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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E05D
管理番号 1205429
審判番号 無効2007-800124  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-07-03 
確定日 2009-07-14 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3471743号「折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置の係嵌組成体」の特許無効審判事件についてされた平成20年5月9日付け審決に対し,知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成20年(行ケ)第10211号、平成20年7月25日決定)があったので,さらに審理のうえ,次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3471743号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は,被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
特許第3471743号(以下「本件」という。)についての手続の主な経緯は次のとおりである。

原出願 平成11年 5月31日
〔特願平11-151708号〕
本件分割出願 平成12年11月16日
〔特願2000-350174号〕
設定登録 平成15年 9月12日
〔特許第3471743号〕
無効審判請求 平成17年 3月16日
〔無効2005-80081号〕
審決 平成17年 8月31日
「特許第3471743号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」
審決取消訴訟 平成17年10月 1日
〔平成17年(行ケ)第10731号〕
訂正審判請求 平成17年11月17日
〔訂正2005-39210号〕
差戻決定 平成17年12月 5日
訂正請求 平成18年 2月 6日
(訂正2005-39210号は,みなし取り下げ。)
審決 平成19年 1月25日
「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」
審決取消訴訟 平成19年 2月28日
〔平成19年(行ケ)第10089号〕
無効審判請求 平成19年 7月 3日
〔無効2007-800124号〕
判決言渡 平成20年 3月 6日
「原告の請求を棄却する。」
審決 平成20年 5月 9日
「特許第3471743号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」
審決取消訴訟 平成20年 6月 2日
〔平成20年(行ケ)第10211号〕
訂正審判請求 平成20年 7月14日
〔訂正2008-390079号〕
差戻決定 平成20年 7月25日
訂正請求 平成20年 8月 8日
(以下,この訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。訂正2008-390079号は,みなし取り下げ。)

2.本件訂正の内容及びその認否
本件訂正は,特許請求の範囲における請求項1の訂正(以下「訂正事項1」という。),発明の詳細な説明における課題を解決するための手段の訂正(本件訂正の全文訂正明細書(以下,単に「全文訂正明細書」という。)【0012】参照,以下「訂正事項2」という。),同じく発明の実施の形態の訂正(同【0015】参照,以下「訂正事項3」という。),及び,同じく発明の効果の訂正(同【0023】参照,以下「訂正事項4」という。)からなるものである。以下,各訂正事項に検討を加えた後,本件訂正を認めるか否か判断する。
なお,本件訂正は,前記「1.」に示した,平成19年(行ケ)第10089号判決が確定しているので,無効2005-80081号にて訂正がされた特許明細書(以下「基準明細書」という。)に対してされるものである。

(1-1)訂正事項1の内容
(訂正事項1a)基準明細書における請求項1の「筒状本体の内部とスライド用切込み溝の内部とに」を「筒状本体の内部に嵌り込むディスク本体とスライド用切込み溝の内部に」(下線は当審にて付与。以下同じ。)とし,以下同様に,「スライドする」の次に「ように前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有する」を挿入し,さらに,「周面形状を有する」を「周面形状を有し,前記摺動ディスクは,前記ディスク本体の端面と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面とが前記スライド用切込み溝を有する部分で筒状本体を横断した際に得られる前記筒状本体の内部の横断面とスライド用切込み溝の横断面とにそれぞれ相応した連続する面形状の第1突き合わせ端面を有する」とする訂正。

(訂正事項1b)基準明細書における請求項1の「嵌り込んだ部分には」を「嵌り込むようにディスク本体の周面から径方向に延びる部分には」とし,同じく「係嵌凸部が形成されている」を「係嵌凸部が形成され,前記係嵌凸部は前記係嵌凹所との係嵌状態では前記筒状本体の開口部から突出する」とする訂正。

(訂正事項1c)基準明細書における請求項1の「第1突き合わせ端面を外面にした摺動ディスク」の次に,「の前記第1突き合わせ端面が係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態で前記筒状本体外にある第2ディスクの第2突き合わせ端面に突き合わさるように前記摺動ディスクのディスク本体(当審注:「デスク本体」は誤記と認め,職権にて訂正をした)と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分と」を挿入し,同じく「内部とに嵌め込まれている」を「内部とにそれぞれ嵌め込まれている」とする訂正。

(1-2)訂正事項1の検討
(訂正事項1aについて)まず,訂正事項1aは,少なくとも「第1突き合わせ端面」について,「ディスク本体の端面と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面とがスライド用切込み溝を有する部分で筒状本体を横断した際に得られる前記筒状本体の内部の横断面とスライド用切込み溝の横断面とにそれぞれ相応した連続する面形状」を有すると限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
次に,本件の図3における摺動ディスク12Bをみると,摺動ディスク12Bは,ドーナツ状の部分とそのドーナツ状の部分から上下に突き出た部分とからなるものと見てとれるので,訂正事項1aについては,このドーナツ状の部分を「ディスク本体」と称し,上下に突き出た部分を「ディスク本体の周面から径方向に延びる部分」と称したことによるものといえる。
そして,摺動ディスク12Bが筒状本体12Aに嵌り込むものであることに照らすと,同じく本件の図3には,第1突き合わせ端面12aについて,「ディスク本体の端面」と「ディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面」とが「スライド用切込み溝を有する部分で筒状本体を横断した際に得られる前記筒状本体の内部の横断面とスライド用切込み溝の横断面とにそれぞれ相応した」ものであることが示されているといえる。なお,「横断面」という表現については,横断平面図である本件の図2ではその横断が図3における軸方向の水平面とされるものの,訂正事項1aでの横断面はその前後の文脈からみて軸方向に直交する面で筒状本体を横断した面であると解するのが自然である。
さらに,同じく本件の図3には,第1突き合わせ端面12aについて,「ディスク本体の端面」と「ディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面」とが「連続」することが示されている。
そうすると,訂正事項1aは,基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものといえる。
そのうえ,訂正事項1aは,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことが明らかである。

(訂正事項1bについて)まず,訂正事項1bは,少なくとも「係嵌凸部」について,「係嵌凹所との係嵌状態では前記筒状本体の開口部から突出する」ことを限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。本件の図1ないし3には,係嵌凸部12bが,係嵌凹所13bとの係嵌状態において筒状本体12Aの開口部から突出することが示されているといえる。
次に,摺動ディスク12Bのスライド用切込み溝12dに「嵌り込んだ部分」を,前記「(訂正事項1aについて)」で検討したとおり,「ディスク本体の周面から径方向に延びる部分」と称し得るので,訂正事項1bは,基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものといえる。
さらに,訂正事項1bは,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことが明らかである。

(訂正事項1cについて)まず,訂正事項1cは,少なくとも「摺動ディスク」に関し,「第1突き合わせ端面が係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態で筒状本体外にある第2ディスクの第2突き合わせ端面に突き合わさるように」筒状本体の内部とスライド用切込み溝の内部とに嵌め込まれていることを限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
次に,摺動ディスク12Bが,前記「(訂正事項1aについて)」で検討したとおり,「ディスク本体」及び「ディスク本体の周面から径方向に延びる部分」からなるものといえるので,本件の図1ないし3には,摺動ディスク12Bの第1突き合わせ端面12aが係嵌凸部12bと係嵌凹所13bとの係嵌状態で筒状本体12A外にある第2ディスク13の第2突き合わせ端面13aに突き合わさるように,前記摺動ディスク12Bのディスク本体と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とが,筒状本体12Aの内部とスライド用切込み溝12dの内部とにそれぞれ嵌め込まれているものが示されている。
そうすると,訂正事項1cは,基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものといえる。
さらに,訂正事項1cは,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことが明らかである。

(1-3)訂正事項1についてのまとめ
訂正事項1aないし1cについての以上の検討によると,訂正事項1は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって,基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでない。

(2-1)訂正事項2の内容
(訂正事項2a)基準明細書【0012】の「筒状本体の内部とスライド用切込み溝の内部とに」を「筒状本体の内部に嵌り込むディスク本体とスライド用切込み溝の内部に」とし,以下同様に,「スライドする」の次に「ように前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有する」を挿入し,さらに,「周面形状を有する」を「周面形状を有し,前記摺動ディスクは,前記ディスク本体の端面と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面とが前記スライド用切込み溝を有する部分で筒状本体を横断した際に得られる前記筒状本体の内部の横断面とスライド用切込み溝の横断面とにそれぞれ相応した連続する面形状の第1突き合わせ端面を有する」とする訂正。

(訂正事項2b)基準明細書【0012】の「嵌り込んだ部分には」を「嵌り込むようにディスク本体の周面から径方向に延びる部分には」とし,同じく「係嵌凸部が形成されている」を「係嵌凸部が形成され,前記係嵌凸部は前記係嵌凹所との係嵌状態では前記筒状本体の開口部から突出する」とする訂正。

(訂正事項2c)基準明細書【0012】の「第1突き合わせ端面を外面にした摺動ディスク」の次に,「の前記第1突き合わせ端面が係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態で前記筒状本体外にある第2ディスクの第2突き合わせ端面に突き合わさるように前記摺動ディスクのディスク本体(当審注:「デスク本体」は誤記と認め,職権にて訂正をした)と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分と」を挿入し,同じく「内部とに嵌め込まれている」を,「内部とにそれぞれ嵌め込まれている」とする訂正。

(2-2)訂正事項2の検討
訂正事項2aないし2cは,いずれも訂正事項1に対応したものであって,請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであるから,明りょうでない記載の釈明を目的とするものといえる。また,訂正事項2aないし2cは,前記「(1-2)」での検討と同様の理由で,基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことが明らかである。

(3-1)訂正事項3の内容
(訂正事項3a)基準明細書【0015】の「第1ディスク12は筒状本体12Aと」を「第1ディスク12は,筒状本体12Aと,この筒状本体12Aに嵌り込むディスク本体と筒状本体12Aの」とし,以下同様に,「露呈状態となるよう内嵌して,」を「露呈状態で内嵌するようにディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有して筒状本体12A内でスライド用切込み溝12dに沿って」とし,さらに,「とからなり,」を「とからなっている。摺動ディスク12Bは,ディスク本体の端面とこのディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面とがスライド用切込み溝12dを有する部分で筒状本体12Aを横断した際に得られる筒状本体12Aの内部の横断面とスライド用切込み溝12dの横断面とにそれぞれ相応した連続する面形状の第1突き合わせ端面12aを有する。」とする訂正。

