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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23H
管理番号 1222677
審判番号 不服2008-32023  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-18 
確定日 2010-08-25 
事件の表示 平成11年特許願第363172号「電解加工方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 7月 3日出願公開、特開2001-179543〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成11年12月21日付けの出願であって、同20年7月24日付けで拒絶の理由が通知されたが、指定期間である60日以内に意見書又は手続補正書の提出がなく、同20年11月18日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し、同20年12月18日付けで本件審判の請求がなされると共に、手続補正書が提出されたものである。


第2.平成20年12月18日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年12月18日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容の概要
本件補正は、明細書について補正をするものであって、補正前後の特許請求の範囲は、以下のとおりである。なお、下線は補正箇所を示すために当審にて付与したものである。

(1)補正前の特許請求の範囲
「 【請求項1】 所定形状に成形した電極と被加工物とを微少間隙を介して対向させ、この間隙に電解液を高速で流しかつ前記電極と被加工物とに直流加工電圧を加えながら電極を被加工物に対して相対的に送り込むことによって加工する電解加工方法において、
前記直流加工電流と通電時間との積算値により求めた電気量を監視し、この電気量に基づいて加工の終了時点を決定することを特徴とする電解加工方法。
【請求項2】 テスト用の被加工物をテスト加工した時の電気量を設定値とし、製品用の被加工物の加工中に求めた電気量が前記設定値に一致した時に加工を終了する請求項1の電解加工方法。
【請求項3】 電気量は加工電流を時間により積分することにより求める請求項1または2の電解加工方法。
【請求項4】 電気量と電極の相対的送り込み量とを監視し、電気量および送り込み量の少なくとも一方が対応する設定値に一致した時に加工を終了する請求項1?4のいずれかの電解加工方法。
【請求項5】 所定形状に成形した電極と被加工物とを微少間隙を介して対向させ、この間隙に電解液を高速で流しかつ前記電極と被加工物とに直流電圧を加えながら電極を被加工物に対して相対的に送り込むことにより加工する電解加工装置において、
前記電極と被加工物との間に流れる電流を検出する電流検出部と、この電流検出器で検出した電流と時間との積を求めこれを電気量とする電気量検出部と、被加工物の適正加工量に対応する電気量を設定値として記憶する電気量設定値記憶部と、前記電気量検出部で求めた電気量が前記電気量の設定値に到達すると加工終了信号を出力する第1の比較部と、スタート信号に基づいて加工を開始し前記加工終了信号に基づいて加工を停止するコントローラとを備えることを特徴とする電解加工装置。
【請求項6】 設定値は、製品用の被加工物と同じテスト用の被加工物を実際に加工してその加工量が適切になる電気量として設定される請求項5の電解加工装置。
【請求項7】 請求項5または6において、さらに電極の相対送り込み量を監視する送り込み量検出部と、被加工物の適正加工量に対応する送り込み量を設定値として記憶する送り込み量設定値記憶部と、前記送り込み量検出部で求めた送り込み量が前記送り込み量の設定値に到達すると加工終了信号を出力する第2の比較部とを備え、コントローラは前記第1および第2の比較部の少なくとも一方が出力する加工終了信号に基づいて加工を停止する電解加工装置。」

(2)補正後の特許請求の範囲
「 【請求項1】 所定形状に成形した電極と被加工物とを微少間隙を介して対向させ、この間隙に電解液を高速で流しかつ前記電極と被加工物とに直流電圧を加えながら電極を被加工物に対して相対的に送り込むことにより加工する電解加工装置において、
前記電極と被加工物との間に流れる電流を検出する電流検出部と、この電流検出器で検出した電流と時間との積を求めこれを電気量とする電気量検出部と、被加工物の適正加工量に対応する電気量を設定値として記憶する電気量設定値記憶部と、前記電気量検出部で求めた電気量が前記電気量の設定値に到達すると加工終了信号を出力する第1の比較部と、スタート信号に基づいて加工を開始し前記加工終了信号に基づいて加工を停止するコントローラとを備え、 前記コントローラは、前記電気量検出部が加工中に逐次求める実際の電気量を表示する電気量表示器と、この電気量表示器に並設され前記電気量設定値記憶部に記憶する電気量の設定値を表示する設定値表示器と、これら電気量表示器および設定値表示器の表示をリセットするリセットボタンと、前記設定値表示器に設定値を設定するためのテンキーと、前記設定値表示器に表示した設定値を前記電気量設定値記憶部に記憶させ前記設定値表示器に表示させる設定値入力ボタンと、を備えることを特徴とする電解加工装置。
【請求項2】 設定値は、製品用の被加工物と同じテスト用の被加工物を実際に加工してその加工量が適切になる電気量として設定される請求項1の電解加工装置。」

