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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成20行ケ10144審決取消請求事件 判例 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1209233
審判番号 不服2006-876  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-01-12 
確定日 2009-12-25 
事件の表示 平成10年特許願第147893号「外用貼付剤」拒絶査定不服審判事件〔平成11年12月14日出願公開、特開平11-343233〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年5月28日の出願であって、拒絶理由通知に応答して平成17年4月28日付けで手続補正書と意見書が提出されたが、平成17年12月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年1月12日に拒絶査定不服審判が請求され、平成18年3月31日付けで請求理由の補正書(方式)が提出されたものである。

2.本願発明
本願請求項1?3に係る発明は、平成17年4月28日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されたとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明は、次のとおりである。
「【請求項1】 上記支持体の片面に酸附加塩型の親水性薬物を含有する粘着剤層が設けられ、該粘着剤層に剥離紙が積層された外用貼付剤であって、該粘着剤層において親水性薬物の大部分が固体粒子状態で含有され、外用貼付剤全体の含水量が前記親水性薬物量に対して10重量%以下であり、かつ、上記剥離紙を剥がした状態における透湿度が、30?70g/m^(2)・24hrであることを特徴とする外用貼付剤。」

3.引用例
原査定の拒絶理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開平6-192070号公報(以下、「引用例」という。)には、次の技術事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。
(i)「【請求項1】 支持体の片面に、エペリゾン、トルペリゾン、またはこれらの塩を含有する基剤層が設けられている貼付剤において、支持体がエチレン・アクリル酸メチル共重合体フィルムよりなること特徴とするエペリゾンまたはトルペリゾン外用貼付剤。 」(【特許請求の範囲】の【請求項1】参照)
(ii)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、エペリゾン、トルペリゾン、またはこれらの塩を経皮投与するための外用貼付剤に関し、より詳細には、貼付性および使用感に優れ、かつ、製剤の保存中に基剤層中の薬物が支持体中を移行して基剤層の反対側表面に析出することにより商品性を損なうことのない外用貼付剤に関する。」(段落【0001】参照)
(iii)「【0021】b) 本発明貼付剤に用いられる薬物は、エペリゾン、トルペリゾン、またはこれらの塩である。これらは、痙性麻痺に基づく諸症状の改善剤、または、頸肩腕症候群、肩関節周囲炎、腰痛症などの疾患による筋緊張状態の改善剤として施用されている。
【0022】エペリゾン、トルペリゾンの塩としては、塩酸塩、リン酸塩、メタンスルホン酸塩などが例示される。
【0023】エペリゾン、トルペリゾン、またはこれらの塩は、後述の基剤中に溶解させるか、あるいは基剤中に飽和溶解度以上の割合で配合されて微結晶状態で基剤中に分散させる。」(段落【0021】?【0023】参照)
(iv)「【0025】c) 本発明貼付剤に用いられる基剤は、貼付剤の剤形によって異なる。本発明貼付剤は、テープ剤、パッチ剤、パップ剤、プラスター剤などであり得る。
【0026】テープ剤は、薬物および必要に応じて加えられる添加剤を含む粘着性の基剤層が支持体の片面に形成されたものである。」(段落【0025】?【0026】参照)
(v)「【0047】d) 本発明の貼付剤は、薬物の経皮透過性を向上させる目的で、必要に応じて、適当な吸収促進剤を含有してもよい。吸収促進剤としては、ミリスチン酸イソプロピル、・・・・、クロスポビドン、・・・・・などが用いられる。」(段落【0047】参照)
(vi)「【0054】e) テープ剤は、使用時までその粘着性基剤層表面を保護するために通常はその貼付面に剥離紙を備えている。パッチ剤は、やはり粘着剤層の保護のために剥離紙を備えている。剥離紙としてはポリエチレンテレフタレートのフィルムをシリコン処理してなるものがよく用いられるが、剥離紙はこれに限定されない。剥離紙の厚みは100μm以下、好ましくは5?50μmである。
【0055】f) 本発明の貼付剤を製造するには、エチレン・アクリル酸メチル共重合体フィルムの片面に、エペリゾン、トルペリゾン、またはこれらの塩、および必要に応じて加えられる吸収促進剤などの配合剤を含有する基剤層を形成する。
