• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20056282 審決 特許
不服200627219 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07K
管理番号 1221782
審判番号 不服2007-9908  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-06 
確定日 2010-08-13 
事件の表示 特願2001-399585「抗高活性型トランスグルタミナーゼ1抗体の作出方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月18日出願公開、特開2003-201300〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯・本願発明
本願は,平成13年12月28日を出願日とする特許出願であって,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成22年5月27日付手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】トランスグルタミナーゼ1を特異的に認識する抗体を得るための作出方法であって,配列番号1又は配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するペプチドに対する親和性の高い抗体を作出した後,配列番号3及び配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するペプチドに対する親和性が低い抗体を選別することを特徴とする抗高活性型トランスグルタミナーゼ1抗体の作出方法。」

II.特許法第29条第2項について
1.引用例
(1)引用例1
当審による拒絶理由で引用例1として引用された,本願出願日前に頒布された刊行物である,J.Biol.Chem., 1995, Vol.270, No.30, p.18026-18035(以下,「引用例1」という。)には,以下の事項が記載されている。

ア.「表皮角化細胞におけるトランスグルタミナーゼ1酵素の高活性の可溶性処理型」(第18026頁,標題)

イ.「トランスグルタミナーゼ1(TGase1)酵素は,表皮角化細胞における角化膜の形成に必要とされる。我々はここに,その膜固定型に加えて,可溶型も表皮細胞において重要であることを示す。増殖中の細胞は106kDaの可溶型全長酵素を含むが,高分化した細胞は,しばしば33kDaタンパク質との複合体にもなる,可溶性の67kDa型を含む。67kDa型のアミノ末端はTGase1タンパク質の第93残基であり,第XIIIa因子TGaseのタンパク質分解活性化部位に対応する。33kDaタンパク質のアミノ末端は第573残基であり,第XIIIa因子の第2のタンパク質切断部位及びTGase3のタンパク質活性化部位に対応する。67/33-kDaの可溶性複合体の特異的な活性は,可溶性67kDa型の活性の2倍であり,全長TGase1の活性の10倍である。67/33-及び106-kDa型の半減期は,それぞれ約7及び20時間である。このようにTGase1酵素は複雑である,なぜなら,それは表皮細胞において,無傷で又は保存された部位でタンパク質による処理を受けて,複数の可溶型として存在し,それらは異なる特異的活性とおそらく機能をもつからである。」(第18026頁左欄第1?22行)

ウ.「しかしながら,我々は最近,組換えTGase1酵素を細菌で発現させることができ,それが培養表皮細胞から単離された酵素と同等の活性を有することを立証した。さらに,欠失クローニングにより,最初の36-98残基の除去は,特異的活性を大きく増加させると同時に,いくつかの潜在的な角化膜基質に対する反応性とカイネティック効率の変化を生じるが,カルボキシル末端からの240残基までの除去は,活性にほとんど影響しない。このように,より小さな高活性型のTGase1システムが細胞中に存在するかどうかという重要な疑問を生じる。
加えて,467アミノ酸残基からなる切り詰められた組換え型は,全長TGase1の発現された型又は培養細胞からの天然の型の半分の活性を保持しており,TGase1ポリクローナル抗体を作製するために使用された。この抗体は,基底層及び毛包のような表皮派生器官を含む,表皮全体を修飾する。対照的に,広く使用される商業的に入手できるTGase1モノクローナル抗体(B.C1)は表皮の顆粒層のみを修飾する。ウェスタンブロッティング法により,このモノクローナル抗体は約90kDaのバンドを認識し,培養表皮細胞及び表皮組織抽出物中のTGase1酵素の全長のサイズと考えられていたが,それによって認識され免疫沈降される主要なタンパク質は,10-20kDaの分子量を有し,われわれが最近立証した,同じく表皮に発現されるSPR1及びSPR2タンパク質である。しかしながら,我々の新しい抗体は106kDaの主要なバンドを認識し,それは明らかに表皮細胞における本当のTGase1酵素の全長サイズである。この15%のサイズの増加は,92kDaの基本コアタンパク質の合成後修飾のせいかもしれない。106kDaのバンドに加えて,我々の抗体は,TGase1タンパク質の分解のせいか,表皮細胞の他のTGaseタンパク質との交叉反応性のせいかもしれないと,以前にも報告されている,いくつかの他の低分子量のマイナーバンドを認識する。免疫沈降とウェスタンブロット試験を用いることにより,これらの可能性の体系的な解析の過程において,我々は培養表皮角化細胞及び包皮表皮細胞におけるTGase1システムは,今まで記述されてきたより遙かに複雑であるという予期しないことを発見した。」(第18026頁右欄第1行?42行)

