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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B21C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B21C
管理番号 1195997
審判番号 不服2006-7957  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-26 
確定日 2009-04-09 
事件の表示 特願2002-333783「せん断付与方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 6月17日出願公開、特開2004-167507〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成14年11月18日に出願したものであって、平成18年3月23日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年4月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成18年5月25日付で手続補正がなされたものであり、さらに、当審において、平成20年8月22日付で、平成18年5月25日付の手続補正書による補正が却下されるとともに、同日付で拒絶の理由が通知され、その指定期間内である平成20年10月24日に手続補正がなされたものである。

II.平成20年10月24日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年10月24日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりとなった。

「【請求項1】
屈曲した角部を備えた材料通路の材料供給口側から材料押出口側に向けて、BiTe系熱電素子用材料を加圧して移動させることにより、せん断付与成形体を成形するせん断付与方法であって、
前記材料通路の前記材料供給口側および前記材料押出口側の両方における前記BiTe系熱電素子用材料の移動方向に直交する通路断面を、前記角部の稜線に沿う方向の長さが、前記稜線に直交する方向の長さよりも長い同形の長方形に形成したせん断付与装置に、前記材料通路の前記材料供給口から前記BiTe系熱電素子用材料を、積層させて供給する材料供給工程と、
前記材料通路に供給されたBiTe系熱電素子用材料を、前記材料供給口側から加圧して移動させ、前記BiTe系熱電素子用材料が前記角部を通過するときにせん断変形させるせん断付与工程と
を備えたことを特徴とするせん断付与方法。」
(以下、「本願補正発明1」という。)

上記補正は、補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である、材料供給口側および材料押出口側の通路断面の形状を、「長方形」から「同形の長方形」に限定するものであって、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本願補正発明1が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

2.刊行物とその記載事項
(1)これに対して、当審における、平成20年8月22日付で通知した拒絶の理由に引用した、本願出願前に頒布された刊行物である特開2002-248517号公報(以下、「刊行物1」という。)、特表平9-509985号公報(以下、「刊行物2」という。)、特開2002-232026号公報(以下、「刊行物3」という。)、特開2001-53344号公報(以下、「刊行物4」という。)、特開2000-357821号公報(以下、「刊行物5」という。)には、次の事項が記載されている。

刊行物1:特開2002-248517号公報
〔1a〕
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、・・・熱電素子を製造するために用いられる熱電材料の押出し加工に適した押出し加工装置及び押出し加工方法に関する。」
〔1b〕
「【0007】また、祝迫らによる文献「強せん断付加押し出しによるBi-Te系材料の配向制御」(第51回塑性加工連合講演会、2000年11月3?5日)には、L字型の経路を有するダイスを用いて熱電材料に高いせん断応力を与えることにより、より完全な異方性の再発現を可能にすることが開示されている。」
〔1c〕
「【0014】
【課題を解決するための手段】以上の課題を解決するため、本発明の第1の観点に係る押出し加工装置は、材料の入口側に位置する第1の押出し経路と、第1の押出し経路に継続する第2の押出し経路であって、第1の押出し経路に対して0度より大きく180度より小さい角度を成す第2の押出し経路とが少なくとも形成され・・・るダイスを具備する。
・・・
【0017】・・・さらに、第1の押出し経路と第2の押出し経路の形状を同じにすることができるため、材料の繰り返し押出しが可能となる。従って、同一の装置を用いて、せん断応力を複数回付加することにより、結晶粒がさらに微細化し、配向度が向上する。
【0018】以上において、第1及び第2の押出し経路の各々が矩形断面を有することが望ましい。断面を矩形とすることにより、ダイスの幅方向におけるせん断応力のバラツキをなくして、せん断応力を均一化することができる。」
〔1d〕
「【0028】熱電素子の製造に使用される熱電材料としては、・・・ビスマス、・・・テルル・・・等、及びこれらを含む化合物が挙げられる。このような材料の溶製材、粉体、圧粉体、焼結体、及びこれらの加工体に対して、押出し加工が行われる。
【0029】・・・熱電材料の具体的な組成については、P型素子の材料として、テルル化ビスマス(Bi_(2)Te_(3))とテルル化アンチモン(Sb_(2)Te_(3))との混晶系固溶体にP型のドーパントを添加して用いたり、N型素子の材料として、テルル化ビスマス(Bi_(2)Te_(3))とセレン化ビスマス(Bi_(2)Se_(3))との混晶系固溶体にN型のドーパントを添加して用いることができる。」
〔1e〕
「【0033】本実施形態に係る押出し加工装置は、2つのパンチ13、14を備えている。ダイス21には、パンチ13が上下に出し入れされる入口側経路25と、パンチ14が左右に出し入れされる出口側経路27とが形成されている。ダイス21において、入口側経路25と出口側経路27は連通している。入口側経路25と出口側経路27は、同じ四角形(より好ましくは矩形)の断面形状を有し、それぞれの経路の断面積は長手方向においてほぼ一定であることが望ましい。入口側経路25には、同径路に注入された材料を押すための押出しパンチ(押出し工具)13が、同経路をスライドするように設けられている。・・・
【0034】ダイス21を用いて熱電材料の押出し加工する際には、入口側経路25に熱電材料を注入し、押出しパンチ13を下降させる・・・。このとき、・・・熱電材料20には、様々なせん断応力が付加される。すなわち、・・・入口側経路25と出口側経路27がほぼ直角に連通する境界部Xがせん断帯となり、境界部Xにおいて熱電材料20は強いせん断応力を受ける。・・・
【0035】また、本実施形態においては、入口側経路25と出口側経路27の断面形状を同じにすることにより、材料の繰り返し押出しが可能となる。その場合には、材料に複数回せん断応力を付加することができるので、結晶粒がさらに微細化し、配向度が向上する。」

