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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04H
管理番号 1209697
審判番号 不服2008-554  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-09 
確定日 2010-01-07 
事件の表示 平成10年特許願第316745号「制振装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 5月26日出願公開,特開2000-145191〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成10年11月9日の出願であって,平成19年12月3日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成20年1月9日に拒絶査定を不服とする審判請求がなされるとともに,同年1月22日付けで手続補正がなされたものであって,その後,当審において平成21年8月7日付けで拒絶理由の通知がなされたところ,同年10月13日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成21年10月13日付けの手続補正により補正された明細書の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,次のとおりのものと認められる。
(本願発明)
「建物の水平方向の揺れを抑制する制振装置であって、
前記建物が有する通常の居室、および物が収納され前記通常の居室に応じた高さ寸法よりも低い高さとされかつ前記通常の居室に居る時間と比較して日常の生活では長時間入室することはない収納室のうち、前記収納室の床のみが、水平方向に揺動可能に設けられた平面矩形状の揺動床とされ、
前記建物は、四本の柱と、当該柱の上端間を相互に連結する天井梁および下端間を相互に連結する床梁とを備えて箱状に形成された複数の建物ユニットからなるユニット式建物であり、
前記建物ユニットの一部は、互いに対向する前記天井梁に支持部材が架設され、この支持部材に上端が取り付けられた吊り下げ部材を介して前記揺動床が吊り下げられ、
前記揺動床の角部と前記柱との間には、前記揺動床の水平方向の揺れを減衰させるダンパーが設けられていることを特徴とする制振装置。」

3.引用刊行物
(1)当審の拒絶理由で引用され,本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平2-38668号公報(以下「刊行物1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。
(1a)「(1)構造体の一部の壁または床を、前記構造体に対して水平方向に変位自在に設け、その可動壁または可動床と前記構造体との間に、両者の相対変位に抵抗を付与するダンパー機構を介在したことを特徴とする建築構造体の制震構造。」(1頁左下欄5?9行)
(1b)「〈産業上の利用分野〉
本発明は、地震などに起因して、ビルなどの建築構造体が震動するとか床が震動するといったことを抑制するための建築構造体の制震構造に関する。」(1頁右下欄9?13行)
(1c)「〈作用〉
本発明に係る第1の建築構造体の制震構造によれば、地震によって構造体に震動が伝播し、構造体が水平方向に変位して、可動壁または可動床と構造体とが互いに接近する側、あるいは、逆に遠ざかる側のいずれであっても、両者が相対変位しようとしたときに、ダンパー機構が作用して、構造体との相対変位に対して抵抗を付与し、構造体の変位に対しては可動壁または可動床が、可動床の変位に対しては構造体が、互いに変位振幅を小さくし、構造体あるいは可動床の震動を抑えるので構造体の震動の減衰を早くし、地震などに起因する建築構造体全体としての震動や可動床の震動を抑制することができる。」(2頁左下欄15行?右下欄8行)
(1d)「〈第1実施例〉
第1図は、本発明に係る建築構造体の制震構造の第1実施例を示す概略全体縦断面図、第2図は、第1図の要部の一部切欠拡大図であり、構造体Aの最上階ならびに中間の所定階の床1のほぼ全体が、その天井壁2に対し、ロッド3・・・を介して水平方向に変位可能に吊り下げ支持されている。
前記可動床1の水平方向の外周端面の所定箇所に、ダンパーオイルを封入した第1のダンパーシリンダ4が取り付けられ・・・、一方、前記可動床1の水平方向の外周端面に対向する構造体Aの壁部分7の所定箇所に・・・ダンパーオイルを封入した一対の第2のダンパーシリンダ8,8が取り付けられる・・・」(3頁右上欄3?20行)
(1e)「〈発明の効果〉
本発明に係る第1の建築構造体の制震構造によれば、構造体の一部の壁または床を利用しながら、そこにダンパー機構を付設するだけの簡単な構成でもって可動床の震動を抑えるとともに建築構造体の震動を減衰するから、従来の水槽や重量物を用いた制震構造のように水槽や重量物を付加せずに済むとともに、制置用の構造物を支持するために構造体の強度を高くするといったことをせずに済み、震動を効果的に抑制できる建築構造体を安価にして構築できるようになった。」(4頁左下欄9?18行)
上記記載事項(1a)ないし(1e)及び図面の記載並びに当業者の技術常識によれば,上記刊行物1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
(引用発明)
「建築構造体の一部の床を,前記建築構造体の天井壁に対しロッドを介して水平方向に変位自在に吊り下げ支持して可動床とし,その可動床の水平方向の外周端面と前記建築構造体の壁部分との間に,両者の相対変位に抵抗を付与するダンパー機構を介在した,建築構造体の制震構造。」

