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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E04B
管理番号 1218542
審判番号 無効2009-800151  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-07-13 
確定日 2010-05-24 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4044466号発明「外壁」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第4044466号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成15年 3月17日:出願(特願2003-72757号)
平成19年11月22日:特許権の設定登録
平成21年 7月13日:本件審判請求
平成21年10月 1日:被請求人より答弁書及び訂正請求書提出
平成21年11月 6日:請求人より弁駁書提出
平成22年 2月 9日:口頭審理、
請求人及び被請求人より口頭審理陳述要領書
提出
平成22年 2月26日:請求人より上申書提出
平成22年 3月12日:被請求人より上申書提出

第2 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、特許第4044466号(以下、「本件特許」という。)の請求項1に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由として、以下の無効理由を主張し、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第7号証を提出し、さらに上申書とともに参考資料1ないし4を提出した。

[無効事由]
(1)無効理由1:本件特許の請求項1に係る特許発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである。
(2)無効理由2:本件特許の請求項1に係る特許発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、この特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである。
(3)無効理由3:訂正は、願書に添付した明細書又は図面の範囲内においてなされたものではないから、134条の2第5項で準用する同法126条第3項の規定に違反する。
仮に訂正が認められたとしても、訂正後の請求項1に係る発明は、甲第1号証ないし甲第3号証(又は甲第4号証、甲第5号証)に記載された発明に基づき当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、この特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである。

[証拠方法]
(請求書とともに提出)
甲第1号証:実願昭52-30817号
(実開昭53-125415号)のマイクロフイルム
甲第2号証:実願昭59-196507号
(実開昭61-113813号)のマイクロフィルム
(弁駁書とともに提出)
甲第3号証 特開平7-300931号公報
甲第4号証 特開平9-67888号公報
甲第5号証 特開平6-240792号公報
甲第6号証 特開平8-105137号公報
甲第7号証 特開平7-3925号公報

[参考資料]
参考資料1:実願昭52-30816号(実開昭53-125414号)のマイクロフイルム
参考資料2:実願昭60-90081号(実開昭61-206005号)のマイクロフイルム
参考資料3:「外壁接合部の水密設計および施工に関する技術指針(案)・同解説」社団法人日本建築学会、2000年7月1日発行、33頁
参考資料4:「金属カーテンウォール便覧」社団法人 日本カーテンウォール工業会 昭和39年5月30日発行、128頁

2.被請求人の主張
被請求人は、答弁書と共に訂正請求書を提出し、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の無効理由に対して以下のように反論し、口頭審理陳述要領書とともに乙第1号証ないし乙第6号証を提出した。

[無効理由に対する反論]
(1)訂正は、願書に添付した明細書又は図面の範囲内においてなされたものであり、適法になされたものである。
(2)訂正後の本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明ではない。
(3)訂正後の本件特許発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明できたものではない。
(4)甲第3号証(又は甲第4号証、甲第5号証)記載のカーテンウォールは、外気を積極的に導入するオープンジョイント構法であり、甲第1号証記載のカーテンウォールがクローズドジョイント構法であるとすると両者を組み合わせることには阻害要因があり、仮に甲第1号証記載のカーテンウォールがオープンジョイント構法であるとすると、両者を組み合わせても訂正後の本件特許発明とはならないから、訂正後の本件特許発明は、甲第1号証ないし甲第3号証(又は甲第4号証、甲第5号証)に記載された発明に記載された発明に基づき当業者が容易に発明できたものではない。

[証拠方法]
乙第1号証:本件特許の【図3】D部拡大図の説明図
乙第2号証:「外壁接合部の水密設計および施工に関する技術指針(案)・同解説」第1版第1刷 社団法人日本建築学会、2000年7月1日発行、目次頁、213?216頁
乙第3号証:「高層建築物のカーテンウォール設計基準・同解説」再版、社団法人日本カーテンウォール工業会 昭和40年7月1日発行、26?27頁
乙第4号証:「CURTAIN WALL カーテンウォールってなんだろう」社団法人日本カーテンウォール工業会、1995年4月発行、80?81頁
乙第5号証:YKKアーキテクチュラルプロダクツ株式会社カタログ「低階層用カーテンウォールYCEフラットタイプ」1版 1995年3月発行
乙第6号証:トステム株式会社カタログ「WALLSCAPE VOL1」第4版、1998年11月1日発行、4頁、30頁

第3 訂正の適否の判断
1.訂正の内容
本件無効審判の訂正請求は、本件特許の願書に添付した明細書を次のとおりに訂正しようとするものである (当審において、訂正箇所に下線部を付与した。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を次のとおりに訂正する。
「【請求項1】左右方向に間隔をおいて立設された複数の縦材と、該縦材と直交する方向に架け渡された複数の横材と、これら縦材及び横材により構成される枠に取り付けられたパネルとを備えた外壁であって、
前記縦材は、左右に2分割かれた部材が組み合わされて成る中空部を有する部材であり、前記縦材の室外側面を形成する部位に継ぎ目を有するとともに、前記中空部内にも継ぎ目を有し、該中空部内の継ぎ目は前記パネルより室内側に配置され、前記室外側面の継ぎ目には第一次止水ラインが設けられ、前記中空部内の継ぎ目には第二次止水ラインが具備されており、前記縦材に前記パネルを取り付けるための溝から、前記縦材の内部に雨水の侵入が可能とされ、
前記縦材及び横材の内部に侵入した雨水を、最下部に設けられた横材より排出し、それより上方に位置する縦材及び横材の内部に侵入した雨水は、前記上方に位置する縦材については直接に該縦材内部を通じて前記最下部の横材内部に流下し、前記上方に位置する横材については該横材に前記パネルを取り付けるための溝を伝って前記縦材内部に流入して、該縦材内部を通じて前記最下部の横材内部に流下するように構成された外壁。」

(2)訂正事項2
明細書の段落【0010】の記載を次のように訂正する。
「【0010】
請求項1の発明は、左右方向に間隔をおいて立設された複数の縦材(12a?12h)と、該縦材と直交する方向に架け渡された複数の横材(13a?13j)と、これら縦材及び横材により構成される枠に取り付けられたパネル(P1?P8)とを備えた外壁(10)であって、前記縦材は、左右に2分割かれた部材が組み合わされて成る中空部を有する部材であり、前記縦材の室外側面を形成する部位に継ぎ目を有するとともに、前記中空部内にも継ぎ目を有し、該中空部内の継ぎ目は前記パネルより室内側に配置され、前記室外側面の継ぎ目には第一次止水ラインが設けられ、前記中空部内の継ぎ目には第二次止水ラインが具備されており、前記縦材に前記パネルを取り付けるための溝から、前記縦材の内部に雨水の侵入が可能とされ、前記縦材及び横材の内部に侵入した雨水を、最下部に設けられた横材(13i、13j、30)より排出し、それより上方に位置する縦材及び横材の内部に侵入した雨水は、前記縦材内部を通じて前記最下部の横材内部に流下するように構成された外壁により前記課題を解決する。」

