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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C04B
管理番号 1196780
審判番号 不服2006-4841  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-16 
確定日 2009-05-07 
事件の表示 特願2000-107975「黒鉛材料、SiC膜形成黒鉛材料及びシリコン単結晶引上装置用部品」拒絶査定不服審判事件〔平成12年12月19日出願公開、特開2000-351670〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は,平成12年4月5日(優先権主張:平成11年4月6日)の出願であって,平成16年3月29日付けで拒絶理由が通知され(発送日は平成16年4月6日),平成16年6月7日付けで意見書及び手続補正書が提出され,平成16年9月9日付けで拒絶理由が通知され(発送日は平成16年9月14日),平成16年11月12日付けで意見書及び手続補正書が提出され,平成18年2月10日付けで拒絶査定がなされ(発送日は平成18年2月14日),平成18年3月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,平成18年4月12日付けで手続補正書が提出されたものである。
その後,当審において,平成20年7月22日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋がなされ(発送日は平成20年7月29日),平成18年4月12日付け手続補正は平成20年12月1日付けの補正の却下の決定により却下されるとともに(送達日は平成20年12月16日),同日付けで拒絶理由が通知され(発送日は平成20年12月2日),これに対して平成21年2月2日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。
本願の請求項1乃至3に係る発明は,平成21年2月2日付け手続補正書によって補正された明細書の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
炭素質材料からなる骨材と結合材とを混合した後,成形及び熱処理され,さらに前記結合材を炭素化固結させることにより得られた,293K?673Kの熱膨張係数が3.0?4.0×10^(-6)/K,293Kでの熱伝導率が120W/(m・K)以上,耐熱衝撃係数が80kW/m以上,熱膨張係数の異方比が1.1以下,引張り強度が20MPa以上である黒鉛材料を用いたシリコン単結晶引上装置用部品。
【請求項2】
請求項1記載の前記部品の表面の一部又は全部にSiC膜を形成してなるシリコン単結晶引上装置用部品。
【請求項3】
前記部品が黒鉛ルツボ又は黒鉛ヒーターである請求項1又は2に記載のシリコン単結晶引上装置用部品。」

そこで,上記請求項1に記載された発明(以下,「本願発明」という。)について以下に検討する。

2.引用例
2-1
当審の拒絶理由に引用された本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平7-165467号公報(以下,「引用例1」という)には,次の事項が記載されている。
(a)「【請求項1】 平均粒径15μm 以下の針状コークス微粉末50?95重量%と平均粒径30μm 以下の天然黒鉛微粉末50?5重量%を配合してフィラー原料とし,該フィラー原料をピッチ系バインダーとともに捏合処理したのち混練物を微粉砕し,粉砕微粉を静水圧プレス(CIP) により成形して焼成炭化および黒鉛化処理することを特徴とする等方性黒鉛材の製造方法。
【請求項2】 請求項1の工程により,室温から1000℃における平均熱膨張係数が2.3?3.8×10^(-6)/℃で,かつ気体透過度が0.5?15×10^(-2)cm^(2)/sec の範囲にある等方性黒鉛材の製造方法。」(特許請求の範囲)
(b)「【産業上の利用分野】本発明は,例えばシリコン単結晶引上げ用の黒鉛ルツボ材として好適な低熱膨張係数と優れた気体不透過性を備える高密度組織の等方性黒鉛材を製造する方法に関する。」(段落【0001】)
(c)「例えば,チョコラルスキー(CZ)法で用いられるシリコン単結晶引上用ルツボに有効な黒鉛材として,200?400℃における平均熱膨張係数が2.0?5.6×10^(-6)/℃で,異方比が1.3以下の特性・・・のものが提案されている。
上記した各用途部材に対しては,各種の特性のうち特に熱膨張係数ならびに気体透過度が問題となり,これらが共に低位にあることが好ましい黒鉛材質とされているが,近時,この材質特性に対する要求は益々厳しくなってきている。」(段落【0003】?【0004】)
(d)「実施例1?6,比較例1?2
平均粒径3.5μm ,最大粒径10μm の針状コークス微粉末と平均粒径10μm ,最大粒径20μm ,灰分1重量%以下の鱗片状黒鉛微粉末をフィラー原料とし,これらを表1に示す配合比率によりフィラー原料系とした(比較例1は,針状コークスのみ)。各フィラー原料100重量部にタールピッチバインダー110重量部を配合して捏合機に投入し,200℃に加熱しながら捏合処理した。・・・ラバープレスに充填して静水圧プレス(CIP) にセットし,ブロック形状に成形した。ついで,成形体を焼成炉に詰めて非酸化性雰囲気下で約1000℃の温度で焼成炭化処理し,更に黒鉛化炉に移して非酸化性雰囲気下で3000℃の温度により黒鉛化処理した。
得られた各等方性黒鉛材の各種特性を測定し,結果をフィラー原料組成と対比させて表2に示した。・・・・・・。
【表2】