【0056】支持体表面に基剤層を形成するには、通常の粘着テープの製造方法が適用できる。その代表例は溶剤塗工法であり、これ以外にもホットメルト塗工法、電子線硬化エマルジョン塗工法などが用いられる。支持体に基剤層を溶剤塗工法で形成するには、たとえば、エペリゾン、トルペリゾン、またはこれらの塩と、基剤と、必要に応じて加えられる吸収促進剤などの配合剤とを、適当な溶媒に溶解ないし分散させ、得られた溶液ないし分散液を支持体の表面に直接塗布・乾燥し、所要厚みの薬物含有基剤層を形成する。この基剤層を保護用の剥離紙に密着させ、目的とするテープ剤を得る。また、この溶液ないし分散液を保護用の剥離紙上に塗布し、乾燥後に得られた基剤層を支持体に密着させてもよい。」(段落【0054】?【0056】参照)
(vii)「【0058】このようにして得られた貼付剤が適度なODT(密封)効果を持ち、ムレによるカブレや剥がれを生じないためには、製剤の水蒸気透過性は好ましくは5?500g/m^(2)/24時間(温度37°、相対湿度90%)、より好ましくは30?100g/m^(2)/24時間(温度37°、相対湿度90%)である。」(段落【0058】参照)
(viii)「【0061】実施例1
アクリル酸2-エチルヘキシル75.5重量%と、N-ビニル-2-ピロリドン24.5重量%と、前二者の和100重量部に対しヘキサメチレングリコールジメタクリレート0.04重量部とをセパラブルフラスコに仕込み、重合初期のモノマー濃度が85重量%となるように酢酸エチルを加えた。この溶液を窒素雰囲気下で60℃に加熱し、重合開始剤である過酸化ラウロイルおよび酢酸エチルを逐次少量ずつ添加し、32時間重合反応を行った。得られた重合物に酢酸エチルを加えて反応液を希釈し、固形分濃度36重量%の基剤溶液を得た。
【0062】ついで、この基剤溶液100重量部に塩酸エペリゾン(エーザイ化学社製)4重量部を添加し、同溶液をディゾルバー中で充分に攪拌した後、厚さ75μmのポリエチレンテレフタレート製の剥離紙上に塗布し、60℃で20分間乾燥させて、薬物含有基剤層を形成した。
【0063】エチレン・アクリル酸メチル共重合体樹脂(日本石油化学社製、商品名「日石レクスパール RB3240」登録商標、MA含量;24重量%)をインフレーション成型して得られた、厚さ60μmのフィルムよりなる支持体を、上記薬物含有基剤層に密着させた。こうして、10重量%の塩酸エペリゾンを含有する、厚さ80μmの薬物含有基剤層を支持体の片面に有するテープ剤を調製した。」(段落【0061】?【0063】参照)
(ix)「【0074】実施例7
実施例1と同様にして得られた基剤溶液115重量部に塩酸エペリゾン(エーザイ化学社製)5重量部、ポリプラスドンINF-10(クロスポビドン、GAF社製)1重量部および乳酸セチル(VAN DYK社製)2.5重量部を添加し、同溶液をディゾルバー中で充分攪拌した後、厚さ75μmのポリエチレンテレフタレート製の剥離紙上に塗布し、60°で20分間乾燥させて、薬物含有基剤層を形成した。
【0075】エチレン・アクリル酸メチル共重合体樹脂(日本石油化学社製、日石レクスパールCRB315R5(登録商標)、アクリル酸メチル含量;15重量%)をインフレーション成型して得られた、厚さ40μmのフィルムよりなる支持体を上記薬物含有基剤層に密着させた。こうして、10重量%の塩酸エペリゾン、2重量%のポリプラスドンINF-10および5重量%の乳酸セチルを含有する、厚さ80μmの薬物含有基剤層を支持体の片面に有するテープ剤を調製した。このテープ剤の薬物含有基剤層には、ポリプラスドンINF-10の微粒子および塩酸エペリゾンの微結晶が分散していた。
【0076】実施例8
支持体として、ポリスチレンと水添ポリイソプレンのブロック共重合体(クラレ社製、セプトン(登録商標))80重量%と、ポリプロピレン20重量%の混合物からメルトブロー法により得られた不織布(目付け50g/m^(2))上に、エチレン・アクリル酸メチル共重合体フィルムの厚みが40μmとなるように、エチレン・アクリル酸メチル共重合体樹脂(日本石油化学社製、日石レクスパールCRB315R5(登録商標)、アクリル酸メチル含量;15重量%)を押し出しラミネートにより積層して得られた積層体を用い、この積層支持体のフィルム面を、実施例7と同様にして得られた薬物含有基剤層に密着させた。こうして、10重量%の塩酸エペリゾン、2重量%のポリプラスドンINF-10および5重量%の乳酸セチルを含有する、厚さ80μmの薬物含有基剤層を積層支持体のフィルム面に有するテープ剤を調製した。このテープ剤の薬物含有基剤層には、ポリプラスドンINF-10の微粒子および塩酸エペリゾンの微結晶が分散していた。」(段落【0074】?【0076】参照)
(x)「【0084】・・・中略・・・
試験2
実施例1、2、3、4、5、6、7、8および比較例1、2、3、4、5、6のテープ剤のサイズ50cm^(2)(71mm×71mm)の試験片をそれぞれアルミニウム袋に密封し、温度45°で6カ月間保存した後、支持体表面を観察した。
【0085】観察結果を表2に示す。
【0086】
【表2】

