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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
管理番号 1197778
審判番号 不服2005-21226  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-11-04 
確定日 2009-05-21 
事件の表示 特願2000-199658「遊技機の管理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 1月22日出願公開、特開2002- 17992〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年6月30日に出願された特願2000-199658号であり、平成17年9月2日付けで拒絶の査定がなされ、これに対し、同年11月4日に拒絶査定不服の審判請求がなされたものである。
請求人は、審判請求後の平成17年11月22日付で手続補正をしたが、当審では平成20年9月5日付で同手続補正を却下するとともに、同日付で拒絶理由を通知して、それに対して同年10月22日付で手続補正がなされるとともに意見書(以下、「本件意見書」という。)が提出されたものである。

2.本願の請求項1、2に係る発明について
本願の請求項1、2に係る発明は、平成20年10月22日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
入賞口に影響を及ぼすであろう対象とすべき一対の障害釘を選択し、
前記一対の障害釘の相互間隔を測定し、その結果の釘間隔を釘間隔データとして取得する第1の操作を行い、
前記測定された釘間隔に対し、前記入賞口への遊技球の所定時間当たりの平均入賞数を入賞データとして複数回取得する第2の操作を行い、
前記一対の障害釘の相互間隔を変化させた状態において、第1の操作および第2の操作を複数回実施し、
前記複数の釘間隔データと前記複数の所定時間当たりの平均入賞数からなる入賞数データとをプロットして得た相関分布を基にして入賞口に影響を及ぼす一対の障害釘を決めるためのグラフを取得し、
遊技機の入賞状態を管理することを特徴とする遊技機の管理方法。

【請求項2】
入賞口に影響を及ぼすであろう対象とすべき一対の障害釘を選択し、
前記一対の障害釘の相互間隔を測定し、その結果の釘間隔を釘間隔データとして取得する第1の操作を行い、
前記測定された釘間隔に対し、前記入賞口への遊技球の所定時間当たりの平均入賞数を入賞数データとして複数回取得する第2の操作を行い、
前記一対の障害釘の相互間隔を変化させた状態において、第1の操作および第2の操作を複数回実施し、
前記複数の釘間隔データと前記複数の所定時間当たりの平均入賞数からなる入賞数データとをプロットして得た相関分布を基にして入賞口に影響を及ぼす一対の障害釘を決めるためのグラフを取得し、
前記対象とすべき一対の障害釘に対する複数の釘間隔データと前記複数の所定時間当たりの平均入賞数からなる入賞数データとの相関分布が判るグラフにおいて、バラ付きの大きい場合に、前記対象とすべき一対の障害釘以外の一対の障害釘を調整することによって、前記相関分布のバラ付きを小さくするようにした第3の操作を行い、
遊技機の入賞状態を管理することを特徴とする遊技機の管理方法。」

なお、本件補正による特許請求の範囲の請求項1の末尾に、『・・・遊技機の管理方法。」』と記載されるが、当該『」』(右括弧)は、当該『」』(右括弧)に対応する『「』(左括弧)が請求項1において別に記載されるものではないから、不要な記号を誤って記載した誤記であると認め、上記のとおり認定する。

3.本件拒絶理由の概要
平成20年9月5日付で当審より通知した拒絶理由(以下、「本件拒絶理由」という。)は、明細書及び図面の記載が、平成14年改正前特許法第36条第4項並びに第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていないことを理由とするものであって、その概要は以下のとおりである。

[1]請求項1に「入賞口への遊技球の所定時間当たりの平均入賞数を入賞数データとして複数回取得する第2の操作を行い」と記載されるところ、発明の詳細な説明をみても、前記摘記した取得方法は、いかなる測定条件の下に遊技球が発射されて取得されたデータであるか不明であるし、特に、「遊技店に設置して遊技者に遊技を行わせ」る状況であれば、そのパチンコ機に常に遊技者が付いていることは想定し難く、また、遊技者が付いていても、遊技者が常に一定のペースで遊技球を発射しているという保証はなく、しかも、遊技の状況に応じて遊技球を打ち込む位置を変えることも通常であるから、「単位時間当たりの平均入賞数」又は「所定時間当たりの平均入賞数」が、技術的にどのような意義を有する数値であるのか、明細書又は図面をみても理解できない(以下、「記載不備1」という。)。

