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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1194887
審判番号 不服2008-717  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-10 
確定日 2009-03-26 
事件の表示 特願2006-112000「車輪用軸受装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月 1日出願公開、特開2007-285374〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯の概要
本願は、平成18年4月14日の出願であって、平成19年11月26日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、請求人より平成20年1月10日(受付日)に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年2月8日(受付日)付けで特許請求の範囲を補正する手続補正がなされたものである。

2.平成20年2月8日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成20年2月8日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
複列の軌道面を内径側に有する外方部材と、この外方部材の各軌道面と対向する複列の軌道面を外径側に有する内方部材と、これらの外方部材と内方部材の間の軸受空間に複列に配列された転動体とからなり、前記外方部材と内方部材のうちのいずれか一方を車体側に取り付けられる固定部材、他方を車輪側に取り付けられる回転部材とし、前記外方部材と内方部材の間の軸受空間の一端側を、前記固定部材側に装着され、複数のシールリップを有するシール部材と、前記回転部材側に装着され、前記シール部材との間に環状隙間を先端で形成する円環部を有するスリンガとからなり、前記シール部材の軸受空間に対して最も外側に設けたシールリップを軸方向外向きで斜めに外径側へ向けて形成し、この斜めに外径側へ向けたシールリップの先端を、前記スリンガの円環部の内面側に接触させる密封手段で密封し、このスリンガの円環部の外面側に、円周方向で複数の磁極に着磁された磁性ゴムを取り付けた車輪用軸受装置において、前記スリンガの円環部の外面側に取り付けられた磁性ゴムを、前記環状隙間を形成する円環部の先端から内面側に回り込ませ、前記シール部材に、この円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性ゴムと軸方向で接近し、前記斜めに外径側へ向けた最も外側のシールリップの先端に近接するように内径側へ延びる立壁部を形成し、前記円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性ゴムと前記シール部材および前記シール部材の立壁部が近接する最も外側のシールリップの先端との間に、前記環状隙間と屈曲するように連なるラビリンス隙間を形成したことを特徴とする車輪用軸受装置。」
から、
「【請求項1】
複列の軌道面を内径側に有する外方部材と、この外方部材の各軌道面と対向する複列の軌道面を外径側に有する内方部材と、これらの外方部材と内方部材の間の軸受空間に複列に配列された転動体とからなり、前記外方部材を車体側に取り付けられる固定部材、前記内方部材を車輪側に取り付けられる回転部材とし、前記外方部材と内方部材の間の軸受空間の一端側を、前記固定部材側に装着され、前記外方部材の内径面端部に内嵌される芯金と、複数のシールリップを有するゴム部材とからなるシール部材と、前記回転部材側に装着され、前記シール部材との間に環状隙間を先端で形成する円環部を有するスリンガとからなり、前記シール部材の軸受空間に対して最も外側に設けたシールリップを軸方向外向きで斜めに外径側へ向けて形成し、この斜めに外径側へ向けたシールリップの先端を、前記スリンガの円環部の内面側に接触させる密封手段で密封し、このスリンガの円環部の外面側に、円周方向で複数の磁極に着磁された磁性ゴムを取り付けた車輪用軸受装置において、前記スリンガの円環部の外面側に取り付けられた磁性ゴムを、前記環状隙間を形成する円環部の先端から内面側に回り込ませ、前記固定部材側に装着されたシール部材のゴム部材の外側端面を、前記回転部材側に装着されたスリンガの外面側の磁性ゴムの外側側面と同一平面上に面合わせし、前記シール部材のゴム部材に、この円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性ゴムと軸方向で接近し、この内面側に回り込ませた磁性ゴムよりも内径側へ延び、前記最も外側に設けたシールリップの付根部よりも軸方向外側へ張り出す立壁部を形成し、前記円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性ゴムと前記シール部材のゴム部材との間に、前記環状隙間と屈曲するように連なるラビリンス隙間を形成し、前記シール部材のゴム部材を、前記外方部材の内径面端部に内嵌される芯金の外径面側に軸方向外側から回り込ませて、この回り込ませたゴム部材で前記芯金の外径面の端部を覆ったことを特徴とする車輪用軸受装置。」
と補正された。下線部は、当審において対比の便のために付したものである。
なお、平成19年10月4日付け手続補正は、原審において平成19年11月26日付けで決定をもって却下されている。

