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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1224233
審判番号 不服2008-19360  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-31 
確定日 2010-09-30 
事件の表示 平成11年特許願第 36226号「試料の表面処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年10月29日出願公開、特開平11-297679〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成11年2月15日(優先権主張平成10年2月13日)の特許出願であって、平成20年2月21日付で拒絶理由が通知され、これに対して同年4月25日付で意見書及び手続補正書を提出したが、同年6月27日付で拒絶査定がなされ、これを不服として、同年7月31日付で審判請求をすると共に、同年8月29日付で手続補正をしたものである。
その後、当審において、平成22年3月25日付けで審査官の前置報告書に基づく審尋がなされ、同年5月28日付けで回答書が提出された。

第2 平成20年8月29日付の手続補正についての補正の却下の決定
1 補正の却下の決定の結論
平成20年8月29日付の手続補正(以下「本件補正」という)を却下する。

2 理由
(1)補正の内容
本件補正は、平成20年4月25日付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-3(以下、それぞれ「補正前の請求項1、2、3」という)
「【請求項1】真空容器と、前記真空容器内にプラズマを発生させるプラズマ発生手段と、前記プラズマにより表面処理される試料を設置する試料台と、前記試料に入射するイオンを加速するための高周波バイアス電圧を印加するための高周波電源とを有するプラズマエッチング装置を用いた試料の表面処理方法において、
前記高周波バイアス電圧の周波数を100KHz?10MHz、周期的にオンオフさせる繰返し周波数を100Hz?10KHz、オンオフのデューティー比を5%?50%とし、前記試料を処理することを特徴とする試料の表面処理方法。
【請求項2】請求項1において、
前記高周波バイアス電圧のオン時のVpp値を500V以上としたことを特徴とする試料の表面処理方法。
【請求項3】請求項1において、
前記プラズマ発生手段が発生するプラズマの電子密度を1×10^(10)個/cm^(-3)以上としたことを特徴とする試料の表面処理方法。」
を、以下のように、

「【請求項1】真空容器と、前記真空容器内にプラズマを発生させるプラズマ発生手段と、前記プラズマにより表面処理される試料を設置する試料台と、前記試料に入射するイオンを加速するための高周波バイアス電圧を印加するための高周波電源とを有するプラズマエッチング装置を用いた試料の表面処理方法において、
前記試料の表面処理方法は、少なくともメインエッチとオーバーエッチを含む複数の処理ステップを有し、前記メインエッチでは、前記高周波バイアス電圧の周波数を100KHz?10MHz、周期的にオンオフさせる繰返し周波数を100Hz?10KHz、オンオフのデューティー比を5%?50%とし、前記オーバーエッチでは、前記高周波バイアス電圧を連続に出力し、電力を前記メインエッチに比べて下げて処理することを特徴とする試料の表面処理方法。
【請求項2】請求項1において、
前記高周波バイアス電圧のオン時のVpp値を500V以上としたことを特徴とする試料の表面処理方法。
【請求項3】請求項1において、
前記プラズマ発生手段が発生するプラズマの電子密度を1×10^(10)個/cm^(-3)以上としたことを特徴とする試料の表面処理方法。」
と補正(以下、それぞれ「補正後の請求項1、2、3」という)しようとする事項を含むものである。(なお、下線部は、補正箇所を示す。)

(2)補正の目的について
ア 本件補正が、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定される補正の要件を満たすか否かを検討する。

イ 本件補正は、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明に該当しないことは明らかであるので、特許法第17条の2第4項第1号、第3号及び第4号の各号には該当しない。

次に特許法第17条の2第4項第2号に規定される「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。) 」に合致するか否かを検討する。

ウ 請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであ
るか否かの検討
本件補正のうち、請求項1についてする補正は、補正前の請求項1に記載された高周波バイアス電圧をオンオフさせて試料の処理を行う工程を「メインエッチ」工程とし、これに加えてさらに「前記高周波バイアス電圧を連続に出力し、電力を前記メインエッチに比べて下げて処理」する「オーバーエッチ」工程を付加しようとする事項を含むものである。
しかしながら、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項には、「オーバーエッチ」工程は何ら記載されていないし、メインエッチ工程とオーバーエッチ工程という複数の工程で処理されることすら記載されていない。
また、当該オーバーエッチ工程は、高周波バイアス電圧をオンオフさせて試料の処理を行う工程とは別の工程であるから、高周波バイアス電圧をオンオフさせて試料の処理を行う工程を概念的により下位にするものとはいえず、さらに、補正前の請求項1に記載された他の発明を特定するために必要な事項を概念的に下位にするものともいえない。