(訂正事項3b)基準明細書【0015】の「嵌り込んだ部分」を「嵌り込むようにディスク本体の周面から径方向に延びる部分」とし,同じく「設けるようにしている。」の次に,「係嵌凸部12bは,係嵌凹所13bとの係嵌状態では,筒状本体12Aの開口部から突出するようになっている(図1(B)及び図2参照)。」を挿入する訂正。

(訂正事項3c)基準明細書【0015】の「弾接させるのである。」を「弾接させるのであるが,摺動ディスク12Bのディスク本体とディスク本体の周面から径方向に延びる部分とは,係嵌凸部12bと係嵌凹所13bとの係嵌状態で摺動ディスク12Bの第1突き合わせ端面12aが筒状本体12A外にある第2ディスク13の第2突き合わせ端面13aに突き合わさるように筒状本体12Aの内部とスライド用切込み溝12dとにそれぞれ嵌め込まれている。」とする訂正。

(3-2)訂正事項3の検討
訂正事項3aないし3cは,いずれも訂正事項1に対応したものであって,請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであるから,明りょうでない記載の釈明を目的とするものといえる。また,訂正事項3aないし3cは,前記「(1-2)」での検討と同様の理由で,基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことが明らかである。

(4-1)訂正事項4の内容
基準明細書【0023】の「第1ディスクを筒状本体と,そのスライド用切込み溝に係嵌した摺動ディスクにより構成し,」を「第1ディスクは,筒状本体と,この筒状本体に嵌り込むディスク本体と筒状本体のスライド用切込み溝に内嵌するようにディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有して筒状本体内でスライド用切込み溝に沿ってスライド自在とした摺動ディスクとにより構成し,」とする訂正。

(4-2)訂正事項4の検討
訂正事項4は,訂正事項1に対応したものであって,請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであるから,明りょうでない記載の釈明を目的とするものといえる。また,訂正事項4は,前記「(1-2)」での検討と同様の理由で,基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことが明らかである。

(5)本件訂正の認否
以上のとおり,訂正事項1ないし4からなる本件訂正は,訂正事項1については特許請求の範囲の減縮を目的とし,訂正事項2ないし4については明りょうでない記載の釈明を目的としたものであるから,特許法134条の2第1項1号又は3号に掲げる事項を目的としたものであるとともに,基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないから,同法134条の2第5項で準用する同法126条3項及び4項の規定に適合する。
したがって,本件訂正を認める。

3.本件発明
本件訂正は上記のとおり認められたので,本件訂正後の本件の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は,全文訂正明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「第1ヒンジ筒を有する第1部材と第2ヒンジ筒を有する第2部材とを開閉自在に連結するための係嵌組成体であって,同一軸線上で隣接する第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒とにわたり装着されるものであること,および,係嵌組成体の構成要素として第1ディスクと第2ディスクとコイルスプリングと軸杆とを備えていてそのうちの第1ディスクが筒状本体と摺動ディスクとからなること,および,筒状本体と摺動ディスクとコイルスプリングとの相対関係において,摺動ディスクやコイルスプリングを嵌め込むためのもので第1ヒンジ筒に内嵌して第1ヒンジ筒に対して回り止め装着される筒状本体がその側端縁から軸線方向沿いに切り欠き形成された径方向に相対する2つのスライド用切込み溝を周壁に有すること,かつ,筒状本体の内部に嵌り込むディスク本体とスライド用切込み溝の内部に嵌まり込んで筒状本体の軸線方向沿いにスライドするように前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有する摺動ディスクが筒状本体の内径や切込み溝形状に対応した周面形状を有し,前記摺動ディスクは,前記ディスク本体の端面と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面とが前記スライド用切込み溝を有する部分で筒状本体を横断した際に得られる前記筒状本体の内部の横断面とスライド用切込み溝の横断面とにそれぞれ相応した連続する面形状の第1突き合わせ端面を有すること,かつ,コイルスプリングが筒状本体内に嵌め込むことのできる外径を有していて筒状本体内で摺動ディスクに押し当てられるものであること,および,片面を第1突き合わせ端面とする摺動ディスクと片面を第2突き合わせ端面とする第2ディスクとの相対関係において,第2突き合わせ端面には複数の係嵌凹所が周方向に間隔をおいて形成されているとともに第1突き合わせ端面で摺動ディスクのスライド用切込み溝内に嵌り込むようにディスク本体の周面から径方向に延びる部分には該各係嵌凹所と係合離脱自在に対応する複数の係嵌凸部が形成され,前記係嵌凸部は前記係嵌凹所との係嵌状態では前記筒状本体の開口部から突出すること,および,第2ヒンジ筒に内嵌して第2ヒンジ筒に対して回り止め装着され第1ディスクに相対している第2ディスクで第2突き合わせ端面の反対端面には,第2ヒンジ筒に装着されて抜け止め状態になる抜け止め弾性爪が設けられていること,および,軸杆と第1ディスク・第2ディスク・コイルスプリングとの相対関係において,第1ディスク軸心部・第2ディスク軸心部・コイルスプリング軸心部のそれぞれを軸杆が貫通するものであること,および,上記各構成要素の組み立てについて,コイルスプリングが筒状本体内に嵌め込まれていること,かつ,第1突き合わせ端面を外面にした摺動ディスクの前記第1突き合わせ端面が係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態で前記筒状本体外にある第2ディスクの第2突き合わせ端面に突き合わさるように前記摺動ディスクのディスク本体と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とがコイルスプリングに抗して筒状本体の内部とスライド用切込み溝の内部とにそれぞれ嵌め込まれていること,かつ,第1突き合わせ端面と第2突き合わせ端面とが対面して摺動ディスクと第2ディスクとが互いに突き合わされていること,かつ,この集合した各構成要素の軸心部を軸杆が貫通しているとともに軸杆の両端部が筒状本体や第2ディスクに対して抜け止め固定されていること,および,この組み立て構造において,摺動ディスクの一部であってスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分がそこから露呈されていること,かつ,摺動ディスクと,筒状本体に存在するスライド用切込み溝の奥端縁12eとが,これらの間に係嵌凸部と同等長以上の離間貫通空所Sを介在させていること,かつ,コイルスプリングが摺動ディスクを第2ディスク側へ押しつけていること,かつ,摺動ディスクと第2ディスクとが相対回転したときに係合状態にある係嵌凸部・係嵌凹所がそれぞれ他の係嵌凹所・係嵌凸部に切り替わることを特徴とする折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置の係嵌組成体。」

4.当事者の主張
(1)請求人の主張
これに対して,請求人は,次の無効理由その1及び2を挙げて,本件発明についての特許は無効とすべきである旨を主張し,証拠方法として甲1号証ないし甲23号証を提出している。

・無効理由その1
本件発明は,甲1,5及び6号証に示される本件出願前に公然実施をされた発明並びに甲7ないし23号証に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明の特許は特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり,特許法123条1項2号の規定により無効とすべきものである。

・無効理由その2
本件発明は,甲5及び6号証に示される本件出願前に公然実施をされた発明並びに甲7ないし23号証に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明の特許は特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり,特許法123条1項2号の規定により無効とすべきものである。

(証拠方法)
・甲1号証:円井義弘,「平成19年第0104号折畳み式携帯電話用ヒンジ装置の構造等に関する事実実験公正証書(謄本)」,平成19年4月9日作成
・甲2号証:「ASTELパーソナルハンディホン保証書 アステルショップ神辺店」,10年3月20日(お買上げ日)
・甲3号証:鳥取三洋電機株式会社情報通信事業本部,「フリーストップヒンジ」,97-09-29
・甲4号証:鳥取三洋電機株式会社情報通信事業本部,「クリップヒンジ」,97-09-29
・甲5号証:円井義弘,「平成19年第0102号折畳み式携帯電話用ヒンジ装置の構造等に関する事実実験公正証書(謄本)」,平成19年4月9日作成
・甲6号証:円井義弘,「平成19年第0103号折畳み式携帯電話用ヒンジ装置の等に関する事実実験公正証書(謄本)」,平成19年4月9日作成
・甲7号証:特開平10-153214号公報
・甲8号証:意匠登録1039131号公報
・甲9号証:意匠登録1039132号公報
・甲10号証:実願昭46-113031号(実開昭48-65953号)のマイクロフィルム
・甲11号証:韓国公開特許1998-042991号公報
・甲12号証:米国特許4645905号明細書
・甲13号証:実開昭60-10924号公報
・甲14号証:実開昭60-147804号公報
・甲15号証:実開昭62-2828号公報
・甲16号証:実開昭63-66910号公報
・甲17号証:実開平2-87109号公報
・甲18号証:実開平3-78495号公報
・甲19号証:実開平3-96423号公報
・甲20号証:特開平5-44713号公報
・甲21号証:実開平6-49676号公報
・甲22号証:実開平6-87715号公報
・甲23号証:登録実用新案3036010号公報
(なお,平成19年11月9日付け審判事件弁駁書と共に提出された甲24号証:特開平9-195611号公報は,平成20年4月24日に実施した口頭審理において,「参考資料」として扱うものとした。この点については,第1回口頭審理調書(以下「口頭審理調書」という。)における【証拠について】の欄の「甲第24号証を『参考資料』として扱う。」との記載を参照。)

(2)被請求人の主張
一方,被請求人は,次のとおり本件発明の特許は維持される旨を主張し,証拠方法として乙1号証ないし乙3号証を提出している。

・無効理由その1について
本件発明は,甲1,5及び6号証に示される本件出願前に公然実施をされた発明並びに甲7ないし23号証に示される技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

・無効理由その2について
本件発明は,甲5及び6号証に示される本件出願前に公然実施をされた発明並びに甲7ないし23号証に示される技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(証拠方法)
・乙1号証:ソテック株式会社,「会社案内」及び「技術資料-圧縮コイルばねの計算式」,[online],[平成19年9月27日検索],インターネット,
〈URL:http://www11.ocn.ne.jp/~sotec/company/outline.html,
URL:http://www11.ocn.ne.jp/~sotec/echnical/comp.html
・乙2号証:実願昭54-21292号(実開昭55-121544号)のマイクロフィルム
・乙3号証:深井尚史(スガツネ工業株式会社開発部),「調査報告書」,平成20年1月21日

