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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2009800029 審決 特許
無効2012800032 審決 特許
無効2010800100 審決 特許
無効2007800138 審決 特許
無効2008800249 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1225216
審判番号 無効2009-800228  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-11-02 
確定日 2010-09-13 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4252619号発明「腸溶性ソフトカプセルの製造方法及び腸溶性ソフトカプセル」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第4252619号(以下、「本件特許」という。)に係る発明についての特許出願(特願2008-215026号。以下、「本件出願」という。)の手続及び無効審判請求手続の経緯は以下のとおりである。

本件出願 平成20年 8月25日
本件特許の設定登録 平成21年 1月30日
特許公報の発行 平成21年 4月 8日
審判請求(無効2009-800228) 平成21年11月 2日
訂正請求 平成22年 1月21日


第2 訂正請求について

1.訂正請求の内容
被請求人は、無効2009-800228の審判請求に対する答弁書提出期間内である平成22年 1月21日に訂正請求書を提出して、訂正を求めた。
当該訂正の内容は、本件特許の特許請求の範囲及び明細書を当該訂正請求書に添付した特許の特許請求の範囲及び明細書のとおりに訂正しようとするものである。(下線部が訂正箇所)

すなわち、特許請求の範囲の記載を
「【請求項1】
ゼラチン、水、可塑剤、及び、エステル化度が20%?40%でゼラチン100重量部に対して10重量部?30重量部の低メトキシルペクチンを含有するカプセル皮膜液を調製する調製工程と、
ロータリーダイ式成形装置により、前記カプセル皮膜液から形成されたカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセルを成形する成形工程とを具備し、
低メトキシルペクチンをゲル化する多価金属イオンを含む塩は前記カプセル皮膜液に添加されないと共に、成形された前記ソフトカプセルを前記多価金属イオンを含むゲル化液に浸漬する工程は具備しない
ことを特徴とする腸溶性ソフトカプセルの製造方法。
【請求項2】
ロータリーダイ式成形装置で成形されたことにより形成された継ぎ目を有するソフトカプセルであって、
カプセル皮膜に、ゼラチン、及び、エステル化度が20%?40%でゼラチン100重量部に対して10重量部?30重量部の低メトキシルペクチンを含有していることを特徴とする腸溶性ソフトカプセル。」
から

「【請求項1】
ゼラチン、水、可塑剤、及び、エステル化度が27%?35%でゼラチン100重量部に対して10重量部?30重量部の低メトキシルペクチンを含有するカプセル皮膜液を調製する調製工程と、
ロータリーダイ式成形装置により、前記カプセル皮膜液から形成されたカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセルを成形する成形工程とを具備し、
低メトキシルペクチンをゲル化する多価金属イオンを含む塩は前記カプセル皮膜液に添加されないと共に、成形された前記ソフトカプセルを前記多価金属イオンを含むゲル化液に浸漬する工程は具備しない
ことを特徴とする腸溶性ソフトカプセルの製造方法。
【請求項2】
ロータリーダイ式成形装置で成形されたことにより形成された継ぎ目を有するソフトカプセルであって、
カプセル皮膜は、ゼラチン、可塑剤、及び、エステル化度が27%?35%でゼラチン100重量部に対して10重量部?30重量部の低メトキシルペクチンを含有していると共に、低メトキシルペクチンをゲル化する多価金属イオンを含む塩を含有しておらず、前記多価金属イオンによりゲル化した皮膜外皮を有していないことを特徴とする腸溶性ソフトカプセル。」
と訂正することを求め、加えて、特許請求の範囲の訂正に伴い、段落【0012】、【0017】、【0018】、【0022】、【0027】、【0037】、【0046】に記載される「エステル化度が20?40%」を、「エステル化度が27?35%」と訂正すること、段落【0039】を削除すること、段落【0040】において、「より好適なエステル化度(20?30%)の範囲内である低メトキシルペクチンとして、エステル化度27%の低メトキシルペクチンを使用し、」とあるのを、「上記のエステル化度の範囲内である低メトキシルペクチンとして、エステル化度27%の低メトキシルペクチンを使用し、」と訂正することを求めるものである。

そして、上記訂正は、以下の訂正事項に区分される。

ア 訂正事項1
特許明細書の請求項1に「エステル化度が20%?40%」とあるのを、「エステル化度が27%?35%」とする訂正。

イ 訂正事項2
特許明細書の請求項2に「エステル化度が20%?40%」とあるのを、「エステル化度が27%?35%」とする訂正。

ウ 訂正事項3
特許明細書の段落【0012】、【0022】、【0027】において、「エステル化度が20?40%」とあるのを、「エステル化度が27%?35%」とする訂正。

エ 訂正事項4
特許明細書の段落【0017】、【0018】、(【0027】、)【0037】、【0046】において、「エステル化度が20?40%」とあるのを、「エステル化度が27%?35%」とする訂正。

オ 訂正事項5
特許明細書の段落【0039】を削除する訂正。

カ 訂正事項6
特許明細書の段落【0040】において、「より好適なエステル化度(20?30%)の範囲内である低メトキシルペクチンとして、エステル化度27%の低メトキシルペクチンを使用し、」とあるのを、「上記のエステル化度の範囲内である低メトキシルペクチンとして、エステル化度27%の低メトキシルペクチンを使用し、」とする訂正。

2.訂正の可否に対する判断

ア 訂正事項1?4について
訂正事項1及び2は、低メトキシルペクチンについて、「エステル化度が20?40%」とあるのを、「エステル化度が27%?35%」と訂正して、低メトキシルペクチンのエステル化度の範囲を20?40%から27%?35%に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

訂正事項3及び4は、特許請求の範囲の訂正に伴い、段落【0012】、【0017】、【0018】、【0022】、【0027】、【0037】、【0046】に記載される「エステル化度が20?40%」を、「エステル化度が27?35%」と訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

ここで、特許明細書の段落【0035】?【0038】には、低メトキシルペクチンのエステル化度(DE)と腸溶性との関係について、エステル化度が異なる低メトキシルペクチンを添加した皮膜組成I?Mのカプセル皮膜液を調製し、ロータリーダイ式成形装置で成形されたソフトカプセルについて、崩壊性試験を行った結果が記載されており、エステル化度が27%、30%、35%である低メトキシルペクチンを配合した皮膜組成J、K、Lが、腸溶性カプセルとして優れていることが確認されていることから、「エステル化度が27%?35%」とする訂正は、腸溶性カプセルとして優れていることが確認されたエステル化度とするものであることから、これらの訂正は、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものでもない。

イ 訂正事項5、6について
訂正事項5は、特許明細書の段落【0039】「…エステル化度は20?30%であれば更に好適であると考えられた。」を削除する訂正であり、訂正事項6は、特許明細書の段落【0040】において、「より好適なエステル化度(20?30%)の範囲内である低メトキシルペクチンとして、エステル化度27%の低メトキシルペクチンを使用し、」とあるのを、「上記のエステル化度の範囲内である低メトキシルペクチンとして、エステル化度27%の低メトキシルペクチンを使用し、」とする訂正であって、これらの訂正は、特許請求の範囲の訂正に伴い、明りょうでない記載の釈明を目的としてするものである。

請求人は、平成22年6月8日付け口頭審理陳述要領書において、訂正事項5及び6について、これらの段落には、もともと、エステル化度の更に好適な範囲が20?30%であることを記載していたのであるから、段落【0039】における該範囲等を削除する訂正、及び、段落【0040】において、該範囲を27?35%へと変更する訂正は、いずれも、エステル化度の更に好適な範囲を変更するもの、即ち、発明の内容を変更するものであるから、訂正は認められないと主張する。
請求人の主張は、上記の訂正が、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではないという趣旨であると認められるが、この判断は、明細書の記載全体から判断されるものであって、数値範囲を変更する訂正が直ちに新規事項を追加することにはならない。
そして、上記アにおいても記載した通り、特許明細書の段落【0035】?【0038】には、エステル化度が27%、30%、35%である低メトキシルペクチンを配合した皮膜組成J、K、Lが、腸溶性カプセルとして優れていることが確認されていることから、これらの訂正は、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものでもないことは明らかである。
よって、上記請求人の主張は失当である。

3.むすび

したがって、平成22年 1月21日付けの訂正請求は、特許法第134条の2第1項第1号乃至第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項の規定によって準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該請求による訂正を認める。


第3 本件特許の請求項に係る発明

本件特許の請求項1,2に係る発明(以下、「本件発明1,2」ということがある。)は、上記平成22年 1月21日付けの訂正請求によって訂正された特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定されるとおりのものであり、本件発明に係る腸溶性ソフトカプセルの製造方法は、下記の構成要件に分けることができる。(以下の構成をそれぞれ、「構成A」のようにいうことがある。)

(1)請求項1に係る発明
A.ゼラチン、水、可塑剤、及び、エステル化度が27%?35%でゼラチン100重量部に対して10重量部?30重量部の低メトキシルペクチンを含有するカプセル皮膜液を調製する調製工程と、
B.ロータリーダイ式成形装置により、前記カプセル皮膜液から形成されたカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセルを成形する成形工程とを具備し、
C.低メトキシルペクチンをゲル化する多価金属イオンを含む塩は前記カプセル皮膜液に添加されないと共に、成形された前記ソフトカプセルを前記多価金属イオンを含むゲル化液に浸漬する工程は具備しない
D.ことを特徴とする腸溶性ソフトカプセルの製造方法。

