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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B42D
管理番号 1195793
審判番号 不服2005-6145  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-04-07 
確定日 2009-04-16 
事件の表示 特願2002-176085「IDカード作成・管理システム」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 1月 8日出願公開、特開2003- 1983〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成5年8月20日(優先権主張:平成5年6月25日)に出願した特願平5-206422号(以下、「原出願」という。)の一部を、平成14年6月17日に新たな特許出願(特願2002-176085号)としたものであって、平成17年2月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月7日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。
その後、当審により、平成20年10月30日付けで拒絶理由が通知され、同年12月25日付けで特許請求の範囲及び明細書についての手続補正がなされたものである。

2.本願発明について
本願の請求項1に係る発明は、平成20年12月25日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「 【請求項1】
申請者のID番号を入力するID番号入力手段と、
前記申請者の顔を撮影して顔画像データを入力する顔画像データ入力手段と、
前記申請者の申請書の記載内容をイメージデータとして入力する申請書イメージ入力手段と、を有し、
前記ID番号が入力されると、入力されたID番号に対応するID情報をデータベースから読み出し、該ID番号に対応付けて前記顔画像データ入力手段によって入力された顔画像データ、前記読み出したID情報及び前記申請書イメージ入力手段によって入力された申請書のイメージデータをファイリングし、該ID番号に対応する顔画像とID情報とが記録されたIDカードを作成するIDカード作成・管理システムにおいて、
複数のIDカード作成にかかる処理を並列的に行うIDカード作成制御手段を備え、
該IDカード作成制御手段は、
前記申請書イメージ入力手段が非稼動の状態で、申請書のイメージデータが入力されない場合には、前記入力されたID番号に対応付けて前記顔画像データ入力手段によって入力された顔画像データ及び前記読み出したID情報をファイリングすると共に、前記IDカードの作成処理を逐次進行させる一方、
予定のIDカード作成が終了した後に、前記入力されなかった申請書のイメージデータが稼動状態にある申請書イメージ入力手段によってまとめて入力されると、それぞれを前記ID番号に対応付けてファイリングすることを特徴とするIDカード作成・管理システム。」

3.刊行物
(1)当審における拒絶の理由で引用され、本願の優先権主張日前に頒布された特開平1-116877号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載が図示とともにある。