5.無効理由その1及びその2
まず,無効理由その2について検討し,次に無効理由その1について検討する。

(1)無効理由その2について
(1-1)甲5号証
甲5号証には,添付された写真とともに,以下の事項が記載されている。
・「1台の折畳み式携帯電話(本件携帯電話)を取り出し,これが事実実験の対象機器の本件携帯電話である旨告げた」(2ページ8ないし10行)

・「(2)次に,小名主任が本件携帯電話の本体(各種のキーが設けられている筐体部分)の裏側の蓋を開け,収納された電池パックを取り外すと,収納スペースの底面に
『<エクセレントシルバー>
[R ] WZAGO258691
[T ] P98-7018-0
機器名称 デジタル・ムーバN206S
HYPER
申請者 日本電気株式会社
製造年月 1998/5
NTT DoCoMo
… 』
等と記された白地のフィルム様の表示票が貼付され,同表示票には,本件携帯電話は,『デジタル・ムーバN206S HYPER』という名称で西暦1998年5月に日本電気株式会社(NEC)により製造されたという趣旨の表示がなされていた(末尾添付の写真3,4参照)。」(2ページ18行ないし3ページ16行)

・「本件携帯電話は,外観上,格別損傷箇所や異常な状況は見当たらず,何らの支障もなく折畳み状態から見開き角度を順次広げて概ね水平近くなるまで見開き状態にすることができることを本職において現認した(末尾添付の写真1,2参照)。」(4ページ4ないし8行)

・「(6)『止め輪』とか,『Eリング』と呼ばれている環状になった金具が嵌め込まれている。」(9ページ2ないし4行)

・「(7)続いて,小名主任が左右の筒状部から突き出ている前記突起部分の各先端部を,工具を用いて順次外側の方向に押すと,本件ヒンジ装置がそれぞれ外側に押し出されて取り外された(末尾添付の写真21,22参照)。」(9ページ15ないし19行)

・「『外周部異形固定カム』も,銀色の金属様の材質で作られており,その形状等は末尾添付の写真24,32,37のとおりである。外周部に不規則な凹凸があり(注:「凹凸あり」は誤記。),『軸』が圧入された側の面上には,半径の異なる同心円弧状の二筋の溝が向かい合うように穿設され,その溝の軌道それぞれの両端部には,同じ大きさの半球状の窪みが穿たれている。そして,その半球状の窪みの深さは,いずれも溝の深さよりも一段深くなっている。」(15ページ7ないし15行)

・「『ボールハウジング』は,樹脂様の材質で作られており,軸部分と『ボール』を保持する台座部分からなっている。その形状等は末尾添付の写真33,34,38のとおりである。軸部分は円筒形状をなし,その外周部上には,縦(軸線方向)に2本の凹線が走っている。台座部分は,軸部分よりもひとまわり大きく,その端面(『外周部異形固定カム』に面する外周縁部)は太いマツタケ(きのこ)のような形状をなし,若干の厚みを有している。そして,マツタケのような形状をしている外周縁部上には,金属製の光沢のある白金色の『ボール』2個が組み込まれているほか,中心を貫通した軸孔とともに,3個の円形の窪みも存在し,2個の『ボール』の脱着は可能になっている(末尾添付の写真34参照)。」(18ページ15行ないし19ページ9行)

・「『ばね』は,銀色の金属様の材質で作られており,その形状等は末尾添付の写真35のとおりである。コイル状をなし,『軸』が『ばね』の中心部を貫通するとともに,『ばね』の一方の端は『ボールハウジング』の台座部の『ボール』が組み込まれている外周縁部(端面)の裏側(内側)にある溝に,他方の端は『筒状ケース』の『軸』頭部側の端面の裏側(内側)にある溝にそれぞれ組み付く形で『ボールハウジング』内に組み込まれている。」(20ページ15行ないし21ページ4行)

・「『筒状ケース』は,樹脂様の材質で作られており,その形状等は末尾添付の写真36,39,40のとおりである。円筒形状をなし,その外周部には,縦(軸線方向)に2本の凹線が軸線方向に平行に向かい合うような位置に走っている。内側には『ボールハウジング』外周部の2本の凹線と嵌合するように凸条部が,軸線方向に平行に向かい合うような状態で形成されている。」(21ページ10ないし17行)

・「(1) 本件ヒンジ装置を分解し,装置を構成する各部材の組付き順序に従って横に並べた状況は,末尾添付の写真42のとおり(但し,写真の右端に写っている黒色のリングは前記の『ゴムシート』)である。」(22ページ10ないし14行)

・写真21,23及び24には,「ヒンジ装置」が示されている。

・写真5,6,21,22及び44の写真内容を総合すると,これらの写真には「第1筒状部を有するキー側筐体」,「第2筒状部を有するディスプレー側筐体」,及び,「ヒンジ装置が同一軸線上で隣接する第1筒状部と第2筒状部とにわたり装着されるものであること」が示されているといえる。

・上に摘記した「ボールハウジング」に関する説明(18ページ15行ないし19ページ9行,特に「凹線」を参照)及び「筒状ケース」に関する説明(21ページ10ないし17行,特に「凸条部」を参照)に照らして,写真22及び42の写真内容を総合すると,これらの写真には「ボールハウジングやばねを嵌め込むためのものである筒状ケース」,「筒状ケースの内部に嵌り込むボールハウジングの軸部分と凸条部の外部に嵌まり込んで筒状ケースの軸線方向沿いにスライドするようにした前記ボールハウジングの外周部の2本の凹線とを有するボールハウジングが筒状ケースの内径や凸条部形状に対応した周面形状を有すること」,及び,「ボールハウジングに相対している外周部異形固定カム」が示されているといえる。

・写真21及び40ないし42の写真内容を総合すると,写真41に凹凸と称されている「凸部」が写真40に示される「溝」に係合することによって筒状ケースの第1筒状部に対する回り止めがなされることが明らかであるから,これらの写真には「筒状ケースが第1筒状部に内嵌して第1筒状部に対して回り止め装着されること」が示されているといえる。

・写真42には,「ばねが筒状ケース内に嵌め込むことのできる外径を有していて筒状ケース内でボールハウジングに押し当てられるものであること」が示されている。

・写真33,34及び38の写真内容を総合すると,これらの写真には「ボールハウジングは,連続する面形状の第1突き合わせ端面を有すること」及び「片面を第1突き合わせ端面とするボールハウジング」が示されているといえる。

・写真32及び37の写真内容を総合すると,これらの写真には「片面を第2突き合わせ端面とする外周部異形固定カム」及び「第2突き合わせ端面には複数の窪みが周方向に間隔をおいて穿たれていること」が示されているといえる。

・写真32ないし34並びに37,38,40及び42の写真内容を総合すると,これらの写真には「第1突き合わせ端面には各窪みと係合離脱自在に対応する複数のボールが組み込まれ,前記ボールは前記窪みとの係嵌状態では筒状ケースの開口部から突出すること」が示されているといえる。

・写真19,21及び22の写真内容を総合すると,これらの写真には「第2筒状部に外周部異形固定カムを内嵌すること」が示されているといえる。

・写真17ないし23の写真内容を総合すると,これらの写真には,外周部異形固定カムの「第2突き合わせ端面の反対端面には,第2筒状部に装着されて止め輪(注:「Eリング」とも称されている)にて抜け止め状態になる軸の先端部が突出していること」が示されているといえる。

・写真22,42及び43の写真内容を総合すると,これらの写真には「軸と筒状ケース・ボールハウジング・外周部異形固定カム・ばねとの相対関係において,筒状ケース軸心部・ボールハウジング軸心部・外周部異形固定カム軸心部・ばね軸心部のそれぞれを軸が貫通するものであること」及び「ばねが筒状ケース内に嵌め込まれていること」が示されているといえる。

・写真42に,ばねの軸方向長さが筒状ケースやボールハウジングの軸方向長さよりも長いことが示されていることから,写真22や写真43のようにヒンジ装置をユニット化したときには,ばねが圧縮されることが明らかであることを踏まえ,かつ,上に摘記した「ボールハウジング」に関する説明及び「筒状ケース」に関する説明に照らし,写真22,37,38,42及び43の写真内容を総合すると,これらの写真には「ボールハウジングの第1突き合わせ端面がボールと窪みとの係嵌状態で筒状ケース外にある外周部異形固定カムの第2突き合わせ端面に突き合わさるように前記ボールハウジングの軸部分と2本の凹線とがばねに抗して筒状ケースの内部と凸条部とにそれぞれ嵌め込まれていること,かつ,第1突き合わせ端面と第2突き合わせ端面とが対面してボールハウジングと外周部異形固定カムとが互いに突き合わされていること,かつ,この集合した各構成要素の軸心部を軸が貫通しているとともに軸の両端部が筒状ケースや外周部異形固定カムに対して抜け止め固定されていること」,及び,「ばねがボールハウジングを外周部異形固定カム側へ押しつけていること」が示されているといえる。

・写真22,42及び43の写真内容を総合すると,ボールハウジングのボールが外周部異形固定カムの窪みに係合離脱自在になるよう構成するためには,ボールが窪みから離脱している場合にボールの高さの分だけボールハウジングが外周部異形固定カムから離れる,すなわちボールハウジングが筒状ケース内にスライドする必要があることに照らせば,これらの写真には「ボールハウジングと,筒状ケースに存在する筒状ケース内底部とが,これらの間にボールと同等長以上の離間空所を介在させていること」が示されているといえる。

・写真22,42及び43の写真内容を総合すると,ヒンジとしての機能を実現するためには,ボールハウジングと外周部異形固定カムとの相対回転が必須と認められるところ,その相対回転の際に,係合状態にあるボールハウジングの第1突き合わせ端面にあるボールと外周部異形固定カムの第2突き合わせ端面にある窪みとの係合状態が,それぞれ他のボール及び窪みの組み合わせの係合状態に切り替わることは明らかであることに照らせば,これらの写真には「ボールハウジングと外周部異形固定カムとが相対回転したときに係合状態にあるボール・窪みがそれぞれ他の窪み・ボールに切り替わること」が示されているといえる。

