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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60T
管理番号 1201346
審判番号 不服2008-5932  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-10 
確定日 2009-07-27 
事件の表示 特願2004-103111「車両安定性向上制御」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月 4日出願公開、特開2004-306944〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年3月31日(パリ条約による優先権主張2003年4月1日、アメリカ合衆国)の出願であって、平成19年12月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年3月10日に査定不服の審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?23に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明23」という。)は、平成19年6月25日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?23に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
車両安定性向上制御システムのための横滑り速度推定モジュールであって、
車両の推定横滑り加速度を決定する横滑り加速度推定モジュールと、
前記推定横滑り加速度の補正値を積分して前記車両の推定横滑り速度を決定するアキュミュレータと、前記推定横滑り速度に基づいてフィードバック利得信号を生成し、前記推定横滑り加速度を補正するフィードバックループとを備える周波数制限積分器と、
を具備する横滑り速度推定モジュール。
【請求項2】
前記推定横滑り加速度が、前記車両のヨーレート、横方向加速度及び速度に基づいて決定される、請求項1に記載の横滑り速度推定モジュール。
【請求項3】
車両安定性向上制御システムのための横滑り速度推定モジュールであって、
車両の推定横滑り加速度を決定する横滑り加速度推定モジュールと、
前記推定横滑り加速度の補正値を積分して前記車両の推定横滑り速度を決定する周波数制限積分器と、
第1の状態が発生すると前記周波数制限積分器の出力を消去するリセット論理モジュールと、
を具備する横滑り速度推定モジュール。
【請求項4】
前記第1の状態が、前記車両のヨーレート、横方向加速度及びステアリングホイール角度に基づいて決定される直進走行状態である、請求項3に記載の横滑り速度推定モジュール。
【請求項5】
前記第1の状態が前記車両の速度に基づく速度状態である、請求項3に記載の横滑り速度推定モジュール。
【請求項6】
前記第1の状態が前記推定横滑り加速度に基づくセンサ誤差状態である、請求項3に記載の横滑り速度推定モジュール。
【請求項7】
前記周波数制限積分器がハイパスフィルタを含む、請求項1に記載の横滑り速度推定モジュール。
【請求項8】
前記推定横滑り速度を所望横滑り速度と比較して横滑り制御信号を生成する、請求項1に記載の横滑り速度推定モジュール。
【請求項9】
前記横滑り制御信号をヨーレート制御信号と結合して作動装置制御信号を生成する、請求項8に記載の横滑り速度推定モジュール。
【請求項10】
前記作動装置制御信号を少なくとも1つのブレーキ作動装置が受け取ると、該ブレーキ作動装置が前記車両の少なくとも1つの車軸に関してブレーキ圧力差を適用して前記車両の動的挙動を補正するヨーモーメントを生成する、請求項9に記載の横滑り速度推定モジュール。
【請求項11】
前記車両の後輪の組の向きを変える後輪ステアリング作動装置が前記作動装置制御信号を受け取ると、前記車両の動的特性を補正するヨーモーメントを生成する、請求項9に記載の横滑り速度推定モジュール。
【請求項12】
車両安定性向上制御システムのための横滑り速度推定方法であって、
車両の推定横滑り加速度を決定するステップと、
周波数制限積分器によって前記推定横滑り加速度の補正値を積分して前記車両の推定横滑り速度を決定するステップと、
第1の状態が発生すると前記周波数制限積分器の出力を消去するステップと、
を具備する横滑り速度推定方法。
【請求項13】
