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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61M 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M |
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管理番号 | 1224379 |
審判番号 | 不服2007-26793 |
総通号数 | 131 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-11-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-10-01 |
確定日 | 2010-09-08 |
事件の表示 | 平成10年特許願第523698号「毛胞中に有益な薬剤を局所的に標的化送達するための皮膚振動装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 5月28日国際公開、WO98/22031、平成13年 4月17日国内公表、特表2001-505099号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I.手続の経緯 本願は、平成9年11月10日(パリ条約による優先権主張 1996年11月22日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成19年6月22日付けで拒絶査定がなされたところ、同査定を不服として平成19年10月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成19年10月31日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。 II.平成19年10月31日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成19年10月31日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.補正後の本願発明 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。 「毛胞に薬剤を選択的に送達するための装置であって、振幅が約0.1mmから約10mmの、約5Hzから約100Hzの振動数で毛包を有する皮膚に機械的振動のみからなる刺激を供給する手段および該機械的振動と組み合わせて皮膚に該薬剤を分配および適用する分配手段からなる前記装置。」(下線部は補正個所を示す。) 2.補正の目的 本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「皮膚に振動適用する機械的振動手段」に限定を付加して、「毛包を有する皮膚に機械的振動のみからなる刺激を供給する手段および該機械的振動と組み合わせて皮膚に該薬剤を分配および適用する分配手段」とし、振動数の下限を「約1Hz」から「約5Hz]に限定するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 なお、補正後の請求項1には、「毛包」なる語が新たに記載されるが、これは「毛胞」ともに、「hair follicles」に対応する日本語として使用される用語であり、「毛包」及び「毛胞」は、同一の部位を示すものと解される。 3.独立特許要件 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)、以下に検討する。 3-1.引用例の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、実願昭59-158970号(実開昭61-73324号)のマイクロフィルム(以下、「引用例」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 記載事項A. 「1)頭部を支持することができる支持体と、この支持体に固定的に設けられた振動部材と、この振動部材に接続された該振動部材を振動させることができる低周波発振器とから成る育毛促進器。」(明細書第1ページ第5-9行) 記載事項B. 「上記構成にあっては、まず市販されている所望の育毛剤の液を頭皮にふりかけあるいは塗布し、指先によるマッサージを多少繰り返えす。この場合指先によるマッサージをせず、あらかじめ振動伝達部材14に育毛剤の液を吸収させておいても良い。しかる後に、第4図で示すように支持体1を頭部に固定的に被せ、低周波発振器6の振動用スイッチ13をONにする。そうすると振動部材4が振動し、その振動は支持体1および振動伝達部材14を介して頭皮に伝達される。その結果、頭皮は皮膚反射等によりマッサージ効果を得て深部にある毛細血管を拡張させ、深層部にある毛乳頭層に薬効成分を作用させ発毛を促進させる。このように振動により一定時間頭皮をマッサージした後に振動用スイッチ13をOFFにし、次いで通電用スイッチ12をONにし、低周波導子5および振動伝達部材14を介して頭皮に電流を通す。