。
(i)甲第2号証発明の上記(2)の加熱工程における「ナフテン系炭化水素溶媒」は、本件特許発明5における「非水系溶媒」に相当する。
(ii)口頭審理における両当事者の陳述によれば(請求人の陳述2及び被請求人の陳述3参照)、甲第2号証発明の上記(2)の工程においてナフテン系炭化水素溶媒に加えられる「オレイン酸銀」は、本件特許発明における「金属塩」に相当するものといえる。
(iii)同じく口頭審理における両当事者の陳述によれば(請求人の陳述2及び被請求人の陳述4参照)、甲第2号証発明において、変性した粉末に含まれる「オレイン酸基」は、「イオン性有機物」に相当するものといえるが、その由来が、上記(2)の加熱工程において、ナフテン系炭化水素溶媒に加えられた「オレイン酸銀」の一部が正に帯電した金属銀とオレイン酸基とに分解した際に生じた「オレイン酸基」であることは明らかであるので、甲第2号証発明の上記(2)の加熱工程において、ナフテン系炭化水素溶媒にオレイン酸銀が加えられた状態では、その溶媒中に「オレイン酸基」即ち、「イオン性有機物」が存在していると認められる。よって、甲第2号証発明における、オレイン酸銀をナフテン系炭化水素溶媒に加えて加熱した点は、本件特許発明5の「非水系溶媒中で且つイオン性有機物の存在下で金属塩」を加熱する工程に相当する。
(iv)甲第2号証発明における上記(2)の250℃の加熱工程において、オレイン酸銀の一部が正に帯電した金属銀とオレイン酸基とに分解すると認められるので、上記「250℃」は、オレイン酸銀、即ち金属塩の「分解還元温度」以上の温度であることは明らかである。他方、甲第2号証発明における上記(2)の250℃の加熱工程を経た後に得られた粉末がオレイン酸基、即ちイオン性有機物を含むものであるから、上記「250℃」は、上記オレイン酸基、即ちイオン性有機物を「分解しない温度」乃至「分解しにくい温度」、即ち「分解温度以下」の温度であることも明らかである。よって、口頭審理における被請求人の陳述(被請求人の陳述5参照)からも明らかなように、甲第2号証発明における「オレイン酸銀をナフテン系炭化水素溶媒に加え、250℃の温度で加熱する工程」は、本件特許発明5における「(金属塩の)分解還元温度以上でかつ該イオン性有機物の分解温度以下で加熱」する工程に相当する。
(v)甲第2号証発明における「粒径が約4nmの超微粒子から構成されたものであって、その中心部に金属銀のコアを有するとともに、その周りが約20重量%のオレイン酸基により取り囲まれたもの」である「変性した粉末」の大部分が金属銀のコアよりなることは、当該粉末を用いたペーストが配線材料として用いられることや、上記粉末にオレイン酸基が約20重量%しか含まれないことからして明らかであり、その結果、上記金属銀のコアは、その粒径が超微粒子全体の粒径と大差ないものと認められるので、上記「金属銀のコア」は、本件特許発明5の「平均粒径1?10nmの金属成分からなるコア部」に相当する。
(vi)甲第2号証発明の「変性した粉末」において、金属銀のコアの周りを取り囲む「約20重量%のオレイン酸基」が、本件特許発明5における「炭素数が5以上の有機物からなる被覆層」に相当するか否かについて、以下検討する。
この点について、被請求人は、その口頭審理陳述要領書において、「第2号証の記載にあっては、オレイン酸銀をナフテン系炭化水素溶媒に加え、オレイン酸銀の分解開始温度以上、かつ完全分解開始温度未満の、例えば、250℃に加熱して超微粒子を作製するようにしており、この結果、この工程を経て作製される超微粒子には、その一部に金属有機化合物(オレイン酸銀)が分解することなくそのまま含まれることになる。これに対して、本件請求項1に係る発明は、イオン性有機物(オレイン酸)の存在下で金属塩(酢酸銀)をその(酢酸銀の)分解還元温度以上でかつ該イオン性有機物(オレイン酸)の分解温度以下の、例えば240℃で加熱して超微粒子を作製するようにしており、この結果、この工程を経て製造される超微粒子には、金属有機化合物(オレイン酸銀)は含まれず、金属成分(銀)からなるコア部の周囲を有機物(オレイン酸)からなる被覆層で被覆した複合金属超微粒子が作製される。つまり、甲第2号証記載の工程によって作製された超微粒子と本件請求項5に記載の工程によって作製された複合金属超微粒子とは、その構成を異にし」(被請求人の口頭審理陳述要領書の第8頁下から2行?第9頁第12行)と主張している。
しかしながら、オレイン酸基が、「炭素数5以上の有機物」に相当するものであることは明らかであるし、仮に被請求人の主張にあるように、甲第2号証発明において得られた「変性した粉末」の一部に「金属有機物(オレイン酸銀)が分解されることなくそのまま含まれ」ていたとしても、オレイン酸銀自体も「炭素数5以上の有機物」に該当するものであることは、口頭審理において、被請求人も認めるところであるように(被請求人の陳述6参照)、甲第2号証発明において、金属銀のコアの周りを取り囲む「約20重量%のオレイン酸基」乃至仮に一部分解されないオレイン酸銀を含んでいる場合の「約20重量%のオレイン酸基及び一部分解されることなく残存するオレイン酸銀」が、本件特許発明5における「炭素数5以上の有機物からなる被覆層」に相当するものであることは明らかである。
(vii)上記(v)、(vi)に鑑みれば、甲第2号証発明における「粒径が約4nmの超微粒子から構成されたものであって、その中心部に金属銀のコアを有するとともに、その周りが約20重量%のオレイン酸基により取り囲まれたもの」である「変性した粉末」は、本件特許発明5における「複合金属超微粒子」に相当し、これを得るための工程(1)?(3)は、本件特許発明5の「複合金属超微粒子を予め作製」する工程に相当する。
(viii)甲第2号証発明において、「超微粒子からなる粉末をトルエン及びn-ヘキサンに分散させて透明な状態とした」点は、本件特許発明5の「複合金属超微粒子を溶媒に分散させて調製した」点に相当する。
(ix)甲第2号証発明における「超微粒子を用いてなる電子材料用の配線材料としての低温焼結ペースト」は、本件特許発明5の「金属ペースト」に相当する。