(2)補正の目的の適否
上記特許請求の範囲の請求項1に係る補正は、形式的にみれば、「ラビリンス隙間」に関して、補正前の「前記円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性ゴムと前記シール部材および前記シール部材の立壁部が近接する最も外側のシールリップの先端との間に、前記環状隙間と屈曲するように連なるラビリンス隙間を形成した」なる事項を、単に「前記円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性ゴムと前記シール部材のゴム部材との間に、前記環状隙間と屈曲するように連なるラビリンス隙間を形成し、」と補正するものであり、「および前記シール部材の立壁部が近接する最も外側のシールリップの先端」なる限定事項を削除した結果、「ラビリンス隙間」に関する限りにおいて、その発明の範囲を拡張するものと認められるものである。
そして、当該補正は、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものとも認められない。
してみると、本件補正は、この点において、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

上述のとおり、本件補正は、形式的にみて補正の要件を満足しておらず却下すべきものと一応認められるが、以下に、実質的内容についても検討する。

上述の「ラビリンス隙間」に関する補正事項以外の補正事項についてみれば、実質的に上記特許請求の範囲の請求項1に係る補正は、出願当初の明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された範囲内で、「前記外方部材と内方部材のうちのいずれか一方を車体側に取り付けられる固定部材、他方を車輪側に取り付けられる回転部材とし」なる事項を、「前記外方部材を車体側に取り付けられる固定部材、前記内方部材を車輪側に取り付けられる回転部材とし」なる事項へと限定し、「シール部材」に関して、「複数のシールリップを有するシール部材」を、「前記外方部材の内径面端部に内嵌される芯金と、複数のシールリップを有するゴム部材とからなるシール部材」と限定し、ゴム部材の外側端面と磁性ゴムの外側側面との関係に関して、「前記固定部材側に装着されたシール部材のゴム部材の外側端面を、前記回転部材側に装着されたスリンガの外面側の磁性ゴムの外側側面と同一平面上に面合わせし」と限定し、「立壁部」に関して、「前記シール部材に、この円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性ゴムと軸方向で接近し、前記斜めに外径側へ向けた最も外側のシールリップの先端に近接するように内径側へ延びる立壁部を形成し」を、「前記シール部材のゴム部材に、この円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性ゴムと軸方向で接近し、この内面側に回り込ませた磁性ゴムよりも内径側へ延び、前記最も外側に設けたシールリップの付根部よりも軸方向外側へ張り出す立壁部を形成し」と限定し、さらに、「シール部材」に関して、「前記シール部材のゴム部材を、前記外方部材の内径面端部に内嵌される芯金の外径面側に軸方向外側から回り込ませて、この回り込ませたゴム部材で前記芯金の外径面の端部を覆った」との限定を付加するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(3)引用刊行物
<刊行物1>
原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-121102号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「軸受用シール構造」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
〔ア〕「本発明は、軸受用シール構造に係り、詳しくは、相対回転する一対の部材間を、一方の部材に固定したシール部材のリング状シールリップと他方の部材の周面との接触によってシールさせてある軸受用シール構造に関するものである。」(【0001】参照。)
〔イ〕「以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1に、自動車のタイヤ等の駆動輪を回転自在に支持するアンギュラ型のベアリング(軸受)9、及びその周辺の構造を示してある。また、図2には、ベアリング9及び組み込まれている内外シールリング16,17等の拡大断面図を示してある。
ベアリング9は、図1に示すように、車輪を構成するためのものであって回転側となるハブ(図示省略)を内嵌する内輪5を、非回転側であるハブキャリア8に対して回転自在に支持するものであり、ハブキャリア8の一部分である外輪13と、内輪5と、これら外輪13と内輪5との間に装備された左右2列の転動体であるボール(回転球)15と、これらボール15を周方向に等間隔配置するためのリテーナ1,2とから構成されている。
外輪13と内輪5との左右方向で内側の端部間には、図2に示すように、固定側シールリング18と回転側シールリング19との対で成る内シールリング16が、そして、外側の端部間には、固定側シールリング25と回転側シールリング26との対で成る外シールリング17が夫々装備されている。