[2]請求項1に「複数の釘間隔データと前記複数の所定時間当たりの平均入賞数からなる入賞数データとの相関分布が判るグラフを取得するようにしたことを特徴とする遊技機の管理方法。」と記載されるが、
(1)明細書又は図面を見ても、どの程度の規模の入賞数を母集団として、前記「所定時間当たりの平均入賞数からなる入賞数データ」を取得したものであるかについて記載されるものではないし、図2及び図3に記載された相関グラフを見ても、その規模が十分大きいものであるか否かを判断することはできないから、「相関分布」の技術的意義が不明である。
(2)前記「相関分布が判るグラフ」の各プロットが同一数の母集団であるかどうかも問題である。母集団が同一数(完全に同一でなくとも、同一規模であればよい)でなければ、統計としての意味がないが、母集団が同一数であるかどうかについて、明細書又は図面の記載からは読み取れない。
(3)前記「相関分布が判るグラフを取得する」ことによって、遊技機の何を管理することとなるのか、すなわち、「遊技機の管理方法」との関係も理解できない(以上、これらをまとめて、「記載不備2」という。)。

[3]請求項1に「前記測定された釘間隔に対し、前記入賞口への遊技球の所定時間当たりの平均入賞数を入賞数データとして複数回取得する第2の操作を行い」と記載されるが、遊技球が入賞口に入賞するかどうかは、それぞれ独立試行であるから、入賞確率が一定であれば、バラ付き具合が釘の調整によって変わることはない。時間を異ならせて複数回統計を取得しても、各回の確率が同一であれば、バラ付きは一定となる。したがって、時間を異ならせて取得した複数回の統計をみても、何もわからない(以下、「記載不備3」という。)。

[4]前記[1]?[3]で指摘した事項については、請求項2についても同様に当てはまる。

4.当審の判断
[1]記載不備1について
請求項1に「入賞口への遊技球の所定時間当たりの平均入賞数を入賞数データとして複数回取得する第2の操作を行い」と記載されるところ、発明の詳細な説明をみると、所定時間当たりの平均入賞数を入賞数データとして複数回取得する手段については、「次いで、このパチンコ機で実際に遊技球を発射し、あるいは遊技店に設置して遊技者に遊技を行わせ、上述した始動入賞口10への遊技球の入賞状態、例えば単位時間当たりの平均入賞数を観察し、これを現在の入賞状態を示すデータとして取得する。」(段落【0013】)と記載される。この記載を見ると、遊技球の入賞データの取得方法は、「パチンコ機で実際に遊技球を発射し、あるいは遊技店に設置して遊技者に遊技を行わせ」ることにより、「始動入賞口10への遊技球の入賞状態、例えば単位時間当たりの平均入賞数を観察し、これを現在の入賞状態を示すデータとして取得する」ものといえる。
しかしながら、前記取得方法は、いかなる測定条件の下に遊技球が発射されて取得されたデータであるか不明である。前段の「パチンコ機で実際に遊技球を発射」する場合の遊技球が発射される条件(例えば、発射が行われるペースや発射強度等の条件)について、本願の明細書又は図面(以下、「本件明細書」という。)には何ら具体的に記載されていない。そして、特に後段の「遊技店に設置して遊技者に遊技を行わせ」る場合であれば、そのパチンコ機に常に遊技者が付いていることは想定し難く、また、遊技者が付いていても、遊技者が常に一定のペースで遊技球を発射しているという保証はない。そのうえ、遊技の状況に応じて遊技球を打ち込む位置を変えることも通常であって、遊技者が常に特定の入賞口を狙って球を打ち込むとは限らない。例えば、遊技状態が変化して、遊技盤に設けられた役物が作動する場合、遊技者は、その役物を狙って球を打ち込むことが通常である。
ここで、仮に、遊技球を100個発射する毎に入賞口に6個の球が入賞する入賞確率であると仮定すると、1分当たりの遊技球の平均発射数が100個である遊技者であれば1分当たりの平均入賞数は6個/分である。そして、同平均発射数が99個である遊技者であれば、同平均入賞数は5.94個/分、同平均発射球数が98個である遊技者であれば、同平均入賞数は5.88個/分、同平均発射球数が96個である遊技者であれば、同平均入賞数は5.76個/分となり、1分当たりの平均発射球数が1個変われば、それに応じ、平均入賞数が0.06個/分変動する。本件明細書では、平均入賞数に大きなバラ付きがない場合の実施例として「それぞれに0.2以上のおおきなバラ付きがない」(段落【0016】)とするが、0.2程度のバラ付きは、仮に遊技者が常に始動入賞口に遊技球を入れるために同一の場所を狙って打ち続けるとしても、1分当たりの遊技球の平均発射数が高々4個変動するだけで発生するものである。そのうえ、上記のとおり、遊技の状況に応じて遊技球を打ち込む位置を変えることも通常であるから、実際に、始動入賞口に遊技球を入れることを狙って発射される球数の1分当たりの平均発射数が、数個程度変動することはむしろ当然である。
そうすると、請求項1に記載される「入賞口への遊技球の所定時間当たりの平均入賞数」である「入賞数データ」とは、どのような条件下で、取得されたデータであるか本件明細書に記載されていないし、技術的にどのような意義を有するデータであるのか本件明細書をみても理解できない。

