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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A63F
管理番号 1196495
審判番号 無効2008-800247  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-11-07 
確定日 2009-04-20 
事件の表示 上記当事者間の特許第4017938号発明「遊技機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯、本件発明
1.手続の経緯
本件特許は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う出願である特願2002-235134号の特許であり、優先件主張の基礎となる出願からの主立った経緯は次のとおりである。
・平成14年 4月10日 優先権の基礎出願
・平成14年 8月12日 本件出願
・平成19年 9月28日 特許第4017938号として設定登録
(請求項1乃至5)
・平成20年11月 7日 請求人より請求項1乃至5の特許に対して
本件審判請求
・平成21年 1月19日 被請求人より答弁書提出

2.本件発明
本件特許第4017938号の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
遊技に用いられた遊技媒体の数を得るための投入遊技媒体数計測手段と、払い出される遊技媒体の数を得るための払出遊技媒体数計測手段と、これらの数から遊技媒体の数に関する数値を単位ゲーム数ごと又は単位時間ごとに算出する算出手段とを具備する遊技機であって、
前記算出手段により得られた数値が、予め定められた上限値と下限値との間の範囲のうち、前記上限値を基準とした所定範囲内又は前記下限値を基準とした所定範囲内に入った際、前記算出手段により得られた数値が前記上限値を基準とした所定範囲内又は前記下限値を基準とした所定範囲内に入ったことを報知する報知手段と、
前記算出手段により得られた数値が、前記上限値を基準とした所定範囲又は前記下限値を基準とした所定範囲における予め定められた複数の範囲のうち、いずれの範囲にあるかを判定する範囲判定手段と、
前記範囲判定手段による判定結果に基づいて複数種類の報知態様のなかからいずれかを選択する報知態様選択手段とを備え、
前記報知手段は、前記報知態様選択手段によって選択された報知態様にて前記報知を行うことを特徴とする遊技機。
【請求項2】
前記算出手段は、前記投入遊技媒体数計測手段及び前記払出遊技媒体数計測手段により得られた数から、遊技に用いられた遊技媒体の数と、払い出された遊技媒体の数との差を算出する請求項1に記載の遊技機。
【請求項3】
前記算出手段は、前記投入遊技媒体数計測手段及び前記払出遊技媒体数計測手段により得られた数から、遊技に用いられた遊技媒体の数に対する払い出された遊技媒体の数の割合を算出する請求項1に記載の遊技機。
【請求項4】
遊技盤上に打ち出された遊技球が入ることにより、予め定められた数の遊技球の払い出しが行われる入賞口を備えるとともに、
打ち出された遊技球の数を得るための打出遊技球計測手段と、払い出された遊技球の数を得るための払出遊技球計測手段と、これらの数から出球率を単位時間ごとに算出する出球率算出手段とを具備する遊技機であって、
前記出球率算出手段により得られた出球率が、予め定められた上限値と下限値との間の範囲のうち、前記上限値を基準とした所定範囲内又は前記下限値を基準とした所定範囲内に入った際、前記出球率が前記上限値を基準とした所定範囲内又は前記下限値を基準とした所定範囲内に入ったことを報知する報知手段と、
前記出球率算出手段により得られた出球率が、前記上限値を基準とした所定範囲又は前記下限値を基準とした所定範囲における予め定められた複数の範囲のうち、いずれの範囲にあるかを判定する範囲判定手段と、
前記範囲判定手段による判定結果に基づいて複数種類の報知態様のなかからいずれかを選択する報知態様選択手段とを備え、
前記報知手段は、前記報知態様選択手段によって選択された報知態様にて前記報知を行うことを特徴とする遊技機。
【請求項5】
前記報知態様選択手段は、前記出球率算出手段により得られた出球率に基づいて、ランプの点灯、ランプの点滅及び警報音の発生のうち、いずれかの報知態様を選択する請求項4に記載の遊技機。」
以下、請求項1乃至5に係る発明を、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明3」、「本件発明4」及び「本件発明5」という。

第2 当事者の主張の概要
1.請求人の主張
本件発明1?5についての特許は、甲1?甲8の記載に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものであると主張し、これらの特許を無効とするとともに、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求めている。証拠方法として、以下の甲第1号証?甲第9号証を提出している。

甲第1号証:特開平11-285580号公報

甲第2号証:特開平10-052550号公報

甲第3号証:特開平06-071034号公報

甲第4号証:パチスロ必勝ガイド 2000年5月号 平成12年5月1日発行 株式会社白夜書房 20?21頁

甲第5号証:パチスロ必勝ガイド 2000年8月号 平成12年8月1日発行 株式会社白夜書房 12?13頁

甲第6号証:パチスロ必勝ガイド 1999年9月号 平成11年9月1日発行 株式会社白夜書房 22頁

甲第7号証:パチスロ必勝ガイド 2000年10月号 平成12年10月1日発行 株式会社白夜書房 23頁

甲第8号証:パチスロ必勝ガイド 2000年6月号 平成12年6月1日発行 株式会社白夜書房 23頁

甲第9号証:特許第4017938号公報(本件特許公報)