よって、「オーバーエッチ」工程に関する事項を新たに追加することを含む本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではない。

エ 補正前の請求項に記載された発明と補正後の請求項に記載される発明の
解決しようとする課題が同一であるか否かの検討
補正後の請求項1に記載される発明が解決しようとする課題に関連して、本願明細書には以下の記載がある。
(ア)「ステップ2は、加工の主要部分を占める多結晶シリコン503のエッチングで、以後メインエッチと呼ぶ。このステップの形状制御が最重要である・・・サブトレンチのない平坦な底面と垂直な側面が得られる。・・・」(段落【0048】)

(イ)「最後のステップ3では、下地の薄い酸化膜502が露出するため、多結晶シリコンのエッチング速度を低下させても選択比が高い条件に切り替える。・・・メインエッチ終了後の、比較的選択比の高いエッチングをオーバエッチと呼ぶ。・・・選択比を上げることで下地の酸化膜を十分残してかつ多結晶シリコン503のエッチ残りなく加工することができる。」(段落【0049】)

(ウ)「被エッチング物すなわち被加工物である試料の主要部分の加工にオンオフバイアス制御を適用することで、非常に薄い下地に損傷を与えることなく、所望の加工が可能となる。」(段落【0050】)

(エ)「被エッチング物がさらにさまざまな物質の多層構造でも、ステップの数を増して精度の高い、形状異常のない加工ができる。また、どのステップにオンオフバイアス制御を適用するかは素子構造に対応して適宜決めるが、オンオフバイアス制御によりプロセスマージンが広い条件が可能になる。」(段落【0051】)

そして、(エ)の記載について、審判請求人は、平成20年10月9日付で補正された審判請求の理由において、次のように補足している。
(オ)「ここで、「プロセスマージンが広い条件が可能になる」とは、例えば、試料の表面処理を、最初は高速で処理し、下地酸化膜に近づくにつれて低速の処理にするような処理条件を選択する等、プロセス条件の選択、変更の余地が広いことを意味しています。」(平成20年10月9日付手続補正書(方式)第3ページ第26?29行)

上記(ア)?(オ)の記載から、本願の補正後の請求項1に記載される発明は、サブトレンチのない平坦な底面と垂直な側面を得つつ非常に薄い下地に損傷を与えない加工を可能にすること、及びプロセス条件の選択や変更の余地を広めてプロセスマージンが広い条件を可能にすることを解決しようとする課題として有するものといえる。
これに対して、補正前の請求項1に記載された発明は、加工寸法が1μm以下好ましくは0.5μm以下の素子を加工できる試料の表面処理方法を提供すること(段落【0008】)、試料に印加する高周波電圧を繰返しオンオフ制御し、かつ高周波電圧の周波数とその繰返し周波数の組み合わせを工夫することにより、エッチングの異方性を高めると同時に選択比を高くすること(段落【0012】)、垂直な側面と平坦なエッチング底面を得ること、広い部分も狭い部分もエッチ深さを同じとすること(段落【0023】)、サブトレンチを低減すること(段落【0028】)を解決しようとする課題とするものであるといえる。
そうすると、上述した補正後の請求項1に記載される発明の解決しようとする課題である、サブトレンチのない平坦な底面と垂直な側面としつつ非常に薄い下地に損傷を与えない加工を可能にすること、及びプロセス条件の選択や変更の余地を広めてプロセスマージンが広い条件を可能にすることは、補正前の請求項1に記載された発明の解決しようとする課題に新たな課題を追加するものといえる。
そして、補正後の請求項1に記載される発明の解決しようとする課題は補正前の請求項1に記載された発明の解決しようとする課題を概念的に下位にしたものでも、同種のものでもなく、技術的に密接に関連しているとはいえない。
よって、本件補正前の発明と本件補正後の発明が解決しようとする課題は同一ではない。

オ したがって、本件補正は、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではなく、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の解決しようとする課題が同一でもないから、特許法第17条の2第4項第2号に規定された補正の要件を満たさない。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明
平成20年8月29日付手続補正は上記のように却下されたので、本願の請求項1-3に係る発明は、平成20年4月25日付手続補正によって補正された請求項1-3に記載されたとおりのものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という)は、以下のとおりのものである。