・甲5号証の2ページ18行ないし3ページ16行の記載及び添付された写真3及び4によると,甲5号証の対象製品である日本電気株式会社(NEC)製のN206Sという折畳み式携帯電話に「製造年月 1998/5」との表示がなされていたものと認められるうえに,甲5号証が事実実験公正証書であり高度の証明力を有することを踏まえると,前記N206Sという折畳み式携帯電話の構成部品であるヒンジ装置についても本件出願前に公然実施をされたものであると認めることができ,しかも,この点については被請求人も争っていない(口頭審理調書に記載の被請求人の陳述「甲第5号証中のNEC製のN206Sという折畳み式携帯電話のヒンジ装置が公然実施されたものであるという点は認める。」を参照。)。

そうすると,甲5号証のこれらの記載事項及び添付された写真内容から,本件出願前に公然実施をされた発明として,次の発明を認めることができる。
「第1筒状部を有するキー側筐体と第2筒状部を有するディスプレー側筐体とを開閉自在に連結するためのヒンジ装置であって,同一軸線上で隣接する第1筒状部と第2筒状部とにわたり装着されるものであること,および,ヒンジ装置の構成要素として筒状ケースとボールハウジングと外周部異形固定カムとばねと軸とを備えていること,および,筒状ケースとボールハウジングとばねとの相対関係において,ボールハウジングやばねを嵌め込むためのもので第1筒状部に内嵌して第1筒状部に対して回り止め装着される筒状ケースがその内側にボールハウジングの外周部の2本の凹線と嵌合するように軸線方向に平行に向かい合うような状態で形成されている凸条部を有すること,かつ,筒状ケースの内部に嵌り込むボールハウジングの軸部分と凸条部の外部に嵌まり込んで筒状ケースの軸線方向沿いにスライドするようにした前記ボールハウジングの外周部の2本の凹線とを有するボールハウジングが筒状ケースの内径や凸条部形状に対応した周面形状を有し,前記ボールハウジングは,連続する面形状の第1突き合わせ端面を有すること,かつ,ばねが筒状ケース内に嵌め込むことのできる外径を有していて筒状ケース内でボールハウジングに押し当てられるものであること,および,片面を第1突き合わせ端面とするボールハウジングと片面を第2突き合わせ端面とする外周部異形固定カムとの相対関係において,第2突き合わせ端面には複数の窪みが周方向に間隔をおいて穿たれているとともに第1突き合わせ端面には該各窪みと係合離脱自在に対応する複数のボールが組み込まれ,前記ボールは前記窪みとの係嵌状態では前記筒状ケースの開口部から突出すること,および,第2筒状部に内嵌してボールハウジングに相対している外周部異形固定カムで第2突き合わせ端面の反対端面には,第2筒状部に装着されて止め輪にて抜け止め状態になる軸の先端部が突出していること,および,軸と筒状ケース・ボールハウジング・外周部異形固定カム・ばねとの相対関係において,筒状ケース軸心部・ボールハウジング軸心部・外周部異形固定カム軸心部・ばね軸心部のそれぞれを軸が貫通するものであること,および,上記各構成要素の組み立てについて,ばねが筒状ケース内に嵌め込まれていること,かつ,第1突き合わせ端面を外面にしたボールハウジングの前記第1突き合わせ端面がボールと窪みとの係嵌状態で前記筒状ケース外にある外周部異形固定カムの第2突き合わせ端面に突き合わさるように前記ボールハウジングの軸部分と前記2本の凹線とがばねに抗して筒状ケースの内部と凸条部の外部とにそれぞれ嵌め込まれていること,かつ,第1突き合わせ端面と第2突き合わせ端面とが対面してボールハウジングと外周部異形固定カムとが互いに突き合わされていること,かつ,この集合した各構成要素の軸心部を軸が貫通しているとともに軸の両端部が筒状ケースや外周部異形固定カムに対して抜け止め固定されていること,および,この組み立て構造において,ボールハウジングと,筒状ケースに存在する筒状ケース内底部とが,これらの間にボールと同等長以上の離間空所を介在させていること,かつ,ばねがボールハウジングを外周部異形固定カム側へ押しつけていること,かつ,ボールハウジングと外周部異形固定カムとが相対回転したときに係合状態にあるボール・窪みがそれぞれ他の窪み・ボールに切り替わる折畳み式携帯電話のヒンジ装置。」 (以下「公然実施発明」という。)

なお,本件発明を分説して公然実施発明との対応関係を表にすると,次のとおりである。



(1-2)対比
本件発明と公然実施発明とを対比すると,公然実施発明の「第1筒状部」は本件発明の「第1ヒンジ筒」に相当し,以下同様に,「キー側筐体」は「第1部材」に,「第2筒状部」は「第2ヒンジ筒」に,「ディスプレー側筐体」は「第2部材」に,それぞれ相当する。
そして,公然実施発明の「ヒンジ装置」は,本件発明の「係嵌組成体」に相当し,また,一般の折畳み式携帯電話であれば通話時には開状態で保持され,携帯時には閉状態で保持されるものであり,公然実施発明の「ヒンジ装置」も折畳み式携帯電話におけるヒンジに用いられるものであることに照らせば「開閉保持」機能を具備するものであることは明らかであるから,公然実施発明の前記「ヒンジ装置」は,本件発明の「開閉保持用ヒンジ装置の係嵌組成体」に相当するともいうことができる。
また,公然実施発明の「筒状ケース」は本件発明の「筒状本体」に相当し,同じく,「ボールハウジング」は「摺動ディスク」に相当するから,公然実施発明の「筒状ケースとボールハウジング」とからなるものは本件発明の「第1ディスク」に相当するものということができる。
続いて,公然実施発明の「外周部異形固定カム」は本件発明の「第2ディスク」に相当し,以下同様に,「ばね」は「コイルスプリング」に,「軸」は「軸杆」に,それぞれ相当する。
次に,前記対応表の項目4にある,公然実施発明の「筒状ケースがその内側にボールハウジングの外周部の2本の凹線と嵌合するように軸線方向に平行に向かい合うような状態で形成されている凸条部を有すること」と,本件発明の「筒状本体がその側端縁から軸線方向沿いに切り欠き形成された径方向に相対する2つのスライド用切込み溝を周壁に有すること」とは,公然実施発明では筒状ケースの凸条部がボールハウジングの凹線と嵌合することで筒状ケースに対するボールハウジングの回動を阻止しつつスライドさせるものであり,本件発明では筒状本体のスライド用切込み溝に摺動ディスクが嵌り込むことで筒状本体に対する摺動ディスクの回動を阻止しつつスライドさせるものであることからみて,「筒状本体が摺動ディスクの筒状本体に対する回動阻止兼スライド機構を有すること」という概念で共通する。
また,公然実施発明の「ボールハウジングの軸部分」が本件発明の「ディスク本体」に相当することを踏まえると,前記対応表の項目5にある,公然実施発明の「筒状ケースの内部に嵌り込むボールハウジングの軸部分と凸条部の外部に嵌まり込んで筒状ケースの軸線方向沿いにスライドするようにした前記ボールハウジングの外周部の2本の凹線とを有するボールハウジングが筒状ケースの内径や凸条部形状に対応した周面形状を有」する態様と,本件発明の「筒状本体の内部に嵌り込むディスク本体とスライド用切込み溝の内部に嵌まり込んで筒状本体の軸線方向沿いにスライドするように前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有する摺動ディスクが筒状本体の内径や切込み溝形状に対応した周面形状を有」する態様とは,「筒状本体の内部に嵌り込むディスク本体と回動阻止兼スライド機構の所定部位に嵌まり込んで筒状本体の軸線方向沿いにスライドするようにした部分とを有する摺動ディスクが筒状本体の内径や回動阻止兼スライド機構の形状に対応した周面形状を有」する態様という概念で共通する。
そして,公然実施発明の「窪み」は本件発明の「係嵌凹所」に相当し,ま
た,公然実施発明の「穿たれている」は本件発明の「形成されている」に相当する。
次に,公然実施発明の「ボール」と,本件発明の「係嵌凸部」とは,その機能・作用からみて,「係嵌凸状部」という概念で共通するから,これを踏まえると,前記対応表の項目7にある,公然実施発明の「第1突き合わせ端面には各窪みと係合離脱自在に対応する複数のボールが組み込まれ」る態様と,本件発明の「第1突き合わせ端面で摺動ディスクのスライド用切込み溝内に嵌り込むようにディスク本体の周面から径方向に延びる部分には各係嵌凹所と係合離脱自在に対応する複数の係嵌凸部が形成され」る態様とは,「第1突き合わせ端面には各係嵌凹所と係合離脱自在に対応する複数の係嵌凸状部が形成され」る態様という概念で共通する。
ここで,公然実施発明の「筒状ケース」(本件発明の「筒状本体」であり「第1ディスク」の一部材)が「第1筒状部」(同「第1ヒンジ筒」)に対して回り止め装着されるものであるので,公然実施発明をヒンジ装置として機能させるべく第1筒状部と第2筒状部とを相対回転させるためには,公然実施発明の「外周部異形固定カム」(本件発明の「第2ディスク」)が「第2筒状部」(同「第2ヒンジ筒」)に対して回り止め装着される必要がある。そうすると,前記対応表の項目8にある,公然実施発明の「第2筒状部に内嵌してボールハウジングに相対している外周部異形固定カム」は,外周部異形固定カムが第2筒状部に対して回り止め装着されるものであるから,本件発明の「第2ヒンジ筒に内嵌して第2ヒンジ筒に対して回り止め装着され第1ディスクに相対している第2ディスク」に相当するといえる。
また,同じく前記対応表の項目8にある,公然実施発明の「第2突き合わせ端面の反対端面には,第2筒状部に装着されて止め輪にて抜け止め状態になる軸の先端部が突出していること」と,本件発明の「第2突き合わせ端面の反対端面には,第2ヒンジ筒に装着されて抜け止め状態になる抜け止め弾性爪が設けられていること」とは,「第2突き合わせ端面の反対端面には,第2ヒンジ筒に装着されて抜け止め状態になる抜け止め手段があること」という概念で共通する。
次に,公然実施発明の「筒状ケースとボールハウジング」とからなるものが本件発明の「第1ディスク」に相当することを踏まえると,前記対応表の項目9にある,公然実施発明の「筒状ケース軸心部・ボールハウジング軸心部・外周部異形固定カム軸心部・ばね軸心部」は,本件発明の「第1ディスク軸心部・第2ディスク軸心部・コイルスプリング軸心部」に相当する。
続いて,前記対応表の項目11にある,公然実施発明の「ボールハウジングの軸部分と2本の凹線とがばねに抗して筒状ケースの内部と凸条部の外部とにそれぞれ嵌め込まれていること」と,本件発明の「摺動ディスクのディスク本体と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とがコイルスプリングに抗して筒状本体の内部とスライド用切込み溝の内部とにそれぞれ嵌め込まれていること」とは,「摺動ディスクのディスク本体と回動阻止兼スライド機構に嵌まり込む部分とがコイルスプリングに抗して筒状本体の内部と回動阻止兼スライド機構の所定部位とにそれぞれ嵌め込まれていること」という概念で共通する。
さらに,前記対応表の項目15にある,公然実施発明の「ボールハウジングと,筒状ケースに存在する筒状ケース内底部とが,これらの間にボールと同等長以上の離間空所を介在させていること」と,本件発明の「摺動ディスクと,筒状本体に存在するスライド用切込み溝の奥端縁12eとが,これらの間に係嵌凸部と同等長以上の離間貫通空所Sを介在させていること」とは,「摺動ディスクと,筒状本体に存在する所定部位とが,これらの間に係嵌凸状部と同等長以上の離間空所を介在させていること」という概念で共通する。
また,前記対応表の項目17にある,公然実施発明の「ボールハウジングと外周部異形固定カムとが相対回転したときに係合状態にあるボール・窪みがそれぞれ他の窪み・ボールに切り替わる」ことは,本件発明の「摺動ディスクと第2ディスクとが相対回転したときに係合状態にある係嵌凸部・係嵌凹所がそれぞれ他の係嵌凹所・係嵌凸部に切り替わる」ことと,「摺動ディスクと第2ディスクとが相対回転したときに係合状態にある係嵌凸状部・係嵌凹所がそれぞれ他の係嵌凹所・係嵌凸状部に切り替わる」という概念で共通する。
最後に,公然実施発明の「折畳み式携帯電話」は,本件発明の「折り畳み式機器」に相当する。