2.被請求人の主張
本件特許発明1?5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

第3 当審の判断
無効理由(特許法第29条第2項違反)について検討する。
1.本件発明1について
(1)本件発明1の認定
本件発明1は、特許第4017938号の特許請求の範囲における請求項1の記載によって特定される、前記「第1 2.」の【請求項1】に示したとおりのものである。そして、請求人はこれを次のように分説している。
「(1-a)遊技に用いられた遊技媒体の数を得るための投入遊技媒体数計測手段と、
(1-b)払い出される遊技媒体の数を得るための払出遊技媒体数計測手段と、
(1-c)これらの数から遊技媒体の数に関する数値を単位ゲーム数ごと又は単位時間ごとに算出する算出手段とを具備する遊技機であって、
(1-d)前記算出手段により得られた数値が、予め定められた上限値と下限値との間の範囲のうち、前記上限値を基準とした所定範囲内又は前記下限値を基準とした所定範囲内に入った際、前記算出手段により得られた数値が前記上限値を基準とした所定範囲内又は前記下限値を基準とした所定範囲内に入ったことを報知する報知手段と、
(1-e)前記算出手段により得られた数値が、前記上限値を基準とした所定範囲又は前記下限値を基準とした所定範囲における予め定められた複数の範囲のうち、いずれの範囲にあるかを判定する範囲判定手段と、
(1-f)前記範囲判定手段による判定結果に基づいて複数種類の報知態様のなかからいずれかを選択する報知態様選択手段とを備え、
(1-g)前記報知手段は、前記報知態様選択手段によって選択された報知態様にて前記報知を行うことを特徴とする
(1-h)遊技機。」

(2)請求人主張の進歩性欠如理由の要点
請求人は、本件発明1を上記のように分説した上で、構成要件(1-a)、(1-b)、(1-e)?(1-f)は甲第1号証(以下、「甲1」と略記する。甲2?甲8についても同様。)に記載されている。甲1との相違点である構成要件(1-c)は、甲4?甲8の記載から想到容易であり、同じく甲1との相違点である構成要件(1-d)及び(1-e)は甲1?甲3の記載から想到容易である。

(3)甲1記載の発明と本件発明1との対比
甲1には、図面と共に以下の記載がある。
(ア)「本発明は、スロットマシンやパチンコ等の遊技機を多数備えた遊技場において遊技が適正に行われているかどうかを監視する遊技場の管理システムに関するものである。」(段落【0001】)

(イ)「本発明を適用したホール管理システムを示す図1において、複数,例えば16台のシステムコントロールユニット(以下SCUという)10a,10b,・・・,10pが1台のメインコントロールユニット(以下MCUという)11に2本ずつの光ファイバーケーブル12,13で接続されている。SCU10a?10pの各々には、1台ずつのスロットマシンとメダル貸機を1組として複数組,例えば32組(例えばSCU10aには、スロットマシン15a1 とメダル貸機16a1 ,スロットマシン15a2 とメダル貸機16a2 ,・・・,スロットマシン15a32とメダル貸機16a32)が接続されており」(段落【0006】)

(ウ)「前記MCU11は、ローカルコンピュータ(例えば32ビットのパーソナルコンピュータ)27と、これに接続されたMPUボード(マイクロプロセッサユニットボード)28,CRT29及びプリンタバッファ30を介したプリンタ31からなる。MPUボード28には、前記MSC21,22,23,24が設けられている。さらにローカルコンピュータ27には、打止め等を管理者に知らせるブザー32,ローカルコンピュータ27のON/OFF及び売上等の情報を店長以外の店員が見れないように切り換えるキー33及び警報データの呼出しや検索やプリントアウト操作等を行うキーボード34が接続されている。また、ローカルコンピュータ27とMPUボード28には、無停電電源35から電源が供給される。」(段落【0007】)

(エ)「前記SCU10a,10b,・・・,10pは、スロットマシン,メダル貸機,メダル計数機,両替機の各々からの信号をSSCで光通信用データに変換処理してMCU11に送出する他に、内蔵したマイクロコンピュータにより光ケーブル切断時にも各スロットマシンの運転を継続するための最低限の制御を実行する。」(段落【0008】)

(オ)「このように構成された管理システムの作用を説明する。店が開店されると、遊技者が入場し、好みのスロットマシンの前に行き、スロットマシンと組になったメダル貸機に金銭が投入されてこの金額に見合った数のメダルが排出される。メダル貸機に対応した金銭を持っていない場合には、両替機にて両替する。遊技者は、スロットマシンの投入口から順次にメダルを投入してレバーを操作する。当たりが出ると、スロットマシンの排出口から当たりの大小に見合った数のメダルが排出される。」(段落【0009】)

(カ)「スロットマシン15a1 ?15p32からは投入されたメダルの数と当たりによって払い出されたメダルの数がSCU10a?10pに入力される。・・・これらの金銭の額やメダル数がSCU10a?10pのSSC25a?25pから光通信用の信号に変換されてMCU11に送信される。これらの各信号は、MPUボード28のMSC21?24で電気信号に変換されてローカルコンピュータ27に入力される。」(段落【0010】)

(キ)「スロットマシンごと(個別)及び全体(総合)の予想値と実数値との比較を行って、ローカルコンピュータ27は個別警報(稼働A),全体警報(稼働B),交換情報,オーバーペイ警報(稼働C)のそれぞれについて予め複数段階に設定された警告レベル範囲のいずれに該当するかを判定し、この判定結果によって異なった警告表示をCRT29もしくはプリンタ31に出力する。」(段落【0021】)

