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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200610726 審決 特許
不服20051667 審決 特許
不服20073466 審決 特許
無効2007800236 審決 特許
不服200626455 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1218879
審判番号 不服2008-2356  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-04 
確定日 2010-06-17 
事件の表示 平成9年特許願第501837号「局所適用アンドロゲンまたはTGF-βによるシェーグレン症候群の眼の治療」拒絶査定不服審判事件〔平成8年12月19日国際公開,WO96/40183,平成11年6月29日国内公表,特表平11-507349〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は,平成8年6月4日(パリ条約による優先権主張1995年6月7日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成18年5月8日付け拒絶理由通知書に対して,その指定期間内の同年11月13日付けで手続補正がなされたが,平成19年10月31日付けで拒絶査定がなされ,これに対して平成20年2月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同年3月5日付けで手続補正(以下,「本件補正」という。)がなされたものである。また,平成21年3月9日付けの審尋に対して,同年6月11日付けで回答書が提出されている。

2.平成20年3月5日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成20年3月5日付けの手続補正を却下する。

[理由]

(1)補正後の本願発明

本件補正は,請求項1の記載を次のように補正するものである。
「【請求項1】
乾性角結膜炎(KCS)に罹患している患者の目の治療薬であって,自己免疫疾患による白血球湿潤の症例を軽減させるためのものであり,該治療薬は以下のものを含む:
治療に有効量のTGF-β;および
医薬的に許容できる担体物質,ここで,前記担体物質は,前記患者の目の近傍または眼球表面に前記TGF-βを外部から直接に局所適用するための担体からなり,その適用量は10pg?10mgの範囲にあることを特徴とする。」

この補正は,補正前請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「目の治療薬であり,」を「目の治療薬であって,自己免疫疾患による白血球湿潤の症例を軽減させるためのものであり,」と限定するものと解することができるものであって,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でする補正であり,かつ,平成18年法律第55号附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,単に「旧特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで,本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(旧特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて以下に検討する。

(2)明細書の記載要件

本件補正発明は,医薬についての用途発明であるが,このような医薬用途発明においては,一般に,有効成分の物質名,化学構造だけからその有用性を予測することは困難であり,明細書に有効量,投与方法,製剤化のための事項がある程度記載されている場合であっても,それだけでは当業者が当該医薬が実際にその用途において有用性があるか否かを知ることができないから,明細書に薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をしてその用途の有用性を裏付ける必要があり,それがなされていない発明の詳細な説明の記載は,特許法第36条第4項に規定する要件を満たさないとすべきものである。
そして,明細書における薬理データと同視すべき程度の記載とは,当業者が医薬用途があるとする化学物質がどのような薬効を有しているかを理解し,どのように使用すれば目的とする薬効が得られるかを理解することのできるような記載であり,当業者がこのように明細書の記載を理解するために利用することのできるものは,出願時(優先権主張日当時)の当業者が有する技術常識である。
このような観点を踏まえて,以下,本願明細書の記載を検討する。

(3)検討・判断

本件補正発明は,要するに「適用量10pg?10mgのTGF-βを,患者の目の近傍または眼球表面に外部から直接に局所適用して,自己免疫疾患による白血球湿潤の症例を軽減させ,乾性角結膜炎(KCS)に罹患している患者の目の治療を行う治療薬」に関するものである。
しかしながら,本願明細書には,TGF-βを直接使用して,これを直接目の近傍又は眼球表面に適用するという実験を行い,その結果,「自己免疫疾患による白血球湿潤の症例を軽減させたこと」又は「乾性角結膜炎(KCS)に罹患している患者の目を治療したこと」を確認した旨の記載はなされていない。すなわち,本願補正発明に関する薬理データが直接示されているものではない。
そこで,本願明細書において,薬理データと同視すべき程度の記載がなされているかについて検討する。

明細書には,実施例I?6として,それぞれの各種実験を行い,個別の実験結果に関するデータは提示されていないものの,各々の結果として,以下のことが記載されている。
(ア)「シェーグレン症候群の動物モデルである雌のマウスに対する,テストステロンの全身的投与により,涙腺組織のリンパ球浸潤を劇的に減少させたこと。」(実施例I)
(イ)「別のシェーグレン症候群の動物モデルである雌のマウスに対する,テストステロンの全身的投与により,涙腺のリンパ球浸潤の程度が偽薬処理と比較して約22から46倍抑制されたこと。」(実施例II)
(ウ)「シェーグレン症候群の動物モデルである雌のマウスに対するテストステロンの全身的投与により,T細胞,ヘルパーT細胞,サプレッサー/細胞毒性T細胞,Ia陽性リンパ球およびB細胞の総数の急激な減少を誘発したこと。」(実施例III)
(エ)「シェーグレン症候群の動物モデルである雌のマウスに対するアンドロゲンまたはその同化性類似体の全身的投与により,涙腺で自己免疫発現を抑制し,該涙腺の組織機能を高めること。」(実施例IV)
(オ)「シェーグレン症候群の動物モデルである雌のマウスに対して全身的に投与されたアンドロゲンは,上皮細胞(リンパ球ではなく)を標的細胞とし,さらにこれらの細胞でアンドロゲンレセプター蛋白の発現をアップレギュレートさせること。」(実施例5)
(カ)「アンドロゲンは,TGF-β1mRNAおよび蛋白の涙腺での蓄積を促進すること。」(実施例6)
そして,これらの結果を受けて,
「アンドロゲンによって誘発されるTGF-β1の増加は,リンパ球浸潤を抑制し,涙腺でのIL-1およびTNF-α産生を減弱させるように作用することができるであろう。したがって,これらのホルモン作用は,シェーグレン症候群の際の涙液分泌組織における自己免疫疾患のアンドロゲン関連抑制について機構上の説明を提供するであろう。」(明細書とみなされる平成9年12月8日付け提出の翻訳文第20頁第12?16行)
と記載しているのである。

