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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C01B
管理番号 1196878
審判番号 不服2007-4887  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-15 
確定日 2009-05-07 
事件の表示 特願2003- 47372「クロロシラン類の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月16日出願公開、特開2004-256338〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年2月25日の出願であって、平成18年8月29日付け(平成18年9月5日発送)で拒絶理由の通知がなされ、平成18年11月1日に意見書が提出されたが、平成18年12月26日付け(平成19年1月16日発送)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年2月15日に拒絶査定不服の審判請求がなされ、平成19年3月14日に前記審判に係る請求書の手続補正書の提出がなされたものである。

2.本願発明
本願請求項1及び2に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1及び2にそれぞれ記載されたとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
金属シリコンと塩化水素、または金属シリコンと四塩化珪素および水素を反応させた後、冷却し、得られるクロロシラン類の未精製混合液を蒸留塔で蒸留してクロロシラン類を回収するクロロシラン類の製造方法であって、未精製混合液中の不純物が濃縮した不純物濃縮液を蒸留塔から抜き出し、再濃縮装置で加熱することにより前記濃縮液に残存するクロロシラン類を回収するとともに、濃縮した不純物を再濃縮装置から抜き出すに際し、前記反応させる金属シリコン量1kgに対して、蒸留塔からの不純物濃縮液の抜き出し量を1?20kgとし、再濃縮装置からの濃縮不純物の抜き出し量を0.05?0.45kgとすることを特徴とするクロロシラン類の製造方法。」

3.引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶理由で引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平01-203213号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、次の事項が記載されている。
(1)「従来のトリクロロシランの製造工程は大略次のとおりである(第2図)。
・・・金属シリコン(MG-Si)に対し、SiCl_(4)、H_(2)、HCl等を反応させる。反応炉より出たガスは冷却されてH_(2)を分離する。冷却により生じた凝縮液は、トリクロロシラン(SiHCl_(3))の他、SiCl_(4)・・・等を含み、更に・・・金属シリコン中の不純物に起因する種々の塩化物等を含むものである。
このため、冷却により生じた凝縮液は・・・蒸留塔で複数回蒸留され、SiHCl_(3)からそれ以外の物質を段階的に分離して、最終的に高純度なSiHCl_(3)とされる。・・・蒸留塔に残留する物質は、初期の蒸留ではSiCl_(4)と・・・AlCl_(3)、FeCl_(2)等の高沸点塩化物とが含まれたスラリーである。」(第1頁右欄第6行?第2頁左上欄第5行)
(2)「残留スラリーには利用価値の高い多量のSiCl_(4)が含まれることから、一部では残留スラリーを加熱蒸留して、SiCl_(4)を回収することも行われてきた。」(第2頁左上欄第10?13行)
(3)「しかしながら、従来の加熱蒸留ではせいぜい50%程度のSiCl_(4)しか回収できない。これは、主に残留スラリーに含まれる高沸点塩化物の中の揮発性の高いAlCl_(3)が配管を詰まらせる関係から、加熱温度を高くできないためである。」(第2頁左上欄第15?19行)
(4)「[実施例]・・・金属シリコンからトリクロロシランを製造する際の蒸留工程(第2図参照)で生じた残留スラリーが、第1の濃縮容器1に装入される。・・・第1の濃縮容器1は、攪拌羽根2を有し、外部から蒸気にて80℃程度に加熱される。
第1の濃縮容器1に装入された残留スラリーは、攪拌により効率よくしかも容器伝熱面への固着が防止されながら、AlCl_(3)の沸点(183℃)より十分に低い温度(80?100℃)に加熱され、SiCl_(4)を蒸発し濃縮される。・・・発生したSiCl_(4)およびポリマーは冷却により液化された後、・・・トリクロロシラン製造工程の蒸留塔に還流される。
第1段階の濃縮を終えた残留スラリーは、次の第2の濃縮容器3に装入される。」(第2頁左下欄第8行?右下欄第8行)」
(5)トリクロロシランの一般的な製造工程を示す模式図である第2図を参照すると、凝縮液を蒸留塔で1回蒸留した際には、「SiHCl_(3)」の他に「SiCl_(4)」も凝集液から分離して得ることがみてとれる。
(6)ここで、上記(1)?(5)の摘示事項を検討すると、(4)において、残留スラリーが第1及び第2の濃縮容器に「装入」されるにあたり、残留スラリーがそれぞれの前工程である蒸留塔及び第1の濃縮容器から「抜き出し」されることは明らかである。
(7)そうすると、上記(1)?(4)の記載事項を本願発明1の記載ぶりに則して記載すると、引用刊行物には、
「金属シリコンに対し、SiCl_(4)、H_(2)、HClを反応させた後、冷却し、得られるトリクロロシラン、SiCl_(4)を含む凝縮液を蒸留塔で蒸留してトリクロロシラン及びSiCl_(4)を分離して得る方法であって、SiCl_(4)とAlCl_(3)、FeCl_(2)等の高沸点塩化物とが含まれた残留スラリーを蒸留塔から抜き出し、第1の濃縮装置で加熱することにより前記残留スラリーに含まれるSiCl_(4)を回収するとともに、濃縮を終えた残留スラリーを第1の濃縮装置から抜き出すトリクロロシランの製造方法」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

