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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1224775 |
審判番号 | 不服2007-25458 |
総通号数 | 131 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-11-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-09-18 |
確定日 | 2010-10-08 |
事件の表示 | 平成10年特許願第504081号「半導体ウェーハーをエッチングするための方法及びその装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 1月 8日国際公開、WO98/00859、平成12年10月31日国内公表、特表2000-514600〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成9年1月23日(優先権主張:平成8年7月3日、米国)を国際出願日とする特許出願であって、平成18年9月20日付けの拒絶理由の通知に対して、同年12月26日付けで手続補正書が提出され、これに対して、平成19年6月13日付けで拒絶査定がなされ、これを不服として、同年9月18日付けで審判請求がされるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたものである。 2.平成19年9月18日付けの手続補正について 平成19年9月18日付けの手続補正は、特許請求の範囲についてする補正であって、補正前の請求項12?16を削除し、また、前記請求項の削除に合わせて補正前の請求項17?19の項番を繰り上げるとともに、補正前の請求項1、請求項11及び請求項18の「化学的にエッチングして前記生成したベールを除去する」を、「化学的にエッチングすることにより前記生成したベールを除去する」と補正することで、「ベールの除去」が「エッチング」により行われることを、より明りょうとなるようにしたものと認められる。 したがって、前記手続補正は、請求項の削除と、不明りょうな記載の釈明を目的とする補正であるから、これを認める。 なお、審判請求人は、平成19年12月18日付けの審判請求書の手続補正書において、補正前の請求項1、請求項11及び請求項18の「化学的にエッチングして前記生成したベールを除去する」を、「化学的にエッチングすることにより前記生成したベールを除去する」とする補正が、特許請求の範囲の限定的な減縮を目的とするものであるとも解されうる主張をしているが、前記補正により、補正前の請求項1、請求項11及び請求項18には含まれていたが、補正後の請求項1、請求項11及び請求項18からは削除されることとなる発明の態様を具体的に想定することができず、また、審判の請求の理由においても、前記補正によって、特許請求の範囲がどのように減縮されるかについても説明されていないので、前記補正の目的について、上記のように認定をした。 3.本願発明 平成19年9月18日付けの手続補正は上記のとおり補正の要件を満たしているので、本願の請求項1?14に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明14」という。)は、平成19年9月18日付の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】少なくとも実質的に垂直な側壁外形を有するウェーハー造形を得るために、ウェーハーを物理的にエッチングして該ウェーハの造形上にベールを生成する段階と、該物理的にエッチングする段階の後に前記ウェーハを化学的にエッチングすることにより前記生成したベールを除去する段階とを含み、前記ウェーハーを物理的にエッチングする段階が、10SCCMから50SCCMでアルゴンガスを、2SCCMから50SCCMで塩素ガスを使用することを特徴とする、ウェーハーをエッチングする方法。 【請求項2】前記ウェーハーを物理的にエッチングする段階が、2ミリトールから10ミリトールで行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。 【請求項3】前記物理的にエッチングする段階が、キロヘルツ領域で作動する第1電源とメガヘルツ領域で作動する第2電源を備えた電極上に配置されたウェーハーを入れた室内で行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。 【請求項4】前記第1電源が50ワットから200ワットの範囲の電力を供給し、前記第2電源が500ワットから1100ワットの範囲の電力を供給することを特徴とする、請求項3に記載の方法。 【請求項5】前記物理的エッチングの段階が80℃で行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。 