この点、請求人は、本件意見書において、【本願発明が特許されるべき理由】として、「2.拒絶理由に対して (1) 「データ取得方法」について」なる欄において、
「(イ)・・・
遊技者が遊技を行っている時間は、一般的に短時間ではありません。すなわち、データの取得は、遊技者が遊技を行っている間であり、その中の単位時間のデータにすることができます。
(ロ)遊技者は、パチンコ玉が1分間に約100発と「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(以下、単に「風営法」と記載します)によって決められています。したがって、遊技者は、ほぼ一定のペースで遊技を行います。また、遊技者は、通常、始動入賞口に遊技球を入れようとするために、ほぼ同一の場所(釘等)を狙って打ち続けることが常識です。」と主張する。
しかし、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和二十三年七月十日法律第百二十二号)第二十条第三項の規定に基づき政令に委任された遊技機の型式に関する技術上の規格として、「遊技機の認定及び型式の検定等に関する規則(昭和六十年二月十二日国家公安委員会規則第四号)改正:平成一二年三月三〇日国家公安委員会規則第八号」には、遊技球の発射に関し以下の規定が置かれている。
「別表第2 第6条第1号イに掲げるぱちんこ遊技機に係る技術上の規格(第6条関係)
(1) 性能に関する規格
イ 遊技球の発射装置の性能に関する規格は、次のとおりとする。
(イ) ・・・省略・・・
(ロ) 1分間に100個を超える遊技球を発射することができるものでないこと。」
すなわち、前記政令において、遊技機の型式に関する技術上の規格として、1分間に発射することができる遊技球の球数は、その上限が100個である旨が規定されており、1分間に必ず100個の遊技球を発射することを要求するものではない。
そして、上記のとおり、0.2程度のバラ付きは、仮に遊技者が常に始動入賞口に遊技球を入れるために同一の場所を狙って打ち続けるとしても、1分当たりの遊技球の平均発射数が高々4個変動するだけで発生するものである。しかも、上記のとおり、遊技の状況に応じて遊技球を打ち込む位置を変えることも通常であるから、実際に、始動入賞口に遊技球を入れることを狙って発射される球数の1分当たりの平均発射数が、数個程度変動することはむしろ当然であるから、始動入賞口に遊技球を入れることを狙って発射される球数の1分当たりの平均発射数がどの遊技者であっても一定であるということは考えがたい。
請求人は、上記主張に続けて、「本願発明の相関グラフは、遊技者の誰でもが行う通常の遊び方におけるデータであり、特殊な状態のものではありません。また、お金を出して特殊な打ち方をして、損をする遊技者がいるとは考えられません。特殊な打ち方をする遊技者のデータは、すぐ判るため、除外すれば良いことであり、本願発明の相関グラフの有効性に影響がでません。」とも主張するが、その具体的なデータの取得方法、すなわち、どのような条件下で、取得されたデータであるかも、また、どのような状態を「特殊な状態」と認定するのかも、また、どのようにしてその状態のデータを除外するのか等、本件明細書に何ら記載されていないうえ、その取得方法が当業者の技術常識であるとも認められない。
したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。

[2]記載不備2について
請求人は、本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の「複数の釘間隔データと前記複数の所定時間当たりの平均入賞数からなる入賞数データとの相関分布が判るグラフを取得するようにしたことを特徴とする遊技機の管理方法。」という事項を、「複数の釘間隔データと前記複数の所定時間当たりの平均入賞数からなる入賞数データとをプロットして得た相関分布を基にして入賞口に影響を及ぼす一対の障害釘を決めるためのグラフを取得し、
遊技機の入賞状態を管理することを特徴とする遊技機の管理方法。」という事項に補正するとともに、本件意見書において、その技術的意義について主張するものである。

