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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60T
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 B60T
管理番号 1198573
審判番号 不服2007-21236  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-05 
確定日 2009-06-12 
事件の表示 平成10年特許願第333327号「車両基準速度を修正する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 8月17日出願公開、特開平11-222117〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成10年10月20日(パリ条約による優先権主張1997年10月29日、ドイツ国)の出願であって、本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成18年6月2日付け、及び平成19年7月5日付け(平成19年9月14日付けで補正された)手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項によって特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】車輪スリップ制御信号(λ)及び車輪加速度又は減速度制御信号(±b)を発生するロック防止システム(ABS)を備えた車両において、車輪速度信号の低下に続いて車両基準速度(VRef)を修正する方法において、
a)車輪の車輪スリップ制御信号(λ)が監視され、
b)所定の時間にわたって持続する車輪スリップ制御信号(λ)が所定の数の車輪に存在するとき、車両基準速度(VRef)が、車輪スリップ制御信号(λ)の存在する車輪の車輪速度(VR)に低下される
ことを特徴とする、車両基準速度(VRef)を修正する方法。」(以下「本願発明」という。)
なお、前記平成19年9月14日付け手続補正により補正された前記平成19年7月5日付け手続補正による明細書の特許請求の範囲についての補正は、原審における平成18年10月26日付けの最後の拒絶理由通知において不明確であると指摘された請求項2の記載を明りょうな記載とするものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第4号の「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものに該当し、同特許法第17条の2第3項に規定された願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
また、平成19年2月1日付け手続補正は、原審において平成19年3月28日付けで決定をもって却下された。

2.引用刊行物とその記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された
(1)米国特許第5,388,895号明細書(以下「刊行物1」という。)
(2)特開平7-172288号公報(以下「刊行物2」という。)
(3)特開平2-169362号公報(以下「刊行物3」という。)
には、それぞれ、次の事項が記載されている。

