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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C23F
管理番号 1213211
審判番号 不服2008-16171  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-26 
確定日 2010-03-11 
事件の表示 特願2002-78983「表面処理用錆剤」拒絶査定不服審判事件〔平成15年3月5日出願公開、特開2003-64487〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年3月20日(優先権主張平成13年6月12日)の出願であって、平成20年5月14日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年6月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成20年7月24日付で手続補正がなされたものである。

II.平成20年7月24日付の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成20年7月24日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正は、補正前の請求項1?5を、請求項1?4にする補正を含むものであって、補正後の請求項1は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 質量%で、X線的非晶質錆:50%以上、α-FeOOH:20%以上を合計で80%以上含有し、残部Fe_(3)O_(4)、γ-FeOOH、β-FeOOHの1種以上および/または不可避的不純物からなる、人工的に製造されたBET比表面積が50m^(2)/g以上の粒子からなる粉体であり、溶媒に添加して鋼材表面に塗布するものであることを特徴とする表面処理用錆剤。」(以下、「本願補正発明1」という。)

補正後の請求項1は、補正前の請求項1の「人工的に製造された粉体であることを特徴とする表面処理用錆剤」を、「人工的に製造されたBET比表面積が50m^(2)/g以上の粒子からなる粉体であり、溶媒に添加して鋼材表面に塗布するものであることを特徴とする表面処理用錆剤」に補正するものであって、この補正は、表面処理用錆剤を、物性及び使用形態の観点でさらに限定するものであるから、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。

次に、本願補正発明1が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて、以下検討する。

2.引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-160362号公報(以下、「引用例1」という。)、及び特開平11-335876号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(1)引用例1:特開2000-160362号公報
(1a)「【請求項1】 非晶質さびと樹脂とからなる単層の塗膜で表面を覆われた耐候性に優れる表面処理鋼材。」(特許請求の範囲の請求項1)
(1b)「本発明は、美観を損なわず環境汚染を伴わず安定錆層を均一かつ安定的に形成可能な耐候性に優れる表面処理鋼材を提供することを目的とする。」(【0007】)
(1c)「非晶質さびと樹脂からなる溶液を鋼表面に塗布することにより、該表面全域でほぼ均一な塗膜(人工錆層と称す)を形成することができ、そのことによって耐候性および塗膜密着性が向上することを見いだした。」(【0008】)
(1d)「「非晶質さび」とは、鉄さび(Fe,O,Hからなる化合物であって鉄の酸化物、水酸化物の単体または混合物)であって、非晶質成分を20%以上含むものをいう。鉄さび中の非晶質成分は、同鉄さび中の結晶質成分をX線回折により同定・定量し前記鉄さびの全量から差し引くことにより定量することができる。非晶質さび中には、80wt%未満のα-FeOOH、β-FeOOH、γ-FeOOH・・・Fe_(3)O_(4) などの結晶質成分のほか、不可避的に混入する不純物が含まれていてもよい。」(【0011】)
(1e)「結晶質成分の中での存在比率については、α-FeOOHが50wt%以上であることが好ましい。というのは・・・大気腐食環境中において安定な最終化合物であるα-FeOOHが多い方が人工錆層の安定度がより高くなると考えられるからである。」(【0013】)
(1f)「さらなる耐候性改善の面から、非晶質さび(非晶質成分20wt%以上の鉄さび)の中でも、非晶質成分50wt%以上のものがより好ましい。」(【0014】)
(1g)「人工錆層に含まれる樹脂の種類は特に限定されるものではなく・・・密着性および非晶質さび均一分散の面からは、ブチラール樹脂・・・が好適である。」(【0016】)
(1h)「【0018】人工錆層を形成するには、原料である非晶質さびを・・・有機溶媒に加えて溶液とし、該溶液に樹脂を混合させたものを刷毛塗り、スプレー、コーター等により鋼材表面に塗布・成膜する。」(【0018】)

(2)引用例2:特開平11-335876号公報
(2a)「錆が緻密であるほど、腐食性物質が侵入しにくく、耐食性が向上する。」(【0034】)
(2b)「分子吸着法においては、BET プロットにより求めることが可能な比表面積も、錆の粒子径 (大きさ) の点から、錆の緻密さを表す指標になる。この比表面積の目安としては・・・より好ましくは50m^(2)/g以上で耐食性が向上する。」(【0035】)