以上の(i)?(ix)を考慮すれば、本件特許発明5と甲第2号証発明とは、
「非水系溶媒中で且つイオン性有機物の存在下で金属塩をその分解還元温度以下でかつ該イオン性有機物の分解温度以下で加熱して、平均粒径が約1?10nmの金属成分からなるコア部の周囲を、炭素数が5以上の有機物からなる被覆層で被覆した複合金属超微粒子を予め作製し、該複合金属超微粒子を溶媒に分散させて調製した金属ペースト」
である点で一致し、相違しない。

よって、本件特許発明5は、甲第2号証に記載された発明である。

(ウ)小括
以上のとおり、本件特許発明5についての特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。

(2)無効理由1について
(2-1)本件特許発明1
(ア)甲第1号証に記載された発明
上記「第6 1.」に示した甲第1号証の摘記事項〔1a〕?〔1d〕を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されていると認められる。

「半導体素子を回路基板の端子電極部に実装する方法であって、上記回路基板の端子電極上に、銀の超微粉末を溶剤に分散させて調製した金属ペーストのボールを形成する工程と、半導体素子の電極を、上記回路基板の端子電極上に形成した金属ペーストのボール上にフェースダウン法で接続する工程と、上記溶剤を蒸発させた後、200?250℃の温度範囲で行う低温焼成により半導体素子と回路基板とを電気的に接続する工程とを有する半導体素子の実装方法。」

(イ)対比・判断
そこで、本件特許発明1と甲第1号証発明とを対比する。
甲第1号証発明における「半導体素子」、「回路基板」、「端子電極」、「金属ペースト」、「金属ペーストのボール」、「フェースダウン法」及び「低温焼成」は、本件特許発明1の「半導体素子」、「回路基板」、「端子電極」、「金属ペースト」、「金属ペーストボール」、「フェイスダウン法」及び「低温焼成」に相当する。
そして、甲第1号証発明における銀の超微粉末を溶剤に分散させて金属ペーストを調製する点は、本件特許発明1における「金属ペーストを調製する工程」に相当し、また、甲第1号証発明における「銀の超微粉末を溶剤に分散させて調製した」金属ペーストボールと、本件特許発明1における「主に複合金属超微粒子からなる」金属ペーストボールとは、金属超微粒子を含む金属ペーストボールである点で一致する。
さらに、甲第1号証発明における「回路基板の端子電極上に、銀の超微粉末を溶剤に分散させて調製した金属ペーストのボールを形成する工程」は、本件特許発明1の「金属ペーストを回路基板の端子電極上に付着させ」て金属ペーストボールを形成する工程に相当する。

してみると、本件特許発明1と甲第1号証発明とは、
「金属ペーストを調製する工程と、該金属ペーストを回路基板の端子電極上に付着させて金属超微粒子を含む金属ペーストボールを形成する工程と、該金属ペーストボール上にフェイスダウン法を用いて半導体素子の電極を接続する工程と、低温焼成により半導体素子と回路基板とを電気的に接続する工程とを有する半導体素子の実装方法」
である点で一致するものの、以下の点で相違する。