(ク)「〔オーバーペイ警報〕(稼働C)
オーバーペイ警報とは、マシン内の機器故障や不正遊技などにより、出玉率が設定よりも極端に高くなり、店側が不利益となるのを避けるために設けられたもので、スロットマシンのメダル投入(IN)数と出玉(OUT)数との比をIN数が1000枚になるごとに算出する。そして、各スロットマシンごとのオーバーペイ状態を検出し、図6の下方部42に示すように、CRT29に3種の色,緑色,黄色,赤色でモニタ表示する。この3種の色が意味する内容は、例えば以下のとおりである。
100×OUT/IN<300(%)・・・正常
300(%)≦100×OUT/IN<400(%)・・・緑色で異常を表示
400(%)≦100×OUT/IN<500(%)・・・黄色で異常を表示
500(%)≦100×OUT/IN ・・・赤色で異常を表示
出玉(OUT)数に対するメダル投入(IN)数の割合が300(%)より小さいときは正常と判断して、何も出力せず、300(%)以上で400(%)より小さいときは、小程度の異常と判断して、緑色にて警報を出力する。また、前記割合が400(%)以上で500(%)より小さいときは、中程度の異常と判断して、黄色にて警報を出力する。また、前記割合が500(%)以上のときは、極めて異常と判断して、赤色にて警報を出力する。また、上記各警報の予想値と実数値との比の閾値は、スロットマシンの各機種ごとに適切な値に任意設定される。すなわち、各警告レベル範囲は、スロットマシンの各機種ごとに任意に設定される。また、各警告レベル範囲は、個々のスロットマシンごとに任意に設定してもよい。」(段落【0028】)

(ケ)「スロットマシンについて説明したが、パチンコ,アレンジボール等の弾球遊技機でも同様に本発明の管理システムを適用することができる。パチンコの場合には、発射玉及び戻り玉を検知するスイッチもしくはセンサを各パチンコ台に設ければ、パチンコ玉のIN数,OUT数を演算することができるから、本システムを適用することができる。なお、この場合のIN数は発射玉数から戻り玉数を減算したものであり、OUT数は入賞玉に対する払戻玉数である。」(段落【0035】)

上記(ア)?(ケ)の記載及び図面に示された事項を総合すると、甲1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「ローカルコンピュータ27とCRT29とを含むメインコントロールユニット11に複数のシステムコントロールユニット10a?10pが接続され、該システムコントロールユニットの各々にスロットマシン15a1 ?15p32が接続され、
投入されたメダルの数と当たりによって払い出されたメダルの数はスロットマシン15a1 ?15p32からシステムコントロールユニット10a?10pに入力され、これらのメダル数は光通信用の信号に変換されてシステムコントロールユニット10a?10pからメインコントロールユニットに送信されてローカルコンピュータ27に入力され、
投入されたメダルの数と当たりによって払い出されたメダルの数との比を、投入されたメダルの数が1000枚になるごとに算出し、ローカルコンピュータ27は、各スロットマシンごとのオーバーペイ状態ついて予め複数段階に設定された警告レベル範囲のいずれに該当するかを判定し、この判定結果によってCRT29に3種の色,緑色,黄色,赤色で異常を表示する遊技場の管理システム。」

引用発明の「投入されたメダルの数」及び「当たりによって払い出されたメダルの数」は、本件発明1の「遊技に用いられた遊技媒体の数」及び「払い出される遊技媒体の数」に、それぞれ相当する。また、これら「投入されたメダルの数」及び「当たりによって払い出されたメダルの数」は「各スロットマシン15a1 ?15p32」から「システムコントロールユニット10a?10p」に入力され「メインコントロールユニット11」に送信されるため、「投入遊技媒体数計測手段」及び「払出遊技媒体数計測手段」に相当する構成を「各スロットマシン15a1 ?15p32」が有することは明らかである。
よって、引用発明は構成要件(1-a)、(1-b)及び(1-h)を備え、これらの点で本件発明1と一致することは認める。
しかしながら、上記(ア)?(ウ)の記載より、「ローカルコンピュータ27」や「CRT29」を含む「メインコントロールユニット11」がホール管理を行う管理者側に設けられていることは明らかである。そして、引用発明は、「投入されたメダルの数」と「当たりによって払い出されたメダルの数」の信号を「ローカルコンピュータ27」に送信し、「ローカルコンピュータ27」にて「オーバーペイ状態」を検出してCRTに出力するものであるため、「投入されたメダルの数と当たりによって払い出されたメダルの数との比」(本件発明1の「遊技媒体の数に関する数値」)の算出は、管理者側の「ローカルコンピュータ27」にて行われると解するのが自然である。同様に、算出された数値が「複数段階に設定された警告レベル範囲のいずれに該当するかを判定する」及び「CRTに出力する」主体も、「各スロットマシン」ではなく管理者側の「ローカルコンピュータ27」であると解される。
したがって、構成要件(1-c)?(1-g)は、本件発明1と引用発明との相違点となる。
また、引用発明は、「投入されたメダルの数と当たりによって払い出されたメダルの数との比」(「遊技媒体の数に関する数値」)の算出を「投入されたメダルの数が1000枚になるごと」に行っているため、構成要件(1-c)のうち、「単位ゲーム数ごと又は単位時間ごと」という算出の周期でも相違する。
更に、上記(ク)の記載には「出玉(OUT)数に対するメダル投入(IN)数の割合(投入されたメダルの数と当たりによって払い出されたメダルの数との比)」が「500(%)」以上のときは「赤色にて警報を出力する」との記載はあるが、打ち止めなど遊技を強制的に終了させる旨の記載はないことから、該「500(%)」が「投入されたメダルの数と当たりによって払い出されたメダルの数との比」(「遊技媒体の数に関する数値」)の「予め定められた上限値」であるとはいえない。よって、引用発明は、上記で述べたとおり、「報知手段」、「範囲判定手段」等を備える主体が異なるばかりでなく、報知のタイミングが、構成要件(1-d)の如く「予め定められた上限値と下限値との間の範囲のうち、前記上限値を基準とした所定範囲内」に入った際に行うものではない点においても相違する。
なお、引用発明は、「投入されたメダルの数と当たりによって払い出されたメダルの数との比」(「遊技媒体の数に関する数値」)」を算出し、「予め複数段階に設定された警告レベル範囲のいずれに該当するかを判定し、この判定結果によってCRT29に3種の色,緑色,黄色,赤色で異常を表示する」ものであるので、上記のとおり、「報知手段」、「範囲判定手段」等を備える主体は異なるものの、構成要件(1-e)のうち「所定範囲における予め定められた複数の範囲のうち、いずれの範囲にあるかを判定する」機能、構成要件(1-f)のうち「判定結果に基づいて複数種類の報知態様のなかからいずれかを選択する」機能及び構成要件(1-g)のうち「選択された報知態様にて報知を行う」機能を有する点で、本件発明1と引用発明は共通する。
以上を整理すると、本件発明1と引用発明とは、
「遊技に用いられた遊技媒体の数を得るための投入遊技媒体数計測手段と、払い出される遊技媒体の数を得るための払出遊技媒体数計測手段とを具備する遊技機。」
で一致し、以下の各点で相違する。
<相違点1>
「遊技に用いられた遊技媒体の数」と「払い出される遊技媒体の数」から「遊技媒体の数に関する数値」を算出する周期が、本件発明1では「単位ゲーム数ごと又は単位時間ごと」であるのに対し、引用発明では「投入されたメダルの数が1000枚になるごと」であり、また、該「遊技媒体の数に関する数値」を算出する「算出手段」を具備するのが、本件発明1では「遊技機」であるのに対し、引用発明では、「ローカルコンピュータ27」である点。