」(段落【0020】?段落【0023】)
(e)「本発明によればフィラー原料を針状コークス微粉末と天然黒鉛微粉末を特定範囲の比率で配合した組成とすることにより,実用的な材質強度を維持しながら低水準の熱膨張係数と優れた気体不透過性を兼備した高品位の等方性黒鉛材を製造することができる。したがって,これら性状特性が要求される・・・・特にシリコン単結晶引上げ用黒鉛ルツボ材の工業的製造技術として極めて有用である。」(段落【0028】)

2-2
当審の拒絶理由に引用された本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平6-345587号公報(以下,「引用例2」という。)には,次の事項が記載されている。
(f)「実施例1・・・・,熱伝導率110kcal/m・hr・℃,・・・の高純度等方性黒鉛をルツボ形状に加工した。」(段落【0022】)
(g)「上記実施例1・・・で作製した黒鉛ルツボに多結晶シリコン80kgを収容し・・・シリコン単結晶引き上げを行ない,・・・評価を行った。」(段落【0029】)

2-3
当審の拒絶理由に引用された本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開昭61-251593号公報(以下,「引用例3」という。)には,次の事項が記載されている。
(h)「本発明は・・・・高純度半導体単結晶製造用ルツボに関するものである。」(第1頁左下欄第11?13行)
(i)「本発明のルツボ状成形体基体の心金には・・・黒鉛を下地とし・・・。・・・黒鉛の熱伝導率は約150W/m・Kであって,熱伝導率に優れた炭化珪素の約2倍の熱伝導率を有しているため,特に,大型のルツボ内の熔融半導体を均等且つ迅速に所定の温度にまで到達させる効果がある。」(第2頁左下欄第18行?右下欄第12行)

2-4
当審の拒絶理由に引用された本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平1-294509号公報(以下,「引用例4」という。)には,次の事項が記載されている。
(j)「次式で表わされる炭素材の熱衝撃破壊抵抗T_(R)・・・


」(第1頁右下欄第5?9行)
(k)「曲げ強度が向上し,・・・ヤング率が低下し,・・・・熱膨張係数が小さくなる。さらに電気比抵抗が低下しこれに反比例して熱伝導率が増大し,これらの結果として熱衝撃破壊抵抗が増大する。」(第2頁右上欄第4?9行)
(l)「熱衝撃破壊抵抗が100以上の炭素材の製造が可能となり,得られる炭素材は・・・シリコン単結晶引上げ用るつぼ・・・,その他各種の耐熱衝撃性を要求される分野に用途が拡大される。」(第3頁左上欄第12?16行)

2-5
当審の拒絶理由に引用された本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平10-7488号公報(以下,「引用例5」という。)には,次の事項が記載されている。
(m)「単結晶引上装置に於いて,黒鉛ルツボ,黒鉛ヒーター及び黒鉛保温筒の少なくとも1種が,・・・・高純度黒鉛材料から成ることを特徴とする単結晶引上装置。」(【請求項1】)
(n)「本発明の黒鉛材料としては,・・・更に等方性であることが好ましい。・・・この等方性は本発明黒鉛材を引上装置に使用する場合,その部材の種類,部位に応じて・・熱膨張率・・・等要求される項目に差異があるが,等方性炭素材は何れもこれ等を充足し,特に・・・異方比が1.10以下特に1.03?1.07以下の高度に等方化された材料が好ましい。」(段落【0025】)
(o)「実際に・・・高純度黒鉛材料・・・と,従来の・・・黒鉛材と比較すると,シリコン単結晶引上を行ったところ,・・・その結果に顕著な差があることがわかった。」(段落【0042】)