そうすると,本件発明と公然実施発明は次の点で一致する。
「第1ヒンジ筒を有する第1部材と第2ヒンジ筒を有する第2部材とを開閉自在に連結するための係嵌組成体であって,同一軸線上で隣接する第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒とにわたり装着されるものであること,および,係嵌組成体の構成要素として第1ディスクと第2ディスクとコイルスプリングと軸杆とを備えていてそのうちの第1ディスクが筒状本体と摺動ディスクとからなること,および,筒状本体と摺動ディスクとコイルスプリングとの相対関係において,摺動ディスクやコイルスプリングを嵌め込むためのもので第1ヒンジ筒に内嵌して第1ヒンジ筒に対して回り止め装着される筒状本体が摺動ディスクの筒状本体に対する回動阻止兼スライド機構を有すること,かつ,筒状本体の内部に嵌り込むディスク本体と回動阻止兼スライド機構の所定部位に嵌まり込んで筒状本体の軸線方向沿いにスライドするようにした部分とを有する摺動ディスクが筒状本体の内径や回動阻止兼スライド機構の形状に対応した周面形状を有すること,かつ,コイルスプリングが筒状本体内に嵌め込むことのできる外径を有していて筒状本体内で摺動ディスクに押し当てられるものであること,および,片面を第1突き合わせ端面とする摺動ディスクと片面を第2突き合わせ端面とする第2ディスクとの相対関係において,第2突き合わせ端面には複数の係嵌凹所が周方向に間隔をおいて形成されているとともに第1突き合わせ端面には各係嵌凹所と係合離脱自在に対応する複数の係嵌凸状部が形成され,前記係嵌凸状部は前記係嵌凹所との係嵌状態では前記筒状本体の開口部から突出すること,および,第2ヒンジ筒に内嵌して第2ヒンジ筒に対して回り止め装着され第1ディスクに相対している第2ディスクで第2突き合わせ端面の反対端面には,第2ヒンジ筒に装着されて抜け止め状態になる抜け止め手段があること,および,軸杆と第1ディスク・第2ディスク・コイルスプリングとの相対関係において,第1ディスク軸心部・第2ディスク軸心部・コイルスプリング軸心部のそれぞれを軸杆が貫通するものであること,および,上記各構成要素の組み立てについて,コイルスプリングが筒状本体内に嵌め込まれていること,かつ,第1突き合わせ端面を外面にした摺動ディスクの前記第1突き合わせ端面が係嵌凸状部と係嵌凹所との係嵌状態で前記筒状本体外にある第2ディスクの第2突き合わせ端面に突き合わさるように前記摺動ディスクのディスク本体と前記回動阻止兼スライド機構に嵌まり込む部分とがコイルスプリングに抗して筒状本体の内部と回動阻止兼スライド機構の所定部位とにそれぞれ嵌め込まれていること,かつ,第1突き合わせ端面と第2突き合わせ端面とが対面して摺動ディスクと第2ディスクとが互いに突き合わされていること,かつ,この集合した各構成要素の軸心部を軸杆が貫通しているとともに軸杆の両端部が筒状本体や第2ディスクに対して抜け止め固定されていること,および,この組み立て構造において,摺動ディスクと,筒状本体に存在する所定部位とが,これらの間に係嵌凸状部と同等長以上の離間空所を介在させていること,かつ,コイルスプリングが摺動ディスクを第2ディスク側へ押しつけていること,かつ,摺動ディスクと第2ディスクとが相対回転したときに係合状態にある係嵌凸状部・係嵌凹所がそれぞれ他の係嵌凹所・係嵌凸状部に切り替わる折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置の係嵌組成体。」

一方で,本件発明と公然実施発明は,大別すると,筒状本体が有する回動阻止兼スライド機構の構成に基づく相違,係嵌凸状部の構成及び形成場所に基づく相違,及び,抜け止め手段の構成に基づく相違,という3つの相違点がある。具体的な相違箇所としては次のとおりである。

[相違点1(回動阻止兼スライド機構の構成に基づく相違)]
・筒状本体が有する回動阻止兼スライド機構が,本件発明では「(筒状本体の周壁に有する)側端縁から軸線方向沿いに切り欠き形成された径方向に相対する2つのスライド用切込み溝」であるのに対し,公然実施発明では「ボールハウジングの外周部の2本の凹線と嵌合するように軸線方向に平行に向かい合うような状態で形成されている凸条部」である点(前記対応表の項目4参照)。

・回動阻止兼スライド機構の所定部位が,本件発明では「スライド用切込み溝の内部」であるのに対し,公然実施発明では「凸条部の外部」である点(同項目5及び11参照)。

・回動阻止兼スライド機構に嵌まり込んで筒状本体の軸線方向沿いにスライドするようにした部分が,本件発明では「ディスク本体の周面から径方向に延びる部分」であるのに対し,公然実施発明では「ボールハウジングの外周部の2本の凹線」である点(同項目5参照)。

・摺動ディスクの周面形状が対応する形状のうちの回動阻止兼スライド機構の形状が,本件発明では「切込み溝形状」であるのに対し,公然実施発明では「凸条部形状」である点(同項目5参照)。

・第1突き合わせ端面が,本件発明では「ディスク本体の端面と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面とがスライド用切込み溝を有する部分で筒状本体を横断した際に得られる前記筒状本体の内部の横断面とスライド用切込み溝の横断面とにそれぞれ相応した」構成を有するのに対し,公然実施発明ではかかる構成を有しない点(同項目5参照)。

・本件発明では「摺動ディスクの一部であってスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分がそこから露呈されている」構成であるのに対し,公然実施発明ではかかる構成を有しない点(同項目14参照)。

・筒状本体に存在する所定部位が,本件発明では「スライド用切込み溝の奥端縁12e」であるのに対し,公然実施発明では「筒状ケース内底部」である点(同項目15参照)。

・離間空所について,本件発明では離間「貫通」空所であると特定されるのに対し,公然実施発明ではかかる特定がなされていない点(同項目15参照)。

[相違点2(係嵌凸状部の構成及び形成場所に基づく相違)]
・係嵌凸状部が,本件発明では「係嵌凸部」であるのに対し,公然実施発明では「ボール」である点(同項目7等参照)。

・第1突き合わせ端面において複数の係嵌凸状部の形成される場所が,本件発明では「摺動ディスクのスライド用切込み溝内に嵌り込むようにディスク本体の周面から径方向に延びる部分」であると限定されているのに対し,公然実施発明ではかかる限定がなされていない点(同項目7参照)。

[相違点3(抜け止め手段の構成に基づく相違)]
・第2突き合わせ端面の反対端面にある抜け止め手段が,本件発明では反対端面に「設けられている」,「抜け止め弾性爪」であるのに対し,公然実施発明では反対端面に「突出している」,「止め輪にて抜け止め状態になる軸の先端部」である点(同項目8参照)。

(1-3)判断
[相違点1について]
2つの部材間の回動阻止兼スライド機構として,一方の部材に溝を設け,他方の部材にその溝に嵌り込む部分を設け,かかる「溝」と「溝に嵌り込む部分」との嵌合によって回動阻止兼スライド機構としての機能を実現するものは,甲10号証第2図に突条部6を有する係止盤5と長溝7を有する筒状部2Aとの関係として開示されるように周知の技術である。
そうすると,公然実施発明における筒状ケース(筒状本体)とボールハウジング(摺動ディスク)との間の回動阻止兼スライド機構としての機能を実現するために,凸条部と凹線とを用いるのに代えて,「溝」と「溝に嵌り込む部分」とを用いることは当業者が適宜設計し得る程度のことである。
その際,「溝に嵌り込む部分」が「溝」の内部に嵌り込むのは自明であるし,「溝に嵌り込む部分」を,ボールハウジング(「摺動ディスク」に相当)のどこに形成するかや,溝から露呈させるか否かについては,いずれも当業者が適宜設定すればよい程度のことであると認められる。また,「溝に嵌り込む部分」を「ディスク本体(「ボールハウジングの軸部分」が相当)の周面から径方向に延びる部分」と称することは任意に行えばよいものといえ,しかも,「溝に嵌り込む部分」に突条部6があるものや,「溝に嵌り込んだ部分」が溝から露呈しているものは,いずれも甲10号証に開示されている事項でもある。
また,第1突き合わせ端面の形状についても,ヒンジ装置としての機能を達する限りにおいて適宜設計し得るものといえるので,公然実施発明の回動阻止兼スライド機構として「溝(「スライド用切込み溝」に相当)」を採用した場合,「溝」と「溝に嵌り込む部分(「ディスク本体の周面から径方向に延びる部分」に相当)」に対応(「相応」に相当)した第1突き合わせ端面の形状とすることは当業者にとって格別の困難性を伴うことなく実施できたことである。
さらに,公然実施発明の回動阻止兼スライド機構として「溝」を採用した場合,離間空所は「溝」と「溝に嵌り込む部分」との間で考慮されるべきものになるから,筒状本体に存在する所定部位が「スライド用切込み溝の奥端縁」になり,また,離間空所を「離間貫通空所」と称することができることは,当業者に明らかな事項というべきものである。
したがって,公然実施発明に前記周知の技術を適用して前記相違点1に係る本件発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものというべきである。

