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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04G
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 E04G
管理番号 1215327
審判番号 不服2008-9119  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-11 
確定日 2010-04-20 
事件の表示 平成11年特許願第506682号「コンクリートの電気化学的処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 1月14日国際公開,WO99/01407,平成14年 3月 5日国内公表,特表2002-507264〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成10年7月3日(優先権主張1997年7月3日,英国)を国際出願日とする出願であって,平成19年7月24日付け拒絶理由通知に対して,同年10月30日付けで手続補正がなされたが,平成20年1月4日付けで拒絶査定がなされ,これに対して同年4月11日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正がなされ,さらに,同年4月25日付けで手続補正がなされたものである。
その後,平成21年4月27日付けで審査官による前置報告書の内容を提示するとともに請求人の意見を求める審尋を行ったが,回答書は提出されなかった。


第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成20年4月11日付けの手続補正(以下「本件補正1」という。),及び同年4月25日付けの手続補正(以下「本件補正2」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正1について
(1)まず,本件補正1について検討する。
本件補正1は,明細書の特許請求の範囲の請求項1を,
「コンクリートの外面に塗布されたアルカリ性の水溶性電解質層に接触しているアノードと、コンクリートの内部に設置されたカソードとの間に、直流を通してコンクリート内部のpHを増大させ、またコンクリートの表面層に電解質水溶液を含浸させる方法であって、その場合、電解質水溶液は炭酸カリウムを少なくとも0.3モル/リットルの濃度で含んでいて、電解質水溶液中ではナトリウムイオンが、もし存在するとすれば、炭酸カリウムの乾燥重量を基準として、炭酸カリウムの5重量%より少なくされており、上記方法をpHが10.0より小さい領域を含んだコンクリートに適用し、そのpHが少なくとも10.5のレベルに到達するまで上記方法を継続することを特徴とする、鉄筋コンクリートを電気化学的に再アルカリ化する方法。」と補正しようとするものである。

上記補正は,補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明を特定するために必要な電解質水溶液を含浸させる方法について,「pHが10.0より小さい領域を含んだコンクリートに適用し、そのpHが少なくとも10.5のレベルに到達するまで継続すること」を限定するものであるから,本件補正1は,少なくとも,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものである。

そこで,本件補正1により補正された後の上記請求項1に係る発明(以下「補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,すなわち,補正発明1が,改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかについて,以下に検討する。

(2)刊行物及びそれに記載された事項
(2-1)原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平8-91958号公報(以下「刊行物1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】 コンクリート表面に設置した電極を外部電極とし、コンクリート内部の鋼材を内部電極とし、外部電極間、及び/又は外部電極と内部電極間に、コンクリート表面に保持された電解質溶液を介して電流を印加する方法において、電解質溶液のpH値を7以上に制御することを特徴とするコンクリートの処理方法。」
(1b)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、コンクリート構造物の電気化学的処理方法に関し、特にコンクリート中の塩分を電気化学的に除去する方法、中性化したコンクリートにアルカリ性溶液を供給する方法、及び、アルカリ骨材反応抑制剤をコンクリートに浸透させる方法に関する。」
(1c)「【0002】
【従来の技術とその課題】・・・しかしながら、この永久構造物と考えられてきたコンクリート構造物も、中性化や塩害などの原因により、その耐久性が低下し、構造物としての寿命に疑問が投げかけられるようになってきた。」
(1d)「【0003】このような劣化したコンクリート構造物を補修する方法として、コンクリート構造物中の鉄筋をマイナス極とし、コンクリート表面に電解質溶液を含浸させた電解質保持材を被覆し、この電解質保持材にチタン等を用いた網目状の電極をプラス極にして仮設し、両極間に電流を流し、コンクリート中の塩素イオンを除去する脱塩処理方法、又は中性化を受けたコンクリート内を再度アルカリ化する再アルカリ化処理方法等の電気化学的な手法を用いた補修工法が開示されている(特開平1-176287号公報,特開平2-302384公報)。」
(1e)「【0009】・・・電解質溶液としては、水酸イオンを含有し、水に溶解可能な化合物を含む溶液、又は加水分解によってアルカリ性を有する炭酸塩を含む溶液であれば特に限定はされない。例えば、水酸化物イオンを含有する1価の化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等、2価の化合物としては、水酸化バリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。又、加水分解によってアルカリ性を有する炭酸塩としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム等が挙げられる。又、高濃度のアルカリ性水溶液である電解質溶液の濃度としては、高濃度である程好ましいが通常、0.1規定以上が好ましく、1規定以上がより好ましく、5規定以上が最も好ましい。」
(1f)「【0017】電解質溶液をコンクリートに与える方法としては、コンクリート表面に電解質溶液を保持する容器を設けて、その中に電解質溶液を溜める方法がある。また、電解質溶液を何らかの物質に吸着、もしくは、保持させた状態でコンクリート表面に供給する方法等もある。」
(1g)「【0020】
【実施例】以下に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例には限定されるものではない。
実施例1
図1に示したように、円筒状の塩ビ容器2を使用し、厚さ30mmに切断した円盤状のコンクリート供試体5をはさみ込んだ装置を使用した。液漏れ防止の目的で、コンクリート供試体5の設置は、塩ビ容器2をボルト8とナット9にてはさみ込み締め付ける方法にて実施した。電極としては、プラス極、マイナス極の両極とも、チタン/白金めっき電極6をセットした。電解質溶液3としては、プラス極側に水酸化リチウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液の3種類の液を各々満たした。液濃度としては、電解質溶液毎に、0.01規定、0.1規定、10規定の3水準につき実施した。マイナス極側には、全条件イオン交換水4を満たした。又、塩ビ容器2に入れた電解質溶液3、イオン交換水4の自然蒸発を抑えるために塩ビ容器2の上部にゴム製蓋10を設置した。両極間に通電する際の電流密度としては、1.0A/m^(2 )を使用し、約1ヶ月通電処理した。通電処理時のプラス極側のpH値につき測定した。結果を表1に示す。」
(1h)「【0021】
【表1】