3.対比・判断
3-1 引用例1の記載事項について検討する。
(あ)上記(a)には,「針状コークス微粉末」と「天然黒鉛微粉末」を配合した「フィラー原料」を「ピッチ系バインダーとともに捏合処理」した「混練物」の「粉砕微粉」を「静水圧プレス(CIP) により成形して焼成炭化および黒鉛化処理」した「等方性黒鉛材」であって,「室温から1000℃における平均熱膨張係数が2.3?3.8×10^(-6)/℃」であるものが記載されているといえる。そして,この「等方性黒鉛材」が,上記(b)及び(e)でいう「等方性黒鉛材」であるから,この「等方性黒鉛材」を材料に用いて「シリコン単結晶引上げ用の黒鉛ルツボ」が得られるといえる。
(い)上記(あ)で検討した「等方性黒鉛材」の具体例として,上記(d)の実施例1には,熱膨張係数が「3.8×10^(-6)/℃」であり,曲げ強度が「490kg/cm^(2)」であるものが記載されているといえる。

以上(あ)?(い)の検討を踏まえて,引用例1の(a),(b),(d)及び(e)の記載事項を,本願発明の記載ぶりに則して表現すると,引用例には,
「針状コークス微粉末と天然黒鉛微粉末を配合したフィラー原料をピッチ系バインダーとともに捏合処理した混練物の粉砕微粉を静水圧プレス(CIP) により成形して焼成炭化および黒鉛化処理して得られた,室温から1000℃における平均熱膨張係数が3.8×10^(-6)/℃であり,曲げ強度が490kg/cm^(2)である等方性黒鉛材を用いたシリコン単結晶引上げ用の黒鉛ルツボ」
の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。

3-2 本願発明と引用発明とを対比する。
(か)引用発明の「フィラー原料」は,「骨材」であって,「針状コークス微粉末と天然黒鉛微粉末」を配合しているから,「炭素質材料」であることは技術常識に照らし明らかである。そうすると,引用発明の「針状コークス微粉末と天然黒鉛微粉末を配合したフィラー原料」は,本願発明の「炭素質材料からなる骨材」に相当する。
(き)引用発明の「ピッチ系バインダー」は本願発明の「結合材」に相当することは明らかである。
(く)引用発明の「捏合処理」は,捏合により「混練」された物を得る処理だから,「混合」する処理を含むものといえ,引用発明の「混練物の粉砕物を静水圧プレス(CIP) により成形」することは,前記「混合」の後になされる「成形」であるとみることができる。
(け)引用発明の「焼成炭化および黒鉛化処理」は,上記(d)に記載されるように,「非酸化性雰囲気下で約1000℃の温度で焼成炭化処理し,更に黒鉛化炉に移して非酸化性雰囲気下で3000℃の温度により黒鉛化処理」するものであるから,約1000℃及び,約3000℃で行う「熱処理」であって,「ピッチ系バインダー」は焼成炭化処理及び黒鉛化処理によって,「炭素化固結」されたといえる。
(こ)引用発明の「シリコン単結晶引上げ用の黒鉛ルツボ」は,本願発明の「黒鉛材料を用いたシリコン単結晶引上装置用部品」であることは明らかである。

上記(か)?(こ)の検討から,本願発明と引用発明とは,
「炭素質材料からなる骨材と結合材とを混合した後,成形及び熱処理され,さらに前記結合材を炭素化固結させることにより得られた,黒鉛材料を用いたシリコン単結晶引上装置用部品。」である点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)黒鉛材料の熱膨張係数につき,本願発明は「293?673Kの熱膨張係数が3.0?4.0×10^(-6)/K」であるのに対して,引用発明は「室温から1000℃における平均熱膨張係数が3.8×10^(-6)/℃」である点。
(相違点2)黒鉛材料の熱伝導率,及び耐熱衝撃係数につき,本願発明は「293Kでの熱伝導率が120W/(m・K)以上,耐熱衝撃係数が80kW/m以上」であるのに対し,引用発明にはかかる事項について記載がない点。
(相違点3)黒鉛材料の熱膨張係数の異方比につき,本願発明は「1.1以下」であるのに対し,引用発明は,「等方性」ではあるが,熱膨張係数の異方比に関する具体的な記載がない点。
(相違点4)黒鉛材料の強度につき,本願発明は「引張り強度が20MPa以上」であるのに対し,引用発明は「曲げ強度が490kg/cm^(2)」である点。