【請求項6】前記ウェーハーを化学的にエッチングする段階が、0SCCMから50SCCMでアルゴンガスを、そして5SCCMから100SCCMの範囲で塩素ガスを使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。 【請求項7】前記ウェーハーを化学的にエッチングする段階が2ミリトールから10ミリトールで行われることを特徴とする、請求項2に記載の方法。 【請求項8】前記化学的エッチングの段階が、キロヘルツ領域で作動する第1電力源からの0から50ワットの電力と、メガヘルツ領域で作動する第2電源からの電力とを供給される電極により行われることを特徴とする、請求項3に記載の方法。 【請求項9】前記化学的エッチングの段階の間、前記第2電源が500ワットから1100ワットの範囲の電力を供給することを特徴とする、請求項8に記載の方法。 【請求項10】前記化学的エッチングの段階の間、物理的エッチングの影響を低減するために、キロヘルツ領域で作動する前記第1電源のスイッチが切られることを特徴とする、請求項3に記載の方法。 【請求項11】少なくとも垂直な側壁外形を有するウェーハー造形を得るために、ウェーハーを物理的にエッチングして該ウェーハの造形上にベールを生成する段階と、該物理的にエッチングする段階の後に前記ウェーハを化学的にエッチングすることにより前記生成したベールを除去する段階とを含み、物理的エッチングの間にはキロヘルツ領域で第1電源そしてメガヘルツ領域で第2電源を供給され、化学的エッチングの全工程の間メガヘルツ領域で電源を供給される電極があることを特徴とする、ウェーハーをエッチングする方法。 【請求項12】前記物理的にウェーハーをエッチングする段階が、好ましくは20SCCMでアルゴンガスを、そして5SCCMから10SCCMで塩素ガスを用いることを特徴とする、請求項1に記載の方法。 【請求項13】少なくとも垂直な側壁外形を有するウェーハー造形を得るために、ウェーハーを物理的にエッチングして該ウェーハの造形上にベールを生成する段階と、該物理的にエッチングする段階の後に前記ウェーハを化学的にエッチングすることにより前記生成したベールを除去する段階とを含み、前記化学的にウェーハーをエッチングする段階が、0SCCMから50SCCMでアルゴンガスを、そして5SCCMから100SCCMで塩素ガスを用いることを特徴とする、ウェーハーをエッチングする方法。 【請求項14】前記化学的にウェーハーをエッチングする段階が、好ましくは、20SCCMでアルゴンガスを、そして10SCCMから15SCCMの範囲で塩素ガスを用いることを特徴とする、請求項1に記載の方法。」 4.引用例 拒絶の理由で引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開平3-93224号公報(以下、「引用例1」という。)、特開平6-13357号公報(以下、「引用例2」という。)、特開平2-303125号公報(以下、「引用例4」という。)には、図面とともに以下の技術的事項が記載されている。 (4-1)引用例1(特開平3-93224号公報) (1a)「まず、第2図(a)に示す如く、InP基板21上に厚さ約0.5μmのSiO_(2)マスク22を形成する。次いで、前記第1図に示す装置を用い、容器15内にCl_(2)-Ar(1:5)の混合ガスを導入し、ガス圧力1×10^(-3)Torr、イオン引出し電圧400V、マイクロ波出力200Wの条件で、InP基板21を8分間選択エッチングする。このエッチングはイオンを主体とするエッチングであり、第2図(b)に示す如く、エッチング側壁は垂直であるがエッチング表面23に荒れが生じる。 次いで、同様に第1図の装置を用い、前記混合ガスの比をCl_(2)-Ar(8:5)に変え、ガス圧力4×10^(-3)Torr、イオン引出し電圧400V、マイクロ波出力200Wの条件でInP基板21を2分間選択エッチングする。このエッチングはラジカルを主体とするエッチングであり、第2図(e)に示す如く、エッチング表面24は荒れが除去されて平滑化される。」(第3頁左下欄第13行-第3頁右下欄第11行) (1b)「ここで、第2図(b)(e)の工程で用いたエッチング条件は、前者は後者に比べてラジカルに対するイオンの割合が多いものである。つまり、前者のエッチングはイオン性の強いエッチングであり、後者のエッチングはラジカル性の強いエッチングである。イオン性の強いエッチングでは、イオンビームの持つ直線性が生かされた垂直性の良い側壁が得られるが、イオンスパッタリングにより底面に荒れを生じ易い。逆にラジカル性の強いエッチングでは、等方的なエッチングに近くなるが、エッチング面の荒れを解消することができる。そこで、この2種類のエッチングを交互に繰返すことにより、両方の特徴、垂直性と平滑性を兼備えたエッチングが可能となる。」