前記推定横滑り加速度が前記車両のヨーレート、横方向加速度及び速度に基づいて決定される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の状態が前記車両のヨーレート、横方向加速度及びステアリングホイール角度に基づいて決定される直進走行状態である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の状態が前記車両の速度に基づく速度状態である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の状態が前記推定横滑り加速度に基づくセンサ誤差状態である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記周波数制限積分器がハイパスフィルタを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記周波数制限積分器がフィードバックループを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記推定横滑り速度を所望横滑り速度と比較して横滑り制御信号を生成するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記横滑り制御信号をヨーレート制御信号と結合して作動装置制御信号を生成するステップをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記作動装置制御信号を少なくとも1つのブレーキ作動装置に転送するステップと、
前記車両の少なくとも1つの車軸に関してブレーキ圧力差を適用して前記車両の動的挙動を補正するためのヨーモーメントを生成するステップと、
をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記作動装置制御信号を後輪ステアリング作動装置に転送するステップと、
前記車両の後輪の組の向きを変えて前記車両の動的挙動を補正するためのヨーモーメントを生成するステップと、
をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記第1の状態が直進走行状態と速度状態とセンサ誤差状態とのうちの少なくとも1つの状態である、請求項12に記載の方法。」

2-1.本願発明1について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
(2-1)引用例A
特開2001-171500号公報(以下、「引用例A」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、少なくとも舵角を含む物理量を検出し、それらから得られる目標ヨーレートと、検出される実際のヨーレートとの偏差に基づいて、車両の横方向Hの挙動を制御する車両挙動制御装置に関するものである。」
(い)「【0022】次に、車両のヨーイング運動量を制御するために、前記コントロールユニット17内のマイクロコンピュータで実行される制動流体圧制御の演算処理について、添付図面中の各フローチャートに基づいて説明する。なお、この演算処理では特に通信のためのステップを設けていないが、前記マイクロコンピュータ内の記憶装置のROMに記憶されているプログラムやマップ或いはRAMに記憶されている各種のデータ等は常時演算処理装置のバッファ等に伝送され、また演算処理装置で算出された各算出結果も随時記憶装置に記憶される。
【0023】まず、図2には、制動力制御の全体的な流れ,所謂ゼネラルフローを示す。この演算処理は、例えば10msec. といった所定制御時間ΔT毎にタイマ割込として実行され、まずステップS1で、前記車輪速センサ12FL?12RRからの正弦波信号に基づいて、同ステップ内で行われる個別の演算処理により、各車輪速Vw_(i )(i=FL,FR,RLorRR)を算出する。より具体的には、前記各車輪速センサ12FL?12RRが、例えば本出願人が先に提案した特開平7-329759号公報に記載されるようなものである場合に、予め前記各車輪速センサ3FL?3Rからの正弦波信号を矩形波信号に波形整形しておき、この矩形波信号のLo/Hiを短いサンプリング周期で読込んで当該矩形波信号のパルス幅を求め、そのパルス幅から車輪速Vw_(i) を算出する。即ち、車輪速Vw_(i) が大きくなれば前記波形整形された矩形波信号のパルス幅は短くなり、車輪速Vw_(i) が小さくなればパルス幅は長くなる。この矩形波信号のパルス幅は、前述のようなセンサの所定の長さの歯が通過する所要時間と等価であるから、各車輪の回転角速度に反比例することになり、従ってこの矩形波信号のパルス幅が得られれば、各車輪の回転角速度が求められ、この回転角速度にタイヤ転がり動半径を乗じて各車輪速Vwi が算出される。勿論、所定時間内に幾つのパルスがカウントされるかによって車輪回転角速度を求める従来の手法でも同様に車輪速Vw_(i) を算出可能である。
【0024】次にステップS2に移行して、同ステップ内で行われる個別の演算処理により、前記各センサからの検出信号を読込む。次にステップS3に移行して、例えば本出願人が先に提案した特開平8-150920号公報に記載されるような、同ステップ内で行われる個別の演算処理により推定車体速度V_(X) を算出する。なお、この公報に記載される演算処理は、前後加速度を用いないで推定車体速度V_(X) を算出するものであるが、本実施形態では前記加速度センサ15で前後加速度を検出しているので、その値を用いて補正を行ってもよい。