ここで、構成Aは、下記の4つの要件に分けることができる。
A1.カプセル皮膜は、ゼラチン、水、可塑剤、及び、ペクチンを含有する。
A2.ペクチンは低メトキシルペクチンである。
A3.低メトキシルペクチンのエステル化度は27%?35%である。
A4.低メトキシルペクチンの含有率はゼラチン100重量部に対して10重量部?30重量部である。

(2)請求項2に係る発明
E.ロータリーダイ式成形装置で成形されたことにより形成された継ぎ目を有するソフトカプセルであって、
F.カプセル皮膜に、ゼラチン、及び、エステル化度が27%?35%でゼラチン100重量部に対して10重量部?30重量部の低メトキシルペクチンを含有していると共に、
G.低メトキシルペクチンをゲル化する多価金属イオンを含む塩を含有しておらず、前記多価金属イオンによりゲル化した皮膜外皮を有していない
H.ことを特徴とする腸溶性ソフトカプセル。

ここで、構成Fは、下記の4つの要件に分けることができる。
F1.カプセル皮膜は、ゼラチン、水、可塑剤、及び、ペクチンを含有する。
F2.ペクチンは低メトキシルペクチンである。
F3.低メトキシルペクチンのエステル化度は27%?35%である。
F4.低メトキシルペクチンの含有率はゼラチン100重量部に対して10重量部?30重量部である。


第4 請求人の主張

請求人は、「特許第4252619号発明の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、以下の無効理由を主張し、証拠として甲第1?14号証を提出した。
さらに、平成22年3月26日弁駁書において、訂正請求による訂正後の請求項1,2に係る発明についての特許が、依然として無効とすべきものであると主張した。
また、口頭審理に先立ち、請求人は、平成22年6月8日付け口頭審理陳述要領書を提出した。

<無効理由>

(1)無効理由1
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、少なくとも甲第1号証に記載された発明、並びに、甲第3号証、甲第4号証に記載されるような出願時の技術常識から当業者が容易に考え出すことができた程度のものに過ぎない。よって、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、特許法第29条第1項第3号、少なくとも特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(2)無効理由2
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と甲第5号証に記載された発明との組み合わせ、甲第1号証に記載された発明と甲第6号証に記載された発明との組み合わせ、甲第2号証に記載された発明と甲第5号証に記載された発明との組み合わせ、甲第2号証に記載された発明と甲第6号証に記載された発明との組み合わせから、当業者が容易に考え出すことができた程度のものに過ぎない。よって、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(3)無効理由3
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、発明の詳細な説明に発明として記載していない範囲について特許を受けたものである。よって、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合せず、特許を受けることができないものであり、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

請求人は、上記の無効理由1のうち、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許を受けることができないものであり、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものであるとの主張を、撤回した。

<請求人が提出した証拠方法>
甲第1号証:国際公開第2007/075475号
甲第2号証:特表2001-509471号
甲第3号証:ペクチン その科学と食品のテクスチャー 初版第1刷,2001年3月30日,株式会社幸書房,第90頁?第93頁
甲第4号証:化学大辞典 第8巻,2001年9月20日,共立出版株式会社,第309頁?第310頁
甲第5号証:特許第3165743号公報
甲第6号証:特表2001-524094号公報
甲第7号証:特公平6-61226号公報
甲第8号証:特開2005-168459号公報
甲第9号証:化学便覧 応用化学編 第5版,平成7年3月15日,丸善株式会社,II-474頁?II-475頁
甲第10号証:特開平4-27352号公報
甲第11号証:特開2007-320875号公報
甲第12号証:特公平7-104120号公報
甲第13号証:特開2004-175714号公報
甲第14号証:特開2006-96695号公報


第5 被請求人の主張

被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として乙第1?2号証を提示し、本件発明1及び2は、上記請求人の主張する無効の理由を有しない旨主張した。また、被請求人は、口頭審理に先立ち、平成22年6月7日付け口頭審理陳述要領書を提出した。

<被請求人が提出した証拠方法>
乙第1号証:ペクチンUSP/200のパンフレット
乙第2号証:CP Kelco社のインターネットサイト「Our History」ページの印刷物


第6 当審の判断

6-1.無効理由1について

(1)甲第1号証の記載事項
本件特許の出願の日前に頒布された刊行物である甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証には、以下の事項が記載されている。(なお、甲第1号証の翻訳文として、当該国際出願に対応する日本国特許出願の公表公報である特表2009-521269号公報が提出されており、下記の摘記事項の翻訳文の記載箇所は、当該公表公報の記載箇所を示す。)

・甲第1号証
(1-a)
「【請求項1】胃に抵抗性のフィルム形成液体組成物であって、
(a) 該組成物の約5重量%より少ない量で存在する、胃に抵抗性の天然ポリマー;
(b) フィルム形成天然ポリマー;および
(c) 随意のゲル化剤
を含む組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物であって、前記胃に抵抗性の天然ポリマーが、ペクチンである、組成物。

【請求項5】
請求項1に記載の組成物であって、前記フィルム形成天然ポリマーが、ゼラチンである、組成物。

【請求項7】
請求項1に記載の組成物であって、前記フィルム形成天然ポリマーの濃度が、該組成物の約20重量%から約40重量%である、組成物。

【請求項13】
請求項1に記載の組成物であって、グリセリン、ソルビトール、ソルビタン、マルチトール、グリセロール、ポリエチレングリコール、3?6個の炭素原子を持つ多価アルコール、クエン酸、クエン酸エステル、クエン酸トリエチル、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される一つまたはそれより多い可塑剤をさらに含む、組成物。
…」(特許請求の範囲)
(1-b)「(発明の分野)
本発明は、胃に抵抗性(gastric resistant)の投薬形態の分野におけるものである。」(第1頁第3行,翻訳文の段落【0001】)
(1-c)「(A. 胃に抵抗性の天然ポリマー)
典型的な、胃に抵抗性の天然ポリマーとしては、代表的には線状ポリサッカライド鎖を形成する主としてガラクツロン酸およびガラクツロン酸メチルエステル単位からなるペクチンおよびペクチン様ポリマーが挙げられるが、それらに限定されない。…これらは、通常は、エステル化の程度によって分類される。高(メチル)エステル(「HM」)ペクチンでは、比較的高い割合のカルボキシル基がメチルエステルとして存在しており、そして残りのカルボン酸基は遊離酸またはそのアンモニウム、カリウム、カルシウムもしくはナトリウム塩としての形態である。有用な特性は、エステル化の程度および重合の程度とともに変化し得る。50%より少ないカルボキシル酸単位がメチルエステルとして存在しているペクチンは、通常に低(メチル)エステルペクチンまたはLMペクチンとして言及される。一般に、低エステルペクチンは、穏やかな酸またはアルカリ条件での処理により、高エステルペクチンから得られる。アルカリ性の脱エステル化工程において、アンモニアが用いられる場合、アミド化されたペクチンは、高エステルペクチンから得られる。この型のペクチンでは、残存するカルボン酸基の一部は、酸アミドへと変換される。アミド化されたペクチンの有用な特性は、エステル単位とアミド単位の比率および重合化の程度とともに変化し得る。」(第4頁第24行?第5頁第14行,翻訳文の段落【0017】)
(1-d)「 一つの実施形態において、胃に抵抗性の天然ポリマーは、ペクチンである。胃に抵抗性の天然ポリマーは、組成物の約5重量%より少ない量で、好ましくは組成物の約2重量%から約4重量%の量で存在する。」(第5頁第15行?第18行,翻訳文の段落【0018】)
(1-e)「(B. フィルム形成天然ポリマー)
典型的なフィルム形成天然ポリマーとしては、ゼラチンおよびゼラチン様ポリマーが挙げられるが、それらに限定されない。好ましい実施形態において、フィルム形成天然ポリマーはゼラチンである。多くの他のゼラチン様ポリマーが、商業的に入手できる。このフィルム形成天然ポリマーは、その組成物の約20重量%から約40重量%の量で、好ましくはその組成物の約25重量%から約40%の量で存在する。」(第5頁第19行?第25行,翻訳文の段落【0019】)
(1-f)「(C. ゲル化剤)
上記組成物は、随意にゲル化剤を含み得る。典型的なゲル化剤としては、Ca^(2+)およびMg^(2+)のような二価の陽イオンが挙げられる。これらのイオンの供給源としては、無機カルシウム塩およびマグネシウム塩ならびにカルシウムゼラチン(calcium gelatin)が挙げられる。このゲル化剤は、その組成物の約2重量%より少ない量で、好ましくはその組成物の約1重量%より少ない量で存在する。」(第5頁第26行?第32行,翻訳文の段落【0020】)
(1-g)「(D. 可塑剤)
一つまたはそれより多い可塑剤が、フィルム形成工程を容易にするために、その組成物に加えられ得る。…一つの実施形態において、可塑剤はグリセリン…である。」(第6頁第1行?第8行,翻訳文の段落【0021】)
(1-h)「(A. カプセル)
(1. 外殻)
フィルム形成組成物は、当該分野で周知の技術を用いて、軟カプセルまたは硬カプセルを調製するために用いられ得る。例えば、軟カプセルは、代表的には回転ダイカプセル充填工程(rotary die encapsulation process)を用いて生産される。充填処方物は、重力により、そのカプセル充填機械中に供給される。」(第6頁第16行?第21行,翻訳文の段落【0023】)
(1-i)「【実施例】
以下のフィルム形成組成物を、当該分野で周知の技術を用いて、安定な軟ゼラチンカプセルを調製するために用いた。」(第9頁第1行?第3行,翻訳文の段落【0034】)
(1-j)「(実施例18. 胃に抵抗性の投薬形態)
胃投薬形態の組成を以下に示す。


」(第14頁実施例18,翻訳文の段落【0052】?【0053】)

・甲第3号証
(3-a)「メトキシル含量が7%を境として、それより大きいペクチンを高メトキシルペクチン(HMP)、小さいペクチンを低メトキシルペクチン(LMP)と呼んでいる.

