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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F04C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04C
管理番号 1222518
審判番号 不服2009-18984  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-06 
確定日 2010-08-26 
事件の表示 特願2003-207832「真空ポンプ及びその起動方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月13日出願公開、特開2004-138047〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年8月19日(優先権主張 平成14年8月20日)の出願であって、平成21年7月1日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月6日に拒絶査定不服審判請求がなされると共に、同日付手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

2.本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願の発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「ケーシング内に回転自在に配置された、互いに同期しつつ反対方向に回転する一対のポンプロータを備える容積式真空ポンプにおいて、
前記真空ポンプの起動時に所定のパターンに沿って前記ポンプロータをモータにより回転させるポンプロータ制御部を設け、前記所定のパターンは、前記ポンプロータの正方向への回転動作、前記ポンプロータの逆方向への回転動作、及び前記ポンプロータの停止動作のうちの少なくとも2つの動作の組み合わせを含むことを特徴とする真空ポンプ。」
と補正された。

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ポンプロータを回転させる」態様について「ポンプロータをモータにより回転させる」態様に限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「改正前の特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-73088号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0008】本発明の目的は、大気圧から排気可能な磁気軸受を使用したターボ真空ポンプにおいて、ロータやステータに反応生成物が付着してもポンプの再起動を可能とする。これにより、メンテナンスフリーを実現した大気圧から排気可能なターボ真空ポンプを提供することにある。」

・「【0021】
【発明の実施の形態】以下、本発明のいくつかの実施例を図面を用いて説明する。◆
(第1実施例)図1は本発明に係るターボ真空ポンプの第1実施例のブロック図である。ターボ真空ポンプ1は、ポンプ部2と、磁気軸受部3と、ポンプ部2を駆動するモータ部4と、ロータの位置を検出する位置センサ5を備えている。また、コントローラ20は、磁気軸受の支持状態を制御する磁気軸受制御部21と、モータを駆動するモータ制御部22と、モータに供給する電流値を検出する検出手段23と、電流値が所定値を越えた場合に異常データと見なす判断手段24と、磁気軸受とモータの起動停止を制御する制御コントローラ25を備えている。磁気軸受制御部21は、ターボ真空ポンプ1に設けられた位置センサ5からの変位信号に基づいて、磁気軸受の励磁電流を制御する。ターボ真空ポンプ1が所定の位置に制御されると、モータ制御部22はその旨の信号を発生する。起動停止制御コントローラ25はモータ及び磁気軸受回路の起動/停止を制御する。モータ制御部22は、インバータ付きモータのインバータ出力電圧を制御してモータの回転速度を制御する。異常電流検出手段24はモータ電流検出手段23が検出した電流値を、予め設定した基準電流設定値と比較し、基準設定電流値を越えた場合に起動停止制御コントローラ25に信号を送る。起動停止制御コントローラ25は、異常電流判断手段24から異常発生信号を受けると、モータ制御部22と磁気軸受制御部21に別個に起動停止命令を送る。
【0022】次に、本発明に係るターボ真空ポンプの詳細を図2を用いて説明する。吸気口101と排気口102を備えたハウジング100内に、ロータ103が回転可能に収納されている。・・・ハウジング100の端部に形成した軸受室109に、ラジアル能動磁気軸受106とタッチダウン軸受108はハウジング100の他端部に取り付けた軸受室内110に収納されている。
【0023】軸受室109にはモータ111も収容されており、このモータ111がロータ103を駆動する。」