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「縦材」の構成を限定するものであるから、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものである。
また、上記訂正事項2は、発明の詳細な説明の記載を、訂正事項1による訂正後の請求項1に係る発明と整合させるものであるから明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

3.新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
縦材の止水ラインに関して本件特許明細書には次のように記載されている。
「【0020】
しかし、左右の2分割材からなる方立12cの継ぎ目のシールが不完全な場合、ビード14によるシール効果が不完全な場合、あるいはビード14自体が劣化や切断などしてシール材として完全に機能していない場合、方立12c、無目13dのガラス溝の内部に雨水が侵入することがある。・・・」
「【0022】
一方、方立12cの継ぎ目や、方立12c部のシールから侵入した雨水W2は、その侵入個所が縦樋16となるように縦樋16が配置されているので、そのまま縦樋16の内部を無目13dのガラス溝から侵入した雨水W1と合流して、雨水W12(図3参照)となって急速に下方に流れ落ち、最下部の横材に流れ込む。・・・」
「【0030】
・・・図3における左上部に楕円系で示される図は、図3において参照符号Dで示されている部分の拡大図である。拡大図におけるX-X線は第一次止水ラインであり、通常の状態でシールの機能が完全な場合にはこのラインより室内側には雨水は侵入しない。シール部材が不完全であって、第一次止水ラインを超えて無目あるいは方立内部に侵入した雨水W12は方立12bの内部に設けられた縦樋16により下方に流下される。
【0031】
縦樋16はD部拡大図から明らかなように左右方向に左室16a、中央室16b、及び右室16cに分割されている。・・・また、方立12b(左右2部材に分割されたものを組み立てている。)の継ぎ目から侵入した雨水は中央室16bに流入し、下方へと流下する雨水W12となる。
【0032】
D部拡大図におけるY-Y線は第二次止水ラインであり、基本的にこれより室内側に雨水が侵入することがないラインである。万が一これを超えて雨水が侵入した場合、あるいは方立12bの内面に結露があるような場合、これらの水分W5は、方立本体内部を流下してゆく。」
また、【図3】の「D部拡大図」は次のとおりであり、2分割材からなる方立12cを組み合わせた縦材には、パネルより室内側に第二次止水ラインY-Y線が形成され、それより室外側には、方立の室外側の側面よりやや内方に入り込んで第一次止水ラインX-X線が形成されることが記載されている。


上記記載事項によれば、左右の2分割材からなる方立12cは、シール材を有する継ぎ目により止水ラインが形成されること、止水ラインは、パネルより室内側の第二次止水ラインと、第二次止水ラインより室外側の面を形成する第一次止水ラインからなり、この二重の止水ラインにより、方立本体内部への雨水の侵入を防止するとの技術的事項が開示されているといえる。
そうすると、訂正事項1及び2は、願書に添付した明細書又は図面等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、また、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものでもない。

3.むすび
したがって、上記訂正事項1、2は、第134条の2第1項ただし書きに適合し、特許法第134条の2第5項において準用する特許法第126条第3項及び4項の規定に適合するから、当該訂正を認める。

第4 本件発明
上記第3に示したとおり、本件に係る訂正が認められるから、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。) は、上記訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、上記「第3 1.(1)」に記載したとおりのものと認められ、これを特定事項により分説すると次のとおりである。

「A 左右方向に間隔をおいて立設された複数の縦材と、
B 該縦材と直交する方向に架け渡された複数の横材と、
C これら縦材及び横材により構成される枠に取り付けられたパネルと
D を備えた外壁であって、
E 前記縦材は、左右に2分割かれた部材が組み合わされて成る中空部を有する部材であり、
F 前記縦材の室外側面を形成する部位に継ぎ目を有するとともに、
G 前記中空部内にも継ぎ目を有し、
H 該中空部内の継ぎ目は前記パネルより室内側に配置され、
I 前記室外側面の継ぎ目には第一次止水ラインが設けられ、
J 前記中空部内の継ぎ目には第二次止水ラインが具備されており、
K 前記縦材に前記パネルを取り付けるための溝から、前記縦材の内部に雨水の侵入が可能とされ、
L 前記縦材及び横材の内部に侵入した雨水を、最下部に設けられた横材より排出し、
M それより上方に位置する縦材及び横材の内部に侵入した雨水は、前記上方に位置する縦材については直接に該縦材内部を通じて前記最下部の横材内部に流下し、
N 前記上方に位置する横材については該横材に前記パネルを取り付けるための溝を伝って前記縦材内部に流入して、該縦材内部を通じて前記最下部の横材内部に流下する
O ように構成された外壁。」