」(第90頁第14?16行及び図5.3)
(3-b)「市販ペクチンは、…LMPで3?5%のメトキシル含量のものが多い.」(第91頁第1?2行)
(3-c)「(1)高メトキシルペクチン(HMP)
HMPはジャム、ゼリーなどの製造に用いられ、糖と酸の存在下で水素結合型のゲルを形成する.」(第91頁第9?11行)
(3-d)「(2)低メトキシルペクチン(LMP)
LMPは多価金属イオン(主としてカルシウムとマグネシウム)の存在かでイオン結合型のゲルを形成する.」(第91頁第22?24行)

・甲第4号証
(4-a)「低メトキシルペクチンは糖を加えなくともカルシウムなど2価金属イオンにより強いゲルをつくる.」(第309頁右欄第9?11行)
(4-b)「メチルエステル基の含量は通常9.5?11%であるが低メトキシルペクチンでは3.5?6.0%程度.」(第309頁右欄第24?26行)

(2)請求人の主張
請求人は、甲第1号証には、ペクチン;ゼラチン;可塑剤;及び水を含み、ゲル化剤を含まない、胃に抵抗性のフィルム形成組成物が開示されており、ここでペクチン含有量は、ゼラチン100重量部に対して25重量部未満であり、好ましくは5.0?20重量部であって、該胃に抵抗性のフィルム形成組成物は、回転ダイカプセル充填工程を用いて、液体もしくは半固体の充填材料を封入できる軟殻カプセルへと調製され、成形後のカプセルは、ゲル化剤を含む液に浸漬されず、調製された軟殻カプセルは、胃に抵抗性でありかつ腸溶性であり、これを本件請求項1記載の発明と対比すると、甲第1号証には、本件請求項1記載の発明の構成要件A2及びA3、即ち、「ペクチンがエステル化度27?35%の低メトキシルペクチンである。」ことを除く構成要件A、及び、構成要件B、C、Dが記載されているとし、本件発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比した場合における構成A2について、並びにA3の容易想到性について、以下のように主張している。

(2-1)構成A2について
甲第1号証には、胃に抵抗性のフィルム形性組成物に使用するペクチンには、低(メチル)エステルペクチンが含まれることが記載されている(第4頁第24行?第5頁第14行,翻訳文の段落【0017】)。また、実施例1?17では、ゲル化剤として塩化カルシウム(CaCl_(2))を使用してペクチンをゲル化していることから、ペクチンとして低(メチル)エステルペクチンを用いていることは明らかであり、実施例18で使用したペクチンが実施例1?17で使用したペクチンと異なる旨の記載がないことから、実施例18で使用したペクチンも実施例1?17で使用したものと同一の低(メチル)エステルペクチンである。
よって、甲第1号証には、構成A2が記載されている。

(2-2)構成A3、A4について
甲第3号証には、低メトキシルペクチンとして一般的に市販されているものとして、エステル化度が約12?37%、約18?31%の低メトキシルペクチンが記載され、甲第4号証には、低メトキシルペクチンとは、エステル化度が12?37%程度のペクチンであることが記載されており、従って、甲第1号証記載の胃に抵抗性のフィルム形成組成物における低メトキシルペクチンとして、これらの一般的に市販されている、エステル化度が約12?37%、約18?31%及び21?37%程度である低メトキシルペクチンを使用してみようと考えることは当業者なら当然のことであり、また、甲第1号証記載の胃に抵抗性のフィルム形成組成物を製造するために、低メトキシルペクチンとして市販の低メトキシルペクチンを使用すれば、そのエステル化度は必然的に上記範囲になるのである。
なお、低メトキシルペクチンのエステル化度及び配合量の上限及び下限を規定することは当業者なら当然実施する程度のことであり、そのことに何ら進歩性はない。
故に、本件請求項1、2記載の発明は、甲第1号証記載の発明から当業者が容易に発明することができたものに過ぎず、少なくとも、甲第1号証記載の発明と、甲第3号証及び甲第4号証の記載との組み合わせから、当業者が容易に発明することができたものにすぎない。

(3)検討
甲第1号証の請求項1には、「胃に抵抗性のフィルム形成液体組成物であって、(a)該組成物の約5重量%より少ない量で存在する、胃に抵抗性の天然ポリマー;(b)フィルム形成天然ポリマー;および(c)随意のゲル化剤を含む組成物。」が記載され、甲第1号証には、さらに、(a)胃に抵抗性の天然ポリマーはペクチンであること、(b)フィルム形成天然ポリマーはゼラチンであること(摘記事項(1-a)、(1-d)、(1-e))、(c)随意のゲル化剤としては、Ca^(2+)およびMg^(2+)のような二価の陽イオンが挙げられること(摘記事項(1-f))、当該発明は、胃に抵抗性の投薬形態の分野におけるものであること(摘記事項(1-b))が記載されている。
そして、甲第1号証の実施例18には、胃に抵抗性の投薬形態の組成として、ペクチン3.03重量%、水、ゼラチン32.81重量%、グリセリンを含有する、胃投薬形態の組成が開示されており(摘記事項(1-j))、ここで、実施例に記載されるフィルム形成組成物を当該分野で周知の技術を用いて安定な軟ゼラチンカプセルを調製するために用いたこと(摘記事項(1-i))、軟カプセルは、代表的には回転ダイカプセル充填工程(rotary die encapsulation process)を用いて生産されること(摘記事項(1-h))、グリセリンは可塑剤であること(摘記事項(1-g))が記載されていること、胃に抵抗性であることは、すなわち腸溶性であると認められることから、甲第1号証には、実施例18として、(a)ペクチン、(b)ゼラチン、(d)可塑剤;及び水を含み、ゼラチン100重量部に対してペクチンを9.23重量部含有し、(c)ゲル化剤である塩化カルシウム(CaCl_(2))、即ち、多価金属イオンを含まない、胃に抵抗性のフィルム形成液体組成物を用いて、回転ダイカプセル充填工程により腸溶性軟カプセルを製造したこと、すなわち、「第3 本件特許の請求項に係る発明」において記載した構成A1、B、C、Dが記載されているということができる。

以下、構成A2について検討する。
甲第1号証の発明の詳細な説明には、「胃に抵抗性の天然ポリマーとしては、線状ポリサッカライド鎖を形成する主としてガラクツロン酸およびガラクツロン酸メチルエステル単位からなるペクチンおよびペクチン様ポリマーが挙げられるが、それらに限定されない。」と記載され、さらに、高(メチル)エステル(「HM」)ペクチンと低(メチル)エステルペクチンの一般的な製造方法や特性等が記載されている(摘記事項(1-c))。 甲第1号証の実施例18には、胃に抵抗性の投薬形態の組成として、ペクチン3.03重量%、水、ゼラチン32.81重量%、グリセリンを含有する、胃投薬形態の組成が開示される(摘記事項(1-j))が、ペクチンが高(メチル)エステル(「HM」)ペクチンと低(メチル)エステルペクチンのいずれであるのか、また、具体的にいかなるエステル化度のペクチンを用いたかについては何ら開示されていない。
ここで、実施例1?17では、ゲル化剤として塩化カルシウム(CaCl_(2))を使用してペクチンをゲル化していることから、これらの実施例においては、ペクチンとして低(メチル)エステルペクチンを用いているものと認められたとしても、発明の詳細な説明においては、胃に抵抗性の天然ポリマーとして、高メトキシルペクチンと低メトキシルペクチンが同等に使用し得るものとして例示されており、実施例18ではゲル化剤が用いられていないことから、実施例1?17とは異なるペクチンが用いられているとの解釈も可能であることから、単に実施例1?17で使用したものと異なる旨の記載がないことのみをもって、実施例18で使用したペクチンも実施例1?17で使用したものと同一の低(メチル)エステルペクチンであると結論づけることはできない。
したがって、甲第1号証に、構成A2が記載されているということはできない。

次に、構成A3、A4について検討する。
上記検討したとおり、甲第1号証には、構成A2が記載されていない。
そして、甲第1号証の発明において、腸溶性に優れるソフトカプセルを製造するために、ペクチンとして、特に、エステル化度が27?35%の低メトキシルペクチンを用いるものとするためには、ペクチンとして低メトキシルペクチンに着目し、さらにエステル化度を27%?35%と特定範囲とすることに着目する必要があるが、甲第1号証には、これらについて何ら記載も示唆もなされていないから、当業者といえども容易にはなし得ないものと認められる。

