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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04B
管理番号 1216912
審判番号 不服2008-6959  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-21 
確定日 2010-05-21 
事件の表示 特願2002-359465「水分蒸発冷却屋根・壁体構造」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月 8日出願公開、特開2004-190336〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本願は、平成14年12月11日の出願であって、平成20年1月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成20年4月17日に手続補正がなされたものである。その後、当審において平成21年12月17日付けで拒絶理由の通知がなされ、それに対して、平成22年2月19日に意見書及び手続補正書が提出された。

【2】本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成22年2月19日付けの手続補正によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める。
「降雨や建物上部に設置された給水装置からの水により水分が供給される屋根・壁体構造において、
前記屋根・壁体を構成する構造体の外表面に冷却材を設けて構成され、該冷却材は、遮光性と、少なくとも吸水性と通水性と蒸気通過性のいずれかを有する多孔質材料から成る保護材で構成され、該保護材内に、少なくとも前記吸水性と通水性と蒸気通過性のいずれかのための孔とは別に、所定形状の複数の空所を分散形成し、該空所内に感温吸排水性ポリマーを充填したことを特徴とする水分蒸発冷却屋根・壁体構造。」

【3】引用刊行物
刊行物1:特開2002-294891号公報
本願出願前に頒布された刊行物である、上記刊行物1には、以下の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】屋上設置の送水可能な雨水槽からの供給若しくは降雨での散水供給の前提のもと、構造体の外表面にハイドロゲルを含む層を積層構成するとしたことを特徴とする水分蒸発冷却屋根・壁体構造。」
(1b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、低地球環境負荷型建築物における水分蒸発冷却屋根・壁体構造に関する。」
(1c)「【0012】
【課題を解決するための手段】・・・本発明の水分蒸発冷却屋根・壁体構造は、屋上設置の送水可能な雨水槽からの供給若しくは降雨での散水供給の前提のもと、構造体の外表面にハイドロゲルを含む層を積層構成するとしたものである。
【0013】また、上記のハイドロゲルを含む層における当該ハイドロゲルを、感温吸排水性ポリマーとしたものである。
【0014】さらに、ハイドロゲルを含む層を、連続毛管を有する多孔体または繊維成型体中に感温吸排水性ポリマーを分散させた層としたものである。」
(1d)「【0017】さらに、連続毛管を有する多孔体または繊維成型体中に、上記の感温吸排水性ポリマーを分散させた層としたものにあっては、感温吸排水性ポリマーの感温点以下では、水は構造体中のゲル中に保持され構造体表面には出てこないので、構造体の温度が感温点以下では、ほとんど蒸発が起こらず、水のロスがなく、散水管理が容易になり、感温点以上では、感温吸排水性ポリマーから排出された水が毛管力で構造体表面に次々に移行するので蒸発率が高くなり、効率的な冷却が実現する。」
(1e)「【0025】叙上の感温吸排水性ポリマーを含む層4を付着のため溝5、…付形の構造体6や折板屋根7の谷部7a、…に設置した。
【0026】図中、8は雨水槽(図示省略するも、水不足を生じることのないように、給水管の下方からの接続も施される)、9は給水バルブ、10は該バルブ9から供給の水分を示し、当該バルブ9は外気温センサー11の指示により開閉制御される。
【0027】しかして、
(a)ポリマーの温度が特定の温度(以下、感温点という)以下の場合、水がゲル中に保持されているため蒸発が抑制され、低温時の無駄な蒸発が抑えられる。(b)ポリマーの温度が感温点以上になるとハイドロゲルから自由水が排出され、ハイドロゲル層の表面に移行するため、散水の場合と同様の蒸発冷却がなされる。」
(1f)「【0030】図4は、ハイドロゲルを含む層を、連続毛管を有する多孔体または繊維成型体中に感温吸排水性ポリマーを分散させた層とした例の1つで、感温吸排水性ポリマーマット12を用いた蒸発冷却構造を示す。
【0031】図5a?cは、他の例で、感温吸排水性ポリマーをコンパウンドしたレンガやポーラスコンクリート13を用いた蒸発冷却構造の各例を示す。表面の凹凸は、伝熱面積を増加させ、効果を大としたものである。
【0032】図6は、同じく他の例で、不織布14に感温吸排水性ポリマーを混入した冷却構造を示す。」
(1g)「【0036】・・・なお、多孔体、繊維成型体の具体例としては、上記の如く、発泡ウレタン等の樹脂発泡体、軽量発泡材の成型体、繊維状マット、コンクリート、塗料等が例示されるものである。」

これらの記載事項を含む刊行物1全体の記載並びに当業者の技術常識によれば、刊行物1には、以下の発明が記載されている。
「屋上設置の送水可能な雨水槽からの供給若しくは降雨での散水供給により水分が供給される屋根・壁体構造において、構造体の外表面に、感温吸排水性ポリマーをコンパウンドしたレンガやポーラスコンクリートを用いた冷却層を形成した水分蒸発冷却屋根・壁体構造。」(以下「刊行物1記載の発明」という。)