刊行物2:特表平9-509985号公報
〔2a〕
「ECAE法・・・はラム50及びECAEダイ70を備える装置を使用して実施される。ダイは入口チャネル72と、入口チャネル72に隣接し交差する出口チャネル74を含む。加工部材60は、・・・LDC工程により製造された加工部材であっても良く、ダイを貫通して押し出される。・・・
・・・LDCによって作られたプレフォームは実質的に方形のプレート60であり、名目上側部17インチ厚さ1インチである。鋼製押出ダイのチャネル72と74は、プレートと実質的に同一横断面であり、この実施例においては、17インチと1インチの横断面であり、入口チャネル72に横方向から挿入したときしっかりと適合する。出口チャネル74が隣接し入口チャネル72から伸び、最初のチャネル同様に実質的に同一の横断面である。この実施例において、チャネルは実質的に直角であるが、チャネルは90度より大きくても良い。チャネルは、入口チャネルの入口においては加工部材の大きい面は垂直であり、出口チャネルの出口においては加工部材の大きな面は水平であるように互いに関して方向が定められる。各チャネルはそのチャネル交差点で終了する。二つの交差するチャネルは、「L」型の縦方向の横断面であって隣接する一つの通過路を形成する。
・・・加工部材が入口チャネルの端部に到達したとき、ラムが連続的に加工部材を押し込み、二つのチャネルの交差点平面に沿って加工部材の剪断が生じる。ラムが加工部材を押し出すことが続けるので、加工部材は出口チャネル74を貫通してダイを出ていく力が加えられ、加工部材が交差点を通って押し込まれるので、チャネル交差平面に沿って連続的に剪断される。その後、ラムが引っ込められて加工部材は出口チャネルから引き出される。
・・・
これらの技術は寛容の圧延または鍛造形式の成形を越える多くの利点がある。・・・変形は押し出された加工部材の表面で全体に渡り均一である。」(17頁23行?19頁2行)
〔2b〕
図6?8には、入口チャネル72及び出口チャネル74は、上記入口チャネル72と出口チャネル74によって形成される角部の稜線に沿う方向の長さが、前記稜線に直交する方向の長さよりも長いことが示されている。