「真空容器と、前記真空容器内にプラズマを発生させるプラズマ発生手段と、前記プラズマにより表面処理される試料を設置する試料台と、前記試料に入射するイオンを加速するための高周波バイアス電圧を印加するための高周波電源とを有するプラズマエッチング装置を用いた試料の表面処理方法において、
前記高周波バイアス電圧の周波数を100KHz?10MHz、周期的にオンオフさせる繰返し周波数を100Hz?10KHz、オンオフのデューティー比を5%?50%とし、前記試料を処理することを特徴とする試料の表面処理方法。」

2 刊行物及びその記載事項

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に日本国内において頒布された下記の刊行物には、次の事項が記載されている。

刊行物;特開平8-250479号公報

(刊a)「【請求項1】処理室内の試料台にウェハを載置し、前記処理室を排気手段によって所望の真空度に排気し、前記処理室にガス導入手段によって材料処理ガスを導入し、プラズマ放電手段によって前記導入されたガスをプラズマ化し、該プラズマによりウェハ上に形成された材料を処理する表面処理方法において、処理過程が、主として反応種が表面に吸着する素過程を含む第1の期間A、次いで吸着反応種と材料の反応を促進するべく加速された粒子が表面に照射される素過程を含む第2の期間B、次いで反応生成物が表面から脱離し排気される素過程を含む第3の期間Cとからなり、かつこのA、B、Cの期間からなる処理過程を1[msec]以上1[sec]以下の周期で周期的に行なうことを特徴とする表面処理方法。
・・・
【請求項5】請求項1において、前記排気手段の実効総排気速度を500[liter/sec]以上とし、期間Aおよび期間Bにおいて任意の変調電力でプラズマ放電が行なわれ、期間Bにおいて試料台に任意の変調電力でバイアス電力が印加され、期間Cにおいてはプラズマ放電とバイアス電力の印加が停止されるという期間A、B、Cからなる処理を1[msec]以上1[sec]以下の周期で周期的に行ない、ウェハ上に形成された材料を処理することを特徴とする請求項1に記載の表面処理方法。
・・・
【請求項26】請求項1、2、3、4、5、6、7、8のいずれかに記載のバイアスは、高周波バイアスであることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、7に記載の表面処理方法および請求項6、8に記載の表面処理装置。
・・・」(特許請求の範囲)

(刊b)「本方法は、図2に示すように期間Aおよび期間Bにおいて任意の変調電力でプラズマ放電を行ない、期間Bにおいて試料台に任意の変調電力でバイアスを印加し、期間Cにおいてはプラズマ放電とバイアス電力の印加を停止して材料を処理することである。」(【0067】)
また、図2には、放電電力とバイアス印加電力の時間変調の仕方を表す図が示され、期間Aではプラズマ放電電力が印加されると共にバイアス印加電力が印加されず、期間Bではプラズマ放電電力及びバイアス印加電力が印加され、期間Cではプラズマ放電電力及びバイアス印加電力が印加されないことが読み取れる。

(刊c)「・・・期間Bにおいて、・・・バイアス電力を印加して加速したイオンを表面に入射させれば、・・・」(【0069】)

(刊d)「実施例1
図7は本発明の表面処理装置をマイクロ波プラズマエッチング装置において実施した例である。」(【0093】)

(刊e)「表面に入射する反応種はCl_(2)分子でこれがすべて解離吸着すると仮定し、期間Aの時間aを見積もる。aは表面入射Cl_(2)ガスフラックスすなわちCl_(2)ガス圧力によって決まると近似し、(4)-(7)式を用いると、低ガス圧の下限と考えられる0.1[mTorr]ではaは約21[msec]であり、また、マイクロ波プラズマエッチング装置におけるガス圧力のほぼ上限と考えられる50[mTorr]ではaは約0.04[msec]である。吸着効率が1以下であればこの見積りよりaは長くなる。
次に期間Bの時間bを見積もる。bはイオンエネルギー即ちバイアス電力にも依存するが、ほぼイオン電流密度によって決まると仮定すると、(1)-(3)式から、比較的低密度の0.5[mA/cm2]ではbは約64[msec]であり、大電力で放電を行なった場合のかなり高密度である40[mA/cm2]ではbは約0.8[msec]である。
期間Cの時間cは処理室中の反応生成物の滞在時間に関係する。例えば、低い実効総排気速度100[liter/sec]で比較的大きい容量100[liter]の処理室を排気した場合、(11)式から滞在時間は約285[msec]であり、実効総排気速度1300[liter/sec]で比較的小さい容量50[liter]の処理室を排気した場合、滞在時間は約39[msec]である。」(【0077】?【0079】)