(ア)「第1図、および第2図はこの発明の個人認証票発行装置としての、個人認証票として特定の免許証を発行する免許台帳統合管理システムの構成を示すものである。
この免許台帳統合管理システムは、OCRスキャナ11、漢字入力端末機12、CCDカメラ13、14、ホスト漢字入力端末機15、A/D変換器16、処理回路17、システムコントローラ18、オーバレイプリンタ19、光ディスク装置20、磁気ディスク装置21、光ディスクオートチェンジャ22、イメージプリンタ41、漢字プリンタ42およびホストCPU23などによって構成されている。」(2頁左下欄17行?同頁右下欄9行)
(イ)「上記OCRスキャナ11は、受付けた申請書のイメージデータ(2値画像)を読取るとともに、申請書上の免許証番号を解読(判読)するものであり、たとえば二次元走査装置で構成されている。」(2頁右下欄10?13行)
(ウ)「上記CCDカメラ13は、新しい免許証に使用する申請者の顔(身体の特徴)をカラーで撮影し、カラーの画像信号に変換して出力するものである。」(3頁左上欄4?6行)
(エ)「上記合流部30は、上記属性情報発生部31から発生される固定の画像パターン(文字パターンと印鑑のパターン)、システムコントローラ18から出力される関連データに対応する文字パターン等を用いて免許データつまり住所、氏名、免許の種類等からなる印刷データからなる免許証記載事項としてのパターンデータ、および上記CCDカメラ13あるいは14により撮影した申請者の顔画像、あるいは顔写真に対応する画像信号を合成するものである。
上記電子プリンタ32は、上記合流部30から供給される免許証記載事項と上記CCDカメラ13あるいは14で撮像した申請者の顔写真(顔画像)を重ね合せた印刷パターンで印刷することにより、免許証を発行(作成)するものである。」(3頁左下欄3?17行)
(オ)「上記光ディスク装置20は、上記CCDカメラ13あるいは14で撮影された申請者の顔写真(顔画像)、および上記OCRスキャナ11で読取った申請書のイメージデータとを光ディスク(記憶媒体)1、1に記憶するものである。上記顔写真、申請書のイメージデータは免許証番号、住所、氏名等を検索キーとする検索コードで管理されて記憶されるようになっており、その検索コードも光ディスク1、1に同時に記憶されるようになっている。」(3頁左下欄18行?同頁右下欄7行)
(カ)「上記ホストCPU23は、各免許証(免許証番号)ごとの関連データたとえば住所、氏名、免許の種類等を図示しないメモリでサブマスタとして記憶管理(-元管理)しているものであり、その記憶内容によってCPU24で記憶管理されているメインマスタの内容が更新されるようになっている。」(4頁左上欄12?18行)
(キ)「上記ホスト漢字入力端末機15は、上記ホストCPU23の端末機であり、上記OCRスキャナ11での免許証番号の読取りの代りに、免許証番号をキー入力できるようになっている。」(4頁左上欄19行?同頁右上欄2行)
(ク)「まず、申請書の受付けについて説明する。すなわち、まず申請書が窓口に受付けられると、窓口の係員は申請書をOCRスキャナ11にセットし、読取りを行なわせる。
これにより、OCRスキャナ11はその申請書のイメージデータ(2値画像)を読取るとともに、申請書上の免許証番号を解読(判読)し、システムコントローラ18に出力する。システムコントローラ18は、供給されるイメージデータを一旦磁気ディスク21aに記憶保存し、免許証番号を図示しないメモリに記憶する。」(4頁右上欄4?14行)
(ケ)「すると、システムコントローラ18は、関連データの要求信号と免許証番号とをホストCPU23に出力する。
これにより、ホストCPU23は、免許証番号に対応する関連データたとえば住所、氏名、免許の種類等を図示しないメモリから読出し、システムコントローラ18へ出力する。」(4頁左下欄7?13行)
(コ)「この免許証の作成の指示は、システムコントローラ18に供給される。すると、システムコントローラ18は、上記関連データ(修正済み)に対応する文字パターン等を用いて免許データつまり住所、氏名、免許の種類等からなる印刷データを作成し、合成部30に出力する。」(4頁右下欄3?8行)
(サ)「また、係員は上記申請者の顔の部分をCCDカメラ13で撮影する。すると、CCDカメラ13はその撮影した顔の画像に対応するカラーの画像信号を合成部30へ出力する。これにより、合成部30は免許証記載事項としての上記各パターンデータ、および画像信号を対応する位置に合成し、この合成した結果を電子プリンタ32で免許証の用紙上にプリントアウトする。」(4頁右下欄12?19行)

前記記載(キ)から、ホスト漢字入力端末機15は、申請者の免許証番号を入力するものであることが把握できる。
前記記載(ウ)、(サ)から、CCDカメラ13は、申請者の顔を撮影して顔画像データを入力するものであることが把握できる。
前記記載(イ)から、OCRスキャナ11は、申請者が申請した申請書のイメージデータを読み取るものであること、つまり、申請者の申請書の記載内容をイメージデータとして入力するものであることが把握できる。
前記記載(ケ)には、ホストCPU23が、免許証番号に対応する関連データ(住所、氏名等)を図示しないメモリ(以下、「サブマスタ」という。)から読み出すことが記載されている。そして、前記記載(キ)には、免許証番号が、OCRスキャナ11からの読み取りの代わりに、ホスト漢字入力端末機15でキー入力できることが記載されている。したがって、ホスト漢字入力端末機15により入力された免許証番号に対応する関連データを、サブマスタから読み出していることが把握できる。
前記記載(エ)には、固定の画像パターンと、関連データ等の免許証記載事項と、CCDカメラ13等により撮影した申請者の顔画像とが合成部30で合成され、合成された印刷パターンを電子プリンタ32で印刷することにより、免許証が作成されることが記載されている。したがって、免許台帳統合管理システムは、免許証番号に対応する顔画像と関連データ(住所、氏名等)とが記録された免許証を作成するものである。