【0025】次にステップS4に移行して、同ステップ内で行われる個別の演算処理により、例えば前記加速度センサ15からの横加速度Y_(G) 及び前記推定車体速度V_(X) 及びヨーレートセンサ13からの実ヨーレートψ' から、下記1式に従って車両の横滑り加速度β_(dd)を算出する。
β_(dd)=Y_(G) -V_(X) ・ψ' ……… (1)
次にステップS5に移行して、例えば位相が適切に設定されたローパスフィルタ処理等の演算処理により、前記車両の横滑り加速度β_(dd)を時間積分して横滑り速度β_(d) を算出する。」
以上の記載事項及び図面からみて、引用例Aには、下記の発明(以下、「引用例A発明」という。)が記載されているものと認められる。
「例えば加速度センサ15からの横加速度Y_(G)、推定車体速度V_(X)、及びヨーレートセンサ13からの実ヨーレートψ'から、下記1式に従って車両の横滑り加速度β_(dd)を算出し、
β_(dd)=Y_(G)-V_(X) ・ψ' ……… (1)
次に、例えば位相が適切に設定されたローパスフィルタ処理等の演算処理により、車両の横滑り加速度β_(dd)を時間積分して横滑り速度β_(d)を算出する手段を備える車両挙動制御装置。」
(2-2)引用例B
特開平9-118212号公報(以下、「引用例B」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(か)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車等の車輌の旋回時等に於ける車体の横滑り速度を推定する装置に係る。
【0002】
【従来の技術】例えば特開平5-139327号公報に記載されている如く、自動車等の車輌の旋回時に於ける車体の横滑り状態量を検出する装置の一つとして、車輌の横加速度Gy 、ヨーレートγ、車体速度V(前後速度)より車体のスリップ角(横滑り角)の変化速度を求める装置が従来より知られている。かかる装置によれば、車体の横滑り角の変化速度に基づき例えば車輌が旋回限界に達しているか否かを判定することができる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】一般に、横加速度センサにより検出される車輌の横加速度には、旋回により発生する横加速度に加えて車輌のロール成分、路面のカントに起因する成分、横加速度を検出するセンサの定常的なオフセット成分等が含まれており、そのため上述の如き従来の装置によっては車体の横滑り角の変化速度の如き車体の横滑り状態量を必ずしも高精度に推定することができないという問題がある。
【0004】本発明は、従来の横滑り状態量検出装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、検出される車輌の横加速度に含まれる車輌のロール成分等に起因する誤差を排除することにより、車体の横滑り速度の推定精度を向上させることである。
【0005】
【課題を解決するための手段】上述の如き主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ち車速Vを検出する手段と、車輌のヨーレートγを検出する手段と、車輌の横加速度Gy を検出する手段と、車速V、ヨーレートγ及び横加速度Gy に基づき車輌の横方向加速度の偏差Gy -V*γの所定周波数以上の成分を積分演算することにより車体の横滑り速度の高周波成分VyHを演算する手段と、車輪位置に於ける車輌の横加速度成分より車輪のスリップ角を演算し、前記車輪のスリップ角に基づき車体の横滑り速度の低周波成分VyLを演算する手段と、前記横滑り速度の高周波成分VyHと前記横滑り速度の低周波成分VyLとの和を車体の横滑り速度Vy として演算する手段とを有する車体の横滑り速度推定装置によって達成される。
【0006】車輌の横方向加速度の偏差Gy -V*γは車輌の横滑り加速度を表すが、上述の如く横加速度Gy には余分な種々の低周波成分が含まれており、そのため横滑り加速度にも低周波成分が含まれている。従って横方向加速度の偏差より低周波成分を除去した値を積分演算することにより、換言すれば横方向加速度の偏差の所定周波数以上の高周波成分を積分演算することにより横滑り速度の高周波成分VyHを求め、ロール成分等の影響を排除することができる。
【0007】しかし車輌の旋回状態によっては後輪がゆっくりと横滑りし、そのため車輌の挙動がゆっくりとスピン状態になることがあり、かかる状況に於いては横滑り速度の高周波成分VyHは0又は小さい値となるため、高周波成分VyHを求める上述の方法によっては低周波領域の車輌の横滑り速度を推定することができない。
