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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A23G
管理番号 1221946
審判番号 無効2009-800153  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-07-14 
確定日 2010-08-23 
事件の表示 上記当事者間の特許第2893529号発明「和風洋生菓子の製造方法とその包装方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
本件特許無効審判被請求人山崎製パン株式会社は,下記1記載の特許の特許権者であり,本件事件の経緯概要は下記2のとおりである。

1.特許第2893529号「和風洋生菓子の製造方法とその包装方法」
特許出願 平成10年 6月 3日
出願番号 特願平10-154253号
優先権主張日 平成10年 2月20日
優先権主張番号 特願平10-56242号
設定登録 平成11年 3月 5日
請求項の数 10

2.平成21年 7月14日 無効審判請求 請求項1-4
(無効2009-800153号)
請求人:高尾野聡巳
平成21年10月 6日 被請求人より答弁書提出
平成21年11月26日 請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成21年12月 2日 被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成21年12月10日 請求人より上申書提出
口頭審理

第2.本件特許発明
本件特許第2893529号の請求項1ないし4に係る発明は,特許明細書および図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】 ほぼ均一な薄厚の餅生地シートを略半球状に窪ませる工程と,略半球状に窪んだ該餅生地シート上の空間に気泡入りクリームを充填する工程と,該気泡入りクリームの中に詰め具材を配置する工程と,該詰め具材が配置された気泡入りクリームに蓋をするようにケーキスポンジを載置する工程と,該餅生地シートの端部を該ケーキスポンジの外表面に折り込むことにより該端部を重ね合わせ,該気泡入りクリームと該詰め具材と該ケーキスポンジとを全体的に包んでなる工程と,該餅生地シートにより包まれた該気泡入りクリームと該詰め具材と該ケーキスポンジとからなる製品の上下を反転する工程,よりなることを特徴とする和風洋生菓子の製造方法。
(以下,「本件特許発明1」という。)
【請求項2】 ほぼ均一な薄厚の餅生地シートを略半球状に窪ませる工程は,略半球状に窪んだ内面を有する雌型を用いて該雌型の内面に沿って該餅生地シートを敷き詰めることにより行ってなることを特徴とする請求項1に記載の和風洋生菓子の製造方法。
(以下,「本件特許発明2」という。)
【請求項3】 略半球状に窪んだ内面を有する雌型の内面に沿ってほぼ均一な薄厚の餅生地シートを敷き詰める工程は,該雌型の内面に該餅生地シートを介してほぼ適合することとなる略半球状に突出した先端部を有する雄型を用い,該先端部に該餅生地シートを配置し,次いで,該餅生地シートの上に該雌型を被せ,その後,該雄型と該雌型とを共に反転してから該雄型だけを除去することにより行ってなることを特徴とする請求項2に記載の和風洋生菓子の製造方法。
(以下,「本件特許発明3」という。)
【請求項4】 略半球状に窪んだ内面を有する雌型の内面に沿ってほぼ均一な薄厚の餅生地シートを敷き詰める工程は,該雌型の窪んだ内面空間に該餅生地シートを配置し,次いで,略半球状に突出した先端部を有する雄型を用い,該先端部により該餅生地シートを該雌型の内面に押し込み,その後,該雄型だけを除去することにより行ってなることを特徴とする請求項2に記載の和風洋生菓子の製造方法。
(以下,「本件特許発明4」という。)」

第3.当事者の主張
1.請求人の主張
これに対して,請求人は,「特許第2893529号の請求項1ないし4にかかる特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め,証拠方法として,以下の甲第1ないし7号証を提出した。そして,本件特許発明1ないし4に対して,「本件発明1ないし4は,刊行物1記載の発明に,前記「容易想到和風洋菓子」を適用することによって当業者が容易に想到することができる方法にすぎず,特許法29条2項に反し,同法123条1項2号に基づき無効とされるべきである。」と主張している。

甲第1号証:特開平7-264966号公報
甲第2号証:平成9年7月12日発行の「週刊現代」(平成9年7月1日国会図書館受け入れ)の「日録20世紀」と題する雑誌記事
甲第3号証:特開昭51-54955公報
甲第4号証:特開昭53-75362公報
甲第5号証:特開平2-69144公報
甲第6号証:平成9年1月10日発行「パン店菓子店」第2集 広告頁
甲第7号証:平成7年7月15日発行「和菓子 技とこつ」第40-41頁,第78-79頁