したがって、前記記載及び図面を含む刊行物1全体の記載から、刊行物1には、以下の発明(以下「刊行物1記載の発明」という。)が開示されていると認められる。
「申請者の免許証番号を入力するホスト漢字入力端末機15と、
前記申請者の顔を撮影して顔画像データを入力するCCDカメラ13と、
前記申請者の申請書の記載内容をイメージデータとして入力するOCRスキャナ11と、を有し、
入力された免許証番号に対応する関連データをサブマスタから読み出し、該免許証番号に対応する顔画像と関連データとが記録された免許証を作成する免許台帳統合管理システム。」

(2)当審における拒絶の理由で引用され、本願の優先権主張日前に頒布された特開平1-206098号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載が図示とともにある。

(シ)「本人の免許データ(氏名,生年月日,住所,免許証番号など)を撮影カード上に記録する。」(1頁右下欄9?10行)
(ス)「ここでオペレータ(担当者)が旧免許証の免許証番号をOCR装置6で読み取る(キーボードから入力することも可能である)。この時、旧免許証の顔写真で本人か否かの確認をする。免許証番号を基準にして、免許データがホストコンピュータ16からコントローラ5に送られ、モニタ9上に表示される。」(4頁右下欄4?10行)

したがって、前記記載及び図面を含む刊行物2全体の記載から、刊行物2には、以下の事項が開示されていると認められる。
「システム内に免許証番号が入力されたときに、免許データ(住所、氏名、生年月日など)を読み出す点。」

4.本願発明と刊行物1記載の発明との対比
a.刊行物1記載の発明の「免許証」は、個人を識別することができるものであり、本願発明の「IDカード」に相当する。

b.本願発明の「ID番号」と刊行物1記載の発明の「免許証番号」とを対比するに、本願発明の「ID番号」について、発明の詳細な説明の段落【0002】には、「個人識別番号(以下、ID番号という。)」と記載されていることから、本願発明の「ID番号」とは、個人識別番号であることが理解できる。
一方、刊行物1記載の発明の「免許証番号」が個人を識別する番号であることは自明の事項である。
したがって、刊行物1記載の発明の「免許証番号」は、本願発明の「ID番号」に相当している。

c.本願発明の「ID情報」と刊行物1記載の発明の「関連データ」とを対比するに、本願発明の「ID情報」について、発明の詳細な説明の段落【0002】には、「所謂IDカード(Identification Card)の中でも、特定資格を証明するためのIDカードにおいては、本人の顔写真と共に、本人の住所,氏名,生年月日,個人識別番号(以下、ID番号という。)などのID情報(個人情報)を記録する形態とすることが多い。」と記載されていることから、本願発明の「ID情報」とは、住所、氏名、生年月日、ID番号等を示していることが理解できる。
一方、刊行物1記載の発明の「関連データ」は、前記記載(カ)から、たとえば、住所、氏名、免許の種類等であることが把握できる。
したがって、刊行物1記載の発明の「関連データ」は、本願発明の「ID情報」に相当している。

d.前記記載(イ)、(ク)から、刊行物1記載の発明の「OCRスキャナ11」は、申請書のイメージデータを読み取り、申請書上の免許証番号を解読(判読)するものであることが把握できる。したがって、刊行物1記載の発明の「OCRスキャナ11」は、本願発明の「申請書イメージ入力手段」に相当する。

e.前記記載(ウ)から、刊行物1記載の発明の「CCDカメラ13」は、申請者の顔を撮影し、カラーの画像信号に変換して出力するものであることが把握できる。したがって、刊行物1記載の発明の「CCDカメラ13」は、顔画像をデータとしてシステム内に入力するものであるから、本願発明の「顔画像データ入力手段」に相当する。

f.刊行物1記載の発明の「サブマスタ」は、免許証番号と関連データとを関連付けて記憶しており、本願発明の「データベース」に相当する。

g.刊行物1記載の発明の「免許台帳統合管理システム」は、免許証を作成することのできる管理システムであるから、本願発明の「IDカード作成・管理システム」に相当している。

