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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1224055
審判番号 不服2007-18704  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-05 
確定日 2010-09-21 
事件の表示 特願2002- 86760「積層型圧電素子とその製造方法およびそれを用いた噴射装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月 3日出願公開,特開2003-282984〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由
第1.手続の経緯
本願は,平成14年3月26日の出願であって,平成18年1月26日付けの拒絶理由通知に対して,同年4月3日に手続補正書及び意見書が提出されたが,平成19年5月28日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年7月5日に審判請求がされるとともに,同年7月5日及び同年8月3日に手続補正書が提出され,その後当審において,平成21年12月21日付けで審尋がされ,平成22年2月22日に回答書が提出されたものである。


第2.平成19年7月5日に提出された手続補正書による補正(以下「本件第1補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件第1補正を却下する。

[理由]
1.本件第1補正の内容
本件第1補正は,特許請求の範囲並びに明細書の段落【0007】及び段落【0015】を補正するものであり,特許請求の範囲についての補正事項を整理すると,次のとおりである。
(1)補正事項1-1
補正前の請求項1の「であること」を,補正後の請求項1の「であり,前記複数の内部電極のうちの一部は,中央部が前記柱状積層体の積層方向の端部側に向かって張り出した湾曲形状を有していること」と補正すること。
(2)補正事項1-2
補正前の請求項2?6を削除すること。
(3)補正事項1-3
補正前の請求項7,8をそれぞれ補正後の請求項2,3に繰上げるとともに,補正前の請求項7,8の「請求項1乃至6のいずれかに記載の」を,それぞれ,補正後の請求項2,3の「請求項1に記載の」と補正すること。
(4)補正事項1-4
補正前の請求項9,10を削除すること。
(5)補正事項1-5
補正前の請求項11を補正後の請求項4に繰上げ,補正前の請求項11の「不活性となるセラミックグリーンシートを複数積層し加熱圧着した後,加圧焼成して柱状積層体を作製する工程と,該柱状積層体の側面に,内部電極が一層おきに交互に電気的に接続される一対の外部電極を形成する工程とを具備することにより,」を,補正後の請求項4の「不活性部となるセラミックグリーンシートを複数積層し加熱しながら積層方向の両側から加圧した後,積層方向の両側から加圧しながら焼成して柱状積層体を作製する工程と,該柱状積層体の側面に,内部電極が一層おきに交互に電気的に接続される一対の外部電極を形成する工程とを具備することにより,前記複数の内部電極のうちの一部を,中央部が前記柱状積層体の積層方向の端部側に向かって張り出した湾曲形状とし,」と補正すること。
(6)補正事項1-6
補正前の請求項12を補正後の請求項5に繰上げ,補正前の請求項12の「請求項1乃至10のいずれかに記載の」を,それぞれ,補正後の請求項5の「請求項1?3のいずれかに記載の」と補正すること。

2.補正の目的の適否
(1)補正事項1-1は,補正前の請求項1に記載された「複数の内部電極」について,「前記複数の内部電極のうちの一部は,中央部が前記柱状積層体の積層方向の端部側に向かって張り出した湾曲形状を有している」ことを限定するものであるから,平成14年法律24号改正附則2条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項(以下,単に「特許法17条の2第4項」という。)2号に掲げる特許請求の範囲の減縮に該当する。
(2)補正事項1-2は,特許法17条の2第4項1号に掲げる請求項の削除に該当する。
(3)補正事項1-3は,特許法17条の2第4項4号に掲げる明りょうでない記載の釈明に該当する。
(4)補正事項1-4は,特許法17条の2第4項1号に掲げる請求項の削除に該当する。
(5)補正事項1-5は,補正前の請求項1に記載された「加熱圧着」,「加圧焼成」及び「複数の内部電極」について限定するものであるから,特許法17条の2第4項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮に該当する。
(6)補正事項1-6は,特許法17条の2第4項4号に掲げる明りょうでない記載の釈明に該当する。
(7)したがって,本件第1補正は,特許法17条の2第4項1号,2号及び4号に掲げる事項を目的とするものに該当するから,適法になされたものである。
そこで,次に,本件第1補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が,平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項(以下,単に「特許法17条の2第5項」という。)において準用する特許法126条5項の規定(独立特許要件)を満たすか否かについて検討する。

3.独立特許要件(容易想到性)
(1)本願補正発明
平成19年3月14日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1の記載によれば,本願補正発明は,次のとおりである。