第5 無効理由3についての判断
1.証拠方法の記載内容
(1)甲第1号証(実願昭52-30817号(実開昭53-125415号)のマイクロフイルム)には、「カーテンウオールにおける排水装置」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。
(1a)「カーテンウオール構成材に進入する雨水及び結露水の進入用水抜孔に連通する中空部を有する上下の方立材(1)の接合部において、同各方立材(1)の中空部に亘つて、外周面に凹条溝(2)を有するスリーブ(3)を嵌着するとともに、同スリーブ(3)の凹条溝(2)と、前記両方立材(1)の接合面とに亘つてシール材(4)を填装し、前記方立材(1)の中空部には水平集水盤(5)より垂直集水管(6)を突設してなるキヤツチパン(7)を配設するとともに、同キヤツチパン(7)の垂直集水管(6)の下端開口部を前記スリーブ(3)の直上に位置せしめてなることを特徴とするカーテンウオールにおける排水装置。」(実用新案登録請求の範囲)、
(1b)「図中(8)は無目、(9)はスパンドレル部、(10)は開口部、(11)は最下部ボーダ、(12)はボーダ水抜孔である。
第3図乃至第6図はカーテンウォール構成材から方立材(1)の中空部に雨水及び結露水が進入する過程を示すもので、・・・」(3頁2行?6行)、
(1c)「・・・ガラス(17)部シール切れによる雨水等は矢印に示す如く無目(8)のガラス受部を流れ、方立材(1)と無目(8)との取付部のシール部(15)により方立材(1)の水抜孔(16)に流れ、同水抜孔(16)より方立材(1)の中空部に流入する。」(3頁10行?14行)、
(1d)「前記方立材(1)の中空部に流入した雨水等は前記キヤツチパン(7)の水平集水盤(5)に溜り、垂直集水管(6)に集約されて同管(6)の下端開口部より排出される。」(4頁3行?6行)、
(1e)「・・・前記のようにキヤツチパン(7)によって集水された方立材(1)の中空部に流入した雨水等は、スリーブ(3)を介して方立材(1)の接合部から漏出しないようにその中心部を流れて下方の方立材(1)に流入する。」(4頁10行?14行)、
(1f)「以下同様にして順次上方より下方の方立材(1)内を流下した雨水等は最下部ボーダ(11)に溜り、ボーダ水抜孔(12)より外部に流出する。」(4頁15行?5頁2行)。
(1g) 第1図には、立設する「方立材(1)」と直交する方向に複数の「無目(8)」が架け渡されることが開示されている。
(1h) 第3図には方立材(1)の横断面図が、第6図には方立材(1)の部分斜視図が記載され、方立材(1)は、断面略四角形の中空部とその前面に突出する突出部とからなり、中空部の前側面と突出部の左右面によりガラス(17)を取り付けるための溝が形成されることが記載されている。
(1i) 第5図には、「ガラス(17)」の下部分が「無目(8)のガラス受部」に支持された断面図が記載され、第1図、第3図乃至第5図には、「ガラス(17)」を取り付けるための枠が「方立材(1)」と「無目(8)」により構成されていることが示されている。

甲第1号証記載の発明において、「ガラス(17)」を取り付ける「方立材(1)」は、ガラス(17)の左右を支持するために、左右方向に間隔をおいて複数立設されていることは明らかである。
また、甲第1号証には、ガラス(17)を方立材(1)に取り付ける手段について明記されていないが、甲第1号証の図面に示されるような、前面に突出部を有し、その両側にガラスの端部を受ける空間を形成する方立材においては、突出部の外面にカバー材(目板)を設けガラスを挟持することは、技術常識であり(請求人が提出した参考資料1、2参照)、甲第1号証記載のカーテンウオールにおいても、方立材(1)にこのようなカバー材が設けられて、ガラスを取り付けるための溝が形成され、カバー材とガラス(17)の間から、方立材(1)にガラス(17)を取り付けるための溝に雨水が侵入し、この雨水は、該溝から水抜き孔(16)を流れて方立材(1)の中空部に流入するものと認められる。
したがって、上記記載事項及び技術常識によれば、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる(なお、本件発明に対応させて、構成を分説して記載した。)。
「a1 左右方向に間隔をおいて立設された複数の方立材(1)と、
b1 該方立材(1)と直交する方向に架け渡された複数の無目(8)と、最下部ボーダ(11)と 、
c1 これら方立材(1)及び無目(8)により構成される枠に取り付けられたガラス(17)と
d1 を備えたカーテンウオールであって、
k1 方立材(1)にガラス(17)を取り付けるための溝から、前記方立材(1)の中空部に雨水が流入可能とされ、
l1 前記方立材(1)及び無目(8)の内部に侵入した雨水を、最下部ボーダー(11)より排出し、
m1 それより上方に位置する方立材(1)については、方立材(1)とガラス(17)との間に侵入した雨水は、方立材(1)にガラス(17)を取り付けるための溝から方立材(1)の水抜き孔(16)に流れ、同水抜き孔(16)より方立材(1)の中空部を通じて最下部ボーダー(11)に流下し、
上方より方立材(1)の中空部を流れてきた雨水は、そのまま方立材(1)の中空部を通じて最下部ボーダー(11)に流下し、
n1 それより上方に位置する無目(8)については、無目(8)に侵入した雨水は、無目(8)に前記ガラス(17)を取り付けるためのガラス受部から方立材(1)の水抜き孔(16)に流れ、同水抜き孔(16)より方立材(1)の中空部を通じて最下部ボーダー(11)内部に流下する
o1 ように構成されたカーテンウオール。 」