3は、外輪13を兼ねるハブキャリア8を、例えば車体側の支持部材14に取付け固定するための取付ボルトであり、周方向で等間隔に複数個装備されている。内輪5の中心部には、前述のハブや等速ジョイントの軸部等を挿入して装着するための装着孔4が形成されている。内外のシールリング16,17は、ボール15部分に充填されているグリース等の潤滑油の外部流出を防止するとともに、外部からゴミ、異物等のダストがボール15部分に流入するのを防止する。
内シールリング16の側方近傍位置には、取付けステー6を介してハブキャリア8に固定される磁気センサ24が装備されており、この磁気センサ24と、内シールリング16に装備されているトーンホイール21とによって、車輪の、すなわち、内輪5の単位時間当りの回転数を検出自在な回転速度検出用エンコーダ10を構成している。尚、7は、磁気センサ24に接続されたリード線である。
内シールリング16は、図2及び図3に示すように、外輪13の内側端部と内輪5の内側端部との間に装備されており、外輪13の内側端部に内嵌支持される固定側シールリング18と、内輪5の内側端部に外嵌支持される回転側シールリング19とで成るトーンホイール付き組合わせシールリングに構成されている。
回転側シールリング19は、圧延鋼板或はステンレス鋼板等の金属板製で、内輪5の端部に外嵌支持される断面L字形で全体が円環状の内側芯金(スリンガとも言う)20と、内側芯金20に嵌着支持されるトーンホイール21とで構成されている。内側芯金20は、内輪5に嵌合される嵌合筒部20aと、この嵌合筒部20aの一端(図2における右側端)から固定側シールリング18に向けて(外輪13側に向けて)突出する第1立壁部20bとを有して構成されている。
トーンホイール21は、固定側及び回転側の両シールリング18,19の相対回転速度を検出するものであり、第1立壁部20bの外側面(図2における右側面)に装備すべく、第1立壁部20bを越えてその裏側に回りこむ形状に形成し、かつ、接着材を用いて貼着されている。すなわち、第1立壁部20bの外側に位置する最外径部21aと、第1立壁部20bの裏側(図2における左側)に若干回りこんだストップ部21b、とを有して、断面が略鉤状のリングに形成されている。
固定側シールリング18は、断面L字形で全体が円環状の外側芯金22と、ゴム製のシール部材23とから成る。外側芯金22は、外輪13の内周面に圧入によって内嵌支持される筒状の嵌合筒部22aと、この嵌合筒部22aの軸方向端(図2における左側端)から内輪5の外周面に向けて直径方向内方に折れ曲がったリング状の第2立壁部22bとを有している。第2立壁部22bの内径側端部は内側(図2における右側)に若干寄る状態に屈曲形成されている。
シール部材23は、外側芯金22のほぼ内側面における全周に亙って添着されたもので、第1芯金20に押圧接触する1乃至複数箇所(図示の例では3箇所)のリップ片23a,23b,23cを有している。第1シールリップ(サイドリップ)23aは第1立壁部20bに押圧接触され、そして、第2シールリップ(メインリップ)23b及び第3シールリップ(グリースリップ)23cは、嵌合筒部20aに押圧接触されることとなる。シール部材23は、一般的に、外側芯金22に焼き付け接着により一体化されることが多い。尚、シール部材23には、トーンホイール21との間にラビリンスr1を形成するべく、先端側近接部27や根元側近接部28が形成されている。」(【0021】?【0030】参照。)
〔ウ〕「実施例2のシール構造は、図5に示すように、各シールリップ23a?23cと内側芯金20の周面との接触部Sに、真球状微粒子30が添加されているグリースGを塗布して設けるとともに、シール部材23を、真球状微粒子30が添加されたゴム材料から形成してある。つまり、図3に示すシール構造において、シール部材23を形成するゴム材料に、真球状微粒子30が添加されたものである。
シール部材23のゴム材料に真球状微粒子30を添加すれば、内側芯金20との接触部Sにグリースが無くなった(油膜切れを起した)場合でも、低摩擦係数の真球状微粒子30が内側芯金20と接触することでフリクションの増加が抑制され、固定側シールリング18と回転側シールリング19とが円滑に相対回転できる、という利点がある。勿論、図3の構造による前述の作用効果も得られる。
尚、シール部材23のゴム材料としては、NBR、ACM、FKM等がある。」(【0039】?【0041】参照。)
〔エ〕図3、5及び6の記載から、シール部材23の先端側近接部27及び根元側近接部28とトーンホイール21のストップ部21bの形状や位置関係からみて、「固定側シールリング18のゴム製のシール部材23に、この第1立壁部20bの先端から内面側に回り込ませたトーンホイール21と軸方向で接近し、前記最も外側に設けたシールリップ23aの付根部よりも軸方向外側へ張り出す立壁部を形成し」ていることが見てとれる。
〔オ〕図3、5及び6の記載から、シール部材23の先端側近接部27及び根元側近接部28とトーンホイール21の最外径部21a及びストップ部21bの形状や位置関係からみて、「ラビリンスr1」は、シール部材23の先端側近接部27とトーンホイール21の最外径部21aとの間の隙間(以下、「環状隙間」という。)と、シール部材23の根元側近接部28の端面とトーンホイール21のとの間の隙間(以下、「屈曲隙間(ラビリンス隙間)」という。)とからなるものであることが見てとれる。