3.当審の判断
3-1.引用例1に記載の発明
引用例1の摘記事項(1a)によれば、非晶質錆と樹脂とからなる塗膜で表面を覆われた表面処理鋼材が記載され、摘記事項(1c)によれば、非晶質錆と樹脂とからなる塗膜は、人工錆層と称されること、摘記事項(1h)によれば、人工錆層は、非晶質錆を有機溶媒に加えて溶液とし、該溶液に樹脂を混合させたものを鋼材表面に塗布することにより形成すること、摘記事項(1g)によれば、非晶質錆は人工錆層に均一分散していることが記載されている。すると、上記表面処理鋼材は、非晶質錆の粒子からなる粉体を有機溶媒に加えて分散溶液とし、該溶液に樹脂を混合させたものを鋼材表面に塗布して人工錆層を形成することにより製造されることが理解できるし、非晶質錆の粒子からなる粉体は、表面処理用錆剤といえることも理解できる。
また、摘記事項(1d)によれば、非晶質錆とは、鉄錆であって、20%以上の非晶質成分と、α-FeOOH、β-FeOOH、γ-FeOOH、Fe_(3)O_(4) などの結晶質成分と、不可避的不純物を含んでいてもよく、鉄錆中の非晶質成分は、結晶質成分をX線回折により同定・定量し鉄錆の全量から差し引くことにより定量することができること、摘記事項(1f)によれば、非晶質錆(非晶質成分20wt%以上の鉄錆)の中でも、非晶質成分50wt%以上のものが好ましいことが記載されている。これらの記載によれば、好ましい非晶質錆(鉄錆)は、非晶質成分が50wt%以上、残部の50wt%以下が、α-FeOOH、β-FeOOH、γ-FeOOH、Fe_(3)O_(4) の結晶質成分の1種以上及び/又は不可避的不純物からなるものであり、非晶質成分は、X線的非晶質成分といえることが理解できるところ、摘記事項(1e)には、「結晶質成分の中での存在比率については、α-FeOOHが50wt%以上であることが好ましい。」と記載されている。すると、好ましい非晶質錆(鉄錆)は、50wt%以上のX線的非晶質成分、25wt%以上のα-FeOOHを含有し、残部β-FeOOH、γ-FeOOH、Fe_(3)O_(4) の1種以上及び/又は不可避的不純物からなるといえる。
そこで、引用例1の摘記事項(1a)、(1c)?(1h)の記載を表面処理用錆剤の観点で総合すると、引用例1には、「質量%で、X線的非晶質成分:50%以上、α-FeOOH:25%以上を含有し、残部Fe_(3)O_(4)、γ-FeOOH、β-FeOOHの1種以上及び/又は不可避的不純物からなる鉄錆の粒子からなる粉体であり、溶媒に加えて分散溶液とし、該溶液に樹脂を混合させて鋼材表面に塗布するものである表面処理用錆剤。」(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていることになる。

3-2.対比・判断
本願補正発明1と引用例1発明とを対比すると、引用例1発明の「X線的非晶質成分」は、本願補正発明1の「X線的非晶質錆」に相当するから、両者は、
「質量%で、X線的非晶質錆:50%以上、α-FeOOH:25%以上を含有し、残部Fe_(3)O_(4)、γ-FeOOH、β-FeOOHの1種以上及び/又は不可避的不純物からなる粒子からなる粉体であり、溶媒に添加して鋼材表面に塗布するものであることを特徴とする表面処理用錆剤。」で一致し、次の点で相違する。

相違点:
(イ)本願補正発明1は、X線的非晶質錆とα-FeOOHを「合計で80%以上」含有するのに対し、引用例1発明は、X線的非晶質錆とα-FeOOHの合計量が規定されていない点
(ロ)本願補正発明1は、「人工的に製造された」粒子であるのに対し、引用例1発明は、鉄錆の粒子である点
(ハ)本願補正発明1は、「BET比表面積が50m^(2)/g以上」の粒子であるのに対し、引用例1発明は、粒子についてこのような点が規定されていない点
(ニ)本願補正発明1は、粉体を溶媒に添加して鋼材表面に塗布するのに対し、引用例1発明は、粉体を溶媒に加えて分散溶液とし、該溶液に樹脂を混合させて鋼材表面に塗布する点

上記相違点について検討する。
相違点(イ)について
引用例1の摘記事項(1f)によれば、X線的非晶質錆(非晶質成分)が50%以上であることが、耐候性改善の面でより好ましいこと、摘記事項(1e)によれば、α-FeOOHが多いと、人工錆層(すなわち、錆剤を適用して形成された錆層)の安定度が高くなることが記載されている。すると、引用例1発明のX線的非晶質錆、及びα-FeOOHの含有量は多い方が、耐候性改善や人工錆層の安定度向上に寄与することが窺えるから、引用例1発明のX線的非晶質錆とα-FeOOHの含有量の合計の下限値を、それぞれの含有量の下限値の合計より多い80%とすることは、当業者にとって創意を要することではない。
してみると、相違点(イ)は、引用例1のその他の記載から当業者が適宜なし得たことである。