2.本件補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1ないし4及び7を削除すると共に、補正前の請求項5に係る発明の「コントローラ」について、「前記コントローラは、前記電気量検出部が加工中に逐次求める実際の電気量を表示する電気量表示器と、この電気量表示器に並設され前記電気量設定値記憶部に記憶する電気量の設定値を表示する設定値表示器と、これら電気量表示器および設定値表示器の表示をリセットするリセットボタンと、前記設定値表示器に設定値を設定するためのテンキーと、前記設定値表示器に表示した設定値を前記電気量設定値記憶部に記憶させ前記設定値表示器に表示させる設定値入力ボタンと、を備える」という事項を付加して限定して補正後の請求項1とし、また、補正前の請求項6を補正後の請求項2に形式的に繰り上げるものであって、請求項の削除及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

(1)本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、以下のとおりのものと認められる。

[本件補正発明]
「【請求項1】 所定形状に成形した電極と被加工物とを微少間隙を介して対向させ、この間隙に電解液を高速で流しかつ前記電極と被加工物とに直流電圧を加えながら電極を被加工物に対して相対的に送り込むことにより加工する電解加工装置において、
前記電極と被加工物との間に流れる電流を検出する電流検出部と、この電流検出部で検出した電流と時間との積を求めこれを電気量とする電気量検出部と、被加工物の適正加工量に対応する電気量を設定値として記憶する電気量設定値記憶部と、前記電気量検出部で求めた電気量が前記電気量の設定値に到達すると加工終了信号を出力する第1の比較部と、スタート信号に基づいて加工を開始し前記加工終了信号に基づいて加工を停止するコントローラとを備え、
前記コントローラは、前記電気量検出部が加工中に逐次求める実際の電気量を表示する電気量表示器と、この電気量表示器に並設され前記電気量設定値記憶部に記憶する電気量の設定値を表示する設定値表示器と、これら電気量表示器および設定値表示器の表示をリセットするリセットボタンと、前記設定値表示器に設定値を設定するためのテンキーと、前記設定値表示器に表示した設定値を前記電気量設定値記憶部に記憶させ前記設定値表示器に表示させる設定値入力ボタンと、を備えることを特徴とする電解加工装置。」

なお、本件補正後の請求項1には「この電流検出器」なる記載があるが、当該記載の前に「電流検出器」は記載されておらず、本件補正後の請求項1の記載内容及び発明の詳細な説明からみて、当該記載は「この電流検出部」の誤記であることは明らかであるから上記のとおり認定した。上記下線部は、その修正箇所を示すために当審にて付与したものである。

(2)引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由には、本件出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である次の刊行物1及び2が引用されている。

[引用刊行物]
刊行物1:特開昭58-210199号公報
刊行物2:特開平10-086020号公報

ア.刊行物1の記載事項
(ア)第2ページ右下欄第11行?第3ページ左上欄第15行
「 以下図面に示す実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
符号10で示すものは被加工物であり、この被加工物に対向して加工電極11が配置されている。この被加工物10と加工電極11間には加工空隙12が設けられ、この空隙には電解液、本実施例ではNaNO_(3)が満たされる。この加工空隙12は加工時補正されるべき容積部分となる。
本発明では給電は電源Gを用いて行なわれる。
本実施例ではこの電源により加工空隙12中に約10?30Vの直流電圧が供給される。また直流電圧の代わりに加工電圧として電気化学的な金属処理の場合よく知られているように高周波の交流電圧を用いることもできる。電源Gの正の端子はリード線13並びに電流測定装置Aを介して被加工物10に接続されており、また電源Gの負の端子はリード線14を介して加工電極11に接続されている。電源Gと並列に電圧測定装置Vが接続される。
また符号15で示すものは抵抗測定器であり、この測定器は加工電極11と被加工物10間の電気抵抗を測定するのに用いられる。測定された抵抗により加工空隙12の容積が求められ、またさらにこれからどれだけ除去が行われるべきかが定まる。・・・」