しかしながら,このような記載では,TGF-βが乾性角結膜炎を抑制させるに至るものであることを確認されたことを示すものではないし,また,外部から目の近傍または眼球表面へ直接局所投与されたTGF-βが,その活性を保持したまま涙腺組織まで到達し,かつ該涙腺組織において所望の作用を生じるかについて確認したものであるとすることもできない。明細書においては,ただ「全身的なアンドロゲン投与により,涙腺でTGF-βが発現し蓄積が促進される」ことを確認したに止まるものである。そして,そのようなことを確認したことが,「TGF-βを外部から目の近傍または眼球表面へ局所投与すれば,乾性角結膜炎を抑制される」ことを意味するものであるとする技術常識があるとものとすることもできない。
したがって,全身的なアンドロゲンの投与により涙腺でのTGF-βの発現の誘発を確認したことに基づいて「?するであろう。」とする,いわば可能性を提示しているに過ぎない記載では,実際に,外部からTGF-βを目の近傍または眼球表面に局所投与することにより,乾性角結膜炎が抑制されることを示しているものとして,当業者が認識し得るに十分な記載であるとすることができない。
このような明細書の記載では,薬理データと同視すべき程度の記載がなされているとすることができず,当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載であるとすることができない。

なお,請求人は,請求の理由(平成20年5月1日付け手続補正書)において「『TGF-βの処置では滴下形態または注射により局所的に投与する。特定の化合物の投与は,緩衝溶液(例えば燐酸緩衝食塩水)または不活性担体化合物を含む医薬的に許容可能な物質の状態で,眼の眼球表面または隣接領域に日常的な方法によって実施されるであろう。投与されるTGF-βの用量(好ましくは10pgから10mg,より好ましくは10ngから10μg)は,製剤および薬剤送達方法にしたがって最適なものが決定され,投与態様は通常の方法によって容易に決定することができる。』と具体的な用量,投与法,製剤法が記載されている」と主張しているが,この分野においては,明細書に有効量,投与方法,製剤化のための事項がある程度記載されている場合であっても,それだけでは当業者が当該医薬が実際にその用途において有用性があるか否かを知ることができないことは,上記したとおりであるから,請求人が主張する明細書の記載をもって,当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものとすることができない。

また,請求人は,平成21年6月11日付け回答書において,請求項1の「白血球湿潤」は「リンパ球浸潤」の誤記である旨,及び,請求の理由(平成20年5月1日付け手続補正書)においても誤記がある旨,申し立てをしているが,その点を考慮したとしても,上記判断は変更されるべきものではない。

よって,本願発明の詳細な説明の記載は,本願補正発明について,当業者が容易にその発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものとすることができないので,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしているとすることができない。

(4)小括
以上のとおりであるから,本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるので,旧特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について

(1)本願発明
平成20年3月5日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,平成18年11月13日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される,以下の通りのものである。
「【請求項1】
乾性角結膜炎(KCS)に罹患している患者の目の治療薬であり,該治療薬は以下のものを含む:
治療に有効量のTGF-β;および
医薬的に許容できる担体物質,ここで,前記担体物質は,前記患者の目の近傍または眼球表面に前記TGF-βを外部から直接に局所適用するための担体からなり,その適用量は10pg?10mgの範囲にあることを特徴とする。
【請求項2】
担体物質がヒアルロン酸からなる請求項1の治療薬。
【請求項3】
担体物質が燐酸緩衝生理的食塩水である請求項1の治療薬。
【請求項4】
前記担体物質が前記患者に点眼薬として服用するのに適した形態である請求項1の治療薬。
【請求項5】
前記担体物質が注射薬(審決注;「昼夜区」は誤記と認める。)として服用するのに適した形態である請求項1の治療薬。」

(2)拒絶査定の理由の概要

原査定の拒絶の理由となった平成18年5月8日付け拒絶理由通知書の理由5は,本出願が特許法第36条第4項の規定を満たしていないというものであって,その概要は以下の通りである。

発明の詳細な説明の実施例には,TGF-βが眼球表面または極めて近傍に局所的に投与した場合に乾性角結膜炎に対する治療効果を有すると把握できる記載がなされておらず,出願時の技術常識を考慮しても,TGF-βが眼球表面または極めて近傍に局所的に投与した場合に乾性角結膜炎に対する治療効果を有するものと認められる程度に発明の詳細な説明が記載されているとはいえないから,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

(3)当審の判断

本願発明の詳細な説明の記載は,上記本件補正によって補正されておらず,また,同明細書の記載から見て,本願発明は本願補正発明をそのまま包含すると解されるので,上記2.に記載した,本願補正発明に対する特許法第36条第4項に規定された要件に関する当審の判断は,そのまま本願発明に対しても適用することができるものである。
したがって,上記2.に記載したと同様な理由により,本願発明の詳細な説明の記載は,本願発明について,当業者が容易に実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとすることができない。

(4)むすび
以上のとおりであるから,本願発明の詳細な説明の記載は,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしているものとすることができない。

よって,結論のとおり審決する。

以上
 
審理終結日 2009-12-28 
結審通知日 2010-01-12 
審決日 2010-01-26 
出願番号 特願平9-501837
審決分類 P 1 8・ 536- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大宅 郁治上條 のぶよ  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 内田 淳子
弘實 謙二
発明の名称 局所適用アンドロゲンまたはTGF-βによるシェーグレン症候群の眼の治療  
代理人 加藤 宗和  
代理人 秋元 輝雄  
復代理人 屋代 順治郎  

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