エ.「低Ca^(2+)培地中でコンフルエンス後数日間培養すると,そのような条件下で細胞は重大な程度までには分化しておらず,TGase1の免疫沈降可能なタンパク質の多くは,予想どおり,主要な106kDaのバンドであり,同時に約67kDaと33kDaの微量なバンドと,そしてその他の非常に微量な70-95及び45-65kDaの分子種であった(図1A)。」(第18028頁,左欄第18?24行)

オ.「これらの対照は3つの抗体が高度に特異的であることを示した,というのは,我々の以前のデータの裏付けで,それらは微量の交叉反応性しか示さなかったからである。TGase1免疫沈降反応において見られた顕著な67-及び33-kDa分子種及び様々な他の微量な分子種は全長TGase1タンパク質のより小さい型のせいであり,他の表皮TGaseやタンパク質との交叉反応性のせいではないらしい。」(第18029頁左欄第4?11行)
カ.「

図6.TGase1,第XIIIa因子,及びTGase3酵素の配列比較は,TGase1システムにおける保存された切断活性化部位を示す。3つの配列は最大の相同性となるように整列した。;ギャップは比較の配列の欠如を示す。106-,67-及び33-kDaの分子種のアミノ末端で決定された配列はハイライトされている。大きな矢じりは106(第3残基)-,?67(第93残基)-,及び33(第573残基)-kDa型の決定されたアミノ末端を示す。小さい矢じりは微量の?72-及び?65-kDa型のアミノ末端を示す。黒矢印は第XIIIa因子のタンパク分解切断による活性化部位(第37残基)と第XIIIa因子の第2のトロンビン切断部位(第514残基)をマークする。白矢印はTGase3酵素前駆体システムのタンパク分解活性化部位(第472残基)をマークする。」(第18030頁,図6)

引用例1の記載事項ア?カによれば,引用例1には,TGase1を特異的に認識する抗体を得るために,467のアミノ酸残基からなるペプチドに対する親和性の高い抗体を作出する方法が記載され,該方法によって作出された抗体は,低活性型である106kDaのTGase1の他,高活性型である67kDaや,33kDa等のTGase1の切断型を認識するものであること,及びTGase1の全長817アミノ酸残基のうち1-596のアミノ酸配列とその切断部位が記載されている。

(2)引用例2
当審による拒絶理由で引用例2として引用された,本願出願日前に頒布された刊行物である,細胞工学別冊 実験プロトコールシリーズ 抗ペプチド抗体実験プロトコール ペプチド合成からタンパク質機能解析まで,1994年,秀潤社,p.167-180(以下,「引用例2」という。)には,以下の事項が記載されている。

ア.「切断部位特異抗体の作製法」(第167頁,標題)

イ.「タンパク質のアミノ末端あるいはカルボキシル末端が切れてなくなると,それぞれ末端アミノ酸のα位のアミノ基またカルボキシル基が露出し,フリーの状態になる。この切断面の生成が,切れる前のポリペプチド鎖と比べたときの唯一の変化である。末端の+または-の電荷を含むアミノ酸配列を認識する抗体を切断部位特異抗体(cleavage site-directed antibody)という。切断前のポリペプチド鎖や末端の電荷をつぶした場合は当然反応しなくなる。切断部位特異抗体は,ペプチド性ホルモンや抗原のプロセシング,チモーゲンの活性化をはじめとするプロテアーゼによるタンパク質の限定分解を解析するために有用である。この種の抗体を作製するためには,標的とするタンパク質のプロテアーゼによる切断部位が確定しており,切断部位付近のアミノ酸配列が明らかになっていることが必要である。切断部位特異的抗体を得るためには,切断部位を末端とする短いペプチドを合成し,キャリアタンパク質に結合させて免疫する。」(第167頁,第8?25行)
ウ.「切断部位特異的抗体の作製についても,ハプテンとして用いるペプチドの選び方が非常に重要である。しかし,切断部位は確定しているので,ここで選択できるのはどの程度の長さのペプチドを合成すればよいかということだけである。おおざっぱにいって,数残基から10残基程度である。・・・まず,アミノ末端から何残基のペプチドを合成して抗原として用いるかがポイントになる。末端付近のアミノ酸残基で電荷をもっているものに印を付けてみる。4?10残基の間に塩基性あるいは酸性アミノ酸があるときは,それらが途切れることろまでの配列をとる。特に末端に近いところに小さなアミノ酸(グリシンやアラニン)が多い場合は,少し長めの配列にする。カルボキシル末端のアミノ酸は電荷をもっていないものにする。」(第167頁下から4行?第168頁第10行)