(イ)第3ページ左下欄第12行?右下欄第14行
「 加工電極11を固定し電解電流を減少させて最終値にもつてゆくような電気化学的な処理に代えて次のような方法を採ることもできる。すなわち加工電極11と被加工物10を所定の位置に定める測定方法において、まず加工電極11と被加工物10間の電気抵抗を加工空隙の必要補正量に対する尺度(Ω)として求め、続く加工プロセスにおいて測定した抵抗に従い電解電流と時間の積分値に基づいて行う方法である。測定装置15を用いて抵抗を測定することにより計算により必要な除去量を求めそれに従い加工空隙の容積を所定の値まで補正することができる。この場合除去は電解電流を一定にしてあるいはそれを可変にして、また加工電極11を固定したりあるいはその移動を制御することによつて行なうことができる。電気化学的な加工、すなわち除去をいつ終了するかは、上述したように計算によつて求められた積の値に従つて決められ、また電流を変化させる場合には電解電流と加工時間の積分の値によつて決められる。好ましい加工条件は加工空隙12を約1?2mmの幅にする場合である。加工電極11の外形形状はたとえばチル鋳型で形成される被加工物10の凹部の形状にほぼ対応して作られる。」

(ウ)第4ページ左上欄第1?6行
「・・・他の方法として加工電極11を除去が進むにつれて被加工物の方向に移動させ電解電流をほぼ同じ大きさに保つことによつて加工処理を短かくすることもできる。しかしこれは電解電流と加工時間の積が抵抗測定と計算により前もつて決められている場合のみ可能である。」

上記摘記事項を、技術常識を勘案しながら本件補正発明に照らして整理すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明]
「所定形状に成形した加工電極と被加工物とを加工空隙を介して対向させ、この加工空隙に電解液を満たしかつ前記加工電極と被加工物とに直流電圧を加えながら加工電極を被加工物の方向に移動させることにより加工する電気化学的加工装置において、
前記加工電極と被加工物との間に流れる電解電流を測定する電流測定装置と、電解電流と加工時間の積分の値が、計算により求められた必要な除去量に対応する値に到達すると加工を終了する電気化学的加工装置。」

イ.刊行物2の記載事項
a.段落【0016】?【0018】
「【0016】さらに、上記軸受素材22には、電解加工用パルス電源24の正極(+極)から延出する接片24aが接続されており、その延出途中部位に、前記電極工具23と軸受素材22との間の通電電流値を検出する電流計25が設けられている。一方、前記電極工具23に対しては、上記電解加工用パルス電源24の負極(-)から延出する接片24bが接続されており、その延出途中部位に、電解加工用パルス電源24のオン・オフを行う通電スイッチ26が設けられている。
【0017】そして、上記電流計25で検出された電極工具23と軸受素材22との間の通電電流値は、加工制御手段を構成する電気量演算手段27に入力されている。この電気量演算手段27は、上記電流計25で検出された電極工具23と軸受素材22との間の通電電流値を積算し、さらにこの積算電流値から総電気量を演算し、目標電解加工量を得るための総電気量と比較して必要な総通電時間を演算する機能を有している。この電気量計測手段27における演算手法については後述する。
【0018】上記電気量演算手段27からは、目標電解加工量を得るための総電気量すなわち総通電時間の設定指令信号が出力されることとなるが、この設定時間指令信号は、同じく加工制御手段を構成する通電制御手段28に受けられている。通電制御手段28には、タイマー28aが設けられており、このタイマー28aによって前述した通電スイッチ26のオン・オフ動作が行われるようになっている。具体的には、所定の通電時間を有するパルスを印加して、そのパルス数をカウントし、当該パルス数の総計が上記電気量演算手段27により設定された総通電時間となった時に、上記タイマー28aによる通電スイッチ26のオフ動作が行われる。」

