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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A44C
管理番号 1212466
審判番号 不服2007-19746  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-13 
確定日 2010-02-26 
事件の表示 特願2003-162442号「装身具類の連結具」拒絶査定不服審判事件〔平成16年12月24日出願公開、特開2004-358067号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成15年6月6日の出願であって、平成19年3月1日付け拒絶理由通知に対して平成19年5月14日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成19年6月4日付けで拒絶査定がなされたところ、これに対し、平成19年7月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで特許請求の範囲についての手続補正がなされ、さらに平成19年8月9日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

II.平成19年7月13日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年7月13日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「【請求項1】 鎖状乃至紐状その他の細長い線状部材の両端等に取り付け、線状部材を環状にする目的等に使用される連結具の一種であって、相互に嵌合、分離可能な雄部品と雌部品とからなり、雄部品は、雌部品の嵌合口を通る頭部と、嵌合中、雌部品の嵌合口に位置して雄部品の相対的な回転を可能にする頸部とを有しており、頭部は、嵌合口を通過できる長円形を有するとともに、磁石を長円形の頭部又は頭部の基部に長手方向に配列し、嵌合口は頭部が通過できる長円形を有するとともに、その長円形の長手方向とほぼ90度異なる方向の雌部品に磁石を配列してなり、雄部品を雌部品に嵌合口から差し込むと、磁気吸着により雄部品と雌部品との位置関係に変化を生じて、その結果雌部品の嵌合口を雄部品が通過できない状態になるように構成された装身具類の連結具。」
(なお、「その結果雌部品の嵌合口を『雌』部品が通過できない」は、「その結果雌部品の嵌合口を『雄』部品が通過できない」の誤記であることが明らかであるから、上記のように認定した。)

2.補正の目的、新規事項の追加の有無
本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「磁石を長円形の頭部の長手方向に配列し」について、「又は頭部の基部に」との限定を付加し、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「その長円形の長手方向とほぼ90度異なる方向に磁石を配列してなり」について、「の雌部品」との限定を付加するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、本件補正は、新規事項を追加するものでもない。

3.独立特許要件
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3-1.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-84606号公報(以下、「引用例」という)には、図面と共に次の事項が記載されている。

a.「【発明の属する技術分野】本発明は、環状にして用いるネックレスあるいはブレスレット等の装身具の開放端を磁石を用いて連結する連結金具に関する。」(【0001】)

b.「よって本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、目視できない首の後部においても容易に連結することができるとともに連結部に充分な連結力が得られる連結金具の提供を目的とする。」(【0004】)

c.「【発明の実施の形態1】図1から図6は本発明の実施の形態1を示し、図1は連結した連結金具の断面図、図2は雌側連結金具の断面図、図3は雌側連結金具の開放端面を示す側面図、図4は雄側連結金具の断面図、図5は雄側連結金具の挿入側端面を示す側面図、図6は磁石を4極にした場合の例を示す図である。
本実施の形態の連結金具は図2及び図4に示すように雌側金具1及び雄側金具2がともに一方の側が開口した有底円筒状をなしていて、連結金具1及び連結金具2の開口部にはそれぞれを連結した際に軸心を一致させる嵌合部6を形成し、それぞれの連結金具底部には装身具端部4を挿通してその頭部5を掛止する穴3が設けられている。
雌側金具1は図2に示すように嵌合部6の奥を一段小さい内径7とし、内径7に対し軸心に平行かつ谷径が嵌合部6の内径と同一な2箇所の導入溝8a,8b(図3)を形成するとともに、内径7の奥の部分には嵌合部6の内径と同径のリング状溝10を掛止手段として形成している。さらにリング状溝10の奥の部分には、外周に軟磁鉄材13を被覆した磁石11を樹脂14にて固定している。
一方、雄側金具2は図4及び図5に示すように外周に軟磁鉄材13を被覆した磁石12を開口端内径に樹脂14にて固定し、その端部外径に突部9a,9bを形成している。また、磁石11,12のそれぞれにはN及びSの2極を着磁したものを用い、磁極は両連結金具1及び2が、後述の連結時において互いが吸着して連結を保持する位置に配置されている。
この構成の連結金具の開放端を連結する場合は、まず雌側金具1の開口端に対して雄側金具2に固定した磁石12を近づけると、磁石11と磁石12との磁力により互いに引き合うので、嵌合位置を手探りしなくても突部9a,9bの外径が雌側金具1の嵌合部6の内径に容易に嵌まり込む。
次に、雄側金具2を僅かに回転させてその突部9a,9bを雌側金具1の導入溝8a,8bの位置に合わせる。この導入位置はそれぞれの磁石11及び12が回転により位置がずれていることにより吸着力が弱い状態にあるので雄側金具2を手の力でリング状溝10の位置まで押し込む。リング状溝10と突部9a,9bとが同一位置になった位置では磁石11及び12が接近しているので手をはなしただけで突部9a、9bは磁石11及び12の吸引力でリング状溝10内を回転させられ、磁石11及び12が対向した位置に移動して吸着する。この吸着により雄側金具2の突部9a,9bとリング状溝10とが完全に掛止された状態になり、磁石11及び12の吸着力にて掛止が保持されるので突部9a,9bがリング状溝10から自然に脱出して外れるということがない。
また、連結を外す場合は雄側金具2をどちらか一方の方向に回転させ、突部9a,9bを導入溝8a,8bの位置に合わせることにより吸引力が弱くなるのでその位置から導入溝8a,8bに沿って引き抜けば容易に外すことができる。」(【0010】?【0016】)