(第3頁右下欄第12行-第4頁左上欄第6行) (1c)「上述の2つの条件によるエッチングのサイクルを3回繰返すと、第2図(d)に示す如く、深さ約4.5μmの側壁の垂直性が良く底面の平滑性も良いエッチング溝25が得られた。 この実施例では、ガスの組成(同時にガス圧力)を変えることによりイオンとラジカルとの割合を変えているが、イオン引出し電圧やマイクロ波強度等を変えることによっても、イオンの量とラジカルの量の割合を変えることは可能である。」(第4頁左上欄第7行-第4頁左上欄第16行) 以上の引用例1の記載事項(1a)及び(1c)を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。 「InP基板をエッチングして、深さ約4.5μmの側壁の垂直性が良く底面の平滑性も良いエッチング溝を得るために、 イオンを主体とするエッチングをする段階と、 次いで、ラジカルを主体とするエッチングをする段階と を含み、 前記イオンを主体とするエッチングをする段階が、容器内にCl_(2)-Ar(1:5)の混合ガスを導入し、ガス圧力1×10^(-3)Torr、イオン引出し電圧400V、マイクロ波出力200Wの条件で、InP基板を8分間選択エッチングすることを特徴とする、InP基板をエッチングする方法。」 (4-2)引用例2(特開平6-13357号公報) (2a)「そのため従来は加速されたアルゴンイオンを被エッチング体に衝突させ、被エッチング体をスパッタリングさせることによって物理的かつ異方的にエッチングするイオンミリング装置が用いられてきた。しかしながら、前記イオンミリング装置によるエッチングにおいては、選択比がほとんどない上、エッチングされた被エッチング体が揮発しないため、図4に示すようにその一部はレジストの側壁部に付着する。」(【0003】-【0004】) (2b)「第二としてイオンミリングで処理した後、アルゴンとハロゲン系反応性ガスのプラズマで等方性エッチングする方法である。これも前記第一の方法と同じくイオンミリングによって発生した側壁付着物を後から除去するもので、アルゴンとハロゲン系反応性ガスのプラズマを用いることで被エッチング体を揮発させ、レジスト側壁への前記被エッチング体の再付着を防ぐものである。」(【0009】) (4-3)引用例4(特開平2-303125号公報) (4a)「この場合、イオンではなく、遊離基(radical)を用いた化学的エッチングを使用する。」(第3頁右下欄第18-20行) 5.対比 (ア)本願発明1と引用例1発明とを対比する。 (a)引用例1発明の「InP基板」、「深さ約4.5μmの側壁の垂直性が良く底面の平滑性も良いエッチング溝」は、それぞれ順に、本願発明1の「ウェーハー」、「少なくとも実質的に垂直な側壁外形を有するウェーハー造形」に相当する。 (b)引用例1発明の上記摘記(1b)に「第2図(b)(e)の工程で用いたエッチング条件は、前者は後者に比べてラジカルに対するイオンの割合が多いものである。つまり、前者のエッチングはイオン性の強いエッチングであり、・・・イオン性の強いエッチングでは、・・・イオンスパッタリングにより底面に荒れを生じ易い。」と記載されていることから、引用例1発明の「イオンを主体とするエッチング」は、「イオンスパッタリング」を伴うエッチングであるといえる。 また、該エッチングは、「イオンスパッタリングにより底面に荒れを生じ易い」ものであると記載されていることから、「イオンスパッタリング」が「イオンを主体とするエッチング」の主体となっていることも理解することができる。 一方、本願明細書の背景技術の欄には、「その技法の一つは、物理的エッチング法に分類されるイオンミリングである。この技術では、イオンミルビームを使って、半導体装置上に必要とされる種々の構成要素並びにトレースを残しながら、不要な半導体装置の層部分を物理的にスパッタリングする。このような技法は必要とされる外形を作り出しはするが、イオンミリング技法の欠点は、処理速度が遅く、必要とされる造形部から直立したベール又はフェンスを形成しがちなことである。」と記載されていることから、本願明細書において、「物理的なエッチング」は、少なくとも、イオンによる「スパッタリング」を含む概念として用いられているものと認められる。 してみれば、引用例1発明の「イオンを主体とするエッチング」は、本願発明1の「物理的にエッチング」に相当するといえる。 (c)引用例4の上記摘記(4a)に「遊離基(radical)を用いた化学的エッチング」と記載されているように、「遊離基(radical)を用いたエッチング」が、「化学的エッチング」に分類されるエッチングであることは、当業者にとって周知の事項であるから、引用例1発明の「ラジカルを主体とするエッチング」は、本願発明1の「化学的にエッチング」に相当するといえる。 (d)本願発明1と、引用例1発明は、いずれも本願発明1の「ウェーハーを物理的にエッチングする段階」に相当する段階で使用するガスが、「アルゴンガス」と「塩素ガス」である点で一致する。 (e)「ウェーハーを物理的にエッチングする段階」で、本願発明1は、アルゴンガスを、10SCCMから50SCCM、塩素ガスを、2SCCMから50SCCMの流量で使用するのに対して、引用例1発明は、アルゴンガスと塩素ガスを、5:1の比率で使用するものである。 ここで、引用例1発明の、前記5:1の比率が、ガスの流量比であることは当業者にとって明らかである。一方、本願発明1において規定される前記流量の範囲は、アルゴンガスと塩素ガスを、5:1の流量比で使用する場合を含むものといえる。 してみれば、本願発明1と、引用例1発明は、「ウェーハーを物理的にエッチングする段階」で、アルゴンガスと塩素ガスを、5:1の流量比で使用する場合を含むという程度において一致するものといえる。 そうすると、本願発明1と、引用例1発明は、 「少なくとも実質的に垂直な側壁外形を有するウェーハー造形を得るために、ウェーハーを物理的にエッチングする段階と、 該物理的にエッチングする段階の後に前記ウェーハを化学的にエッチングする段階とを含み、 前記ウェーハーを物理的にエッチングする段階が、アルゴンガスと塩素ガスを、5:1の流量比で使用することを特徴とする、ウェーハーをエッチングする方法。」 の点で一致し、次の点で相違する。 相違点1:本願発明1における、ウェーハーの物理的なエッチングが、「該ウェーハの造形上にベールを生成する」ものであるのに対して、引用例1発明においては、イオンを主体とするエッチングが、「該ウェーハの造形上にベールを生成する」ものであることが明記されていない点。 相違点2:引用例1発明では、アルゴンガスと塩素ガスの流量が、両者の流量比の形でしか示されていないのに対して、本願発明1では、「10SCCMから50SCCMでアルゴンガスを、2SCCMから50SCCMで塩素ガス」として、具体的な流量の形で規定されている点。 相違点3:本願発明1では、物理的にエッチングする段階の後に行われるウェーハの化学的なエッチングが「ベールを除去する」ものであるのに対して、引用例1発明には、この点が明記されていない点。 6.判断 ・相違点1について 引用例1発明の「イオンを主体とするエッチング」が、「イオンスパッタリング」を伴うエッチングであり、この「イオンスパッタリング」が「イオンを主体とするエッチング」の主体となっていることは、上記「5.対比(b)」で検討したとおりである。 一方、「スパッタリング」が、「低圧気体中の金属を加熱またはイオン衝撃するとき、蒸発または衝突によって金属面から原子が気体中に飛散して付近の物体面に付着する現象。」(岩波 理化学辞典 第4版 岩波書店)という程度の意味を有する語として用いられていたことは、当業者にとって明らかな事項である。 また、引用例2の上記摘記(2a)、(2b)の記載からも、スパッタリングに際して、被エッチング体の一部が、エッチング箇所の近傍に付着することは、当業者にとって周知の事項であったことと認められる。 してみれば、引用例1発明における、イオンスパッタリングが主体となっている「イオンを主体とするエッチング」が、イオンの衝突によって生じる、被エッチング面から原子が気体中に飛散して付近の物体面に付着するという現象を伴うことは、「スパッタリング」という現象の本質から自ずと明らかであるといえるから、引用例1発明の「イオンを主体とするエッチング」は、イオンスパッタリングによる溝の形成と同時に、該スパッタリングに伴う、被エッチング面からの飛散した原子の付着をも有するものであると解される。 一方、本願明細書の「発明の背景」の欄には、「・・・物理的エッチング法に分類されるイオンミリングである。この技術では、・・・不要な半導体装置の層部分を物理的にスパッタリングする。このような技法は・・・ベール又はフェンスを形成しがちなことである。」との記載があり、また、「好適な実施例の詳細な説明」の欄には、「これらのベール20(図3)は、スパッタリングがエッチング処理の主体となるイオンミリング処理によって発生する。フォトレジスト22で保護されていない領域からスパッターリングされた物質は前記ベール20として堆積する。」と記載されている。してみれば、本願発明1における「ベール」とは、スパッターリングされた物質が堆積したものを呼称しているものといえる。 そうすると、引用例1発明が、スパッタリングによって生じる、被エッチング面から飛散した原子の付着を伴うものと解され、他方で、本願発明1においては、スパッターリングされた物質が堆積したものを「ベール」と呼称するのであるから、結局、引用例1発明の「イオンを主体とするエッチング」は、引用例1には明記はされていないものの、「該ウェーハの造形上にベールを生成する」ものと認められる。 したがって、前記相違点1は、実質的な相違点であるとは認められない。 ・相違点2について エッチングすべき対象の大きさ(被エッチング面の面積)の大小等によって、単位時間あたりに消費されるエッチングガスの量、あるいは、該エッチングの進行によって生じる、被エッチング面の表面から分離・除去される材料をチャンバー外に排出するのに要するガスの量が異なることは、当業者にとって自明な事項といえる。 