(1)刊行物1(米国特許第5388895号明細書)の記載事項
刊行物1には、「ロック防止システムにおける車両速度基準信号を検出及び修正する方法並びに装置(METHOD AND SYSTEM FOR DETECTING AND CORRECTING VEHICLE SPEED REFERENCE SIGNALS IN ANTI-LOCK BRAKE SYSTEMS)」に関して、図とともに次の事項が記載されているものと認められる(なお、仮翻訳は当審によるものである。)。
ア 「この発明は、ロック防止システム(anti-lock brake systems)、特に、ロック防止システム(anti-lock brake systems)において発生される車両速度基準信号(vehicle speed reference signals)の修正(correction)に関する。」(第1欄第7?9行)
イ 「図2は、図1で与えられるスロットル及びブレーキ指令(throttle and brake commands)から生じる車輪速度(wheel speed)20、基準速度(reference speed)22及び実際の車両速度(actual vehicle speed)24を示す。車輪速度(wheel speed)20(実線で示す)は、スピンアップ過程(spin-up phase)12の間に、実際の車両速度(actual vehicle speed)24(点線で示す)より高い割合で増加する。車輪速度(wheel speed)20に基づく実際の車両速度(actual vehicle speed)24を推定するために使用される基準速度(reference speed)22(ダッシュラインで示す)は、典型的には傾斜増加制限装置(ramp growth limiting mechanism)によってその増加割合を抑制される。傾斜増加制限装置(ramp growth limiting mechanism)は、スピンアップ過程(spin-up phase)12の間、車輪速度(wheel speed)20の増加割合以下であるように基準速度(reference speed)22の増加割合を抑制する。しかしながら、基準速度(reference speed)22は、スピンアップの間に実際の車両速度(actual vehicle speed)24より高い割合で増加する。
スロットルが解放された後、車輪速度(wheel speed)20は、ほぼ実際の車両速度(actual vehicle speed)24と同じ値まで減少する。しかしながら、基準速度(reference speed)22は、スピンアップ過程(spin-up phase)12の終了時の値近くにとどまる。このようにして、ブレーキ過程(braking phase)16の間で、ABSは、基準速度(reference speed)22と車輪速度(wheel speed)20との間に意味のある相違(significant difference)26を検出する。ABS中の過度のスリップ(excessive slip)の検出は基準速度(reference speed)22と車輪速度(wheel speed)20との間の相違に基づくので、ABSは過度のスリップ(excessive slip)が存在することを誤って決定する。それから、たとえ過度のスリップ(excessive slip)が存在しなくても、ABSは過度のスリップ(excessive slip)を防ぐためにブレーキ圧力(brake pressures)を調整し始めることになる。」(第2欄第21?49行)
ウ 「図4は、過大評価された基準保護サブルーチン(overestimated reference protection subroutine)のより明細な実施例のフローチャート表示を示す。サブルーチンは、ABS実行中にメインABSルーチンによって繰り返し呼び出される。ブロック50にサブルーチンを入力した後に、速度(speed)、スリップ(slip)及び加速度(acceleration)がブロック52で計算される。その後、車両(vehicle)の全ての車輪(wheel)で生じる過度のスリップ(excessive slip)の状態が、ブロック54で検査される。少なくとも1つの車輪(wheel)に過度のスリップ(excessive slip)がなければ、カウンターはブロック56で0にリセットされ、サブルーチンはリターン・ブロック58で終了する。全ての車輪(wheel)に過度のスリップ(excessive slip)があれば、車輪(wheel)の速度(velocity)は条件ブロック60で検査される。
少なくとも1つの車輪速度(wheel speed)がブロック60で過度に高いと考えられなければ、カウンターはブロック56で0にリセットされ、サブルーチンはリターン・ブロック58で終了する。全ての車輪速度(wheel speed)が著しく高ければ、車輪速度(wheel speed)の変化率(rate of change)が条件ブロック62で検査される。
ブロック62で意味のある車輪加速度(significant wheel acceleration)又は車輪減速度(significant wheel deceleration)があれば、カウンターはブロック64で減算され、サブルーチンはリターン・ブロック58で終了する。意味のある車輪加速度又は車輪減速度がなければ、カウンターの現在値が条件ブロック66で検査される。
カウンターの値は加算及び減算に基づくものである。カウンターがカウンターしきい値より小さければ、カウンターはブロック68で加算され、サブルーチンはリターン・ブロック58で終了する。カウンターがカウンターしきい値と等しいければ、過大評価された基準状態(overestimated reference condition)が検出され、修正の実行がブロック70でなされる。ブロック70で基準速度(reference speed)を修正した後、カウンターはブロック56で0にリセットされ、サブルーチンはリターン・ブロック58で終了する。
このサブルーチンの実行は以下のように要約することができる。ABSブレーキ中に過度のスリップ(excessive slip)が検出されない車輪(wheel)が少なくと1つあれば、カウンターは0にリセットされる。というのは、過大評価された基準(overestimated reference)の実体は、全ての車輪(wheel)での過度のスリップ(excessive slip)の検出によるものだからである。意味のある高い速度(significantly high speed)を有さない車輪(wheel)が少なくとも1つあれば、カウンターは0にリセットされる。というのは、このことは少なくとも1つの車輪(wheel)が実際にロックされていることを示すからである。
全ての条件が過大評価された基準速度条件(overestimated reference speed condition)の検出に適合すれば、サブルーチンの繰り返しはカウンターの繰り返しの加算を生じる。全ての車輪速度(wheel speed)が意味のある高さであり、かつ、スリップ(slip)が全ての車輪(wheel)で検出されるが、意味のある加速度又は減速度(acceleration or deceleration)が検出されれば、サブルーチンの繰り返しはカウンターの繰り返しの減算を生じる。最終的に、カウンターが加算され、すなわち、全ての条件が過大評価された基準速度条件(overestimated reference speed condition)の検出に適合し、かつ、カウンターがそのしきい値に既にあれば、基準速度(reference speed)の修正がなされる。
図5は、前-左、前-右及び後ろの車輪(front-left, front-right, and rear wheel)のABS制御(ABS control)を有する車両(vehicle)についての基準速度(reference speed)の修正動作(corrective action)70の例を示す。過大評価された基準速度条件(overestimated reference speed condition)が検出されると、3つの基準速度(reference velocity)はそれらの対応する車輪速度(wheel velocity)にセットされる。ブロック80は、前-左の基準速度(front-left reference speed)が測定された前-左の車輪速度(measured front-left wheel speed)にセットされることを示す。ブロック82は、前-右の基準速度(front-right reference speed)が測定された前-右の車輪速度(measured front-right wheel speed)にセットされることを示す。ブロック84は、後ろの基準速度(rear reference speed)が測定された後ろの車輪速度(measured rear wheel speed)にセットされることを示す。」(第4欄第33行?第5欄第32行)
エ 「図7は、前-左、前-右及び後ろの車輪(front-left, front-right, and rear wheel)のABS制御(ABS control)を有する車両(vehicle)について、ブロック54で与えられる、全ての車輪(wheel)における過度のスリップ(excessive slip)についてのテストの実施例を示す。3つの車輪のスリップ(wheel slip)は全てスリップのしきい値(slip threshold)と比較される。ブロック100は、前-左の車輪のスリップ(front-left wheel slip)をスリップのしきい値(slip threshold)と比較する。前-左の車輪のスリップ(front-left wheel slip)がスリップのしきい値(slip threshold)より大きければ、ブロック102は、前-右の車輪のスリップ(front-right wheel slip)をスリップのしきい値(slip threshold)と比較する。前-右の車輪のスリップ(front-right wheel slip)がスリップのしきい値(slip threshold)より大きければ、ブロック104は、後ろの車輪のスリップ(rear wheel slip)をスリップのしきい値(slip threshold)と比較する。後ろの車輪のスリップ(rear wheel slip)がスリップのしきい値(slip threshold)より大きければ、全ての車輪のスリップ(wheel slip)は過度(excessive)であると考えられる(106)。車輪のスリップ(wheel slip)のいずれかがスリップのしきい値(slip threshold)以下であれば、車輪のスリップ(wheel slip)は、意味のある高さ(significantly high)であるとは考えられない(108)。当業者であれば、異なるスリップのしきい値(different slip threshold)が異なる車輪(different wheel)に使用できること、及び、どのような種類のスリップのしきい値のテスト(slip threshold test)も使用できることを認識するだろう。」(第5欄第56行?第6欄第5行)