【0008】一方車輪のスリップ角に基づき演算される車輌の横滑り速度は、車輪位置に於ける横加速度成分より車輪のスリップ角が演算されるので、センサのノイズ等の影響により高周波領域に於ける信頼性が乏しい。即ち車輌の横加速度は路面よりの入力(路面の変化等)によって急激に変化するため、車輪のスリップ角に基づき演算される横滑り速度も急激に変化してしまう。従って車輪のスリップ角に基づき演算される横滑り速度のうち信頼性の高い(推定精度の高い)低周波成分を抽出することが好ましい。
【0009】上述の請求項1の構成によれば、車輌の横方向加速度の偏差Gy -V*γの所定周波数以上の成分を積分演算することにより車体の横滑り速度の高周波成分VyHが演算され、車輪位置に於ける車輌の横加速度成分より車輪のスリップ角が演算され、車輪のスリップ角に基づき車体の横滑り速度の低周波成分VyLが演算され、横滑り速度の高周波成分VyHと横滑り速度の低周波成分VyLとの和が車体の横滑り速度Vy として演算されるので、車輌の横方向加速度の偏差を積分演算することにより車体の横滑り速度が演算されたり、車輪のスリップ角に基づき車体の横滑り速度が演算される場合に比して、車体の横滑り速度が高精度に推定される。」
(3)対比
本願発明1と引用例A発明とを比較すると実質的にみて、後者の「例えば加速度センサ15からの横加速度Y_(G)、推定車体速度V_(X)、及びヨーレートセンサ13からの実ヨーレートψ'」から「1式に従って車両の横滑り加速度β_(dd)を算出」する手段は「車両の推定横滑り加速度を決定する横滑り加速度推定モジュール」に、同じく、「例えば位相が適切に設定されたローパスフィルタ処理等の演算処理により、車両の横滑り加速度β_(dd)を時間積分して横滑り速度β_(d)を算出する手段」は「前記推定横滑り加速度」を「積分して前記車両の推定横滑り速度を決定する」「積分器」にそれぞれ相当する。そして後者の「車両挙動制御装置」は「横滑り速度β_(d)を算出する手段」を備えていることから、前者の「車両安定性向上制御システムのための横滑り速度推定モジュール」を具備しているということができる。したがって、本願発明1の用語に倣って整理すると、両者は、
「車両安定性向上制御システムのための横滑り速度推定モジュールであって、
車両の推定横滑り加速度を決定する横滑り加速度推定モジュールと、
前記推定横滑り加速度を積分して前記車両の推定横滑り速度を決定する積分器を具備する横滑り速度推定モジュール。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
本願発明1は、「積分器」が「周波数制限積分器」であって、「前記推定横滑り加速度の補正値を積分して前記車両の推定横滑り速度を決定するアキュミュレータと、前記推定横滑り速度に基づいてフィードバック利得信号を生成し、前記推定横滑り加速度を補正するフィードバックループとを備え」ているのに対し、引用例A発明は、「例えば位相が適切に設定されたローパスフィルタ処理等の演算処理により、車両の横滑り加速度β_(dd)を時間積分して横滑り速度β_(d)を算出する手段」を備えているにすぎない点。
(4)判断
[相違点1]について
引用例A発明の「時間積分」する「手段」としてどのようなものを用いるかは設計的事項であり、「アキュミュレータ」とすることはその程度のものにすぎない。
上記に摘記したように引用例Bには、「一般に、横加速度センサにより検出される車輌の横加速度には、旋回により発生する横加速度に加えて車輌のロール成分、路面のカントに起因する成分、横加速度を検出するセンサの定常的なオフセット成分等が含まれており、…」、「検出される車輌の横加速度に含まれる車輌のロール成分等に起因する誤差を排除することにより、車体の横滑り速度の推定精度を向上させる…」と記載されている。このように、一般に、検出された横加速度信号には余分な種々の低周波成分が含まれていること、及び、このような横加速度信号を他の物理量の推定や制御に用いる場合に横加速度信号からそれらを除去することが精度向上等からみて望ましいことは当業者に明らかな事項である。引用例1発明の「算出」された「横滑り加速度」に上記の事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものと認められる。
横加速度信号から余分な種々の低周波成分を除去するにあたってどのような手段を用いるかは適宜の設計的事項にすぎない。ここで、一般に、積分器の出力に基づいた信号を積分器の入力信号にフィードバックして周波数特性を調整することは、例えば特開2000-207025号公報(特に段落【0016】)、特開昭62-155836号公報(特に第4頁左上欄第18行?右上欄第7行、第7図)に示されているように周知であり、上記の手段としてこのような手段を採用することは上記の適宜の設計の一例にすぎない。そして、このようにしたものは、実質的にみて、「前記推定横滑り加速度の補正値を積分して前記車両の推定横滑り速度を決定するアキュミュレータと、前記推定横滑り速度に基づいてフィードバック利得信号を生成し、前記推定横滑り加速度を補正するフィードバックループとを備え」ているということができる。