してみれば、単位時間あたりに供給するエッチングガスの量を、エッチングすべき対象の大きさ等の種々の条件によって最適化することは、当業者が適宜決定すべき設計事項にすぎないものといえる。 また、本願発明1において規定されている50SCCM程度の流量は、下記の周知文献にも記載されているように、ウェーハーのエッチングにおいて、通常用いられている程度の流量であるといえる。 ・周知文献:特開平7-130702号公報 (周1)「次に、Pd膜23の表面にフォトレジスト24を1μmの厚さに塗布し、これを図示しないフォトマスクと低圧水銀ランプを使用して露光し、ついで、これを現像してレジストパターンを形成する。この後に、図2(b),(c) に示すように、フォトレジスト24をマスクに使用し、フォトレジスト24に覆われない領域のPd膜23をスパッタエッチングする。そのエッチング条件として、エッチング雰囲気のガス圧を7mTorr、電極間の投入電力を300Wに設定し、また、Arガスと塩素(Cl_(2))ガスをそれぞれ50SCCM、50SCCMずつエッチング雰囲気に導入する。これにより、Pd膜23の150Å/min のエッチング速度が得られるこのエッチングは、イオン化したArがPd膜23に衝突し、Pdの原子、分子を飛び出させてなされる。このとき、雰囲気中に飛び出したPdとCl_(2)が結合してPdCl_(2)が生成され、これがフォトレジスト24の側壁とPd膜23の上に堆積することになる。これにより、その側壁には塀状のPdCl_(2)層25が形成される。」(【0018】) してみれば、引用例1発明を用いてウェーハーをエッチングをするにあたり、具体的なエッチング条件を設定するために、アルゴンガスと塩素ガスの流量比を5:1に保持したまま、通常用いられている程度の流量の近傍でその流量を最適化して、本願発明1で規定する範囲に含まれる流量を選定することは、当業者が適宜なし得たことであるといえる。 そして、本願明細書には、「10SCCMから50SCCMでアルゴンガスを、2SCCMから50SCCMで塩素ガス」で供給することは記載されているものの、各ガスの流量のそれぞれの上限・下限を当該数値に特定したことの技術的意義、及び、その効果の顕著性について、特段の記載を認めることはできないから、引用例1発明において、各ガスの流量を本願発明1で規定する範囲に含まれる流量としたことによる、本願発明1の格別の効果を認めることはできない。 ・相違点3について 引用例1の上記摘記(1a)、(1b)の記載から、引用例1発明の「イオンを主体とするエッチングをする段階」に次いで行われる「ラジカルを主体とするエッチング」は、等方的なエッチングに近いものであり、エッチング面の荒れを解消して、平滑化するものといえるから、引用例1発明の「ラジカルを主体とするエッチング」は、ウェーハーを構成する材料に対して所定の等方的なエッチング能力を具備するものといえる。 一方、引用例1発明の「イオンを主体とするエッチング」が、「ベール」を生成するものである点は、上記「相違点1について」の項で検討したとおりであり、また、前記「ベール」は、ウェーハーへのイオンの衝突によって、ウェーハー表面からウェーハーを構成する原子が飛散して付近に付着したものによって構成されているものと認められる。 そうすると、引用例1発明の「ラジカルを主体とするエッチング」が、ウェーハーを構成する材料に対して所定の等方的なエッチング能力を具備するのであるから、「ベール」が、ウェーハーへのイオンの衝突によって、ウェーハー表面からウェーハーを構成する原子が飛散して付近に付着したものによって構成されることに照らして、引用例1発明の「ラジカルを主体とするエッチング」が「ベール」を等方的にエッチングして除去する作用を果たすことは容易に理解できることである。 したがって、前記相違点3は、実質的な相違点であるとはいえない。 すなわち、引用例1発明において、相違点1及び相違点3は実質的な相違点とは認められず、また、相違点2について本願発明1の構成を採用することは、引用例1に記載された発明及び従来周知の事項から容易に想到し得たことである。 7.むすび 以上のとおり、本願発明1は、引用例1に記載された発明及び従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-05-10 |
結審通知日 | 2010-05-13 |
審決日 | 2010-05-26 |
出願番号 | 特願平10-504081 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 長谷部 智寿 |
特許庁審判長 |
徳永 英男 |
特許庁審判官 |
加藤 浩一 田中 永一 |
発明の名称 | 半導体ウェーハーをエッチングするための方法及びその装置 |
代理人 | 大塚 文昭 |
代理人 | 中村 稔 |
代理人 | 小川 信夫 |
代理人 | 宍戸 嘉一 |