<相違点2>
本件発明1は、「前記算出手段により得られた数値が、予め定められた上限値と下限値との間の範囲のうち、前記上限値を基準とした所定範囲内又は前記下限値を基準とした所定範囲内に入った際、前記算出手段により得られた数値が前記上限値を基準とした所定範囲内又は前記下限値を基準とした所定範囲内に入ったことを報知する報知手段」を「遊技機」が備えるのに対し、引用発明は、「投入されたメダルの数と当たりによって払い出されたメダルの数との比」に「予め定められた上限値と下限値」が設定されていないため、報知のタイミングが「予め定められた上限値と下限値との間の範囲のうち、前記上限値を基準とした所定範囲内又は前記下限値を基準とした所定範囲内に入った際」ではなく、また、報知を行う主体が「ローカルコンピュータ27」である点。

<相違点3>
本件発明1は、「前記算出手段により得られた数値が、前記上限値を基準とした所定範囲又は前記下限値を基準とした所定範囲における予め定められた複数の範囲のうち、いずれの範囲にあるかを判定する範囲判定手段」を「遊技機」が備えるのに対し、引用発明では、「投入されたメダルの数と当たりによって払い出されたメダルの数との比」が所定範囲における予め定められた複数の範囲のうち、いずれの範囲にあるかが判定されるものの、この所定範囲は「予め定められた上限値と下限値との間の範囲のうち」の「上限値を基準とした所定範囲又は前記下限値を基準とした所定範囲における」ものでなく、また、判定を行う主体が「ローカルコンピュータ27」である点。

<相違点4>
「前記範囲判定手段による判定結果に基づいて複数種類の報知態様のなかからいずれかを選択する報知態様選択手段」を備える主体が、本件発明1は「遊技機」であるのに対し、引用発明は「ローカルコンピュータ27」である点。

<相違点5>
本件発明1は、「遊技機」に備えた「報知手段」により、「前記報知態様選択手段によって選択された報知態様にて前記報知を行う」のに対し、引用発明は、報知を行う主体が「ローカルコンピュータ27」である点。

(4)本件発明1の進歩性の判断
<相違点1>(構成要件(1-c)の想到容易性)について
甲2には、図面と共に以下の記載がある。
(コ)「遊技領域3を含む遊技盤1の表面には、上記した構成以外にも、風車ランプ20aを内蔵した風車20、左右一対の飾りランプ21a・21b、袖ランプ22aを内蔵した入賞口22、ベース調整入賞球装置23、サイドランプ24aを内蔵したサイドランプ飾り24、アウト口25、バック玉防止部材26、発射玉検出器27a・27b等が設けられている。ベース調整入賞球装置23は、前記普通可変入賞球装置5と同様に、一対の可動翼片23a・23bと、該可動翼片23a・23bを垂直(通常開放)位置と傾動(拡大開放)位置との間で可動制御するソレノイド23cと、入賞した打玉を検出する入賞玉検出器23dと、を備えたチューリップ型役物として構成されている。」(段落【0020】)

(サ)「基本回路40からは、以下の装置及び回路に制御信号が与えられる。即ち、LCD回路47を介して特別可変表示装置30(図3中には、LCD表示装置と記載)に表示制御信号が与えられる。LED回路48を介して普通図柄表示器34、特別図柄記憶表示LED36、普通図柄記憶表示LED35、V入賞表示LED19、及び各飾りLED17・37?41に表示駆動信号が与えられる。ソレノイド回路49を介して各ソレノイド6・10・23cに駆動信号が与えられる。」(段落【0028】)