その結果、頭皮に塗布した薬品のイオン化と自律神経のインパルスの調整を計り、前述したマッサージ効果を相俟って極めて有効に育毛を促進せしめる。」(明細書第6ページ第20行-第7ページ第19行) 図面の記載を併せみつつ、上記記載事項について検討すると、引用例のものは、記載事項B.に、「その結果、・・毛乳頭層に薬効成分を作用させ発毛を促進させる。」と、育毛剤の薬効成分が毛包内部の毛乳頭層に作用することを記載するものであるから、毛包に薬剤を送達するためのものが記載されており、その送達対象には、育毛剤が意図されている。 そして、記載事項B.に、「・・第4図で示すように支持体1を頭部に固定的に被せ、低周波発振器6の振動用スイッチ13をONにする。そうすると振動部材4が振動し、その振動は支持体1および振動伝達部材14を介して頭皮に伝達される。その結果、頭皮は皮膚反射等によりマッサージ効果を得て・・」と記載され、第3図、第7図には、頭部の表面側から振動部材の振動を頭部に伝える振動伝達部材の配置が図示されている。 したがって、振動伝達部材は頭部の皮膚に振動を供給するものとして記載されており、この皮膚が毛包を有することは、自明である。 さらに、記載事項B.に、「・・まず市販されている所望の育毛剤の液を頭皮にふりかけあるいは塗布し、指先によるマッサージを多少繰り返えす。この場合指先によるマッサージをせず、あらかじめ振動伝達部材14に育毛剤の液を吸収させておいても良い。・・」と、振動伝達部材に育毛剤の分配機能を持たせることが記載されている。 加えて、記載事項A.に、「・・この支持体に固定的に設けられた振動部材と、この振動部材に接続された該振動部材を振動させることができる低周波発振器とから成る育毛促進器。」と振動が低周波であることが記載され、記載事項B.に、「・・第4図で示すように支持体1を頭部に固定的に被せ、低周波発振器6の振動用スイッチ13をONにする。そうすると振動部材4が振動し、その振動は支持体1および振動伝達部材14を介して頭皮に伝達される。その結果、頭皮は皮膚反射等によりマッサージ効果を得て深部にある毛細血管を拡張させ、深層部にある毛乳頭層に薬効成分を作用させ発毛を促進させる。このように振動により一定時間頭皮をマッサージした後に振動用スイッチ13をOFFにし、次いで通電用スイッチ12をONにし、低周波導子5および振動伝達部材14を介して頭皮に電流を通す。・・」と、通電用スイッチ12をONにする以前は、低周波発振器6の振動用スイッチ13のみがONとされ、振動部材4が振動すること、即ち、機械的振動のみが供給されることが、機械的振動のみに起因する効果の記載を伴って記載されている。 これら記載事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 毛包に育毛剤を送達するための育毛促進器であって、マッサージ効果のある低周波数の振動数で毛包を有する皮膚に機械的振動からなる刺激を供給する振動伝達部材および該機械的振動と組み合わせて皮膚に該育毛剤を分配および適用する振動伝達部材からなる育毛促進器。 3-2.対比 本願補正発明と引用発明とを対比すると、各文言の意味、機能または作用等からみて、引用発明の「育毛剤」は、本願補正発明の「薬剤」に相当し、以下同様に、引用発明の「毛包」は、本願補正発明の「毛包」及び「毛胞」に、引用発明の「育毛促進器」は、本願補正発明の「装置」にそれぞれ相当する。 また、引用発明の「振動伝達部材」は、他の刺激を供給可能であるとしても、皮膚に機械的振動からなる刺激を供給することができるものであり、さらに、皮膚に薬剤に相当する育毛剤を分配するものであるから、本願補正発明の「機械的振動のみからなる刺激を供給する手段」と「機械的振動からなる刺激を供給する手段」である点で共通し、さらに本願補正発明の「皮膚に該薬剤を分配および適用する分配手段」にも相当している。 そして、引用発明の「低周波数の振動数」と、本願補正発明の「約5Hzから約100Hzの振動数」とは、ともに「低周波数の振動数」である点においては共通している。 そこで、本願補正発明の用語を用いて表現すると、両発明は次の点で一致する。 (一致点) 毛胞に薬剤を送達するための装置であって、低周波数の振動数で毛包を有する皮膚に機械的振動からなる刺激を供給する手段および該機械的振動と組み合わせて皮膚に該薬剤を分配および適用する分配手段からなる前記装置。 そして、両発明は次の点で相違する(対応する引用発明の用語を( )内に示す。)。 (相違点1) 本願補正発明の機械的振動からなる刺激を供給する手段は、機械的振動のみからなる刺激を供給するものであるのに対して、引用発明の機械的振動からなる刺激を供給する手段(振動伝達部材)は、機械的振動のみからなる刺激を供給することも可能ではあるが、機械的振動のみからなる刺激を供給するもののみとはされていない点。 (相違点2) 本願補正発明の振動は、振幅が約0.1mmから約10mmの、約5Hzから約100Hzの機械的振動であるのに対し、引用発明は、低周波数の振動数の機械的振動であるものの、周波数及び振幅についての特定の値は記載されない点。 (相違点3) 本願補正発明の装置は、毛胞に薬剤を選択的に送達するためと特定されるのに対して、引用発明の装置(育毛促進器)は、毛胞(毛包)に薬剤(育毛剤)を送達するものではあるが、選択的に送達するとの記載はない点。 