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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A41B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A41B
管理番号 1207417
審判番号 不服2008-22927  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-05 
確定日 2009-11-18 
事件の表示 特願2003-334068「吸収性物品」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 4月14日出願公開、特開2005- 95420〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年9月25日の出願であって、平成20年7月24日付けでなされた拒絶査定に対し、これを不服として、平成20年9月5日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成20年10月6日に、特許請求の範囲及び明細書を対象とする手続補正書が提出されたものである。

第2 平成20年10月6日になされた手続補正についての補正却下の決定
【補正却下の決定の結論】
平成20年10月6日になされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
【理由】
1.本件補正
本件補正は、平成19年11月12日に補正された特許請求の範囲の請求項1を、更に以下のように補正するものである。
「透液性の上層シートと、下層シートと、両シートの間に介在するとともに透液性の被覆材により覆われた吸収体とを備えた吸収性物品であって、
前記上層シートは、装着面を有するトップシート、及び前記被覆材に接するセカンドシートから構成され、
前記セカンドシートは、前記吸収体側に位置する吸収体側面に、抗菌性の無機成分または消臭性の無機成分の少なくとも一方から成る無機成分にバインダーが配合された塗工液を塗工し熱乾燥する工程とを経て製造される一方、
前記塗工液は前記無機成分100重量部に対して前記バインダーの配合量Nが以下の範囲
0重量部<N<5重量部
に設定されたことを特徴とする吸収性物品。」
そして、この補正は、セカンドシートを、「熱乾燥する工程とを経て製造される」と、製造方法を特定するものであるから、補正前の請求項1に記載されていた、発明を特定するために必要な事項を限定するものである。また、この補正が、産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものでもないことは明らかである。
そこで、補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかについて、次に検討する。

2.本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)は、本件補正後の特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項(上記「1.本件補正」を参照)により特定されたとおりのものと認める。

3.引用発明
原査定の拒絶理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、特開2001-198154号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。

<引用文献>
「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決すべく、二酸化ケイ素やゼオライト等の多孔性無機粒子をその消臭機能や吸湿機能などを損なうことなく吸水シート(繊維構造物)に担持させる方法について日夜研究を重ねていたところ、これらの無機粒子(機能性粒子)を酸化亜鉛と併用することにより、とくにバインダーなどを用いなくても繊維間に比較的強く付着若しくは担持させることができることを見出した。本発明者らはその理由を解明すべく更に検討を重ねたところ、上記機能性粒子と酸化亜鉛とを併用することにより、酸化亜鉛が機能性粒子を付着若しくは抱き込んで凝集・顆粒化し、その結果、ソフト感や風合いといった良好な肌触り感の発揮に有用なポーラスで低密度な繊維構造物(シート)に対しても歩留りがよく少量の機能性粒子の使用で所望の機能を効果的に発揮する高品質な体液吸収材が製造できること、また体液が触れても粒子が脱落しないため、体液吸収材の表面に露出して肌を刺激する等といった問題も生じず、安全性に優れることなどを確認した。」

「【0013】また本発明で用いられる機能性粒子としては、吸水性、吸湿性、抗菌性又は消臭性などの、一般に体液吸収材に求められる所望の機能を発揮するものであれば特に制限されない。」

「【0019】ここで基材としては、特に制限されないが、例えば体液吸収材の吸水性のコアとなる吸水性繊維構造物を挙げることができる。
・・・
【0022】本発明で用いられる繊維構造物は、上記各種繊維から構成される単層シートであっても、各々任意の異なる成分からなるシートの複層体であってもよい。」

「【0026】基材への機能性顆粒の付着ないし担持は、あらかじめシート状に調製した繊維構造物を酸化亜鉛と機能性粒子を顆粒状態で含む水性分散液で含浸、パディング、コーティング(塗布、噴霧等)、印刷又はスプレーする方法、または繊維構造物を構成する繊維、酸化亜鉛及び機能性粒子を含む水性分散液を用いて湿式抄紙技術で不織布を抄造する方法等によって行うことができる。
【0027】上記方法によれば、特に結合剤や接着剤等のバインダーを必要とすることなく、酸化亜鉛と機能性粒子が繊維構造物の各繊維間(間隙)及び表面に固定化される。これは、上記方法において、酸化亜鉛粒子が一緒に配合した機能性粒子を水中で抱き込んで若しくは付着して凝集し、顆粒状として分散していることが観察されることから、凝集・造粒化による粒度の増大及び酸化亜鉛自身の付着性(吸着性)が一つの要因として考えられる。
【0028】このように本発明によれば、吸水シートの製造に際して、特にバインダーを必須の成分としないことから、バインダーによって酸化亜鉛や機能性粒子の表面が被覆されず、かかる成分の機能を十分発揮することができる。
【0029】しかしながら、酸化亜鉛と機能性粒子との凝集を抑制するものでない限り、本発明はバインダーの使用を制限するものではなく、例えば湿式抄紙技術を用いる場合は、例えばアクリルアミド・ポリビニルアルコール共重合体、アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸エステル・酢酸ビニル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロースナトリウム、酢酸ビニル系樹脂、ポリエチレンオキサイド、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールなどのバインダーを使用することもできる。なお、これらのバインダーは水やアルコールなどの溶媒に溶解されて、上記水性分散液の一成分として用いられる。」