なお、引用例A発明は時間積分する手段としてローパスフィルタ処理を挙げているのに対し、引用例Bには所定周波数以上の成分を積分演算すると記載されているが、(a)引用例A発明では「例えば位相が適切に設定されたローパスフィルタ処理等の演算処理により、」とされているようにそれは積分手段の一例にすぎないし、また、(b)「ローパスフィルタ処理」を使用するとしても、そのカットオフ周波数は積分演算としてのものであるのに対し、引用例Bの「所定周波数」は余分な種々の低周波成分を除去するためのものであるから、両者は、その目的・作用に適うようにそれぞれ適宜設定すべきものであって、所定の低周波成分を除去するとともに「ローパスフィルタ処理」によって積分することも技術的に可能であり、両者は直ちに矛盾するものではない。
そして、上記に摘記したとおり、引用例Bには「検出される車輌の横加速度に含まれる車輌のロール成分等に起因する誤差を排除することにより、車体の横滑り速度の推定精度を向上させる…」と記載されていること等からみて、本願発明1の作用効果は、引用例A、Bに記載された発明に基づいて当業者が予測できる程度のものである。

以上に関連して、審判請求の理由において、
「(2-1-2)本願の発明との対比
そこで、本願の請求項1に係る発明(以下、第1発明という)、請求項3に係る発明(以下、第2発明という)及び請求項12に係る発明(以下、第3発明という)と第1引用文献?第4引用文献に記載された発明とを比較すると、いずれの引用文献にも、
第1発明の必須の構成要件の一つである、推定横滑り加速度の補正値を積分して車両の推定横滑り速度を決定するアキュミュレータと、推定横滑り速度に基づいてフィードバック利得信号を生成し、推定横滑り加速度を補正するフィードバックループ、
第2発明の必須の構成要件の一つである…、及び
第3発明の必須の構成要件の一つである…、
が記載も示唆もされていない。而るに、これらの点に基づいて、第1発明、第2発明及び第3発明は明細書記載の所期の作用効果を奏する。したがって、第1引用文献?第4引用文献に記載された発明に基づいて第1発明、第2発明及び第3発明を想到することは当業者にとって困難であり、第1発明?第3発明は進歩性を有すると思量する。」と主張している。
しかし、まず、「第1発明、第2発明及び第3発明は明細書記載の所期の作用効果を奏する。」との点に関して、本願明細書の例えば段落【0028】には「図9は、フィードバックループを含む周波数制限という別の例示的方法を示す。フィードバック利得176は積分器出力信号174に乗じられ、入力信号170を補正する。フィードバック利得176は、システム動力学の当業者には理解されるように、入力信号170の積分値が制限されるべき周波数の上限になるように選択される。入力信号170の周波数がフィードバック利得176よりはるかに大きい場合には、周波数制限積分器は標準の積分器と同様の挙動をする。入力信号170の周波数がフィードバック利得176より小さいとき、周波数制限積分器は、フィードバック利得176によって決まる一定の利得を有するプロセスと同様の挙動をする。したがって、センサ誤差に起因する信号は積分されず、誤差の大きさとフィードバック利得との積である成分に制限される。」と説明されているが、「フィードバック利得176」が「入力信号170の積分値が制限されるべき周波数の上限になるように選択される。」という事項は本願の請求項1に記載されていない。また、一般に、積分器の出力に基づいた信号を積分器の入力信号にフィードバックして周波数特性を調整することは周知であり、このような手段を採用することが設計的事項にすぎないこと、及び、本願発明1の作用効果は引用例A、Bに記載された発明に基づいて当業者が予測できる程度のものであることは上述のとおりである。

(5)むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用例A、Bに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願発明1が特許を受けることができないものである以上、本願発明2?23について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-03 
結審通知日 2009-03-04 
審決日 2009-03-17 
出願番号 特願2004-103111(P2004-103111)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森本 康正  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 溝渕 良一
戸田 耕太郎
発明の名称 車両安定性向上制御  
代理人 千葉 昭男  
代理人 小林 泰  
代理人 田中 英夫  
代理人 社本 一夫  
代理人 増井 忠弐  
代理人 富田 博行  

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