(2)同じく,特開平10-8562号公報(以下「刊行物2」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。
(2a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高さ寸法の異なる複数の建物ユニットを組み合わせて建てられるユニット式建物に関する。」
(2b)「【0011】
【発明の実施の形態】以下に本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、本実施形態のユニット式建物10は、複数の低建物ユニットである蔵ユニット7の上に、複数の前記標準建物ユニット1からなる下階建物ユニット11と、これらの下階建物ユニット11の上に載置された複数の上階建物ユニット12とを組み合わせて建てられたもので、実質2階建てとなっている。」
(2c)「【0013】蔵ユニット7は、図3に示すように、構造は標準建物ユニット1とほぼ同じであるが、その高さ寸法H’が、上階、下階建物ユニット12,11の高さ寸法Hの例えば半分程度に形成されている。すなわち、この蔵ユニット7は、四隅に立設される4本の柱2’と、これらの柱2’の上端間同士および下端間同士を結合する各4本の上梁3、下梁4とを有する骨組み5’を備えて形成されている。そして、この骨組み5’に、天井面材や床面材、外壁や内壁等が取り付けられて箱型の蔵ユニット7が形成されている。」
(2d)「【0016】図2,4中、前記蔵ユニット7Aの左隣りの蔵ユニット7Cは、天井部が形成されて収納室21となっている。・・・」
(2e)図3及び7には,建物ユニットが箱状に形成されたことが示されている。
上記記載事項(2a)ないし(2e)及び図面の記載並びに当業者の技術常識によれば,上記刊行物2には,次の発明(以下「刊行物2記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。
(刊行物2記載の発明)
「標準建物ユニットと,収納室となる低建物ユニットとからなるユニット式建物であって,各建物ユニットは,四隅に立設される4本の柱と,これらの柱の上端間同士および下端間同士を結合する各4本の上梁,下梁とを有する骨組みを備えて箱状に形成されたものであり,複数の建物ユニットからなる,ユニット式建物。」

4.対比
本願発明と引用発明を比較すると,引用発明の「可動床」は本願発明の「揺動床」に相当し,以下同様に,「ロッド」は「吊り下げ部材」に,「制震構造」は「制振装置」に,それぞれ相当する。
また,引用発明の「制震構造」及び「ダンパー機構」は,「可動床」が水平方向に変位自在であることからみて,建物の水平方向の揺れを抑制する,あるいは減衰させるものであることが明らかであるから,引用発明の「両者(可動床と構造体)の相対変位に抵抗を付与するダンパー機構」は,本願発明の「揺動床の水平方向の揺れを減衰させるダンパー」に相当する。
また,引用発明の「建築構造体」はユニット式のものではなく,本願発明の「建物」はユニット式のものであるが,両者は「建物」である点で共通している。
また,引用発明の「建築構造体の一部の床」と本願発明の「建物が有する通常の居室、および物が収納され前記通常の居室に応じた高さ寸法よりも低い高さとされかつ前記通常の居室に居る時間と比較して日常の生活では長時間入室することはない収納室のうち、前記収納室の床のみ」とは,「建物の一部の床」である点で共通している。
また,引用発明の「建築構造体の天井壁に対しロッドを介して水平方向に変位自在に吊り下げ支持して可動床とし」と本願発明の「互いに対向する前記天井梁に支持部材が架設され、この支持部材に上端が取り付けられた吊り下げ部材を介して前記揺動床が吊り下げられ」とは,「建物の躯体水平部に上端が取り付けられた吊り下げ部材を介して揺動床が吊り下げられ」である点で共通している。
また,ダンパーが設けられる位置について,引用発明の「可動床の水平方向の外周端面と建築構造体の壁部分の間」と本願発明の「揺動床の角部と柱との間」とは,「揺動床の端部と建物の躯体垂直部との間」である点で共通している。
してみれば,両者の一致点及び相違点は,次のとおりである。

<一致点>
「建物の水平方向の揺れを抑制する制振装置であって,
建物の一部の床が,水平方向に揺動可能に設けられた揺動床とされ,
建物の躯体水平部に上端が取り付けられた吊り下げ部材を介して揺動床が吊り下げられ,
揺動床の端部と建物の躯体垂直部との間には,揺動床の水平方向の揺れを減衰させるダンパーが設けられている制振装置。」

<相違点1>
建物が,本願発明は「四本の柱と、当該柱の上端間を相互に連結する天井梁および下端間を相互に連結する床梁とを備えて箱状に形成された複数の建物ユニットからなるユニット式建物」であるのに対し,引用発明はユニット式建物ではない点。

<相違点2>
揺動床とされるのが,本願発明は「建物が有する通常の居室、および物が収納され通常の居室に応じた高さ寸法よりも低い高さとされかつ通常の居室に居る時間と比較して日常の生活では長時間入室することはない収納室のうち、収納室の床のみ」であるのに対し,引用発明は建物の一部の床ではあるものの,どのような種類の室の床か明らかでない点。