d.「なお、本実施の形態では1個の磁性体内に2極を着磁した磁石を用いた例を示したが、図6に示すように4極を着磁した磁石を用いても同様な効果が得られる。また、磁石は1極にしてもよいが、1極の場合は図3及び図5に示す磁極の配置においてその内の1個の磁極を外した状態で、しかも磁石11及び12が互いに吸着した位置で突部9a,9bがリング状溝10に掛止状態になる位置に配置すればよい。また、1個の磁性体内にに多極を着磁した磁石に替えて、複数の磁性体からなる磁石を用いてもよい。」(【0018】)

e.b,cの記載事項及び図1?5の記載から、当業者であれば以下の事項を理解するといえる。
(i)雄側金具2の先端部の直前には、雌金具1の内径7の部分に嵌合する小径部を有すること。
(ii)雄側金具2の先端部には、小径の円形部が形成されるとともに該小径円形部の対称位置に外周が円弧状の大径の突部9a,9bが形成され、さらに大径の突部9a,9bを結ぶ方向にS極とN極が配列された磁石12が設けられていること。
(iii)雌側金具1の内径7の部分には、小径の円形開口部が形成されるとともに該小径円形開口部の対称位置に底面が円弧状の大径の導入溝8a,8bが形成され、内径7の部分の奥にはリング状溝10が形成され、さらに雌側金具1の奥には大径の導入溝8a,8bを結ぶ方向とほぼ90度異なる方向にS極とN極が配列された磁石11が設けられていること。

f.「雄側金具2を僅かに回転させてその突部9a,9bを雌側金具1の導入溝8a,8bの位置に合わせる。・・・雄側金具2を手の力でリング状溝10の位置まで押し込む。」(記載事項c)という記載及び図1?5の記載からして、当業者であれば、雄側金具2は雌側金具1と嵌合する際に、雄側金具2の大径の突部9a,9bが雌側金具1の大径の導入溝8a,8bを通ることにより、雄側金具2の先端部が雌側金具1の内径7の部分を通ることができることを理解するといえる。

g.「リング状溝10と突部9a,9bとが同一位置になった位置では磁石11及び12が接近しているので手をはなしただけで突部9a、9bは磁石11及び12の吸引力でリング状溝10内を回転させられ、磁石11及び12が対向した位置に移動して吸着する。」(記載事項c)という記載及び図1?5の記載からして、当業者であれば、雌金具1の内径7の部分に嵌合する雄側金具2の先端部直前の小径部は、雄側金具2と雌側金具1とが嵌合中、雌側金具1の内径7の部分に位置して雄側金具2の相対的な回転を可能にすると解される。

