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審決分類 |
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N |
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管理番号 | 1197465 |
審判番号 | 不服2006-20078 |
総通号数 | 115 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-07-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-09-08 |
確定日 | 2009-05-13 |
事件の表示 | 特願2004- 90279「インターフェロン-α/β結合タンパク質、その製造法およびそれを含有する医薬組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月16日出願公開、特開2004-254695〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯及び本願発明 本願は,平成5年9月2日(優先権主張1992年9月3日及び1993年8月4日,イスラエル)の出願(特願平5-243987号)の一部を,平成16年3月25日に分割出願したものであって,平成17年4月18日に提出された手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて,その請求項2に係る発明(以下,「本願発明」という。)の要旨は,次のとおりのものである。 「【請求項2】請求項1記載の方法により得られるIFN-α/β結合タンパク質であって,分子量が約50kDであるIFN-α/β結合タンパク質またはその融合タンパク質もしくは塩。」 なお,請求項2において引用されている請求項1は,「【請求項1】ヒト血清を,IFN-α2,IFN-βまたは抗-IFN-α/β結合タンパク質抗体が結合したクロマトグラフィーのカラムに通し,引き続き精製を行なうことによりヒト血清からIFN-α/β結合タンパク質を単離することを含んでなるIFN-α/β結合タンパク質の製造法。」というものである。 また,この請求項2に係る発明は,平成17年4月18日に提出された手続補正書による補正前の請求項1に対応するものである。 第2 原査定の拒絶理由 これに対し,原査定の拒絶理由(平成18年6月9日付け拒絶査定)となった平成16年10月12日付けで通知した拒絶理由1A)は,「(補正前の)請求項1に係る発明の分子量が約50kDであるIFN-α/β結合タンパク質について,その精製・同定,あるいはその具体的機能の確認については,具体的な記載は何らなされていない。また,当該タンパク質についての上記の事項が当業者に過度の負担なく理解できたとも認められない。 よって,本願明細書の発明の詳細な説明には,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその発明を実施することができる程度にその発明の目的,構成及び効果が記載されていないので,本願は,発明の詳細な説明の記載が,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。」というものである。 第3 当審の判断 一般に,化学物質の発明は,新規で,産業上利用できる化学物質(すなわち有用性のある化学物質)を提供することにその本質があると解され,その化学物質が本願発明のIFN-α/β結合タンパク質等の,元来,自然界に存在する物質であって,その有用性が不明である場合には,単に存在を明らかにした,確認したというだけでは発見にとどまるものであり,自然界に存在した状態から分離され,さらに,その有用性が明らかにされることで,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,発明の詳細な説明の記載がなされているものと解すべきである。なぜならば,当業者が,当該化学物質の発明を容易に実施するためには,出願当時の技術常識に基づいて,その発明に係る物質を製造することができ,かつ,これを使用することができなければならないところ,発明の詳細な説明中に当該物質を分離する方法と,その物質の有用性が明らかにされていなければ,当該発明に係る物質を使用することはできるとはいえないからである。 本願発明は,IFN-α/β結合タンパク質に関するものであるので,明細書中にその分離・精製方法と「有用性」が明らかになる程度の具体的機能が記載されているか検討する。 (1)本願明細書の記載 「血清中に見出される可溶性IFN-αRAは、組換えIFN-αRAに対して作ったモノクローナル抗体21.4を用いて行なったウェスタンブロッティングによって決定したところ分子量55Kのタンパク質であった。同じ手法を用いることにより、類似のサイズの可溶性IFN-αRAがヒトダウディ細胞の培養培地中にも存在することが示唆された。正常尿を用いてえられた結果からは、尿には血清および細胞培養培地中からの可溶性レセプターの分子量よりも約10K低い分子量を有するsIFN-αRAが含まれることが示された。」(段落0022)と記載され, 「平行した1組の実験で、血清(図1c)および尿(図2b)を125I-IFN-αB(分子量25K)とクロスリンクさせ、抗-IFN-α MAb No.74-3を用いて免疫沈降を行なった。分子量が約75K(血清)および約65K(尿)のIFN-α結合タンパク質のクロスリンクした産物を認めた。最初はこれらのバンドがすでに既知であるIFN-αRA(10)の可溶型の産物であると想定されたが、単離、分析の結果(下記のとおり)別のタンパク質、IFN-α/β結合タンパク質が血清および尿中に存在することが見出された。」(段落0023)と記載され, 「2つのクロマトグラフィーの工程を含む手順によって正常尿からIFN-α/β結合タンパク質を単離した。粗尿タンパク質を、アガロースにIFN-α2を結合してなるカラムに付した。カラムを洗浄し、結合タンパク質を低pHで溶出した。