(1i)上記【表1】の(1-9)には,実施例1における電解質溶液として10規定の炭酸カリウム水溶液を用いたこと,及び,電源として直流電源を用いたこと,が示されている。
上記記載事項(1a)ないし(1i)に記載された内容および技術常識を総合すると,刊行物1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
(引用発明)
「コンクリートの一側面に接触させたアルカリ性を有する電解質溶液に接触しているプラス極と,コンクリートの他側面に接触させたイオン交換水に接触しているマイナス極との間に直流を通して,中性化したコンクリートにアルカリ性溶液を供給し,アルカリ骨材反応抑制剤をコンクリートに浸透させる方法であって,
電解質溶液として,10規定の炭酸カリウム水溶液を使用した,電気化学的な手法を用いてコンクリート内を再度アルカリ化する再アルカリ化処理方法。」

(2-2)同じく,特開平9-142959号公報(以下「刊行物2」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。
(2a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鉄筋やPC鋼材を補強材とする鉄筋コンクリート構造物及びプレストレストコンクリート構造物のコンクリートの再生方法、特に、コンクリートのアルカリ度の低下により中性化したコンクリート構造物、及び、塩素イオンを含有するコンクリート構造物、コンクリートにアルカリ骨材反応を引き起こす可能性のある骨材を含有しているコンクリート構造物の再生方法に関する。」
(2b)「【0005】炭酸化とは、セメントの水和反応によって生成された水酸化カルシウムが大気中の二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムとなる現象であって、炭酸化によりコンクリートのアルカリ度が通常のpH11?14より低下する。そして、pHが10程度にまで低下すると鋼材の不動態被膜が破壊され、鋼材の腐食がはじまり、コンクリート構造物としての強度バランスが崩れ、その耐久性が大きく低下することになる。」
(2c)「【0032】次に、本発明において、電解質溶液をコンクリート表面に保持したり、供給する方法について説明する。」
(2d)「【0033】電解質溶液をコンクリートに与える方法としては、一般には、コンクリート表面に電解質溶液を保持する容器を設けて、その中に、電解質溶液を溜める方法が考えられる。しかし、コンクリートの表面が水平下向き面だけでなく、垂直面や天井面であることを考えると、液体である電解質溶液を漏らさずに溜める容器を設けることは難しい。よって、より好ましい方法として、電解質溶液を何らかの物質に吸着、もしくは、保持させた状態でコンクリート表面に供給する方法がある。この方法であれば、水平方向上面だけでなく、垂直面や天井面でも、十分に電解質溶液をコンクリート表面に供給することが可能である。」
(2e)「【0036】繊維状物質と多孔質材料では、コンクリートの表面に電解質保持材を設置する際に、水や電解質とともに吹き付けにて保持層を形成できるので、コンクリートの表面形状に関わりなく、作業をすることができる。なお、この場合、付着を良くするために、接着性や粘着性を改善するもの、例えば、エマルジョン等、及び、増粘剤等を添加することもできる。」