オ.「7.4抗体のアッセイ法
ドットブロット法でアッセイするのが最も簡単である。・・・イムノブロッティングで抗体のアッセイをする場合は,限定分解を受けた標的タンパク質を調製し,SDS-PAGEようのサンプルを作る。いずれにせよ最終的には,イムノブロッティングの結果によって目的の抗体が得られたかどうかを判断する。
準備
・切断部位のペプチド;免疫したものと同じペプチド。切断部位と反対側の末端にシステインを入れて合成する。注目する切断部位に相当する。
・切断部位のペプチドのアミノ末端をアセチル化したもの;切断部位がカルボキシル末端の場合はアミドにする。限定分解を受ける前の切断部位付近に相当する。
・関係のないアミノ酸配列のペプチド;ネガティブコントロールとして使う。
・通常のドットブロット法で使用したもの。」(第169頁,第11?25行)

(3)引用例3
当審による拒絶理由で引用例3として引用された,本願出願日前に頒布された刊行物である,実験医学,1997, Vol.15, No.8, p.927-931(以下,「引用例3」という。)には,以下の事項が記載されている。

ア.「クローズアップ実験法 タンパク質の限定分解反応を捕捉する抗ペプチド抗体 抗原の調製,免疫,抗体のアフィニティー精製について」(第927頁,標題)

イ.「原理 抗原ハプテンペプチドの設計
“タンパク質の限定分解反応を捕捉する抗ペプチド抗体”を調製するためには,標的とする基質タンパク質の切断部位に関する情報が必要である。図1に示す分解反応において,新たに生じるフラグメントの末端を含む短いペプチド(5merまたは6mer)にシステイン残基を付加したペプチドを合成し,ハプテンとして用いる。」(第927頁,第16?20行)

ウ.「注意点 筆者の経験では,本稿で示した方法によって分解産物に特異的な抗体を得る成功率は,95%を超える。成功しなかったことが確認された唯一のケースでは,断片の末端アミノ酸残基がすべて典型的疎水性アミノ酸(ロイシン,バリン,フェニルアラニンなど)であった。」(第930頁,下から3?1行)

3.対比・判断
本願発明の配列番号1及び2に記載のアミノ酸配列は,トランスグルタミナーゼ1の94-108番目及び574-585番目のアミノ酸残基にそれぞれ対応する配列であり,発明の詳細な説明の段落【0025】に説明されるように,トランスグルタミナーゼ1が限定分解された場合の切断面を示すペプチドである。
また,本願発明の配列番号3及び4に記載のアミノ酸配列は,トランスグルタミナーゼ1の86-108番目及び565-585番目のアミノ酸残基にそれぞれ対応する配列であって,配列番号1及び2に記載の配列のアミノ末端側にそれぞれ8及び9のアミノ酸残基を延長して付加した配列であり,限定分解による切断面を持たないペプチドである。
そして,配列番号1又は2の配列を持つペプチドに対して高い親和性を示し,配列番号3又は4の配列を持つペプチドに対して親和性の低い抗体を選別すれば,TGase1の94番目のグリシン残基,又は154番目のグリシン残基の切断面に対して特異的に反応する抗体が得られるものである(段落【0028】,【0056】及び【0057】)。
よって,本願発明と引用例1に記載された発明とは,「トランスグルタミナーゼ1を特異的に認識する抗体であって,トランスグルタミナーゼ1の部分ペプチドを用いて,抗高活性型トランスグルタミナーゼ1抗体を作出する方法」に関するものである点で一致し,以下の点で相違する。
相違点1:本願発明は,配列番号1又は配列番号2記載のアミノ酸配列を有するペプチドに対する親和性の高い抗体を作出した後,配列番号3及び配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するペプチドに対する親和性が低い抗体を選別することによって,限定分解の切断面であるアミノ酸配列の94番目又は154番目のアミノ酸を特異的に認識する抗体を作出するものであるのに対し,引用例1には,93番目及び153番目のアミノ酸残基の部位で限定分解が起き,高活性の63kDa型及び33kDa型が生成されることの記載はあるが,これらの限定分解による切断面を特異的に認識する抗体を作出することは記載されていない点。

