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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A41B
管理番号 1207025
審判番号 不服2007-28010  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-11 
確定日 2009-11-12 
事件の表示 特願2002-1732「使い捨ておむつ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年7月15日出願公開、特開2003-199784〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 本願発明
本願は、平成14年1月8日の出願であって、その請求項1ないし4に係る発明は、平成18年7月27日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1は次のとおり記載されている。
「【請求項1】 透液性のトップシートと不透液性のバックシートとの間に保液性の吸収体を備え、少なくとも前記バックシートは吸収体より側方へ延出してサイドフラップを形成している使い捨ておむつにおいて、
前記サイドフラップ上または吸収体上に貼着されて立体ギャザーの基端を形成する立体ギャザーシートが、吸収体の側縁部分を覆いつつ吸収体の長手方向に沿って設けられており、
着用時に前記吸収体上に起立する立体ギャザーの先端側部分は撥水性である一方、前記吸収体上に接離可能に重なる基端側部分は親水性であることを特徴とする使い捨ておむつ。」
(以下、請求項1に係る発明を「本願発明1」という。)

2 刊行物の記載事項
当審における平成21年5月15日付け拒絶理由通知書の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である実願平2-403992号(実開平4-90322号)のマイクロフィルム(以下、「引用例」という。)には、次の記載がある。
「【請求項1】 透液性内面シートと不透液性外面シートとの間に位置した吸液性コアの対向側に、これらの縦方向へ並列し、弾性収縮性を有する第1及び第2分岐フラップを備えた使い捨て着用物品において、
前記第1分岐フラップが前記コアの対向側で分岐しその弾性収縮力でその分岐縁から起き上がる性向を有し、前記第2分岐フラップが前記第1分岐フラップの分岐縁よりも内側で分岐しその収縮力でその分岐縁から起き上がる性向を有し、
前記第2分岐フラップが不透液性シートから成り、前記第2分岐フラップの外側面から内側面への透液が可能であるとともにその内側面から外側面への透液が困難又は不可能であって、その外側面から内側面へ次第に径が小さくなったテーパー状の透液孔を所与間隔で有していることを特徴とする前記着用物品。」
「【0006】【作用】…着用状態では、第1分岐フラップの自由縁が着用者の大腿に、かつ、第2分岐フラップの自由縁が着用者の大腿付根に弾性的にそれぞれ圧接する。何らかの原因で第2分岐フラップを外側へ越えて第1及び第2分岐フラップ間に介在した排泄液は、第2分岐フラップの透液孔から両第2分岐フラップ間に逆流して吸液性コアに吸収されることになる。」
「【0008】図1ないし図3に示すように、オムツ10は、透液性内面シート11と、不透液性外面シート12と、吸液性コア13と、両側にそれぞれ位置する、ベースフラップ14、第1分岐フラップ15及び第2分岐フラップ16とを有している。ベースフラップ14は、コア13の外側縁から外側方向へ延出し互いに接着剤又は溶着(超音波溶着を含む)で接合する内外面シート部分17,18から成っている。
【0009】第1及び第2分岐フラップ15,16は、シート19から成り、そのほぼ中央部がベースフラップ14の上面に接着剤又は溶着(超音波溶着を含む)で接合している。……第2分岐フラップ16は、自由縁に形成されたスリーブ部23内に、その長さ方向への伸長下に取り付けられたもう一つの弾性部材24で弾性伸縮化され、その弾性伸縮力でベースフラップ14上の分岐縁25を支点として起き上がる性向を有している。……第2分岐フラップ16は、起き上がり状態で、かつ、内側へ倒された状態で、その長さ方向対向端部27において接着剤又は溶着(超音波溶着を含む)でベースフラップ14及びコア13上に接合固定され、これによって比較的深いポケット33が形成されている。第1及び第2分岐フラップ15,16は、それぞれの長さ方向対向端部26,27の間の中央部が前記起き上がり性向を有しているが、その長さ方向へほぼ引張限界まで引っ張られると、内側へ倒れる。…」
「【0012】図4に示す実施例のベースフラップ14においては…外面シート部分18が内面シート部分17の外側縁から延出するようにベースフラップ14が形成されている。内面シート部分17が位置していない外面シート部分18に第1及び第2分岐フラップ15,16を形成するシート19の一部が接合している。この実施例においては…外面シート部分18に不透液性である第1及び第2分岐フラップ15,16の不透液性シート19が、それらの間に透液性である内面シート部分17が介在することなく接合しているので、体液が内面シート部分17に浸透拡散したとしても、ベースフラップ14の外側縁から漏れることがない。」
「【0016】…第1及び第2分岐フラップ15,16には、撥水剤で処理された不織布が用いられる。…」
以上の記載並びに第1図ないし第9図によれば、引用例には、次の発明が記載されているものと認められる。
「透液性内面シートと不透液性外面シートとの間に吸液性コアを備え、内外面シートは吸液性コアの外側方向へ延出してベースフラップを形成し、吸液性コアの対向側に、弾性収縮性を有する第1及び第2分岐フラップを備えた使い捨てオムツにおいて、
ベースフラップ上に接着されて分岐点を支点として起き上がる第2分岐フラップが吸液性コアの側縁部分を覆いつつ吸液性コアの長手方向に沿って設けられており、
第2分岐フラップが撥水剤で処理された不織布からなる不透液性シートで形成され、第2分岐フラップの外側面から内側面への透液が可能であるとともにその内側面から外側面への透液が困難又は不可能であって、その外側面から内側面へ次第に径が小さくなったテーパー状の透液孔を所与間隔で有している、使い捨てオムツ。」