2.被請求人の主張
一方,被請求人は,証拠方法として乙第1号証を提出し,請求人の提出した証拠方法によっては,本件特許を無効にすることができないと主張している。

乙第1号証:特公昭59-6624号公報

第4.甲号証の記載事項
甲第1ないし7号証には,以下の事項が記載されている。

甲第1号証:
(1-1)「被覆材を包むことができるシート材と,該シート材を展張状態と弛め状態とにするシート材展張装置と,シート材の上に載せられた被覆材に凹所を形成することができる押し型と,前記シート材が緩んだ状態の時にシート材の開口部をすぼめることができるすぼめ部材と,すぼめ部材によりすぼめられたシート材の外側からシート材につつまれた被覆材をにぎることができるにぎり型とを備えていることを特徴とする自動包餡装置。」(請求項1)
(1-2)「被覆材をほぐしながら次工程に供給できるホッパ供給装置と,ホッパ供給装置から供給された被覆材を所定の硬さに押しかためながら被覆材を所定の大きさの塊に切断する被覆材供給装置とを備え,前記所定の大きさの塊に切断された被覆材をシート材に供給できるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の自動包餡装置。」(請求項2)
(1-3)「本発明は,饅頭,おにぎり,アンパン等を成形する場合,中に入れる具(以下餡という)をご飯やパン生地等(以下被覆材という)で自動的に包むことができる自動包餡装置に関するものであり,特に,てんぷらを具としたおにぎり(天むすびという)を自動的に握るのに好適な自動包餡装置に関するものである。」(【0001】)
(1-4)「〔包餡機C〕図1,図4(図1中のX-X矢視図)において,包餡機Cはシート材の表面に食塩水を噴霧できる食塩水噴出ノズル10と,被覆材供給装置から投下された所定の塊の被覆材Eを受けるシート材11と,該シート材にて受けた被覆材に具を入れるための凹所を形成する押し型12と,前記押し型に対向し,かつ,前記シート材11の下方に配置された昇降自在の受け型13と,被覆材を前記シート材11にて包むためのすぼめ部材14と,前記シート材にて包んだ被覆材を所定の型に成形するにぎり型15等を有している。 そして,被覆材供給装置Bから供給された所定の塊の被覆材Eはシート材11にて受け止められた後,前記押し型12および受け型13とによって被覆材Eに具を入れるための凹所が形成され,同凹所に適宜手段(本例では人手による)で具が挿入される。その後,シート材11を緩めて下方に弛ませ,弛んだシート材の上方をすぼめ部材14ですぼめた状態で,前記シート材にてつつまれた被覆材を前記受け型13とにぎり型15とで所定の型に押圧成形する。この時にぎり型を水平方向に約90°ひねり,確りとにぎる。 その後,シート材や型等を初期位置に復帰させて完成したおにぎり等を取り出し,次の準備に備える。」(【0016】)
(1-5)「(ロ)シート材
図5にシート材11の平面図を,また図6にシート材の側面図を示す。シート材11はご飯等を包んでおにぎりにする機能を有している。図5においてシート材11は,図示の如く四角形をした1枚のシート11aと,このシート11aの四隅を引っ張ってシートを張るシート展張装置11bと,前記シート展張装置11bを作動する作動装置(ロータリアクチュエータ)11cとを備えている。前記シート11aは,可撓性および弾力性に富む布,スキン等で構成されている。本実施例では,シート11aの表面にはご飯等が付着しないようテフロン加工などが施してある。そして,該シート11aは所定の塊の被覆材Eが被覆材供給装置Bから落下してきた時に同被覆材を中心部で受け止め保持できるようになっている。」(【0018】)
(1-6)「図において押し型12は,シート11aの上に載っている被覆材Eの中心部に具を入れるための凹所を形成する球形型12aを備えており,該球形型12aは軸12eによって回転自在にアーム12bに保持されている。該アーム12bは流体シリンダ12cによって上下方向に移動可能に構成されており,また,該アーム12bは前記流体シリンダ12cとともに流体シリンダ12dによって図中左右方向に移動可能に支持されている。図8において,前記軸12eの端部には球形型12aを約90度回転させるための回転アーム12fが取り付けられており,この回転アーム12fにはワイヤ12gの端部が連結されている。前記ワイヤ12gは二つのプーリ12h,12iを巻回して端部を流体シリンダ12dのロッド側に連結されている。プーリ12hは,流体シリンダ12d側に取り付けられており,またプーリ12iはアーム12b側に取り付けられている。」(【0021】)