<相違点1>
金属ペーストを調製する工程が、本件特許発明1では、「非水系溶媒中で且つイオン性有機物の存在下で金属塩をその分解還元温度以下でかつ該イオン性有機物の分解温度以下で加熱して、平均粒径が約1?10nmの金属成分からなるコア部の周囲を、炭素数が5以上の有機物からなる被覆層で被覆した複合金属超微粒子を予め作製し、該複合金属超微粒子を溶媒に分散させて金属ペーストを調製する工程」であるのに対して、甲第1号証発明では、そのような工程であるか否かについて規定されていない点。

<相違点2>
金属超微粒子を含む金属ペーストボールについて、本件特許発明1では、「主に複合金属超微粒子からなる金属ペーストボール」とするのに対して、甲第1号証発明では、「銀の超微粉末を溶剤に分散させて調製した金属ペーストのボール」とする点。

以下、上記相違点1、2について検討する。

<相違点1について>
上記「第8 1.(1)(イ)」に記載したように、甲第2号証には、「非水系溶媒中で且つイオン性有機物の存在下で金属塩をその分解還元温度以下でかつ該イオン性有機物の分解温度以下で加熱して、平均粒径が約1?10nmの金属成分からなるコア部の周囲を、炭素数が5以上の有機物からなる被覆層で被覆した複合金属超微粒子を予め作製し、該複合金属超微粒子を溶媒に分散させて調製した金属ペースト」に相当する発明が記載されており、これを該金属ペーストを調製する方法という観点から見ると、「非水系溶媒中で且つイオン性有機物の存在下で金属塩をその分解還元温度以下でかつ該イオン性有機物の分解温度以下で加熱して、平均粒径が約1?10nmの金属成分からなるコア部の周囲を、炭素数が5以上の有機物からなる被覆層で被覆した複合金属超微粒子を予め作製し、該複合金属超微粒子を溶媒に分散させて金属ペーストを調製する方法」の発明が記載されているといえる。
そして、甲第2号証記載の上記金属ペーストが電子材料用の配線形成材料として用いることができるものであることからすると、甲第2号証記載の上記金属ペーストの調製方法を甲第1号証発明における半導体素子の電極と回路基板の端子電極との接続のためのボール用の金属ペーストの調製に用いることは、当業者が容易になし得たことである。

<相違点2について>
甲第1号証発明における「金属ペーストを調製する工程」に、甲第2号証記載の金属ペーストを調製する方法を適用した場合、該金属ペーストから構成される金属ペーストボールも、必然的に「主に複合金属超微粒子からなる」金属ペーストボールになるといえる。

<被請求人の主張について>
被請求人は、その口頭審理陳述要領書において、
「甲第2号証記載の「オレイン酸銀」は本件請求項1記載の「金属塩」に含まれる。・・・一方、本件請求項1記載の「イオン性有機物」は、本件請求項2の記載からも明らかなように、脂肪酸、アルキルベンゼンスルフォン酸またはアルキルスルフォン酸などのことを指している。このことからも、甲第2号証記載の「オレイン酸銀」は本件請求項1記載の「金属塩」のみに相当すると考えられる。更に、以下の点からも、甲第2号証記載の「オレイン酸銀」を、本件請求項1記載の「イオン性有機物」であり且つ「金属塩」に該当するものと認定することはできない。・・・つまり、250℃に加熱している溶媒中には、金属有機化合物(オレイン酸銀)が分解されることなく、そのまま存在している。このため、上記工程を経て製造される超微粒子には、その一部に金属有機化合物(オレイン酸銀)が分解されることなくそのまま含まれることになり、その結果、金属有機化合物(オレイン酸銀)及び当該金属有機化合物に由来する金属成分(銀)から主として構成されており、実質的にその中心部が金属成分(銀)からなり、その周りが金属有機化合物(オレイン酸銀)により取り囲まれている超微粒子が作製される(甲第2号証請求項1参照)。
これに対して、本件請求項1に係る発明は、非水系溶媒中で且つイオン性有機物(オレイン酸)の存在下で金属塩(酢酸塩)をその(酢酸銀の)分解還元温度以上でかつ該イオン性有機物(オレイン酸)の分解温度以下の、例えば240℃で加熱して超微粒子を作製するようにしている。つまり、本件請求項1に係る発明によれば、金属塩(酢酸塩)は完全に分解し、この金属塩の分解によって生成された金属(銀)の周囲にイオン性有機物(オレイン酸)が分解されることなく、イオン結合する。従って、240℃に加熱している溶媒中には、金属有機化合物(オレイン酸銀)は存在しない。このため、上記工程を経て製造される超微粒子には、金属有機化合物(オレイン酸銀)は含まれず、その結果、金属成分(銀)からなるコア部の周囲を有機物(オレイン酸)からなる被覆層で被覆した複合金属超微粒子が作製される(本件発明の請求項1参照)。」と主張し、さらに、
「甲第2号証に記載される超微粒子には、その請求項1の記載からも明らかなように、その一部に金属有機化合物(オレイン酸銀)が分解することなくそのまま含まれることになり、本件請求項1記載の金属成分(銀)と有機物(オレイン酸)から構成される複合金属超微粒子とは、その構成を異にすることは明らかである。」と主張している。
しかしながら、甲第2号証発明における加熱工程が、本件特許発明5及び本件特許発明1の「非水系溶媒中で且つイオン性有機物の存在下で金属塩をその分解還元温度以上でかつ該イオン性有機物の分解温度以下で加熱」する工程と実質的に相違するものでないことは、上記「第8 1.(1)(イ)(i)?(iv)」において述べたとおりであるし、また、甲第2号証記載の超微粒子についても、仮にその一部に金属有機化合物が分解されることなくそのまま含まれるものであるとしても、これが本件特許発明5及び本件特許発明1の「複合金属超微粒子」と実質的に相違するものでないことは、上記「第8 1.(1)(イ)(v)?(vii)」において述べたとおりである。