b.段落【0025】?【0026】
「【0025】そして、まず図3において、加工すべき動圧溝の溝幅(図3縦軸)を得るのに必要な電極工具23の工具幅すなわち電極露出部23aの溝幅(図3横幅)が、設定電圧(V)をパラメータとして算出される。ついで、図4において、上述したようにして得られた工具幅(図4横軸)に対応して、単位時間当たりの加工深さ(図4縦軸)が求められ、目標の加工深さを得るのに必要な加工時間が演算されて目標加工時間、すなわち目標総電気量として設定される。
【0026】一方、この電気量演算手段27では、電極工具23と軸受素材22との間の通電電流値の積算により、電解加工を開始してから現時点の総電気量が常時求められており、この現時点の総電気量が、上述した目標総電気量と比較されることによって加工時間の制御が行われる。・・・」

c.段落【0028】?【0029】
「【0028】このとき、前記電解加工用パルス電源24からの通電電流値は、電流計25で常時検出されており、この電流計25で検出された電極工具23と軸受素材22との間の通電電流値が、加工制御手段を構成する電気量演算手段27に入力される。この電気量演算手段27では、電流計25で検出された電極工具23と軸受素材22との間の通電電流値から加工の開始から現時点までの積算電流値から総電気量が算出され、さらにこの総電気量から、予め求めておいた総電気量と溝加工量との関係データ(図3及び図4参照)に基づいて溝加工に必要な総通電時間が演算される。
【0029】そして、この電気量演算手段27から出力される総通電時間の設定信号により、通電制御手段28に設けられたタイマー28aに総通電時間が設定され、通電スイッチ26は、オン動作後、上記総通電時間経過後にタイマー28aから発せられる切替信号によってオフされる。」

d.段落【0031】
「【0031】また、このような実施形態にかかる装置によれば、総通電時間(加工時間)及び印加電圧の制御が、自動的かつリアルタイムで精度良く行われることとなり、前述した微細電解加工が一層効率的かつ高精度に実行される。すなわち、電解加工用パルス電源24の出力電圧値や、被加工物22と工具電極23との加工間隙(ギャップ)や、電解液30の電導度等が、何らかの原因で予定した値からずれてしまった場合には、電流密度が変化して加工量に誤差を生じることとなるが、上述した実施形態のような制御系を設けておけば、各設定値が常時自動的に略一定に維持され、微細電解加工が極めて良好に行われる。」

上記摘記事項を、技術常識を勘案しながら本件補正発明に照らして整理すると、刊行物2には、次の事項(以下、「刊行物2記載事項」という。)が記載されていると認められる。

[刊行物2記載事項]
「電解加工装置において、電流計で検出した通電電流値を積算しこれを総電気量とする電気量検出部と、目標電解加工量を得るための目標総電気量を設定値として予め求めておき、前記電気量検出部で求めた総電気量が前記目標総電気量の設定値に到達するときに加工を停止する制御系を設けること。」

(3)対比
引用発明と本件補正発明とを対比すると、引用発明の「加工電極」は本件補正発明の「電極」に相当し、以下同様に、「加工空隙」は「微少間隙」に、「加工電極を被加工物の方向に移動させる」は「電極を被加工物に対して相対的に送り込む」に、「電気化学的加工装置」は「電解加工装置」に、「電解電流」は「電流」に、「測定する」は「検出する」に、「電流測定装置」は「電流検出部」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「電解液を満たし」は「電解液を供給し」という限りにおいて本件補正発明の「電解液を高速で流し」と共通する。
また、引用発明の「電解電流と加工時間の積分の値が、計算により求められた必要な除去量に対応する値に到達すると加工を終了する」は「電流と時間との積が、被加工物の適正加工量に対応する設定値に到達すると加工を停止する」という限りにおいて本件補正発明の「この電流検出部で検出した電流と時間との積を求めこれを電気量とする電気量検出部と、被加工物の適正加工量に対応する電気量を設定値として記憶する電気量設定値記憶部と、前記電気量検出部で求めた電気量が前記電気量の設定値に到達すると加工終了信号を出力する第1の比較部と、スタート信号に基づいて加工を開始し前記加工終了信号に基づいて加工を停止するコントローラ」と共通する。
したがって、両者の一致点と相違点は以下のとおりと認められる。