(刊f)「・・・バイアス電源16は交流電源で、本実施例では周波数400kHzのものを用いている。しかし、周波数は特に400kHzに限定されたものではなく、例えば13.56MHzや2MHzあるいは他の周波数のものでもよい。・・・」(【0096】)

(刊g)「・・・放電電力とバイアス電力は図2に示したように同期をとって変調を行なった。この変調方法における期間A、B、Cの各時間a、b、cの設定方法について説明する。・・・」(【0101】)

(刊h)「・・・その結果、aを30[msec]、bを70[msec]、cを400[msec]に設定したときに、エッチング速度が極端に低下することなく。レジストマスクおよび下地酸化膜との選択比は最大となった。この時の周期は500[msec]である。
・・・その結果、aを26[msec]、bを70[msec]、cを254[msec]に設定したときに、エッチング速度が極端に低下することなく。レジストマスクおよび下地酸化膜との選択比は最大となった。この時の周期は350[msec]である。
・・・その結果、aを22[msec]、bを70[msec]、cを158[msec]に設定したときに、エッチング速度が極端に低下することなく。レジストマスクおよび下地酸化膜との選択比は最大となった。この時の周期は250[msec]である。
・・・その結果、aを70[msec]、bを80[msec]、cを850[msec]に設定したときに、エッチング速度が極端に低下することなく。レジストマスクおよび下地酸化膜との選択比は最大となった。この時の周期は1[sec]である。・・・」(【0104】?【0108】)

(刊i)「・・・ガスの滞在時間は約553[msec]である。・・・その結果、aは0.1[msec]、bは0.8[msec]でcが長いほどレジストマスクおよび下地酸化膜との選択比が大きくなった。しかし、この場合滞在時間がaとbに比べて極端に長いため、前述した例のように時間cを3τにしたりするとエッチング時間に対する排気時間の比率が大きくなりすぎてエッチング速度が極端に低下してしまう。この例の場合ではa+bで0.9[msec]であるからc=τとしてもa+b≪cとなってしまう。実際的なエッチング速度を得るためには0.1[msec]から5[msec]の間にcを設定する必要があった。・・・」(【0109】)

3 対比・判断

(1)刊行物に記載された発明
上記記載事項(刊a)?(刊d)を整理すると、刊行物には以下の発明が(以下「刊行物発明」という)が記載されている。

「処理室内の試料台にウェハを載置し、前記処理室を排気手段によって所望の真空度に排気し、前記処理室にガス導入手段によって材料処理ガスを導入し、プラズマ放電手段によって前記導入されたガスをプラズマ化し、該プラズマによりウェハ上に形成された材料を処理するマイクロ波プラズマエッチング装置を用いた表面処理方法において、処理過程が、主として反応種が表面に吸着する素過程を含む第1の期間A、次いで吸着反応種と材料の反応を促進するべく加速された粒子が表面に照射される素過程を含む第2の期間B、次いで反応生成物が表面から脱離し排気される素過程を含む第3の期間Cとからなり、期間Aおよび期間Bにおいて任意の変調電力でプラズマ放電が行なわれると共にバイアス電力の印加が停止され、期間Bにおいて任意の変調電力でプラズマ放電が行なわれると共にバイアス電源により試料台に任意の変調電力で高周波バイアス電力が印加されて加速したイオンが表面に入射され、期間Cにおいてはプラズマ放電と高周波バイアス電力の印加が停止される期間A、B、Cからなる処理を1[msec]以上1[sec]以下の周期で周期的に行なう表面処理方法。」

(2)対比
本願発明1と刊行物発明とを対比する。
ア 刊行物発明における「プラズマ放電手段」、「ウエハ」及び「マイクロ波プラズマエッチング装置」は、本願発明1における「プラズマ発生手段」、「試料」及び「プラズマエッチング装置」にそれぞれ相当する。

イ 刊行物発明における「処理室」は、所望の真空度に排気され、かつ当該処理室内でガスがプラズマ化するものであるから、本願発明1における「真空容器」に相当する。また、刊行物発明において「高周波バイアス電力」が印加されるときに所定の電圧が印加されることは自明であるから、刊行物発明は「高周波バイアス電圧」を印加するものといえる。そして、刊行物発明における「バイアス電源」は試料に高周波バイアス電力を印加するのであるから、本願発明1における「高周波電源」に相当する。