そして、本件特許発明1の効果は、甲第1号証発明及び甲第2号証の記載事項から予測可能な範囲のものであって、格別顕著でない。
よって、本件特許発明1は、甲第1号証発明及び甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2-2)本件特許発明2
本件特許発明2は、本件特許発明1に対して、その「コア部」を「正に帯電したAg,AuまたはPb金属超微粒子」と限定し、かつその「イオン性有機物」を「炭素数5以上の脂肪酸、アルキルベンゼンスルフォン酸またはアルキルスルフォン酸」と限定するものであるが、上記「第8 1.(1)(ア)」に記載したとおり、甲第2号証発明においてコアを構成する「金属銀」は、オレイン酸銀を加熱分解して変性した結果得られたものであって非水系溶媒中でオレイン酸銀のうちの銀の部分が金属化し、正の電荷を保持するものといえるので、本件特許発明2における「正に帯電したAg金属超微粒子」に相当するものである。また、甲第2号証発明における「オレイン酸基」は、「炭素数5以上の脂肪酸」の脂肪酸基に相当し、水素と結合することにより脂肪酸を構成し得るものであるし、「イオン性有機物」でもあるので、本件特許発明2における「炭素数5以上の脂肪酸であるイオン性有機物」と実質的に相違するものではない。
したがって、本件特許発明2における上記の新たな限定事項は、甲第2号証に実質的に記載された事項といえる。
そして、本件特許発明2の効果は、甲第1号証発明及び甲第2号証の記載事項から予測可能な範囲のものであって、格別顕著でない。
よって、本件特許発明2は、甲第1号証発明及び甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2-3)本件特許発明3
本件特許発明3は、本件特許発明1又は本件特許発明2の「金属ペースト」に、「0.1?1μmのAg,Au,PbまたはAlと樹脂分とが添加されている」との限定を付したものであるが、上記「0.1?1μmのAg,Au,PbまたはAl」との記載が不明確であり、その結果、本件特許発明3が明確とはいえないことは、後述のとおりである。
そこで、上記「Ag,Au,PbまたはAl」が球状のものであって、上記「0.1?1μm」がそれらの粒径を意味すると仮定した上で、本件特許発明3の進歩性の有無につき、以下検討することとする。
甲第3号証の摘記事項〔3a〕?〔3c〕によれば、導電性ペーストに対して樹脂バインダーとAu、PdまたはAl等の金属からなる球状の粉末を添加することは、本件出願前に公知の事項であるから、甲第1号証発明に甲第2号証記載の上記金属ペーストを適用するにあたり、これに樹脂バインダーとAu、PdまたはAl等の金属からなる球状の粉末を添加することは格別困難なことではないし、また、その際の上記球状の粉末の粒径を「0.1?1μm」に限定することも、甲第3号証記載の上記導電性ペーストに含まれる「Au、PdまたはAl等の金属からなる球状の粉末」が「0.1?1μm」の粒径のものを含むことを排除していないことや、直径100nm?1500nm(0.1μm?1.5μm)程度の金属粒子が本件出願前に公知であること(甲第4号証の摘記事項〔4a〕参照)からすると、当業者が適宜なし得たことである。
なお、被請求人は、その口頭審理陳述要領書において、「本件請求項3に係る発明は本件請求項1の記載を引用する従属形式の請求項であり、従って、本件請求項1に係る発明が有する効果をそのまま有している。・・・しかも金属ペースト中に添加されたAg等の金属を介して高い導電率を確保して半導体素子実装の信頼性を高めることができる(段落(0012)参照)といった効果を奏する。」と述べているが、このような効果は、甲第1号証乃至甲第4号証の記載事項から十分予測できる範囲のものにすぎず、他に「0.1?1μmのAg,Au,PbまたはAlと樹脂分とが添加されている」ことによる格別顕著な効果も認められない。
したがって、上記の仮定をおいたとしても、本件特許発明3は、甲第1号証発明及び甲第2号証乃至甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。