発射された遊技球が入賞口に入賞するか否かという試行を複数回行う場合、各回の結果は互いに影響しない独立した試行であるから、「釘間隔データ」と「所定時間当たりの平均入賞数からなる入賞数データ」との分布は二項分布に従うものとすることができる。その場合、入賞確率をp(すなわち、入賞しない確率は1-pである。)、試行回数をnとおくと、
入賞する回数の期待値E=np・・・式(1)
分散V=np(1-p)・・・式(2)
と定義され、データの誤差を表す指標である標準偏差σ_(E)は分散の平方根であるから、
標準偏差σ_(E)=√V=√np(1-p)・・・(式3)
と定義される(なお、表記の都合上、本審決において、平方根を表すルート記号「√」の後に続いて、下線を附して表記されている数式の一部の箇所は、当該箇所が、当該平方根を表すルート記号「√」の内部に記載されることを意味する。)。
ここで、1分間に100個ずつの遊技球が一定のペースで、特定の入賞口に遊技球を入れるため同一の強度で発射され続ける状況であれば、上記[1]において検討したとおり、発射条件の相違に基づく「入賞数データ」のバラ付きを低減することができるから、該理想的な状況下で発射が行われるという前提で、以下の検討を進める。
本願の請求項1に係る発明は、「所定時間当たりの平均入賞数からなる入賞数データ」をグラフの一の軸とする。本件明細書の図2及び図3を見ると、その入賞数はおよそ6個である。パチンコ遊技機の分野では、100発発射するとおよそ6個の遊技球が入賞口に入ることが通常であるから、本件明細書では、「所定時間」として1分当たりのデータを平均値として扱っていると考えることが自然であるし、この点、請求人が本件意見書の【本願発明が特許されるべき理由】として、「3.「障害釘のバラ付きが判る相関分布グラフ」について (ロ)」の欄にて、「・・・実際の相関分布が判るグラフは、・・・釘間隔の調整を行った後、その間隔で1分間のスタート回数/分をカウントしています。」と記載していることとも合致する。
そうすると、前記1分間に100個ずつの遊技球が一定のペースで発射され続ける状況であれば、n個の遊技球を発射するのに要する時間は、n/100(分)であって、1分間当たりに入賞する遊技球の個数の期待値eは、入賞する回数の期待値Eが上記式(1)の如くE=npで表されることから、
1分間当たりに入賞する遊技球の個数の期待値eは、
e=np/n/100=100p・・・式(4)と表される。
標準偏差は、期待値と次元が同じ値であって、式(1)及び式(4)とにより、E×100/n=eの関係が成立しているから、1分間当たりに入賞する遊技球の個数の期待値eの標準偏差σ_(e)は、
σ_(e)=σ_(E)×100/n=√np(1-p)×100/n=100√p(1-p)/√n・・・(式5)
と表すことができる。
式(5)より、1分間当たりに入賞する遊技球の個数の期待値eのバラ付きを表す指標である標準偏差σ_(e)は、入賞確率pが一定であるから、試行回数であるnの回数がN倍になると、それに伴って、前記標準偏差σ_(e)は、1/√N倍となるといえる。
すなわち、発射球数nが2倍になると、1分間当たりに入賞する遊技球の個数の期待値eのバラ付きを表す指標である標準偏差σeは、1/√2倍、すなわち、およそ0.7倍に、発射球数nが3倍となると、その標準偏差σ_(e)は、1/√3倍、すなわち、およそ0.58倍に変動する。
具体的に、発射球数nを指定して、式(5)を基に1分間当たりに入賞する遊技球の個数の期待値eのバラ付きを表す指標である標準偏差σ_(e)を以下に求める。
発射球数n=10000個(1時間40分の間打ち続ける状態に相当)であればその標準偏差σ_(e)(10000)=0.237・・・と算出され、同様に、発射球数n=30000(5時間打ち続ける状態に相当)であればその標準偏差σ_(e)(30000)=0.135・・・と、発射球数n=50000(8時間20分の間打ち続ける状態に相当)であればその標準偏差σ_(e)(50000)=0.106・・・と算出される。
試行回数nが十分大きければ、二項分布は正規分布により近似できる。そして正規分布であれば、平均±標準偏差σ_(e)の範囲内に全体のおよそ68%の標本が含まれることが期待できる。換言すると、これは、平均を挟んだ標準偏差σの値の2倍の範囲内に、全体のおよそ68%の標本が含まれることが期待できることを意味する。すなわち、発射球数n=10000個であれば、平均を挟んだその標準偏差σ_(e)(10000)の2倍のおよそ0.47のバラ付きの範囲内に全体のおよそ68%の標本が含まれることが期待でき、同様に発射球数n=30000であればおよそ0.27のバラ付きの範囲内に、発射球数n=50000であればおよそ0.21のバラ付きの範囲内に、それが含まれることが期待できる。