以上の記載事項及び図面からみて、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1の発明」という。)が記載されているものと認める。
《刊行物1の発明》
「複列の軌道面を内径側に有する外輪13と、この外輪13の各軌道面と対向する複列の軌道面を外径側に有する内輪5と、これらの外輪13と内輪5の間の軸受空間に複列に配列されたボール15とからなり、前記外輪13を車体側に取り付けられる固定部材、前記内輪5を車輪側に取り付けられる回転部材とし、前記外輪13と内輪5の間の軸受空間の一端側を、前記固定部材側に装着され、前記外輪13の内径面端部に内嵌される外側芯金22と、複数のシールリップ23a,b,cを有するゴム製のシール部材23とからなる固定側シールリング18と、前記回転部材側に装着され、前記固定側シールリング18との間に環状隙間を先端で形成する第1立壁部20bを有する内側芯金20とからなり、前記固定側シールリング18の軸受空間に対して最も外側に設けたシールリップ23aを軸方向外向きで斜めに外径側へ向けて形成し、この斜めに外径側へ向けたシールリップ23aの先端を、前記内側芯金20の第1立壁部20bの内面側に接触させる内シールリング16で密封し、この内側芯金20の第1立壁部20bの外面側に、円周方向で複数の磁極に着磁されたトーンホイール21を取り付けたベアリング9において、前記内側芯金20の第1立壁部20bの外面側に取り付けられたトーンホイール21を、前記環状隙間を形成する第1立壁部20bの先端から内面側に回り込ませ、前記固定側シールリング18のゴム製のシール部材23に、この第1立壁部20bの先端から内面側に回り込ませたトーンホイール21と軸方向で接近し、前記最も外側に設けたシールリップ23aの付根部よりも軸方向外側へ張り出す立壁部を形成し、前記第1立壁部20bの先端から内面側に回り込ませたトーンホイール21と前記固定側シールリング18のゴム製のシール部材23との間に、前記環状隙間と屈曲するように連なる屈曲隙間(ラビリンス隙間)を形成したベアリング9。」

(4)対比
本願補正発明と刊行物1の発明とを比較すると、刊行物1の発明の「外輪13」は本願補正発明の「外方部材」に相当し、以下同様に、「内輪5」は「内方部材」に、「ボール15」は「転動体」に、「固定部材」は「固定部材」に、「回転部材」は「回転部材」に、「外側芯金22」は「芯金」に、「シールリップ23a,b,c」は「シールリップ」に、「ゴム製のシール部材23」は「ゴム部材」に、「固定側シールリング18」は「シール部材」に、「環状隙間」は「環状隙間」に、「第1立壁部20b」は「円環部」に、「内側芯金20」は「スリンガ」に、「内シールリング16」は「密封手段」に、「ベアリング9」は「車輪用軸受装置」に、「立壁部」は「立壁部」に、「屈曲隙間(ラビリンス隙間)」は「ラビリンス隙間」に、それぞれ相当する。
また、刊行物1の発明の「トーンホイール21」は、「円周方向で複数の磁極に着磁された磁性部材」である限りにおいて、本願補正発明の「磁性ゴム」に相当するものである。

したがって、本願補正発明の用語に倣ってまとめると、両者は、
「複列の軌道面を内径側に有する外方部材と、この外方部材の各軌道面と対向する複列の軌道面を外径側に有する内方部材と、これらの外方部材と内方部材の間の軸受空間に複列に配列された転動体とからなり、前記外方部材を車体側に取り付けられる固定部材、前記内方部材を車輪側に取り付けられる回転部材とし、前記外方部材と内方部材の間の軸受空間の一端側を、前記固定部材側に装着され、前記外方部材の内径面端部に内嵌される芯金と、複数のシールリップを有するゴム部材とからなるシール部材と、前記回転部材側に装着され、前記シール部材との間に環状隙間を先端で形成する円環部を有するスリンガとからなり、前記シール部材の軸受空間に対して最も外側に設けたシールリップを軸方向外向きで斜めに外径側へ向けて形成し、この斜めに外径側へ向けたシールリップの先端を、前記スリンガの円環部の内面側に接触させる密封手段で密封し、このスリンガの円環部の外面側に、円周方向で複数の磁極に着磁された磁性部材を取り付けた車輪用軸受装置において、前記スリンガの円環部の外面側に取り付けられた磁性部材を、前記環状隙間を形成する円環部の先端から内面側に回り込ませ、前記シール部材のゴム部材に、この円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性部材と軸方向で接近し、前記最も外側に設けたシールリップの付根部よりも軸方向外側へ張り出す立壁部を形成し、前記円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性部材と前記シール部材のゴム部材との間に、前記環状隙間と屈曲するように連なるラビリンス隙間を形成した車輪用軸受装置。」である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願補正発明は、「円周方向で複数の磁極に着磁された磁性部材」が、「磁性ゴム」であるのに対し、刊行物1の発明は、磁性は有しているものの材質がゴムであるか否か不明である点。