上記(相違点1?4)について検討する。
(相違点1)について
引用発明の「室温から1000℃における平均熱膨張係数が3.8×10^(-6)/℃」は,室温を20℃とすれば,絶対温度に換算すると,「293K?1273Kの平均熱膨張係数が3.8×10^(-6)/K」であるといえる。そうすると,引用発明の熱膨張係数は,本願発明の「293?673Kの熱膨張係数が3.0?4.0×10^(-6)/K」に含まれる。よって,(相違点1)は実質的な相違点とはいえない。

(相違点2)について
引用例2の上記(f)?(g),引用例3の上記(h)?(i)には,それぞれ,単結晶製造に用いる,熱伝導率として,110kcal/m・hr・℃(単位換算すると,128W/(m・K)),150W/m・Kの黒鉛ルツボに用いる黒鉛が記載されている。そして,引用例2,3には,熱伝導率の測定温度について記載がないが,引用例2,3に接した当業者であれば,これらの熱伝導率は,20℃程度の室温,すなわち,絶対温度に換算して293K程度の熱伝導率であるとみることができる。
また,引用例4の上記(j),(l)には,熱衝撃破壊抵抗が高い,即ち,耐熱衝撃係数が高い炭素材が,シリコン単結晶引上げ用のるつぼに適していることが教示されている。更に,「新・炭素材料入門」((株)リアライズ社発行,1998年8月10日,第1版第2刷,第51頁(表-3の黒鉛のR’の値),第59頁(表3の「isotropic poly-crystailline graphite(IG-11)のR1’の値)を参照すると,耐熱衝撃係数が高い黒鉛材料として,熱衝撃破壊抵抗が90kW/m以上のものは周知のものといえる。
そうすると,シリコン単結晶引上げ用の黒鉛ルツボとして用いられている引用発明の黒鉛材料を,引用例2,3に記載されるような熱伝導率とし,引用例4の教示に従って,例えば90kW/m以上という耐熱衝撃係数の高いものとすることは当業者ならば困難なくなし得ることである。

(相違点3)について
引用発明には,異方比について明言されていないが,上記(c)には,従来技術として,シリコン単結晶引上げ用の黒鉛ルツボの黒鉛材料は,異方比が1.3以下である旨が記載されており,引用発明の黒鉛ルツボの黒鉛材料は等方性のものであるから,この従来技術の黒鉛ルツボの黒鉛材料のようにその異方比が1.3以下のものと推定され,さらには,引用例5の上記(m)?(o)には,シリコン単結晶引上げ用の黒鉛ルツボとして,異方比が1.10以下,特に1.03?1.07の高度に等方性のものが望ましい旨が記載されていることを併せて考えると,引用発明において,異方比が1.1以下の等方性黒鉛材とすることは当業者が困難なくなし得ることである。

(相違点4)について
炭素材料の強度について下記の関係式が周知である。
(圧縮強さ)≒2×(曲げ強さ)≒4×(引張り強さ)
(「新・炭素工業」,改訂版,昭和61年7月1日,第29頁表2.6「機械的強さ」の「特徴」の欄参照)
この関係式から,(引張り強さ) ≒(曲げ強さ)/2といえ,「引張り強さ」及び「曲げ強さ」がそれぞれ,本願発明でいう「引張り強度」及び引用発明でいう「曲げ強度」を指すことは明らかであるから,引用発明に当てはめると,(引張り強度)≒490/2(kg/cm^(2))=245(kg/cm^(2))≒24(MPa)といえる。
そうすると,引用発明の引張り強度は本願発明の20MPa以上に含まれるから,上記(相違点4)は実質的な相違点とはいえない。
仮に,引用発明の引張り強度が本願発明と相違するとしても,引用文献1には,上記(e)に,本願発明は「実用的な材質強度」を維持しながら「低水準の熱膨張係数」の「等方性黒鉛材」としたものであって,「これら性状特性が要求される特にシリコン単結晶引上げ用黒鉛ルツボ材の工業的製造技術として極めて有用である」ことが示されているから,「シリコン単結晶引上げ用黒鉛ルツボ材」に適した強度とすることが教示されている。そして,引張り強度が25MPaである等方性黒鉛が周知であることを併せて考えると(「新・炭素材料入門」((株)リアライズ社発行,1998年8月10日,第1版第2刷,第57頁右欄下から第3行?第58頁左欄第1行,第59頁表-3の「isotropic poly-crystailline graphite(IG-11)」のSt(tensile strength)の値参照。なお,ここでStの値を参照した黒鉛材料は,上記相違点2でR1’を参照した材料と同じものである。),引用発明において,シリコン単結晶引上げ用黒鉛ルツボ材に適した引張り強度として20MPa以上とすることは当業者が困難なくなし得ることである。