「【0032】本発明の体液吸収材は、上記の構成を一部に備えるものであれば特に制限されることなく、他の部分は従来公知の構造を採用することができる。具体的には本発明の体液吸収材には、前述する機能性顆粒を有する基材シート(繊維構造物)を中心として、その表面に少なくとも透液性表面シート、及び液が裏抜けしない不透液性シートがそれぞれ積層してなる体液吸収材を包含することができる。なお、本発明の体液吸収材は、かかる積層構造において各層の間又は不透液性シートの下面に更に他の成分を含有していてもよく、例えば、不透液性シートの下面(換言すれば、下着等への接着面)に粘着層を有し、さらにこれに剥離紙を有していても良い。」

以上の記載及び図面の記載を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

<引用発明>
「透液性表面シートと、不透液性シートと、両シートの間に介在する基材とを備えた体液吸収材であって、
前記基材は、抗菌性の無機成分または消臭性の無機成分の少なくとも一方から成る無機成分にバインダーが配合された水性分散液を塗工する工程を経て製造される体液吸収材。」

4.対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の、「透液性表面シート」、「不透液性シート」、「基材」、「体液吸収材」、「水性分散液」が、それぞれ本願補正発明の、「上層シート」、「下層シート」、「吸収体」、「吸収性物品」、「塗工液」に相当する。
また、本願補正発明と引用発明は、塗工液(引用発明では、「水性分散液」。)が吸収性物品(引用発明では、「体液吸収材」)を構成するいずれかの要素に塗工される点において一致している。
すると、本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「透液性の上層シートと、下層シートと、両シートの間に介在する吸収体とを備えた吸収性物品であって、
前記吸収性物品を構成するいずれかの要素は、抗菌性の無機成分または消臭性の無機成分の少なくとも一方から成る無機成分にバインダーが配合された塗工液を塗工する工程を経て製造される吸収性物品。」
【相違点1】
本願補正発明では、吸収体が、「透液性の被覆材により覆われた」ものであり、また、当該被覆材に接する「セカンドシート」を有する構成であるのに対し、引用発明では、そのような構成を有することが記載されていない点。
【相違点2】
本願補正発明では、塗工液が、「セカンドシート」の「前記吸収体側に位置する吸収体側面」に塗工されているのに対し、引用発明は、水性分散液が「基材」に塗工されている点。
【相違点3】
本願補正発明では、「塗工液を塗工し熱乾燥する工程」を有するのに対し、引用発明では、「水性分散液を塗工する工程」のみを有し、「熱乾燥させる工程」を有しない点。
【相違点4】
本願補正発明では、「前記塗工液は前記無機成分100重量部に対して前記バインダーの配合量Nが以下の範囲 0重量部<N<5重量部」であるのに対し、引用発明では、水性分散液におけるバインダーの量が特定されていない点。

5.判断
そこで、相違点1乃至4について検討する。
(1)相違点1について
引用文献の段落【0032】に、体液吸収材の各層の間に他の成分を含有してもよいことが開示されており、引用発明に、公知な構成を適宜追加してもよいことは明らかである。
そして、吸収性物品の技術分野において、吸収体を透液性の被覆材により覆うことや、当該被覆材に接するセカンドシートを設けることは周知技術である(例えば、特開2002-85452号公報(クレープ紙14A、14B、透液性セカンドシート11B)、特開2003-199791号公報(クレープ紙64、透液性セカンドシート61S)、特開平10-273884号公報(包材9、セカンドシート3)参照。)。
してみれば、引用発明に、周知技術である被覆材やセカンドシートを付加し、本願補正発明の上記相違点1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について
吸収性物品に消臭性の塗工液を塗工することは周知技術であるとともに、当該塗工液を塗工する構成要素や塗工箇所を好適に選択することは当業者が通常に行っていることである(例えば、特開2002-331022号公報(段落【0026】)、特開2003-210520号公報(段落【0072】、図4)、特開2001-231816号(段落【0023】、【0024】)、特開2003-102758号(段落【0025】)参照。)。
してみれば、引用発明の体液吸収材を、上記(1)で示したように、被覆材やセカンドシートを有する構成とした場合にも、同様に、水性分散液の塗工される構成要素や塗工箇所を適宜選択し得ることは明らかであるとともに、セカンドシートの基材側面とすることも、単なる好適な構成要素及び配置の選択にすぎず、当業者が容易になし得たことである。