甲第3号証(特開平7-300931号公報)には、「分割方立の水密構造」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。
(3a)「【0002】
【背景技術】従来より、カーテンウォールにおいて左右に分割された分割方立を用いたカーテンウォールが知られている。図1に示すように、分割方立式カーテンウォール1は、左右一対に分割された方立構成部材10,11により構成された分割方立2を備え、通常、無目3、腰無目4および無目3,4を挟んで配置される方立構成部材10,11を工場で組み立てて骨組み5を構成し、この骨組み5を建設現場に運んで建物躯体に取り付け、さらにガラスパネル6や腰パネル7を取り付けて構成されるものである。」、
(3b)「【0008】
【実施例】以下、本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。本実施例のカーテンウォール1は、図1に示すように、左右方向に所定間隔離れて設置された分割方立2の方立構成部材10,11間に、無目3および腰無目4を連結して構成された骨組み5と、これら分割方立2および無目3,4間に取り付けられるガラスパネル6および反射ガラスやアルミ製の腰パネル7からなる壁面構成材とで構成されている。
【0009】分割方立2は、図2にも示すように、左右一対の方立構成部材10,11を備えており、その室外側端部にはグレージングビード12やバックアップ材13および縦目地シール材14を介して各パネル6,7を保持するための保持溝15がそれぞれ形成されている。各方立構成部材10,11の保持溝15の他の保持溝15側に対向する面には、嵌合用凹部16および前記凹部16に嵌合される嵌合片17,18がそれぞれ形成されている。また、方立構成部材10,11の室内側端部には、互いに平行な突片10A,11Aが形成され、突片11Aには突片10A側に向かって嵌合片19が形成されている。
【0010】嵌合片17には、1次止水用シール材(AT材、エアータイト材、気密材)20が凹部16の内面に密着するように設けられ、嵌合片18には、2次止水用シール材21が凹部16の内面に密着するように設けられ、嵌合片19には、3次止水用シール材22が方立構成部材10の室内側端部に密着するように設けられている。これらの各シール材20,21,22は、樹脂製の同一形状の部材からなり、成型品を所定寸法に切断することなどで容易に製造されるものであり、方立構成部材11の長手方向の全長にわたって連続して取り付けられている。そして、1次止水用シール材20および2次止水用シール材21間の空間により方立1次空間23が形成され、2次止水用シール材21および3次止水用シール材22間の空間により方立2次空間24が形成されている。
【0011】上下に配置された方立構成部材10,11の上下連結部には、図3に示すように、各方立構成部材10,11を連結する方立ジョイントスリーブ30が設けられ、このジョイントスリーブ30の室外側には、ジョイントパッキン40が配置されている。ジョイントパッキン40は、少なくとも前記方立1次空間23と方立2次空間の室外側の一部との下面を覆う大きさおよび位置に配置され、その室内側および側面側には止水壁部41がそれぞれ形成されている。また、ジョイントパッキン40には、排水溝42が形成され、ジョイントパッキン40に流れ込んだ雨水をジョイントパッキン40の下側の方立構成部材10,11の保持溝15内に流すように構成されている。
【0012】分割方立2間に掛け渡された無目3および腰無目4は、図4に示すように、ブチルシーラー(図示せず)を介して方立構成部材10,11にビス止めされ、各方立構成部材10,11の排水溝である保持溝15に連続して形成され、グレージングビード51やバックアップ材52、シール材53を介してガラスパネル6、腰パネル7の下端縁および上端縁をそれぞれ保持する保持溝54,55が形成されている。
【0013】保持溝54には、パネル6,7を保持溝54内に配置した後に嵌合され、パネル6,7の下端縁を押さえる押縁56が取り付けられている。また、保持溝54の複数箇所、例えば無目3,4の両端近傍には、室外側に連通された排水孔57が形成されている。」、
(3c)「【0015】このような構成の分割方立式カーテンウォール1では、図2に示すように、左右の各方立構成部材10,11間つまり方立2のかみ合わせ部から1次止水用シール材20を越えて室内側に浸入した漏水Aは、十分に広い方立1次空間23内に入ると重力によって下方に落下し、図3に示すように、方立1次空間23の下に位置するジョイントパッキン40に流れ込む。
【0016】また、方立1次空間23から2次止水用シール材21を越えて室内側に漏水が浸入したとしても、その漏水Bは、方立2次空間24内を通して(特に空間24の室外側の壁面を伝わって)下方に流下し、ジョイントパッキン40の止水壁部41内に流れ込む。これらの漏水A,Bは、排水溝42を通ってジョイントパッキン40の下側に配置された方立構成部材10,11の排水溝である保持溝15内に流入する。この保持溝15内には、分割方立2の上下連結部のシール部や、各パネル6,7の縦目地シール材14から浸入した漏水Cも流れ込む。
【0017】保持溝15内を流下された各漏水A?Cは、図4に示すように、溝塞ぎ部材58で受けられて無目3,4の排水溝である保持溝54内に流れ込み、各パネル6,7の横目地シール材53から浸入した漏水Dや、押縁56と無目3,4との間から浸入した漏水Eとともに、排水孔57からカーテンウォール1の室外側に排水される。」、
(3d)「【0018】このような本実施例によれば、1次および3次の止水用シール材20,22に加えて2次止水用シール材21を追加して設け、この2次止水用シール材21を各シール材20,22と同様に、方立構成部材10,11の長手方向の全長にわたって連続して形成したので、1次および2次シール材20,21の間に、漏水を排水できる方立1次空間23を形成することができる。これにより、仮に1次シール材20を越えて雨水が浸入しても、その漏水Aを方立1次空間23を流下させ、ジョイントパッキン40、保持溝15,54、排水孔57を介して容易に排水することができる。従って、2次シール材21を越えて方立2次空間24内に浸入する漏水Bはほとんどなく、この漏水Bもジョイントパッキン40に流れて排水されるため、3次シール材22部分まで漏水Bが達する可能性はきわめて低く、よって3次シール材22を越えて室内側に漏水する可能性は殆ど無く、本実施例によれば水密性能を非常に高くすることができる。」。
(3e)【図2】には、室外側面の継ぎ目の後に位置する嵌合片17(継ぎ目)に1次止水用シール材20が設けられ、方立1次空間23の中空部24側の嵌合片18(継ぎ目)には2次止水用シール材21が設けられることが示されている。

これらの記載によれば、刊行物3には、次の発明が記載されていると認められる(なお、本件発明に対応させて、構成を分説した。)。
「a3 左右方向に間隔をおいて立設された複数の分割方立2と、
b3 該分割方立2と直交する方向に架け渡された複数の無目3、4と、
c3 これら分割方立2及び無目3又は4により構成される枠に取り付けられたパネル6、7と
d3 を備えたカーテンウォールであって、
e3 前記分割方立2は、左右に2分割された方立構成部材10、11が組み合わされて成る中空部を有する部材であり、
f3 前記分割方立2の室外側面を形成する継ぎ目部を有するとともに、
g3 前記中空部内にも継ぎ目部を有し、
h3 該中空部内の継ぎ目部は前記パネル6、7より室内側に配置され、
i3 前記室外側面の継ぎ目には一次止水シール材が設けられ、
j3 前記中空部内の継ぎ目には二次止水シール材が具備されており、
k3 前記分割方立2に前記パネル6、7を取り付けるための保持溝15から、前記分割方立2の内部に雨水の侵入が可能とされ、
l3 分割方立2及び無目3の内部に侵入した雨水は、無目3、4にパネルを取り付けるための保持溝54の孔57から室外側に排水され、
m3 その際、分割方立2の内部に侵入した雨水は、保持溝15を通って無目3,4の保持溝54内部に流入し、
n3 無目3、4については、直接保持溝54内に流れ込む
o3 ように構成されたカーテンウォール。」

2.無効理由3についての判断
(1)対比
本件特許発明と甲第1号証記載の発明を対比する。
甲第1号証記載の発明の「方立材(1)」、「無目(8)」、「ガラス(17)」、「ガラス受部」、「最下部ボーダー(11)」、「カーテンウオール」は、本件特許発明の「縦材」、「横材」、「パネル」、「横材にパネルを取り付けるための溝」、「最下部に設けられた横材」、「外壁」に相当する。
したがって、両者は、次の一致点及び相違点を有する。