刊行物3:特開2002-232026号公報
〔3a〕
「【請求項8】 Bi及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の元素と、Te及びSeからなる群から選択された少なくとも1種の元素とからなる組成を有する熱電材料の製造方法において、前記組成の溶融金属を急冷凝固させて一方向凝固した薄片を作製する工程と、この薄片を積層する工程と、積層された薄片に対し、加圧軸と押出軸とが一軸上にないダイスを使用してせん断加工する押出処理を少なくとも1回行う工程と、を有することを特徴とする熱電材料の製造方法。」
〔3b〕
「【0015】本発明は・・・、Bi2Te3系熱電材料の(001)面配向性を助長して電気抵抗を低減させると共に、均質性に優れ、n型であっても高いゼーベック係数が得られる熱電材料及びその製造方法を提供することを目的とする。」
〔3c〕
「【0036】本実施例の熱電材料は、Bi及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の元素と、Te及びSeからなる群から選択された少なくとも1種の元素とからなる組成の溶融金属を液体急冷法(L.Q.法:liquid quenching method)により、急冷凝固させて一方向凝固した薄片を積層し、積層された薄片に対し、加圧軸と押出軸とが一軸上にないダイスを使用してせん断加工する押出処理(以下、単に押出ともいう。)を1回又は複数回行うことにより形成されたもの、又は上述の組成のインゴット又はそれを粉砕して得た粉に対し、加圧軸と押出軸とが一軸上にないダイスを使用してせん断加工する押出処理を1回又は複数回行うことにより形成されたものである。・・・熱電材料1は、液体急冷法により製造された薄片が使用されている場合には、極めて微細で且つ均質であり、高いゼーベック係数αを有する。」

刊行物4:特開2001-53344号公報
〔4a〕
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 層状構造化合物の結晶粒(10)を複数含む薄状粉(12)を該薄状粉の膜厚方向に積層し、得られた積層体(14)を押圧して熱電半導体材料または熱電半導体素子を製造する・・・方法。」
〔4b〕
「【0029】・・・ビスマス-テルル系の層状構造化合物では、・・・通常は、層状構造化合物の多結晶が熱電半導体材料として使用される。」
〔4c〕
「【0038】本発明では、まず、急冷ロール法によって製造した薄状粉12を膜厚方向に積層して積層体14を形成する。この積層体14を構成する薄状粉12は、・・・該薄状粉12中に含まれた結晶粒10のC面が積層方向に沿って起立配向した状態となっている。よって、薄状粉12を積層した段階では、結晶配向がほぼ理想的な状態となっている。」

刊行物5:特開2000-357821号公報
〔5a〕
「【請求項7】 層状構造化合物の結晶粒(10)を含むプレ成形体(13)をダイス(16)から押し出して、熱電半導体材料または素子を製造する方法において、
前記プレ成形体は、
一の軸に沿ってC面が起立配向した結晶粒を複数有・・・する熱電半導体材料または素子の製造方法。
・・・
【請求項10】 前記プレ成形体は、
急冷ロール法によって作製した薄状粉(18)を積層して形成・・・する請求項7または請求項8記載の熱電半導体材料または素子の製造方法。」
〔5b〕
「【0019】例えば、ビスマス-テルル系の層状構造化合物では、・・・通常は、層状構造化合物の多結晶が熱電半導体材料として使用される。」
〔5c〕
「【0074】・・・プレ成形体13としては、急冷ロール法によって作製した薄状粉18を積層したものを用いてもよい。・・・
【0075】・・・薄状粉18の結晶配向は、単にプレス成形したものに比べて好適であり、薄状粉18を積層したプレ成形体13を用いれば、その好適な結晶配向が維持された状態で押し出しが行われる。」

3.対比・判断
(1)刊行物1に記載された発明
刊行物1の摘示〔1a〕には、熱電素子を製造するために用いられる熱電材料の押出し加工方法が、摘示〔1b〕、摘示〔1d〕には、上記熱電材料として、Bi-Te系材料が、それぞれ記載されている。
摘示〔1c〕には、材料の入口側に位置する第1の押出し経路と、第1の押出し経路に継続する第2の押出し経路であって、第1の押出し経路に対して角度を成す第2の押出し経路とが少なくとも形成されたダイスを具備する加工装置を用いることが記載されている。また、摘示〔1e〕の段落【0034】には、入口側経路と出口側経路とがほぼ直角に連通することが記載されているから、上記材料の入口側に位置する第1の押出し経路に継続する第2の押出し経路は、第1の押出し経路に対してほぼ直角の角度を成すことが理解できる。
摘示〔1c〕には、上記第1の押出し経路と上記第2の押出し経路の形状を同じにすること、第1及び第2の押出し経路の各々が矩形断面を有することが、それぞれ記載されている。
そして、摘示〔1e〕によれば、上記入口側経路と出口側経路が連通する境界部がせん断帯となり、該境界部において熱電材料は強いせん断応力を受けるのであるから、摘示〔1c〕において、上記第1の押出し経路と第2の押出し経路とが連通する境界部において、熱電材料がせん断応力を受けることが理解できる。
また、摘示〔1e〕には、パンチによって熱電材料を押圧することも記載されている。