よって、両者は、以下の点で一致し、また、相違している。
<一致点>
「申請者のID番号を入力するID番号入力手段と、
前記申請者の顔を撮影して顔画像データを入力する顔画像データ入力手段と、
前記申請者の申請書の記載内容をイメージデータとして入力する申請書イメージ入力手段と、を有し、
入力されたID番号に対応するID情報をデータベースから読み出し、該ID番号に対応する顔画像とID情報とが記録されたIDカードを作成するIDカード作成・管理システム。」

<相違点1>
ID情報をデータベースから読み出すタイミングとして、本願発明では、「前記ID番号が入力されると、・・・読み出し」との特定がされているのに対して、刊行物1記載の発明では、そのような特定を有しない点。

<相違点2>
本願発明では、「該ID番号に対応付けて前記顔画像データ入力手段によって入力された顔画像データ、前記ID情報及び前記申請書イメージ入力手段によって入力された申請書のイメージデータをファイリングし」との特定がされているのに対して、刊行物1記載の発明では、そのような特定を有しない点。

<相違点3>
本願発明では、「複数のIDカード作成にかかる処理を並列的に行うIDカード作成制御手段を備え、該IDカード作成制御手段は、前記申請書イメージ入力手段が非稼動の状態で、申請書のイメージデータが入力されない場合には、前記入力されたID番号に対応付けて前記顔画像データ入力手段によって入力された顔画像データ及び前記読み出したID情報をファイリングすると共に、前記IDカードの作成処理を逐次進行させる一方、予定のIDカード作成が終了した後に、前記入力されなかった申請書のイメージデータが稼動状態にある申請書イメージ入力手段によってまとめて入力されると、それぞれを前記ID番号に対応付けてファイリングする」との特定がされているのに対して、刊行物1記載の発明では、そのような特定を有しない点。

5.判断
<相違点1について>
前記したように、刊行物2には、「システム内に免許証番号が入力されたときに、免許データ(住所、氏名、生年月日など)を読み出す点。」が記載されている。
そして、刊行物1記載の発明で関連データが必要になるのは、顔の照合が終了して申請書の記載事項の照合を行うときであるから、申請書の記載事項の照合までに読み出せばよいのであって、刊行物2の記載のように、免許証番号が入力されたタイミングで関連データを読み出しておくようにすることは、当業者であれば容易に想到することである。
したがって、前記相違点1に係る本願発明の構成は、刊行物1記載の発明、刊行物2に記載される事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。

<相違点2について>
まず、本願発明において、「ファイリング」とは何を意味しているのかについて検討する。
一般に「ファイル」とは、「書類・資料などを整理し、綴じて保存すること。」(株式会社岩波書店 広辞苑第5版)を意味することから、コンピュータを用いたシステムにおいてファイルするとは、データを記憶手段に保存することと解することができる。そして、前記「ファイリング」とは、ファイルを名詞的に表現しようとしていることが明らかであるから、コンピューターを用いたシステム内の何かしらの記憶手段にデータを保存することを意味していると解することができる。
また、本願の発明の詳細な説明の段落【0046】には、「また、EWS2には、ハードディスクドライブ(HDD)32が内蔵されており、各端末で扱う申請書のイメージデータ,顔画像データ,ID情報などは、前記HDD32(ファイリング手段)に一旦記憶されるようになっている。」と記載されており、また、段落【0082】には、「一方、HDD32(ファイリング手段)に記憶されている顔画像データ,申請書イメージデータ,ID情報(ID番号を含む)は、ID番号を検索情報としてEWS2の空き時間にホストコンピュータ11にファイリングデータとして転送され、顔画像データ,申請書イメージデータについては集合型光ディスク13aに、また、ID情報については磁気記憶装置13bに記憶される。」と記載されていることから、最終的にデータベースにデータを保存することと解することができる。