前記記載事項ア?エ及び図の記載によれば、刊行物1には、ロック防止システム(anti-lock brake systems)(ABS)を備えた車両(vehicle)に関する記載があり、技術常識からみて、前記ロック防止システム(anti-lock brake systems)(ABS)は、車輪(wheel)で生じる過度のスリップ(excessive slip)を検出すると車輪スリップ制御信号を発生するとともに、車輪加速度(wheel acceleration)又は車輪減速度(wheel deceleration)制御信号を発生するものと認められる。また、前記記載事項ウ、エ及び図4,5,7には、車輪速度(wheel speed)20の信号の低下に続いて基準速度(reference speed)22を修正する方法が記載されており、当該基準速度(reference speed)22を修正する方法は、車輪(wheel)で生じる過度のスリップ(excessive slip)の状態が検査され、過度のスリップ(excessive slip)が全ての車輪(wheel)で検出されるとき、基準速度(reference speed)22が、過度のスリップ(excessive slip)が検出される車輪(wheel)の車輪速度(wheel speed)にセットされるものであると認められる。
よって、前記記載事項ア?エ及び図の記載を総合すると、刊行物1には、
「車輪スリップ制御信号及び車輪加速度(wheel acceleration)又は車輪減速度(wheel deceleration)制御信号を発生するロック防止システム(anti-lock brake systems)(ABS)を備えた車両(vehicle)において、車輪速度(wheel speed)20の信号の低下に続いて基準速度(reference speed)22を修正する方法において、
車輪(wheel)で生じる過度のスリップ(excessive slip)の状態が検査され、
過度のスリップ(excessive slip)が全ての車輪(wheel)で検出されるとき、基準速度(reference speed)22が、過度のスリップ(excessive slip)が検出される車輪(wheel)の車輪速度(wheel speed)20にセットされる、
基準速度(reference speed)22を修正する方法。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)刊行物2(特開平7-172288号公報)の記載事項
刊行物2には、「アンチスキッド制御装置」に関して、図とともに次の事項が記載されている。
オ 「前記スリップ値検知手段により検知される各車輪のスリップ値が、所定時間継続して所定の上限値および下限値によって規定される所定範囲内の値となったことを判定する判定手段と、」(第2ページ第1欄第12?15行)