ウ 刊行物発明において「高周波バイアス電力」を印加することは、上述のとおり「高周波バイアス電圧」を印加するものといえ、刊行物発明における高周波バイアス電力は、高周波バイアス電力が所定の周波数とされる限りにおいて、本願発明1における高周波電圧の周波数と一致する。

エ 刊行物発明における期間A、B、Cのうち期間Bは高周波バイアス電力をオンし、期間A、Cは高周波バイアス電力をオフしているから、刊行物発明において期間A、B、Cの動作を周期的に行うことは、本願発明1の高周波バイアス電圧を周期的にオンオフさせる繰返しを行うことに相当し、刊行物発明における期間A、B、Cの周期1[msec]以上1[sec]以下を周波数に換算すると1Hz?1KHzとなる。刊行物発明は高周波バイアス電圧を周期的にオンオフさせる繰返し周波数が所定の値とされる限りにおいて、本願発明1のオンオフさせる繰返し周波数と一致する。

オ 刊行物発明における期間A、B、Cの合計時間に対する期間Bの時間は、本願発明におけるオンオフのデューティー比に相当し、刊行物発明ではオンオフのデューティー比はデューティー比が所定の値とされる限りにおいて、本願発明1のオンオフのデューティー比と一致する。

してみれば、刊行物発明と本願発明1とでは、
「真空容器と、前記真空容器内にプラズマを発生させるプラズマ発生手段と、前記プラズマにより表面処理される試料を接地する試料台と、前記試料に入射するイオンを加速するための高周波バイアス電源を印加するための高周波電源とを有するプラズマエッチング装置を用いた試料の表面処理方法において、
前記高周波バイアス電圧の周波数を所定の周波数とし、周期的にオンオフさせる繰返し周波数を所定の周波数とし、オンオフのデューティー比として所定の値とし、前記試料を処理する試料の方面処理方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)本願発明1では、高周波バイアス電圧の周波数を100KHz?10MHzとしているのに対し、刊行物発明では、高周波バイアス電圧の好ましい周波数範囲が特定されていない点。

(相違点2)本願発明1では、周期的にオンオフさせる繰返し周波数を100Hz?10KHzとしているのに対し、刊行物発明では、繰返し周波数を1Hz?1KHzとしている点。

(相違点3)本願発明1では、オンオフのデューティー比を5%?50%としているのに対し、刊行物発明では、オンオフのデューティー比の好ましい数値が特定されていない点。

(3)判断
上記相違点について検討する。

ア 相違点1について
刊行物発明では、高周波バイアス電圧の好ましい周波数範囲を特定していないが、刊行物の記載事項(刊f)に、実施例では周波数400KHzを用いること、また、400KHz以外にも2MHzや他の周波数でも良いことが記載されている。刊行物発明に接した当業者が、発生するイオンの種類や、プラズマの密度、要求される加工精度や加工速度等を勘案して適切なイオンエネルギーが得られるよう高周波バイアス電圧の周波数を選択することは適宜行うことであるし、上述のように高周波バイアス電圧の周波数として400KHz又は2MHzとする例が記載されていることにも鑑み、高周波バイアス電圧の周波数を100KHz?10MHzとすることは当業者が適宜なし得たことである。