甲第2号証:
(2-1)「アイスクリームはそれまでカップ,バー,コーン,最中の四つの形態のいずれかに分類されていた。そこで,いままでにない変わった食感のアイスを作れないものか,と知恵を絞ったのが,餡の代わりにアイスクリームを入れた雪見だいふくである。」(第3段落)
(2-2)「アイスを包むモチの配合が難しく,冷凍するとこわばって硬くなったり,粘りがなくなってふっくらした感じが損なわれてしまう。」(第5段落)
(2-3)試行錯誤の結果,モチと糖類のバランスをうまく配合させることにより,やわらかい食感の雪見だいふくが実現したのである。」(第6段落)

甲第3号証:
(3-1)「本発明は和洋両菓子の風味を一体とする生菓子の製法に関するもので,搗きたての餅の適量を適宜厚に偏手状とし,その表面に適量の洋菓子用クリームを載置して,餅にてクリーム全体を包覆し,通常の餅菓子の形状とするものである。」(第1頁右欄5?10行)

甲第4号証:
(4-1)「菓子を焼成するに当り,クリーム(1)を充填するための凹部(2)を有する菓子外皮(3)を焼成し,この凹部(2)内にクリーム(1)を充填した後このクリーム(1)の上面を断熱用菓子材(4)で被覆せしめ,次いでこの断熱用菓子外皮(4)の上面を菓子生地(5)で被覆せしめ,この菓子生地(5)を焼成せしめる工程を含むことを特徴とするクリーム内蔵菓子の製造法。」(特許請求の範囲)
(4-2)「ここで充填されるクリーム(1)の量は,好ましくは,第1図(ヘ)で示すようにこのクリーム(1)の上面に被覆される断熱用の,例えば,最中板,ウエハース,板クーヘン,薄肉スポンジケーキ,ビスケット板当の食用に供し得る菓子材(4)の厚み程度だけ菓子外皮(3)の上縁部より低い位置にクリーム(1)の上面がくる程度がよい。」(第2頁左上欄第7-14行)

甲第5号証:
(5-1)「餅生地からなる外皮材と,この外皮材とで被包された餡などの内包材と,さらにこの内包材で被包された生クリームとを有する3層構造であることを特徴とする生クリーム入り大福。」(請求項1)

甲第6号証:
(6-1)「クレープタイプ 薄く伸ばした「ぎゅうひ」をクレープのように正方形にカットしました。」(頁左下の「創作ぎゅうひ」の欄)
(6-2)「Aはクレープタイプ(ピンク)にスポンジとつぶあんをのせて包み,ホイップクリームを絞っていちごをのせ,Bは,クレープタイプ(白)にスポンジとこしあんをのせて包み栗をのせ,共に中央を指でつまんで花びらのように飾りをつけました。」(頁左上の「花びら餅(いちご&栗)」の写真の説明)
(6-3)「雪見抹茶アイス…スライスバナナの上に抹茶アイスをディッシュアップし,クレープタイプ(白)をかぶせ,ホイップクリーム・大納言,金箔で飾りました。」(頁右上の「雪見抹茶アイスとフルーツの盛合わせ」の写真の説明)
(6-4)クレープタイプ(抹茶)にスポンジとつぶあんをのせ,くるみをちらして包み込みました。」(頁中央左の「絹巻ロール」の写真の説明)

甲第7号証:
(7-1)和菓子作りの基本技術として,生地を取り分け,餡を包む作業が,写真と文章によって説明されている。
(7-2)「左手の指先をそろえ,丸く広げた生地をのせる。そのまん中に丸めた餡をのせる。このとき,広げた生地の厚みが均等であることが重要なポイント。また,この段階で生地をあまり薄く大きくのばしてしまわないこと。最初から薄くしてしまうと,包んでいるうちにさらに薄くなり,穴があいてしまう。」(第41頁「餡を包む」1)
(7-3)「左手を少しくぼませて,右手で餡玉を押さえ,生地を餡玉周囲にくっつけるようにする。」(第41頁「餡を包む」2)
(7-4)「右手親指で餡玉を押しこみつつ,左手はさらにくぼませて生地をすっぽり包みこむようにて,生地を上に押し上げる。」(第41頁「餡を包む」3)

