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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20056282 審決 特許
不服200627219 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1217182
審判番号 不服2008-26399  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-14 
確定日 2010-05-20 
事件の表示 特願2002-143880「末梢神経系特異的ナトリウムチャンネル、それをコードするDNA、結晶化、X線回折、コンピューター分子モデリング、合理的薬物設計、薬物スクリーニング、ならびにその製造法および使用法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月18日出願公開、特開2003- 47484〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成7年11月2日(パリ条約に基づく優先権主張1994年11月2日,米国特許出願第08/334,029号;1995年6月7日,米国特許出願第08/482,401号)に国際出願された特願平8-515424号の一部を新たな特許出願として,平成14年5月17日に出願されたものであって,平成20年7月14日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成20年10月14日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。


第2 平成20年10月31日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年10月31日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正前請求項1に係る本件補正の内容
本件補正により,補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】 末梢神経系特異的(PNS)ナトリウムチャンネルの単離されたポリペプチドであって,ここで該ポリペプチドは,
(i)配列番号10に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含み,
(ii)Xenopus卵母細胞において該ポリペプチドが発現されるとき,ナトリウムイオンを輸送する能力を有するPNSI型電位ゲート型ナトリウムチャンネルを形成する,ポリペプチド。」
は,
「【請求項1】 末梢神経系特異的(PNS)ナトリウムチャンネルの単離されたポリペプチドであって,ここで該ポリペプチドは,
(i)配列番号2に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み,
(ii)Xenopus卵母細胞において該ポリペプチドが発現されるとき,ナトリウムイオンを輸送する能力を有するPNSI型電位ゲート型ナトリウムチャンネルを形成する,ポリペプチド。」
と補正されることになる(補正後の発明を,以下,「本願補正発明1」という。)。

2.特許法第17条の2第4項の規定(本件補正の目的)についての判断
ここで,補正前請求項1の「ポリペプチド」に係る発明の発明特定事項は,「配列番号10に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列」を含む「ポリペプチド」に係るものであり,補正後請求項1の「ポリペプチド」に係る発明の発明特定事項は,「配列番号2に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列」を含む「ポリペプチド」に係るものである。
補正前請求項1の「配列番号10として記載されたアミノ酸配列」は1984個のアミノ酸で構成されるものである一方で,補正後請求項1の「配列番号2として記載されたアミノ酸配列」は,「配列番号10として記載されたアミノ酸配列」のN末端の第954番目より第1964番目の部分に類似する配列を有する1011個のアミノ酸で構成されるものである。
そうすると,「配列番号10として記載されたアミノ酸配列」に対して80%の同一性を有しないが,「配列番号2として記載されたアミノ酸配列」に対して90%の同一性を有するアミノ酸配列,例えば「配列番号10として記載されたアミノ酸配列」のうち第954番目より第1964番目の部分に対して90%の同一性を有するが,第1番目より第953番目及び第1965番目より第1984番目における相同性が低く,「配列番号10として記載されたアミノ酸配列」全体に対して80%の同一性を有していなかったものが,補正後請求項1の発明特定事項である,「(i)配列番号2に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み,」に新たに含まれることになるから発明特定事項を概念的に下位にしたものであるとはいえない。
してみると,本願補正発明1における「配列番号2に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列」を含む「ポリペプチド」との発明特定事項は,補正前請求項1における「配列番号10に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列」を含む「ポリペプチド」の発明を特定する事項を概念的に下位にしたものであるとはいえないから,当該補正事項は,補正前発明の発明特定事項を限定的に減縮したものとはいえず,また,誤記の訂正,拒絶の理由についてする明りょうでない記載の釈明のいずれにも当たらないので,本件補正は,特許法第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないものである。

3.むすび(特許法第17条の2第4項の規定について)
よって,補正前請求項1に係る発明を補正後請求項1に補正する,審判請求時の補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって,結論のとおり決定する。


第3.本願発明について
平成20年10月31日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明1」という。)は,平成18年12月29日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。

「【請求項1】 末梢神経系特異的(PNS)ナトリウムチャンネルの単離されたポリペプチドであって,ここで該ポリペプチドは,
(i)配列番号10に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含み,
(ii)Xenopus卵母細胞において該ポリペプチドが発現されるとき,ナトリウムイオンを輸送する能力を有するPNSI型電位ゲート型ナトリウムチャンネルを形成する,ポリペプチド。」


第4.原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由となった,平成17年11月10日付けで通知した拒絶理由の概要は,この出願の発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(理由1)というものである。