(相違点1?4についての補足)
なお,本願明細書には,「耐熱衝撃係数(R)」について「引っ張り強度(σ):単位は(MPa),熱伝導率(κ):単位は(W/(m・K)),熱膨張係数(α):単位は(×10^(-6)/K),弾性係数(ヤング率と同じ内容を意味するものとする。)(E):単位は(GPa),とすると,R=(σ・κ/αE)で示され」ること,「黒鉛材料の熱伝導率と引っ張り強度を大きくすれば,耐熱衝撃係数(R)を大きくでき」ること,また,「本発明では,従来の黒鉛材料の熱膨張係数(4.0?5.0×10^(-6)/K)よりも熱膨張係数を小さくしたので,耐熱衝撃係数(R)を相対的に大きくした」ことになることが記載されているといえる(段落【0016】?【0018】)。そうすると,(相違点2)に係る特定事項における「耐熱衝撃係数」は,(相違点1?4)に係る特定事項における「熱膨張係数,熱伝導率,引っ張り強度」と関係するものといえる。そこで,この点について検討する。
引用例4の上記(k)には,「曲げ強度が向上」し,「熱膨張係数が小さく」なり,「熱伝導率が増大」すると,これらの結果として熱衝撃破壊抵抗が増大することが示されている。また,曲げ強度が大きいと,引っ張り強度が大きくなる傾向があることは,(相違点4)についての項において関係式を示した通り周知の事項である。そうすると,上記(相違点1?4)に係る特定事項とする際に,「耐熱衝撃係数」は,「熱膨張係数,熱伝導率,引っ張り強度」と関係することに配慮することは当業者が当然行うことである。そして,この関係を考慮しても,引用発明において,(相違点1?4)に係る特定事項を採用することを妨げるものは見出せない。

以上のとおりであるから,本願発明は,引用例1?5に記載された発明及び周知の事項に基いて当業者が容易になし得るものである。
そして,本願発明の効果についても,引用例1?5から当業者であれば当然に予測される程度のものである。

なお,請求人の平成21年2月2日付けの意見書における,
「本願の新請求項1に係る発明(黒鉛材料)は,下記の特徴を有しています。すなわち,
(a)293K?673Kの熱膨張係数が3.0?4.0×10^(-6)/Kであること,
(b)熱膨張係数の異方比が1.1以下であること,
(c)293Kでの熱伝導率が120W/(m・K)以上であること,
(d)引張り強度が20MPa以上であること,及び,
(e)耐熱衝撃係数が80kW/m以上であること,
という特徴です。
・・・・・引用例1?5には・・・・(d)?(e)の特性を備えた黒鉛材料は開示されておりません。また,上記(a)?(e)の全ての特徴を備えた黒鉛材料は開示されておりません。
・・・・・さらに,黒鉛材料の特性は,その骨材及び添加量の種類及び配合によって異なりますので,各引用文献に記載の材料が,上記(a)?(c)のいずれかの特性を備えていても,本願の他の特性を備えていないと思慮します。
したがいまして,単に,各引用文献に記載された各物性値を組み合わせても本願発明に容易に想到しないと思慮します。」(第2頁下から第14行-第3頁下から第11行)との主張について検討する。