(2-4)本件特許発明4
本件特許発明4は、本件特許発明1乃至3のいずれかに対して、低温焼成を行う温度範囲を「200?250℃」に限定するものであるが、上記「第8 1.(2)(2-1)(ア)」に記載したとおり、甲第1号証発明においても、低温焼成は「200?250℃」で行っており、よって、この点で本件特許発明4と甲第1号証発明とは実質的に相違するものではない。
そして、本件特許発明4の効果は、甲第1号証発明及び甲第2号証乃至甲第4号証の記載事項から予測可能な範囲のものであって、格別顕著でない。
よって、本件特許発明4は、甲第1号証発明及び甲第2号証乃至甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2-5)小括
以上のとおり、本件特許発明1?4についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。

2.無効理由2について
(1)請求人の主張
請求人は、その口頭審理陳述要領書において、訂正後の請求項3の記載に関して、
「本件請求項3の「0.1?1μmのAg、Au、PbまたはAl」との記載の明確性
被請求人は、同答弁書において、「0.1?1μmの金属」は、例えば、金属が球体であれば「直径が0.1?1μmの金属」を、金属が棒状であれば「長さが0.1?1μmの金属」をそれぞれ意味することは明らかであると、主張している。しかしながら、「0.1?1μmのAg、Au、PbまたはAl」に関して、その形状は、球体、あるいは、棒状である点は、本件特許明細書には明示されていない。「Ag、Au、PbまたはAl」の形状が、例えば、薄片状である場合、「0.1?1μm」は、該薄片の面形状の一辺をいうのか、厚さをいうのか、依然として、発明の外延は不明瞭である。」(請求人の口頭審理陳述要領書の第5頁下から1行?第6頁第10行)と主張している。

(2)被請求人の主張
一方、被請求人は、その口頭審理陳述要領書において、
「本件請求項3の「0.1?1μmのAg,Au,PbまたはAl」の記載について
「0.1?1μmのAg,Au,PbまたはAl(金属)」は、例えばAg等の金属が球体で有れば「直径が0.1?1μmの金属」を、金属が棒状であれば「長さが0.1?1μmの金属」をそれぞれ意味することは明らかであると思料します。」(被請求人の口頭審理陳述要領書の第6頁第2?7行)と主張している。

(3)判断
そこで、訂正後の請求項3の「0.1?1μmのAg,Au,PbまたはAl」との記載によって、本件特許発明3が明確に規定されているか否かについて検討する。
上記の「Ag,Au,PbまたはAl」との記載では、これらの金属の形状は明記されていないし、また、これらの金属が球形等特定の形状を有することが本件出願当時の技術常識であったともいえないことからすると、当該「Ag,Au,PbまたはAl」が特定の形状のものを意味すると解するのは困難といわざるを得ない。
そして、このように形状が特定されない「Ag,Au,PbまたはAl」について、「0.1?1μmの」との限定を付したとしても、それが、上記「Ag,Au,PbまたはAl」についてのどのような寸法を意味するのかを一義的に確定することは、当業者といえども困難である。
よって、訂正後の請求項3の「0.1?1μmのAg,Au,PbまたはAl」との記載は不明確なものであるので、本件特許発明3は明確とはいえない。

以上のとおり、本件特許発明3についての特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものであるから、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。

