• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1217926
審判番号 不服2008-5604  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-06 
確定日 2010-06-10 
事件の表示 特願2002-278578「液滴吐出ヘッドの製造方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 6月17日出願公開、特開2003-170603〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年9月25日(優先権主張平成13年9月26日)の出願であって、平成20年1月7日に手続補正がなされ、平成20年2月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月6日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年4月4日に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。
なお、請求人は、平成21年12月24日付けの審尋に対して、平成22年2月19日付けで回答書を提出している。

第2 本件補正の却下の決定
〔結論〕
本件補正を却下する。

〔理由〕
1 補正の内容・目的
(1)補正の内容
ア 本件補正は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするものであって、特許請求の範囲については、本件補正前の請求項1に、
「上層にパターニングされた有機材料のマスク層を有し、下層に液滴吐出のための駆動回路が形成された基板に粒子を吹き付けて、マスク層から露出する基板をエッチング加工することによって、液滴吐出ヘッドを製造する液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
前記基板に砥粒用粒子、氷の粒子、ドライアイスの粒子のうちの1種類の粒子を吹き付けて、マスク層から露出する前記基板をエッチング加工する際に、この基板に生じる帯電の極性と反対の極性にイオン化されたイオン雰囲気中でエッチング加工し、
前記エッチング加工をする際の雰囲気の湿度は、相対湿度が60%以上であることを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。」とあったものを、

「上層にパターニングされた有機材料のマスク層を有し、下層に液滴吐出のための駆動回路が形成された基板に粒子を吹き付けて、マスク層から露出する基板をエッチング加工することによって、液滴吐出ヘッドを製造する液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
前記基板に氷の粒子、ドライアイスの粒子のうちの1種類の粒子を吹き付けて、マスク層から露出する前記基板をエッチング加工する際に、この基板に生じる帯電の極性と反対の極性にイオン化されたイオン雰囲気中でエッチング加工し、
前記エッチング加工をする際の雰囲気の湿度は、相対湿度が60%以上であることを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。」に補正することを含むものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)

イ 本件補正後の請求項1に係る上記アの補正内容は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「砥粒用粒子、氷の粒子、ドライアイスの粒子のうちの1種類の粒子」を「氷の粒子、ドライアイスの粒子のうちの1種類の粒子」に限定するものである。