4.対比・検討
本願発明1と引用発明とを対比する。
ここで、
(1)引用発明において「金属シリコンに対し、SiCl_(4)、H_(2)、HClを反応」させるとは、本願明細書(段落【0003】)にも記載されているトリクロロシランを製造するプロセスとして技術常識である化学反応式の(1)式及び(2)式を勘案すると、本願発明1の「金属シリコンと塩化水素、または金属シリコンと四塩化珪素および水素を反応」させることに相当するのは明らかである。
(2)本願発明1の「クロロシラン類」とは、「トリクロロシラン、四塩化珪素等の沸点の低いシリコンの塩化物」のこと(明細書の段落【0005】)であって、「トリクロロシラン」又は「四塩化珪素」のいずれか一方でも「トリクロロシラン類」に相当するといえるから、四塩化珪素の化学式が「SiCl_(4)」であることを勘案すれば、引用発明の「トリクロロシラン」及び「SiCl_(4)」は、いずれも本願発明1の「クロロシラン類」に相当する。
(3)引用発明の「凝縮液」には金属シリコンに起因する高沸点塩化物等の不純物が含まれており(上記3.(1))、これらの不純物は本願発明1で定義される「不純物」(明細書の段落【0005】)に他ならず、蒸留塔及び第1の濃縮装置でトリクロロシラン又はSiCl_(4)をそれぞれ分離及び回収した後に凝縮液中の不純物が濃縮されることは明らかであるから、引用発明の「凝縮液」、蒸留塔から抜き出す「残留スラリー」、「第1の濃縮容器」及び第1の濃縮容器から抜き出す「濃縮を終えた残留スラリー」が、それぞれ本願発明1の「未精製混合液」、「不純物が濃縮した不純物濃縮液」、「再濃縮装置」及び「濃縮した不純物」に相当することは明らかである。
(4)引用発明における「蒸留塔で蒸留してトリクロロシランを分離して得る」とは、本願発明1の「蒸留塔で蒸留してクロロシラン類を回収するクロロシラン類の製造方法」に他ならない。
(5)そうすると、両者は、
「金属シリコンと塩化水素、または金属シリコンと四塩化珪素および水素を反応させた後、冷却し、得られるクロロシラン類の未精製混合液を蒸留塔で蒸留してクロロシラン類を回収するクロロシラン類の製造方法であって、未精製混合液中の不純物が濃縮した不純物濃縮液を蒸留塔から抜き出し、再濃縮装置で加熱することにより前記濃縮液に残存するクロロシラン類を回収するとともに、濃縮した不純物を再濃縮装置から抜き出すクロロシラン類の製造方法。」
の発明である点で一致し、
本願発明1が「濃縮した不純物を再濃縮装置から抜き出すに際し、反応させる金属シリコン量1kgに対して、蒸留塔からの不純物濃縮液の抜き出し量を1?20kgとし、再濃縮装置からの濃縮不純物の抜き出し量を0.05?0.45kg」としているのに対して、引用発明ではかかる抜き出し量について特定していない点(以下、「相違点」という)で相違する。
(6)上記相違点について検討する。
まず、化学物質の製造装置を操業するにあたっては、円滑又は効率的な製造を行うために、原料及び反応物質の量、反応温度、時間等の操業条件について適切な範囲を模索することは当業者が当然に指向するところである。
そして、引用発明においては、蒸留塔から抜き出した残留スラリーは、加熱された第1の濃縮容器でSiCl_(4)を蒸発し濃縮して回収しているから、蒸留塔から抜き出すスラリーの量が過剰であれば、加熱による当該回収が非効率となることは明らかであるし、第1の濃縮容器から抜き出す残留スラリーの量についても、その後の段階でクロロシラン類を同様に加熱蒸発して回収するのであれば、過剰な抜き出しは同じく非効率であるといえるし、その後系外へ排出する場合であっても、過剰な抜き出しは回収されずに排出される有用成分の大きな損失を招くことも明らかである。
また、蒸留塔を使用するクロロシラン類の回収方法においては、塩化アルミニウムを含有するクロロシラン類をある程度以上に濃縮すると、蒸発加熱面へのスケーリングが発生し、蒸発効率が低下するだけでなく、場合によっては蒸留塔の加熱面や配管が閉塞するという現象を招くため、蒸留塔下部液を常に一定量以上抜き出さなければならないことが本願出願前より当業者において広く知られている(要すれば、原審の拒絶査定においても提示した特開2001-261324号公報等参照)から、引用発明1において、蒸留塔及び第1の濃縮装置よりAlCl_(3)を含む残留スラリーを抜き出す際に、抜き出し量の最適範があることは当業者にとって自明のことといえる。
そうすると、引用発明において、蒸留塔や濃縮容器からの残留スラリーの抜き出し量について、配管の詰まりを発生させずに、経済性や回収効率を勘案して適切な範囲を決めることは、当業者が操業上の効率等を勘案して、適宜行うべきことにすぎない。
そして、引用刊行物中にも、残留スラリーに含まれる高沸点塩化物は金属シリコン中の不純物に起因する種々の塩化物等であることが記載されている(上記3.(1))から、引用発明1において、操業条件の最適範囲を設定するにあたり、上記塩化物の発生源である金属シリコンの消費量に着目して設定する点に格別の困難性は認められないし、「反応させる金属シリコン量1kgに対して、蒸留塔からの不純物濃縮液の抜き出し量を1?20kgとし、再濃縮装置からの濃縮不純物の抜き出し量を0.05?0.45kg」とする程度のことも、当業者が適宜成し得たことである。
また、本願明細書及び図面の記載を参照しても、本願発明1における数値範囲に特定することによって、当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されるものとも認められない。
したがって、本願発明1は、引用刊行物に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-25 
結審通知日 2009-03-03 
審決日 2009-03-16 
出願番号 特願2003-47372(P2003-47372)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 哲  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 木村 孔一
天野 斉
発明の名称 クロロシラン類の製造方法  
代理人 森 道雄  

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