第5.理由1(特許法特許法第29条第2項の要件)についての判断
1.本願における優先権の主張について
本願はパリ条約に基づく優先権の主張をするものであるが,そのうちの1994年11月2日付けの米国特許出願第08/334,029号(以下,「第一優先権基礎出願」という。)に基づくものについては,該米国出願中には,3033塩基のcDNA断片の部分クローニングを行って単離された断片は1011残基の部分アミノ酸配列をコードしているものであること,全長cDNAをクローニングする方法についての一般的記載はあるものの,本願発明1の配列番号10に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含み,ナトリウムイオンを輸送する能力を有する電位ゲート型ナトリウムチャンネルを形成するポリペプチドについての具体的記載は一切ない。
パリ条約第4条Hから明らかなように,優先権の主張の効果が認められるためには,「発明の構成部分」が第一国出願に係る出願書類の全体により明らかにされていなければならず,本願発明1の発明特定事項である配列番号10は,第一優先権基礎出願の明細書全体によっても具体的に明らかにされていなかったのであるから,本願発明1については,第一優先権基礎出願の優先権の利益は享受できない。すなわち,本願発明1に係る優先権については,1995年6月7日付けの米国特許出願第08/482,401号(以下,「第二優先権基礎出願」という。)に基づく主張のみが認められる。

2.引用例3の記載
原査定の拒絶の理由に引用例3として引用された第二優先権基礎出願の出願日前に頒布された刊行物であるEMBO Journal, 15-Mar-1995, Vol.14, No.6, p.1084-1090(以下,「引用例3」という。)には,以下のとおり記載されている。

(ア)「電位作動型ナトリウムチャンネル遺伝子の新規サブクラスの一つがヒト甲状腺髄様癌細胞系よりクローニングされた。hNE-Na(ヒト神経内分泌ナトリウムチャンネル)のcDNAは,骨格筋及び脳から単離されたナトリウムチャンネル間の系統発生学的橋渡しとなる1977アミノ酸からなるタンパク質をコードする。」(要約,1?7行)

(イ)「hNE-Naの一次構造。アミノ酸配列はそのcDNAから推定され,ラット脳II配列(rbII)に揃えて示す。」(1085頁 図1注釈)

(ウ)図1には,1977アミノ酸から構成されるhNE-Naタンパク質のアミノ酸配列とナトリウムチャンネルであるラット脳IIアミノ酸配列とのアライメントが記載されている。」(1085頁)

(エ)「電気生理学的データはHEK293細胞において発現されたhNE-Nは,天然のチャンネルがそうであるように,活性化及び不活性化の双方において早いタイムコースを有することを示す。」(1088頁 右欄10?13行)

(オ)「ライブラリースクリーニング及び全長cDNAの構築。pSPORT1ベクター(ギブコ BRL ライフテクノロジー)中に構築され,サイズ選択されオリゴ(dT)を付与されたhMTC細胞cDNAライブラリーはラット脳ナトリウムチャンネルII配列(SstI 3930-HindIII 5449)(ノダ 他,1986)に由来するcDNAプローブによってスクリーニングされた。」(1089頁 右欄24?28行)

(カ)「hNE-Naの核酸配列はEMBL配列データベースに受理され,アクセッション番号 X82835として利用可能である。」(1089頁 右欄下から12?10行)

3.本願発明1と引用例3との対比及び判断
本願発明1における「末梢神経系特異的(PNS)」,及び「PNSI型」なる発明特定事項について検討する。
本願出願後に本願の発明者らによって公表された文献(Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 1997, Vol.94, p.1527-1532)によると,引用例3に記載されたhNE-Naαサブユニット遺伝子は末梢神経系において最も高発現であり,脳,脊髄,シュワン細胞,及び他の組織においてはかなり低く発現することが記載されている(第1531頁左欄4?7行)とおり,引用例3に記載されたhNE-Naαサブユニット遺伝子はそれ自体優先的にまたは選択的に末梢神経系(PNS)において発現されるという性質を内在するものである。
したがって,引用例3にそのような性質が記載されているか否かを問わず,「末梢神経系特異的(PNS)」,及び本願明細書【0226】段落に記載されるように当該性質に基づき請求人によって命名された「PNSI型」なる発明特定事項によって,両者を区別することはできない。

引用例3には,hNE-Na核酸配列によりコードされるナトリウムチャンネルの電気生理学的性質はHEK293細胞に導入された後に解析され,hNE-Na遺伝子産物は電位依存的ナトリウムチャンネルであることが明らかにされているが(記載事項(ア)及び(エ)),そうであれば,Xenopus卵母細胞において該ポリペプチドが発現されるとき,ナトリウムイオンを輸送する能力を有する電位ゲート型ナトリウムチャンネルを形成するという条件は十分に満たしうるとも考えられる。

