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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2007800236 審決 特許
不服2006724 審決 特許
不服20045852 審決 特許
不服200418401 審決 特許
不服200611048 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1217787
審判番号 不服2006-28853  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-12-27 
確定日 2010-06-09 
事件の表示 平成 9年特許願第539938号「部分的成長ホルモン不感性症候群の治療」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年11月13日国際公開、WO97/41887、平成13年 7月31日国内公表、特表2001-510444〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.出願の経緯・本願発明
本願は、平成9年4月18日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1996年5月3日 米国)とする出願であって、前置審査における平成19年4月6日付拒絶理由通知に対して、平成19年7月6日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1には、以下のとおり記載されている。
「特発性低身長(ISS)を有するヒト患者から得られる生物学的試料中の成長ホルモンレセプター(GHR)遺伝子の細胞内ドメインに存在する異質性の遺伝子欠陥を検出するための方法であって、該生物学的試料中の次の突然変異:S473多形、A478T、C422F、P561T、T306P、およびC518停止のうちの少なくとも1つの検出が、患者が部分的成長ホルモン不感応性症候群を示すがラロン症候群ではないことを示す、該欠陥を検出することを含む該方法。」
2.前置審査における拒絶の理由
前置審査における拒絶の理由の1つは、本願請求項1、2に記載された発明は、本願の発明の詳細な説明に記載されたものでなく、この出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないというものであり、さらに、本願の発明の詳細な説明には、本願発明を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、この出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないというものである。
3.当審の判断
(1)特許法第36条第6項第1号について
(1-1)本願発明について
本願請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、特発性低身長(以下、「ISS」という。)を有するヒト患者から得られる生物学的試料中の、成長ホルモンレセプター(以下、「GHR」という。)遺伝子の細胞内ドメインに存在する異質性の遺伝子欠陥として、S473多形、A478T、C422F、P561T、T306P、およびC518停止のうちの少なくとも1つを検出することにより、患者が部分的成長ホルモン不感応性症候群(以下、「部分的GHIS」という。)を示すがラロン症候群ではないことを示す検出方法に係るものであるといえる。
(1-2)本願明細書の記載
これに対して、本願明細書第50頁下から第13行?第54頁表1までの実施例Vには、異型接合性GHR遺伝子の突然変異による部分的GHISが、選択度の低いISS小児の個体群に存在するかどうかを評価するために、GH療法の長期試験に登録された121人のISS小児のうち34人のGHR遺伝子を分析したこと、この調査の小児はいずれも刺激後GH>10μg/Lで、基準時平均身長が-2.8SDS、IGF-Iが-0.9であり、いずれもラロン症候群の表現型上の特徴を持たなかったこと、これら小児34名のゲノムDNAを用いてGHR遺伝子を解析した結果、3人の患者がGHRの細胞外ドメイン突然変異を持ち、6人が細胞内ドメインに突然変異を保持していた(表1)のに対して、7人の対照小児と34人の対照成人のGHR遺伝子座には異常は検出されなかったことが、記載されている。
そして表1には、細胞内ドメインに突然変異を保持していた6人のISS小児のうち4人が、GH治療に反応して成長率が伸びる部分的GHIS患者であったことが示され、本願明細書にはその4人の患者についてそれぞれ、