上記を考慮して、摘示〔1a〕?摘示〔1e〕の記載を総合すると、刊行物には、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

「材料の入口側に位置する第1の押出し経路と、第1の押出し経路に継続する第2の押出し経路であって、第1の押出し経路に対してほぼ直角の角度を成す第2の押出し経路とが少なくとも形成されたダイスを具備する加工装置を用いて、Bi-Te系熱電材料を押圧する押出し加工方法であって、
上記第1の押出し経路と上記第2の押出し経路の形状が同じ形状の矩形断面であり、
上記第1の押出し経路と上記第2の押出し経路とが連通する境界部において、熱電材料がせん断応力を受ける工程を備えた押出し加工方法。」

(2)本願補正発明1と刊行物1発明との対比
本願補正発明1と刊行物発明を対比すると、刊行物1発明における「Bi-Te系熱電材料」は、本願補正発明1における「BiTe系熱電素子用材料」に相当し、以下同様に、「第1の押出し経路」は「材料通路の材料供給口側」に、「第2の押出し経路」は「材料通路の材料押出口側」に、「境界部」は「角部」に、「矩形」は「長方形」に相当する。

してみると、両者は、
「屈曲した角部を備えた材料通路の材料供給口側から材料押出口側に向けて、BiTe系熱電素子用材料を加圧して移動させることにより、せん断付与成形体を成形するせん断付与方法であって、
前記材料通路の前記材料供給口側および前記材料押出口側の両方における前記BiTe系熱電素子用材料の移動方向に直交する通路断面を、同形の長方形に形成したせん断付与装置に、前記材料通路の前記材料供給口から前記BiTe系熱電素子用材料を、供給する材料供給工程と、
前記材料通路に供給されたBiTe系熱電素子用材料を、前記材料供給口側から加圧して移動させ、前記BiTe系熱電素子用材料が前記角部を通過するときにせん断変形させるせん断付与工程と
を備えたことを特徴とするせん断付与方法。」
で一致し、次の点で相違する。

相違点1:本願補正発明1では、通路断面が「角部の稜線に沿う方向の長さが、前記稜線に直交する方向の長さよりも長い」長方形であるのに対して、刊行物1発明では「矩形」と記載されているのみであって、稜線に沿う方向の長さと、稜線に直交する方向の長さとの関係が不明である点。
相違点2:本願補正発明1では、BiTe系熱電素子用材料を、「積層させて」供給するのに対して、刊行物1発明では、この点が記載されていない点。

(3)相違点についての検討
(i)相違点1について
刊行物2の摘示〔2a〕には、入口チャネル72と、入口チャネル72に隣接し交差する出口チャネル74を有する押出ダイを用いたECAE法が記載されている。
摘示〔2a〕の「この実施例において、チャネルは実質的に直角であるが、チャネルは90度より大きくても良い。チャネルは、入口チャネルの入口においては加工部材の大きい面は垂直であり、出口チャネルの出口においては加工部材の大きな面は水平であるように互いに関して方向が定められる。・・・二つの交差するチャネルは、「L」型の縦方向の横断面であって隣接する一つの通過路を形成する。」という記載によれば、上記入口チャネル72と上記出口チャネル74とは、直交して連通するものといえる。
また、「LDCによって作られたプレフォームは実質的に方形のプレート60であり、名目上側部17インチ厚さ1インチである。鋼製押出ダイのチャネル72と74は、プレートと実質的に同一横断面であり」という記載からみて、上記入口チャネル72と出口チャネル74は、ともに、プレフォームと実質的に同一横断面を有する、すなわち、側部17インチ厚さ1インチの同一横断面の方形チャネルであることが理解できるし、摘示〔2b〕によれば、上記「側部」及び「厚さ」は、それぞれ「角部の稜線に沿う方向の長さ」及び「稜線に直交する方向の長さ」に対応することも理解できる。
そして、摘示〔2a〕には、このような技術によって、「変形は押し出された加工部材の表面で全体に渡り均一」にできることも記載されているから、これらを総合すると、刊行物2には、
入口チャネル72と、入口チャネル72に直交して連通する出口チャネル74を有する押出ダイを用いたECAE法において、角部の稜線に沿う方向の長さが、前記稜線に直交する方向の長さよりも長い、側部17インチ厚さ1インチの同一の方形横断面からなる入口チャネル72及び出口チャネル74を用いることによって、押し出された加工部材の変形を表面で全体に渡り均一にできる、
ことが記載されているといえる。
他方、刊行物1の摘示〔1c〕の段落【0018】によれば、第1及び第2の押出し経路の断面を矩形とすることの技術的意義は、ダイスの幅方向におけるせん断応力のバラツキをなくして、せん断応力を均一化することにあるといえる。
してみると、刊行物1発明と刊行物2に記載された発明とは、断面が長方形の、直交した通路によって材料をせん断変形させるにあたって、せん断応力の均一化を図ろうとする点で共通するから、刊行物1発明の通路断面として、加工部材の全体にわたって均一な変形を実現できる断面の形状として、刊行物2に記載されたような、「角部の稜線に沿う方向の長さが、前記稜線に直交する方向の長さよりも長い」長方形を採用することに、格別の困難性は見出せない。