[相違点2について]
甲10号証第2図に開示されるように,ヒンジの開閉保持を実現するために係合離脱する構成としての突条部6を,前記[相違点1について]で検討した回動阻止兼スライド機構における「溝に嵌り込む部分」に設けること,すなわち,「溝に嵌り込む部分」に係嵌凸状部を設けることは周知の技術である。
ここで,係嵌凸状部を第1突き合わせ端面のどこに形成するかは,当業者が適宜設計し得る程度のことであるものと認められるから,公然実施発明に前記周知の技術を適用し,係嵌凸状部の形成される場所を「溝に嵌り込む部分」,すなわち,「ディスク本体の周面から径方向に延びる部分」として具体化することは当業者が容易になし得たものである。
また,係嵌凸状部として,摺動ディスクとは別体のボールに代えて,一体の係嵌凸部とすることは,当業者にとって設計的事項に属する程度のものといえる。
そうすると,公然実施発明に前記周知の技術を適用して前記相違点2に係る本件発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものというべきである。

[相違点3について]
2つの部材を結合し抜け止め状態にする技術として,弾性爪を用いることは,甲17号証第2図の「枢支ピン7」や甲20号証図1の「係合片7」にみられるように,周知の技術である。
そして,ある構成を同様の機能を実現する他の周知の構成に置き換えて具体化することは当業者の設計的事項に属する程度のことであるから,公然実施発明の抜け止め手段として,止め輪及び軸の先端部に代え,周知の弾性爪を採用することは当業者にとって容易である。なお,抜け止め手段として弾性爪を採用する際に,反対端面に弾性爪を「設け」るように具体化することは当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。
そうすると,公然実施発明に前記周知の技術を適用して前記相違点3に係る本件発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものというべきである。

そして,本件発明のすべての発明特定事項から奏される効果も,公然実施発明及び前記周知の技術から当業者であれば予測し得る程度のものである。

なお,被請求人は,平成20年8月8日付け訂正請求書において,公然実施発明に甲10号証開示の周知の技術を適用しても,該訂正請求書に添付の参考図1(B)に示すように,「摺動ディスク12Bが第2ディスク13から離反すると共に,」「摺動ディスク12Bが筒状本体12A(参考図1(B)では図示していない)内に深く入り込むことになる」(訂正請求書13ページ末行ないし14ページ2行を参照)ので,本件発明の目的を達成することができない旨を主張している。
しかしながら,甲10号証については,「溝」と「溝に嵌り込む部分」とで回動阻止兼スライド機構の機能を実現できることが周知の技術であることを示すための証拠であり,当審において,甲10号証の全ての構成を公然実施発明に適用しようとするものではない。
そうすると,前記主張については採用できないものというほかない。

また、平成20年9月30日付け答弁書における請求人の主張も検討したが、結論に影響を与えるものではない。

したがって,本件発明は,公然実施発明及び前記周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明の特許は特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり,同法123条1項2号の規定により無効とすべきものである。

(1-4)無効理由その2のまとめ
以上のとおりであるから,無効理由その2には,理由があるというべきである。

(2)無効理由その1について
前記「(1)無効理由その2について」で示したとおり,本件発明は,甲5号証の公然実施発明に,甲10号証,甲17号証及び甲20号証に開示される周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。そして,前記「無効理由その2について」で検討した証拠は審判請求人が無効理由その1で示した証拠に全て含まれるものであるから,無効理由その1にも理由があるというべきである。