仮に、甲第1号証に、構成A2が記載されていると認められたとしても、甲第1号証においては、種々のエステル化度のペクチンを同様に使用し得るものとして記載しているにすぎず、甲第1号証の記載からは、腸溶性ソフトカプセルにおける、腸溶性の向上のために、ペクチンのメチルエステル基の含有量を調整することは導き出すことができない。

この点に関し、請求人は、甲第1号証記載の胃に抵抗性のフィルム形成組成物を製造するために、低メトキシルペクチンとして市販の低メトキシルペクチンを使用すれば、そのエステル化度は必然的に上記範囲になる旨を主張するが、一般的に低メトキシルペクチンのエステル化度は12?37%程度であり、市販されているものとしては約12?37%、約18?31%の範囲の低メトキシルペクチンが多いとしても、ペクチンのメチルエステル基の含量は、甲第3号証並びに甲第4号証に記載される、一般的に低メトキシルペクチンとして分類されるエステル化度や市販されている低メトキシルペクチンのエステル化度の範囲に限らず、種々のエステル化度のペクチンが存在するものであり、エステル化度は任意の範囲で調整し、製造可能であることは明らかであるから、上記主張は認められない。

さらに、請求人は、低メトキシルペクチンのエステル化度及び配合量の上限及び下限を規定することは当業者なら当然実施する程度のことである旨を主張する。
しかし、甲第1号証に記載された発明においては、ペクチンとして種々のエステル化度のものを同等に使用し得るものとして記載していることは、上記したとおりであり、甲1号証に記載された発明において、ソフトカプセルの腸溶性の向上という課題を想到し、その解決手段として、低メトキシルペクチンのエステル化度及び配合量の適切な範囲を見出すことは、当業者といえども容易にはなし得ないものと認められる。

なお、本件発明1の効果について検討すると、特許明細書の段落【0035】?【0038】には、低メトキシルペクチンのエステル化度(DE)と腸溶性との関係について、エステル化度が異なる低メトキシルペクチンを添加した皮膜組成I?Mのカプセル皮膜液を調製し、ロータリーダイ式成形装置で成形されたソフトカプセルについて、崩壊性試験を行った結果が記載されており、エステル化度が27%、30%、35%である低メトキシルペクチンを配合した皮膜組成J、K、Lが、エステル化度が12%、46%である低メトキシルペクチンを配合した皮膜組成I、Mよりも、腸溶性カプセルとして優れていること、特許明細書の段落【0040】?【0042】には、低メトキシルペクチンの添加量と腸溶性との関係について、ゼラチン100重量部に対する低メトキシルペクチンの配合割合の異なる皮膜組成N?Tのカプセル皮膜液を調製し、ロータリーダイ式成形装置で成形されたソフトカプセルについて、崩壊性試験を行った結果が記載されており、ゼラチン100重量部に対して低メトキシルペクチンを10?30重量部添加した皮膜組成P?Sが、2.5、5、40重量部添加した皮膜組成N、O、Tよりも、カプセル成形性や腸溶性に優れることが具体的に裏付けられており、これらの効果は、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証の記載から予測し得ない格別顕著なものであると認められる。

したがって、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証の記載から、本件発明1の構成A2?A4を想到することは、当業者といえども容易にはなし得ない。

次に、本件発明2について検討する。
甲第1号証に記載される事項については、上記したとおりであり、ロータリーダイ式成形装置で成形されたソフトカプセルは、継ぎ目を有するものであることから、甲第1号証には、「第3 本件特許の請求項に係る発明」において記載した構成E、F1、G、Hが記載されているということができる。
ここで、本件発明2の構成F2、F3、F4は、それぞれ、本件発明1の構成A2、A3、A4に相当するものであり、本件発明2と甲第1号証に記載された発明との相違点である構成F2?F4については、本件発明1の構成A2、A3、A4について上記検討したとおりである。
したがって、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証の記載から、本件発明2の構成F2?F4を想到することは、当業者といえども容易にはなし得ない。

(4)無効理由1のまとめ
したがって、本件発明1、2は、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証の記載から、本件発明1の構成A2?A4並びに本件発明2の構成F2?F4を、当業者が容易に想到することができないことから、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明できたものとは認められないので、無効理由1には理由がない。

6-2.無効理由2について

(1)甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証の記載事項
本件特許の出願の日前に頒布された刊行物である甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証には、以下の事項が記載されている。

・甲第2号証
(2-a)「【請求項1】 ゼラチンと、大腸酵素によって分解され得る多糖類を含む大腸特異的薬物伝達組成物。」(特許請求の範囲)
(2-b)「大腸に薬物を特異的に伝達できる組成物は、下記の四つの条件を満たさなければならない:
(1)組成物が上部消化管で劣化または分解しない;(2)組成物が上部消化管で含有薬物を放出しない;(3)組成物が大腸の標的部位、たとえば、上部大腸、中間大腸または下部大腸において効果的に薬物を放出する;および(4)組成物を薬物の封入に好適な形態に剤形化することが容易である。また、組成物は、優れた加工性を有することが好ましい。」(段落【0005】)
(2-c)「本発明の伝達組成物は、さらに薬剤学的的に許容可能な添加剤が含まれ得る。このような添加剤は、たとえば、可塑剤、色素、甘味料などが含まれ得る。組成物の配合を容易にすることに使用され得る可塑剤の代表的な例としては、グリセリン、トリアセチン、ソルビトール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、クエン酸エステル類(citrate)、フタル酸エステル類(phthalate)、ヒマシ油などが含まれる。好ましい可塑剤は、グリセリン、トリアセチンおよびソルビトールである。」(段落【0035】)
(2-d)「コーティングカプセル剤形以外にも、本発明の薬物伝達組成物をカプセルに成形した後、そのカプセルに生理学的活性物質を充填することによって、カプセル剤形を製造することができる。カプセルは、硬質カプセルまたは軟質カプセルであり得、ピンモルダー(Pin molder)またはロータリダイ(rotary die)を用いて製造することができる。」(段落【0045】)
(2-e)「【0083】
実施例14:軟質カプセルの製造(1)
ペクチン3.08重量%、ゼラチン30.15重量%およびグリセロール16.77重量%を含有する水溶液を製造した。これに、塩化ナトリウムと炭酸ナトリウムを加えてpH7溶液を得た後、混合溶液を60℃で均質化し、ロータリダイに供給してミネラル油または空気で充填された軟質カプセルを製造した。軟質カプセルを相対湿度20%で48時間乾燥した。
【0084】
実施例15:軟質カプセルの製造(2)
ペクチン2.54重量%、デキストラン(分子量5,000kDa)0.54重量%、ゼラチン30.15重量%およびグリセロール16.77重量%を含有する水溶液を用いたことを除いては実施例14の手順を繰り返した。
【0085】
実施例16:軟質カプセルの製造(架橋(1))
(a)実施例14で製造した軟質カプセルを5重量%ホルムアルデヒドを含むエタノール溶液で10分間処理し、乾燥して架橋された(アルデヒドで処理された)ゼラチン/ペクチニン酸塩カプセルを得た。
【0086】
(b)前記(a)で得たカプセルを10重量%塩化カルシウム溶液に2時間浸漬し、蒸留水で洗浄した後、相対湿度20%で48時間乾燥してアルデヒドで架橋されたゼラチン/ペクチニン酸カルシウムならなる軟質カプセルを得た。
【0087】
実施例17:軟質カプセルの製造(架橋(2))
(a)実施例15で得られた軟質カプセルを実施例16aの手順に従ってホルムアルデヒドで処理した。
(b)前記(a)で得られたカプセルを実施例16bの手順に従って塩化カルシウムで処理した。
【0088】
実施例18:軟質カプセルのインビトロ崩壊実験
実施例16および17で得られた軟質カプセルに対してUSP23に記載の人工胃液および人工小腸液とペクチネックスウルトラSP-Lを人工小腸液に1重量%で加えて製造した人工大腸液を用いてインビトロ崩壊実験を行った。各試験は胃液で2時間および小腸液で4時間に次いで大腸液に露出させることからなった。
」(段落【0083】?【0088】)