患者#13は、「GHR遺伝子の分析により、彼が次に挙げる2つの単一塩基対変化をGHR遺伝子の各対立遺伝子に1つずつ持つことが明らかになった:(セリン残基をコードする)コドン473中のサイレント塩基対変化(図12)と、正常なアラニンの代わりにスレオニンを導入(Ala478Thr)するコドン478でのGからAへの置換(図13)。Ser473多形は彼の父親から遺伝し、Ala478Thrは彼の母親から遺伝した(図14)。Ser473多形は、他にも3人の低身長患者に認められ(一人はIUGR患者、一人はISS患者、一人は低身長成人(発端者の母系の大おば)、正常な身長の対照のいずれにも認められなかった。それがGHR mRNAのプロセッシングまたは安定性に何らかの影響を及ぼすかどうかは今のところわかっていない。」(本願明細書第51頁下から第6行?第52頁第4行)と、
患者#32は、「2つの単一塩基対変化をエクソン10に保持していた。その1つはシステイン422をフェニルアラニンに変え(Cys422Phe)(図15)、もう1つはプロリン561をスレオニンで置換する(Pro561Thr)(図16)。 …途中省略… これら2つの突然変異の組み合せは、過去に、成長不全、低血清GHBPレベルおよび一貫しないGHに対する反応を持つ患者に報告されている.JCEM,76:54-59(1993)。」(本願明細書第52頁第5行?第17行)と、
患者#48は、「一つのアミノ酸置換に関して異型接合であり、システイン422がフェニルアラニンに置換(Cys422Phe)されている(図15)。これは患者27及び32に認められるものと同じ塩基対置換によるものである。」(本願明細書第52頁下から第8行?下から第5行)と、
患者#49は、「GHR遺伝子は、2つの単一塩基対突然変異によって乱されている。その一つはスレオニン306のプロリンによる置換(Thr306Pro)をもたらし(図18)、これは患者44に認められたものと同じ突然変異である。もう1つの突然変異はシステイン518の停止コドンによる置換(Cys518停止)を引き起こし(図20)、カルボキシ末端の107アミノ酸が欠けた先端切断型タンパク質をもたらす。」(本願明細書第53頁第2行?第6行)、と記載され、まとめとして、本願明細書第53頁第11行?第14行に、「これらのデータは、不均質な細胞内GHレセプター欠損が非GH欠乏症低身長患者の不十分な成長の原因でありうることを示唆している。これらのGHレセプター欠損は、そのタンパク質の細胞内ドメインを冒すので、完全GH不感性(ラロン)症候群に認められる細胞外突然変異とは異なる。」と記載されている。
このように、本願明細書には、4人の部分的GHIS患者のGHR遺伝子の細胞内ドメインのヌクレオチド変異を調べて、GHRの細胞内ドメインの特定の6ヶ所のアミノ酸変異を検出したことが記載されているものの、そのアミノ酸変異と部分的GHISの関連については、単にアミノ酸変異が部分的GHISの原因である可能性の示唆にとどまっている。また、これらのアミノ酸変異が部分的GHISと密接に関連することの合理的説明もなされておらず、実際にアミノ酸変異を有するGHRを細胞で発現させて、その機能の変化を調べることもなされていない。さらに、実施例Vでは、そのアミノ酸変異が非患者の対照には存在しないことを確認しているものの、ラロン症候群の患者のGHRに存在しないことは確認されていない。

(1-3)判断
上記(1-1)で記載したとおり、本願発明は、GHR遺伝子の細胞内ドメインに存在する異質性の遺伝子欠陥を検出することにより、ISSを有するヒト患者が、部分的GHISであり、ラロン症候群ではないことを示すことをその技術的課題とし、その課題を解決するために、GHRの細胞内ドメインのS473多形、A478T、C422F、P561T、T306P、およびC518停止のうちの少なくとも1つを検出する方法に係るものであるから、本願が明細書のサポート要件を満足するためには、本願の発明の詳細な説明に、本願発明の方法により、ISS患者がラロン症候群ではなく部分的GHISを有することを検出できることを、当業者が理解できるように記載されているか、またはその記載がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし、本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでなければならない。
これに対して、本願明細書には、4人の部分的GHIS患者のGHRの細胞内ドメインの特定の6ヶ所のアミノ酸変異を検出したことが記載されているにすぎず、そのアミノ酸変異と部分的GHISの関連の示唆があるだけであることは、上記(1-2)で述べたとおりである。そしてその4人とは、ラロン症候群の表現型上の特徴を持たない、部分的GHISの可能性の高いISS小児34人を母集団としたそのうちのわずか4人であって、GHR遺伝子解析により、細胞内ドメインに突然変異を保持していた6人のうち、GH治療に反応することにより部分的GHISを有すると判定された4人であり、しかも、変異アミノ酸の部位は4人で各々異なっている。
そして、部分的GHISの可能性の高い他のISS小児の28人までもが、GHRにアミノ酸変異を有さないことが本願明細書に記載されており、まだ原因の解明されていない部分的GHISの原因が、GHRのアミノ酸変異以外にも存在することは明らかであるから、その6ヶ所のアミノ酸変異が必ず部分的GHISと関連しているとはいえず、GHRのアミノ酸変異以外の要因により、部分的GHISかラロン症候群かが決定される可能性も十分にあり、その6ヶ所のそれぞれのアミノ酸変異を有するISS患者であれば、部分的GHISを有し、ラロン症候群ではないと推認することはできない。