この点について、審判請求人は、平成20年10月24日付意見書において、刊行物2では、チャンネルの断面が、材料供給口側および材料押出口側ともに、側部が17インチで厚みが1インチになっているが、これは材料として圧延材料を用いたことによるためである旨を主張するが、摘示〔2a〕に記載されているように、刊行物2においてECAE法による加工に付されるプレフォームは、LDC工程によって製造されたものであって、圧延材料ではないから、審判請求人の主張は採用できない。

(ii)相違点2について
BiTe系熱電素子用材料の加工に際して、箔片状等の材料を積層させて加工機械に供給することによって、結晶の配向度を均一化できることは、刊行物3?5に記載されているように、本願の出願前に周知のものと認められる。
そして、刊行物1発明においても、均一な配向度が必要であることは摘示〔1e〕の段落【0035】に記載されているから、急冷ロール法等によって溶製された熱電素子用材料を「積層させて」供給することによって配向度の向上を図ることは、上記周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものというべきである。

そして、本願補正発明1の奏する効果も、刊行物1、2及び上記周知技術から予測される範囲のものであって、格別に顕著なものとは認められない。

したがって、本願補正発明1は、刊行物1、2に記載された発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.本件手続補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本願補正発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
平成20年10月24日付手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成17年8月29日付手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
屈曲した角部を備えた材料通路の材料供給口側から材料押出口側に向けて、BiTe系熱電素子用材料を加圧して移動させることにより、せん断付与成形体を成形するせん断付与方法であって、
前記材料通路の前記材料供給口側および前記材料押出口側の両方における前記BiTe系熱電素子用材料の移動方向に直交する通路断面を、前記角部の稜線に沿う方向の長さが、前記稜線に直交する方向の長さよりも長い長方形に形成したせん断付与装置に、前記材料通路の前記材料供給口から前記BiTe系熱電素子用材料を、積層させて供給する材料供給工程と、
前記材料通路に供給されたBiTe系熱電素子用材料を、前記材料供給口側から加圧して移動させ、前記BiTe系熱電素子用材料が前記角部を通過するときにせん断変形させるせん断付与工程と
を備えたことを特徴とするせん断付与方法。」

2.刊行物とその記載事項
当審における、平成20年8月22日付で通知した拒絶の理由に引用した、本願出願前に頒布された刊行物である刊行物1?5とその主な記載事項は、上記「II.2.刊行物とその記載事項」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、本願補正発明1における材料供給口側および材料押出口側の通路断面の形状を「同形」の長方形とする限定が省かれたものである。

そうすると、本願発明1を特定するために必要と認める事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明1が、上記「II.3.対比・判断」に記載したとおり、刊行物1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1についても、同様の理由により、刊行物1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、上記のとおり本願発明1が特許を受けることができないため、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-06 
結審通知日 2009-02-10 
審決日 2009-02-23 
出願番号 特願2002-333783(P2002-333783)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B21C)
P 1 8・ 575- WZ (B21C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 富永 泰規真々田 忠博加藤 志麻子  
特許庁審判長 徳永 英男
特許庁審判官 市川 裕司
國方 康伸
発明の名称 せん断付与方法  
代理人 大庭 咲夫  
代理人 特許業務法人プロスペック特許事務所  

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