・甲第5号証
(5-a)「【請求項1】DE値40%以下であるペクチンを含有し、二価の陽イオン源を含まず、pH3以下でゲル状となるものであって、胃液との接触によりゲル化することを特徴とする血糖値上昇抑制液状食品。」(特許請求の範囲)
(5-b)「一方、DE値40%以下のペクチンの水溶液がタンパク質や二価の陽イオンや砂糖及びそれに類似する溶質の非存在下でもゲル化することについてはこれまで知られていなかった。」(段落【0013】)
(5-c)「本発明において、ペクチンは、前記のように、柑橘類、リンゴ等の植物から精製されたものであり、ペクチンの基本構成単位であるD-ガラクチュロン酸のエステル化度(DE値)が40%以下のものを用いる。DE値は好ましくは35%以下である。DE値が40%より大であると胃内のゲル化が不十分である。」(段落【0016】)
(5-d)「本発明の液状食品は、予め二価の陽イオン等の非存在下の酸性条件でゲル化させるか、あるいは胃液との接触によりゲル化することにより胃内ではゲル状を維持し、腸液と接触した際に崩壊するものである。」(段落【0019】)
(5-e)「1)ペクチンのDE値とゲル強度
上記手法を用い、1%濃度におけるペクチンのDE値とゲル強度に関する実験結果を図1に示した。図1から明らかなように、DE値40%以下のペクチンの溶液は胃内酸性下のpHでゲル状となった。また、DE値が40%を超えるペクチンは胃内酸性下でのゲル化能を有していなかった。」(段落【0028】)
(5-f)「4)ペクチン濃度とゲル強度およびゲル崩壊度
DE値3%および25%のペクチンを用いてペクチン濃度を0.1?5重量%まで変化させ、上記ゲル強度測定法およびゲル崩壊度測定法に従って実験を行い、ゲル強度およびゲル崩壊度を測定した。結果を図4に示した。図4より、DE値3%のペクチンのゲル強度は2?5%のペクチン濃度で飽和してしまったが、DE値25%のペクチンでは本実験範囲内で濃度に比例してゲル強度が上昇した。一方、ゲル崩壊度に関してはDE値の影響は少なく、ペクチン濃度に大きく依存することが示された。」(段落【0031】)
(5-g)「

」(第5頁【図1】)
(5-h)「

」(第7頁【図4】)

・甲第6号証
(6-a)「1.治療薬と、低エステル化度ペクチンと、水性キャリアとを有し、投与部位でゲル化し、または、ゲル化するように適応可能である粘膜表面に投与するための単一成分の液体合成物。」(特許請求の範囲)
(6-b)「我々は、驚くことに、あるペクチン材料、すなわち、低DEペクチン材料が単一成分、単純な液体製剤(すなわち、水性キャリア(aqueous carrier))の形で投与されてもよいことが分かった。その液体製剤は、鼻、直腸、膣腔、目、咽喉の裏側の粘膜に投与されるとき、ゲル化し、または、ゲル化するように簡単に適応することできる。また、我々は、驚くことに、生理学的に許容されるpH値で、はるかに減少したカルシウム濃度、すなわち、膣内腔(vaginal lumen)、直腸腔(rectal cavity)および目からの涙(tear fluid of the eye)と同様に鼻の分泌物の中から生理学的に発見されたカルシウムによって、ゲル化が起こりうることが分かった。」(第12頁下から第9?1行)
(6-c)「本発明の第一の側面によると、治療薬と、低DEペクチンと、水性キャリアとを有し、投与部位でゲル化し、または、ゲル化するように適応可能である粘膜表面に投与するための提供された単一成分の液体薬学的合成物(single component liquid pharmaceutical composition)がある。
我々は、特に、そのような合成物が、外来的に(extraneously)(すなわち、別々におよび/または独立に)加えられた(同時に、または、続けて)カルシウム(または他の二価金属)イオン溶液が存在しない状態で、粘膜表面に投与されたとき、または、投与された直後に投与部位でゲル化し、または、ゲル化するように適応することができることが分かった。治療薬と、低DEペクチンと、水性キャリアとを有し、直接粘膜表面へ投与するための提供された単一成分の液体薬学的合成物があり、その合成物は、同じ部位に投与された二価金属イオンの外来的な源(extraneous source)(例えば、溶液)が存在しない状態で、投与部位でゲル化するように適応可能である。」(第13頁第1?13行)
(6-d)「我々は、例えば、The Chemistry and Technology of Pectin,Academic Press,New York(1991),p.192の中でWalterの記事に記載されているように、エステル化したガラクツロン酸単位体(galacturonic acid units)のパーセンテージを”エステル化度(DE)”という。我々は、ガラクツロン酸単位体の50%未満、好ましくは、35%未満がエステル化されたペクチンを”低DE”という。」(第14頁第7?11行)

(2)請求人の主張
請求人は、本件特許の請求項1及び2に係る発明の、(2-1)甲第1号証に記載された発明と甲第5号証記載の発明との組み合わせ、(2-2)甲第1号証に記載された発明と甲第6号証に記載された発明との組み合わせ、(2-3)甲第2号証に記載された発明と甲第5号証に記載された発明との組み合わせ、(2-4)甲第2号証に記載された発明と甲第6号証に記載された発明との組み合わせからの容易想到性について、以下のように主張している。

(2-1)甲第1号証に記載された発明と甲第5号証記載の発明との組み合わせからの容易想到性について
甲第5号証には、DE値40%以下であるペクチンを含有し、二価の陽イオン源を含まず、pH3以下でゲル状となるものであって、胃液との接触によりゲル化することを特徴とする血糖値上昇抑制液状食品が記載されている(請求項1)。ここで、使用されるペクチンはDE値40%以下、好ましくは35%以下でものでなければならず、DE値が40%を超えると胃内でのゲル化が不十分となるので使用できない(段落【0016】)。該液状食品は、胃内ではゲル状を維持し、腸液と接触した際に崩壊するものである(段落【0019】)。即ち、腸溶性である。
従って、甲第5号証の記載に接した当業者が、甲第1号証において、胃に抵抗性のフィルム形成組成物であって、ゲル化剤を含まない組成物を製造するに際して、胃内でのゲル化をより確実なものとするために、即ち、腸溶性軟質カプセルの胃への抵抗性をより確実なものとするために、胃に抵抗性の天然ポリマーであるペクチンとして、甲第5号証記載のDE値40%以下のペクチンを使用することを考えることは、当業者にとって極めて容易なことである。
なお、低メトキシルペクチンのエステル化度及び配合量の上限及び下限を規定することは当業者なら当然実施する程度のことであり、そのことに何ら進歩性はない。
また、甲第5号証の実施例1の図1を見れば、DE値25%及び30%のペクチンで良好なゲル強度が得られているのであるから、当業者なら、DE値40%以下のペクチンの中から、かかるDE値25%及び30%程度のペクチンを、甲第1号証記載の発明におけるペクチンとして使用してみようと考えることは当然のことであり、そうすれば、本件請求項1記載の発明の構成要件A3と同一になるのである。
故に、本件請求項1、2記載の発明は、甲第1号証記載の発明と甲第5号証記載の発明との組み合わせから、当業者が容易に発明することができたものに過ぎない。

(2-2)甲第1号証に記載された発明と甲第6号証に記載された発明との組み合わせについて
甲第6号証は、治療薬と、低エステル化ペクチンとを有する粘膜表面へ投与するための液体薬学的合成物に関し、該液体薬学的合成物は、二価金属イオンの外来的な源が存在しない状態において、投与部位でゲル化し、または、ゲル化するように適応可能であることが記載され(要約等)、該低エステル化ペクチンとして、エステル化度35%未満のペクチンが好ましいことが記載されている(第14頁第7?11行)。
故に、二価金属イオンの外来的な源が存在しない状態、即ち、ゲル化剤である二価金属イオンを含まない状態において、体内で容易にゲル化するペクチンは、エステル化度35%未満の低エステル化ペクチンであることは明らかである。
従って、甲第6号証の記載に接した当業者が、甲第1号証において、胃に抵抗性のフィルム形成組成物であって、ゲル化剤を含まない組成物を製造するに際して、胃内でのゲル化をより確実なものとするために、即ち、腸溶性軟質カプセルの胃への抵抗性をより確実なものとするために、胃に抵抗性の天然ポリマーであるペクチンとして、甲第6号証記載のエステル化度35%未満の低エステル化ペクチンを使用することを考えることは、当業者にとって極めて容易なことである。
故に、本件請求項1、2記載の発明は、甲第1号証記載の発明と甲第6号証記載の発明との組み合わせから、当業者が容易に発明することができたものに過ぎない。

(2-3)甲第2号証に記載された発明と甲第5号証記載の発明との組み合わせからの容易想到性について
甲第2号証記載の発明は、ゼラチンと、大腸酵素によって分解され得る多糖類を含む大腸特異的薬物伝達組成物であり、実施例14には、ゼラチン、水、可塑剤であるグリセロール、及び、ペクチンを含み、多価金属イオンを含まず、かつペクチン含有量が、ゼラチン100重量部に対して10.2重量部である組成物をロータリーダイに供給して軟質カプセルを製造したことが記載されている。
これを、本件請求項1記載の発明と対比すると、甲2号証には、本件請求項1記載の発明の構成要件A2及びA3、即ち、「ペクチンがエステル化度27%?35%の低メトキシルペクチンである。」ことを除く構成要件A、及び構成要件B、C、Dが記載されている。
甲第5号証に記載された発明は、上記(2-1)で記載したとおりであり、甲第5号証の記載に接した当業者が、甲第2号証記載の実施例14における大腸特異的薬物伝達組成物において、ゲル化剤である二価金属イオンを含まない状態における組成物が胃で劣化又は分解せず、かつ組成物が胃で含有薬物を放出しないようにするために、ペクチンとして、甲第5号証記載のDE値40%以下のペクチンを使用することを考えることは、当業者にとって極めて容易なことである。
故に、本件請求項1、2記載の発明は、甲第2号証記載の発明と甲第5号証記載の発明との組み合わせから、当業者が容易に発明することができたものに過ぎない。
なお、被請求人は答弁書の中で、甲第2号証記載の発明は高メトキシルペクチンを使用しているので甲第5号証と組み合わせることはできないと主張するが、これらの証拠の組合せにおいて、甲第2号証で使用したペクチンが高メトキシルペクチンであるか低メトキシルペクチンであるかは関係もなく、実施例14で使用したペクチンが高メトキシルペクチンであるなら、そもそも胃での抵抗性という効果が得られないのであるから、当業者なら、より一層、甲第5号証記載のペクチンを使用してみようと考えることは当然のことである。