(3)対比
補正発明1と引用発明を対比すると,引用発明の「プラス極」は補正発明1の「アノード」に相当するものであるから,補正発明1の「コンクリートの外面に塗布されたアルカリ性の水溶性電解質層に接触しているアノード」と引用発明の「コンクリートの一側面に接触させたアルカリ性を有する電解質溶液に接触しているプラス極」とは,「コンクリートの一面に接触させたアルカリ性の水溶性電解質層に接触しているアノード」である点で共通している。
また,引用発明の「マイナス極」は補正発明1の「カソード」に相当するものであるから,補正発明1の「コンクリートの内部に設置されたカソード」と引用発明の「コンクリートの他側面に接触させたイオン交換水に接触しているマイナス極」とは,「コンクリートの他面に接触しているカソード」である点で共通している。
また,引用発明の「中性化したコンクリートにアルカリ性溶液を供給し」は補正発明1の「コンクリート内部のpHを増大させ」に,同様に,「アルカリ骨材反応抑制剤をコンクリートに浸透させる」は「コンクリートの表面層に電解質水溶液を含浸させる」に,それぞれ相当する。
また,引用発明の「10規定の炭酸カリウム水溶液」は,モル濃度に換算すると,10[規定]/2[価]=5[モル/リットル]であり,基本的にナトリウムイオンを含まないものであるから,引用発明の「10規定の炭酸カリウム水溶液を使用した」は,補正発明1の「炭酸カリウムを少なくとも0.3モル/リットルの濃度で含んでいて,電解質水溶液中ではナトリウムイオンが,もし存在するとすれば,炭酸カリウムの乾燥重量を基準として,炭酸カリウムの5重量%より少なくされており」に相当する。
してみれば,両者の一致点および相違点は,次のとおりである。

<一致点1>
「コンクリートの一面に接触させたアルカリ性の水溶性電解質層に接触しているアノードと,コンクリートの他面に接触しているカソードとの間に,直流を通してコンクリート内部のpHを増大させ,またコンクリートの表面層に電解質水溶液を含浸させる方法であって,その場合,電解質水溶液は炭酸カリウムを少なくとも0.3モル/リットルの濃度で含んでいて,電解質水溶液中ではナトリウムイオンが,もし存在するとすれば,炭酸カリウムの乾燥重量を基準として,炭酸カリウムの5重量%より少なくされている,コンクリートを電気化学的に再アルカリ化する方法。」

<相違点1>
アルカリ性の水溶性電解質層が,補正発明1は「コンクリートの外面に塗布された」ものであるのに対し,引用発明は,コンクリートの一側面に接触させたものであるが,塗布されたものとはいえない点。

<相違点2>
補正発明1は,再アルカリ化の対象が「鉄筋コンクリート」であり,カソードが「コンクリートの内部に設置されたカソード」,すなわち,鉄筋自体をカソードとしたものであるのに対し,引用発明は,再アルカリ化の対象が「コンクリート」であり,カソードが「コンクリートの他側面に接触させたイオン交換水に接触しているマイナス極」である点。

<相違点3>
電解質水溶液を含浸させる方法を,補正発明では「pHが10.0より小さい領域を含んだコンクリートに適用し、そのpHが少なくとも10.5のレベルに到達するまで・・・継続する」のに対し,引用発明では,適用時や終了時のpHが明らかでない点。

(4)判断
まず,相違点1及び2について検討する。コンクリートの再アルカリ化に関し,再アルカリ化の対象を鉄筋コンクリートとし,アノードをコンクリートの外面に接触した水溶性電解質に接触させ,カソードをコンクリートの内部に設置された鉄筋とすることにより,鉄筋コンクリートの再アルカリ化を行うことは,例えば,上記刊行物1の従来技術(上記記載事項(1d)参照。)としても記載されているように周知技術である。
また,コンクリートの再アルカリ化において,コンクリートの外面と水溶性電解質とを接触させるにあたり,上記刊行物2には,コンクリートの表面に電解質を吹き付けにて保持層を形成(塗布)すること,すなわち,コンクリートの外面にアルカリ性の水溶性電解質層を塗布する技術(上記記載事項(2e)参照)が開示されている。
そうすると,引用発明において,再アルカリ化の対象を鉄筋コンクリートとし,アノードをコンクリートの外面に接触したアルカリ性の水溶性電解質層に接触させ,カソードをコンクリートの内部に設置された鉄筋とし,さらに,水溶性電解質層のコンクリート外面への接触を塗布により行うようにし,補正発明1の上記相違点1及び2に係る構成を想到することは,当業者が容易になし得たことである。