(2)補正の目的
上記(1)イの補正内容は、本件補正前の請求項1に記載されていた発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)第17条の2第4項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(旧特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 刊行物に記載の事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-260364号公報(以下「引用例1」という。)には、図とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0035】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。図1(a) ?(g) は、第1の実施の形態における印字ヘッドのインク供給溝とその近傍の構造を工程順に模式的且つ簡略に示す図であり、同図(a) に示す発熱抵抗体及び電極配線のパターン形成後から同図(g) に示すインク供給溝及びインク供給孔の穿設完了までの工程を示している。
【0036】図2(a) は、図1(f) の丸Cで囲んで示す部分の拡大図であり、図2(b) は、図1(g) に示すインク供給溝及びインク供給孔の穿設終了後に引き続いて隔壁とオリフィス板を積層し、吐出ノズルを形成して完成した印字ヘッド30の拡大断面図である。
【0037】本例における印字ヘッド30は、先ず、図2(b) に示すように駆動回路29を形成済みのチップ基板31の上に、図1(a) に示すように、抵抗発熱部32a、共通電極33及び個別配線電極34が形成される。そして、これらの上全面に、同図(b) に示すように保護膜35が被着される。ここまでは、図5及び図6で説明した従来の工程1から工程3までを終了して保護膜13を被着した状態の印字ヘッド1の場合と同様である。
【0038】この後、本例の特徴として、先ず図1(c) に示すように保護膜35の上にレジストマスク36を積層しパターン化する。本来、このレジストマスク36による保護膜35のエッチングは、端子部分(図5(a) の給電用電極端子8′、接続用電極端子11及び接地用電極端子12参照、図1(a) ?(g) では断面図であるため見えない)の保護膜に端子接続用の孔(開口部)を形成するためのものであったが、本例では、この同じエッチング工程で、端子部分の保護膜に開口部を形成すると共にインク供給溝が形成される部分の保護膜にも同時に開口部を形成する。
【0039】すなわち図1(c) に示すレジストマスク36のパターン孔36-1は、同図(g) 又は図2(b) に示すインク供給溝45の穿設部分に対応しており、インク供給溝の幅よりも広い幅Dで細長い溝孔として図1(c) の紙面垂直方向に形成されている。この幅Dは例えば300μm±15μmである。
【0040】上記に続いて、同図(d) に示すように、保護膜35を上記レジストマスク36のパターン孔36-1に従ってドライエッチングもしくはウェットエッチングで切削・削除した後、レジストマスク36を溶解・除去して、同図(d) に示すように、幅Dの開口35-1を形成された保護膜35が出来上がる。
【0041】この後、同図(e) に示すように、所定の形状の隔壁37を積層する。この隔壁37の形成も、図5(b) で説明した従来の工程3の後段で形成される隔壁16の場合と同様である。この隔壁37の上に、同図(f) 及び図2(a) に示すように、インク供給溝45を形成するためのサンドブラスト加工用のレジストマスク38をパターン化する。
【0042】図2(a) に示すように、チップ基板31上面の酸化膜39の上には、既にパター化された発熱抵抗体膜32、密着バリア層としての下地配線膜41と導電膜42からなる共通電極33、及びこれらの上を覆っている平坦化層43と絶縁保護膜44からなる保護膜35があり、更にこれらの上をレジストマスク38が覆っている。レジストマスク38の材料には、ドライフィルム又は感光性液状レジストなどを用い、フォトリソグラフィー技術によりインク供給溝45の開口部の形状を形成する。
【0043】保護膜35の幅Dの開口を形成している開口部端面35aは、共通電極33の端面よりも距離Eだけ延び出して形成され、共通電極33の端面を完全に覆っている。上記の距離Eは、50μm±5μmで形成されている。
【0044】上記のレジストマスク38のパターン孔38-1は、保護膜35の幅Dの開口部端面35aよりも更に内側に、幅Fで設定される。このパターン孔38-1の幅Fは、200μm±10μmで形成される。これにより、保護膜35の開口部端面35aに対して、切削位置であるパターン孔38-1の開口部まで長さGの余白部が形成されている。この余白部の長さGは、50μm±5μmである。
【0045】このレジストマスク38のパターン孔38-1に従ってサンドブラスト加工を開始する。通常、砥粒にはアルミナが用いられ、粒径は20?23μmである。パターン孔38-1の壁面の切削位置から、このレジストマスク38に覆われている保護膜35の開口部端面35aまでの余白部の長さG(50μm±5μm)は、砥粒の粒径(20?23μm)よりも充分大きいので、砥粒の投射衝撃はレジストマスク38によって吸収され、保護膜35に基板からの剥離やひび割れなどの悪影響を与えることは無い。
【0046】そして、図1(g) 及び図2(b) に示すように、インク供給溝45の穿設が終了する。このようにして形成されたインク供給溝45の開口部端面45aは、図2(b) に示すように、保護膜35の開口部端面35aよりも、その開口部内側に形成されている。
【0047】この後、チップ基板31裏面にもレジストマスク38が形成され、インク給送孔46が同様にサンドブラスト加工によって基板裏面から穿設される。この工程では、5×25.4mmのシリコンウエハを用いる場合は、ウエハの厚さが標準的には600μm程度であるので、一方のインク供給溝の加工深さは200?300μmとし、他方のインク給送孔の加工深さを450?350μmとして、50μm程度は確実に連通部が形成されるように加工する。尚、インク供給溝45の形成とインク給送孔46の形成はどちらから先に行っても良い。
【0048】この後、オリフィス板47を隔壁上に積層して固着し、その抵抗発熱部32aに対向する位置に、インクを吐出するための吐出ノズル48を例えばヘリコン波エッチング装置等を用いたドライエッチングで穿設する。
【0049】以上によって、従来の製造工程上では生じがちであった保護膜の損傷を防止し、これによって保護膜に損傷が無く信頼性に優れたインクジェットプリンタヘッドの製造方法が実現し、また、これによって、保護膜に損傷が無い信頼性に優れたインクジェットプリンタを広く提供することが可能となる。」

イ 「【0064】尚、上述した実施の形態では、基板はシリコン基板を用いているが、本発明は、基板がガラスやセラミック等の絶縁性基板を用いた場合にも、好適に適用できることは勿論である。」