(2-4)甲第2号証に記載された発明と甲第6号証記載の発明との組み合わせからの容易想到性について
甲第6号証に記載された発明は、上記(2-2)で記載したとおりであり、甲第6号証の記載に接した当業者が、甲第2号証記載の実施例14における大腸特異的薬物伝達組成物において、ゲル化剤である二価金属イオンを含まない状態における組成物が胃で劣化又は分解せず、かつ組成物が胃で含有薬物を放出しないようにするために、ペクチンとして、甲第6号証記載のエステル化度35%未満の低エステル化ペクチンを使用することを考えることは、当業者にとって極めて容易なことである。
故に、本件請求項1、2記載の発明は、甲第2号証記載の発明と甲第6号証記載の発明との組み合わせから、当業者が容易に発明することができたものに過ぎない。

(3)検討
以下、まず、甲第1号証を主引用例とする請求人の上記主張(2-1)、(2-2)について検討する。

甲第1号証に記載される事項については、「6-1.無効理由1について」の(3)項に記載したとおりであり、甲第1号証には、構成A1、B、C、Dが記載されているということができる。
甲第5号証の特許請求の範囲には、「DE値40%以下であるペクチンを含有し、二価の陽イオン源を含まず、pH3以下でゲル状となるものであって、胃液との接触によりゲル化することを特徴とする血糖値上昇抑制液状食品。」(摘記事項(5-a))が記載され、発明の詳細な説明には、ペクチンは、エステル化度(DE値)が40%以下、好ましくは35%以下であるものを用いること、DE値が40%より大であると胃内のゲル化が不十分であること(摘記事項(5-b))、液状食品は、予め二価の陽イオン等の非存在下の酸性条件でゲル化させるか、あるいは胃液との接触によりゲル化することにより胃内ではゲル状を維持し、腸液と接触した際に崩壊するものであること(摘記事項(5-c))、実施例の図1の記載からDE値が25前後でゲル強度が高くなること(摘記事項(5-e))が記載される。
しかしながら、甲第5号証は、エステル化度(DE値)が40%以下、好ましくは35%以下であるペクチンが、二価の陽イオン等の非存在下の酸性条件でゲル化し、腸液と接触した際に崩壊すること、DE値が25前後でゲル強度が最大であることを開示するにとどまり、エステル化度が35%以下である低メトキシルペクチンを、ゼラチンを主成分とする腸溶性ソフトカプセルの皮膜に用いることに関する記載はなく、また、エステル化度を特定範囲とすることによりソフトカプセルの腸溶性や成形性が優れることについての記載もない。
また、甲第6号証の特許請求の範囲には、「1.治療薬と、低エステル化度ペクチンと、水性キャリアとを有し、投与部位でゲル化し、または、ゲル化するように適応可能である粘膜表面に投与するための単一成分の液体合成物。」(摘記事項(6-a))が記載され、発明の詳細な説明には、「生理学的に許容されるpH値で、はるかに減少したカルシウム濃度、すなわち、膣内腔(vaginal lumen)、直腸腔(rectal cavity)および目からの涙(tear fluid of the eye)と同様に鼻の分泌物の中から生理学的に発見されたカルシウムによって、ゲル化が起こりうることが分かった。」(摘記事項(6-b))と記載され、甲第6号証は、低エステル化度ペクチンが生理学的に発見されたカルシウムによってゲル化すること、すなわち、カルシウム等の多価金属イオンを含まない甲第1号証に記載された発明と異なり、低エステル化度ペクチンのゲル化にはカルシウムが必要であることを開示するものであり、低メトキシルペクチンを、ゼラチンを主成分とする腸溶性ソフトカプセルの皮膜に用いることに関する記載はなく、また、エステル化度を特定範囲とすることによりソフトカプセルの腸溶性や成形性が優れることについての記載もない。
そして、甲第1号証においては、種々のエステル化度のペクチンを同様に使用し得るものとして記載しており、甲第1号証の記載からは、腸溶性ソフトカプセルにおける、腸溶性の向上のために、ペクチンのメチルエステル基の含有量を調整することは導き出すことができないことについては、上記したとおりである。
そうしてみると、甲第1号証に記載された発明において、腸溶性ソフトカプセルにおける、腸溶性の向上のために、ゼラチンを主成分とする腸溶性ソフトカプセルの成形性や腸溶性に関する記載のない甲第5号証、第6号証の記載から、ペクチンのエステル化度に注目し、特にエステル化度が27?35%の低メトキシルペクチンを用いるものとすること、さらに、低メトキシルペクチンの含有率を、ゼラチン100重量部に対して10重量部?30重量部とすることは、当業者といえども容易にはなし得ないものと認められる。
なお、本件発明1の効果に関する特許明細書の記載は、上記「6-1.無効理由1について」の(3)項に記載したとおりであり、実施例により裏付けられた効果は、甲第1号証、甲第5号証及び甲第6号証の記載から予測し得ない格別顕著なものであると認められる。
したがって、甲第1号証、並びに甲第5号証又は甲第6号証の記載から、本件発明1の構成A2?A4を想到することは、当業者といえども容易にはなし得ない。

次に、甲第2号証を主引用例とする請求人の上記主張(2-3)、(2-4)について検討する。
甲第2号証の特許請求の範囲には、「ゼラチンと、大腸酵素によって分解され得る多糖類を含む大腸特異的薬物伝達組成物。」(摘記事項(2-a))が記載され、発明の詳細な説明の実施例14には、ゼラチン、水、可塑剤であるグリセロール、及び、ペクチンを含み、多価金属イオンを含まず、かつペクチン含有量が、ゼラチン100重量部に対して10.2重量部である組成物をロータリーダイに供給して軟質カプセルを製造したこと(摘記事項(2-f))が記載されているのみであり、実施例14において用いられたペクチンについて、本件発明1の構成A2、A3に相当するエステル化度に関する記載はなく、甲2号証には、本件発明1の構成A1、及び構成B、C、Dが記載されているということができる。
そして、甲第2号証に記載された発明において、使用するペクチンのエステル化度は特定されないものであり、また、ペクチンのエステル化度に注目して、ソフトカプセルの腸溶性や成形性を向上させることについて何ら記載も示唆もないことから、甲第1号証に記載された発明において検討したと同様な理由により、腸溶性ソフトカプセルにおける、腸溶性や成形性の向上のために、ペクチンのメチルエステル基の含有量を調整することは導き出すことができない。
また、甲第5号証、甲第6号証に記載された発明については、上記したとおりである。
そうしてみると、甲第2号証に記載された発明において、腸溶性ソフトカプセルにおける、腸溶性の向上のために、ゼラチンを主成分とする腸溶性ソフトカプセルの成形性や腸溶性に関する記載のない甲第5号証、第6号証の記載から、ペクチンのエステル化度に注目し、特にエステル化度が27?35%の低メトキシルペクチンを用いるものとすること、さらに、低メトキシルペクチンの含有率を、ゼラチン100重量部に対して10重量部?30重量部とすることは、当業者といえども容易にはなし得ないものと認められる。
なお、本件発明1の効果に関する特許明細書の記載は、上記「6-1.無効理由1について」の「(3)」に記載したとおりであり、実施例により裏付けられた効果は、甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証の記載から予測し得ない格別顕著なものであると認められる。
したがって、甲第2号証、並びに甲第5号証又は甲第6号証の記載から、本件発明1の構成A2?A4を想到することは、当業者といえども容易にはなし得ない。

次に、本件発明2について検討する。
本件発明2の構成F2、F3、F4は、それぞれ、本件発明1の構成A2、A3、A4に相当するものであり、本件発明2と甲第1号証に記載された発明との相違点である構成F2?F4については、本件発明1の構成A2、A3、A4について上記検討したとおりである。
したがって、甲第1号証、並びに甲第5号証又は甲第6号証の記載から、本件発明2の構成F2?F4を想到することは、当業者といえども容易にはなし得ない。


(4)無効理由2のまとめ
したがって、本件発明1、2は、甲第1号証及び甲第2号証のいずれを主引用例としたとしても、甲第5号証及び甲第6号証の記載から、本件発明1の構成A2?A4並びに本件発明2の構成F2?F4を、当業者が容易に想到することができないことから、甲第1号証、甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明できたものとは認められないので、無効理由2には理由がない。

6-3.無効理由3について

(1)請求人の主張
請求人は、訂正請求の訂正事項5及び6について、これらの段落には、もともと、エステル化度の更に好適な範囲が20?30%であることを記載していたのであるから、段落【0039】における該範囲等を削除する訂正、及び、段落【0040】において、該範囲を27?35%へと変更する訂正は、いずれも、エステル化度の更に好適な範囲を変更するもの、即ち、発明の内容を変更するものであるから、訂正は認められないものであり、審判請求書で主張した特許法第36条第6項第1号の無効理由、すなわち、「本件請求項1記載の発明において、低メトキシルペクチンのエステル化度は20?40%であるが、本件特許明細書において、上記範囲のエステル化度における具体例が示されているのは、エステル化度が27%、30%及び35%の低メトキシルペクチンのみであって、エステル化度が20%及び40%のもので腸溶性に優れるソフトカプセルを得ることができたという裏付けがないから、本件特許の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載していない範囲について特許を受けたものである。」という無効理由は、依然として解消されていない旨を主張する。