そして、本件明細書では、平均入賞数が大きくバラ付いている場合の実施例として「平均入賞数に0.5以上の大きなバラ付きがあ」る(段落【0018】)ことを挙げているが、母集団が試行回数n=10000個(1時間40分の間打ち続ける状態に相当)程度であれば、発射条件を理想的な状況に設定したとしても、統計学的には、平均を挟んだおよそ0.47のバラ付きの範囲内に全体のおよそ68%の標本しか含まれることが期待できない。すなわち、その残りである全体のおよそ32%、つまり、3分の1弱の標本は、0.47よりバラ付く範囲にプロットされることとなり、そもそも、0.5より大きいバラ付きが発生し得る。
正規分布では、さらに、全体のおよそ95%の標本が含まれることが期待できるのは、平均±2σ_(e)の範囲内である。発射球数n=30000個(5時間打ち続ける状態に相当)であれば、およそ0.27のバラ付きの範囲内に全体のほぼ68%の標本が収まるが、全体の95%の標本が収まる範囲は、平均を挟んでおよそ0.54程度の範囲となる。
さらに、全体のおよそ99%の標本が含まれることが期待できるのは、平均±3σ_(e)の範囲内である。発射球数n=50000個(8時間20分の間打ち続ける状態に相当)であっても、およそ0.42のバラ付きの範囲内に全体のほぼ95%の標本が収まるが、残りの標本は更にバラ付くことが期待され、全体の99%の標本が収まる範囲は、平均を挟んでおよそ0.64程度の範囲となる。
以上のとおり、発射条件を理想的な状況に設定したとしても、統計学的には、平均を挟んだおよそ0.5を超えるバラ付きが発生することが通常であり、しかも、現実的には、上記[1]で示したとおり、遊技者が遊技球を発射するペース及び遊技球を打ち込む位置が常に一定であるとは考えられないから、これに起因してさらにバラ付きが発生するといえる。
ここで、本件明細書における入賞数データに係る記載を検討するに、本件明細書には、「所定時間当たりの平均入賞数からなる入賞数データ」がいかなる規模の入賞数を母集団として取得したデータであるのかについての具体的な記載はないし、母集団の規模がほぼ一定であるか否かを窺わせる記載も認められないことから、本件明細書をみても、「所定時間当たりの平均入賞数からなる入賞数データ」が統計学上、いかなる意義を有するデータであるのか、何も分からない。そして、それに起因して、「複数の釘間隔データと前記複数の所定時間当たりの平均入賞数からなる入賞数データとをプロットして得た相関分布」の「グラフ」を見ても、その統計学上の意義を見いだすことができないし、そのような「グラフを取得」することが、なぜ「遊技機の入賞状態を管理すること」になるのか、すなわち、「遊技機の管理方法」との関係も理解できない。