ウ 上記ア及びイから、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「シリコン基板または絶縁性基板を用いた基板に、駆動回路を形成したチップ基板の上に、抵抗発熱部、共通電極及び個別配線電極を形成し、これらの上全面に、保護膜を被着し、保護膜の上にレジストマスク36を積層しパターン化し、保護膜を上記レジストマスク36のパターン孔36-1に従ってドライエッチングもしくはウェットエッチングで切削・削除した後、レジストマスク36を溶解・除去し、所定の形状の隔壁を積層し、この隔壁の上に、材料にドライフィルム又は感光性液状レジストを用いてレジストマスク38を積層し、フォトリソグラフィー技術によりインク供給溝の開口部の形状を形成し、そのパターン孔38-1に従ったサンドブラスト加工によりインク供給溝の穿設を行い、チップ基板裏面にもレジストマスク38を形成し、インク給送孔を同様にサンドブラスト加工によって基板裏面から穿設し、オリフィス板を隔壁上に積層して固着し、その抵抗発熱部に対向する位置に、インクを吐出するための吐出ノズルを、例えばヘリコン波エッチング装置等を用いたドライエッチングで穿設する、保護膜に損傷が無い信頼性に優れたインクジェットプリンタヘッドの製造方法。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平9-50764号公報(以下「引用例2」という。)には、図とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ブラスト研削方法、およびそれを用いたガス放電パネルの隔壁形成方法に関するものである。なお、ここで言う「ブラスト研削」とは、被加工物に微粒子を噴射して研削することにより、所定パターンの溝または孔等を形成する加工方法のことである。」

イ 「【0012】
【発明が解決しようとする課題】ところが、このサンドブラスト法においては、次のような問題があった。特に、高精細で大型のガス放電パネルの隔壁(即ち、大面積の基板上に形成されたピッチの小さい隔壁)を形成する場合に、基板の一部にブラスト研削が不十分な溝を有するものが発生する。このように不十分な溝を有する隔壁がある場合、たとえそれが基板内のごく一部であっても、その部分の放電セルは、正常な放電を発生できない(または、全く放電しない)ことになり、ガス放電パネルとしては不良品となる。これは、歩留り低下の原因となり問題となっている。
【0013】このような不良(ブラスト研削が不十分な溝の発生)は、ブラスト研削途中の溝の中に、研削微粒子と厚膜層が研削されて発生した粉とが残存してしまい、これらの残存粒子により新しい研削微粒子が本来の研削すべき部位へ到達することを妨げられ、その結果研削が不十分となるために発生するものである。この研削不良の原因について、図8を参照して詳述する。
【0014】図8は、マスク105、ブラスト研削途中の厚膜層104b、基板103の断面図を示したものである。記号102aの矢印で示す方向に、研削微粒子102が噴射され、マスク105で被覆されていない部分の厚膜層がブラスト研削されて、記号104bで示される形状まで研削が進行した様子を示している。
【0015】ここで、研削微粒子102と研削途中の厚膜層104bとはいずれも絶縁物であるため、研削微粒子102の衝突に伴って、研削中の厚膜層の表面109と研削微粒子102eとの間に静電気が発生する。そして、その静電気はリークするよりも蓄積する方が多いため、この静電気の引力で帯電した研削微粒子102eは、その逆極性に帯電した研削中の溝の壁に付着し、次第に溝を埋めるように蓄積していく。厚膜層が研削されて発生した粉110も厚膜層と同様に帯電しているため、研削微粒子と共に溝の中に蓄積していく。その結果、研削すべき厚膜層の表面109(即ち、溝の壁面)へ新しい研削微粒子102が効果的に飛来して到達することを妨げ、十分なブラスト研削を実現できないこととなる。このような不具合は、隔壁間のピッチが狭いほど、隔壁の高さが高いほど、しかも隔壁を形成する基板の大きさが大きいほど、発生しやすいことが分かった。
【0016】本発明は、上記の問題に鑑み、ブラスト研削中に被研削部材に静電気が蓄積しないようにして、その研削途中の溝の中に、研削微粒子と厚膜層が研削されて発生した粉とが残存することを防止し、これに起因したブラスト研削不良を無くすブラスト研削方法の提供を目的とするものである。」