(2)検討
上記「第2 訂正請求について」の「2.訂正の可否に対する判断」のイ項において記載した通り、訂正請求による訂正は認められるものである。
そうしてみると、本件特許明細書には、段落【0035】?【0038】において、低メトキシルペクチンのエステル化度は27?35%の低メトキシルペクチンを用いて、腸溶性に優れるソフトカプセルを得ることができたことが裏付けられており、本件特許の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載していない範囲について特許を受けたものではないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するとする請求人の主張は失当である。

(3)まとめ
したがって、本件発明1、2は、発明の詳細な説明に記載していない範囲について特許を受けたものではないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反しておらず、無効理由3には理由がない。

6-4.まとめ

以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては本件請求項1、2に係る特許を無効とすることはできない。


第7 むすび

上記のとおりであるから、無効2009-800228については、その請求は成り立たない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、いずれも、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
腸溶性ソフトカプセルの製造方法及び腸溶性ソフトカプセル
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸溶性ソフトカプセルの製造方法及び腸溶性ソフトカプセルに関するものであり、特に、ロータリーダイ法による腸溶性ソフトカプセルの製造方法、及び該製造方法により製造される腸溶性ソフトカプセルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ソフトカプセルの皮膜基剤として一般的に用いられているゼラチンは、温度変化により可逆的にゾル・ゲル変化すること、皮膜形成能に優れると共に形成された皮膜の機械的強度が高いこと、体内で崩壊又は溶解し易いこと、それ自体が栄養的価値を有し体内に吸収され易いこと等、皮膜基剤としての利点を多く有している。しかしながら、ゼラチンは胃酸に対して易溶性であるため、胃酸によって効能を失う成分、或いは、胃の組織に刺激を与える成分等をソフトカプセルの内容物とするためには、胃では崩壊又は溶解せずに腸に到達してから崩壊又は溶解する性質(腸溶性)を、ゼラチン皮膜に付与する必要がある。
【0003】
従来、ゼラチン皮膜に腸溶性が付与されたカプセルとしては、成形されたカプセルの外表面にゼインやセラック等の腸溶性物質がコーティングされたカプセルが実施されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、アルギン酸塩、低メトキシルペクチン、ジェランガムなど、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の多価金属イオンによりゲル化して耐酸性を示す多糖類をカプセル皮膜に含有させることにより、カプセル皮膜を腸溶性とする技術が開示されている。この技術は、カプセルの成形後に多価金属イオンを含有する水溶液に浸漬することにより多糖類をゲル化し、カプセル皮膜の表面に耐酸性の外皮を形成する技術(例えば、特許文献2参照)と、多価金属イオンの非水溶性塩(難水溶性塩)を予めカプセル皮膜に含有させておき、胃酸中で多価金属イオンを解離させて多糖類にゲル化反応を起こさせる技術(例えば、特許文献3参照)とに大別される。
【0005】
【特許文献1】特開2004-18443号公報
【特許文献2】特開昭61-151127号公報
【特許文献3】特開平4-27352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、セラック等が外表面にコーティングされた従来のカプセルでは、均一なコーティング層が形成されにくく、表面の粗さによって外観が損なわれるという問題があった。ここで、ソフトカプセルは、透明性と独特の光沢に高い市場的価値を有するため、美しい外観が損なわれるという問題は重大であった。また、カプセルの成形工程に加えてコーティングの工程が必要であるため、その設備を必要とすると共に工程が煩雑となり、製造コストも嵩むという問題があった。加えて、コーティング層の剥離によって、カプセルの腸溶性が損なわれるというおそれがあった。
【0007】
一方、皮膜中に上記の多糖類を含むカプセルを成形し、その後に多価金属イオンを含有する水溶液にカプセルを浸漬して皮膜をゲル化する従来技術では、浸漬液からカプセル皮膜に水分が移行し、更には内容物にまで水分が及ぶおそれがあった。また、カプセルの成形工程に加えて浸漬のための工程が必要であるため、その設備を必要とすると共に工程が煩雑となり、製造コストも嵩むという問題があった。更に、浸漬液によってカプセルの表面が一部溶解して滑らかさや光沢が失われ、カプセルの外観が損なわれるという問題があった。
【0008】
加えて、上記の多糖類では、アルギン酸塩、低メトキシルペクチンはゼラチンとは異なり温度によってゾル・ゲル変化する性質を有さず、ジェランガムは常温に近い温度でゾル・ゲル変化するゼラチンとはかけ離れた温度でゾル・ゲル変化するため、ロータリーダイ法でソフトカプセルを成形する場合のヒートシール性は、主にゼラチンによって担保されなくてはならない。そのため、皮膜液中の多糖類の配合割合を増加させると、ゼラチンの割合の低下に伴って接着性が低下し、カプセルの成形ができないおそれがあった。そのため、特許文献2に代表される従来技術では、ソフトカプセルの成形方法は、ヒートシールを必要としない滴下法(シームレスカプセル法)によって行われていた。また、上記の多糖類は増粘多糖類とも称され水溶液の粘度が高いため、皮膜液からシートを成形し、二枚のシートのヒートシールによりカプセル成形を行うロータリーダイ法では、カプセル成形がしにくいおそれがあり、その点からもカプセルの成形は滴下法によって行われていた。
【0009】
ここで、滴下法は、皮膜液の表面張力を利用してカプセルを成形する方法であるため、成形されるカプセルの形状は真球に限定される。そのため、oval型、round型、suppository型、oblong型、tube型の他、しずく型、三角型、ハート型など、鋳型の形状に応じて種々の形状が可能なロータリーダイ法とは異なり、滴下法ではカプセル形状に選択の余地がないという不都合があった。また、滴下法ではカプセルのサイズも小さいものに限定されるため、内容物の有効成分を必要量摂取するためには、多数個のカプセルを服用しなくてはならないという問題があった。
【0010】
これに対し、特許文献3では、pH調整剤及びキレート剤の添加によって、多糖類を含む皮膜液の粘度の増加を抑制することにより、ロータリーダイ法でカプセルの成形を行う技術を開示している。しかしながら、この技術では予めカプセル皮膜中に非水溶性のカルシウム塩を含有させているため、皮膜が白く濁って透明感が失われ、カプセルの外観が損なわれるという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、形状及び大きさの多様なカプセルを成形可能なロータリーダイ法を適用でき、腸溶性に優れると共に外観が美しいカプセルを、簡易な工程で製造することができる腸溶性ソフトカプセルの製造方法、及び該製造方法により製造される腸溶性ソフトカプセルの提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる腸溶性ソフトカプセルの製造方法は、「ゼラチン、水、可塑剤、及び、エステル化度が27%?35%でゼラチン100重量部に対して10重量部?30重量部の低メトキシルペクチンを含有するカプセル皮膜液を調製する調製工程と、ロータリーダイ式成形装置により、前記カプセル皮膜液から形成されたカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセルを成形する成形工程とを具備し、低メトキシルペクチンをゲル化する多価金属イオンを含む塩は前記カプセル皮膜液に添加されないと共に、成形された前記ソフトカプセルを前記多価金属イオンを含むゲル化液に浸漬する工程は具備しない」ものである。
【0013】
「ペクチン」は、ガラクチュロン酸とそのメチルエステルが重合した多糖類であり、「エステル化度(DE:Degree of Esterification)」とは、全ガラクチュロン酸のうちメチルエステルの形で存在するガラクチュロン酸の割合をいう。そして、エステル化度が50%以上のペクチンが「高メトキシルペクチン(HMペクチン)」と称されるのに対し、それよりエステル化度の低いペクチンは「低メトキシルペクチン(LMペクチン)」と称されている。
【0014】
低メトキシルペクチンと高メトキシルペクチンとでは、ゲル化の機構が大きく相違し、高メトキシルペクチンがpH3.5以下、約55%以上の糖の存在で水素結合によるゲルを形成するのに対し、低メトキシルペクチンは多価金属イオンの存在でゲル化する。このゲル化機構については、ガラクチュロン酸のカルボキシル基間を多価金属イオンがイオン結合により架橋するという考え方と、ガラクチュロン酸の孤立電子対と多価金属イオンとの配位結合によるとする考え方(卵箱モデル)とがある。ここで、「多価金属イオン」としては、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、ストロンチウム、バリウム、ニッケル等の金属イオンを例示することができる。
【0015】