また、同じく上記(1-2)に記載したように、本願明細書には、GHRのその6ヶ所のアミノ酸変異が、ラロン症候群の患者のGHRに存在しないことは確認されていない。そうすると、たとえその6ヶ所のアミノ酸変異が部分的GHISと密接に関連していると仮定した場合であっても、本願明細書では、ラロン症候群患者のGHRにその6ヶ所のアミノ酸変異が無いことは確認されておらず、また無いとの合理的説明もなされていないから、本願の発明の詳細な説明の記載により、本願発明の方法で本願発明の課題を解決できると当業者が認識できるとはいえない。
さらに、前置審査における拒絶理由で引用例2として引用された本願優先日前に頒布された刊行物であるJournal of Clinical Endocrinology and Metabolism(1993)Vol.76, No.1,p.54-59には、低身長でラロン症候群の臨床上の特徴を有する子供のGHRの細胞内ドメインに、2つのアミノ酸置換があることを特定し、その置換は422のCysがPheへの、561のProがThrへの置換であること(第54頁要約の項左欄第1行?第7行)、そのGHR遺伝子の変異は、両方とも異質性の遺伝子欠陥であることが記載されており(第55頁右欄第3行?第12行)、この変異は本願発明で検出対象としている変異と同じであるから、ラロン症候群の患者のGHRにも、その細胞内ドメインにアミノ酸変異があることを本願出願時の技術常識として考慮すると、C422FまたはP561Tのいずれかのアミノ酸変異を検出することにより、患者が部分的GHISを示すがラロン症候群ではないことを示すという本願発明の方法によっては、本願発明の課題を解決できると認識できるとは、益々いえない。
さらに、表1に示されているように、T306Pの変異は、部分的GHIS患者であるかが不明である患者#44のみに見出されたアミノ酸変異であるから、この変異と部分的GHISの関連は不明であり、この変異を検出する本願発明の方法により、本願発明の課題を解決できると認識できるよう本願の発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
したがって、本願明細書には、本願発明に係る検出方法により、ISSを有するヒト患者が、部分的GHISでありラロン症候群ではないことを示すことができることを、当業者が理解できるよう記載されているとは認められないから、本願請求項1に記載の発明は本願明細書に記載されておらず、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(2)特許法第36条第4項について
本願発明について、上記(1-3)に記載した理由と同様な理由で、本願明細書及び当該技術分野における本願出願時の技術常識を考慮しても、本願発明に係る検出方法により、ISSを有するヒト患者が部分的GHISでありラロン症候群ではないことを示すことができることを、当業者が理解できないから、本願の発明の詳細な説明には、本願発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、本願は、特許法第36第4項の規定に違反している。
特に本願発明のうち、GHR遺伝子の細胞内ドメインに存在する異質性の遺伝子欠陥として、C422F、P561Tのいずれかを検出することにより、患者が部分的GHISを示すがラロン症候群ではないことを示すことを検出する方法を当業者が実施できないのは、上記(1-3)で述べたとおりである。
したがって、本願の発明の詳細な説明には、本願請求項1に記載の発明を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものとはいえず、本願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
4.結論
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項第1号及び同法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明については言及するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-06 
結審通知日 2010-01-12 
審決日 2010-01-25 
出願番号 特願平9-539938
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (A61K)
P 1 8・ 537- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清野 千秋横井 宏理  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 鵜飼 健
引地 進
発明の名称 部分的成長ホルモン不感性症候群の治療  
代理人 藤田 節  
代理人 平木 祐輔  
代理人 大屋 憲一  

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