[相違点2]
本願補正発明は、「前記固定部材側に装着されたシール部材のゴム部材の外側端面を、前記回転部材側に装着されたスリンガの外面側の磁性部材の外側側面と同一平面上に面合わせし」ているのに対し、刊行物1の発明は、同一平面上に面合わせしていない点。

[相違点3]
本願補正発明は、「立壁部」が、「内面側に回り込ませた磁性部材よりも内径側へ延び」ているのに対し、刊行物1の発明は、内面側に回り込ませた磁性部材よりも内径側までは延びていない点。

[相違点4]
本願補正発明は、「前記シール部材のゴム部材を、前記外方部材の内径面端部に内嵌される芯金の外径面側に軸方向外側から回り込ませて、この回り込ませたゴム部材で前記芯金の外径面の端部を覆った」ものであるのに対し、刊行物1の発明は、当該構成を具備していない点。

(5)判断
上記相違点1ないし4について検討する。
[相違点1]について
車輪用軸受装置において、トーンホイールを磁性ゴムとすることは、周知技術(例えば、特開2004-60751号公報の【0022】、特開2005-42817号公報の【0002】、特開2006-90995号公報の【0004】、等参照。)にすぎないものである。
してみると、刊行物1の発明及び上記周知技術に接した当業者であれば、刊行物1の発明のトーンホイール21の材質として、上記周知技術を採用して上記相違点1に係る構成とすることは、格別の創意を要することなく容易に想到し得るものと認められる。

[相違点2]について
車輪用軸受装置において、固定部材側に装着されたシール部材のゴム部材の外側端面を、回転部材側に装着されたスリンガの外面側の磁性部材の外側側面と同一平面上に面合わせしたものとすることは、周知技術(例えば、特開2004-60751号公報の図6、特開2005-42817号公報の図3、特開2006-90995号公報の図2及び図9、等参照。)にすぎないものである。
してみると、刊行物1の発明及び上記周知技術に接した当業者であれば、刊行物1の発明において、上記周知技術を採用して上記相違点2に係る構成とすることは、格別の創意を要することなく容易に想到し得るものと認められる。

[相違点3]について
ラビリンスシールのシール性能は、通常の使用形態においては、ラビリンス隙間の幅、長さ、屈曲度合いなどに影響されるものであり、これらをどの程度のものとするかは要求されるシール性能に応じて当業者が適宜選択決定すべき設計的事項に属するものであり、上記設計事項の範ちゅうにおいて刊行物1の発明(特に、図3、図5及び図6を参照。)においても、ラビリンス隙間の幅、長さ、屈曲度合いが適宜決定されているということができる。
してみると、刊行物1の発明(特に、図3、図5及び図6を参照。)において、ラビリンス部のシール性能を向上させる目的で、ラビリンス隙間の長さを長くすべくないし屈曲度合いを増すべく、例えば立壁部を「内面側に回り込ませた磁性部材よりも内径側へ延び」たものとする程度のことは、格別の創意を要することなく当業者が適宜なし得るものと認められる。

[相違点4]について
車輪用軸受装置において、シール部材のゴム部材を、外方部材の内径面端部に内嵌される芯金の外径面側に軸方向外側から回り込ませて、この回り込ませたゴム部材で前記芯金の外径面の端部を覆ったものとすることは、周知技術(例えば、特開2004-60751号公報の図6、特開2006-90995号公報の図2、図8及び図9、等参照。)にすぎないものである。
してみると、刊行物1の発明及び上記周知技術に接した当業者であれば、刊行物1の発明において、上記周知技術を採用して上記相違点4に係る構成とすることは、格別の創意を要することなく容易に想到し得るものと認められる。