【4】対比・判断
本願発明と刊行物1記載の発明とを比較すると、刊行物1記載の発明の「屋上設置の送水可能な雨水槽」及び「感温吸排水性ポリマーをコンパウンドしたレンガやポーラスコンクリートを用いた冷却層」はそれぞれ、本願発明の「建物上部に設置された給水装置」及び「感温吸排水性ポリマーを充填した冷却材」に相当する。
また、刊行物1記載の発明の「感温吸排水性ポリマーをコンパウンドしたレンガやポーラスコンクリートを用いた冷却層」が、「少なくとも吸水性と通水性と蒸気通過性のいずれかを有する多孔質材料」であることは明らかである。
したがって両者は、
「降雨や建物上部に設置された給水装置からの水により水分が供給される屋根・壁体構造において、
前記屋根・壁体を構成する構造体の外表面に冷却材を設けて構成され、該冷却材は、少なくとも吸水性と通水性と蒸気通過性のいずれかを有する多孔質材料から構成され、該該多孔質材料内に感温吸排水性ポリマーを分散した水分蒸発冷却屋根・壁体構造。」
の点で一致し、次の点で相違している。
(相違点1)
多孔質材料が、本願発明では遮光性を有する保護材であるのに対して、刊行物1記載の発明ではその点が不明な点。
(相違点2)
多孔質材料内に、本願発明では、吸水性と通水性と蒸気通過性のいずれかのための孔とは別に、所定形状の複数の空所を分散形成し、該空所内に感温吸排水性ポリマーを充填したのに対して、刊行物1記載の発明では、感温吸排水性ポリマーをコンパウンドにより充填しているものの、吸水性と通水性と蒸気通過性のいずれかのための孔とは別に、所定形状の複数の空所を分散形成し、該空所内に感温吸排水性ポリマーを充填しているかどうか不明な点。

上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
刊行物1記載の発明の多孔質材料が、レンガやポーラスコンクリートで形成されるものであることを考慮すれば、該材料に遮光性及び保護機能を付加することは、当業者が容易になし得る事項である。
(相違点2について)
本願の願書に最初に添付した明細書には、次のように記載されている。
(イ)「【請求項9】降雨、もしくは建物上部に設置された給水装置からの雨水等により水分が供給される屋根・壁体構造において、少なくとも吸水性と通水性のいずれかを有する多孔質材料内に所定の空隙を成し、該空隙内に感温吸排水性ポリマーを封入して構成したことを特徴とする水分蒸発冷却屋根・壁体構造。」
(ロ)「【課題を解決するための手段】・・・請求項9、請求項10または11に記載の発明においては、構造体の内部に予め感温吸排水性ポリマーが封入されているので、耐久性が高く、施工が容易で、しかもブロックとして形成すれば可搬性、施工性等を向上でき、組み付けが容易となる。・・・」
(ハ)「【発明の実施の形態】・・・更に図6に示す水分蒸発冷却屋根・壁体構造は、モルタル25の内部に円柱状の空隙32を形成し、空隙32の内部に感温吸排水性ポリマー14を充填したものである。空隙32内への感温吸排水性ポリマー14の充填は、予めモルタル25内に充填しても、空隙32を形成した後感温吸排水性ポリマー14を充填してもよい。・・・更に図7に示すように、容器内外で少なくとも吸水性と通水性のいずれかを有する球状の容器33内に感温吸排水性ポリマー14を収納し、感温吸排水性ポリマー14を収容した容器33をモルタル25内に埋め込むようにしてもよい。・・・」
これらの記載、及び各図面の記載、並びに当業者の技術常識を参酌すれば、本願発明において、「多孔質材料内に、所定形状の複数の空所を分散形成」するのは、多孔質材料内にポリマー収容のための場所を確保し、当該場所にポリマーを充填することにより、当該材料の内部に予めポリマーを封入させるためであると認められる。
しかしながら、レンガやコンクリート、モルタル等の混成形成品に、所定の成分を混成する際、混成する成分を形成品中に封入させるために、予めカプセル等の容器に当該成分を収容して混成することは、広く行われている周知技術である(特開平8-333149号公報、特開昭61-106469号公報、特開2001-200959号公報参照)。
したがって、刊行物1記載の発明において、感温吸排水性ポリマーをコンパウンドする際に、当該周知技術を用いることにより、ポリマーを封入させる構成を採用することは、当業者が適宜なし得る事項である。
なお、請求人は意見書において、本願明細書の【発明の実施の形態】の「収納された感温吸排水性ポリマー14により容器33を介して吸排水が行われ」の記載をその根拠に、本願発明における「空所」は存続するものであるから、上記周知技術とは異なる旨主張している。しかしながら、上記の(ハ)の記載及び本願発明の「該空所内に感温吸排水性ポリマーを充填した」という事項を考慮すれば、「空所」はポリマー充填のためのスペースないしは場所を確保するためのものであって、ポリマー充填の後には「空所」ではなく「ポリマーの充填された場所」であることは明らかであり、また、上記「収納された感温吸排水性ポリマー14により容器33を介して吸排水が行われ」という事項と「空所」とは直接関係がなく、しかも、上記事項と、充填後は空所が存在しないこととは明らかに矛盾しない。したがって、請求人の上記主張は採用することができない。

そして、本願発明の効果も、刊行物1記載の発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。

したがって、本願発明は、刊行物1記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

【5】むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-12 
結審通知日 2010-03-23 
審決日 2010-04-06 
出願番号 特願2002-359465(P2002-359465)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 江成 克己家田 政明住田 秀弘  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 山口 由木
山本 忠博
発明の名称 水分蒸発冷却屋根・壁体構造  
代理人 渡辺 一豊  
代理人 渡辺 一豊  

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