6.むすび
以上のとおりであるから,本件訂正を認めるものの,無効理由その1及びその2により,本件発明の特許は,無効とすべきものである。
審判に関する費用については,特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により,被請求人の負担とすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置の係嵌組成体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】第1ヒンジ筒を有する第1部材と第2ヒンジ筒を有する第2部材とを開閉自在に連結するための係嵌組成体であって、同一軸線上で隣接する第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒とにわたり装着されるものであること、および、係嵌組成体の構成要素として第1ディスクと第2ディスクとコイルスプリングと軸杆とを備えていてそのうちの第1ディスクが筒状本体と摺動ディスクとからなること、および、筒状本体と摺動ディスクとコイルスプリングとの相対関係において、摺動ディスクやコイルスプリングを嵌め込むためのもので第1ヒンジ筒に内嵌して第1ヒンジ筒に対して回り止め装着される筒状本体がその側端縁から軸線方向沿いに切り欠き形成された径方向に相対する2つのスライド用切込み溝を周壁に有すること、かつ、筒状本体の内部に嵌り込むディスク本体とスライド用切込み溝の内部に嵌まり込んで筒状本体の軸線方向沿いにスライドするように前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有する摺動ディスクが筒状本体の内径や切込み溝形状に対応した周面形状を有し、前記摺動ディスクは、前記ディスク本体の端面と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面とが前記スライド用切込み溝を有する部分で筒状本体を横断した際に得られる前記筒状本体の内部の横断面とスライド用切込み溝の横断面とにそれぞれ相応した連続する面形状の第1突き合わせ端面を有すること、かつ、コイルスプリングが筒状本体内に嵌め込むことのできる外径を有していて筒状本体内で摺動ディスクに押し当てられるものであること、および、片面を第1突き合わせ端面とする摺動ディスクと片面を第2突き合わせ端面とする第2ディスクとの相対関係において、第2突き合わせ端面には複数の係嵌凹所が周方向に間隔をおいて形成されているとともに第1突き合わせ端面で摺動ディスクのスライド用切込み溝内に嵌り込むようにディスク本体の周面から径方向に延びる部分には該各係嵌凹所と係合離脱自在に対応する複数の係嵌凸部が形成され、前記係嵌凸部は前記係嵌凹所との係嵌状態では前記筒状本体の開口部から突出すること、および、第2ヒンジ筒に内嵌して第2ヒンジ筒に対して回り止め装着され第1ディスクに相対している第2ディスクで第2突き合わせ端面の反対端面には、第2ヒンジ筒に装着されて抜け止め状態になる抜け止め弾性爪が設けられていること、および、軸杆と第1ディスク・第2ディスク・コイルスプリングとの相対関係において、第1ディスク軸心部・第2ディスク軸心部・コイルスプリング軸心部のそれぞれを軸杆が貫通するものであること、および、上記各構成要素の組み立てについて、コイルスプリングが筒状本体内に嵌め込まれていること、かつ、第1突き合わせ端面を外面にした摺動ディスクの前記第1突き合わせ端面が係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態で前記筒状本体外にある第2ディスクの第2突き合わせ端面に突き合わさるように前記摺動ディスクのディスク本体と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とがコイルスプリングに抗して筒状本体の内部とスライド用切込み溝の内部とにそれぞれ嵌め込まれていること、かつ、第1突き合わせ端面と第2突き合わせ端面とが対面して摺動ディスクと第2ディスクとが互いに突き合わされていること、かつ、この集合した各構成要素の軸心部を軸杆が貫通しているとともに軸杆の両端部が筒状本体や第2ディスクに対して抜け止め固定されていること、および、この組み立て構造において、摺動ディスクの一部であってスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分がそこから露呈されていること、かつ、摺動ディスクと、筒状本体に存在するスライド用切込み溝の奥端縁12eとが、これらの間に係嵌凸部と同等長以上の離間貫通空所Sを介在させていること、かつ、コイルスプリングが摺動ディスクを第2ディスク側へ押しつけていること、かつ、摺動ディスクと第2ディスクとが相対回転したときに係合状態にある係嵌凸部・係嵌凹所がそれぞれ他の係嵌凹所・係嵌凸部に切り替わることを特徴とする折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置の係嵌組成体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は折り畳み式計算機、パーソナルコンピュータ、携帯電話機、ワードプロセッサーなどの折り畳み機器にあって、その機器本体に開閉自在なるよう枢着されたカバーを、閉成時と任意の開成角度とにあって夫々の状態を保持でき、しかも適度の力で当該保持状態を解除することにより、カバーの開閉操作を円滑に行い得るようにした折り畳み式機器のカバーに係る広角度開閉保持可能なヒンジ装置に用い得る係嵌組成体に関する。
【0002】
【従来の技術】前掲携帯電話機などにあって、その機器本体を閉成しているカバーが不本意に開成したり、開成時のカバーが使用中に閉成してしまったりすることを防止するのに、係止爪やマグネットなどを用いる旧来のロック手段によるときは、デザイン、実装上の制約、コスト高や操作性などの諸点で満足すべき結果が得られていない。そこで当該欠陥を解消するため、既に特開平7-11831号公報に記載の提案がなされている。
【0003】上記提案のものは、図7ないし図10によって以下説示するような構成を有している。すなわち図7と図8により理解される通り、機器本体1とカバー2とが、ヒンジ3によって任意の開成角度α°だけ開閉自在に枢着され、当該ヒンジ3は機器本体1に固設の本体ヒンジ筒1aと、カバー2に固設のカバーヒンジ筒2aとを具備し、図8の如く本体ヒンジ筒1aの本体当接端面1bとカバーヒンジ筒2aのカバー当接端面2bとは、カバー2の開閉に際し摺接自在となっている。
【0004】そして、本体ヒンジ筒1aには、回転止め状態にして軸線方向へはスライド自在なるよう固定ディスク4が内嵌され、このために本体ヒンジ筒1aの内周面に設けたガイドリブ1cに、固定ディスク4のガイド溝4aが係合されている。一方カバーヒンジ筒2aには、これまた回転止め状態で可動ディスク5が内嵌され、このために図示例ではカバーヒンジ筒2aの奥行内面における溝2cに、可動ディスク5の端面に形成したリブ5aが係合されている。
【0005】さらに、当該従来例では上記固定ディスク4の固定突き合せ端面4bと、可動ディスク5の可動突き合せ端面5bの何れか一方、図示例では固定突き合せ端面4bに、図9(A)(C)および図10により理解される通り、係嵌凹所6が複数個(3個)、所定の周角度位置N1、N2、N3(カバー2の開成角度α°によって決定される位置)にあって設けられており、他方すなわち図示例では図9(B)(D)と図10に開示の如く、上記の係嵌凹所6に対して図10ではコイルスプリング7に基づく弾力により係合することになる複数個(2個)の係嵌凸部8が、所定の周角度位置P1、P2にあって可動突き合せ端面5bから突出されている。
【0006】ここで上記のコイルスプリング7は図10に示されている通り、固定ディスク4の固定突き合せ端面4bとは反対側にあって、外向きに開口された収納空洞4cに収納されていると共に、本体ヒンジ筒1aの外側から挿入した螺杆9を、コイルスプリング7から固定ディスク4そして可動ディスク5を貫通して、その螺部先端9aをカバーヒンジ筒2aの底部2dに刻設した螺止孔2eに螺着させるようにしている。ここで図中9bは螺杆9の頭部を示している。このため、コイルスプリング7は、その弾力により固定ディスク4を可動ディスク5側へ弾圧して、これにより係嵌凹所6に係嵌凸部8が係合することで、固定突き合せ端面4bが可動突き合せ端面5bに対して圧接することになる。
【0007】従って、図10から理解されるように、カバー2を開動させることで、カバーヒンジ筒2aと共に可動ディスク5が回動すると、その可動突き合せ端面5bから突設されている係嵌凸部8が、図9(E)に示す如く係嵌凹所6から円周方向へ脱出し、この際、コイルスプリング7の弾力に抗して固定ディスク4が、図10の左側へ移動することとなり、係嵌凸部8の先端部が、固定突き合せ端面4b上を摺動して円周方向へ回動することになる。
【0008】このため、図9にあって可動ディスク5の前記周角度位置P1、P2における係嵌凸部8が、カバー2の閉止状態では、固定ディスクの周角度位置N1、N2における係嵌凹所6に係嵌されているが、当該カバー2を開成角度α°だけ開成した際には、上記一対の係嵌凸部8が、夫々周角度位置N3、N1の周角度位置における係嵌凹所6に、その係嵌を切り替え得ることになる。
【0009】以上の如く構成することで、当該従来例によるときは、係止爪やマグネットによるロックに比し、カバー2が機器本体1に対し閉時および開時にあって、不本意に回動してしまうことがないようにすることができ、またカバー2を必要に応じ簡易に開閉操作でき前掲旧来例の欠陥を大幅に改善することができる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】このように上記従来のヒンジ装置によるときは、望ましい効果を発揮し得ることになるが、前掲図8等によって理解される通り、これを組み付けるためにはカバー2のカバーヒンジ筒2aに可動ディスク5を係合して、夫々の溝2cとリブ5aとを係嵌し、一方機器本体1の本体ヒンジ筒1aには固定ディスク4を嵌合して、夫々のガイドリブ1cとガイド溝4aとを係嵌する。さらにコイルスプリング7を固定ディスク4に嵌装した後、螺杆9をコイルスプリング7に挿通して当該螺杆9の螺部9aを、カバーヒンジ筒2aの底部2dに刻設した螺止孔2eに螺着することで、当該螺杆9の頭部9bによってコイルスプリング7の押縮による弾発力により固定ディスク4を押圧し、これによりその固定突き合わせ端面4bを、可動ディスク5の可動突き合わせ端面5bに圧接するといった組み付け作業を行わねばならない。
【0011】本発明は上記の如き欠陥を解消し得る係嵌組成体を提供しようとするもので、順次連装の第2ディスクと、第1ディスクの一部材である摺動ディスクと筒状本体との間に介装したコイルスプリングを同一軸線上に列装配設し、これらの構成部材には軸杆を挿通して抜け止め状態で一体に固装してしまうことで、コイルスプリングの弾力によって摺動ディスクを第2ディスクに弾接させ、摺動ディスクと第1ディスクの筒状本体におけるスライド用切込み溝の奥端縁との間に離間貫通空所を形成する。かくして前記折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置における第2部材(カバー)の開閉動に際し、筒状本体の側端縁から軸線方向へ欠設された上記スライド用切込み溝には、第1ディスクの摺動ディスクが露呈状態で軸線方向へ、上記の離間貫通空所内にて移動可能となるように一体化するのである。このようにすることで、本発明によるときは当該係嵌組成体を簡易な操作で第1、第2ヒンジ筒に嵌合しさえすれば、それだけで第1、第2ヒンジ筒に対して係嵌状態を確保することができ、かくして第1、第2部材の開閉自在なる枢着状態が確保され、折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジにつき、その組立てのための作業を飛躍的に迅速かつ容易に実施し得るようにし、かつ第2ディスクに抜け止め弾性爪を設けておくことで、係嵌組成体の抜け止め状態を確保しようとするのが、その目的である。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明に係る折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置の係嵌組成体は所期の目的を達成するために下記の課題解決手段を特徴とする。