これら記載事項及び図示内容を総合し、整理すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。
「環状にして用いるネックレスあるいはブレスレット等の装身具の開放端に磁性体から成る連結部材を設けた一対の連結金具であって、連結金具は、相互間で回転自在かつ嵌合可能な雄側金具2と雌側金具1とからなり、
雄側金具2は、突部9a,9bを有する先端部と、雌金具1の内径7の部分に嵌合する、先端部直前の小径部とを有しており、
雄側金具2の先端部には、小径の円形部が形成されるとともに該小径円形部の対称位置に外周が円弧状の大径の突部9a,9bが形成され、さらに大径の突部9a,9bを結ぶ方向にS極とN極が配列された磁石12が設けられており、
雌側金具1の内径7の部分には、小径の円形開口部が形成されるとともに該小径円形開口部の対称位置に底面が円弧状の大径の導入溝8a,8bが形成され、内径7の部分の奥にはリング状溝10が形成され、さらに雌側金具1の奥には大径の導入溝8a,8bを結ぶ方向とほぼ90度異なる方向にS極とN極が配列された磁石11が設けられており、
雄側金具2は雌側金具1と嵌合する際に、雄側金具2の大径の突部9a,9bが雌側金具1の大径の導入溝8a,8bを通ることにより、雄側金具2の先端部が雌側金具1の内径7の部分を通ることができ、
雌金具1の内径7の部分に嵌合する雄側金具2の先端部直前の小径部は、雄側金具2と雌側金具1とが嵌合中、雌側金具1の内径7の部分に位置して雄側金具2の相対的な回転を可能にし、
雄側金具2の突部9a,9bを雌側金具1の嵌合部6に嵌め込み、雄側金具2の突部9a,9bを雌側金具1の導入溝8a,8bの位置に合わせ、雄側金具2をリング状溝10の位置まで押し込み手を離すと、突部9a、9bは磁石11及び12の吸引力でリング状溝10内を回転させられ、磁石11及び12が対向した位置に移動して吸着し、雄側金具2の突部9a,9bとリング状溝10とが完全に掛止された状態になる、
環状にして用いるネックレスあるいはブレスレット等の装身具の開放端に磁性体から成る連結部材を設けた一対の連結金具。」

3-2.対比
ア.本願補正発明と引用発明とを対比すると、その構造または機能からみて、引用発明の「環状にして用いるネックレスあるいはブレスレット等の装身具の開放端に磁性体から成る連結部材を設けた一対の連結金具」は、本願補正発明の「鎖状乃至紐状その他の細長い線状部材の両端等に取り付け、線状部材を環状にする目的等に使用される連結具の一種」に相当し、引用発明の「S極とN極」、「磁石11」及び「磁石12」は、本願補正発明の「磁石」に相当する。
また、引用発明の「雄側金具2」、「雌側金具1」は、本願補正発明の「雄部品」、「雌部品」に相当するとともに、引用発明の雄側金具2と雌側金具1は、相互間で回転自在かつ嵌合可能であるから、本願補正発明の雄部品と雌部品と同様に、「相互に嵌合、分離可能な」ものである。

イ.引用発明の「雄側金具2」の「突部9a,9bを有する先端部」は、本願補正発明の「雄部品」の「頭部」に相当する。
そして、引用発明の雄側金具2は雌側金具1と嵌合する際に、雄側金具2の大径の突部9a,9bが雌側金具1の大径の導入溝8a,8bを通ることにより、雄側金具2の先端部が雌側金具1の内径7の部分を通ることができるから、引用発明の「雌側金具1」の「小径の円形開口部が形成されるとともに該小径円形開口部の対称位置に底面が円弧状の大径の導入溝8a,8bが形成された」「内径7の部分」は、本願補正発明の「雌部品」の「嵌合口」に相当するとともに、引用発明の「突部9a,9bを有する先端部」は、本願補正発明の「頭部」と同様、「雌部品の嵌合口を通る」ものである。

引用発明の「雌金具1の内径7の部分に嵌合する」「雄側金具2の先端部直前の小径部」は、本願補正発明の「雄部品」の「頸部」に相当するとともに、雄側金具2と雌側金具1とが嵌合中、雌側金具1の内径7の部分(嵌合口)に位置して雄側金具2(雄部品)の「相対的な回転を可能にする」ものである。

ウ.引用発明の「突部9a,9bを有する先端部」は、本願補正発明の「頭部」と同様、「雌部品の嵌合口を通る」ものであることは、上記イ.で検討したとおりであるから、本願補正発明の「頭部」と引用発明の「突部9a,9bを有する先端部」とは、「嵌合口を通過できる形状を有する」点で一致する。