「複数の圧電体と複数の内部電極とを交互に積層してなる活性部,及び該活性部の積層方向の両端部にそれぞれ設けられた不活性部から成る柱状積層体と,該柱状積層体の側面に設けられ,前記内部電極が一層おきに交互に接続される一対の外部電極とを具備してなる積層型圧電素子であって,
前記柱状積層体の一方の端面に平行で,一つの内部電極における前記積層方向の両端にそれぞれ接し,かつ,当該内部電極を横切らない2本の接線を引いたとき,これらの接線の間隔が100μm以下であり,前記複数の内部電極のうちの一部は,中央部が前記柱状積層体の積層方向の端部側に向かって張り出した湾曲形状を有していることを特徴とする積層型圧電素子。」

(2)引用例の記載内容と引用発明
(2-1)引用例の記載
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平9-266332公報(以下「引用例」という。)には,図1?4とともに,次の記載がある。(下線は当審で付加したしたもの,以下同じ。)
ア.図4を参照して,
「【0002】
【従来の技術】圧電材料は,電界によって,ひずみを生ずる。このひずみの方向は,圧電素子内でランダムな方向に向いており,このままでは電界によって起こるひずみが相殺され変位しない。しかし,ある一定以上の電界を加えるとひずむ方向が揃ってくる。これを分極処理という。したがって,圧電素子は,使用前に必ず分極処理が行われる。
【0003】従来,積層型圧電素子は,圧電材料と内部電極とが交互に積層された圧電層部分と,該圧電層部分の上下に配設された内部電極を含まない保護層部分とからなり,圧電層部分の側面に外部電極を形成して内部電極と一層おきに接続し,この外部電極を通して圧電素子の内部電極間に電界をかけ,分極処理を行っている。この分極処理に伴い,圧電素子は電界方向に伸びると共に垂直方向に縮み,鼓状に変形する。
【0004】図4は従来の製造方法により分極処理した圧電素子の概略断面図である。図4において1は内部電極,2は一層おきに内部電極と接続された外部電極,3は圧電材料である。11は圧電材料3と内部電極1が交互に積層された圧電層部分,12は圧電材料のみが積層されている保護層部分である。前記のような従来の積層型圧電素子の分極方法では,外部電極2に電圧をかけ,異なる外部電極2に接続された内部電極1間に高電界が作用するため圧電層部分11は分極されるが,保護層部分12には電界がかからず,分極されない。このため,分極処理された圧電層部分11は電界方向に伸びると共に垂直方向に縮むが,保護層部分12は分極されないため大きさが変わらず図4に示すように圧電素子は鼓状に変形し,保護層部分12と圧電層部分11の境界に応力が発生する。」
イ.「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は,積層型圧電素子の分極工程において,鼓状の変形や内部応力の発生しない,形状寸法精度の優れた積層型圧電素子の製造方法並びに分極方法及びこの方法により得られた積層型圧電素子を提供することを目的とする。」
ウ.「【0011】本発明では,焼成後の大きなブロックの状態で電界を加えると,ブロック全体が分極されるため,保護層部分と圧電層部分が共に同じ変形を起こす。即ち保護層部分も圧電層部分も共に積層方向に伸び,垂直方向に縮む。このため鼓状に変形せず,保護層部分と圧電層部分の境界には内部応力が発生しない。さらに,切断加工が分極後に行われるために,加工精度は分極による変形の影響を受けない。このため,加工精度が低下することはない。」
エ.図1を参照して,
「【0013】
【発明の実施の形態】Pb(Zr,Ti)O_(3)等のセラミックス粉末をサンドミルで粉砕し,バインダー,分散剤,活性剤,消泡剤を加えて混練,真空脱泡した後ドクターブレード法を用いてグリーンシートを作製した。得られたグリーンシートの厚みは100ミクロンであった。このシート上にスクリーン印刷法を用いて内部電極として銀パラジウム合金を印刷した。次に100×100mmの大きさに切断した後,内部電極を印刷したシート130枚を積層して圧電部分を用意した。またこれとは別にグリーンシート20枚を積層しプレス成形して用意した保護層部分を前記圧電部分の上下に配設して,プレスにて圧着し,これを加熱脱脂,焼成し,積層型圧電素子のブロックを得た。
【0014】こうして得られたブロックの上下の保護層部分の表面に分極用の電極を焼き付けた後(または乾燥のみでもよい),2kV/mmの電界をかけて分極処理を行った。その後,このブロックを,切断研磨加工後,外部電極を取り付け,積層型圧電素子とした。図1は本製造方法により分極された積層型圧電素子の概略断面図である。図1において,1は内部電極,3は圧電材料である。11は圧電材料3と内部電極1が交互に積層された圧電層部分,12は圧電材料のみが積層されている保護層部分である。4は分極処理のために前記保護層部分12の表面に設けられた分極処理用の電極である。本製造方法で作成された積層型圧電素子は圧電層部分と保護層部分双方を同時に分極するため,図1(審決注:「図1」は「図4」の誤記である。)のように鼓状に変形しておらず,このため保護層部分12と圧電層部分11の境界で分極処理による応力は発生しない。」
オ.「【0017】本発明の製造方法による圧電素子の加工精度は,高さ±0.01mm,平行度0.01mmで加工された。従来の方法で作成された素子は,高さ±0.01mm,平行度0.01mmで加工されてあったが,その後分極により,高さ+0.00?+0.04mm,平行度0.05mmとなった。」
カ.図2,3を参照して,
「【0018】本発明による素子と,従来の方法によって作成した素子について,保護層部分を接着剤4により板に固定し駆動試験を行った(図2,図3)。素子に電圧を印加し駆動すると,圧電部分が電界によって縦方向に伸び,横方向に縮む。このとき,電界が与えられない保護層部分は伸縮しないため,鼓型に変形する。従来の方法による素子は,もともと分極処理の際に変形して内部応力が溜まっていた上に,さらにこの変位による変形や内部応力が加わるため,保護層部分と圧電層部分の境界でクラックが発生するものがあった(図2)。一方,本発明で得られた素子も駆動により変形するが,分極処理による変形や内部応力がないためクラックの発生はなかった(図3)。」