3 対比
本願発明1と引用例記載の発明とを対比すると、引用例記載の発明の
「透液性内面シート」、「不透液性外面シート」、「吸液性コア」、「ベースフラップ」、「第2分岐フラップ」、「撥水剤で処理された不織布からなる不透液性シート」及び「分岐点」は、それぞれ本願発明1の「透液性のトップシート」、「不透液性のバックシート」、「吸収体」、「サイドフラップ」、「立体ギャザー」、「立体ギャザーシート」及び「立体ギャザーの基端」に相当する。
本願発明1は、立体ギャザーの「基端側部分は親水性である」ことにより、立体ギャザーの先端側部分を越えてサイドフラップの方へ流出した尿が、基端側部分に誘導されて吸収体に回収され、肌とサイドフラップとの間に尿が滞留することが防がれて、着用者の肌のかぶれや蒸れ等の不快感を抑えるものである(本願明細書段落【0029】、【0030】参照。)。そして、本願明細書には、立体ギャザーを形成する立体ギャザーシートに関して、「立体ギャザーシート41は、親水性のシート基材における、前記先端側部分47に相当する部分のみを撥水加工することで得られる。親水性のシート基材としては不織布や織布等であり、これらの構成繊維は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ナイロン等の単繊維、またはポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ナイロン等のうちの2成分からなる複合繊維を用いることができる。」と記載されている(本願明細書段落【0031】参照。)。
上記本願明細書の記載によると、本願発明1でいう、立体ギャザーの基端側部分の「親水性」は、透液性を含むものと解される。
一方、引用例記載の発明において、第2分岐フラップを外側へ越えて第1及び第2分岐フラップ間に介在した排泄液は、第2分岐フラップの透液孔から両第2分岐フラップ間に逆流して吸液性コアに吸収されることになる(段落【0006】参照。)から、第2分岐フラップのテーパー状の透液孔を有している部分は、本願発明1の「基端側部分」に相当し、親水性であるといえる。
また、撥水剤で処理された不織布からなる不透液性シートで形成されている第2分岐フラップの先端側部分は、撥水性であることは明らかである。
さらに、引用例記載の発明では、第2分岐フラップの先端側部分は、例えば、図3、図4に図示されているように、着用時に吸収性コア上に起立することは、当業者にとって自明である。
そうすると、両者は、
「透液性のトップシートと不透液性のバックシートとの間に保液性の吸収体を備え、少なくとも前記バックシートは吸収体より側方へ延出してサイドフラップを形成している使い捨ておむつにおいて、
前記サイドフラップ上に貼着されて立体ギャザーの基端を形成する立体ギャザーシートが、吸収体の側縁部分を覆いつつ吸収体の長手方向に沿って設けられており、
着用時に前記吸収体上に起立する立体ギャザーの先端側部分は撥水性である一方、基端側部分は親水性である使い捨ておむつ」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点
本願発明1では、基端側部分が吸収体上に接離可能に重なるのに対して、引用例記載の発明では、基端側部分が吸収体上に接離可能に重なるか否か不明である点。

4 相違点の検討
そこで、上記相違点について検討する。
着用時に排泄物の側方への漏れを防止する機能を有する立体ギャザーを備えた使い捨ておむつにおいて、立体ギャザーの基端側部分が吸収体上に接離可能に重なるようにすることは、本願の出願前に周知の技術である(例えば、ア:特開2000-300606号公報、イ:特開2000-232993号公報、ウ:特開2000-217862号公報、エ:実願平4-73615号(実開平6-29520号)のCD-ROM参照。)から、引用例記載の発明における立体ギャザーに上記周知の技術を適用して、相違点に係る本願発明1の事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