[一致点](特定事項A?D、K?Oに関して)
「左右方向に間隔をおいて立設された複数の縦材と、
該縦材と直交する方向に架け渡された複数の横材と、
これら縦材及び横材により構成される枠に取り付けられたパネルと
を備えた外壁であって、
前記縦材に前記パネルを取り付けるための溝から、前記縦材の内部に雨水の侵入が可能とされ、
前記縦材及び横材の内部に侵入した雨水を、最下部に設けられた横材より排出し、
それより上方に位置する縦材及び横材の内部に侵入した雨水は、前記上方に位置する縦材については直接に該縦材内部を通じて前記最下部の横材内部に流下し、
それより上方に位置する横材については該横材に前記パネルを取り付けるための溝を伝って前記縦材内部に流入して、該縦材内部を通じて前記最下部の横材内部に流下する
ように構成された外壁。」

[相違点](特定事項E?Jに関して)
縦材が、本件特許発明では、
「左右に2分割かれた部材が組み合わされて成る中空部を有する部材であり、
縦材の室外側面を形成する部位に継ぎ目を有するとともに、
中空部内にも継ぎ目を有し、
該中空部内の継ぎ目は前記パネルより室内側に配置され、
前記室外側面の継ぎ目には第一次止水ラインが設けられ、
前記中空部内の継ぎ目には第二次止水ラインが具備されている」
のに対し、甲第1号証記載の発明では、
縦材は、中空部を有する方立材であり、左右に2分割された部材が組み合わされて成る部材ではない点。

(2)判断
上記相違点について検討する。
ア 甲第3号証記載の発明の「分割方立2」、「無目3」、「保持溝15」、「カーテンウォール」は、それぞれ、本件特許発明の「縦材」、「横材」、「縦材にパネルを取り付けるための溝」、「外壁」に相当し、甲第3号証記載の発明において、一次シール材により第一次止水ラインが、二次シール材により第二次止水ラインが形成されることは明らかであるから、縦材を本件特許発明の特定事項E?Jのように構成された縦材は、甲第3号証記載の発明に示されている(構成e3?j3参照)。
そして、このような分割された縦材と横材で枠を組み立てて壁面に取り付けることも、甲第1号証記載の発明のような分割されていない縦材及び横材を現場で組み立てることも、外壁の取付け工法として周知である。
そうすると、甲第1号証記載の発明において、外壁の組み立てを容易にする等の2分割方式の縦材の長所を利用するために、甲第3号証記載の発明に示される左右に2分割された縦材を用いることは、当業者が容易になしうることである。

イ そして、甲第3号証には、最終的には各階毎の横材の水抜き孔から排水するものではあるが、縦材にパネルを取り付けるための溝や、第一次止水ラインから侵入した雨水、さらに、第二次止水ラインを越えて縦材中空部内に侵入した雨水を、パネルを取り付けるための溝、第一次止水ラインと第二次止水ラインの間の空間、または縦材中空部内を流下させて排水することが記載されており、これらの溝、空間または中空部内はいずれも本件特許発明における「縦材の内部」に相当する。
そうすると、甲第3号証には、縦材に侵入した雨水を流下させる排水路として、縦材の内部を利用することが示されているのであるから、甲第1号証記載の発明において、甲第3号証記載の発明に示される左右に分割された縦材を用いるに際し、これらの縦材内部を、最下部に設けられた横材まで雨水を流下させる排水路として利用することは当業者が容易に想到しうることである。

ウ なお、被請求人は、甲第3号証記載のカーテンウォールはオープンジョイント構法であり、甲第1号証記載のカーテンウォールがクローズドジョイント構法であるとすると両者を組み合わせることには阻害要因がある旨主張するが、オープンジョイント構法とするか、クローズドジョイント構法とするかは、縦材の形状とは無関係であり、甲第3号証記載のカーテンウォールがオープンジョイント構法であるとしても、甲第1号証記載の発明において、縦材として、甲第3号証記載の発明に示される分割された縦材を採用することに阻害要因はない。
また、被請求人は、本件特許発明は、完全密封ではないシール構造をとりつつ、等圧設計を適用しないものである旨主張しているが(口頭審理陳述要領書6頁11?13行)、本件明細書には、「各ガラスパネルP1?P4と、方立12c、無目13dとの間はビードまたはシール14、14、…によりシールまたはビードで固定されている。室外側において、雨水が外壁10に吹きつけるような場合であっても、ビード14によるシールが完全であると、外壁10に吹きつけられた雨水は、ガラスパネルP1?P4や、方立12c、無目13dの室外側面に沿って下方へと流れ落ちる。しかし、左右の2分割材からなる方立12cの継ぎ目のシールが不完全な場合、ビード14によるシール効果が不完全な場合、あるいはビード14自体が劣化や切断などしてシール材として完全に機能していない場合、方立12c、無目1
3dのガラス溝の内部に雨水が侵入することがある。」(段落【0019】?【0020】)と記載され、本来完全密封シール構造として施工されることが示されており、本件特許発明は、完全密封ではないシール構造であるとの被請求人の主張は、明細書の記載に基づかないものである。