(3)相違点3について
引用発明のものは、基材に水性分散液を塗工したものであるが、このような塗工を施した場合に、何らかの方法で乾燥させなければならないことは明白である。そして、このような乾燥を行う方法として公知な乾燥方法から適宜選択して採用することに何ら困難性はないから、当該乾燥方法として公知な乾燥方法である熱乾燥を採用することは、当業者であれば容易になし得たことである。

(4)相違点4について
引用文献の段落【0007】、【0027】の記載から、引用発明の水性分散液のバインダーの配合量が少ない方が好適であることは明らかであるから、引用発明の水性分散液のバインダーの量を必要最小限の範囲で配合することは当業者であれば当然に考慮すべきことである。
さらに、このようなバインダーの配合量を特定するに際し、消臭性のみならず吸収性をも好適にすることは、当業者であれば当然に考慮すべきことであるから、このようなことをも勘案して、引用発明のバインダーの配合量を必要最小限度の範囲に特定し、本願補正発明の上記相違点4の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

また、本願補正発明の効果も、上記引用文献及び周知技術から予想し得る程度のものである。

なお、請求人は、審判請求書を補正する平成20年10月6日付けの手続補正書の「3.(d)(d-3)」において、セカンドシートの裏面に塗工液を塗工することに関し、「透液性には繊維の粗密の関係が大きく影響しており、セカンドシートはそれよりも遙かに密度の高い被覆材を介して吸収体に接していることから、セカンドシートにおける透液性の低下が吸収性物品の吸収性能に及ぶ度合は、上層シートにおける場合に比べると極めて小さい。したがって、塗工液におけるバインダーの配合量を本願発明で特定する範囲内とすれば、吸収性物品の吸収性能を維持したまま、吸収性物品に十分な消臭性、抗菌性を確保することができる。」、「しかも、上述した無機成分の塗工に伴うセカンドシートにおける透液性の低下は、いったん吸収性物品に吸収された体液(尿や経血等)がセカンドシートを通して外部へ漏れにくくなることを意味する。つまり、上記無機成分をセカンドシートの裏面に塗工することによって、より効果的な消臭性、抗菌性が確保できると同時に、逆漏れ防止性能を向上させることができるのである。」、「また、仮に無機成分を吸収体を覆う被覆材に塗工した場合には、被覆材はセカンドシートに比べ密度が高いことから、被覆材それ自体の透液性の低下が甚だしく、その結果、吸収性物品の吸収性能を著しく低下させることとなるが、セカンドシートの裏面つまり被覆材に比べ密度が低い部材に塗工するため、係る事態が生じる可能がない。」等と主張しているが、そもそも、これら主張は、明細書の記載に基づくものではないとともに、本願補正発明にはセカンドシートや被覆材の繊維密度がどのようなものであるのか特定されていないので、当該主張は本願補正発明に係る主張ではなく採用できない。

6.補正却下の決定についてのむすび
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成20年10月6日になされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年11月12日に補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「透液性の上層シートと、下層シートと、両シートの間に介在するとともに透液性の被覆材により覆われた吸収体とを備えた吸収性物品であって、
前記上層シートは、装着面を有するトップシート、及び前記被覆材に接するセカンドシートから構成され、
前記セカンドシートにおける前記吸収体側に位置する吸収体側面には、抗菌性の無機成分または消臭性の無機成分の少なくとも一方から成る無機成分にバインダーが配合された塗工液が塗工され、この塗工液は前記無機成分100重量部に対して前記バインダーの配合量Nが以下の範囲
0重量部<N<5重量部
に設定されたことを特徴とする吸収性物品。」

第4 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献及びその記載は、上記第2、【理由】、「3.引用文献」に記載したとおりである。

第5 対比・判断
本願発明は、上記第2、【理由】、「2.本願補正発明」に記載した本願補正発明の、セカンドシートが、「熱乾燥する工程」を経て製造されるというセカンドシートの製造方法の限定を省いたものであり、その他の構成については、本願補正発明と差違がない。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに、他の構成要素を付加したものに相当する本願補正発明が、上記第2、【理由】、「4.対比」、及び、「5.判断」で検討したように、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-09 
結審通知日 2009-09-15 
審決日 2009-09-28 
出願番号 特願2003-334068(P2003-334068)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A41B)
P 1 8・ 575- Z (A41B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山口 直内山 隆史  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 村上 聡
熊倉 強
発明の名称 吸収性物品  
代理人 三好 千明  

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