上記相違点について検討する。
新たなタンパク質やペプチドが同定された際に,それらに対する特異的な抗体を作出して解析を行うことは,周知の技術課題であるし,引用例2及び3に記載されているように,タンパク質の限定分解による切断面を認識する切断部位特異的抗体の作製法も周知技術であるから,引用例1に記載された発明において,67kDa型及び33kDa型のそれぞれの切断部位を特異的に認識する抗体を作出することは,当業者が容易に想到し得たものである。
そして,切断部位特異的抗体を作成する際に,切断部位から数残基から10残基程度のペプチドをハプテンとしてキャリアタンパク質に結合したものを抗原として使用し,抗体を作成すること(引用例2の記載事項ウ),及び得られた抗体について限定分解を受ける前のペプチドに対する親和性が低いことを確認すること(引用例2の記載事項オ)も周知技術である。
したがって,抗体を作成する際のハプテンとして,引用例1の記載事項カに記載されたトランスグルタミナーゼ1のアミノ酸配列及び切断部位の情報を基に,本願発明において特定する配列番号1及び2のアミノ酸配列を有するペプチドを設計し,使用することは,当業者が容易になし得たものである。
また,限定分解を受ける前のペプチドに結合しないことを確認するためのペプチドとして,切断部位よりアミノ末端側のアミノ酸が延長された適度な長さのペプチド,すなわち限定分解を受ける前のTGase1の切断部位近傍のアミノ酸配列を含むペプチドを合成して用いることも,当業者が適宜なし得たものであり,本願発明において特定する,配列番号3及び4に記載されるアミノ酸配列を有する特定の長さのペプチドを,上記確認のためのペプチドとして使用することに格別な技術的意義があるものとも認められない。
そして,本願発明の奏する効果は,引用例1及び上記周知技術から予測し得るものである。

4.請求人の主張について
請求人は平成22年5月27日付意見書において,以下の点を述べ,本願発明の進歩性を主張している。
主張1:本願発明は,「…配列番号1又は配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するペプチドに対する親和性の高い抗体を作出した後,配列番号3及び配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するペプチドに対する親和性が低い抗体を選別する…」ものであり,単純に抗原より抗体を得るものではない。
主張2:審判官は「抗原が実際にできるかどうかはやってみないと解らないものであることは確かである」と認めているのに,『本願の請求項1に係る発明は,引用例1及び2の記載に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである』と判断すること自体が,論旨が一貫しておらず,不当である。
即ち,抗原が実際にできるか否かが解らないことが認められているのであれば,抗体ができるか否かが解らないことも認められることも明白ではある。

上記主張について検討する。
まず,主張1については,引用例2(記載事項オ)にあるように,切断面を示す抗原に親和性の高い抗体を得た後に,切断を受けていないペプチドに親和性が低い抗体を選別することは,周知の切断部位特異的抗体を作成方法において通常行われている工程に過ぎず,本願発明は,まさに上記周知の切断部位特異的抗体の作成方法を踏襲した抗体の作成方法であるから,単純に抗原より抗体を得るだけでないとしても,格別な困難性を有するものではない。
そして,引用例2に記載された限定分解を受ける前の切断部位付近に相当するアミノ末端がアセチル化されたペプチドの代わりに,切断部位よりアミノ末端側のアミノ酸が延長された配列番号3又は4のようなペプチドを用いて選別することが困難であるともいえない。
次に主張2については,請求人が審判請求書において提出した参考資料1(大海忍,辻村邦夫,稲垣昌樹著「抗ペプチド抗体実験プロトコル-ペプチド合成からタンパク質機能解析まで-」,秀潤社,1994年9月発行,p.14?24)に,「タンパク質のどの部分を合成したときでも,必ずしもそのタンパク質を認識する抗体が得られるわけではない.…残念ながら,適当な免疫原を得るための,アミノ酸配列に関する一般的法則はない.したがって,抗体ができそうな箇所をいくつか挙げて,ある程度は試行錯誤を繰り返しながら,使いやすい抗体を作っていくしかないと思われる.(参考資料1第14頁「はじめに」の欄参照)」及び「しかし,これらの抗原ペプチドで抗体が実際にできるかどうかは,やってみないとわらない.(参考資料1第24頁最終行参照)」と記載されているように,「抗体が実際にできるかどうかはやってみないと解らないものである」ことは技術常識である。
このように,どのような抗原であっても,100%確実に抗体を作成できることが保証されているものではないことは明らかであるが,そのような確証がなくても,当業者は,ある程度の試行錯誤を繰り返しながら,抗体の作成を試みるのが通常であり,その結果,抗体が得られることも多いのであるから,抗体が実際にできるかどうかはやってみなければ解らないという技術常識が,抗体の作成を試みることを阻むものではない。
ゆえに,抗体が実際にできるかどうかはやってみなければ解らないものであると認めたからといって,抗体の作成を試みることが困難であるということにはならないし,抗体を得ることが困難であるということにもならないから,本願発明は引用例1及び2の記載に基づき容易に発明をすることができたと判断することに,論旨の矛盾を来すものではない。
そして,引用例3の記載事項エにあるように,切断部位特異抗体作成の成功率が高いことも知られており,さらに,本願発明では,トランスグルタミナーゼ1の限定分解を受けたペプチドに対する抗体を作成するために,周知の切断部位特異的抗体の作成法とは異なる格別な創意工夫を要したというものでもない。
よって,請求人の主張は採用できず,本願発明の進歩性は認められない。