そして、本願補正発明の作用・効果も、刊行物1の発明及び上記各周知技術に接した当業者が予測できる範囲内のものであって格別のものということはできない。
したがって、本願補正発明は、刊行物1の発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(6)請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、各引用文献に記載の発明と対比した上で、「以上のように、本願発明は、固定側の外方部材に複数のシールリップを有するゴム部材と芯金とからなるシール部材を装着し、回転側の内方部材に装着したスリンガの外側面に磁性ゴムを取り付けた回転センサ付きの車輪軸受装置を対象として、シール部材のゴム部材の外側端面をスリンガの外面側の磁性ゴムの外側側面と面合わせするとともに、ゴム部材に、円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性ゴムと軸方向で接近し、この内面側に回り込ませた磁性ゴムよりも内径側へ延びる立壁部を形成し、さらに、シール部材のゴム部材をその芯金の外径面側へ回り込ませて外径面端部を覆うという従来にない構成を採用することにより、限られたスペースを活用したコンパクトな設計で、ゴム部材と円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性ゴムとの間の環状隙間の長さと、環状隙間と屈曲して連なるラビリンス隙間の長さを長くするとともに、シール部材の芯金の軸方向ずれを防止して、屈曲したラビリンス隙間の間隔を適正に保持するようにし、軸受空間への泥水の浸入を効果的に防止して、軸受寿命を延長可能としたものであり、引用文献1乃至4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。」と主張する(平成20年2月8日付け手続補正書(方式)により補正された審判請求書の請求の理由【本願の発明が特許されるべき理由】の「(c)本願発明と引用文献に記載の発明との対比」欄参照。)。
しかしながら、刊行物1の発明(引用文献1に記載の発明)も、「固定側の外方部材に複数のシールリップを有するゴム部材と芯金とからなるシール部材を装着し、回転側の内方部材に装着したスリンガの外側面に磁性ゴムを取り付けた回転センサ付きの車輪軸受装置を対象として、シール部材のゴム部材に、円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性ゴムと軸方向で接近し、この内面側に回り込ませた磁性ゴムにそって内径側へ延びる立壁部を形成し」たものであって、ゴム部材と円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性ゴムとの間の環状隙間の長さと、環状隙間と屈曲して連なるラビリンス隙間の長さが、「ラビリンスr1」とされているものである(上記摘記事項〔ア〕ないし〔オ〕参照。)。
また、「シール部材のゴム部材の外側端面をスリンガの外面側の磁性ゴムの外側側面と面合わせする」こと及び「シール部材のゴム部材をその芯金の外径面側へ回り込ませて外径面端部を覆う」ことは、ともに周知技術にすぎないことは上述のとおりである(上記相違点2及び4についての検討欄を参照。)。
さらに、立壁部を、この内面側に回り込ませた磁性ゴムよりも内径側へ延びるようにすることも、上記相違点3の検討において検討したとおりである。
そして、その作用・効果についてみても、刊行物1の発明の構成、各周知技術、及び設計変更したことの、それぞれが奏する作用・効果の単なる寄せ集めのものであって、上述のように、刊行物1の発明及び上記各周知技術に接した当業者が予測できる範囲内のものであって格別のものということはできないものであり、それら組み合わせによって当業者に予測不能な新たな作用・効果が生じるなどの特段の事情もうかがうことはできないものである。
結果、刊行物1の発明に上記周知技術を採用し設計変更することによって、本願補正発明は当業者が容易に想到し得たものであることは上述したとおりである。
したがって、上記請求人の主張は採用できない。

(7)むすび
以上のとおり、本件補正は、仮にその補正の目的が適法なものとしても、本願補正発明(本件補正後の請求項1に係る発明)は特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成20年2月8日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成19年6月18日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、それぞれその特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものであるところ、その本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
複列の軌道面を内径側に有する外方部材と、この外方部材の各軌道面と対向する複列の軌道面を外径側に有する内方部材と、これらの外方部材と内方部材の間の軸受空間に複列に配列された転動体とからなり、前記外方部材と内方部材のうちのいずれか一方を車体側に取り付けられる固定部材、他方を車輪側に取り付けられる回転部材とし、前記外方部材と内方部材の間の軸受空間の一端側を、前記固定部材側に装着され、複数のシールリップを有するシール部材と、前記回転部材側に装着され、前記シール部材との間に環状隙間を先端で形成する円環部を有するスリンガとからなり、前記シール部材の軸受空間に対して最も外側に設けたシールリップを軸方向外向きで斜めに外径側へ向けて形成し、この斜めに外径側へ向けたシールリップの先端を、前記スリンガの円環部の内面側に接触させる密封手段で密封し、このスリンガの円環部の外面側に、円周方向で複数の磁極に着磁された磁性ゴムを取り付けた車輪用軸受装置において、前記スリンガの円環部の外面側に取り付けられた磁性ゴムを、前記環状隙間を形成する円環部の先端から内面側に回り込ませ、前記シール部材に、この円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性ゴムと軸方向で接近し、前記斜めに外径側へ向けた最も外側のシールリップの先端に近接するように内径側へ延びる立壁部を形成し、前記円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性ゴムと前記シール部材および前記シール部材の立壁部が近接する最も外側のシールリップの先端との間に、前記環状隙間と屈曲するように連なるラビリンス隙間を形成したことを特徴とする車輪用軸受装置。」