エ そして、本件特許発明の効果として明細書に記載されている「パネル毎に排出孔を設ける必要がないので、加工の手間を省略することが可能である。」、「排出する雨水を外部へと導く溝を設ける必要がないので、意匠上の制限をなくすとともに、正面方向の外観をすっきりとしたものにすることができる。」等の効果は、甲第1号証及び甲第3号証記載の発明から予測できることである。
したがって、本件特許発明は、甲第1号証及び甲第3号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許発明は、甲第1号証及び甲第3号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、本件特許発明に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、他の無効理由について検討するまでもなく、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
外壁
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右方向に間隔をおいて立設された複数の縦材と、該縦材と直交する方向に架け渡された複数の横材と、これら縦材及び横材により構成される枠に取り付けられたパネルとを備えた外壁であって、
前記縦材は、左右に2分割された部材が組み合わされて成る中空部を有する部材であり、前記縦材の室外側面を形成する部位に継ぎ目を有するとともに、前記中空部内にも継ぎ目を有し、該中空部内の継ぎ目は前記パネルより室内側に配置され、前記室外側面の継ぎ目には第一次止水ラインが設けられ、前記中空部内の継ぎ目には第二次止水ラインが具備されており、前記縦材に前記パネルを取り付けるための溝から、前記縦材の内部に雨水の侵入が可能とされ、
前記縦材及び横材の内部に侵入した雨水を、最下部に設けられた横材より排出し、それより上方に位置する縦材及び横材の内部に侵入した雨水は、前記上方に位置する縦材については直接に該縦材内部を通じて前記最下部の横材内部に流下し、前記上方に位置する横材については該横材に前記パネルを取り付けるための溝を伝って前記縦材内部に流入して、該縦材内部を通じて前記最下部の横材内部に流下するように構成された外壁。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、カーテンウオール等の建物の外壁に関する。
【0002】
【従来の技術】
家庭電化製品の量販店などの建物は、店舗のイメージを高めるため建物正面部分にガラスパネルを多用したカーテンウオール構造を配したものが多い。カーテンウオールとしては左右に隣接する方立間に無目を連結し、左右に隣接する方立と上下に隣接する無目間にパネルを装着したものが知られている。
【0003】
雨天となり、雨が横殴りに降り注ぐような状況になると、雨水は前記カーテンウオールのガラスパネルや、方立などに沿って、地表の基礎部分まで流下される。しかし、方立、及び無目により構成される枠とパネルとの間のシールや方立の継ぎ目の密封が不完全であると、雨水がシール部分や方立の継ぎ目から、無目や方立の内部に侵入する。
【0004】
特許文献1には、最上部無目の上部に沿って流れる雨水等を中間部無目より排水するために、方立の無目取り付け面に最上部無目、中間部無目を連結し、その最上部無目の上部中空部を方立の凹溝に連続させ、中間部無目の上部凹溝を凹溝に連続させ、方立の凹溝に排水ブロックを取付けることにより、最上部無目の上部に沿って流れる雨水等を水抜穴で上部中空部に流し込み、その雨水等が凹溝、排水ブロックを経て上部凹溝に流れるようにし、その上部凹溝の排水口より室外側面に排水する構造が開示されている。
【0005】
また、図7に示すように、パネルごとに、下枠を構成する無目71に、室外側から室内側に向けたスリット状の水平な溝72を形成し、この溝を構成する上面側の板73に水止め及び水抜き穴74を設け、この水抜き穴74から前記溝72の内面に沿って流下させることにより、枠内に侵入した雨水75を外部に排出させる構造が公知である。
【特許文献1】
特開平9-60170号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特許文献1には、最上部無目に関する排水構造が開示されているものの、それから下方にある無目や方立内部に侵入した雨水をどのようにするかという問題についてはなんら開示されていない。
【0007】
また、図7に示されている公知の構造については、パネル毎に排水孔及び水止めを加工することが必要であり、手間がかかるという問題があった。また、水抜き穴から排出される水を外部に導くための、スリット状の溝は、外壁に陰影を生じるため、外観意匠上の制限となっている。またスリット状の溝を流下する雨水によって、外壁部に水垢やしみなどが生じ、外観上不快感を生じることもある。
【0008】
そこで、本発明は、方立や無目内部に侵入した雨水を外部に排出する構造の加工を簡素化することができ、外部意匠をすっきりとしたものにすることが容易な外壁を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0010】
請求項1の発明は、左右方向に間隔をおいて立設された複数の縦材(12a?12h)と、該縦材と直交する方向に架け渡された複数の横材(13a?13j)と、これら縦材及び横材により構成される枠に取り付けられたパネル(P1?P8)とを備えた外壁(10)であって、前記縦材は、左右に2分割された部材が組み合わされて成る中空部を有する部材であり、前記縦材の室外側面を形成する部位に継ぎ目を有するとともに、前記中空部内にも継ぎ目を有し、該中空部内の継ぎ目は前記パネルより室内側に配置され、前記室外側面の継ぎ目には第一次止水ラインが設けられ、前記中空部内の継ぎ目には第二次止水ラインが具備されており、前記縦材に前記パネルを取り付けるための溝から、前記縦材の内部に雨水の侵入が可能とされ、前記縦材及び横材の内部に侵入した雨水を、最下部に設けられた横材(13i、13j、30)より排出し、それより上方に位置する縦材及び横材の内部に侵入した雨水は、前記上方に位置する縦材については直接に該縦材内部を通じて前記最下部の横材内部に流下し、前記上方に位置する横材については該横材に前記パネルを取り付けるための溝を伝って前記縦材内部に流入して、該縦材内部を通じて前記最下部の横材内部に流下するように構成された外壁により前記課題を解決する。
【0011】
この発明によれば、最下部以外の横材内部に侵入した雨水は、その部分の横材が架け渡された左右のいずれかの方立に流れ込み、方立内部を流下される。一方、方立に直接侵入した雨水はその方立内部を下方に向かって流下される。そして、方立て内部を最下部にある横材の高さまで流下して、最下部横材内に流れ込み、最下部横材に設けられた排出孔より外部に排出される。
【0012】
したがって、パネル毎に排出孔を設ける必要がないので、加工の手間を省略することが可能である。また、排出する雨水を外部へと導く溝を設ける必要がないので、意匠上の制限をなくすとともに、正面方向の外観をすっきりとしたものにすることができる。
【0013】
本発明のこのような作用及び利得は、次に説明する実施の形態から明らかにされる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0015】