すなわち本発明の係嵌組成体は、第1ヒンジ筒を有する第1部材と第2ヒンジ筒を有する第2部材とを開閉自在に連結するための係嵌組成体であって、同一軸線上で隣接する第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒とにわたり装着されるものであること、および、係嵌組成体の構成要素として第1ディスクと第2ディスクとコイルスプリングと軸杆とを備えていてそのうちの第1ディスクが筒状本体と摺動ディスクとからなること、および、筒状本体と摺動ディスクとコイルスプリングとの相対関係において、摺動ディスクやコイルスプリングを嵌め込むためのもので第1ヒンジ筒に内嵌され第1ヒンジ筒に対して回り止め装着される筒状本体がその側端縁から軸線方向沿いに切り欠き形成された径方向に相対する2つのスライド用切込み溝を周壁に有すること、かつ、筒状本体の内部に嵌り込むディスク本体とスライド用切込み溝の内部に嵌まり込んで筒状本体の軸線方向沿いにスライドするように前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有する摺動ディスクが筒状本体の内径や切込み溝形状に対応した周面形状を有し、前記摺動ディスクは、前記ディスク本体の端面と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面とが前記スライド用切込み溝を有する部分で筒状本体を横断した際に得られる前記筒状本体の内部の横断面とスライド用切込み溝の横断面とにそれぞれ相応した連続する面形状の第1突き合わせ端面を有すること、かつ、コイルスプリングが筒状本体内に嵌め込むことのできる外径を有していて筒状本体内で摺動ディスクに押し当てられるものであること、および、片面を第1突き合わせ端面とする摺動ディスクと片面を第2突き合わせ端面とする第2ディスクとの相対関係において、第2突き合わせ端面には複数の係嵌凹所が周方向に間隔をおいて形成されているとともに第1突き合わせ端面で摺動ディスクのスライド用切り込み溝内に嵌り込むようにディスク本体の周面から径方向に延びる部分には該各係嵌凹所と係合離脱自在に対応する複数の係嵌凸部が形成され、前記係嵌凸部は前記係嵌凹所との係嵌状態では前記筒状本体の開口部から突出すること、および、第2ヒンジ筒に内嵌して第2ヒンジ筒に対して回り止め装着され第1ディスクに相対している第2突き合わせ端面の反対端面には、第2ヒンジ筒に装着されて抜け止め状態になる抜け止め弾性爪が設けられていること、および、軸杆と第1ディスク・第2ディスク・コイルスプリングとの相対関係において、第1ディスク軸心部・第2ディスク軸心部・コイルスプリング軸心部のそれぞれを軸杆が貫通するものであること、および、上記各構成要素の組み立てについて、コイルスプリングが筒状本体内に嵌め込まれていること、かつ、第1突き合わせ端面を外面にした摺動ディスクの前記第1突き合わせ端面が係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態で前記筒状本体外にある第2ディスクの第2突き合わせ端面に突き合わさるように前記摺動ディスクのディスク本体と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とがコイルスプリングに抗して筒状本体の内部とスライド用切込み溝の内部とにそれぞれ嵌め込まれていること、かつ、第1突き合わせ端面と第2突き合わせ端面とが対面して摺動ディスクと第2ディスクとが互いに突き合わされていること、かつ、この集合した各構成要素の軸心部を軸杆が貫通しているとともに軸杆の両端部が筒状本体や第2ディスクに対して抜け止め固定されていること、および、この組み立て構造において、摺動ディスクの一部であってスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分がそこから露呈されていること、かつ、摺動ディスクと、筒状本体に存在するスライド用切込み溝の奥端縁12eとが、これらの間に係嵌凸部と同等長以上の離間貫通空所Sを介在させていること、かつ、コイルスプリングが摺動ディスクを第2ディスク側へ押しつけていること、かつ、摺動ディスクと第2ディスクとが相対回転したときに係合状態にある係嵌凸部・係嵌凹所がそれぞれ他の係嵌凹所・係嵌凸部に切り替わることを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明に係る係嵌組成体Cにつき図1?図6によって以下詳記すると、図1の(A)によって理解される通り、折り畳み式機器の第1部材Aにおける一端縁部にあって突設された第1ヒンジ筒10と、第2部材Bの一端縁部にあって突設された第2ヒンジ筒11とに嵌入係止されるよう構成されている。ここで図示例では第1部材Aが機器本体であり、第2部材Bは機器本体に対して開閉自在であるカバーを選定しているが、もちろん、これとは逆に第1部材Aをカバーとし、第2部材Bを機器本体として特定するようにしてもよい。
【0014】上記の第1ヒンジ筒10と第2ヒンジ筒11とは、既知の通り同一軸線上にあって、第1ヒンジ筒10の第1当接端周縁10aと、第2ヒンジ筒11の第2当接端周縁11aとが対向しており、これまた前記従来の如く上記の第1ヒンジ筒10には、図1(B)(C)、図2そして図3で理解される通り、回転止め状態で係嵌組成体Cの第1ディスク12が内嵌され、第2ヒンジ筒11には、これまた回転止め状態で同上係嵌組成体Cの第2ディスク13が夫々内嵌され得るように形成されている。さらに、これまた従来例と同じく第2ディスク13の第2突き合わせ端面13aに、係嵌凹所13bを所定の周角度位置にあって複数個だけ設け、第1ディスク12の第1突き合わせ端面12aには上記係嵌凹所13bに対して、コイルスプリング14による弾力により係合する複数の係嵌凸部12bが設けられ、第1、第2部材A、Bの閉時と開時にあって、上記係嵌凸部12bの係嵌凹所13bへの係嵌を、他の係嵌凹所13bへ切り替えるように構成されている。
【0015】そして上記した第1ディスク12は、筒状本体12Aと、この筒状本体12Aに嵌り込むディスク本体と筒状本体12Aの側端縁12cから軸線方向へ欠設されたスライド用切込み溝12dに露呈状態で内嵌するようにディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有して筒状本体12A内でスライド用切込み溝12dに沿って軸線方向へスライド自在に嵌装した摺動ディスク12Bとからなっている。摺動ディスク12Bは、ディスク本体の端面とこのディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面とがスライド用切込み溝12dを有する部分で筒状本体12Aを横断した際に得られる筒状本体12Aの内部の横断面とスライド用切込み溝12dの横断面とにそれぞれ相応した連続する面形状の第1突き合わせ端面12aを有する。当該摺動ディスク12Bのスライド用切込み溝12dに嵌り込むようにディスク本体の周面から径方向に延びる部分には図示の如く係嵌凸部12bを設け、さらに前記第2ディスク13には抜け止め弾性爪13cを設けるようにしている。係嵌凸部12bは、係嵌凹所13bとの係嵌状態では、筒状本体12Aの開口部から突出するようになっている(図1(B)及び図2参照)。また上説の順次連装した第2ディスク13、第1ディスク12における摺動ディスク12Bそしてコイルスプリング14、そして第1ディスク12における筒状本体12Aに装入された軸杆15を、抜け止め状態にて固定することにより、上記のコイルスプリング14の弾力によって、前記の摺動ディスク12Bにおける第1突き合わせ端面12aを第2ディスク13の第2突き合わせ端面13aに弾接させるのであるが、摺動ディスク12Bのディスク本体とこのディスク本体の周面から径方向に延びる部分とは、係嵌凸部12bと係嵌凹所13bとの係嵌状態で摺動ディスク12Bの第1突き合わせ端面12aが筒状本体12A外にある第2ディスク13の第2突き合わせ端面13aに突き合わさるように筒状本体12Aの内部とスライド用切込み溝12dとにそれぞれ嵌め込まれている。
【0016】上記の弾接により、摺動ディスク12Bと前記したスライド用切込み溝12dにおける奥端縁12eとの間にあって、係嵌凸部12bと同等長以上の離間貫通空所Sが、図1(B)において明示の如く形成されることで、これまで説示して来た係嵌組成体Cが構成されている。ここで上記の構成説明中にあって、前記の第1ヒンジ筒10に対する筒状本体12Aの回転止め状態による嵌合のため、図示例では第1ヒンジ筒10の内周面に軸線方向へ対設したガイドリブ10bに対して、筒状本体12Aの外周面に軸線方向へ対設したガイド溝12fを係嵌するようにしてある。
【0017】すなわち、ここで図示例における細部につき説示すると、前記軸杆15は第2ディスク13、摺動ディスク12B、コイルスプリング14そして第1ディスク12の筒状本体12Aを一体に軸装することになるが、その構成は頭部15aから連設された回り止め基端部15bと、さらに連設の棒状部15c、そして当該棒状部15cに連設の細成先端部15dとからなり、これにより棒状部15cには先端受承縁15eが形成されている。そして上記の回り止め基端部15bは、前記第2ディスク13に貫設された回り止め軸孔13dに嵌合されることで、第2部材Bを開閉動させれば第2ヒンジ筒11と共に第2ディスク13も回動することになり、この際図示例では回り止め基端部15bと回り止め軸孔13dとは四角形に形成されている。
【0018】さらに上記軸杆15の細成先端部15dには、第1ディスク12の筒状本体12Aにおける端縁に当接してワッシャー16が被嵌されており、当該細成先端部15dの端末を、かしめることにより、当該ワッシャー16を棒状部15cの前記した先端受承縁15eに押当固定するようにしてある。
【0019】また第2ディスク13としては図1ないし図3の如く、係嵌凹所13bを設けた基板部13Aと、これから突設されている弾性爪部13Bとから構成されており、この弾性爪部13Bには、一対の可変腕13eが先細りのテーパ面13fを備えて突設されていると共に、当該先細りのテーパ面13fの基端側に前記の抜け止め弾性爪13cが形成されている。そして図6に示されている第2ディスク13にあっては4箇の可変腕13eが突設され、上記の弾性爪部13Bが角形に形成されているのに対し、割筒状に構成されている。
【0020】また図示例では前記の第2ヒンジ筒11に、角形とした回り止め筒軸口11bが側壁11cに開口されており、第2ディスク13がヒンジ筒11に対して前記の如き係嵌組成体cの嵌装操作により内装されることで、第2ディスク13の先細りのテーパ面13fをもった可変腕13eが縮径状態となって、上記の回り止め筒軸口11bに嵌入して行き貫通状態となって縮径状態が復原することにより、抜け止め弾性爪13cが、上記の側壁11cにおける外壁面に係止されることになる。従って図示例によるときは上記の基板部13Aと弾性爪部13Bにおける抜け止め弾性爪13cとの間にあって、第2ヒンジ筒11の側壁11cから軸心側へ突設されて、前記回り止め筒軸口11bの開口されている抜け止め周縁部11dが挟持されるようになっており、このことで係嵌組成体cは、連装された第1ヒンジ筒10と第2ヒンジ筒11とにわたって脱落することなく確実に内装されることになる。
【0021】従って図示例では第2部材Aを第1部材Bに対して開閉動させることで、前記の従来例と同様にして第2ヒンジ筒11の回動と共に第2ディスク13を回動させ、これによりコイルスプリング14の弾力に抗して、係嵌状態にあった係嵌凹所13bと係嵌凸部12bとの係合を解き、係嵌凸部12bが第2ディスク13の第2突き合わせ端面13aと摺動することになり、この際摺動ディスク12Bは図1(B)の右方へ移動するが、離間貫通空所Sの設定により支障なく当該移動が行われ、第2部材Bは閉成状態の保持から開成状態の保持位置に切り替えられることになる。
【0022】また、ここで図示例では当該係嵌組成体Cにあって、その第1ディスク12における筒状本体12Aの側端部を閉止キャップ17によって閉成することにより、外観をよくすると共に、係嵌組成体Cへの塵埃侵入を阻止するようにしている。上記閉止キャップ17として例示のものは、図3によって理解される通り、外観板部17aと内側係止板部17bとの間にあって、側方へ係嵌口17cを開成するようにした係嵌空所17dが離間形成されている。そして係嵌組成体Cにおける前説したワッシャー16に対し、これを前記の係嵌口17eから係嵌空所17dに収納し、この状態から閉止キャップ17を開動操作することにより、当該ワッシャ16に内側係止板部17bを抜け止め状態にて係嵌被装するのである。
【0023】
【発明の効果】本発明に係る係嵌組成体は以上のようにして構成されていることから、多数の構成部品を夫々一個宛折り畳み機器に組み込んで行く作業を要せず、しかも係嵌組成体の組み付けも各種部品に軸杆を挿通して抜け止め状態に固定するだけの作業により簡易にして迅速に構成することができる。しかも第1ディスクは、筒状本体と、この筒状本体に嵌り込むディスク本体と筒状本体のスライド用切込み溝に内嵌するようにディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有して筒状本体内でスライド用切込み溝に沿ってスライド自在とした摺動ディスクとにより構成し、かつ離間貫通空所を設定するようにしたから、この種折り畳み機器の開閉保持用ヒンジ装置としての必要かつ充分な機能性を満足させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)は本発明に係る係嵌組成体を折り畳み式機器に組み込んで、開閉保持用ヒンジ装置を組み立てる状況を示した分解略示斜視説明図、(B)はその組立完成時における縦断正面図で、(C)は同上組立完成時の第2ヒンジ筒を示した端面図である。
【図2】図1(B)に係る組立完成時における横断平面図である。
【図3】本発明に係る係嵌組立体を示した分解斜視図である。
【図4】本発明に係る係嵌組成体の一部品である第2ディスクを示し、(A)はその正面図、(B)はその右側面図、(C)はその背面図で(D)はその上面図である。
【図5】本発明に係る係嵌組成体の一部品である摺動ディスクを示し、(A)はその正面図、(B)はその右側面図、(C)はその背面図で(D)はその上面図である。
【図6】本発明に係る第2ディスクの他実施例を示した斜視図である。
【図7】従来の折り畳み式機器の開成状態を示した斜視図である。
【図8】同上図7の要部を示す分解斜視図である。
【図9】(A)は図8の構成部材である固定ディスクの固定突き合わせ端面図、(B)は可動ディスクを示す可動突き合わせ端面図、(C)は(A)のC-C線断面図、(D)は(B)のD-D線断面図、(E)は(C)の固定ディスクと(D)の可動ディスクの係嵌離脱途上を示す縦断面図である。
【図10】図9の構成部材による従来のヒンジ装置を示した縦断正面図である。
【符号の説明】
10 第1ヒンジ筒
11 第2ヒンジ筒
12 第1ディスク
12A 筒状本体
12B 摺動ディスク
12a 第1突き合わせ端面
12b 係嵌凸部
12c 側端縁
12d スライド用切込み溝
12e 奥端縁
13 第2ディスク
13a 第2突き合わせ端面
13b 係嵌凹所
13c 抜け止め弾性爪
14 コイルスプリング
15 軸杆
A 第1部材
B 第2部材
C 係嵌組成体
S 離間貫通空所
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-09-25 
結審通知日 2008-09-29 
審決日 2008-05-09 
出願番号 特願2000-350147(P2000-350147)
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (E05D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 多田 春奈  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 本庄 亮太郎
田良島 潔
登録日 2003-09-12 
登録番号 特許第3471743号(P3471743)
発明の名称 折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置の係嵌組成体  
代理人 菊池 新一  
代理人 森田 政明  
代理人 菊池 新一  
代理人 森 正澄  
代理人 菊池 徹  
代理人 菊池 徹  

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