ここで、平成19年6月18日付けの手続補正により追加された、本願発明の上記下線部に係る事項について検討すると、上記下線部に係る事項は、文言上、本願発明が「前記円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性ゴムと前記シール部材の立壁部が近接する最も外側のシールリップの先端との間に、前記環状隙間と屈曲するように連なるラビリンス隙間を形成」していることを意味するものと認められるが、当該事項は、出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面のいずれにも記載されたものではなく、またそれらに記載されている事項から当業者に自明な事項でもない。
したがって、平成19年6月18日付けの手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

上述のとおり、本願発明は、形式的にみて出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されたものとは認められないものであるが、実質的内容についても更に検討すべく、上記「前記円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性ゴムと前記シール部材および前記シール部材の立壁部が近接する最も外側のシールリップの先端との間に、前記環状隙間と屈曲するように連なるラビリンス隙間を形成した」なる事項の意味を、出願当初の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載を参酌して、「前記円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性ゴムと前記シール部材との間に、前記環状隙間と屈曲するように連なるラビリンス隙間を形成し、前記円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性ゴムと前記シール部材の立壁部が近接する最も外側のシールリップの先端との間に、隙間を形成した」程度の意味と仮に解釈し、以下に、その実質的内容について検討する。

(2)刊行物に記載された発明
原査定において引用された刊行物1に記載された事項は、上記「2.(3)引用刊行物」に記載したとおりである。
上記記載事項及び図面からみて、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1の発明A」という。)が記載されているものと認める。
《刊行物1の発明A》
「複列の軌道面を内径側に有する外輪13と、この外輪13の各軌道面と対向する複列の軌道面を外径側に有する内輪5と、これらの外輪13と内輪5の間の軸受空間に複列に配列されたボール15とからなり、前記外輪13と内輪5のうちのいずれか一方を車体側に取り付けられる固定部材、他方を車輪側に取り付けられる回転部材とし、前記外輪13と内輪5の間の軸受空間の一端側を、前記固定部材側に装着され、複数のシールリップ23a,b,cを有する固定側シールリング18と、前記回転部材側に装着され、前記固定側シールリング18との間に環状隙間を先端で形成する第1立壁部20bを有する内側芯金20とからなり、前記固定側シールリング18の軸受空間に対して最も外側に設けたシールリップ23aを軸方向外向きで斜めに外径側へ向けて形成し、この斜めに外径側へ向けたシールリップ23aの先端を、前記内側芯金20の第1立壁部20bの内面側に接触させる内シールリング16で密封し、この内側芯金20の第1立壁部20bの外面側に、円周方向で複数の磁極に着磁されたトーンホイール21を取り付けたベアリング9において、前記内側芯金20の第1立壁部20bの外面側に取り付けられたトーンホイール21を、前記環状隙間を形成する第1立壁部20bの先端から内面側に回り込ませ、前記固定側シールリング18に、この第1立壁部20bの先端から内面側に回り込ませたトーンホイール21と軸方向で接近し、前記斜めに外径側へ向けた最も外側のシールリップ23aの先端に近接するように内径側へ延びる立壁部を形成し、前記第1立壁部20bの先端から内面側に回り込ませたトーンホイール21と前記固定側シールリング18との間に、前記環状隙間と屈曲するように連なる屈曲隙間(ラビリンス隙間)を形成し、前記第1立壁部20bの先端から内面側に回り込ませたトーンホイール21と前記固定側シールリング18の立壁部が近接する最も外側のシールリップ23aの先端との間に、隙間を形成したベアリング9。」