<相違点3>
揺動床の形状が,本願発明は「平面矩形状」であるのに対し,引用発明は明らかでない点。

<相違点4>
吊り下げ部材の上端が取り付けられる建物の躯体水平部が,本願発明は,建物ユニットの互いに対向する天井梁に架設された「支持部材」であるのに対し,引用発明は「天井壁」である点。

<相違点5>
ダンパーを設ける位置が,本願発明は「揺動床の角部と柱との間」であるのに対し,引用発明は「可動床の水平方向の外周端面と建築構造体の壁部分との間」である点。

5.判断
まず,<相違点1>について検討する。建物の構造として,四隅に立設される4本の柱と,これらの柱の上端間同士および下端間同士を結合する各4本の上梁,下梁とを有する骨組みを備えて箱状に形成された複数の建物ユニットからなるユニット式建物とすることは,例えば刊行物2記載の発明にみられるように,周知技術である。
そして,これら周知なユニット式建物においても,地震等に対する対策を求められることは当然に想定されることであり,そのために,制振装置を設けることも当然に想定されることであるから,制振装置を備えた引用発明の建物の構造として,例えば刊行物2記載の発明にみられるような周知なユニット式建物の構造を採用することは,当業者が容易になし得たことである。

次に,<相違点2>について検討する。揺動床をどこに設けるかは,建物全体の構造(構造計算上,効果のある位置)やコスト,居住者の嗜好等を考慮して、当業者が適宜選択し得た事項である。
例えば,刊行物2記載の発明は,「標準建物ユニットと,収納室となる低建物ユニットとからなるユニット式建物」を備えたものであり,このようなユニット式建物に揺動床を設けるにあたり,居住者が,日常の生活では長時間入室することがない収納室のみに揺動床を設けたいと思えば,そのように設計を依頼することは容易であり,また,それを阻害する格別の事情も見あたらない。
さらに,収納室のみに揺動床を設ける場合に,通常の居室にも揺動床を設けた場合と比較して,特別な構成が必要となるものでもない。
そうすると,引用発明において,収納室の床のみを揺動床とすることは,当業者が容易になし得たことである。

次に,<相違点3>について検討する。揺動床の形状は,部屋の平面形状に合わせて当業者が適宜変更し得た事項である。そして,例えば刊行物2記載の発明の建物ユニットが箱状に形成されたものであることをみればわかるように,部屋の形状として,平面矩形状のものはごく普通にみられるものであるから,引用発明の揺動床の形状を平面矩形状とすることは,当業者が容易になし得たことである。

最後に,<相違点4>及び<相違点5>について検討する。
建物構造の前提として,引用発明のような壁自体が構造体となる建物においては,躯体垂直部が縦壁であり,躯体水平部が床壁又は天井壁である一方,刊行物2記載の発明のようなユニット式建物においては,躯体垂直部が柱であり,躯体水平部が床梁又は天井梁となることは当業者にとって自明なことである。

そして,<相違点4>に係る構成についてみるに,ユニット式建物の建物ユニットにおける躯体水平部として,天井梁に加え,建物ユニットの互いに対向する天井梁(大梁)に適宜の小梁を架設することは,原査定の拒絶理由において提示した特開平2-194240号公報(特に,第5図等参照。)のみならず,例えば特開平7-34546号公報(特に,第4図等参照。)にみられるように,周知技術である。
そうすると,引用発明の建物の構造として,例えば刊行物2記載の発明にみられるような周知なユニット式建物の構造を採用するにあたり,吊り下げ部材を,引用発明の天井壁の場合と同じような場所に取り付けようと考えて,上記周知な建物ユニットの同じような場所に位置する小梁に取り付けるようにすることは,当業者がごく自然に設計し得たことである。

同様に,<相違点5>に係る構成についてみるに,引用発明は,ダンパーを可動床の水平方向の外周端面と建築構造体の壁部分との間に設けたものであるが,ユニット式建物の建物ユニットの躯体垂直部は柱であるから,引用発明の建物の構造としてユニット式建物の構造を採用すれば,ダンパーは可動床の水平方向の外周端面と柱との間に設けられることになる。
そして,揺動床の,柱に最も接近する部位が,揺動床の角部であることは,当業者にとって自明なことである。
そうすると,引用発明の建物の構造として,例えば刊行物2記載の発明にみられるような周知なユニット式建物の構造を採用するにあたり,可動床の水平方向の外周端面と建物の躯体垂直部の間に設けられていたダンパーを,「揺動床の角部と柱との間」に設けるようにすることは,当業者が自然に設計し得たことである。

また,本願発明の奏する効果についても,引用発明,刊行物2記載の発明及び周知技術から当業者が容易に予測できるものであり,格別なものではない。

よって,本願発明は,引用発明,刊行物2記載の発明及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-06 
結審通知日 2009-11-10 
審決日 2009-11-24 
出願番号 特願平10-316745
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (E04H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 江成 克己  
特許庁審判長 伊波 猛
特許庁審判官 関根 裕
神 悦彦
発明の名称 制振装置  
代理人 特許業務法人樹之下知的財産事務所  

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