5.小括
したがって,本願の請求項1に係る発明は,引用例1及び2の記載に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。

III.特許法第36条第4項及び第6項第1号について
1.拒絶理由の概要
当審における平成22年3月30日付拒絶理由通知書の理由2)及び3)の概要は,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載しておらず,また,本願発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない,というものである。

2.当審の判断
本願発明は,択一的記載から「配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するペプチドに対する親和性の高い抗体を作出した後に,配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するペプチドに対する親和性が低い抗体を選別することを特徴とする抗高活性型トランスグルタミナーゼ1抗体の作出方法」を一態様として包含するものである。
しかしながら,引用例1及び,本願の出願後に発表されたJ.Invest.Dermatol.,2003, Vol.121, No.3, p.457-464に記載されているように,トランスグルタミナーゼ1の活性を示すペプチドは,94番目のGly残基と573番目のArg残基の間の67kDaのペプチドであり,574番目のGly残基からカルボキシル末端側の33kDaのペプチドは,トランスグルタミナーゼ活性を示さないものである。
そして,上記の配列番号2及び4を使用した態様で作出される抗体は,574番目のGly残基からカルボキシル末端側のペプチドを認識する抗体であるから,活性のない33kDaのペプチドに対する抗体であって,「抗高活性型トランスグルタミナーゼ1抗体」ではない。

請求人は,平成22年5月27日付意見書において,「引用例1の要旨に記載されている通り,・・・さらに67/33kDa複合体の方が,顕著に活性が高いことが記載されています。従って,574番目のGly残基切断面からカルボキシル末端側の33kDaのペプチドは,活性中心は持たないかもしれませんが,高活性型TGase1の構成因子であると考えらます。・・・従って,「配列番号2及び4を使用した態様で作出される抗体」は,574番目のGly残基の切断面を認識するものであり,高活性型TGase1認識抗体として使用する事ができます。よって,この抗体が「抗高活性型トランスグルタミナーゼ1抗体」ではないとのご判断は失当である・・・」と主張している。

しかしながら,本願明細書には,実際に作成された,配列番号2の合成ペプチドに高い親和性を示し,配列番号1,3,4と親和性を示さない抗体として,M13F抗体が記載されているが,このM13F抗体が67/33kDaの複合体を認識することは確認していない。
そして,67kDaのペプチドと33kDaのペプチドが複合体を形成した場合に,574番目のGly残基の切断面が,複合体の立体構造の中でどのような部位に位置するかは不明であるから,その切断面をM13F抗体が認識できるか否かは,実際に確認してみなければ不明である。
したがって,本願の発明の詳細な説明には,配列番号2及び4を使用した態様で作出される抗体が,高活性型の67/33kDaの複合体を認識できることを,当業者が理解することができるように記載されていない。

よって,請求人の主張を採用することはできず,本願の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。また,本願発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない。

IV.まとめ
したがって,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。また,本願は,特許法第36条第4項及び第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから,その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-14 
結審通知日 2010-06-16 
審決日 2010-06-30 
出願番号 特願2001-399585(P2001-399585)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C07K)
P 1 8・ 121- WZ (C07K)
P 1 8・ 537- WZ (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横田 倫子田村 明照  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 鵜飼 健
吉田 佳代子
発明の名称 抗高活性型トランスグルタミナーゼ1抗体の作出方法  
代理人 佐藤 年哉  
代理人 佐藤 正年  
代理人 花村 太  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