審判請求人は、当審における平成21年5月15日付けの拒絶理由通知書に対する、平成21年7月17日付けの意見書(1頁下から3行ないし2頁25行参照。)において、本願発明1は、「着用時に前記吸収体上に起立する立体ギャザーの先端側部分は撥水性である一方、前記吸収体上に接離可能に重なる基端側部分は親水性である」という特徴的な構成要件を備えることにより、次のような格別なる作用効果を奏すると主張している。
「作用効果1:『着用時に吸収体上に起立する立体ギャザーの先端側部分は撥水性になっているので、この先端側部分が堰となって前記トップシート上に尿を堰き止めるとともに、堰き止めきれずに前記先端側部分を越えた尿は、前記サイドフラップの方へと流れ出すが、その場合には、当該先端側部分を越えた位置にある基端側部分が親水性であるために、この基端側部分により前記尿は吸収体へと誘導されて回収され、これにより、肌とサイドフラップとの間に尿が滞留することを防ぐことができる。
作用効果2:立体ギャザーの基端側部分は吸収体上に接離可能に重なっているので、吸収体上から離れれば、堰の高さも高くなるとともに、堰き止めに供する空間も側方方向の外側に拡大し、もって尿の堰き止め能力が高くなる。つまり、上述したように、立体ギャザーで堰き止められずに先端側部分を超えた尿を、基端側部分はその親水性に基づいて吸収体へ誘導できるのみならず、当該基端側部分が吸収体上に接離可能であるが故に、吸収体が尿を吸収した重みで下方にずり下がっても、これに追従して立体ギャザーはその基端側部分が吸収体上から離間して伸び、当該立体ギャザーの先端側部分は装着者の股部に可及的に近接された位置に保持される。このため、立体ギャザーの本来機能である尿の堰き止め能力も高めることができる。
作用効果3:おむつを装着直後、排尿がない状態では、立体ギャザーの基端側部分が吸収体に接した状態で使用する。装着直後から立体ギャザーの基端側部分が吸収体から離れていると、おむつと装着者の股部で挟まれて立体ギャザーが十分起立できず、装着時の違和感につながるが、基端側部分が接離可能であれば、これを防止できる。
作用効果4:おむつを装着後、ある程度排尿がある状態では、立体ギャザーの基端側部分を吸収体から離した状態で使用する。これは、尿を吸収した吸収体がその重みで垂れ下がるためであり、その結果、おむつと装着者の股部の空間が広がり、立体ギャザーが十分起立出来る。よって、装着時の違和感なく立体ギャザーの起立高さを確保でき横モレを防止可能になる。」
しかし、引用例の段落【0006】には、第2分岐フラップ(本願発明1の「立体ギャザー」に相当。)の自由縁が着用者の大腿付根に弾性的に圧接し、何らかの原因で第2分岐フラップを外側へ越えた排泄液は、第2分岐フラップの透液孔から両第2分岐フラップ間に逆流して吸液性コアに吸収されることが記載されてているとともに、引用例記載の発明における第2分岐フラップ先端側部分が撥水性であることは既述したように明らかであるから、審判請求人が主張する作用効果1は、引用例記載の発明が奏する効果と格別の差異がない。
また、着用時に排泄物の側方への漏れを防止する機能を有する立体ギャザの基端側部分が吸収体上に接離可能に重なるようにした、上記周知の使い捨ておむつにおいて、吸収体が尿を吸収すると重みで下方にずり下がり、立体ギャザーの基端側部分が吸収体から離間することは、当業者にとって明らかな事項であるから、審判請求人が主張する作用効果2は、上記周知の使い捨ておむつが奏する作用効果と格別の差異がない。
さらに、装着後、排尿がない状態で、立体ギャザーの基端側部分が吸収体に接した状態とするか、又は接しない状態とするかは、立体ギャザーの幅や、立体ギャザーを起立させる先端部の糸状弾性ゴムの強さをどのように設定するかにより決まるのであり、装着後、排尿がない状態で、立体ギャザーの基端側部分が吸収体に接した状態とすることは、「基端側部分を吸収体状に接離可能に重ねる」ことのみにより決まるものではないから、審判請求人が主張する作用効果3は、本願発明1が奏する作用効果とはいえないとともに、上記周知の使い捨ておむつも、立体ギャザーの幅や、立体ギャザーを起立させる先端部の糸状弾性ゴムの強さについて所望の設定をすれば、作用効果3と同様の作用効果を奏するものと認められる。
また、既述したように、上記周知の使い捨ておむつにおいて、吸収体が尿を吸収すると重みで下方にずり下がり、立体ギャザーの基端側部分が吸収体から離間することは、当業者にとって明らかな事項であるから、審判請求人が主張する作用効果4は、上記周知の使い捨ておむつが奏する作用効果と格別の差異がない。
以上のように、本願発明1が奏する効果も、引用例記載の発明及び周知の技術から当業者が予測し得たものであって、格別顕著なものとはいえない。
したがって、本願発明1は、引用例記載の発明及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-09 
結審通知日 2009-09-15 
審決日 2009-09-29 
出願番号 特願2002-1732(P2002-1732)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A41B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 二ッ谷 裕子山口 直  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 村山 禎恒
佐野 健治
発明の名称 使い捨ておむつ  
代理人 一色国際特許業務法人  

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