表2中、支持体表面に薬物の結晶析出なし:○
支持体表面に薬物の結晶析出あり:×」(段落【0084】?【0086】参照)

4.対比、判断
引用例には、上記「3.」の摘示からみて、特に、外用貼付剤であること(摘示(i))、基材層が粘着性基剤層であること(摘示(iv)?(vi))、粘着性基剤層表面を保護するために通常はその貼付面に剥離紙を備えていること(摘示(vi))、エペリゾン、トルペリゾンの塩は微結晶状態で基剤中に分散させられていること(摘示(iii))、実施例7,8で薬物含有基剤層には塩酸エペリゾンの微結晶が分散していたこと(摘示(ix))を勘案し、次の外用貼付剤の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されていると認められる。
「支持体の片面に、エペリゾン、トルペリゾンの塩を微結晶で分散して含有する粘着性基剤層が設けられ、更に剥離紙が設けられている貼付剤において、支持体がエチレン・アクリル酸メチル共重合体フィルムよりなるエペリゾンまたはトルペリゾン外用貼付剤。」

そこで、本願発明と引用例発明とを対比する。
(a)引用例発明の「エペリゾン、トルペリゾンの塩」は、本願明細書の段落【0023】に酸付加塩型の親水性薬物の具体例として例示されたものであることから、本願発明の「酸附加塩型の親水性薬物」に相当する。
(b)引用例発明の「粘着性基剤層」は、本願発明の「粘着剤層」に相当する。
(c)引用例発明で粘着性基剤層に「エペリゾン、トルペリゾンの塩を微結晶で分散して含有する」は、親水性薬物が固体粒子状で含有されることといえるから、本願発明の「粘着剤層において親水性薬物」が「固体粒子状態で含有され」に相当する。
(d)引用例発明の「粘着性基剤層が設けられ、更に剥離紙が設けられている」ことは、本願発明の「粘着剤層に剥離紙が積層された」ことに相当する。
(e)引用例発明において支持体として「エチレン・アクリル酸メチル共重合体フィルム」を用いることが特定されている点は、本願発明では支持体としてどのような材質のものを用いるかは特定されておらず、本願発明の実施例において「エチレン・アクリル酸メチル共重合体フィルム」を用いてることからみて、相違点とはなり得ない。
(f)引用例の実施例7,8においてクロスポピドン(GAF社製ポリプラスドンINF-10を使用)を併用している点は、吸収促進剤として用いられているものであり(摘示(v)参照)、本願発明でも粘着剤層に吸収促進剤を含有させても良いとされている(本願明細書段落【0021】参照)ことからみて、相違点とはなり得ない。
(g)本願発明の「上記支持体」の「上記」とは、「上記」に該当するものがないから単なる誤記と解される。