(2-2)引用発明
ア.上記(2-1)エによれば,引用例には,「図1は本製造方法により分極された積層型圧電素子の概略断面図である。・・・11は圧電材料3と内部電極1が交互に積層された圧電層部分,12は圧電材料のみが積層されている保護層部分である。」及び「保護層部分を前記圧電部分の上下に配設して・・・積層型圧電素子のブロックを得た。」と記載されており,また,図1を参照すると,「圧電材料12」が,「圧電層部分11」における「圧電材料3」及び「内部電極1」が複数積層された方向(積層方向)の上下にそれぞれ配設されていることは明らかであるから,引用例には,複数の圧電材料3と複数の内部電極1が交互に積層された圧電層部分11,及び,圧電層部分11の積層方向の上下にそれぞれ配設された保護層部分12からなるブロックを具備してなる積層型圧電素子が開示されている。
イ.上記(2-1)アによれば,引用例には,「2は一層おきに内部電極と接続された外部電極」と記載され,上記(2-1)エによれば,引用例には,「分極用の電極を焼き付けた後・・・分極処理を行った。その後・・・外部電極を取り付け,積層型圧電素子とした。」と記載され,上記(2-1)カによれば,引用例には,「本発明による素子と,従来の方法によって作成した素子について,・・・駆動試験を行った(図2,図3)」と記載されている。また,図3を参照すれば,「2」で示される一対の「外部電極」が,「ブロック」の側面に設けられていることは明らかである。よって,引用例には,圧電層部分11の側面に設けられ,一層おきに内部電極と接続された一対の外部電極2が開示されている。
ウ.上記(2-1)オによれば,引用例には,「本発明の製造方法による圧電素子の加工精度は,・・・平行度0.01mmで加工された。」と記載されているから,引用例には,平行度0.01mmの加工精度で加工されたことが開示されている。
エ.したがって,引用例には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「複数の圧電材料3と複数の内部電極1が交互に積層された圧電層部分11と,圧電層部分11の積層方向の上下にそれぞれ配設された保護層部分12とからなるブロックと,ブロックの側面に設けられ,一層おきに内部電極1と接続された一対の外部電極2とを具備してなる積層型圧電素子であって,
平行度0.01mmの加工精度で加工された,
積層型圧電素子。」

(3)本願補正発明と引用発明の一致点及び相違点
(3-1)対比
引用発明の「圧電材料3」,「内部電極1」,「圧電層部分11」,「保護層部分12」,「ブロック」,「外部電極2」は,それぞれ,本願補正発明の「圧電体」,「内部電極」,「活性部」,「不活性部」,「柱状積層体」,「外部電極」に相当する。