ウ 「【0033】本実施例を実施例1ないし2等と併用することにより、一層顕著な電荷リークの効果を奏することができる。
〔第4実施例〕本発明の第4実施例を、図4を参照して説明する。本実施例は、サンドブラスト法にイオンを発生して噴射する手段を加えることを特徴とするものである。
【0034】図4(a)において、記号70の被研削基板は、ブラスト研削により隔壁を形成するためのマスクと厚膜層とを有する基板であり、図7の記号103,104,105の基板に対応するものである。この被研削基板70に対して、ブラストガン71により、研削微粒子が記号72に示すように噴射される。このために、ブラストガン71の中には、高圧ガス発生手段(高圧ボンベ、等)73で生成された高圧ガスと、研削微粒子供給手段74により供給される研削微粒子とが送入され、その高圧ガスの圧力で記号72の研削微粒子の噴射が行われる。ブラスト研削処理により残留した2種類の微粒子(研削微粒子と、厚膜層が研削されて発生した粉)は、研削微粒子回収再生手段(サイクロン、等)75により回収され、研削微粒子のみが選別されて研削微粒子供給手段74に送られる。また、この被研削基板70は矢印A3の方向に移動し、ブラストガン71がそれと直交する方向に移動することにより、被研削基板70の面全体をブラスト研削することができる。以上のサンドブラスト法は、図7で説明した従来技術と基本的に同じものである。
【0035】本実施例は、このサンドブラスト法に、イオンを発生して噴射する手段79を加えたものである。記号78はイオン発生手段であり、通常は、針状電極対の間に高電圧を印加し、コロナ放電を発生させることによりイオンを生成している。電圧の極性や放電ガスの選択により種々のイオンを生成することができる。そのようにして生成されたイオンはイオンガン76によって、記号77で示すようにブラスト研削部分に噴射される。このイオンは、ブラスト研削中に厚膜層の溝部に発生した静電気の極性(通常は負極性)と逆の極性(通常は正極性)を持つものが生成されているため、溝部に発生した静電気を中和することができる。従って、この静電気により溝部に残留しやすい状態にあった研削微粒子や厚膜層が研削されて発生した粉を、静電気力から開放して溝部から排出しやすくし、ブラスト研削不良を無くすことができる。」

3 対比
本願補正発明と引用発明1とを対比する。
(1)引用発明1の「基板」、「レジストマスク38」、「駆動回路を形成されたチップ基板」、「サンドブラスト加工」及び「インクジェットプリンタヘッドの製造方法」は、それぞれ本願補正発明の「基板」、「マスク層」、「駆動回路が形成された基板」、「『粒子を吹き付けて』『エッチング加工すること』及び『エッチング加工』」及び「『液滴吐出ヘッドを製造する液滴吐出ヘッドの製造方法』及び『液滴吐出ヘッドの製造方法』」に相当する。

(2)引用発明1の「ドライフィルム又は感光性液状レジスト」が有機材料であることは当業者に自明である。したがって、引用発明1の「マスク層(レジストマスク38)」と本願補正発明の「マスク層」とは、「有機材料の」ものである点で一致する。

(3)引用発明1の「『インク供給溝の開口部の形状を形成』された『マスク層(レジストマスク38)』」は、「パターニングされた」ものであるといえる。したがって、引用発明1の「マスク層」と本願補正発明の「マスク層」とは、「パターニングされた」ものである点で一致する。
また、引用発明1の「そのパターン孔38-1に従ったサンドブラスト加工」は、パターン孔38-1から露出する基板を穿つものである。
よって、引用発明1の「エッチング加工(サンドブラスト加工)」と本願補正発明の「エッチング加工」とは、「パターニングされたマスク層から露出する基板」に対して行う点で一致する。

(4)引用発明1の「駆動回路を形成したチップ基板」は、その上に、抵抗発熱部、共通電極及び個別配線電極が形成され、これらの上全面に、保護膜が被着され、保護膜が切削・削除された後、所定の形状の隔壁が積層され、この隔壁の上に、レジストマスク38が積層され、フォトリソグラフィー技術によりインク供給溝の開口部の形状を形成されるものであるから、駆動回路の上にパターニングされた「マスク層(レジストマスク38)」が積層されているといえる。よって、引用発明1の「基板」と本願補正発明の「基板」とは、「上層にパターニングされたマスク層を有し、下層に駆動回路が形成され」ている点で一致する。

(5)引用発明1の「駆動回路」は、インクジェットプリンタヘッドの駆動回路であるから、これが液滴吐出のためのものであることは当業者に自明である。よって、引用発明1の「駆動回路」と本願補正発明の「駆動回路」とは、「液滴吐出のための」ものである点で一致する。

(6)上記(1)ないし(5)から、本願補正発明と引用発明1とは、
「上層にパターニングされた有機材料のマスク層を有し、下層に液滴吐出のための駆動回路が形成された基板に粒子を吹き付けて、マスク層から露出する基板をエッチング加工することによって、液滴吐出ヘッドを製造する液滴吐出ヘッドの製造方法。」である点で一致し、次の3点で相違している。