[一致点]
「所定形状に成形した電極と被加工物とを微少間隙を介して対向させ、この間隙に電解液を供給しかつ前記電極と被加工物とに直流電圧を加えながら電極を被加工物に対して相対的に送り込むことにより加工する電解加工装置において、
前記電極と被加工物との間に流れる電流を検出する電流検出部と、電流と時間との積が、被加工物の適正加工量に対応する設定値に到達すると加工を停止する電解加工装置。」である点。

[相違点1]
本件補正発明は、微少間隙に電解液を「高速で流し」ているのに対し、引用発明は、微少間隙に電解液を「満たして」いるものの、高速で流しているか明らかでない点。

[相違点2]
本件補正発明は、「電流と時間との積が、被加工物の適正加工量に対応する設定値に到達すると加工を停止する」ための具体化手段として、「電流検出部で検出した電流と時間との積を求めこれを電気量とする電気量検出部と、被加工物の適正加工量に対応する電気量を設定値として記憶する電気量設定値記憶部と、前記電気量検出部で求めた電気量が前記電気量の設定値に到達すると加工終了信号を出力する第1の比較部と、スタート信号に基づいて加工を開始し前記加工終了信号に基づいて加工を停止するコントローラ」を備えているのに対し、引用発明は、具体化手段が明らかでない点。

[相違点3]
本件補正発明は、コントローラの操作部として「コントローラは、前記電気量検出部が加工中に逐次求める実際の電気量を表示する電気量表示器と、この電気量表示器に並設され前記電気量設定値記憶部に記憶する電気量の設定値を表示する設定値表示器と、これら電気量表示器および設定値表示器の表示をリセットするリセットボタンと、前記設定値表示器に設定値を設定するためのテンキーと、前記設定値表示器に表示した設定値を前記電気量設定値記憶部に記憶させ前記設定値表示器に表示させる設定値入力ボタンと」を備えているのに対し、引用発明は、そのような事項を有しているか明らかでない点。

(4)判断
上記相違点1について検討する。
電解加工の技術分野において、微少間隙に電解液を高速で流すことは、例えば、上記刊行物2の段落【0020】及び特公昭49-40060号公報第2ページ左欄第9?14行記載のごとく、従来周知の技術である。
よって、引用発明において、上記周知技術を採用し、微少間隙に電解液を高速で流すことは、当業者にとって容易である。

上記相違点2について検討する。
刊行物2記載事項の「電流計」は、本件補正発明の「電流検出部」に相当し、以下同様に、「通電電流値を積算し」は「電流と時間の積を求め」に、「総電気量」は「電気量」に、「目標電解加工量を得るための目標総電気量」は「被加工物の適正加工量に対応する電気量」に、「制御系」は「コントローラ」に、それぞれ相当する。
そうすると、刊行物2記載事項は「電解加工装置において、電流検出部で検出した電流と時間の積を求めこれを電気量とする電気量検出部と、被加工物の適正加工量に対応する電気量を設定値として予め求めておき、前記電気量検出部で求めた電気量が前記電気量の設定値に到達するときに加工を停止するコントローラを設けること。」ということができる。
また、加工装置のコントローラが、スタート信号に基づいて加工を開始することも技術常識である。
そして、引用発明と刊行物2記載事項とは、電解加工装置という共通の技術分野に属し、また、電流と時間との積が、被加工物の適正加工量に対応する設定値に到達するときに加工を停止するという共通の機能を有するものであるから、引用発明1において刊行物2記載事項を採用することが、当業者にとって格別困難であったとすることはできない。
また、刊行物2記載事項には、電気量の設定値を予め求めた際にそれを記憶する「電気量設定値記憶部」を設けること及び電気量検出部で求めた電気量と前記電気量の設定値とを比較して加工を停止させるための具体化手段として「電気量検出部で求めた電気量が電気量の設定値に到達すると加工終了信号を出力する第1の比較部」を設けることについて明記がないが、制御装置一般の技術分野において、設定値の記憶部を設けることや、検出値が設定値に到達すると制御終了信号を出力する比較器を設けることは、いずれも例示するまでもなく従来から普通に行われていることであって、上記両事項を設けることは、当業者が必要に応じて適宜選択できる設計的事項にすぎない。