・「【0029】このように構成した本発明の第1実施例の動作について説明する。◆ポンプを起動すると、位置センサ5から出力された変位信号に基づき磁気軸受制御部21が磁気軸受の励磁電流を制御し、ポンプ部2を所定の位置に磁気浮上させる。その後、磁気軸受制御部21からモータ制御部22に信号が出力され、モータ制御部22の指令によりモータが駆動され、ターボ真空ポンプ1を回転させる。モータ電流検出手段23はモータ電流値を検出する。異常電流判断手段24において検出電流値を基準電流設定値と比較し、異常と判断すると起動停止コントローラ25がモータ制御部22と磁気軸受制御部21に別個に起動停止指令を与える。
【0030】本ターボ真空ポンプをアルミニウムをドライエッチングするドライエッチング装置の排気ポンプに適用すると、気体状態の塩化アルミニウムが排気されるが、ポンプ部2の温度の低い場所に塩化アルミニウムが排気し切れずに付着堆積し易い。ポンプ運転中は、ポンプ部2の圧縮作用によりポンプ部2が高温となり、反応生成物(塩化アルミニウム)が析出しにくい上、ポンプ部2が高速で回転しているので、反応生成物が付着堆積しても絶えずかき落とされる。そのため、反応生成物の付着が問題になることはない。しかし、ポンプを停止したときに、ポンプ部2のロータとステータの間に反応生成物が若干量残っている場合がある。このような状態で、ターボ真空ポンプ1を運転しようとすると、磁気軸受はロータを浮上させるのに十分な力を発生しているのでロータは浮上するが、ロータを駆動するモータのトルクが小さいので、加速が十分できない場合がある。このとき、モータ電流が大きくなり、異常電流判断手段24は異常状態と判断し、起動停止コントローラ25からモータ制御部22に停止命令が発せられる。
【0031】磁気軸受制御部21がロータを浮上させる指令を保持する一方、モータ制御部22から再度モータを駆動する指令を発する。この操作を所定回数行い、反応生成物を若干量づつ徐々に削り取る。その結果、ロータの起動に十分な程度に起動トルクが減少し、ロータが起動、次いで、加速される。なお、モータの回転とロータの浮上を同時に停止してもよい。さらに、図10のフローチャートに示した運転方法を用いてもよい。すなわち、ターボ真空ポンプの運転操作を開始すると、ステップs1でロータが磁気軸受の作用により浮上し、ステップs2でモータが起動される。ステップs3でモータ電流値の異常を判別し、電流値が所定値以上の異常状態のときにステップs4においてモータを停止させる。」

・図2には、単一のロータ103が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「ハウジング100内に回転可能に収納された、単一のロータ103を備えるターボ真空ポンプにおいて、
前記真空ポンプの運転操作の開始時に所定の運転方法を用いて前記ロータ103を駆動するモータ111の起動/停止を制御する起動停止制御コントローラ25を設け、前記所定の運転方法は、前記モータ111を起動してモータ電流値を検出し、異常電流が検出されると該モータ111を停止する操作を所定回数行うことを含む真空ポンプ。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。

まず、後者の「ハウジング100内に回転可能に収納された」態様は前者の「ケーシング内に回転自在に配置された」態様に相当する。

次に、後者の「単一のロータ103」と前者の「互いに同期しつつ反対方向に回転する一対のポンプロータ」とは、「ポンプロータ」との概念で共通し、後者の「ターボ真空ポンプ」と前者の「容積式真空ポンプ」とは、「真空ポンプ」との概念で共通している。

続いて、後者の「運転操作の開始時」は前者の「起動時」に相当している。

そして、後者の「所定の運転方法を用いて」いる態様と前者の「所定のパターンに沿って」いる態様とは、「所定の手順に沿って」いるとの概念で共通している。

また、後者の「ロータ103を駆動するモータ111の起動/停止を制御する起動停止制御コントローラ25」は前者の「ポンプロータをモータにより回転させるポンプロータ制御部」に相当している。

さらに、後者の「所定の運転方法は、モータ111を起動してモータ電流値を検出し、異常電流が検出されると該モータ111を停止する操作を所定回数行うことを含む」態様と前者の「所定のパターンは、ポンプロータの正方向への回転動作、前記ポンプロータの逆方向への回転動作、及び前記ポンプロータの停止動作のうちの少なくとも2つの動作の組み合わせを含む」態様とは、「所定の手順は、ポンプロータの正方向への回転動作、前記ポンプロータの逆方向への回転動作、及び前記ポンプロータの停止動作のうちの少なくとも2つの動作の組み合わせを含む」との概念で共通している。

したがって、両者は、
「ケーシング内に回転自在に配置された、ポンプロータを備える真空ポンプにおいて、
前記真空ポンプの起動時に所定の手順に沿って前記ポンプロータをモータにより回転させるポンプロータ制御部を設け、前記所定の手順は、前記ポンプロータの正方向への回転動作、前記ポンプロータの逆方向への回転動作、及び前記ポンプロータの停止動作のうちの少なくとも2つの動作の組み合わせを含む真空ポンプ。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
「ポンプロータを備える真空ポンプ」に関し、本願補正発明は、「互いに同期しつつ反対方向に回転する一対のポンプロータを備える容積式真空ポンプ」であるのに対し、引用発明は、「単一のポンプロータを備えるターボ真空ポンプ」である点。
[相違点2]
ポンプロータ制御部でポンプロータをモータにより回転させる所定の「手順」に関し、本願補正発明は、「パターン」、即ち、常に一定の操作手順とされているのに対し、引用発明は、起動して異常電流が検出されると停止操作がなされるものの、異常電流が検出されなければ停止操作がなされないため、常に一定の操作手順であるとはいえない点。