相違点1:
前記エッチング加工を、本願補正発明では、前記基板に粒子を吹き付けて、マスク層から露出する前記基板をエッチング加工する際に、この基板に生じる帯電の極性と反対の極性にイオン化されたイオン雰囲気中で行うのに対して、引用発明1は、そのような雰囲気中で行ってはいない点。

相違点2:
前記エッチング加工をする際の雰囲気の湿度が、本願補正発明では、相対湿度60%以上であるのに対して、引用発明1では不明である点。

相違点3:
前記粒子が、本願補正発明では、氷の粒子、ドライアイスの粒子のうちのいずれか1種類であるのに対して、引用発明1では、そうでない点。

4 判断
上記相違点1ないし3について検討する。

(1)相違点1について
ア 上記2(2)アないしウからみて、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「被加工物に微粒子を噴射して研削することにより、所定パターンの溝または孔等を形成するブラスト研削方法において、
研削中に静電気が発生し、帯電した研削微粒子が、逆極性に帯電した研削中の溝の壁に付着し、次第に溝を埋めるように蓄積していき、厚膜層が研削されて発生した粉も厚膜層と同様に帯電しているため、研削微粒子と共に溝の中に蓄積していき、その結果、研削すべき厚膜層の表面(即ち、溝の壁面)へ新しい研削微粒子が効果的に飛来して到達することを妨げ、十分なブラスト研削を実現できなくなる問題に鑑み、ブラスト研削中に被研削部材に静電気が蓄積しないようにして、その研削途中の溝の中に、研削微粒子と厚膜層が研削されて発生した粉とが残存することを防止して、これに起因したブラスト研削不良を無くすことを目的として、
ブラスト研削により隔壁を形成するためのマスクと厚膜層とを有する被研削基板に対して、ブラストガンにより、研削微粒子を噴射する際に、イオン発生手段により、ブラスト研削中に厚膜層の溝部に発生した静電気の極性(通常は負極性)と逆の極性(通常は正極性)を持つイオンを生成し、これをイオンガンによって、ブラスト研削部分に噴射することによって、前記溝部に発生した静電気を中和することができ、静電気により溝部に残留しやすい状態にあった研削微粒子や厚膜層が研削されて発生した粉を、静電気力から開放して溝部から排出しやすくし、ブラスト研削不良を無くしたブラスト研削方法。」
イ サンドブラスト加工の際に静電気が発生し易いことは、当業者に自明の事項である(特開2000-204354号公報の【0003】?【0011】の記載、特開2000-129242号公報の【0010】の記載参照。以下「自明の事項」という。)。
ウ 上記イによれば、引用発明1の「(基板に)粒子を吹き付けてするエッチング加工(サンドブラスト加工)」で静電気が発生し易いことは当業者に自明である。
したがって、上記ア及びイからして、引用発明1において、「マスク層から露出する基板」の「エッチング加工(サンドブラスト加工)」により発生する静電気によって、該基板に穿設するインク供給溝やインク給送孔が帯電する極性と逆の極性を持つイオンを発生するイオン発生手段と、イオンガンとを設け、前記基板に粒子を吹き付けて、マスク層から露出する前記基板をエッチング加工する際に該基板に生じる帯電の極性と逆の極性を持つイオンを前記イオン発生手段で生成し、これを前記イオンガンによってエッチング加工の箇所に噴射するようにして、静電気の蓄積に起因するエッチング不良を無くすことは、当業者が、引用発明2及び自明の事項に基づいて容易に想到することができたことである。
エ 上記ウの「前記基板に粒子を吹き付けて、マスク層から露出する前記基板をエッチング加工する際に該基板に生じる帯電の極性と逆の極性を持つイオンを前記イオン発生手段で生成し、これを前記イオンガンによってエッチング加工の箇所に噴射するようにし」た場合の引用発明1の「エッチング加工」は、「前記基板に粒子を吹き付けて、マスク層から露出する前記基板をエッチング加工する際に、この基板に生じる帯電の極性と反対の極性にイオン化されたイオン雰囲気中で」行われる点で本願補正発明の「エッチング加工」と一致することになるから、引用発明1において、上記相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは、上記ウからみて、当業者が引用発明2及び自明の事項に基づいて容易に想到することができたことである。