本願補正発明の「長円形」は、平成19年5月14日付け手続補正書及び平成19年8月9日付け手続補正書により補正された本願明細書(以下、「補正明細書」という)に「頭部16は長円形で、長径は基部径よりも小さく頸部径よりも大きく、短径は頸部径と同寸に設定されている。」(【0012】)と記載されているように、大径部と小径部を有しており、本願補正発明の「長円形の長手方向」は、長円形の大径部の方向と解される。
他方、引用発明の雄側金具2の先端部には、大径の突部9a,9bを結ぶ方向にS極とN極が配列されているから、本願補正発明の「頭部」と引用発明の「突部9a,9bを有する先端部」とは、「磁石を嵌合口を通過できる形状の頭部又は頭部の基部に大径方向に配列し」ている点で一致する。
また、引用発明の雌側金具1の奥には大径の導入溝8a,8bを結ぶ方向とほぼ90度異なる方向にS極とN極が配列されているから、引用発明の「内径7の部分」と本願補正発明の「嵌合口」とは、「頭部が通過できる形状を有するとともに、該形状の大径方向とほぼ90度異なる方向の雌部品に磁石を配列してな」る点で一致する。

エ.引用発明の「雄側金具2の突部9a,9bを雌側金具1の嵌合部6に嵌め込み、雄側金具2の突部9a,9bを雌側金具1の導入溝8a,8bの位置に合わせ、雄側金具2をリング状溝10の位置まで押し込み手を離すと」は、本願補正発明の「雄部品を雌部品に嵌合口から差し込むと」に相当し、以下同様に、「突部9a、9bは磁石11及び12の吸引力でリング状溝10内を回転させられ、磁石11及び12が対向した位置に移動して吸着し」は「磁気吸着により雄部品と雌部品との位置関係に変化を生じて」に、「雄側金具2の突部9a,9bとリング状溝10とが完全に掛止された状態になる」は「その結果雌部品の嵌合口を雄部品が通過できない状態になる」にそれぞれ相当する。

そこで、本願補正発明と引用発明とは次の点で一致する。
(一致点)
「鎖状乃至紐状その他の細長い線状部材の両端等に取り付け、線状部材を環
状にする目的等に使用される連結具の一種であって、相互に嵌合、分離可能な雄部品と雌部品とからなり、雄部品は、雌部品の嵌合口を通る頭部と、嵌合中、雌部品の嵌合口に位置して雄部品の相対的な回転を可能にする頸部とを有しており、頭部は、嵌合口を通過できる形状を有するとともに、磁石を該形状の頭部又は頭部の基部に大径方向に配列し、嵌合口は頭部が通過できる形状を有するとともに、該形状の大径方向とほぼ90度異なる方向の雌部品に磁石を配列してなり、雄部品を雌部品に嵌合口から差し込むと、磁気吸着により雄部品と雌部品との位置関係に変化を生じて、その結果雌部品の嵌合口を雄部品が通過できない状態になるように構成された装身具類の連結具。」

そして、両者は次の相違点で相違する。
(相違点)
本願補正発明は、「頭部は、嵌合口を通過できる長円形を有するとともに、磁石を長円形の頭部又は頭部の基部に長手方向に配列し、嵌合口は頭部が通過できる長円形を有するとともに、その長円形の長手方向とほぼ90度異なる方向の雌部品に磁石を配列してな」るのに対し、
引用発明は、「雄側金具2の先端部には、小径の円形部が形成されるとともに該小径円形部の対称位置に外周が円弧状の大径の突部9a,9bが形成され、さらに大径の突部9a,9bを結ぶ方向にS極とN極が配列された磁石12が設けられており、
雌側金具1の内径7の部分には、小径の円形開口部が形成されるとともに該小径円形開口部の対称位置に底面が円弧状の大径の導入溝8a,8bが形成され、内径7の部分の奥にはリング状溝10が形成され、さらに雌側金具1の奥には大径の導入溝8a,8bを結ぶ方向とほぼ90度異なる方向にS極とN極が配列された磁石11が設けられており、
雄側金具2は雌側金具1と嵌合する際に、雄側金具2の大径の突部9a,9bが雌側金具1の大径の導入溝8a,8bを通ることにより、雄側金具2の先端部が雌側金具1の内径7の部分を通ることができ」る点。