(相違点2)及び(相違点4)についての項で検討したとおり,上記(d)または上記(e)の特性を備える黒鉛材料は周知である。しかも,(d)及び(e)の特性を兼ね備えた黒鉛材料も周知である(相違点2,4についての検討で引用した「新・炭素材料入門」の「isotropic poly-crystailline graphite(IG-11)参照)。
また,本願発明を得るための製造方法について,本願明細書の記載をみても,段落【0027】に,「黒鉛材料は,石油コークス等のフィラー(骨材)と,ピッチ等のバインダー(結合材)とを混合し,これを所定の形状に成形したのち,熱処理によってバインダーを炭素化固結させて形成される。この黒鉛材料の熱膨張係数は,骨材自体を低い熱膨張係数のものに選定することにより調整できる。また,引っ張り強度,熱伝導率,弾性係数,熱膨張係数の各々も,骨材の熱的性質及び物理的性質について適切なものを選定することにより所定範囲に収めることができる。」ことが記載されているものの,他に具体的な製造方法に関する記載は見当たらない。そして,「石油コークス」及び「ピッチ」がそれぞれ,骨材及びバインダーとして周知の材料であって,本願明細書には骨材又は添加剤の添加量,配合割合について具体的な記載がないことを併せて考えると,請求人の主張する「骨材及び添加量の種類及び配合」に格段の創意工夫を要するものとはいえない。
なお,請求人の主張における「骨材及び添加量の種類及び配合」の意味は不明瞭であるが,「骨材及び添加剤の種類及び配合」あるいは「骨材の添加量,種類,及び配合」の意味であると解している。
よって,上記(相違点1)?(相違点4)の項で検討したとおり,上記(a)?(e)の全ての特徴を備えた黒鉛材料とすることは当業者が困難なくなし得ることである。
したがって,上記主張は採用しない。

4.本願明細書の記載について
上記3.で検討したとおり,本願の請求項1に係る発明は,引用例1?5に記載された発明及び周知の事項に基いて当業者が容易になし得るものであるが,仮にそうでないとしても,以下に詳述するとおり,本願明細書には,当審による平成20年12月1日付け拒絶理由通知において指摘した特許法第36条第4項についての記載不備が依然として解消していない。

当審による拒絶理由通知において指摘した特許法第36条第4項についての記載不備は次の通りである。
「請求項1乃至3に係る発明は,「熱膨張係数,293Kでの熱伝導率,耐熱衝撃係数,熱膨張係数の異方比」(以下,「熱膨張係数等」という。)が所定範囲にある黒鉛材料を用いることを発明特定事項として含むものである。
一方,発明の詳細な説明の段落【0032】?【0042】の実施例に関する記載をみると,実施例1?3として,熱膨張係数等が上記発明特定事項の所定範囲にある等方性黒鉛を作製したことが記載されているが,前記黒鉛の作製方法の具体的な記載は何ら見当たらない。
そこで,発明の詳細な説明の他の部分の記載をみると,段落【0027】には,請求項1乃至3に係る発明における黒鉛材料は,「石油コークス等のフィラー(骨材)と,ピッチ等のバインダー(結合材)とを混合し,これを所定の形状に成形したのち,熱処理によってバインダーを炭素化固結させて形成される」ものであって,前記黒鉛材料の熱膨張係数等は,「骨材自体を低い熱膨張係数のものに選定すること」及び「骨材の熱的性質及び物理的性質について適切なものを選定すること」により所定範囲に収めることができることが示されている。しかし,これらの記載をみても,周知の骨材である石油コークスを骨材として単に用いれば黒鉛材料の熱膨張係数等を所定範囲にできるのか,他に骨材を選定するために必要な事項があるのか特定できない。また,骨材と結合材との配合割合,結合材の種類も,得られる黒鉛材料の熱膨張係数等に影響を与えると思われるが,このような製造条件をどのように選定すべきであるかも特定できない。
発明の詳細な説明には,他に黒鉛材料の具体的な製造方法に関する記載はないから,請求項1乃至3に係る発明における熱膨張係数等が所定範囲である黒鉛材料を製造するために当業者は過度の試行錯誤を要するものといえる。そして,発明の詳細な説明には,請求項1乃至3に係る発明における黒鉛材料の入手手段についても記載がないから,当業者が上記黒鉛材料を製造する代りに,何らかの手段で,上記黒鉛材料を入手することができるともいえない。
したがって,発明の詳細な説明の記載は,請求項1乃至3に発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。」