相違点(ロ)について
X線的非晶質錆、及びα-FeOOHを含有し、残部Fe_(3)O_(4)、γ-FeOOH、β-FeOOHの1種以上及び/又は不可避的不純物からなる粒子(錆剤)として、人工的に製造されたものと、鉄錆とに、物としての差異は見い出せないし、引用例1の摘記事項(1b)に記載される「美観を損なわず環境汚染を伴わず安定錆層を均一かつ安定的に形成可能な耐候性に優れる表面処理鋼材を提供する]という目的達成のためには、人工的に製造された錆剤が阻害されているとする根拠も見いだせない。
そうであれば、引用例1発明の鉄錆の粒子に代えて、人工的に製造された粒子を適用することは、当業者が容易に想到することであるから、相違点(ロ)は、当業者が適宜なし得たことである。

相違点(ハ)について
引用例2の摘記事項(2a)、(2b)によれば、錆の粒子のBET比表面積が50m^(2)/g以上であることは、腐食性物質が侵入しにくい耐蝕性が向上した錆の緻密さの指標であることが記載されている。そうであれば、人工錆層(錆剤を適用して形成された錆層)においても、耐蝕性向上は当然求められる特性であるから、引用例1発明の粒子のBET比表面積を50m^(2)/g以上とすることにより、腐食性物質が侵入しにくい緻密な人工錆層を形成できるものとすることは当業者にとって困難なことではない。
してみると、相違点(ハ)は、引用例2の記載から当業者が適宜なし得たことである。

相違点(ニ)について
本願明細書には、「【0021】・・・粉体からなる錆剤を溶媒(例えばブチラール樹脂とアルコールの混合液)に添加して鋼材表面に塗布・・・することにより、長期暴露による保護性錆と同様の錆を形成できることがわかった。」、「【0032】この実施例1錆剤をブチラール樹脂とアルコールの混合液に・・・添加し・・・得られた処理液を耐候性鋼材表面に塗布・乾燥し・・・た。」と記載されている。そうすると、本願補正発明1の粉体は、溶媒(アルコール)と樹脂(ブチラール樹脂)との混合液に添加されて、鋼材表面に塗布されることが理解できるから、引用例1発明と実質的な差異はないというべきである。
してみると、相違点(ニ)は、実質的な相違点ではない。

そして、本願補正発明1の奏する効果も引用例1、2の記載から予測される範囲のものであって、格別顕著なものとは認められない。

したがって、本願補正発明1は、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願補正発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
平成20年7月24日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成19年10月11日付手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】 質量%で、X線的非晶質錆:50%以上、α-FeOOH:20%以上を合計で80%以上含有し、残部Fe_(3)O_(4)、γ-FeOOH、β-FeOOHの1種以上および/または不可避的不純物からなる、人工的に製造された粉体であることを特徴とする表面処理用錆剤。」

2.引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1とその主な記載事項は、前記「II.2.」に記載したとおりである。

3.当審の判断
引用例1発明は、前記「II.3.3-1」に記載したとおりであるから、引用例1には、「質量%で、X線的非晶質成分:50%以上、α-FeOOH:25%以上を含有し、残部Fe_(3)O_(4)、γ-FeOOH、β-FeOOHの1種以上及び/又は不可避的不純物からなる鉄錆の粉体であることを特徴とする表面処理用錆剤。」(以下、「引用例1’発明」という。)も記載されているといえる。
そこで、本願発明1と引用例1’発明を対比すると、引用例1’発明の「X線的非晶質成分」は、本願発明1の「X線的非晶質錆」に相当するから、両者は、
「質量%で、X線的非晶質錆:50%以上、α-FeOOH:25%以上を含有し、残部Fe_(3)O_(4)、γ-FeOOH、β-FeOOHの1種以上及び/又は不可避的不純物からなる粉体であるることを特徴とする表面処理用錆剤。」で一致し、次の点で相違する。

相違点:
(a)本願発明1は、X線的非晶質錆とα-FeOOHを「合計で80%以上」含有するのに対し、引用例1’発明は、X線的非晶質錆とα-FeOOHの合計量が規定されていない点
(b)本願発明1は、「人工的に製造された」粉体であるのに対し、引用例1’発明は、鉄錆の粉体である点

上記相違点(a)、(b)は、前記「II.3.3-2」に記載した相違点(イ)、(ロ)と実質的に一致するから、本願発明1は、前記「II.3.3-2.」において相違点(イ)、(ロ)について記載したと同様の理由により、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する
 
審理終結日 2009-12-22 
結審通知日 2010-01-05 
審決日 2010-01-22 
出願番号 特願2002-78983(P2002-78983)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C23F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬良 聡機  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官
國方 康伸
鈴木 正紀
発明の名称 表面処理用錆剤  
代理人 小林 英一  
代理人 小林 英一  

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