第9 まとめ
以上のとおり、訂正後の請求項1?5に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号及び同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
また、訂正後の請求項3に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものであるから、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。
そして、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
半導体素子の実装方法及び金属ペースト
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】非水系溶媒中で且つイオン性有機物の存在下で金属塩をその分解還元温度以上でかつ該イオン性有機物の分解温度以下で加熱して、平均粒径が1?10nmの金属成分からなるコア部の周囲を、炭素数が5以上の有機物からなる被覆層で被覆した複合金属超微粒子を予め作製し、該複合金属超微粒子を溶媒に分散させて金属ペーストを調製する工程と、
該金属ペーストを回路基板の端子電極上に付着させて主に複合金属超微粒子からなる金属ペーストボールを形成する工程と、
該金属ペーストボール上にフェイスダウン法を用いて半導体素子の電極を接続する工程と、
低温焼成により半導体素子と回路基板とを電気的に接続する工程とを有することを特徴とする半導体素子の実装方法。
【請求項2】前記コア部は、正に帯電したAg,AuまたはPb金属超微粒子で、前記イオン性有機物は、炭素数5以上の脂肪酸、アルキルベンゼンスルフォン酸またはアルキルスルフォン酸であることを特徴とする請求項1記載の半導体素子の実装方法。
【請求項3】前記金属ペーストには、0.1?1μmのAg,Au,PdまたはAlと樹脂分とが添加されていることを特徴とする請求項1または2記載の半導体素子の実装方法。
【請求項4】前記低温焼成を200?250℃の温度範囲で行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の半導体素子の実装方法。
【請求項5】非水系溶媒中で且つイオン性有機物の存在下で金属塩をその分解還元温度以上でかつ該イオン性有機物の分解温度以下で加熱して、平均粒径が1?10nmの金属成分からなるコア部の周囲を、炭素数が5以上の有機物からなる被覆層で被覆した複合金属超微粒子を予め作製し、該複合金属超微粒子を溶媒に分散させて調製したことを特徴とする金属ペースト。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体素子(チップ、ペレットまたはダイ等)の電極と、回路基板上の端子電極とを電気的に接続する方法に係り、特に接合用金属ペーストを用いたフェースダウンボンディング法による半導体素子の実装方法およびその方法に使用される金属ペーストに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、電子部品の接続端子と回路基板上の回路パターン端子との電気的接続には、はんだ付けが一般に利用されてきたが、近年、例えばICフラットパッケージ等の小型化と、接続端子の増加等により、接続端子間のいわゆるピッチ間隔が次第に狭くなり、従来のはんだ付け技術では対処することが次第に難しくなってきている。
【0003】
そこで、最近では、例えば、裸の素子と呼ばれている外装されていない能動、受動素子であるチップ(chip)、ペレット(pellet)、ダイ(die)等の半導体素子を回路基板上に電気的に接続しつつ実装する場合には、半導体素子の電極パッド上に予めはんだバンプを形成し、このはんだバンプを回路基板の端子電極に対向して下向きに配置し、高温に加熱して融着する、いわゆるフェイスダウンボンディング法が広く採用されている。このはんだバンプは、例えばCr(クロム)、Cu(銅)およびAu(金)からなる3層の金属薄膜(Under Bump Metals)の上に、レジストを用いて、はんだやめっき或いは蒸着によって一般に形成される。
【0004】
この実装方法は、接続後の機械的強度が強く、かつ半導体素子の電極と回路基板の端子電極との電気的接続を一括して行えることから有効な半導体素子の実装方法とされていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した従来のはんだバンプを用いた半導体素子の実装方法においては、加熱溶融の際にはんだが広がって、互いに隣接するはんだバンプ(電極)同士がショートする危険性があり、微細化に対応しきれない場合があるといった問題があった。
【0006】