第5.対比・判断
1.本件特許発明1について
(1)対比
摘記事項(1-1)ないし(1-6)から,甲第1号証には,「四隅を外方に引っ張って展張したシート材に載置された被覆材を略半球状に窪ませる工程と,略半球状に窪んだ被覆材上の空間に具を入れる工程と,前記シート材を緩めて下方に弛ませ,弛んだシート材の上方をすぼめ部材ですぼめた状態で,前記シート材にてつつまれた被覆材を前記受け型とにぎり型とで所定の型に押圧成形する包餡方法。」が記載されているといえる。
ここで,本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明(以下,「甲号証発明1」という。)とを対比すると,甲号証発明1の「被覆材」及び「具」は,本件特許発明1の「餅生地シート」及び「詰め具材」に,それぞれ相当する。してみると,両者は,「被覆材を略半球状に窪ませる工程と,略半球状に窪んだ被覆材上の空間に具を配置する工程と,具が配置された被覆材を包餡する工程,よりなることを特徴とする菓子の製造方法」である点で一致するものの,
(a)被覆材が,本件特許発明1では,ほぼ均一な薄厚の餅生地シートであるのに対し,甲号証発明1では,被覆材を包むことができるシート材に載置されたご飯やパン生地などの被覆材である点
(b)被覆材が被覆する対象が,本件特許発明1では気泡入りクリームでありこれを充填する工程を有するのに対し,甲号証発明1では,具であり気泡入りクリームを充填する工程がない点
(c)具が配置される対象が,本件特許発明1では充填された気泡入りクリームであるのに対し,甲号証発明1では,被覆材である点
(d)本件特許発明1では気泡入りクリームに蓋をするようにケーキスポンジを載置する工程と,該餅生地シートの端部を該ケーキスポンジの外表面に折り込むことにより該端部を重ね合わせ,該気泡入りクリームと該具と該ケーキスポンジとを全体的に包んでなる工程と,該餅生地シートにより包まれた該気泡入りクリームと該具と該ケーキスポンジとからなる製品の上下を反転する工程を有するのに対し,甲号証発明1ではこれらの工程を有しない点
(e)包餡工程によって得られるものが,本件特許発明1では和風洋生菓子であるのに対し,甲号証発明1では,饅頭,おにぎり,アンパン等の包餡物である点
で相違する。
なお,被請求人は,答弁書において,本件特許発明1と甲号証発明1との一致点について,甲第1号証には「審判請求人が審判請求書において【一致点】と主張して記載する「被覆材を略半球状に窪ませる工程と,略半球状に窪んだ被覆材上の空間に詰め具材を配置する工程と」はいずれも何ら開示されていなければ示唆されてもいない。」と主張している((2)C.1-ii))。その理由として,甲第1号証には「「略半球状に窪ませる」もしくは「略半球状に窪んだ」なる文言の記載」がなく((2)C.1-i)),甲号証発明1は「所定の硬さに押しかためられ所定の大きさの塊に切断された被覆材の上部に,一時的に凹所(穴)を形成する工程を有するものであって(たとえば,公報【0005】第9行目乃至第10行目,同【0016】第11行目乃至第14行目,同【0027】第4行目乃至第6行目,同【0034】第7行目乃至第11行目,等を参照),本件特許のように,ほぼ均一な薄厚の餅生地シートを全体的に略半球状に窪ませる工程を有するものではない」点((2)C.1-ii))を挙げている。確かに「略半球状」との記載はないが,甲第1号証の「押し型12は,シート11aの上に載っている被覆材Eの中心部に具を入れるための凹所を形成する球形型12aを備えており」との記載(【0021】)及び図7を参照すれば,平成21年11月26日付け口頭審理陳述要領書において請求人も主張しているとおり(5.I(5)4)イ),押し型12を用いて被覆材に形成される凹所は略半球状になるものと認められるため,被請求人の主張は採用できない。
また,被請求人は,答弁書において「審判請求人は,本件発明の「ほぼ均一な薄厚の餅生地シート」と,刊行物1に記載された,シート材に載置していないと扱うことができない,ご飯等の「被覆材」とが共通していることを前提としているが,これほど物性の異なる両者を共通するものとする前提自体に無理がある。」とも主張している((2)C.1-ii))。しかし,物性が異なっているとしても,内容物を包み込む「被覆材」であるという点においては,両者は共通しているといえるので,被請求人の主張は採用できない。
そこで,これらの相違点について検討する。