してみると、両発明は、
「支持体の片面に酸附加塩型の親水性薬物(エペリゾン、トルペリゾンの塩など)を含有する粘着剤層が設けられ、該粘着剤層に剥離紙が積層された外用貼付剤であって、該粘着剤層において親水性薬物が固体粒子状態で含有される外用貼付剤。」
で一致し、次の相違点A?Cで一応相違している。
<相違点>
A.本願発明では、「外用貼付剤全体の含水量が前記親水性薬物量に対して10重量%以下であり」と特定されているのに対し、引用例発明ではそのような表現では特定されていない点
B.本願発明では、「上記剥離紙を剥がした状態における透湿度が、30?70g/m^(2)・24hrである」と特定されているのに対し、引用例発明ではそのような表現では特定されていない点
C.固体粒子状で含有される親水性薬物について、本願発明では、「大部分が」固体粒子状であると特定されているのに対し、引用例発明ではそのような表現では特定されていない点

そこで、これらの相違点について検討する。
(1)相違点Aについて
本願発明の「外用貼付剤全体の含水量が前記親水性薬物量に対して10重量%以下であり」との発明特定事項を満たすための手段として、本願明細書には、例えば、「外用貼付剤を減圧等の操作により予め含水量を薬物量の10重量%以下とし、アルミニウム袋などの防湿袋にあるいは箱などに納めて保存する」(段落【0030】)ことや「薬物固体粒子が分散された混合液を支持体表面に塗布し、乾燥させて溶媒を除去をすることによって外用貼付剤が形成される」(段落【0032】)、実施例1で「粘着剤溶液を・・剥離紙上に塗布し、60℃で30分間乾燥させて、・・支持体に貼り合わせて外用剤を作成し・・・この外用貼付剤を10cm^(2)に打ち抜いて得られた試験片を、乾燥剤(粒状シリカゲル薬2g)と共にアルミニウム袋に入れて密封した。」(段落【0038】)ことが記載されている。
他方、引用例発明においても、実施例7,8において、ポリエチレンテレフタレート製剥離紙の上に基剤溶液(塩酸エピリゾンを含有する粘着剤溶液のこと)を塗布し、乾燥し、エチレン・アクリル酸メチル共重合体フィルムの支持体に密着させて、塩酸エペリゾンの微結晶が分散していたテープ剤を製造したことが記載(摘示(ix))されているところ、塗布乾燥させている点で前記本願発明の製造法と軌を一にし、しかも本願発明の実施例と対比すると、剥離紙の材質、支持体の材質、乾燥工程も同じである。
そして、本願明細書に記載された乾燥剤を用いずにアルミニウム袋に入れた貼付剤の比較例4,5では、水分含有量(対薬物重量%)が7.1%,7.5%と10重量%以下であるから、アルミニウム袋に入れる前の貼付剤の含水量は、当然に10重量%以下であると認められる。そうすると、それら比較例(実施例1を引用している)と同じ製造工程で乾燥して得られた引用例発明でも、テープ剤が製造された時点では少なくとも水分含有量(対薬物重量%)が10重量%以下であると解するべきである。本願発明では、アルミニウム袋に入れて何日保管後の含水量についての特定であるなどとの規定はないのであるから、製造直後のテープ剤が対象外とされる理由はない。
しかも、引用例発明では、試験2で説明しているように試験片をアルミニウム袋に密封して、45℃、6ケ月保存したのちの薬物析出の評価をしている(摘示(ix)参照;なお、支持体に薬物の結晶析出がないことを確認したことが記載されている)ことに鑑みると、アルミニウム袋に保存することは引用例の出願時には適宜なされているものと解すべきである。なお、引用例の試験2では乾燥剤を併用していないが、前記指摘のとおり本願明細書に記載された比較例4,5では乾燥剤を用いずアルミニウム袋に保管しても10重量%以下の状態が確保されていることから、乾燥剤の存在は必須とは言えないし、そもそも乾燥剤の存在は本願発明の発明特定事項でもない。
よって、相違点Aは、実質的な相違点とは言えない。
なお、拒絶査定において周知例として引用された特開平6-211696号公報には、エペリゾン経皮吸収製剤に関し、保存安定性のために、基剤中の水分含有量を0.2重量%以下とするとされている(その実施例1?7のように塩酸エペゾリン(親水性薬物)が基剤中に10重量%含有されている場合、基剤中の含水量が前記親水性薬物量に対して2重量%以下とされることになる。)ところ、支持体や剥離紙の含水量が粘着剤層の含水量より多いとは考えられないから、外用貼付剤全体の含水量を前記親水性薬物量に対して10重量%以下とすることは、実質的に出願人によって本願出願前に既に公開されていたといえる。