本願の請求項1乃至3に係る発明は,「上記1.」に記載される通りのものであって,「熱膨張係数,293Kでの熱伝導率,耐熱衝撃係数,熱膨張係数の異方比」が所定範囲にある黒鉛材料を用いることを発明特定事項として含む点において,当審による拒絶理由通知において指摘した補正前の上記請求項1乃至3に係る発明と共通するものである。
そして,この指摘に対して,請求人は,平成21年2月2日付け手続補正において,発明の詳細な説明については補正しておらず,同日付け意見書において次のように主張する。
「段落0032?0042に係る実施例及び比較例の黒鉛は,段落0027に記載のように,石油コークス等のフィラー(骨材)と,ピッチ等のバインダー(結合材)とを混合し,これを所定の形状に成形したのち,熱処理する(約700?1300度で焼成する)ことによってバインダーを炭素化固結させ,焼成された炭素質材料を約3000度前後で熱処理(黒鉛化)することによって製造されます。ここで,骨材と結合材の種類や骨材と結合材の配合比などの調整は,目的とする黒鉛材料の特性値の範囲が分かっていれば,当業者によって,これまでの経験や下記の骨材の性質を考慮して行われます。
(骨材の性質の例)
(A)骨材の種類や配合比を変えることによって,低熱膨張係数数の黒鉛材へと制御できる。
(B)低い熱膨張係数の骨材を使用することによって,低熱膨張係数の黒鉛材へ制御できる。
(C)骨材の粒径や粒度分布,結合材の種類や配合量を変えることによって,高密度で引張り強度が大きく,高熱伝導性,耐熱衝撃係数の大きな黒鉛材料へと制御できる。
上記製造工程(本願の段落0027)は,炭素分野において従来から広く知られている工程です。また,黒鉛材料の特性値の範囲に応じた骨材や結合材の種類,配合は,炭素に関する特性,出願時の技術常識及び当業者の経験に基づいて見出されますので,黒鉛の作製方法(製造工程,骨材,結合材)が詳細に記載されていない場合でも,黒鉛の特性値の範囲が記載されていましたら,当業者が出願時の技術常識に基づいてその黒鉛を製造することができると思慮します。」(第4頁第8行?同頁第30行)

そうすると,請求人の主張によれば,骨材と結合材の種類や骨材と結合材の配合比などの調整は,目的とする黒鉛材料の特性値の範囲が分かっていれば,当業者によって,これまでの経験や技術常識に基づいて行われるものであって, 黒鉛の作製方法(製造工程,骨材,結合材)が詳細に記載されていない場合でも,黒鉛の特性値の範囲が記載されていれば,当業者が出願時の技術常識に基づいてその黒鉛を製造することができるものといえる。しかしながら,引用例1?5及び周知の事項から,シリコン単結晶引上装置用部品として目的とする黒鉛材料の特性値の範囲が分かっているにもかかわらず,引用例1?5の記載及び周知技術を考慮しても,仮に,請求項1に係る発明に想到できないのであれば,請求人の主張は矛盾しており,請求項1に係る発明を得るために,出願時の技術常識及び当業者の経験を考慮しても想到し得ないだけの,黒鉛の作成方法における工夫を要するものといえる。また,請求項2,3に係る発明は,請求項1を引用するものであるから,これらの発明を得るために同様の工夫を要するものといえる。
よって,請求項1に係る発明が,引用例1?5に記載された発明及び周知の事項に基いて当業者が容易になし得ないとしても,発明の詳細な説明の記載は,請求項1乃至3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

5.むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,引用文献1?5に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。仮にそうでないとしても,本願の発明の詳細な説明には,請求項1乃至3に係る発明を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず,特許を受けることができない。
したがって,その余の拒絶理由について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-06 
結審通知日 2009-03-10 
審決日 2009-03-25 
出願番号 特願2000-107975(P2000-107975)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C04B)
P 1 8・ 121- WZ (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 直也  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 木村 孔一
安齋 美佐子
発明の名称 黒鉛材料、SiC膜形成黒鉛材料及びシリコン単結晶引上装置用部品  
代理人 梶 良之  
代理人 須原 誠  

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