次に,相違点3について検討する。コンクリートの中性化について,上記刊行物2には,通常のコンクリートのアルカリ度がpH11?14であるのに対し,pHが10程度まで低下すると,コンクリートの耐久性が大きく低下する(上記記載事項(2b)参照)ことが記載されている。
そうすると,引用発明のコンクリートの再アルカリ化方法を,コンクリートの耐久性が大きく低下するといわれているpH10よりpHが低い領域のコンクリートに適用したり,再アルカリ化後のコンクリートのpHが通常のコンクリートのpHである11?14,すなわち,pH10.5以上となるように適用したりすることにより,補正発明1の上記相違点3に係る構成を想到することは,当業者が容易になし得たことである。

また,補正発明1が奏する作用・効果を検討してみても,引用発明,刊行物2記載の技術及び周知技術から当業者が予測し得た範囲のものであって,格別なものとはいえない。

したがって,補正発明1は,引用発明,刊行物2記載の技術及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)本件補正1のむすび
以上のとおり,本件補正1は,改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであり,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

2 本件補正2について
(1)本件補正1は上記のとおり却下されたので,引き続き,本件補正2について検討する。
本件補正2は,明細書の特許請求の範囲の請求項1を,
「コンクリートの外面に塗布されたアルカリ性の水溶性電解質層に接触しているアノードと、コンクリートの内部に設置されたカソードとの間に、直流を通してコンクリート内部のpHを増大させ、またコンクリートの表面層に電解質水溶液を含浸させ、その場合、電解質水溶液は炭酸カリウムを少なくとも0.3モル/リットルの濃度で含んでいて、電解質水溶液中ではナトリウムイオンが、もし存在するとすれば、炭酸カリウムの乾燥重量を基準として、炭酸カリウムの5重量%より少なくされている方法であって、上記方法をpHが10.0より小さい領域を含んだコンクリートを適用し、そのpHが少なくとも10.5のレベルに到達するまで上記方法を継続することを特徴とする、鉄筋コンクリートを電気化学的に再アルカリ化する方法。」と補正しようとするものである。

上記補正は,上記「第2」の「1」の「(1)」で検討した本件補正1の内容とは表現に差異があるものの,実質的に一致するものであるから,本件補正2は,少なくとも,改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものである。

そこで,本件補正2により補正された後の上記請求項1に係る発明(以下「補正発明2」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,すなわち,補正発明2が,改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかについて検討すると,補正発明2は,補正発明1と同様の理由により,引用発明,刊行物2記載の技術及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(2)本件補正2のむすび
以上のとおり,本件補正2は,改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであり,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって,[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正1及び本件補正2は上記のとおり却下されることとなったので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成19年10月30日付け(平成19年11月1日受付け)の手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。
(本願発明)
「コンクリートの外面に塗布されたアルカリ性の水溶性電解質層に接触しているアノードと、コンクリートの内部に設置されたカソードとの間に、直流を通してコンクリート内部のpHを増大させ、またコンクリートの表面層に電解質水溶液を含浸させ、その場合、電解質水溶液は炭酸カリウムを少なくとも0.3モル/リットルの濃度で含んでいて、電解質水溶液中ではナトリウムイオンが、もし存在するとすれば、炭酸カリウムの乾燥重量を基準として、炭酸カリウムの5重量%より少なくされていることを特徴とする、鉄筋コンクリートを電気化学的に再アルカリ化する方法。」

2 刊行物とそれに記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物とそれに記載された事項は,上記「第2」の「1」の「(2)」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は,上記「第2」の「1」にて検討した補正発明1を特定するために必要な電解質水溶液を含浸させる方法について,「pHが10.0より小さい領域を含んだコンクリートに適用し、そのpHが少なくとも10.5のレベルに到達するまで継続すること」との限定を削除したものである。
そうすると,本願発明を特定する事項をすべて含み,さらに限定したものに相当する補正発明1が,上記「第2」の「1」の「(4)」に記載したとおり,引用発明,刊行物2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,引用発明,刊行物2記載の技術及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
したがって,本願発明は,引用発明,刊行物2記載の技術及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-20 
結審通知日 2009-11-25 
審決日 2009-12-08 
出願番号 特願平11-506682
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04G)
P 1 8・ 572- Z (E04G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 江成 克己五十幡 直子住田 秀弘  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 伊波 猛
関根 裕
発明の名称 コンクリートの電気化学的処理方法  
代理人 酒井 正美  

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