そこで、前記相違点2について検討するに、刊行物1に記載の免許台帳統合管理システムは、免許証番号に対応させてサブマスタに関連データを記憶し、免許証番号に対応させて光ディスク装置20に顔画像データと申請書のイメージデータとを記憶しているものであるから、相違点2は実質的な相違点でない。
また、「ファイリング」の意味として、ホストコンピュータのデータベースに記憶されているデータを、端末コンピュータのメモリ(ハードディスク)に一時的に記憶することであるとも解することができるが、刊行物1記載の発明の顔画像データや関連データは、係員が「申請者の顔」と「光ディスク装置20に記憶されている顔画像」とを照合するときや、係員が「申請書の記載内容」と「サブマスタに記憶されている関連データ」とを照合するときに、漢字入力端末機12に表示されるものであるし、また、関連データは、修正の必要があれば漢字入力端末機12で修正されることから、それらのデータを一時的に記憶しておくメモリを備えることは通常のことであって格別なものではない。
してみれば、刊行物1記載の発明から前記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できたものである。

<相違点3について>
(1)まず、前記相違点3の「複数のIDカード作成にかかる処理を並列的に行うIDカード作成制御手段を備え」との構成について検討する。

「複数のIDカード作成にかかる処理を並列的に行うIDカード作成制御手段」との記載について、「並列的に」との記載と、「複数のIDカード作成にかかる処理」との記載が不明確であるので、それらについて検討しておく。

・「並列的に」について
「並列的に」との記載が、複数個のIDカード作成端末を備えることで複数のIDカードの作成を並行して行うことを示しているのか、それとも、1つのIDカード作成端末内で複数のIDカード作成にかかる処理を並列的に行うことを示しているのかわからず、不明確な記載となっているので、両者について検討することとする。

・「複数のIDカード作成にかかる処理」について
「複数のIDカード作成にかかる処理」が、どのような処理を示しているのか(例えば、データの取得処理や顔画像の撮影処理まで含むのか)わからず不明確な記載となっているので、発明の詳細な説明の記載を参照して、当該記載を解釈することとする。
発明の詳細な説明の段落【0091】には、「顔画像データの読取りをID情報の照会に対応させて行わせる必要はなく、たとえID情報の照会が済んでいなくても、顔画像データの読取りを優先してどんどん進行させ、ID情報の照会が済んで顔画像データとID情報とが揃ったことが管理ファイル上で確認されたものから、逐次プリンタ8に対してデータを転送し、作成指令を出力させるようにすれば良い。」と記載され、複数のIDカード作成にかかる処理の具体例として、顔画像データの読取りとID情報の照会が記載されている。このことから、「複数のIDカード作成にかかる処理」とは、プリンタでの処理だけでなく、プリンタへデータを転送する前のデータ処理まで包含していると解することができる。
したがって、本願発明の「複数のIDカード作成にかかる処理」は、プリンタへ印刷するためのデータを転送する前に行われるデータ処理まで含んだ処理であると解することとする。

まず、「並列的に」との記載について、発明の詳細な説明の段落【0088】には、「複数のIDカード作成にかかる処理が1つの端末内で並列的に処理できるようにすると良い。」と記載されていることから、「並列的に」との記載は、1つのIDカード作成端末内で複数のIDカード作成にかかる処理を並列的に行うことを示していると解することができるので、その場合について検討する。
刊行物1の前記記載(エ)から、免許証の作成に用いられるデータは、「印鑑等の固定の画像パターンデータ」と、「住所や氏名等の関連データ」と、「申請者の顔画像データ」であることが把握できる。
ここで、「住所や氏名等の関連データ」は、免許証番号等ごとにサブマスタに記憶、管理されていることから、免許証番号をキーとして関連データの準備ができたか否かを確認することができる。
また、「申請者の顔画像データ」は、免許証番号等を検索キーとして管理されていることから、免許証の作成に用いられる顔画像データを、CCDカメラ13から直接入力するのではなく、免許証番号に基づいて光ディスク装置20から取得するように変更する程度のことは当業者が容易に想到することであり、免許証番号をキーとして顔画像データの準備ができたか否かを確認することができる。
また、「印鑑等の固定の画像パターンデータ」は、免許証の発行の不正を防止するために付与されるものであり、すべての免許証に共通して付与されるデータであると解することができ、免許証番号に係わらず準備ができたか否かを確認することができる。
してみれば、免許証を作成する際に、免許証番号に基づいて印刷に必要なデータが準備できたか否かの判断をして、免許証の印刷を開始し得るものである。そして、このように複数の処理を並列的に行いデータが揃ったものから処理を実行することは、コンピュータの分野においてデータフロー型のアーキテクチャと呼ばれる周知の技術である(例えば、特開平1-188941号公報の2頁左上欄4?12行の「一方、データフロー型計算機は、・・・並列的にプログラムが実行される。」との記載、特開昭61-184659号公報の5頁右下欄18行?6頁左上欄8行の「公知の並列処理アーキテクチャの・・・実行されるからである。」との記載等を参照されたい。)。
したがって、刊行物1記載の発明において、プリンタ部に入力される顔画像データを免許証番号に基づいて光ディスク装置20から取得するように変更することで、前記相違点3の当該記載に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できたものである。
また、免許証を作成するために制御する箇所を、その機能に倣って「IDカード作成制御手段」と称することに何ら困難性はない。