3-3.相違点の判断
ア.上記相違点について検討する。
引用発明は、「目視できない首の後部においても容易に連結することができるとともに連結部に充分な連結力が得られる連結金具の提供を目的とする」(記載事項b)ものであって、「雄側金具2を手の力でリング状溝10の位置まで押し込む」(記載事項c)とあるように、雄側金具2と雌側金具1の連結操作を手で行い、雄側金具2の大径の突部9a,9bを雌側金具1の大径の導入溝8a,8bの位置に合わせて嵌合、連結させるものである。
してみると、引用発明において、目視できない首の後部で雄側金具2と雌側金具1とを連結するとき、雄側金具2の先端部(頭部)と雌側金具1の内径7の部分(嵌合口)の大径部(突部9a,9b、導入溝8a,8b)とを、手探りで位置合わせする際に判別しやすいように、小径部(円形部、円形開口部)からできるだけ突出させることは、当業者であれば容易に想到し得る程度の事項である。
その際に、大径部(突部9a,9b、導入溝8a,8b)と小径部(円形部、円形開口部)の径の比や、両部分の形状について試行錯誤を試みることは、当業者の通常の創作能力の発揮といえるから、引用発明の雄側金具2の先端部(頭部)と雌側金具1の内径7の部分(嵌合口)の形状を「長円形」とすることは、当業者であれば必要に応じて適宜行う設計事項である。

(上記の点につき、審判請求人は、「引用文献1の場合、段落[0017]に、『本実施の形態によれば、連結金具の開放端に設けた磁石11及び12により開放端を手探りしなくても容易に嵌合する事ができ、』と記載されており、雄側、雌側を手探りなしで持続することを目的とする技術的思想を有している。よって、手探りの形状判別に頼らない引用文献1の発明が、指先で判別しやすい長円形という形状に基づいて技術的課題を達成する本発明を示唆することは、通常の判断ではあり得ないことであるから、本発明を引用文献1の発明に基づいて容易に想到できるとした拒絶理由2は妥当ではないことになる。」(平成19年5月14日付け意見書(3)拒絶理由についてII.2)の項)と主張する。
しかしながら、引用発明が目視できない首の後部で雄側金具2と雌側金具1とを手で連結するものであることや、雄側金具2と雌側金具1の構造からして、引用例の上記記載は、引用発明が雄側金具2と雌側金具1との手による連結操作をなるべく容易にするものであることをいう趣旨と解されるものの、引用発明が「手探りの形状判別に頼」ることを否定するものとはいえないから、審判請求人の上記主張は、採用することはできない。)

そして、引用発明が、「頭部は、嵌合口を通過できる形状を有するとともに、磁石を該形状の頭部又は頭部の基部に大径方向に配列し、嵌合口は頭部が通過できる形状を有するとともに、該形状の大径方向とほぼ90度異なる方向の雌部品に磁石を配列してな」るものであることは、上記一致点で認定したとおりであるから、引用発明の雄側金具2の先端部(頭部)と雌側金具1の内径7の部分(嵌合口)の形状を「長円形」とした場合、引用発明が、相違点に係る本願補正発明の発明特定事項を備えることになるのは明らかである。

イ.補正明細書に記載の「【発明の効果】本発明は以上の如く構成されかつ作用するものであるから、雄部品と雌部品とが頭部を嵌合口に嵌合することにより磁気吸着作用で自動的に分離できない状態となるので、従来のように首の後で小さな突起をつめで動かしたり、或いはストッパーの突起を溝に係合させたりするような作業をしなくても、容易かつ確実に連結が可能となるので、非常に操作性が良く、かつ引っ張りに耐える限界も高く、シンプルな構造のため製造が容易である等顕著な効果を奏する。」(【0019】)という効果は、引用発明から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

ウ.ちなみに、引用発明が雄側金具2と雌側金具1の連結操作を手探りで行うものであって、審判請求人が以下主張する「平行な直線とその端部に位置する円弧から成る」「長円形」とすることも、上記ア.の理由で、当業者であれば必要に応じて適宜行う設計事項であるから、審判請求人が以下主張する「長円形という形状は、一組の平行な直線とその両端の円弧しかなく、そうであればこそ触覚による確実な方向判断の効果を得ることができる」点も、当業者であれば、引用発明から予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