(シ)「普通可変入賞球装置5及びベース調整入賞球装置23の開放動作に基づくベース調整制御について図19乃至図21のフローチャートを参照して説明する。なお、ここでいうベースとは、発射玉100発に対して特定遊技状態以外の入賞で払い出される賞球数のことをいう。言い換えれば、遊技領域3に打玉を100発打ち込んだときに、通常入賞玉によって払い出される賞球数のことをいう。図19において、先ず、設定ベースと、S(普通可変入賞球装置5)・B(ベース調整入賞球装置23)・G(入賞口18・22)の各賞球数と、S設定入賞個数と、が初期設定済みであるか否かを判別する(S1)。S1で初期設定済みの場合は、直接的に後述のS3に移行する一方、初期設定されていない場合は、設定ベース「50」、S賞球数「5」、B賞球数「5」、G賞球数「10」、S設定入賞個数「6」を初期設定(S2)した後にS3に移行する。S3では、発射玉検出器27a・27bによる発射玉の検出の有無を判別する。S3で発射玉の検出がないときはそのまま前記S1に戻る。一方、S3で発射玉の検出があると判別すると、これに基づいて発射玉をカウントし(S4)、その後、立ち上げ期間か否か、言い換えれば発射玉の累計が0?100個の期間であるか否かを判別する(S5)。S5で立ち上げ期間であると判別したときは、直接的に後述のS7に移行する。一方、S5で立ち上げ期間以外、言い換えると発射玉の累計が100個を越えた期間であると判別したときは、S・Bの開放制御(S6)を行った後にS7に移行する。」(段落【0038】)

(ス)「ベース適正・不適正の判定制御は、図20(B)に示す通りである。図20(B)において、先ず、遊技結果が上限値以上であるか否かを判別する(S31)。なお、本実施形態でいう遊技結果とは、前記S6におけるS・Bの開放制御に基づく実績ベースの払出し率(=実績ベース)のことをいう。S31で遊技結果が上限値よりも小さいと判別した場合はそのまま後述のS34に移行する。一方、S31で遊技結果が上限値以上であると判別した場合は、図21(A)に示すようにS31の判別が所定期間続いたものであるか否かを判別する(S32)。S32で所定期間続いていないと判別したときはそのままS34に移行する。一方、S32で所定期間続いたものであると判別したときは、上限不適正のエラー処理(S33)を行った後にS34に移行する。S34では、遊技結果が下限値以下であるか否かを判別する。S34で遊技結果が下限値よりも大きいと判別した場合はそのままメインフローに復帰する。一方、S34で遊技結果が下限値以下であると判別した場合は、図21(B)に示すようにS34の判別が所定期間続いたものであるか否かを判別する(S35)。S35で所定期間続いていないと判別したときはそのままメインフローに復帰する。一方、S35で所定期間続いたものであると判別したときは、下限不適正のエラー処理(S36)を行った後にメインフローに復帰する。」(段落【0041】)

(セ)「上記したS32及びS35の判別ステップは、遊技結果が偶然的に設定値(上限値と下限値との間)から外れた場合での誤動作的な不適正エラー処理を回避するための制御ステップである。また、本実施形態では、発射玉100発を1区切りの期間とすることで、S32及びS35で判別する所定期間を2区切り以上の期間としている。具体的には、1区切り期間内でのみ遊技結果が設定値から外れた場合には、遊技結果が偶然的に設定値から外れたと判断して不適正エラー処理を行わない。一方、遊技結果が2区切り期間以上に亘って設定値から外れた場合には、これをベース調整の異常として不適正エラー処理を行う。この不適正エラー処理は、遊技機内のLCD表示器33や各種ランプ等を表示する表示制御、異常発生信号を外部(ホールコンピュータや呼び出しランプ等)に送信することで異常発生を報知する報知制御、その信号により発射玉を強制的に打ち止めする打ち止め制御、の全て又はいずれかを選択的に採用することで遊技を中止させる処理である。なお、ベース適正・不適正の判定制御に関わる不適正エラー処理、所定期間、及び遊技結果は、実施形態中に記載のものに限定するものではない。例えば、所定期間を予め設定した一定の時間としてもよい。また、遊技結果は、実績ベースの払出し率(=実績ベース)としているが、この実績ベース以外にも、S・B入賞玉数、S・Bの開放制御に伴うベースの補正量、通常入賞玉数/アウト玉数、等を遊技結果とすることができ、さらにはこれらを組合せてもよい。」(段落【0042】)

(ソ)「次に、前記ベース不適正の具体的な判定動作を図24及び図25を用いて例示する。先ず、遊技結果(実績ベース)が下限値から外れてベースの不適正を判定する場合を図24に基づいて説明する。なお、図24中では下限値を「20」に設定している。・・・第六期間でのS・Bの各制御に伴って(S実績入賞個数)6、(B払出数)6、及び(G払出数)6がそれぞれ「4」「0」「0」になると、(実績ベース)6は下限値「20」以下の「20」の値をとる。但し、第六期間での(実績ベース)6は、まだ2区切り期間以上に亘った下限値「20」以下の判定となっていないため、ベース不適正の判定とはしない。次に、第七期間では、第六期間の実績データに基づいて(S補正量)7及び(ベース補正量)7がそれぞれ「0」「+20」に設定され、これに基づいたS・Bのベース調整制御が行われる。また、第七期間の(S目標入賞個数)7は(S設定入賞個数)の「6」に(S補正量)7の「0」を加算した「6」になり、(目標ベース)7は(設定ベース)の「50」に(ベース補正量)7の「+20」を加算した「70」になる。そして、第七期間でのS・Bの各制御に伴って(S実績入賞個数)7、(B払出数)7、及び(G払出数)7がそれぞれ「3」「0」「0」になると、(実績ベース)7は下限値「20」以下の「15」の値をとる。これにより、第七期間での(実績ベース)7は、第六期間との2区切り期間以上に亘った下限値「20」以下の判定となり、ベース不適正を判定する。なお、図24の一覧表図の下方には、この一覧表図に対応した発射玉数と払出率(総払出数/100発)との関係を示す推移グラフを記載しており、遊技結果が下限値から外れたときをグラフ中の斜線部分で示している。」(段落【0047】)