図1は、本発明の外壁10を備えた建物1の正面図である。かかる建物1は、家電量販店等の店舗に多く採用されている。一階部分に出入口11が設けられ、通常2?3階建ての構造とされている。正面部分の外壁10は通常カーテンウオールと呼ばれるもので、左右方向に間隔をおいて立設された複数の縦材12a?12hと、該縦材と直交する方向に縦材間に架け渡された複数の横材13a?13iとが縦横に配置されている。なお、図では横材13a?13iは横方向に連続しているように見えるが、各縦材12a?12hにより分断されており、各横材それぞれが多数の部材の集合として構成されている。これに対して縦材12a?12hは上下方向に1本ずつ貫かれている。これら縦材12a?12h及び横材13a?13iにより構成される枠にシール部材を介して多数のパネル(図1においては後の説明に必要な鎖線で囲まれたA部及びB部のパネルのみ参照符号P1?8を付してある。)が取り付けられて、建物1の正面の外観たる外壁10(カーテンウオール)を構成している。通常パネルとして、ハーフミラーにされたガラスパネルが使用されている。
【0016】
本発明の特徴的部分は、建物の外壁において、
(1)上部構造として、最下部横材より上方に位置する縦材及び横材の内部に、方立の継ぎ目やシール部材の隙間から侵入した雨水は、縦材内部を通じて最下部の横材内部に流下するように構成し、
(2)下部構造として、上部構造の内部に侵入し、縦材部を流下して来た雨水を、最下部に設けられた横材で受けて、該横材に設けた孔より外部に排出する構造にある。
【0017】
以下、(1)の上部構造について図2により、(2)の下部構造について図3?6を参照しつつ説明することとする。
【0018】
(1)上部構造
図2(A)は、図1において参照符号Aで示した部分を破断して示す斜視図である。また、図2(B)は、従来の構造と本発明の構造を比較するために、従来公知であった外壁の構造を図2(A)の各部材と同様に配置して示す図である。図2(A)及び(B)においては、図の左上方向が室内側、右下方向が室外側を示している。
【0019】
図2(A)において、略垂直方向に立設された方立12cと、方立12cに直交して配置された無目(横材)13dとに仕切られるように、4枚のガラスパネルP1、P2、P3、及びP4が、配置されている。各ガラスパネルP1?P4と、方立12c、無目13dとの間はビードまたはシール14、14、…によりシールまたはビードで固定されている。室外側において、雨水が外壁10に吹きつけるような場合であっても、ビード14によるシールが完全であると、外壁10に吹きつけられた雨水は、ガラスパネルP1?P4や、方立12c、無目13dの室外側面に沿って下方へと流れ落ちる。
【0020】
しかし、左右の2分割材からなる方立12cの継ぎ目のシールが不完全な場合、ビード14によるシール効果が不完全な場合、あるいはビード14自体が劣化や切断などしてシール材として完全に機能していない場合、方立12c、無目13dのガラス溝の内部に雨水が侵入することがある。図2(A)はこのような場合の方立12c、無目13dのガラス溝の内部に侵入した雨水の流れ方向を概略的に示している。
【0021】
本発明においては、最下部横材より上方に位置する横材である無目13dのガラス溝の内部に進入した雨水W1は、横材13d内部に設けられた水平水路15により、方立12cの内部室外側に設けられた縦樋16に流入する。すなわち水平水路15と縦樋16との間には、水平水路15にある雨水W1が縦樋16内に流入可能なように流路が形成されている。縦樋16は、垂直な方立12cの内部にあるので縦樋16の内部に流入した雨水W1は、縦樋16の内部を急速に下方に流れ落ち、最下部の横材に達する。これ以降の雨水の行方については下記「下部構造」の項において説明する。
【0022】
一方、方立12cの継ぎ目や、方立12c部のシールから侵入した雨水W2は、その侵入個所が縦樋16となるように縦樋16が配置されているので、そのまま縦樋16の内部を無目13dのガラス溝から侵入した雨水W1と合流して、雨水W12(図3参照)となって急速に下方に流れ落ち、最下部の横材に流れ込む。これ以降の雨水の行方についても、下記「(2)下部構造」の項において説明する。
【0023】
図2(B)は、従来の構造の外壁110を、本発明の外壁10と対比するために各部材を外壁10と同様に配置して示すものである。外壁110は、略垂直方向に立設された方立112cと、方立112cに直交して配置された無目(横材)113dとに仕切られるように、4枚のガラスパネルP11?P14が、配置されている。各ガラスパネルP11?P14と、方立112c、無目113dとの間はビード114、114、…によりシールされている。室外側において、雨水が外壁110に吹きつけるような場合であっても、ビード114によるシールが完全であると、外壁110に吹きつけられた雨水は、ガラスパネルP11?P14や、方立112c、無目113dの室外側面に沿って下方へと流れ落ちる。
【0024】
しかし、方立112cの継ぎ目が不完全な場合、ビード114によるシール効果が不完全な場合、あるいはビード114自体が劣化や切断などしてシール材として完全に機能していない場合、方立112c、無目113dの内部に雨水が侵入する。図2(B)は、従来の外壁110において、このような場合の方立112c、無目113dの内部に侵入した雨水の流れ方向を示している。
【0025】
従来の構造では、無目113d内部には侵入した雨水W3を受ける水平溝115が設けられている。方立112cの内部に侵入した雨水W4は、無目113d内の水平溝115に流入するように構成されている。一方、無目113dの室外側には、水平方向のスリット状の溝部111が形成されている。さらに、溝部111の上部板材には孔112が設けられている。この上部板材は上記水平溝115の最低位にある底板を構成している。したがって、方立112cの内部に侵入した雨水W4、及び無目113dの内部に侵入した雨水W3は全てこの孔112を介して外部に排出される。孔112から排出された雨水は水平なスリット状の溝部111の面に沿って下方へと流下し、無目113dの前面下端部から地表へと落下してゆく。あるいは無目113dの下方のガラスパネルP13の室外側面に沿ってさらに下方へと流下して行く。したがって、従来の外壁110をと比較した場合、本発明の外壁10は、
(1)方立や無目内部に侵入した雨水を、各パネルの孔から排出する必要がない。換言すれば、パネル毎に孔を設ける必要がなく加工の手間が省ける。
(2)無目にスリット状の溝部を設ける必要がない。したがって意匠上の制約が少なく、すっきりとした外観を有する外壁をデザインすることが可能となる。
(3)孔から流れ落ちる雨水により無目やガラスパネルにシミ、水垢が生じる虞がない。従来構造では、孔はパネル毎に設けられていたので、視線の集中する部分にも上記シミや水垢が発生して、外壁の見栄えを悪くするという虞があった。
【0026】
(2)下部構造
<1:ボーダー>
本発明において上部構造の部分から方立、無目内に侵入した雨水は方立内部室外側に設けられた縦樋16により下方へと流下され、最下部の横材内部に流入され、該横材に設けられた孔より排出される。本項においては図1における参照符号Bで示される部分の破断構造を拡大して示す図3、および図3をさらに拡大して示す図4を参照しつつ本発明の下部構造における水抜きについて説明する。
【0027】
図3においては、方立12bと、該方立12bに直交方向に組み付けられた無目13h及び無目13hとは平行に前記方立12bに取り付けられた下部横材13iと、これら方立12b、無目13h、及び横材13iを枠として、ビードを介して取り付けられた4枚のガラスパネルP5?P8が表されている。下部横材13iは、外壁10の方立12a?12cの間の巾における最も下方の横材であり、その下面側には、ボーダー30が取り付けられている。
【0028】