(2)相違点Bについて
引用例には、「このようにして得られた貼付剤が適度なODT(密封)効果を持ち、ムレによるカブレや剥がれを生じないためには、製剤の水蒸気透過性は・・・より好ましくは30?100g/m^(2)/24時間(温度37°、相対湿度90%)である。」(段落【0058】参照)との説明がある。
該水蒸気透過性は、「適度なODT(密封)効果を持ち、ムレによるカブレや剥がれを生じないために」とされていることに鑑みると、ムレによるカブレや剥がれは皮膚に貼り付けた際の症状であることからみて、剥離紙を剥がした状態であるといえるから、本願発明で特定する「剥離紙を剥がした状態における透湿度」と同じことを意味するものと認められる。そして、該「30?100g/m^(2)/24時間」の水蒸気透過性は、本願発明で特定する「30?70g/m^(2)・24hr」とかなりの範囲で重複していることが明らかである。
引用例の実施例には水蒸気透過性の数値が言及されていないけれども、引用例の前記摘示の記載に従い好ましい範囲で使用するのは当然のことというべきであり、「30?70g/m^(2)・24hr」の範囲でも使用される蓋然性は極めて高いと認められる。
よって、引用例発明でも、「剥離紙を剥がした状態における透湿度が、30?70g/m^(2)・24hrである」ものが適宜採用されるものというべきであり、相違点Bは実質的な相違点とは言えない。

この点について、請求人は、「本願発明では、明細書段落番号〔0035〕に記載のように、剥離紙を剥がした状態における透湿度が70g/m^(2)・24hrより高いと、皮膚に貼付した際に、皮膚からの発汗等による水分が支持体背面に蒸発してしまい親水性薬物の皮膚からの吸収が不十分となること」,「実験例では、比較例4においては、透湿度が93g/m^(2)・24hrであるため、親水性薬物の皮膚透過量が低くなっていること」を指摘している。
なるほど、引用例発明で好ましいとされている「30?100g/m^(2)/24時間」は、「70?100g/m^(2)/24時間」の範囲で本願発明の特定と重複していない部分がある。しかし、大部分の残り「30?70g/m^(2)・24hr」の範囲では完全に一致しているのであり、この範囲を使用しない蓋然性は殆ど無く、その完全に一致している範囲は、薬物の吸収性の点について言及が有ろうと無かろうと、当業者であれば適宜採用する範囲であると言うべきであるから、前記請求人の主張は採用できない。

(3)相違点Cについて
「大部分」が固体粒子である点について、本願明細書の記載を検討しても、格別の説明はなく、「親水性薬物に対して完全に不溶性である必要はなく、親水性薬物の大部分を固体粒子状態で存在させることができれば、わずかに溶解していても本発明の効果には影響がない。」(段落【0007】)との説明が参考にできる程度である。しかし、この程度の記載では単なる希望的記載に止まるものといえる。
一方、薬剤を固体粒子状態で用いるのは、固体薬物が粘着剤層に溶解し粘着剤層中の溶解薬物濃度が一定で長時間にわたり放出特性が低下しないためであることが知られている(例えば、拒絶査定の理由で引用された特開平4-36234号公報第2頁左上欄など参照)のであり、長時間にわたり一定な薬剤放出を得るために、親水性薬物の大部分を固体粒子状態で存在させた方が良いことは明らかであるから、引用例発明において親水性薬物の大部分を固体粒子状態で存在させることは、当業者であれば容易に想い到る程度のことといえ、格別の創意工夫が必要であったとは認められない。

以上のとおりであるから、本願発明は、引用例発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。それゆえ、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-22 
結審通知日 2009-10-28 
審決日 2009-11-10 
出願番号 特願平10-147893
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清野 千秋山口 昭則  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 弘實 謙二
井上 典之
発明の名称 外用貼付剤  

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