そののち溶出タンパク質をサイズ排除HPLCによって分離し、種々のタンパク質のピークをえて、26、27、28(図5)の画分に溶出しているそのうちの1つを125I-IFN-α2と特異的に反応しうることより同定した。このタンパク質はさらにN-末端ミクロ配列分析により特徴づけを行ない、その結果配列番号1で示される主配列をそのN-末端ドメインに有することがわかった。」(段落0024)と記載され, 「また結合タンパク質は、IFN-βがアガロースに結合されてなるカラムでのクロマトグラフィーと、それに続くサイズ排除クロマトグラフィーによっても、正常尿から単離された。IFN-αアガロース/スペロース12(superose 12)法からの画分26?29およびIFN-βアガロース/スペロース12法からの画分26?28をSDS-PAGEと銀染色により分析すると、分子量40,000の同一の単一バンドがえられた(図6、それぞれレーン26?29と26′?28′)。このように、IFN-αまたはIFN-βアガロースのいずれかのリガンドアフィニティークロマトグラフィーとそれに続くサイズ排除クロマトグラフィーの組合せで、いずれのばあいでも均一なIFN-α/β結合タンパク質がえられた。前記したレセプター(10)はIFN-βとはあまり反応しないので、新規に単離したIFN-α/β結合タンパク質がその結合特性において既知のレセプターと異なっていることが明白である。」(段落0027)と記載され, 「IFN-α2アガロースまたはIFN-βアガロースカラムのいずれかで単離されたIFN-α/β結合タンパク質の125I-IFN-α2への結合は、IFN-α2、IFN-αB、IFN-αCおよびIFN-βを含む種々のI型IFNによって阻害されたが、(II型)IFN-γによっては阻害されなかった。」(段落0028)と記載され, 「均一な尿のIFN-α/β結合タンパク質は、その標識リガンド(125I-IFN-α2)への結合能を保持しており、共有クロスリンキングによって分子量60Kの複合体を形成した。その分子量はIFN-α/β結合タンパク質と20KのIFN-α2との1:1複合体に相当する。クロスリンキングの反応に、非標識IFN-α2を過剰に添加するとシグナルが消失し、それによって本タンパク質とIFN-αとの相互作用の特異性が立証された(図7)。 」(段落0029)と記載され, これらの記載を裏付ける実施例1?7が記載されている。 (2)判断 上記明細書の記載から明らかなように,精製され,IFN-α2、IFN-αB、IFN-αC,IFN-β及びIFN-γとの相互作用について調べられたのは尿由来の40kDのIFN-α/β結合タンパク質であって,HLC患者の血清由来のものについては,クロスリンクし免疫沈降により得られた約75kD付近に幅広いバンドを示すことから,分離・精製されたとは到底いえないものである。そして,尿由来のものとは10kDも分子量が異なる別異のタンパク質なのであるから,尿由来のものと同様に分離・精製され,同様の機能を有し,有用性が明らかになっているとはいえないものである。 確かに,実施例2によれば,過剰の非標識IFN-α2,IFN-αBの存在下において,75Kのバンドが有意に減少している(図1,レーンI及びK)ことから,血清由来の50kDのものが,IFN-α2,IFN-αBと親和性があることが示されているといえ,尿由来のものとこの点では同じ特性を有していることから,尿由来のものと同様に分離・精製され,同様の機能を有する可能性は否定できないものである。ところが,IFN-βとの相互作用も,尿由来の40kDのIFN-α/β結合タンパク質に対する抗体との相互作用も何ら明細書には示されていないのであるから,これが尿由来のものと同様に分離・精製され,同様の機能を有しない可能性も依然としてある。 そして本願発明は,ヒト血清を,IFN-βや尿由来のIFN-α/β結合タンパク質に対する抗体が結合したクロマトグラフィーのカラムに通し,引き続き精製を行なうことにより得られるIFN-α/β結合タンパク質も包含していることから,十分な確からしさをもって,尿由来のものと同様に分離・精製され,同様の機能を有するといえないのであり,発明の詳細な説明中に本願発明のIFN-α/β結合タンパク質を分離する方法と,その物質の有用性が明らかにされていないと判断せざるを得ず,当業者が容易に実施できるように記載されていないものである。 請求人は,発明者の一人の宣言書を提出し,本願発明のIFN-α/β結合タンパク質は,尿由来のIFN-α/β結合タンパク質と同等のものであり,同じ方法で精製できる旨を主張しているが,10kDも分子量が異なるものを同等のものであると判断できる根拠を明らかにしておらず,採用できるものではない。 また,Journal of Biological Chemistry, 282 (2007) p.20053-20057(タイプIインターフェロン受容体に関するミニレビュー)の20055頁右欄から左欄にかけての記載をみると,ヒトの可溶性IFNAR2について,発明者等が本願発明に関した内容を発表した論文しか引用されていないことをみると,本願優先日から10年以上の長きにわたって,本願発明のIFN-α/β結合タンパク質は分離・精製されることはなかったようであり,容易に本願発明が実施できないことを裏付けるものである。 第4 むすび 以上のとおり,本願発明について,本願の発明の詳細な説明は,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 したがって,本出願に係る他の請求項について検討するまでもなく,本出願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-12-03 |
結審通知日 | 2008-12-09 |
審決日 | 2008-12-24 |
出願番号 | 特願2004-90279(P2004-90279) |
審決分類 |
P
1
8・
531-
Z
(C12N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 新留 豊 |
特許庁審判長 |
平田 和男 |
特許庁審判官 |
種村 慈樹 小暮 道明 |
発明の名称 | インターフェロン-α/β結合タンパク質、その製造法およびそれを含有する医薬組成物 |
代理人 | 朝日奈 宗太 |