(2)当審の判断
(ア)相違点(a)について
甲号証発明1に「被覆材」として具体的に挙げられているのは,「ご飯やパン生地等」である(摘記事項(1-3))。また,摘記事項(1-2)から,「被覆材」は,ほぐされ,押しかためられ,塊となり,押し型により凹所が形成され,にぎられるような物性のものが想定されていると認められる。そして,甲号証発明1の方法を,前記物性を有さない被覆材にも適用できることは,甲第1号証に記載も示唆もされていない。
よって,甲号証発明1における「被覆材」として,前記物性を有さない「餅生地シート」を採用することは,当業者といえども,容易に想到し得るものではない。

(イ)相違点(b)ないし(e)について
上記(ア)で述べたとおり,「被覆材」は,ほぐされ,押しかためられ,塊となり,押し型により凹所が形成され,にぎられるような物性のものが想定されていると認められる。そのような「被覆材」に包まれる対象として,柔らかい気泡入りクリームを採用できること及び該気泡入りクリームにさらに詰め具材を配置することは,甲第1号証に記載も示唆もされていない。
上述のとおり,「被覆材」として「餅生地シート」を採用することも,「被覆材」に包まれる対象として,柔らかい気泡入りクリームを採用できること及び該気泡入りクリームにさらに詰め具材を配置することも,当業者といえども容易に想到し得るものではないため,さらにケーキスポンジをクリームの上に載置し,該餅生地シートの端部を該ケーキスポンジの外表面に折り込むことにより該端部を重ね合わせ,該気泡入りクリームと該詰め具材と該ケーキスポンジとを全体的に包み,得られた製品の上下を反転することも,当然,容易に想到し得るものではない。
このように,相違点(a)ないし(d)は,当業者といえども容易に想到し得るものではないため,当然,甲号証発明1の包餡工程によって得られる菓子を本件特許発明1に係る和風洋生菓子とすることも,容易に想到し得るものとはならない。
よって,甲号証発明1における「具」として,中に詰め具材が配置された気泡入りクリーム及び該クリームに蓋をするように載置されたケーキスポンジを採用し,和風洋生菓子を製造することは,当業者といえども,容易に想到し得るものではない。

(3)請求人の主張
(ア)「容易想到和風洋菓子」について
請求人は,審判請求書において,甲第2ないし6号証に基づいて,「以上の各証拠から,外皮をほぼ均一な薄厚の餅生地シートとし,内部にホイップクリーム(生クリーム),アイスクリーム,餡その他の内容物を備えるようにして,これを外皮で包み,底面ほぼ円形とする半球状の菓子は,当業者が適宜設計することができる慣用的なものであることがわかる。」(第20頁第1-4行)と述べ,さらに,「つまり,次のような和風洋菓子自体は,本件発明1の出願前において,当業者が適宜想到することができるものにすぎない。「外皮をほぼ均一な薄厚の餅生地シートとし,内部に生クリーム及びいちごなどの詰め具材を備えるとともに底面内部にはケーキスポンジを配するようにし,これを前記外皮で包み,底面をほぼ円形とするほぼ半球状の形状とし,底面で前記餅シートを折りたたんでなる和風洋菓子」(以下,「容易想到和風洋菓子」という)」(第20頁第9-15行)と主張している。
しかし,甲第2ないし6号証の記載である摘記事項(2-1?3),(3-1),(4-1?2),(5-1)及び(6-1?4)からは,餅を外皮として生クリームを包み,底面をほぼ円形とする半球状の菓子を,当業者が適宜想到することができると認められるものの,外皮の餅をほぼ均一な薄厚の餅生地シートとして底面で折りたたむこと,生クリームの内部にいちごなどの詰め具材を備えること及び底面内部にケーキスポンジを配することは,甲第2ないし6号証のいずれにも,記載も示唆もされていない。
餅生地シートを折りたたむことについて,請求人は,同じく審判請求書において,「底面における外皮の処理の方法として,通常は甲第5号証のように半球状側面と同様に全体を一体化することが行われるものと思料されるが,これを単に折りたたむようにすることも,当業者が適宜選択すればよいものである(上方で外皮をつまんで花びらのようにする甲第6号証参照)。」(第20頁第5-8行)と述べているが,摘記事項(6-2?4)のとおり,上方で外皮をつまんで花びらのようにしている菓子はホイップクリームを包み込んだものではないし,抹茶アイスに餅生地シートをかぶせた菓子も餅生地シートを折りたたんで包み込んだものではなく,生クリームを包み込む外皮をほぼ均一な薄厚の餅生地シートとして底面で折りたたむことを示唆しているとはいえない。また,摘記事項(4-1?2)のとおり,甲第4号証にはケーキスポンジを蓋のようにクリームにかぶせることが記載されているが,これによって製造されるのは焼成された菓子であり,この手法を,餅を外皮として生クリームを包み,底面をほぼ円形とする半球状の菓子にも適用できることは,記載も示唆もされていない。そして,平成21年11月26日付け口頭審理陳述要領書においても,これらの点についてさらなる主張はなされていない。
確かに,菓子の製造において,様々な素材を組み合わせてみることは通常行われる慣用的な手段である。しかし,そのことをもって,外皮の餅をほぼ均一な薄厚の餅生地シートとして底面で折りたたみ,生クリームの内部にいちごなどの詰め具材を備え,底面内部にケーキスポンジを配するという具体的な構成が,当業者が適宜想到するものであるとまではいえない。
請求人の主張は,単に「容易想到和風洋菓子」の素材が甲第2ないし6号証に記載されていることをもって,「容易想到和風洋菓子」を当業者が容易に想到し得ると主張するのみであって,それらを組み合わせる動機等に基づく,容易想到性に関する具体的な理由を欠くものである。
よって,「容易想到和風洋菓子」は,本件特許発明1の出願前に,当業者が適宜想到することができたものではない。