(2)相違点2について
ア 引用発明1の「(基板に)粒子を吹き付けてするエッチング加工(サンドブラスト加工)」で静電気が発生し易いことと、静電気の蓄積に起因してエッチング不良が生じることは、上記(1)ウで述べたとおりである。
イ 静電気は湿度が低いと発生しやすく湿度が高いと発生しにくいことは、一般常識というべきところ、引用発明1のサンドブラスト加工などの「粒子を吹き付けてするエッチング加工」においても、静電気は湿度が低いと発生しやすく湿度が高いと発生しにくいことは技術常識である(上記特開2000-204354号公報の【0008】の記載、上記特開2000-129242号公報の【0010】の記載及び特開平3-287378号公報の4頁右上欄19行?同頁左下欄2行の記載参照。以下「技術常識」という。)。
ウ 引用発明1において、静電気の蓄積に起因するエッチング不良を無くすことは、当業者が、引用発明2及び自明の事項に基づいて容易に想到することができたことである(上記(1)ウ参照。)ところ、上記ア及びイからみて、引用発明1において、湿度を高くして静電気が発生しにくくすることにより、静電気の蓄積に起因するエッチング不良をより無くすようにすることは、当業者が、引用発明2、自明の事項及び技術常識に基づいて容易に想到することができたことである。
エ 上記ウにおいて、「湿度を高くして静電気が発生しにくくすることにより、静電気の蓄積に起因するエッチング不良をより無くすようにする」際に、湿度を如何なる値にするかは当業者が適宜決定すべき設計上の事項というべきところ、本願明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、本願補正発明の「相対湿度60%以上」との湿度の下限に「湿度を高くして静電気が発生しにくくする」ことを超える技術上の意義を把握することができないこと、及び、湿度を高くして静電気が発生しにくくする際に湿度を60%以上の値とすることに困難な点はない(例えば、上記特開平3-287378号公報の4頁右上欄20行の「湿度設定としては、80?90%程度が望ましい。」との記載参照。)ことから、引用発明1において、(本願補正発明と同様に、)「(基板に)粒子を吹き付けてするエッチング加工(サンドブラスト加工)」する際の雰囲気の湿度を特定の値まで高くすることは、当業者が、引用発明2、自明の事項及び技術常識に基づいて容易に想到することができたことであり(上記ウ参照。)、その特定の値を本願補正発明において相対湿度で60%以上の値とした点は当業者が適宜決定することができた設計上の事項である。
よって、引用発明1において、上記相違点2に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が、引用発明2、自明の事項及び技術常識に基づいて容易になし得た程度のことである。

(3)相違点3について
サンドブラスト法の砂などの砥粒に代えて氷粒やドライアイス粒を使用するブラスト法は本願の優先日前に周知である(特開昭59-1166号公報の2頁左上欄5行?16行の記載、特開昭63-16972号公報の1頁右下欄5?20行の記載、特開2000-105470号公報の【0006】及び【0009】の記載、及び特開2000-176837号公報の【0003】の記載参照。以下「周知技術」という。)から、引用発明1において、「(基板に)粒子を吹き付けてするエッチング加工」において使用する粒子を氷粒又はドライアイス粒のうちのいずれか1種類として、上記相違点3に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が周知技術に基づいて容易になし得た程度のことである。

(4)効果について
本願補正発明の奏する効果は、引用発明1及び2の奏する効果、自明の事項、技術常識並びに周知技術の奏する効果から当業者が予測することができた程度のものである。

(5)したがって、本願補正発明は、引用例1及び2にそれぞれ記載された発明、自明の事項、技術常識並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 小括
以上のとおり、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、旧特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反するものであり、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし14に係る発明は、平成20年1月7日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2〔理由〕1(1)ア」に本件補正前の請求項1として記載したとおりである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1、2及びその記載事項は、上記「第2〔理由〕2」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願補正発明は、上記「第2 1(1)イ」で述べたとおり、本願発明を特定するために必要な事項を限定したものであるから、本願補正発明は、本願発明の構成要件を全て含み、さらに限定を付加したものに相当する。そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2〔理由〕4」に記載したとおり、引用例1及び2にそれぞれ記載された発明、自明の事項、技術常識並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例1及び2にそれぞれ記載された発明、自明の事項、技術常識並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1及び2にそれぞれ記載された発明、自明の事項、技術常識並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-12 
結審通知日 2010-04-13 
審決日 2010-04-27 
出願番号 特願2002-278578(P2002-278578)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 津熊 哲朗畑井 順一  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 菅野 芳男
藏田 敦之
発明の名称 液滴吐出ヘッドの製造方法および装置  
代理人 渡辺 望稔  
代理人 三和 晴子  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