(4)判断
上記相違点について以下検討する。

・相違点1について
一般に、互いに同期しつつ反対方向に回転する一対のポンプロータを備える容積式真空ポンプ自体の構成は、例えば、本願明細書の段落【0003】の記載や原審の拒絶査定時に提示された特開平4-203385号公報及び特開昭64-80786号公報等に見られる如く、周知の構成である。
また、引用発明における、「反応生成物が付着してもポンプの再起動を可能とする」(引用例の【0008】参照)という課題は、真空ポンプの種類を問わず、反応生成物が付着する可能性を有するガスを扱うあらゆるタイプの真空ポンプに共通する課題であるといえる。
そうすると、引用発明において、上記課題を解決する範囲内のものとして、真空ポンプの対象を、上記周知の構成の容積式真空ポンプに変更することにより、相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

・相違点2について
引用発明における「運転方法」では、異常電流の検出の有無は反応生成物の付着の有無に対応しているため、反応生成物が付着していて異常電流が検出されれば、起動と停止の操作が繰り返して行われることになるが、そもそも反応生成物が付着していなければ、異常電流が検出されないため、モータの停止操作を行わずに速やかに通常運転に移行するケースも含まれることになる。
このように、引用発明では、反応生成物の付着の有無に応じた、適切できめ細かな制御が可能になっているといえる。
一方、本願補正発明は、「パターン」に沿った制御、即ち、反応生成物の付着の有無に拘わらず、常に一定の操作手順に沿った制御がなされることになり、反応生成物が付着していない場合においても上記一定の操作手順を踏まえることは、時間等の無駄に繋がるだけであり、そのようにすることに何等格別の技術的意義を認めることはできない。そして、各種分野の制御において、特定の場合を検出せず、常に同じ制御を行うこと、即ち、パターン化することは、常套手段にすぎないものであるといえる。
そうすると、引用発明における「運転方法」を、反応生成物の付着の有無に対応させることを無視してモータ電流値の検出を省略し、モータの起動と停止を単に繰り返す一定の操作手順、即ち、常套手段であるパターン化することで、相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が必要に応じて適宜改変し得る設計的事項にすぎないものというべきである。

そして、本願補正発明の全体構成により奏される作用効果も、引用発明、上記周知の構成、及び、上記常套手段から当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明、上記周知の構成、及び、上記常套手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおりであって、本件補正は、改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下を免れない。

3.本願の発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成20年12月18日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「ケーシング内に回転自在に配置された、互いに同期しつつ反対方向に回転する一対のポンプロータを備える容積式真空ポンプにおいて、
前記真空ポンプの起動時に所定のパターンに沿って前記ポンプロータを回転させるポンプロータ制御部を設け、前記所定のパターンは、前記ポンプロータの正方向への回転動作、前記ポンプロータの逆方向への回転動作、及び前記ポンプロータの停止動作のうちの少なくとも2つの動作の組み合わせを含むことを特徴とする真空ポンプ。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.(1)」で検討した本願補正発明から「ポンプロータを回転させる」態様について「ポンプロータをモータにより回転させる」態様への限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(3)及び(4)」に記載したとおり、引用発明、上記周知の構成、及び、上記常套手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、上記周知の構成、及び、上記常套手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、上記周知の構成、及び、上記常套手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため、本願は、同法第49条第2号の規定に該当し、拒絶をされるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-16 
結審通知日 2010-06-22 
審決日 2010-07-13 
出願番号 特願2003-207832(P2003-207832)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F04C)
P 1 8・ 575- Z (F04C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田谷 宗隆  
特許庁審判長 仁木 浩
特許庁審判官 田良島 潔
冨江 耕太郎
発明の名称 真空ポンプ及びその起動方法  
代理人 渡邉 勇  
代理人 廣澤 哲也  
代理人 小杉 良二  

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