上記相違点3について検討する。
コントローラの技術分野において、操作部として、制御中に逐次検出される実際の値を表示する表示器と、その表示器に並設され設定値を表示する設定値表示器と、前記設定値表示器に設定値を設定するためのテンキーとを設けることは、例えば、特開平1-251582号公報第2ページ左下欄第13?17行及び第1図並びに特開昭61-70601号公報第1ページ右欄第7?12行及び第4図記載のごとく従来周知の技術であり、さらに、入力された設定値を記憶させて表示させるための設定値入力ボタンを設けることは、上記特開昭61-70601号公報に「ENTキー」として記載されているごとく、また、入力された設定値をリセットするリセットボタンを設けることも、例えば、特開昭61-91707号公報に「CLRキー」として記載されているごとく、いずれも従来周知の技術である。
そして、上記相違点2にて検討したとおり、引用発明において、刊行物2記載のコントローラを採用することは当業者にとって容易であるところ、そのコントローラの操作部の構成として上記周知技術を寄せ集め、「電気量検出部が加工中に逐次求める実際の電気量を表示する電気量表示器と、この電気量表示器に並設され前記電気量設定値記憶部に記憶する電気量の設定値を表示する設定値表示器と、これら電気量表示器および設定値表示器の表示をリセットするリセットボタンと、前記設定値表示器に設定値を設定するためのテンキーと、前記設定値表示器に表示した設定値を前記電気量設定値記憶部に記憶させ前記設定値表示器に表示させる設定値入力ボタンと」を設けることは、当業者が格別の創意を要することなく容易になし得た程度のことである。

(5)本件補正発明の効果について
本件補正発明によってもたらされる効果は、刊行物1記載の発明、刊行物2記載事項及び上記周知技術から、当業者であれば予測できる範囲内のものであって、格別顕著なものとはいえない。

(6)まとめ
したがって、本件補正発明は、刊行物1記載の発明、刊行物2記載事項及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(7)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について

1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし7に係る発明は、出願当初の明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項5に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認められる。

[本願発明]
「所定形状に成形した電極と被加工物とを微少間隙を介して対向させ、この間隙に電解液を高速で流しかつ前記電極と被加工物とに直流電圧を加えながら電極を被加工物に対して相対的に送り込むことにより加工する電解加工装置において、
前記電極と被加工物との間に流れる電流を検出する電流検出部と、この電流検出部で検出した電流と時間との積を求めこれを電気量とする電気量検出部と、被加工物の適正加工量に対応する電気量を設定値として記憶する電気量設定値記憶部と、前記電気量検出部で求めた電気量が前記電気量の設定値に到達すると加工終了信号を出力する第1の比較部と、スタート信号に基づいて加工を開始し前記加工終了信号に基づいて加工を停止するコントローラとを備えることを特徴とする電解加工装置。」

なお、本件補正発明の認定において述べたのと同様に、本願の請求項5記載の「この電流検出器」なる記載は、「この電流検出部」の誤記であることは明らかであるから上記のとおり認定した。上記下線部は、その修正箇所を示すために当審にて付与したものである。

2.引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載内容は、上記第2.の2.(2)で示したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記第2.の2.で検討した本件補正発明から、コントローラについて「前記コントローラは、前記電気量検出部が加工中に逐次求める実際の電気量を表示する電気量表示器と、この電気量表示器に並設され前記電気量設定値記憶部に記憶する電気量の設定値を表示する設定値表示器と、これら電気量表示器および設定値表示器の表示をリセットするリセットボタンと、前記設定値表示器に設定値を設定するためのテンキーと、前記設定値表示器に表示した設定値を前記電気量設定値記憶部に記憶させ前記設定値表示器に表示させる設定値入力ボタンと、を備える」という限定を削除したものである。
そうすると、本願発明を特定するすべての事項を含みさらに上記の限定を付加したものに相当する本件補正発明が上記第2.の2.(4)ないし(6)で示したとおり、刊行物1記載の発明、刊行物2記載事項及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-29 
結審通知日 2010-06-30 
審決日 2010-07-13 
出願番号 特願平11-363172
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B23H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 公一山崎 孔徳  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 佐々木 一浩
野村 亨
発明の名称 電解加工方法および装置  
代理人 山田 洋資  
代理人 山田 文雄  

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