そして,引用例3の図1に記載された「1997アミノ酸から構成されるhNE-Naタンパク質」のアミノ酸配列と本願発明1の配列番号10のアミノ酸配列とを比較するとその同一性は,約92%であると認められる。

そこで,本願発明1と引用例1に記載された事項を対比すると,両者は,「末梢神経系特異的(PNS)ナトリウムチャンネルの単離されたポリペプチドであって,ここで該ポリペプチドは,
(i)配列番号10に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含み,
(ii)Xenopus卵母細胞において該ポリペプチドが発現されるとき,ナトリウムイオンを輸送する能力を有するPNSI型電位ゲート型ナトリウムチャンネルを形成する,ポリペプチド。」で一致し,両者に実質的な相違はない。

そして,本出願前に既に「あるタンパク質をコードする核酸の配列は種間の核酸ハイブリダイゼーションが可能な程度に進化においても保存されている。・・・このことはある実験系で生物学上の特別の利点があって遺伝子を分離したとすると,次にその配列を他の生物のそれに対応する遺伝子のプローブにすることができることを意味する」ことが周知であった(必要があれば,R・W・オールド著,穴井 元昭訳「遺伝子操作の原理」第3版(1987-4-20)培風館第115頁15?20行等を参照のこと)から,本出願時の技術水準を考慮すれば,引用例3に記載されたアミノ酸配列又はX82835として出願前に知られていたヒト由来の核酸配列を基に他の高等生物の電位ゲート型ナトリウムチャンネルをコードするcDNAに対応するプローブを作成し,ラット等の各種実験動物を含む高等生物のcDNA配列を解析しアミノ酸配列を決定することは,当業者であれば通常の創作能力の範囲内である。

してみれば,引用例3の記載から,当業者が「配列番号10に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列」を含むナトリウムイオンを輸送する能力を有する電位ゲート型ナトリウムチャンネルを形成する,ポリペプチドを得ることは,当業者が容易になしうることである。

したがって,本願発明1は,第二優先権基礎出願の出願日前に頒布された刊行物である引用例3及び第二優先権基礎出願の出願日前の技術常識に基づき当業者が容易に発明することができたものである。

4.請求人の主張について
請求人は,平成18年5月15日付け意見書において以下のように主張している。

ラットのPNS SCPの配列があれば,当業者は,当該分野における技術常識から全長のPNC SCPおよびヒトPNS SCPを得ることができるから,「(i)配列番号10に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含み,(ii)Xenopus卵母細胞において該ポリペプチドが発現されるとき,ナトリウムイオンを輸送する能力を有するPNSI型電位ゲート型ナトリウムチャンネルを形成する」ものであって,「末梢神経系特異的(PNS)ナトリウムチャンネルの単離されたポリペプチド」であるものは,本願の優先権の基となっている1994年11月2日に米国になされた特許出願第08/334,029号の明細書または図面に記載されている事項であるか,または,その事項から自明の範囲のものである。
引用例3は,本願の第一優先権主張日以降に刊行された文献であり,引用例3は,本願発明に対して本願の出願前に頒布されたものではなく,特許法第29条に規定する刊行物には相当しない。

しかしながら,パリ条約第4条Hから明らかなように,優先権の主張の効果が認められるためには,「発明の構成部分」が第一国出願に係る出願書類の全体により明らかにされていなければならないのであって,仮に請求人の主張どおりラットのPNS SCPの配列があれば,当業者は,当該分野における技術常識からさらなる試験研究の結果,全長のPNC SCPを得ることができるとしても,特許出願第08/334,029号の明細書または図面に全長のPNC SCPのアミノ酸配列が明らかにされていなかったことには変わりはなく,パリ条約第4条Hの規定を依然として満たさないから,請求人の主張は採用できない。

5.結論
よって,本願発明1は,第二優先権基礎出願の出願日前に頒布された刊行物である引用例3に記載された事項及び第二優先権基礎出願の出願日前の周知技術に基づき当業者が容易に発明することができたものである。


第6.むすび
以上のとおりであるから,本願請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-18 
結審通知日 2009-12-21 
審決日 2010-01-08 
出願番号 特願2002-143880(P2002-143880)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森井 隆信  
特許庁審判長 平田 和男
特許庁審判官 上條 肇
鵜飼 健
発明の名称 末梢神経系特異的ナトリウムチャンネル、それをコードするDNA、結晶化、X線回折、コンピューター分子モデリング、合理的薬物設計、薬物スクリーニング、ならびにその製造法および使用法  
代理人 安村 高明  
代理人 森下 夏樹  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  
代理人 山本 秀策  
代理人 安村 高明  

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