3-3.相違点の判断 上記相違点について、以下に検討する。 (相違点1について) 引用例には、記載事項B.に機械的振動の起因するマッサージ効果が毛乳頭層に薬効成分を作用させると記載され、これは機械的振動のみに起因する効果として記載されている。したがって、振動伝達部材に関して、引用例は他の刺激を供給するためのものとなりえることを記載するとしても、振動伝達部材は、先ず機械的振動のみを伝えるという機能を果たし、その後他の刺激を供給することを記載するのであるから、少なくとも振動を伝達するさいには機械的振動のみからなる刺激を供給することが可能であることは、その記載から把握可能な事項である。 してみれば、引用発明の振動伝達部材をその機械的振動のみに起因する作用・効果に基づいて、機械的振動のみからなる刺激を供給するものとすることは、当業者が適宜なしえたことである。 (相違点2について) 振幅が約0.1mmから約10mmであることは、その範囲が2桁にわたるものであり、頭皮をマッサージする機械的振動の振幅として、通常考えられる範囲を述べる以上のものとは認められず、約0.1mmから約10mmとの特定は単なる設計上の事項に過ぎない。 また、引用発明においては、振動の周波数は明らかではないものの、その設計にあたり、周波数数を特定すべきことは必須の事項であり、同様目的の慣用される周波数を参酌して決定することが通常採用される設計手法の一と考えられるところ、約5Hzから約100Hzは、マッサージを目的とする周知の低周波数(参考例 特開昭55-136067号公報)の範囲といえ、しかも、引用発明は、低周波数の振動とされているのであるから、約5Hzから約100Hzとする点に格別の困難性は認められない。 したがって、引用発明に、周知・慣用技術を適用して、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。 (相違点3について) 引用発明は、毛胞(毛包)に薬剤(育毛剤)を送達することを意図するものであり、引用例には、薬剤を選択的に送達するとの記載はないが、積極的に送達を意図する対象物は、薬剤(育毛剤)であることから、その手段の開示はなくても、薬剤(育毛剤)を選択的に送達することが示唆されると言うべきであり、毛包に育毛剤を選択的に送達することは、引用発明に基づいて、当業者が容易になしえたことである。 したがって、引用発明に基づいて、相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本願補正発明による効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。 したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 3-4.むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 III.本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を、「本願発明」という。)は、拒絶査定時の平成19年4月25日付けの手続補正書により補正された明細書の、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「 毛胞に薬剤を選択的に送達するための装置であって、振幅が約0.1mmから約10mmの、約1Hzから約100Hzの振動数で皮膚に振動を適用する機械的振動手段を含む前記装置。」 IV.引用例の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載事項は、前記II.3-1に記載したとおりである。 V.対比・判断 本願発明は、前記II.1の本願補正発明の限定事項である振動数の下限「約5Hz」を「約1Hz」とその範囲を拡げ、「毛包を有する皮膚に機械的振動のみからなる刺激を供給する手段および該機械的振動と組み合わせて皮膚に該薬剤を分配および適用する分配手段」との特定から、一部特定を省いて、皮膚に振動適用する機械的振動手段」とするものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.3-3に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 VI.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-04-08 |
結審通知日 | 2010-04-13 |
審決日 | 2010-04-26 |
出願番号 | 特願平10-523698 |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(A61M)
P 1 8・ 121- Z (A61M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 智弥 |
特許庁審判長 |
亀丸 広司 |
特許庁審判官 |
豊永 茂弘 岩田 洋一 |
発明の名称 | 毛胞中に有益な薬剤を局所的に標的化送達するための皮膚振動装置 |
代理人 | 平木 祐輔 |
代理人 | 石井 貞次 |
代理人 | 大屋 憲一 |
代理人 | 藤田 節 |