(タ)「次に、遊技結果(実績ベース)が上限値から外れてベースの不適正を判定する場合を図25に基づいて説明する。なお、図25中では上限値を「80」に設定している。・・・第六期間でのS・Bの各制御に伴って(S実績入賞個数)6、(B払出数)6、及び(G払出数)6がそれぞれ「10」「20」「10」になると、(実績ベース)6は上限値「80」以上の「80」の値をとる。但し、第六期間での(実績ベース)6は、まだ2区切り期間以上に亘った上限値「80」以上の判定となっていないため、ベース不適正の判定とはしない。次に、第七期間では、第六期間の実績データに基づいて(S補正量)7及び(ベース補正量)7がそれぞれ「-6」「-40」に設定され、これに基づいたS・Bのベース調整制御が行われる。また、第七期間の(S目標入賞個数)7は(S設定入賞個数)の「6」に(S補正量)7の「-6」を加算した「0」になり、(目標ベース)7は(設定ベース)の「50」に(ベース補正量)7の「-40」を加算した「10」になる。そして、第七期間でのS・Bの各制御に伴って(S実績入賞個数)7、(B払出数)7、及び(G払出数)7がそれぞれ「10」「35」「0」になると、(実績ベース)7は上限値「80」以上の「85」の値をとる。これにより、第七期間での(実績ベース)7は、第六期間との2区切り期間以上に亘った上限値「80」以上の判定となり、ベース不適正を判定する。なお、図25の一覧表図の下方には、この一覧表図に対応した発射玉数と払出率(総払出数/100発)との関係を示す推移グラフを記載しており、遊技結果が上限値から外れたときをグラフ中の実線斜線部分で示している。また、図25中のグラフには、発射玉数とS入賞玉数(同図中には、S入賞率と記載)との関係を破線で表しており、S入賞玉数を遊技結果とした場合の上限値(同図中では「9」に設定)からの外れを破線斜線部分で示している。このS入賞玉数を遊技結果とした場合の判定では、破線グラフから判るように、第六期間で2区切り期間以上に亘った上限値「9」以上の判定となり、ベース不適正を判定している。」(段落【0048】)

上記(コ)?(タ)の記載、【図2】及び【図3】より、「普通可変入賞球装置5及びベース調整入賞球装置23」による「ベース調整制御」、及び、「払出し率」を用いた「ベース適正・不適正の判定制御」は遊技機本体にて行われると解するのが自然であり、これは、記載(セ)の「不適正エラー処理」は「異常発生信号を外部(ホールコンピュータや呼び出しランプ等)に送信することで異常発生を報知する」という記載からも分かる。よって、甲2には「払出し率」(本件発明1の「遊技媒体の数に関する数値」)を遊技機にて算出する点が実質的に記載されている。また、算出された「払出し率」が所定期間以上に亘って設定値(上限値と下限値との間)から外れたか否かの判定をして、不適正エラー処理として「遊技機内のLCD表示器33や各種ランプ等を表示する表示制御」するのであるから、算出された「払出し率」が所定範囲内であるか否かの判定及び判定結果の報知を遊技機にて行う点が実質的に記載されている。

甲4には、第20頁左上の囲み内に「スランプグラフの読み方!!」、「グラフの縦軸はコイン(枚)の増減を、横軸は時間の流れ(太線ごとに1日)を表しています」と記載され、同頁の下半分には「グラフ1」?「グラフ4」と左上に表したスランプグラフが4つ、また、第21頁の下半分には「グラフ5」?「グラフ8」と左上に表したスランプグラフが4つ示されている。

甲5には、第12頁に「設定別スランプグラフ大公開!!」と、また、同頁最下部の囲み内には「スランプグラフの見方」、「・・・なお、縦軸が出玉を表す。(縦軸のメモリ幅はグラフごとに若干異なる)のに対し、横軸は時間の経過を表している。」と記載され、同頁の上半分には「設定1」?「設定6」と右上に表したスランプグラフが6つ、また、第13頁の上半分には「設定1」と右上に表したスランプグラフが4つ示されている。

甲6には、第22頁1?2段に「もう既に下のグラフに目を奪われている貴方。そう、設定1の出玉ランキング堂々1位を飾る獲得枚数は実に・・・10454枚! ・・・ホールコンピュータという正確無比な精密機械から、設定1・IN枚数・OUT枚数・差玉・ビッグ回数といったその台の全てのデータが「1枚の用紙にプリントされる」と記載され、同頁の下半分には「猛爆グラフ」と右上に表したスランプグラフが示されている。

甲7には、第22頁下段に「これが三者三様のスランプグラフ!!」と上部中央に表した、横軸に「ゲーム数」を、縦軸に獲得枚数を表すスランプグラフが示されている。

甲8には、第23頁下段に「これが三者三様のスランプグラフ!!」と上部中央に表した、横軸に「ゲーム数」を、縦軸に獲得枚数を表すスランプグラフが示されている。

これら甲4?甲8に示される「スランプグラフ」が、単位ゲーム数ごと又は単位時間ごとの「コイン(枚)」、「獲得枚数」といった「遊技媒体の数に関する数値」の変位を示すものであることは明らかであるので、「遊技媒体の数に関する数値」を単位ゲーム数ごと又は単位時間ごとに算出する点は、遊技機の技術分野において本件出願前に周知の技術であるといえる。
そして、「遊技媒体の数に関する数値」の算出を遊技機本体にて行うか、管理者側の「ローカルコンピュータ27」にて行うかは適宜選択し得る設計事項であるので、引用発明における、「投入されたメダルの数と当たりによって払い出されたメダルの数との比」(本件発明1の「遊技媒体の数に関する数値」)を算出する主体を、甲2に記載の如く遊技機とするとともに、当該数値を算出する周期として上記周知技術を適用し、構成要件(1-c)の如く構成することは、当業者にとって想到容易である。