また、「並列的に」の意味として、複数個のIDカード作成端末を備えることで複数のIDカードの作成を並行して行うことであるとも解し得るので、その場合について検討する。
ホストコンピュータと複数の端末コンピュータとを接続したネットワーク型のコンピュータにおいて、すべての作業をホストコンピュータで処理するとホストコンピュータに対する負荷が大きくなることから、各端末コンピュータにメモリを設け、該メモリにデータを記憶して各端末コンピュータでの処理を行うことは、例示するまでもなく周知の技術であるから、刊行物1記載の発明のホストCPU23をホストコンピュータとし、サブマスタや光ディスク装置20をホストコンピュータの記憶装置として集中管理し、他の構成を複数台設置することで、ネットワーク型のシステムとして構築することで、免許証番号に対応させてIDカードの作成処理を各端末コンピュータで並行して行うことは、当業者であれば容易に想到することである。

(2)次に、前記相違点3の「該IDカード作成制御手段は、前記申請書イメージ入力手段が非稼動の状態で、申請書のイメージデータが入力されない場合には、前記入力されたID番号に対応付けて前記顔画像データ入力手段によって入力された顔画像データ及び前記読み出したID情報をファイリングすると共に、前記IDカードの作成処理を逐次進行させる一方、予定のIDカード作成が終了した後に、前記入力されなかった申請書のイメージデータが稼動状態にある申請書イメージ入力手段によってまとめて入力されると、それぞれを前記ID番号に対応付けてファイリングする」との点について検討する。

物の発明を特定する記載として不明確な記載が存在するので、先に検討しておく。
本願発明には、「前記申請書イメージ入力手段が非稼動の状態で、申請書のイメージデータが入力されない場合には、・・・逐次進行させる一方、・・・予定のIDカード作成が終了した後に、・・・まとめて入力されると、」との記載があるが、申請書イメージ入力手段が非稼動の状態のときに、IDカードの作成処理を逐次進行させるというのは、申請書イメージ入力手段が非稼動の状態のときに、常にIDカードの作成処理を逐次進行させるようなシステムを意味するのではなく、申請書イメージ入力手段が非稼働の状態で人間が複数枚のIDカードを作成しようとする行為によって「IDカードの作成処理を逐次進行させる」ことが生じるのであるから、システムという物を特定する発明としては不明確な記載である。例えば、本願のシステムにおいて、申請書イメージ入力手段が故障した場合でも、オペレータが申請書の受付を行わなければ、顔画像データとID情報をファイリングすることも、IDカードの作成処理を逐次進行させることもないのであって、システムという物の発明の何を特定しているのか不明確である。
しかしながら、上記記載によって、IDカード作成・管理システムは、「前記申請書イメージ入力手段が非稼動の状態で、申請書のイメージデータが入力されない場合」であって、人間が複数枚のIDカードを作成しようとする行為を行ったときに、どのような動作をするのかを特定しているものであると解することもできるので、一応、そのようなシステムであると解することとする。