なお、本願発明1における高周波バイアス電圧の数値範囲の臨界的意義について、本願明細書の段落【0030】には、「rfバイアスを100KHz以上にすることにより、中間領域エネルギーのイオンを低減できるので、異方性の高いエッチングが可能になる。」と記載されているが、本願の請求項1の記載では、試料の形状等について何ら特定されておらず、本願発明1は、平らな試料の表面を一様にエッチングするなど異方性の高いエッチングが行われない試料の表面処理も含まれるものであるから、必ずしも異方性が高い加工が可能になるという作用効果を奏するとはいえない。
また、本願明細書の段落【0019】には「rfバイアスの周波数が高くなると、イオンの動きがrfバイアスの変動に追随できなくなるために、イオンのエネルギーは次第にrfバイアス印加時に発生する電圧の直流成分Vdcの値に収束する。その間に過渡的な状態があり、周波数約100KHzから数MHzの間は、イオンのエネルギーは、図4の100KHzの線図に示すように、rfバイアスの振幅Vppに相当する高エネルギーのピーク401と低エネルギーのピーク402を持つ鞍形の分布を持つ。」との記載があり、これは周波数が高くなると次第にイオンのエネルギーはVdcに収束するが、周波数約100KHzから数MHzの間が過渡期であり、この過渡期において高エネルギーのピークと低エネルギーのピークを持つ鞍形の分布となることを説明していると解される。ところが、本願明細書の段落【0040】では「高周波の周波数が上がって、電圧の変化にイオンの動きがついて行かなくなると、Emaxは次第にVdcに近づく。周波数が15MHz以上から数十MHzの間は過渡期となる」と記載され、ここでは周波数15MHz以上から数十MHzを過渡期としており、上述の約100KHzから数MHzと一致しておらず、エネルギーが鞍形のピークを持つ周波数範囲がいずれであるのか不明である。さらに、本願明細書の段落【0068】には「試料に印加するバイアス電源の周波数は100KHzから100MHzの間がよい。」と記載され、上限値が10MHzであるのか100MHzであるのかも不明である。
よって、本願発明1における100KHz?10MHzとの数値範囲に、臨界的意義があるということはできない。

イ 相違点2について
刊行物発明では、オンオフの繰返し周波数を1Hz?1KHzとしているが、刊行物の記載事項(刊i)によれば、期間A、B、Cの時間a、b、cを、a=0.1msec、b=0.8msec、c=0.1?5msecとすることが記載されており、期間A、B、Cの合計は1.0?5.9msecであって、換算するとオンオフの繰返し周波数は約169Hz?1KHzとなる例が、記載事項(刊h)には、オンオフの繰返し周期を250msec、すなわちオンオフの繰返し周波数が169Hz以下となる例が記載されている。また、記載事項(刊e)や記載事項(刊i)の記載から、期間A、B、Cの時間はガス圧力、バイアス電力、イオン電流密度等の条件や実際的なエッチング速度等を考慮して調整することが示唆されている。
してみれば、刊行物発明の実施化に際して期間A、B、Cの時間を適宜調整し、オンオフの繰返し周波数を本願発明1の数値範囲の一部に含まれる100Hz?1Kzとすることは、当業者が容易になし得たことである。

なお、本願発明1におけるオンオフの繰返し周波数の数値範囲の臨界的意義に関して、本願明細書の段落【0068】では100Hz以下であると「側壁が滑らかでなくなる」と記載されているが、本願の請求項1では、試料の形状等については何ら記載されておらず、本願発明1は、平らな面を一様にエッチングする処理、すなわち側壁を有しない表面の処理も含まれるのであるから、必ずしも側壁が滑らかになるという作用効果を奏するということはできない。また、上限値については、段落【0068】に、電源作成が技術的に難かしくなるので10KHz以下とすることが記載されているのみで、この上限値は電源作成等の周辺技術の現状に応じて適宜定めたものに過ぎず、試料の表面処理それ自体に特別な作用効果を及ぼすと解することはできないから、この上限値にも格別の臨界的意義を見いだすことはできない。

ウ 相違点3について
刊行物発明において、デューティー比の範囲は特定されていないが、記載事項(刊i)には、期間Aの時間(a)=0.1msec、期間Bの時間(b)=0.8msec、期間Cの時間(c)=0.1?5msecとすること、すなわち、高周波バイアス電圧がオン(期間B)の時間と期間A、B、Cの合計時間とを、それぞれ0.8msecと1.0?5.9msecとしたものが記載され、これはデューティー比に換算すると約13.6%?80%となる。この期間Cの時間(c)は、記載事項(刊i)に記載されるように、長いほど選択比が大きくなるが、エッチング時間が低下してしまうため、実際的なエッチング速度を得るために前述の範囲としたものであるから、実施化に際して、許容できるエッチング速度や必要とする選択比を勘案することで、期間Cの時間(c)を長くして(期間Cの時間(c)を長くする結果として、デューティー比は小さくなる)、デューティー比を5%?50%とすることは、当業者が容易になし得たことである。
また、刊行物の記載事項(刊h)によれば、実施例として、高周波バイアス電圧がオン(期間B)の時間と期間A、B、Cの合計時間とを、それぞれ70msecと500msec(デューティー比14%)、70msecと350msec、(デューティー比20%)、70msecと250msec(デューティー比28%)、80msecと1sec(デューティー比8%)とするなど、デューティー比が5%?50%の範囲内に含まれる複数の例が記載されている。上記「イ 相違点2について」で検討したように期間A、B、Cの時間を適宜調整することが示唆されており、さらにデューティー比を5%?50%の範囲に含まれる複数の例が記載されていることにも鑑みて、デューティー比を5%?50%の範囲とすることは、当業者が容易になし得たことである。