(イ)「容易想到和風洋菓子」を甲号証発明1に適用することについて
上記第5.1.(2)(ア)で述べたとおり,前記「容易想到和風洋菓子」は,本件特許発明1の出願前に,当業者が適宜想到することができたものではないが,仮に,前記「容易想到和風洋菓子」が得られるとした場合,これを甲号証発明1に適用することを,当業者が容易に想到することができたかどうかについて,検討する。
請求人は,前記「容易想到和風洋菓子」の製造にあたっては,甲第7号証に示されるような従来の周知・慣用技術である和菓子の製造工程に鑑み,ほぼ均一な薄厚の餅生地シートを手のひらをくぼませてこれに載置することを想到するが,内容物がホイップクリームのように熱により劣化しやすい素材であることを考慮して,甲第1号証のように左手に代替させて内面がほぼ半球状の受け型を採用し,これに前記餅生地シートをのせるという製造方法に至るものであること,及び,包餡機の機能を手作業に置換することは,その効率性等を別にすれば極めて容易であり,甲号証発明1の対象成果物を前記「容易想到和風洋菓子」とした場合に,甲号証発明1と本件特許発明1との相違点となっている手順について,これを手作業に置換することは容易であることを主張している(審判請求書第3 3,平成21年11月26日付け口頭審理陳述要領書5.I(2),(5)2))。
しかし,用いられている素材の性質から,前記「容易想到和風洋菓子」には,手のひらを用いる従来の和菓子製造方法が適していないことが明らかであるとしても,「被覆材」として餅生地シートを用いる前記「容易想到和風洋菓子」の製造に,上記第5.1.(1)(ア)で述べたとおり,ほぐされ,押しかためられ,塊となり,押し型により凹所が形成され,にぎられるような物性の「被覆材」を扱うことが想定されている甲号証発明1を適用することは,当業者といえども容易に想到し得るものではない。そして,甲号証発明1からその受け型の部分のみを選択して,前記「容易想到和風洋菓子」の製造に適用するという請求人の主張は,甲号証発明1の技術思想をふまえておらず,無理があるといえる。

(4)まとめ
したがって,本件特許発明1は,甲第1ないし7号証の記載,並びに,本件出願前の技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2は,本件特許発明1を引用するものであり,本件特許発明3及び4は,本件特許発明1を引用する本件特許発明2を引用するものであって,本件特許発明2ないし4は,いずれも,本件特許発明1を引用してさらに限定したものであり,甲号証発明1と対比すると,少なくとも相違点(a)ないし(e)を有している。
上記第5.1.で述べたとおり,相違点(a)ないし(e)は,当業者といえども,容易に想到し得るものではないから,あらたな相違点について検討するまでもなく,本件特許発明2ないし4は,甲第1ないし7号証の記載,並びに,本件出願前の技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6.むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件特許の請求項1ないし4に係る発明の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2009-12-18 
出願番号 特願平10-154253
審決分類 P 1 123・ 121- Y (A23G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨士 良宏  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 深草 亜子
鵜飼 健
登録日 1999-03-05 
登録番号 特許第2893529号(P2893529)
発明の名称 和風洋生菓子の製造方法とその包装方法  
代理人 辻本 恵太  
代理人 梅村 莞爾  
代理人 林 由希子  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 戸谷 由布子  

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