(3-2)そうすると,本願補正発明と引用発明の一致点及び相違点は,次のとおりとなる。

《一致点》
「複数の圧電体と複数の内部電極とを交互に積層してなる活性部,及び該活性部の積層方向の両端部にそれぞれ設けられた不活性部から成る柱状積層体と,該柱状積層体の側面に設けられ,前記内部電極が一層おきに交互に接続される一対の外部電極とを具備してなる積層型圧電素子。」

《相違点》
《相違点1》
本願補正発明では,「前記柱状積層体の一方の端面に平行で,一つの内部電極における前記積層方向の両端にそれぞれ接し,かつ,当該内部電極を横切らない2本の接線を引いたとき,これらの接線の間隔が100μm以下であ」るのに対し,引用発明では,本願補正発明のような「接線の間隔」について明示しない点。
《相違点2》
本願補正発明では,「前記複数の内部電極のうちの一部は,中央部が前記柱状積層体の積層方向の端部側に向かって張り出した湾曲形状を有している」のに対し,引用発明では,本願補正発明のような「内部電極」に関する「形状」について明示しない点。

(4)相違点についての検討
上記各相違点について,それぞれ検討する。

(4-1)相違点1について
ア.一般に,積層型圧電素子の動作が,圧電材料を挟んで積層された複数の内部電極に対して,交互に異なる電位を与えることにより,その電位差(電界)に応じた変位を圧電材料に生じさせるものであることは,当業者における技術常識である。
イ.そうすると,均一な電界及び変位を与えるためには,各々の内部電極及び圧電材料が可能な限り平行となっているのが望ましく,また,圧電層部分と保護層部分とからなるブロックがグリーンシートの積層により製造されていることを考慮すれば,内部電極及び圧電材料に加えて,ブロックの端面も可能な限り平行となっているのが望ましいことは,明らかである。
ウ.また,上記(2-1)オによれば,引用例には,「本発明の製造方法による圧電素子の加工精度は,高さ±0.01mm,平行度0.01mmで加工された。従来の方法で作成された素子は,高さ±0.01mm,平行度0.01mmで加工されてあったが,その後分極により,高さ+0.00?+0.04mm,平行度0.05mmとなった。」と記載されているように,引用発明は,「平行度0.01mm」となるようにして,従来の「平行度0.05mm」を大幅に改良している。ここで,引用発明の「平行度」が具体的に何を意味するかについては明記されていないものの,上記(2-1)ウの「本発明では・・・鼓状に変形せず・・・加工精度は分極による変形の影響を受けない。」との記載によれば,鼓状の変形が平行度を悪化させているといえるから,少なくとも,内部電極,圧電材料,ブロック端面間の平行度をも想定していることは明らかである。
エ.そして,引用発明は,「平行度」として「0.01mm」(10μm)という値を設定しているのであるから,引用例に明記はされていないものの,ブロックの一方の端面に平行で,一つの内部電極1における積層方向の両端にそれぞれ接し,かつ,当該内部電極1を横切らない2本の接線を引き,これらの接線の間隔を測定した時に,上記「平行度」よりも1桁高い「100μm」を上限とする「100μm以下」を満たすことは,通常予測されることであり,当業者が適宜設定し得る範囲内の値であるといえる。
オ.したがって,引用発明において,相違点1に係る構成である,「前記柱状積層体の一方の端面に平行で,一つの内部電極における前記積層方向の両端にそれぞれ接し,かつ,当該内部電極を横切らない2本の接線を引いたとき,これらの接線の間隔が100μm以下であ」るものとすることは,当業者が適宜なし得たことである。