なお、本願発明1におけるデューティー比の数値範囲の臨界的意義について、本願明細書の段落【0032】では「オンオフバイアス制御では、デューティー比50%以下の領域で、連続バイアスと比較して選択比が上昇する。」とし本願明細書の段落【0034】によれば、この理由として「バイアスオフ期間に反応生成物が酸化膜状に堆積して酸化膜のエッチング速度を低下させることによると考えられる。」と記載されている。この段落【0034】に記載された理由は、表面処理する試料に酸化膜が存在することを前提としているが、本願の請求項1には、表面処理される試料の材質等について何ら記載されておらず、本願発明1では酸化膜が存在しない試料の表面処理も含まれるのであるから、必ずしも段落【0034】で説明されるような作用効果を奏するとはいえない。仮に試料に酸化膜が存在するとしても、上記段落【0034】に記載された理由からは、バイアスオフ期間がありさえすれば選択比が向上すると解釈できるものであって、50%以下の領域で選択比が上昇するとする段落【0032】の説明とは整合しておらず、50%という数値自体に格別の臨界的意義があるということはできない。また、5%という下限値について、本願明細書段落【0032】では、「あまり小さいとpoly siエッチング速度が小さくなる」としているが、デューティー比を所定値以下とすると、高周波バイアス電圧を印加することによる作用(エッチングの促進)が効果的に生じないことは当業者の予測の範囲内のものに過ぎない。

(4)結論
したがって、本願発明1は、刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規程により、特許を受けることができない。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規程により特許を受けることができないものであるから、本願の請求項2-3に係る発明については検討するまでもなく、本願を拒絶すべきものである。


なお、審判請求人は、平成22年5月28日付の回答書において、補正前の請求項3を新たに請求項1とすること、すなわち補正前の請求項1に「プラズマ発生手段が発生するプラズマの電子密度を1×10^(10)個/cm^(3)以上とし」との限定を加えて新たな請求項1とする用意がある旨を述べ、さらに、原査定の拒絶の理由に提示された上記刊行物には、プラズマ密度をこの値以上に高くする記載はなく、さらに上記刊行物の発明から類推できる最適なプラズマ密度はむしろ低い方が有利となるものであるから、本願発明をなし得ることは困難である旨を主張している(平成22年5月28日付の回答書第5ページ第10?14行)。
しかしながら、上記刊行物には「ドライエッチング装置は、低圧力高密度プラズマ化の方向に進んでおり、以下のような新しい方法の装置がある。先ず、マグネトロンによって生成したマイクロ波(周波数は主として2.45[GHz])を処理室に導入してガスをプラズマ化するマイクロ波プラズマ(ECR;Electron Cyclotron Resonance プラズマとも呼ばれている)エッチング装置がある。」(段落【0006】;なお、Electron Cyclotron Resonanceの日本語訳は電子サイクロトロン共鳴である)、「電子サイクロトロン共鳴によって励起効率を高める」(段落【0096】)との記載があり、刊行物に記載された発明は、むしろ高密度プラズマを指向することが伺える。
また、電子サイクロトロン共鳴を用いた際のプラズマの電子密度として、1×10^(10)個/cm^(3)以上とすることは、周知の技術(例えば、特開昭62-115821号公報;発明の背景及び図3参照)であるから、刊行物発明において、プラズマの電子密度を1×10^(10)個/cm^(3)以上とすることは当業者が適宜なし得たことに過ぎない。
よって、仮に審判請求人が回答書で提案するように補正前の請求項3を新たな請求項1とし、補正前の請求項1に「プラズマ発生手段が発生するプラズマの電子密度を1×10^(10)個/cm^(3)以上とし」との限定を加えたとしても、刊行物に記載された発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたのであって、特許法第29条第2項の規程により特許を受けることができないものである。
 
審理終結日 2010-07-23 
結審通知日 2010-07-27 
審決日 2010-08-17 
出願番号 特願平11-36226
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 572- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷部 智寿関根 崇宮崎 園子  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 加藤 浩一
筑波 茂樹
発明の名称 試料の表面処理方法  
代理人 ポレール特許業務法人  
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