なお、金属超微粒子を有する金属ペーストでボールを形成し、このボールを前記はんだバンプの代わりに使用する方法も提案されている(特開平9-326416号公報等参照)。しかし、ここで使用されている金属超微粒子は、例えば、金属を真空中、若干のガスの存在下で蒸発させることによって気相中から金属のみから成る超微粒子を凝結させて、超微細な金属微粒子を得る方法で作製された金属単体の超微粒子であると考えられ、安定性、物性及びコストの面で問題があると考えられる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みて為されたもので、微細ピッチの電極への接続であっても隣の電極とショートする危険性がなく、安定性が高く、低コストで信頼性の高い電気接続を実現できる半導体素子の実装方法およびその方法に使用される金属ペーストを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明は、非水系溶媒中で且つイオン性有機物の存在下で金属塩をその分解還元温度以上でかつ該イオン性有機物の分解温度以下で加熱して、平均粒径が1?10nmの金属成分からなるコア部の周囲を、炭素数が5以上の有機物からなる被覆層で被覆した複合金属超微粒子を予め作製し、該複合金属超微粒子を溶媒に分散させて金属ペーストを調製する工程と、該金属ペーストを回路基板の端子電極上に付着させて主に複合金属超微粒子からなる金属ペーストボールを形成する工程と、該金属ペーストボール上にフェイスダウン法を用いて半導体素子の電極を接続する工程と、低温焼成により半導体素子と回路基板とを電気的に接続する工程とを有することを特徴とする半導体素子の実装方法である。
【0009】
この方法によれば、複合金属超微粒子は、液相中での化学的なプロセスにおいて作製することができるので、大がかりな真空装置を用いることなく、簡単な装置を用いて通常の大気雰囲気下において大量生産が可能であり、コストが安価である。しかも、周囲を有機化合物で被覆されているので、溶媒中における凝集性が小さいばかりでなく、安定していてハンドリングがしやすく、従って、複合金属超微粒子が均一に分散した金属ペーストを調製できるばかりでなく、工程管理が容易である。更に、粒径が均一であるので、低温焼成の際に、一定温度で全ての複合金属超粒子どうしが融着する。
【0011】
金属粒子の融点は粒径が小さくなると低下することが知られているが、その効果が現れはじめるのは20nm以下であり、10nm以下になるとその効果が顕著となる。従って、平均粒径が1?10nmの実質的に金属成分からなるコア部は、該金属が持つ融点よりかなり低い温度で互いに溶融結合し、これによって、低温焼成が可能となる。また、コア金属と該コア金属を保護する保護皮膜としての役割を果たす被覆層とを強固にイオン結合させて、溶媒中における分散安定性を向上させ、しかも粒子としての性状安定性を高めることができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記コア部は、正に帯電したAg,AuまたはPb金属超微粒子で、前記イオン性有機物は、炭素数5以上の脂肪酸、アルキルベンゼンスルフォン酸またはアルキルスルフォン酸であることを特徴とする請求項1記載の半導体素子の実装方法。
請求項3に記載の発明は、前記金属ペーストには、0.1?1μmのAg,Au,PdまたはAlと樹脂分とが添加されていることを特徴とする請求項1または2記載の半導体素子の実装方法である。これにより、金属を介して高い導電率を確保して半導体素子実装の信頼性を高めることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、前記低温焼成を200?250℃の温度範囲で行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の半導体素子の実装方法である。
請求項5に記載の発明は、非水系溶媒中で且つイオン性有機物の存在下で金属塩をその分解還元温度以上でかつ該イオン性有機物の分解温度以下で加熱して、平均粒径が1?10nmの金属成分からなるコア部の周囲を、炭素数が5以上の有機物からなる被覆層で被覆した複合金属超微粒子を予め作製し、該複合金属超微粒子を溶媒に分散させて調製したことを特徴とする金属ペーストである。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
先ず、図1に示すように、実質的に金属成分からなるコア部10と、有機化合物からなる被覆層12とからなる複合金属超微粒子14を作製する。このような複合金属超微粒子14は、有機化合物からなる被覆層12により覆われているので安定であり、しかも溶媒中において凝集する傾向が小さい。
【0015】
この複合金属超微粒子14は、有機化合物と出発物質である金属塩、例えば炭酸塩・蟻酸塩・酢酸塩由来の金属成分から構成されており、その中心部が金属成分からなり、その周りをイオン性有機化合物が取り囲んでいる。この時、有機化合物と金属成分とは、その一部又は全部が化学的に結合した状態で一体化して存在しており、界面活性剤によりコーティングされることにより安定化された従来の超微粒子と異なり、安定性が高いとともに、より高い金属濃度においても安定である。
【0016】
複合金属超微粒子14のコア部10の平均粒径は1?10nmとする。このように構成することにより、コア部10を構成する金属が持つ融点よりもかなり低い温度でコア部10を溶融させることができ、これによって、低温焼成が可能となる。
【0017】
この複合金属超微粒子14は、例えば非水系溶媒中で且つイオン性有機物の存在下で金属塩、例えば炭酸塩・蟻酸塩・酢酸塩をその分解還元温度以上でかつイオン性有機物の分解温度以下で加熱することによって製造することができる。金属成分としては、Ag,AuまたはPbが用いられ、イオン性の有機物としては炭素数5以上の脂肪酸およびアルキルベンゼンスルフォン酸、アルキルスルフォン酸が用いられる。
【0018】
加熱温度は、金属塩、例えば炭酸塩・蟻酸塩・酢酸塩の分解還元温度以上でかつイオン性有機物の分解温度以下であり、例えば酢酸銀の場合、分解開始温度が200℃あるので、200℃以上かつ上記のイオン性有機物が分解しない温度に保持すればよい。この場合、イオン性有機物が分解しにくいようにするために、加熱雰囲気は、不活性ガス雰囲気であることが好ましいが、非水溶剤の選択により、大気下においても加熱可能である。