(3)対比・判断
本願発明と刊行物1の発明Aとを比較すると、刊行物1の発明Aの「外輪13」は本願発明の「外方部材」に相当し、以下同様に、「内輪5」は「内方部材」に、「ボール15」は「転動体」に、「固定部材」は「固定部材」に、「回転部材」は「回転部材」に、「シールリップ23a,b,c」は「シールリップ」に、「固定側シールリング18」は「シール部材」に、「環状隙間」は「環状隙間」に、「第1立壁部20b」は「円環部」に、「内側芯金20」は「スリンガ」に、「内シールリング16」は「密封手段」に、「ベアリング9」は「車輪用軸受装置」に、「立壁部」は「立壁部」に、「屈曲隙間(ラビリンス隙間)」は「ラビリンス隙間」に、それぞれ相当する。
また、刊行物1の発明Aの「トーンホイール21」は、「円周方向で複数の磁極に着磁された磁性部材」である限りにおいて、本願発明の「磁性ゴム」に相当するものである。
そして、本願発明の「前記円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性ゴムと前記シール部材および前記シール部材の立壁部が近接する最も外側のシールリップの先端との間に、前記環状隙間と屈曲するように連なるラビリンス隙間を形成した」なる事項は、上述のとおり、「前記円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性ゴムと前記シール部材との間に、前記環状隙間と屈曲するように連なるラビリンス隙間を形成し、前記円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性ゴムと前記シール部材の立壁部が近接する最も外側のシールリップの先端との間に、隙間を形成した」の意味と解釈すると、刊行物1の発明Aの「前記第1立壁部20bの先端から内面側に回り込ませたトーンホイール21と前記固定側シールリング18との間に、前記環状隙間と屈曲するように連なる屈曲隙間(ラビリンス隙間)を形成し、前記第1立壁部20bの先端から内面側に回り込ませたトーンホイール21と前記固定側シールリング18の立壁部が近接する最も外側のシールリップ23aの先端との間に、隙間を形成した」なる事項は、本願発明の「前記円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性ゴムと前記シール部材および前記シール部材の立壁部が近接する最も外側のシールリップの先端との間に、前記環状隙間と屈曲するように連なるラビリンス隙間を形成した」なる事項に相当する。

したがって、本願発明の用語に倣ってまとめると、両者は、
「複列の軌道面を内径側に有する外方部材と、この外方部材の各軌道面と対向する複列の軌道面を外径側に有する内方部材と、これらの外方部材と内方部材の間の軸受空間に複列に配列された転動体とからなり、前記外方部材と内方部材のうちのいずれか一方を車体側に取り付けられる固定部材、他方を車輪側に取り付けられる回転部材とし、前記外方部材と内方部材の間の軸受空間の一端側を、前記固定部材側に装着され、複数のシールリップを有するシール部材と、前記回転部材側に装着され、前記シール部材との間に環状隙間を先端で形成する円環部を有するスリンガとからなり、前記シール部材の軸受空間に対して最も外側に設けたシールリップを軸方向外向きで斜めに外径側へ向けて形成し、この斜めに外径側へ向けたシールリップの先端を、前記スリンガの円環部の内面側に接触させる密封手段で密封し、このスリンガの円環部の外面側に、円周方向で複数の磁極に着磁された磁性部材を取り付けた車輪用軸受装置において、前記スリンガの円環部の外面側に取り付けられた磁性部材を、前記環状隙間を形成する円環部の先端から内面側に回り込ませ、前記シール部材に、この円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性部材と軸方向で接近し、前記斜めに外径側へ向けた最も外側のシールリップの先端に近接するように内径側へ延びる立壁部を形成し、前記円環部の先端から内面側に回り込ませた磁性ゴムと前記シール部材および前記シール部材の立壁部が近接する最も外側のシールリップの先端との間に、前記環状隙間と屈曲するように連なるラビリンス隙間を形成した車輪用軸受装置。」である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点A]
本願発明は、「円周方向で複数の磁極に着磁された磁性部材」が、「磁性ゴム」であるのに対し、刊行物1の発明Aは、磁性は有しているものの材質がゴムであるか否か不明である点。

上記相違点Aについて検討する。
車輪用軸受装置において、トーンホイールを磁性ゴムとすることは、周知技術(例えば、特開2004-60751号公報の【0022】、特開2005-42817号公報の【0002】、特開2006-90995号公報の【0004】、等参照。)にすぎないものである。
してみると、刊行物1の発明A及び上記周知技術に接した当業者であれば、刊行物1の発明Aのトーンホイール21の材質として、上記周知技術を採用して上記相違点Aに係る構成とすることは、格別の創意を要することなく容易に想到し得るものと認められる。

そして、本願発明の作用・効果も、刊行物1の発明A及び上記各周知技術に接した当業者が予測できる範囲内のものであって格別のものということはできない。
したがって、本願発明は、刊行物1の発明A及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明(本願の請求項1に係る発明)は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の他の請求項(請求項2)に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-22 
結審通知日 2009-01-27 
審決日 2009-02-10 
出願番号 特願2006-112000(P2006-112000)
審決分類 P 1 8・ 55- Z (F16C)
P 1 8・ 57- Z (F16C)
P 1 8・ 575- Z (F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡▲さき▼ 潤  
特許庁審判長 川上 益喜
特許庁審判官 常盤 務
戸田 耕太郎

発明の名称 車輪用軸受装置  
代理人 鳥居 和久  
代理人 東尾 正博  
代理人 鎌田 文二  
代理人 田川 孝由  

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