(3)刊行物3(特開平2-169362号公報)の記載事項
刊行物3には、「アンチロック制御装置」に関して、図とともに次の事項が記載されている。
カ 「上記最高車輪速度を除く、他の複数の車輪速度の中で最大と最小の速度差が、所定の第1しきい値内であり、かつ、上記最高車輪速度と、該最高車輪速度を除く他の複数の車輪速度の中での最大車輪速度との差が、所定の第2しきい値以上である状態が、所定の第1期間を越えて継続していることを検出した時に、」(第1ページ左下欄第12?18行)

3.発明の対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「車輪スリップ制御信号」は、その機能からみて本願発明の「車輪スリップ制御信号(λ)」に相当し、以下同様に「車輪加速度(wheel acceleration)又は車輪減速度(wheel deceleration)制御信号」は「車輪加速度又は減速度制御信号(±b)」に、「ロック防止システム(anti-lock brake aystems)(ABS)」は「ロック防止システム(ABS)」に、「車両(vehicle)」は「車両」に、「車輪速度(wheel speed)20の信号」は「車輪速度信号」に、及び「基準速度(reference speed)22」は「車両基準速度(VRef)」に、それぞれ相当する。
また、技術常識からみて、ロック防止システム(ABS)は、車輪(wheel)で生じる過度のスリップ(excessive slip)を検出すると車輪スリップ制御信号を発生するものであるから、引用発明の「車輪(wheel)で生じる過度のスリップ(excessive slip)の状態が検査され」ることは、その技術的意義において、本願発明の「車輪の車輪スリップ制御信号(λ)が監視され」ることに相当するものといえる。
更に、引用発明の「過度のスリップ(excessive slip)が“全ての車輪(wheel)”で検出されるとき」という条件は、本願発明の「車輪スリップ制御信号(λ)が“所定の数の車輪”に存在するとき」という条件のうちの1つに相当する。
更に、引用発明の「基準速度(reference speed)22が、過度のスリップ(excessive slip)が検出される車輪(wheel)の車輪速度(wheel speed)20にセットされる」ことは、本願発明の「車両基準速度(VRef)が、車輪スリップ制御信号(λ)の存在する車輪の車輪速度(VR)に低下される」ことに実質的に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、
[一致点]
「車輪スリップ制御信号(λ)及び車輪加速度又は減速度制御信号(±b)を発生するロック防止システム(ABS)を備えた車両において、車輪速度信号の低下に続いて車両基準速度(VRef)を修正する方法において、
a)車輪の車輪スリップ制御信号(λ)が監視され、
b)車輪スリップ制御信号(λ)が所定の数の車輪に存在するとき、車両基準速度(VRef)が、車輪スリップ制御信号(λ)の存在する車輪の車輪速度(VR)に低下される、
車両基準速度(VRef)を修正する方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
車輪スリップ制御信号(λ)に関し、本願発明では、「所定の時間にわたって持続する」車輪スリップ制御信号(λ)と限定されている、すなわち、車輪スリップ制御信号(λ)が「所定の時間にわたって持続する」ことを条件の1つとしているのに対して、引用発明では、そのような限定がなく、過度のスリップ(excessive slip)が「所定の時間にわたって持続する」条件を具備していない点。

4.当審の判断
そこで、前記相違点について検討すると、ロック防止システム(ABS)において、所定の状態が「所定の時間にわたって持続する」ことを判定条件の1つとすることは周知の技術であり(例えば、刊行物2の記載事項オ、刊行物3の記載事項カ、参照)、そのような時間的要素は当業者であれば必要に応じて適宜考慮するところであるから、引用発明に前記周知の技術を適用して、過度のスリップ(excessive slip)が「所定の時間にわたって持続する」ことを1つの条件として付加し、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到することができたものである。
また、本願発明が奏する作用効果も、引用発明及び前記周知の技術から当業者であれば予測できる程度のものであって、格別なものとはいえない。

5.むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1に記載された発明(引用発明)及び前記周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の請求項2ないし7に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-18 
結審通知日 2009-01-06 
審決日 2009-01-19 
出願番号 特願平10-333327
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60T)
P 1 8・ 574- Z (B60T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野 孝朗島田 信一村上 聡  
特許庁審判長 溝渕 良一
特許庁審判官 藤村 聖子
常盤 務
発明の名称 車両基準速度を修正する方法  
代理人 中平 治  

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