そこで、刊行物1記載の発明において、OCRスキャナ11が非稼動の状態で、申請書のイメージデータが入力されない場合に、係員が複数枚のIDカードを作成しようとする行為を行ったときに、どのような動作をするかについて検討する。
刊行物1記載の発明では、免許証の作成前に行う顔の照合で、「申請者の顔」と「光ディスク装置20に記憶された顔画像」とを照合し、その後、申請書の記載事項の照合で、「申請者が持参した申請書の記載事項」と「サブマスタに記憶される関連データ」とを照合するものであるから、照合には申請書のイメージデータが必要ないことは明らかである。また、免許証の作成時には、免許証番号から得られた関連データと撮影された顔画像データがあればよいのであるから、申請書のイメージデータが必要ないことは明らかである。
してみれば、免許証を作成するのに申請書のイメージデータは必要がないのであって、申請者が免許証を作成するために、免許証を発行する施設に出向いている行為を考えれば、係員が、免許証の作成に必要でない申請書のイメージデータの入力を後回しにして、免許証の作成を行うようにすることは、当業者が容易に想到できる。
そして、複数枚のIDカード作成をしようとするのにともない、IDカードの作成処理を逐次進行させることになる。
また、顔画像データは、免許証番号に対応付けられて光ディスク装置20に記憶され、関連データは、免許証番号に対応付けられてサブマスタに記憶されることになるから、それぞれのデータはファイリングされることになる。
なお、前記<相違点2について>で検討したように、「ファイリング」の意味として、ホストコンピュータのデータベースに記憶されているデータを、端末コンピュータのメモリ(ハードディスク)に一時的に記憶することであると解したとしても、一時的に記憶しておくメモリを備えることは通常のことであって格別なものではない。

さらに、予定の免許証の作成が終了した後に、係員によって、入力されなかった申請書のイメージデータが稼動状態にあるOCRスキャナ11によってまとめて入力されたときに、刊行物1記載の免許台帳統合管理システムが、どのような動作をするかについて検討するに、刊行物1記載の発明は、そもそも台帳管理を電子的に行うものであるのだから、複数の申請書のそれぞれを免許証番号に対応付けて光ディスク装置20に記憶することは当然のことである。

なお、請求人は、平成20年12月25日付けの意見書において、「請求項1に係る発明は、「IDカード作成制御手段」を備えることにより、申請書イメージ入力手段が故障などによってその稼動を停止した場合であっても、複数の申請者に対するIDカードの作成を滞ることなく行って各申請者に速やかにIDカードを提供できると共に、申請書イメージ入力手段が復帰したときに各申請者の申請書イメージデータータをID番号に対応付けてファイリングしIDカードの再発行時などに利用することができるのであり、IDカードの発行(更新)、再発行などの処理をより効率的に行えるシステムとすることができる。」と主張している。
しかしながら、前記<相違点3について>で検討したとおり、コンピュータ技術における周知技術を適用することは当業者が容易に想到することである。また、「IDカード作成・管理システム」に関する審決取消訴訟の判決(平成17年(行ケ)第10299号)の中で判示されているように、故障の場合にどのような処置をとるかは、当業者がその状況に応じて対処すべき設計事項なのであって、申請書イメージ入力手段が故障の場合に、システム内の他の手段をどのように稼動させるかは設計事項というべき事項である。
したがって、前記<相違点3について>で検討したように、OCRスキャナ11が非稼動の状態で、係員がどのような処置をとるかは任意であって、免許証の作成に必要でない申請書のイメージデータの入力を後回しにして、免許証の作成を行うようにすることに格別の困難性が認められるものではなく、さらに、予定の免許証の作成が終了した後に、係員がどのような処置をとるかも任意であって、入力されなかった申請書をまとめてOCRスキャナ11に入力することに格別の困難性が認められるものでもない。
したがって、請求人の前記主張は採用できない。

以上(1)、(2)のとおりであるから、前記相違点3に係る本願発明の構成は、刊行物1記載の発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。

そして、本願発明の作用効果も、刊行物1記載の発明、刊行物2に記載される事項及び周知の技術から当業者が予測できる程度のものである。
したがって、本願発明は、その優先権主張日前に頒布された刊行物1記載の発明、刊行物2に記載される事項及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、その優先権主張日前に頒布された刊行物1に記載の発明、刊行物2に記載の事項及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-10 
結審通知日 2009-02-17 
審決日 2009-03-03 
出願番号 特願2002-176085(P2002-176085)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B42D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武田 悟  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 菅野 芳男
菅藤 政明
発明の名称 IDカード作成・管理システム  
代理人 笹島 富二雄  

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