(4-2)相違点2について
ア.上記(4-1)ア,イで検討したとおり,積層型圧電素子の内部電極を含む各構成要素が可能な限り平行となっているのが望ましいことは,当業者における技術常識であるものの,実際に製造された物において,完全なる平行を実現することは事実上不可能であり,1つの内部電極をとっても,形状の湾曲や平行からのずれ等が多少生じることは,現実的にはやむをえないことである。
イ.そして,本願補正発明のような,「中央部が前記柱状積層体の積層方向の端部側に向かって張り出した湾曲形状」も,通常考えられる形状の湾曲の一種であり,引用発明においても,一部の内部電極1が,ブロックの積層方向の端部側に向かって張り出した湾曲形状となることは,一種の不可避のばらつきとして,十分にあり得ることである。
ウ.請求人は,請求の理由(平成19年8月3日に提出された手続補正書により補正されたもの)の「(1)本願発明の説明」において,
「補正後の本願請求項1に係る発明によれば,積層型圧電素子の変位方向が素子の積層方向から大きくずれないという顕著な効果がある。本願明細書段落番号0005に記載されているように,従来の素子は「内部電極の傾きにより積層型圧電素子の変位方向が積層方向とずれるため,積層型圧電素子の上下面で発生する偏荷重により,クラックが発生するという問題」を有しており,本願請求項1に記載の発明は,この課題を解決するためになされたものである。具体的に説明すると,例えば内部電極が平面的に傾斜している場合には,内部電極の傾斜に起因して素子の変位方向が素子の積層方向に対してずれることになるが,内部電極が「中央部が前記柱状積層体の積層方向の端部側に向かって張り出した湾曲形状」(構成要件c)である場合には,平面的な傾斜と比較して,内部電極が素子の中心軸(積層方向の軸)に対して対称に近い形状となる。これにより,素子の変位方向が素子の積層方向に対して大きくずれることはない。」
と主張するが,内部電極として「中央部が前記柱状積層体の積層方向の端部側に向かって張り出した湾曲形状」を採用することにより,「平面的な傾斜と比較して,内部電極が素子の中心軸(積層方向の軸)に対して対称に近い形状となる。これにより,素子の変位方向が素子の積層方向に対して大きくずれることはない。」という作用効果を奏することは,本願の出願当初の明細書又は図面に記載されておらず,示唆もされていない。
エ.また,請求人は,上記請求の理由の「(2)補正の根拠の明示」において,
「請求項1において,「前記複数の内部電極のうちの一部は,中央部が前記柱状積層体の積層方向の端部側に向かって張り出した湾曲形状を有している」(構成要件c)という要件を加える補正を行った。この補正事項は,本願の図1,2の記載に基づくものである。」
と説明しており,補正の根拠が図面のみであることを示している。
実際,本願の出願当初の発明の詳細な説明において,「前記複数の内部電極のうちの一部は,中央部が前記柱状積層体の積層方向の端部側に向かって張り出した湾曲形状を有している」ことを明示した記載はなく,また,図1,2を説明する記載のうち,関連し得るものとしては,
「そして,本発明では,不活性部9の積層方向側の端面17と内部電極2との平行度が100μm以下であることを特徴としている。ここで,不活性部9の積層方向側の端面17と内部電極2との平行度が100μm以下とは,図1に示すように,ひとつの内部電極2に対して端面17に平行で,かつ内部電極2を横切らない上下の接線18を引き,これらの接線18の間隔Lを平行度とし,これが100μm以下であることを意味する。これにより,駆動時に圧電体1に発生する応力集中を抑制でき,内部電極2端部からのデラミネーションやクラックの発生を防止することが可能となり,高い信頼性を得ることができる。前記平行度は,特に,内部応力の低減の点からは50μm以下が望ましい。更には,耐久性の向上の点から20μm以下が望ましい。」(段落【0024】)
のみであるが,上記記載によれば,「平行度」の定義についての説明しかなされていないから,図1は,内部電極が平面的に傾斜した場合及び内部電極が湾曲形状となった場合という,平行からのずれを示す典型的な2つの例を挙げて,「平行度」の定義を図示したものにすぎないといえる。
オ.よって,本願補正発明の「前記複数の内部電極のうちの一部は,中央部が前記柱状積層体の積層方向の端部側に向かって張り出した湾曲形状を有している」ことに技術的意義はなく,引用発明においても一種の不可避のばらつきとして十分にあり得ることであるから,相違点2は,実質的なものではない。

(5)以上検討したとおり,本願補正発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,独立して特許を受けることができない。

4.したがって,本件第1補正は,特許法17条の2第5項の規定に違反するので,特許法159条1項において読み替えて準用する特許法53条1項の規定により却下すべきものである。


第3.平成19年8月3日に提出された手続補正書による補正(以下「本件第2補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件第2補正を却下する。