<相違点2、3>(構成要件(1-d)、(1-e)の想到容易性)について
構成要件(1-d)、(1-e)はいずれも、算出される「遊技媒体の数に関する数値」と「予め定められた上限値及び下限値」との関係、とりわけ「前記上限値を基準とした所定範囲又は前記下限値を基準とした所定範囲」との関係について規定する事項を含むものであるので、まとめて検討する。

甲2の、上記(コ)?(タ)の記載によると、「LCD表示器33や各種ランプ等を表示する」つまり報知が行われるタイミングは、「払出し率」(本件発明1の「遊技媒体の数に関する数値」)が設定値(上限値と下限値の間)から外れたと判別された場合であり、構成要件(1-d)の如く「予め定められた上限値と下限値との間の範囲のうち、前記上限値を基準とした所定範囲内又は前記下限値を基準とした所定範囲内に入った際」ではない。構成要件(1-e)は、構成要件(1-d)にある「上限値を基準とした所定範囲」又は「下限値を基準とした所定範囲」に関係しているので、甲2がこれを充足しないことは明らかである。

甲3には、図面と共に以下の記載がある。
(チ)「本発明の一実施例である遊技機管理システム100の構成を図1に示す。図に示すように、この遊技機管理システム100は、管理される遊技機であるパチンコ遊技機56と、このパチンコ遊技機56の遊技盤上に植設され発射されたパチンコ遊技球の流下方向を変化させる1対の障害釘の間隔を測定する釘間隔測定装置であるネイルゲージ機1と、これらのパチンコ遊技機56、ネイルゲージ機1に接続される 遊技機管理装置である中央管理制御装置51と、この中央管理制御装置51に個々の遊技機に対し基準とすべき基準出玉データ等を入力設定可能な外部入力装置53と、上記のパチンコ遊技機56のうち出玉データが基準出玉データを超過するものについて、釘の調整が必要な釘調整候補遊技機である旨の表示を画像として外部表示可能な画像表示装置52と、上記のパチンコ遊技機56のうち出玉データが基準出玉データを超過するものについて、釘の調整が必要な釘調整候補遊技機である旨の表示を印刷出力可能な印刷出力装置55と、これらの出玉データ、釘調整の履歴等を記憶媒体等に格納可能な外部記憶装置54と、を備えている。」(段落【0006】)

(ツ)「中央管理制御装置51は、各パチンコ遊技機56の排出賞球数に関する各種の指標値である出玉のデータを各パチンコ遊技機56から常時収集している(ステップS4)。」(段落【0009】)

(テ)「中央管理制御装置51は、上記の出玉データと予め遊技店側で入力する出玉データの許容範囲値(上限値と下限値)とを比較し、この許容範囲値を超過するパチンコ遊技機を発見した場合は、そのパチンコ遊技機を釘調整候補台として表示等し(ステップS5)、その一覧等の印刷出力が可能である(ステップS6)。」(段落【0010】)

(ト)「これらの一連の動作を管理しているすべてのパチンコ遊技機について行った後(ステップS7)、出玉が通常よりも大幅に多いパチンコ遊技機や出玉が通常よりも大幅に少ないパチンコ遊技機等を「異常台」として検出し(ステップS8)、それらの印刷出力等も可能である(ステップS9)。」(段落【0011】)

(ナ)「本システムの特徴は、これらの稼働率、割数、遊び率、打止回数、特賞回数、特賞中最大最小、スタート回数、スタート平均、ドア・オープン回数の各データのうちから、そのいずれか、あるいは、そのうちの任意の組み合せを表示し得る点にある。図から判るように、この台では、稼働率の実績値が表示され、割数および特賞中最大最小の値が既に設定されている。ここに、上記の各データの内容は、図9に示す通りである。」(段落【0015】)

(ニ)「ここで、各データの内容を説明しておく。まず、アウト玉数とは、補給コンピュータ3より採取したパチンコ機(台)毎の発射玉の累積値をいう。また、セーフ玉数とは、補給コンピュータ3より採取したパチンコ機(台)毎の補給玉の累積値をいう。差玉とは、上記のアウト玉数からセーフ玉数を減じた値である。」(段落【0016】)

(ヌ)「次に、割数とは、上記のセーフ玉数を10倍して上記のアウト玉数で除した値で表現される。」(段落【0017】)