(上記の点につき、審判請求人は、「本願発明の明細書及び図面において、雄部品11の頭部16は長円形であると明記されている。長円形については、全ての実施例について共通の形状のものとして記載され、具体的には平行な直線とその端部に位置する円弧から成っており、例外はない。そして、この長円形という形状は、一組の平行な直線とその両端の円弧しかなく、そうであればこそ触覚による確実な方向判断の効果を得ることができるものである。」(審判請求書に対する平成19年8月9日付け手続補正書「(3)本願明細書の記載について」の項)と主張する。
しかしながら、審判請求人が主張する「長円形という形状は、一組の平行な直線とその両端の円弧しかなく、そうであればこそ触覚による確実な方向判断の効果を得ることができるものである。」旨の記載は、補正明細書には存在しない。
また、本件補正により補正された請求項1には、単に「長円形」という記載が存在するのみであって、「長円形」が「平行な直線とその端部に位置する円弧から成る」旨の記載は存在しない。
しかも、補正明細書の発明の詳細な説明には、「長円形」について、「頭部16は長円形で、長径は基部径よりも小さく頸部径よりも大きく、短径は頸部径と同寸に設定されている。」(【0012】)、「嵌合口24を構成している長円形の長軸方向」(【0014】)という程度の記載が存在するのみで、「長円形」が「平行な直線とその端部に位置する円弧から成る」旨の記載は存在しない。
加えて、「長円」は、通常、「楕円」を意味する(広辞苑第6版)ことを考慮すれば、仮に、実施例に共通する図面から「平行な直線とその端部に位置する円弧から成る」「長円形」を把握することができたとしても、そのことのみで、本願補正発明に係る「長円形」を、補正された請求項1及び発明の詳細な説明に記載されていない「平行な直線とその端部に位置する円弧から成る」形状として一義的に解釈すべき合理的根拠も見出せない。
してみると、審判請求人の上記主張は、補正された請求項1に記載された発明特定事項に基づくものとはいえないから、採用することはできない。)

エ.以上によれば、本願補正発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3-4.むすび
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を、「本願発明」という)は、平成19年5月14日付けの手続補正書により補正された明細書の、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 鎖状乃至紐状その他の細長い線状部材の両端等に取り付け、線状部材を環状にする目的等に使用される連結具の一種であって、相互に嵌合、分離可能な雄部品と雌部品とからなり、雄部品は、雌部品の嵌合口を通る頭部と、嵌合中、雌部品の嵌合口に位置して雄部品の相対的な回転を可能にする頸部とを有しており、頭部は、嵌合口を通過できる長円形を有するとともに、磁石を長円形の頭部の長手方向に配列し、嵌合口は頭部が通過できる長円形を有するとともに、その長円形の長手方向とほぼ90度異なる方向に磁石を配列してなり、雄部品を雌部品に嵌合口から差し込むと、磁気吸着により雄部品と雌部品との位置関係に変化を生じて、その結果雌部品の嵌合口を雄部品が通過できない状態になるように構成された装身具類の連結具。」
(なお、「その結果雌部品の嵌合口を『雌』部品が通過できない」は、「その結果雌部品の嵌合口を『雄』部品が通過できない」の誤記であることが明らかであるから、上記のように認定した。)

IV.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載事項は、前記II.3-1に記載したとおりである。

V.対比・判断
本願発明は、前記II.1の本願補正発明から、「磁石を長円形の頭部又は頭部の基部に長手方向に配列し」の限定事項である「又は頭部の基部に」との構成を省き、「その長円形の長手方向とほぼ90度異なる方向の雌部品に磁石を配列してなり」の限定事項である「の雌部品」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.3-3に記載したとおり、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

VI.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-15 
結審通知日 2009-12-22 
審決日 2010-01-05 
出願番号 特願2003-162442(P2003-162442)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A44C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近藤 裕之門前 浩一  
特許庁審判長 横林 秀治郎
特許庁審判官 蓮井 雅之
岩田 洋一
発明の名称 装身具類の連結具  
代理人 井澤 洵  

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