また、図4は、視点を室外側下方(図3において矢印Eが視線を示す。)に移して方立12bと下部横材13iとの交点を拡大して示す斜視図である。なお、内部構造を説明する便宜のために、図4において、ボーダー30は、下部横材13iの下面から取りはずされて、横材13iの下方に離隔されて示されている。図4からも明らかなように、横材13iは方立12bにより左右に分断されているのに対し、ボーダー30は、横材13iの全長にわたり1部材として形成されている。したがって、方立、12bの下端部開口12に、ボーダー30の上面が対向する構成となっている。
【0029】
ボーダー30は、図4に示されるように、室外側立面31と、室外側立面31の下端から短い長さで室内側に延設された水平面32と、水平面32の室内側先端からやや上方に傾いて室内側に延在する傾斜面33とを備えている。また水平面32と傾斜面33とが接する線状の部分の下面には横材と平行な方向に突条34が設けられている。さらに水平面32には、貫通孔35が設けられている。
【0030】
図3に戻り説明を続ける。上記したように上部構造において方立や無目の内部に侵入した雨水W12は方立内部の縦樋16に集められて下方に流下されてくる。図3における左上部に楕円系で示される図は、図3において参照符号Dで示されている部分の拡大図である。拡大図におけるX-X線は第一次止水ラインであり、通常の状態でシールの機能が完全な場合にはこのラインより室内側には雨水は侵入しない。シール部材が不完全であって、第一次止水ラインを超えて無目あるいは方立内部に侵入した雨水W12は方立12bの内部に設けられた縦樋16により下方に流下される。
【0031】
縦樋16はD部拡大図から明らかなように左右方向に左室16a、中央室16b、及び右室16cに分割されている。図3に示される例においては、ガラスパネルP5、P7の部分から侵入した雨水W1は、左室16aに流入し、下方へと流下する雨水W12となる。ガラスパネルP6、P8の部分から侵入した雨水W1は、右室16cに流入し、下方へと流下する雨水W12となる。また、方立12b(左右2部材に分割されたものを組み立てている。)の継ぎ目から侵入した雨水は中央室16bに流入し、下方へと流下する雨水W12となる。
【0032】
D部拡大図におけるY-Y線は第二次止水ラインであり、基本的にこれより室内側に雨水が侵入することがないラインである。万が一これを超えて雨水が侵入した場合、あるいは方立12bの内面に結露があるような場合、これらの水分W5は、方立本体内部を流下してゆく。
【0033】
図4に示されるように、方立12bの下部は水平に開口されている。上記雨水W5、W12は方立12bの下部開口12から、ボーダー30上に流れ落ちる。ボーダー30は、室外側が低くなるように傾斜面33が設けられているので、方立12bの下部開口から流れ落ちてきた雨水W5、W12は、いずれもボーダー30の水平面32に集まる。水平面32には貫通孔35が設けられているので、ボーダー内に集められた雨水はこの貫通孔35を通じて外部へと排出される。しかもボーダー30の下面には突条34が下向に形成されているので、貫通孔35より排出された雨水は、ボーダー下面を伝って室内側に流れ寄ることがなく、そのまま下方に落下する。
【0034】
<2:巾木>
本項においては、図1における参照符号Cで示される部分の破断構造を拡大して示す図5、及びその一部をさらに詳しく示す図6を参照しつつ本発明の下部構造における他の一例としての水抜きについて説明する。なお図5、及び図6は室内側斜め上方の視点からの斜視図として示されている。
【0035】
図5は、上記したように図1の参照符号Cで示される部分を拡大して示す斜視図であり、方立12dの両側部に巾木13j、13kが取り付けられている状態が示されている。また図6は、これら方立12d、巾木13kの内部のより良い理解を得るために、方立12dの下部と巾木13jとが取り除かれて示されている。図5に示されているように、巾木13j、13kの室外側上部には通水溝50が設けられ、通水溝を形成する3つの面のうち、室外側に向けられた面には孔50a、50bが設けられている。方立12dの内部に設けられている縦樋16(16a?16c)の下面は開放されており、通水溝50に通じている。したがって、縦樋16を流下してきた雨水W12は、通水溝50に流れ落ちる。
【0036】
一方、方立12d本体の下面も開放されており、その下方には受け皿61、62が設けられている。さらに受け皿61、62からは通水溝150に通じる水路63、64が設けられている。したがって、方立12d内部にて結露として発生した水分、及び第二次止水ラインを超えて侵入してきた雨水W5は、受け皿61、および62、並びに水路63、及び64を介して、通水溝50に流入される。
【0037】
かくして通水溝50に流入された雨水等W12、W5は、孔50a、50bから外部へと排出される。
【0038】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う外壁もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【0039】
【発明の効果】
以上に説明したように、請求項1の発明によれば、最下部以外の横材内部に侵入した雨水は、パネルを取り付けるための溝を伝ってその部分の横材が架け渡された左右のいずれかの方立に流れ込み、方立内部を流下される。一方、方立に直接侵入した雨水はその方立内部を下方に向かって流下される。そして、方立て内部を最下部にある横材の高さまで流下して、最下部横材内に流れ込み、最下部横材に設けられた排出孔より外部に排出される。
【0040】
したがって、パネル毎に排出孔を設ける必要がないので、加工の手間を省略することが可能である。また、排出する雨水を外部へと導く溝を設ける必要がないので、意匠上の制限をなくすとともに、正面方向の外観をすっきりとしたものにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の外壁を備えた建物の正面図である。
【図2】(A)は、図1において参照符号Aで示した部分を破断して示す斜視図、(B)は、従来の構造と本発明の構造を比較するために、従来公知であった外壁の構造を(A)の各部材と同様に配置して示す図である。
【図3】図1における参照符号Bで示される部分を破断して示す拡大図である。
【図4】図3をさらに拡大して示す図である。
【図5】図1における参照符号Cで示される部分の破断構造を拡大して示す図である。
【図6】図5の一部をさらに詳しく示す図である。
【図7】従来の外壁の水抜き構造を可概念的に示す図である。
【符号の説明】
P1?P8 ガラスパネル(パネル)
1 建物
10 外壁(カーテンウオール)
12a?12h 方立(縦材)
13a?13h 無目(横材)
13i 下部横材(横材)
13j 巾木(最下部横材)
14 ビード(シール部材)
30 ボーダー(最下部横材)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2010-03-30 
結審通知日 2010-04-02 
審決日 2010-04-15 
出願番号 特願2003-72757(P2003-72757)
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (E04B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 江成 克己  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 関根 裕
宮崎 恭
登録日 2007-11-22 
登録番号 特許第4044466号(P4044466)
発明の名称 外壁  
代理人 一色国際特許業務法人  
代理人 星野 哲郎  
代理人 星野 哲郎  
復代理人 山田 彰彦  

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