上記(チ)?(ヌ)の記載によると、「出玉データ」(本件発明1の「遊技媒体の数に関する数値」)と「許容範囲値(上限値と下限値)」とを比較し、許容範囲値を超過する場合に、そのパチンコ遊技機を「釘調整候補台」として表示するものであり、報知が行われるタイミングは、「出玉データ」が「上限値と下限値」を越えた場合であり、構成要件(1-d)の如く「予め定められた上限値と下限値との間の範囲のうち、前記上限値を基準とした所定範囲内又は前記下限値を基準とした所定範囲内に入った際」ではない。構成要件(1-e)は、構成要件(1-d)にある「上限値を基準とした所定範囲」又は「下限値を基準とした所定範囲」に関係しているので、甲3がこれを充足しないことは明らかである。
以上のとおり、構成要件(1-d)、(1-e)は、甲2及び甲3の何れにも記載されていない。
出球率など遊技媒体の数に関する数値が、上限値と下限値の範囲外となった場合に報知して遊技を強制的に終了すること自体は、甲2、甲3の他、本件明細書に【従来技術】として「出球率(賞球総数又は入賞球総数と、打球数との割合)が、下限値を下回った場合、異常が発生したことを報知し、例えば、遊技を強制的に終了する等、必要な対応が行われるパチンコ遊技機も存在する」(段落【0010】)との記載があることからも、本件出願前に公知又は周知の技術であることは認める。しかし、本件発明1は、該数値が「上限値と下限値との間の範囲のうち」の「上限値」又は「下限値」を基準とした所定範囲内であって、しかも、「所定範囲内における予め定められた複数の範囲のうち、いずれの範囲にあるかを判定」し報知するものである。よって、構成要件(1-d)、(1-e)を導き出すためには、「遊技媒体の数に関する数値」が「上限値」と「下限値」の間の範囲である遊技の継続中に、該数値が「上限値」又は「下限値」に近づいていることを遊技者等が認識できるよう段階的に報知するなどの技術を採用しなければならないが、甲2、甲3、本件明細書に記載の従来技術は、段階的に報知するものではない。甲2の上記(ス)、(セ)の記載によると、「払出し率」が「上限値」あるいは「下限値」の範囲外になるのが、偶然的になる場合と、遊技機の異常による場合があり、偶然的な場合、ある期間に「上限値」または「下限値」に近づいたとしても、次の期間にもそうなるとは限らず、段階的に検出、報知をすることの意味がない。
もっとも、甲2は、算出した「払出し率」の報知を遊技者に対して行うものであり、「払出し率」が「上限値」に近づいている間は報知することなく、「上限値」に到達した時点で報知するとともに遊技を強制的に終了させるとなると、例えば大当たり中に該「上限値」に到達した遊技者に苛立ちや不快感を与え得ることは、容易に想定し得る問題である。該問題に対処するための、報知を開始するタイミングを「払出し率」が「上限値」に到達する前段階とするなどの技術を、甲1に記載の「所定範囲における予め定められた複数の範囲のうち、いずれの範囲にあるかを判定する」技術とともに参酌することにより、構成要件(1-d)のうち「上限値と下限値との間の範囲のうち、前記上限値を基準とした所定範囲内に入った際、前記算出手段により得られた数値が上限値を基準とした所定範囲内に入ったことを報知する」構成、及び、構成要件(1-e)のうち「算出手段により得られた数値が、前記上限値を基準とした所定範囲における予め定められた複数の範囲のうち、いずれの範囲にあるかを判定する」構成に至ることは容易であるといえるが、これは「下限値」にはあてはまらない。
したがって、甲1?甲3の記載から、構成要件(1-d)、(1-e)全体を導き出すことは、当業者にとって想到容易ということはできない。

<相違点4、5>(構成要件(1-f)、(1-g)の想到容易性)について
相違点4、5は相互に関連するため、まとめて検討する。
上記(3)で述べたとおり、引用発明は、構成要件(1-e)のうち「所定範囲における予め定められた複数の範囲のうち、いずれの範囲にあるかを判定する」機能を備え、更に、構成要件(1-f)のうち「判定結果に基づいて複数種類の報知態様のなかからいずれかを選択する」機能及び構成要件(1-g)のうち「選択された報知態様にて報知を行う」機能を有する点においても本件発明1と共通する。また、上記「<相違点1>(構成要件(1-c)の想到容易性)について」で述べたとおり、甲2には、算出された「払出し率」が所定範囲内であるか否かの判定及び判定結果の報知を遊技機にて行う点が実質的に記載されている。
よって、上記甲2に記載の事項を引用発明に適用し、構成要件(1-f)、(1-g)を導き出すことは当業者にとって想到容易である。

以上によれば、構成要件(1-a)?(1-c)及び(1-f)?(1-h)を導き出すことは当業者にとって想到容易であるが、請求人の主張する理由及び提出した証拠によっては、構成要件(1-d)及び(1-e)を導き出すことは当業者といえども想到容易ではないから、本件発明1が引用発明及び甲2?8記載の事項に基いて当業者が容易に発明できたということはできない。

2.本件発明4について
本件発明4における「出球率算出手段により得られた出球率」は、上記1.で検討した本件発明1における「遊技媒体の数に関する数値」をより概念的に下位にしたものと認められる。よって、「出球率算出手段により得られた出球率」が「予め定められた上限値と下限値との間の範囲のうち、前記上限値を基準とした所定範囲内又は前記下限値を基準とした所定範囲内に入った際、前記出球率が前記上限値を基準とした所定範囲内又は前記下限値を基準とした所定範囲内に入ったことを報知する」点及び「前記出球率算出手段により得られた出球率が、前記上限値を基準とした所定範囲又は前記下限値を基準とした所定範囲における予め定められた複数の範囲のうち、いずれの範囲にあるかを判定する範囲判定手段」は、本件発明4と引用発明の相違点となる。
そして、これらの相違点に係る本件発明4の構成を採用することが当業者にとって想到容易といえないことは、「<相違点2、3>(構成要件(1-d)、(1-e)の想到容易性)について」で述べたと同様である。
したがって、本件発明4も、引用発明及び甲2?8に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

3.本件発明2、3及び5について
本件発明2及び3は本件発明1に、本件発明5は本件発明4に、各々何らかの限定を加えた発明である。
よって、本件発明2、3及び5も、引用発明及び甲2?8号証に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

第4 むすび
以上のとおり、本件発明1?5の特許は、審判請求人が主張する理由及び証拠によっては、無効とすべきものということができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-17 
結審通知日 2009-02-24 
審決日 2009-03-09 
出願番号 特願2002-235134(P2002-235134)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柴田 和雄  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 伊藤 陽
河本 明彦
登録日 2007-09-28 
登録番号 特許第4017938号(P4017938)
発明の名称 遊技機  
代理人 布川 俊幸  
代理人 黒田 博道  
代理人 特許業務法人安富国際特許事務所  

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