【0019】
また、加熱するに際し、各種アルコール類を添加することもでき、反応を促進することが可能になる。アルコール類は、上記効果が得られる限り特に制限されず、例えばラウリルアルコール、グリセリン、エチレングリコール等が挙げられる。アルコール類の添加量は、用いるアルコールの種類等に応じて適宜定めることができるが、通常は重量部として金属塩100に対して5?20程度、好ましくは5?10とすれば良い。
【0020】
加熱が終了した後、公知の精製法により精製を行う。精製法は例えば遠心分離、膜精製、溶媒抽出等により行えば良い。
【0021】
例えば、有機アニオン性物質としてオレイン酸を、金属源として酢酸銀をそれぞれ用い、これらを留点250℃のナフテン系高沸点溶媒の中に入れ、240℃にて3時間加熱し、更にアセトンを加えて沈殿精製を行うことで、平均粒径が約10nmのクラスター状の正に帯電したAg金属超微粒子(コア金属)の周囲を有機性陰イオン(被覆層)で被覆した複合金属超微粒子を作製することができる。
【0022】
そして、複合金属超微粒子14をトルエン等の所定の溶媒に分散させ、必要に応じて、0.1?1μm程度の、例えばAg,Au,PdまたはAl等の導電率が高い金属と樹脂分とを添加した金属ペーストを調製し、図2(a)に示すように、この金属ペーストを回路基板20の端子電極22の所定の位置に滴下して、主に複合金属超微粒子14からなる高さ約2μmの金属ペーストボール24を形成する。
【0023】
このような金属ペーストは、分散粒子である複合金属超微粒子14が非常に細かいので、複合金属超微粒子14を混合して攪拌した状態ではほぼ透明であるが、溶媒の種類、複合金属超微粒子濃度、温度等を適宜に選択することにより、表面張力、粘性等の物性値を調製することができる。
【0024】
次に、図2(b)に示すように、半導体素子30を下向きにしたフェイスダウン法を用い、半導体素子30に設けた電極パッド部と前記金属ペーストボール24との位置合わせを行う、いわゆるフリップチップ方式で、金属ペーストボール24上に半導体素子30の電極パッド部を接続し、必要に応じて、半導体素子30の重量によるレベリングを行う。
【0025】
この状態で、例えば200?250℃で30分間の熱風炉により低温焼成を行うことにより、半導体素子30と回路基板20とを電気的に接続する。つまり、金属ペーストボール24に含まれるトルエン等の溶媒を蒸発させ、更に金属ペーストボール24の主成分である複合金属超微粒子14をこの被覆層(有機化合物)12(図1参照)のコア部10からの離脱或いは被覆層12自体の分解温度以上に加熱することで、コア部10から被覆層12を離脱或いは被覆層12を分解して消滅させ、同時にコア部10を溶融結合させる。
【0026】
このように、例えば200?250℃の温度範囲で低温焼成して半導体素子と回路基板とを電気的に接続することで、熱歪みを起こり難くし、しかもはんだを用いないため、はんだの流れによるショートを回避して、より微細なピッチでの接続が可能となる。
【0027】
この時、前述のように、導電率が高い金属を添加した金属ペーストを使用することで、該金属を介して高い導電率を確保して半導体素子実装の信頼性を高めることもできる。
【0028】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明によれば、微細ピッチの電極への接続であっても隣の電極とショートする危険性がなく、安定性が高く、低コストで信頼性の高い電気接続を実現して、半導体素子を回路基板に実装できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
複合金属超微粒子の構造を模式的に示す図である。
【図2】
本発明の実施の形態の半導体素子の実装方法を工程順に示す図である。
【符号の説明】
10 コア部
12 被覆層
14 複合金属超微粒子
20 回路基板
22 端子電極
24 金属ペーストボール
30 半導体素子
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-10-16 
結審通知日 2008-10-20 
審決日 2008-10-31 
出願番号 特願平11-351796
審決分類 P 1 113・ 113- ZA (H01L)
P 1 113・ 537- ZA (H01L)
P 1 113・ 121- ZA (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 市川 篤  
特許庁審判長 綿谷 晶廣
特許庁審判官 市川 裕司
粟野 正明
登録日 2005-01-21 
登録番号 特許第3638486号(P3638486)
発明の名称 半導体素子の実装方法及び金属ペースト  
代理人 廣澤 哲也  
代理人 石橋 政幸  
代理人 小杉 良二  
代理人 渡邉 勇  
復代理人 岡 晴子  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 渡邉 勇  
代理人 廣澤 哲也  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 小杉 良二  

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