[理由]
1.本件第2補正の内容
前記「第2.」のとおり,本件第1補正は却下されたので,本件第2補正は,平成18年4月3日に提出された手続補正書により補正された明細書又は図面に対して,なされた補正である。
そして,本件第2補正は,特許請求の範囲及び明細書の段落【0015】を補正するものであり,特許請求の範囲についての補正事項を整理すると,次のとおりである。
(1)補正事項2-1
補正前の請求項1の「であること」を,補正後の請求項1の「であり,前記複数の内部電極のうちの一部は,中央部が前記柱状積層体の積層方向の端部側に向かって張り出した湾曲形状を有していること」と補正すること。
(2)補正事項2-2
補正前の請求項2?6を削除すること。
(3)補正事項2-3
補正前の請求項7,8をそれぞれ補正後の請求項2,3に繰上げるとともに,補正前の請求項7,8の「請求項1乃至6のいずれかに記載の」を,それぞれ,補正後の請求項2,3の「請求項1に記載の」と補正すること。
(4)補正事項2-4
補正前の請求項9,10を削除すること。
(5)補正事項2-5
補正前の請求項12を補正後の請求項4に繰上げ,補正前の請求項12の「請求項1乃至10のいずれかに記載の」を,それぞれ,補正後の請求項4の「請求項1?3のいずれかに記載の」と補正すること。

2.補正の目的の適否
(1)補正事項2-1は,補正前の請求項1に記載された「複数の内部電極」について,「前記複数の内部電極のうちの一部は,中央部が前記柱状積層体の積層方向の端部側に向かって張り出した湾曲形状を有している」ことを限定するものであるから,特許法17条の2第4項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮に該当する。
(2)補正事項2-2は,特許法17条の2第4項1号に掲げる請求項の削除に該当する。
(3)補正事項2-3は,特許法17条の2第4項4号に掲げる明りょうでない記載の釈明に該当する。
(4)補正事項2-4は,特許法17条の2第4項1号に掲げる請求項の削除に該当する。
(5)補正事項2-5は,特許法17条の2第4項4号に掲げる明りょうでない記載の釈明に該当する。
(6)したがって,本件第2補正は,特許法17条の2第4項1号,2号及び4号に掲げる事項を目的とするものに該当するから,適法になされたものである。
そこで,次に,本件第2補正後の請求項1に係る発明が,平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項(以下,単に「特許法17条の2第5項」という。)において準用する特許法126条5項の規定(独立特許要件)を満たすか否かについて検討する。

3.独立特許要件(容易想到性)
前記「第2.」「1.」の(1)で検討した補正事項1-1と,上記「1.」の(1)で検討した補正事項2-1とは,同じ発明に対して同じ補正を行っているから,本件第2補正後の請求項1に係る発明は,本件第1補正後の請求項1に係る発明と同じ本願補正発明であることは,明らかである。そして,前記「第2.」「3.」で検討したとおり,本願補正発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,独立して特許を受けることができない。

4.したがって,本件第2補正は,特許法17条の2第5項の規定に違反するので,特許法159条1項において読み替えて準用する特許法53条1項の規定により却下すべきものである。


第4.本願発明
1.前記「第2.」及び「第3.」のとおり,本件第1補正及び本件第2補正はいずれも却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成18年4月3日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された,次のとおりのものである。

「複数の圧電体と複数の内部電極とを交互に積層してなる活性部,及び該活性部の積層方向の両端部にそれぞれ設けられた不活性部から成る柱状積層体と,該柱状積層体の側面に設けられ,前記内部電極が一層おきに交互に接続される一対の外部電極とを具備してなる積層型圧電素子であって,
前記柱状積層体の一方の端面に平行で,一つの内部電極における前記積層方向の両端にそれぞれ接し,かつ,当該内部電極を横切らない2本の接線を引いたとき,これらの接線の間隔が100μm以下であることを特徴とする積層型圧電素子。」

2.引用例の記載及び引用発明については,それぞれ,前記「第2.」「3.」の(2-1)及び(2-2)において認定したとおりである。

3.対比・判断
前記「第2.」「2.」で検討したように,本件第1補正後の請求項1の内容(本願補正発明)は,本件第1補正前の請求項1に対して,「複数の内部電極」の具体的な構成を限定するものである。逆に言えば,本件第1補正前の発明(本願発明)は,本願補正発明から,上記の限定をなくしたものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,これをより限定した本願補正発明が,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものなのであるから,本願発明も,同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものである。


第5.結言
以上のとおり,本願発明(本願の請求項1に係る発明)は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。
したがって,本願は,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2010-07-15 
結審通知日 2010-07-20 
審決日 2010-08-03 
出願番号 特願2002-86760(P2002-86760)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北島 健次松田 成正  
特許庁審判長 相田 義明
特許庁審判官 安田 雅彦
小野田 誠
発明の名称 積層型圧電素子とその製造方法およびそれを用いた噴射装置  

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