この点、請求人は、本件意見書において、【本願発明が特許されるべき理由】として、「2.拒絶理由に対して (2) 「母集団」について」なる欄において、以下の主張をしている。
「(イ)本願発明は、母集団が極端に小さい場合を除いて、ある程度の大きさにすれば、意味のあるデータを得ることができます。一般的に、母集団は、多い方が良いデータを得ることができます。しかし、本願発明は、平均入賞数のバラ付きからなる相関分布データにより、障害釘を見つけることができれば、目的を達成することができ、母集団の数が多少変わっても、問題がありません。
(ロ)本願発明は、障害釘を見いだすための相関分布が判るグラフを取得するものであり、前記障害釘が判る程度の母集団が必要です。
すなわち、前記母集団は、極端に少ない場合は別にして、母集団の数が多少異なった場合であっても、平均入賞数のバラ付き傾向が判れば、本願発明の図2または図3のような相関分布データを取得して、本願発明の目的を達成することができます。
したがって、本願発明は、前記相関分布が判るグラフを取得し、前記グラフから入賞数のバラ付きを判断して、障害釘を見つけているため、前記母集団の数を正確に予め決めておく必要がありません。」
しかし、本件明細書を見ても、母集団が、十分多いものであるのか又は少ないものであるのかについて記載も示唆もされていないし、仮に、母集団が十分多いものであるとしても、試行回数であるnの回数がN倍になると、それに伴って、バラ付きを表す指標である標準偏差が、1/√N倍に変化することは上記のとおりであって、母集団の規模の変化を無視することができないことも明らかである。
なお、平成17年4月6日付の意見書に添付資料1?3からなる表及びグラフが添付された添付資料が附されていて、この添付資料に基づき、請求人は、【本願発明が特許されるべき理由】として、「3.「障害釘のバラ付きが判る相関分布グラフ」について」なる欄において、
「(ホ)・・・本願発明は、前記資料2のような番台毎の資料を持っていれば、釘間隔をどのような状態に近づければ、スタート平均個/分を予測することが容易にでき、営業戦略を立てることができます。
(ヘ)資料2-1から資料2-16において、一次回帰線が引かれている相関分布がわかるグラフは、一次回帰線の向きや勾配に違いがありますが、プロットされたデータを見るより容易に、その台番における状態を予測できます。・・・」とも主張する。
しかし、まずは、前記添付資料の資料2-1から資料2-16に記載されたグラフは、本件明細書の図2又は図3記載のグラフの裏付けとなるデータがプロットされているものとは認められない。しかも、添付資料に示された各グラフをみても、本件明細書において、平均入賞数に大きなバラ付きがない場合として記載している「それぞれに0.2以上のおおきなバラ付きがない」(段落【0016】)例に該当するものは示されていない。前記添付資料の資料2-1から資料2-16に記載されたすべてのグラフにおいて、おおむね0.5を超えるバラ付きが見受けられる。これは、上記のとおり、発射条件を理想的な状況に設定したとしても、統計学的には、平均を挟んだおよそ0.5を超えるバラ付きが発生することが通常であることを裏付けているにすぎず、それらグラフを見ても、遊技機の何を管理することになるのかわからない。
したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。

[3]記載不備3について
上記[2]に示したとおり、発射された遊技球が入賞口に入賞するか否かという試行を複数回行う場合、各回の結果は互いに影響しない独立した試行であるから、「釘間隔データ」と「所定時間当たりの平均入賞数からなる入賞数データ」との分布は二項分布に従うものと近似することができる。そして、その場合、入賞確率が一定であれば、バラ付き具合が釘の調整によって変わることはない。時間を異ならせて複数回統計を取得しても、各回の確率が同一であれば、バラ付きは一定となる。したがって、時間を異ならせて取得した複数回の統計をみても、何もわからない。
よって、請求項1に「測定された釘間隔に対し、前記入賞口への遊技球の所定時間当たりの平均入賞数を入賞数データとして複数回取得する第2の操作を行い」と記載されが、そのように入賞数データを複数回取得することの技術的な意義が不明である。
この点、請求人は、本件意見書において、【本願発明が特許されるべき理由】として、「2.拒絶理由に対して (3) 「入賞確率が一定であれば、バラ付き具合が釘の調整によって変わることがない」について」なる欄において、「・・・しかし、前記入賞確率は、一定に設定されていたとしても、パチンコ球を打つ強さ(衝突状態)、パチンコ球が障害釘等に当たる位置、パチンコ球に付着するゴミあるいは油、温度変化による盤面または障害釘の変化等によってバラ付きます。・・・本願発明は、障害釘を容易に見つけることができるため、営業上のホールの利益、および遊技者の利益が判断し易いという技術的意義を有するものです。」と主張する。
しかし、請求人が挙げた「パチンコ球を打つ強さ(衝突状態)、パチンコ球が障害釘等に当たる位置、パチンコ球に付着するゴミあるいは油、温度変化による盤面または障害釘の変化等」の各々の事項は、入賞口近傍に設けられた命釘の間隔と相俟って入賞確率に影響を与えるものであって、それら事項は、バラ付きの原因ではなく、そもそも、入賞確率を決定付ける要因であるから、請求人の上記主張は、その前提において失当である。

[4]請求項2について
前記[1]乃至[3]で指摘した事項については、請求項2についても同様に当てはまる。

[5]むすび
したがって、請求項1、2に係る発明は明確でなく、しかも、発明の詳細な説明は当業者が請求項1、2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、本件出願は、明細書及び図面の記載が、平成14年改正前特許法第36条第4項並びに第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-17 
結審通知日 2009-03-24 
審決日 2009-04-06 
出願番号 特願2000-199658(P2000-199658)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (A63F)
P 1 8・ 537- WZ (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西村 仁志  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 川島 陵司
▲吉▼川 康史
発明の名称 遊技機の管理方法  
代理人 福田 武通  
代理人 加藤 恭介  
代理人 福田 伸一  
代理人 福田 賢三  

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