「可塑剤」としては、グリセリン、ソルビトール、マルチトール、ポリエチレングリコール等を、単独又は併用して使用することができる。なお、本発明の「カプセル皮膜液」には、ゼラチン、水、可塑剤に加えて、カラメルやタール色素等の着色剤、酸化チタン等の光隠ぺい剤、パラベン等の防腐剤を含有させても構わない。
【0016】
カプセル皮膜に充填する「内容物」としては、医薬成分、健康食品成分、栄養補助成分を油剤に溶解又は懸濁させたものを例示することができ、特に限定されるものではないが、乳酸菌など胃酸によって活性を失いやすい成分や、鉄分など胃の細胞壁に刺激を与えやすい成分は、本発明の内容物とする意義が高い。
【0017】
本発明者らは、検討の結果、ゼラチンを基剤とするカプセル皮膜液に、エステル化度が27?35%の低メトキシルペクチンを、ゼラチン100重量部に対して10重量部?30重量部添加することにより、その他の条件は腸溶性ではないソフトカプセルをロータリーダイ式成形装置を用いて製造する定法と同一の製造方法で、腸溶性に優れるソフトカプセルを、良好な成形性で製造できることを見出した。従って、従来は、温度によってゾル・ゲル変化する性質を有しない低メトキシルペクチンを使用した場合、ロータリーダイ法による腸溶性ソフトカプセルの成形が困難であったところ、本発明によれば、ロータリーダイ法によって大きさ及び形状の多様な腸溶性ソフトカプセルを製造することができる。
【0018】
ここで、低メトキシルペクチンのエステル化度が27?35%の範囲外の場合、及び、ゼラチン100重量部に対する低メトキシルペクチンの割合が10重量部に満たない場合は、低メトキシルペクチンのゲル化によって付与される胃酸に対する耐性が不十分なものとなる。一方、ゼラチン100重量部に対する低メトキシルペクチンの割合が30重量部を超える場合は、カプセル皮膜液の粘度が増加すると共に、カプセル皮膜のヒートシール性が低下することにより、ロータリーダイ法によるソフトカプセルの成形性が低下する。なお、ゼラチン100重量部に対する低メトキシルペクチンの割合が10?20重量部であれば、上記の相反する作用の調和を図ることができ、より望ましい。
【0019】
また、上述の従来技術とは異なり、低メトキシルペクチンをゲル化するために、多価金属イオンの非水溶性塩をカプセル皮膜に予め添加しておく必要がないため、カプセル皮膜が白く濁ることがなく、透明感のある美しい腸溶性ソフトカプセルを製造することができる。
【0020】
更に、上述の従来技術とは異なり、成形されたカプセルを多価金属イオンを含有するゲル化液に浸漬する工程が必要ないため、付加的な設備や装置を要することなく、簡易な工程でコストを低減して、腸溶性ソフトカプセルを製造することができる。
【0021】
加えて、上述の従来技術とは異なり、成形されたカプセルの表面にセラック等の腸溶性物質をコーティングする工程も必要ないため、付加的な設備や装置を要することなく、簡易な工程でコストを低減して、腸溶性ソフトカプセルを製造することができる。
【0022】
次に、本発明にかかる腸溶性ソフトカプセルは、「ロータリーダイ式成形装置で成形されたことにより形成された継ぎ目を有するソフトカプセルであって、カプセル皮膜は、ゼラチン、可塑剤、及び、エステル化度が27%?35%でゼラチン100重量部に対して10重量部?30重量部の低メトキシルペクチンを含有していると共に、低メトキシルペクチンをゲル化する多価金属イオンを含む塩を含有しておらず、前記多価金属イオンによりゲル化した皮膜外皮を有していない」ものである。
【0023】
「継ぎ目」は、ロータリーダイ式成形装置による成形の際に、カプセル皮膜液から形成された二枚のシートを一対のダイロール間に送り、内容物の充填と共に両シートをヒートシールする際に形成される接合線である。かかる継ぎ目は、ロータリーダイ法により成形されたソフトカプセルに特有な構成であり、滴下法により成形されたソフトカプセル(シームレスカプセル)には存在しない。
【0024】
上記構成の腸溶性ソフトカプセルは、上述の腸溶性ソフトカプセルの製造方法により製造されるものであり、腸溶性に優れている。また、ロータリーダイ式製造装置により成形されるソフトカプセルであるため、大きさ及び形状の自由度が高い利点を有している。加えて、上述の腸溶性ソフトカプセルの製造方法により製造される本発明の腸溶性ソフトカプセルは、カプセル皮膜中に炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム等の多価金属イオンの塩は含有しておらず、多価金属イオンを含む水溶液に浸漬されることによりゲル化された皮膜外皮も有していないと共に、外表面に腸溶性物質のコーティング層をも具備しないため、透明感を有する美しい外観を呈している。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明の効果として、形状及び大きさの多様なカプセルを成形可能なロータリーダイ法を適用でき、腸溶性に優れると共に外観が美しいカプセルを、簡易な工程で製造することができる腸溶性ソフトカプセルの製造方法、及び該製造方法により製造される腸溶性ソフトカプセルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の最良の一実施形態である腸溶性ソフトカプセルの製造方法、及び、該製造方法により製造される腸溶性ソフトカプセルについて説明する。
【0027】
本実施形態の腸溶性ソフトカプセルの製造方法は、ゼラチン、水、可塑剤、及び、エステル化度が27?35%でゼラチン100重量部に対して10?30重量部の低メトキシルペクチンを含有するカプセル皮膜液を調製する調製工程と、ロータリーダイ式成形装置により、カプセル皮膜液から形成されたカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセルを成形する成形工程とを具備する。そして、本実施形態の腸溶性ソフトカプセルの製造方法では、低メトキシルペクチンをゲル化する多価金属イオンを含む塩がカプセル皮膜液に添加されることはないと共に、成形されたソフトカプセルを多価金属イオンを含むゲル化液に浸漬する工程も具備しないものである。また、本実施形態の腸溶性ソフトカプセルの製造方法により製造される腸溶性ソフトカプセルは、ロータリーダイ式成形装置で成形されたことにより形成された継ぎ目を有するソフトカプセルであって、カプセル皮膜に、ゼラチン、及び、エステル化度が27%?35%でゼラチン100重量部に対して10重量部?30重量部の低メトキシルペクチンを含有しているものである。
【0028】
より詳細に説明すると、調製工程では、まず、低メトキシルペクチン、可塑剤、及び水を加温溶解させる。更にゼラチンを添加し、混合し加温溶解させて、所望する粘度の混合液を調整する。このとき、必要に応じて、着色剤、光隠ぺい剤、防腐剤等の添加物を配合することができる。その後、混合液を脱泡することにより、カプセル皮膜液を得ることができる。
【0029】
成形工程は、ロータリーダイ式の成形装置を使用して行われるが、一般的なロータリーダイ式成形装置は、カプセル皮膜液をシート状に成形するキャスティングドラムと、外表面に成形鋳型が形成された一対のダイロールと、ダイロール間に配されたくさび状のセグメントと、セグメント内に内容物を圧入すると共にセグメントの先端から内容物を押し出すポンプとを主に具備している。
【0030】
成形工程では、まず、60?100℃に保持されてゾル状態にあるカプセル皮膜液が、キャスティングドラム表面に流延され、冷却されてゲル化することによりシート化される。次に、形成されたシートの二枚が、セグメントに沿って一対のダイロール間に送入される。そして、一対のダイロールの相反する方向への回転に伴い、二枚のシートがヒートシールされて上方に開放したカプセルが形成されると、この中にセグメントから押し出された内容物が充填される。これと同時に、二枚のシートが上部でヒートシールされ、閉じた内部空間に内容物が充填されたソフトカプセルが形成される。なお、成形工程で成形されたカプセルは、所定の水分含量となるまで調湿乾燥機内で乾燥させることができる。
【0031】
次に、本実施形態の腸溶性ソフトカプセルの製造方法を、上記の構成とした根拠について説明する。まず、ゼラチンを基剤とするカプセル皮膜に腸溶性を付与する材料について検討した結果を示す。検討においては、可塑剤としてグリセリンを使用し、ジェランガム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、低メトキシルペクチン、高メトキシルペクチンを単独あるいは併用して、表1に示す皮膜組成A?Hのカプセル皮膜液をそれぞれ調製した。それぞれのカプセル皮膜液を用い、ロータリーダイ式成形装置で上記と同様にソフトカプセルを成形した。なお、表1を含め、以下では、ゼラチン100重量部に対する重量部で皮膜組成を表示している。
【0032】
各皮膜組成のソフトカプセルについて、日本薬局方に規定された崩壊試験法に則り、腸溶性の評価を行った。その結果を、表1に併せて示す。ここで、第一液は耐胃液性を評価するためのpH1.2の試験液であり、試験液中でソフトカプセルを120分上下運動させ、その後の観察において、カプセル皮膜が残存し内容物が漏出していない場合を「○」、カプセル皮膜は残存するが内容物が漏出している場合を「△」、カプセル皮膜が残存しない場合を「×」で表示している。また、第二液は耐腸液性を評価するためのpH6.8の試験液であり、試験液中でソフトカプセルを60分上下運動させ、その後の観察において、カプセル皮膜形状が残らない場合を「○」、カプセル皮膜が残存するが内容物が漏出している場合を「△」、カプセル皮膜が残存し内容物も漏出していない場合を「×」で表示している。従って、第一液及び第二液の双方に対して「○」の場合に、腸溶性カプセルとして優れていると判断することができる。
【0033】
【表1】

【0034】
表1から明らかなように、ゼラチンを基剤とするカプセル皮膜に低メトキシルペクチン(LMペクチン)を添加した場合に、優れた腸溶性を示した。また、低メトキシルペクチンを単独で添加した場合(皮膜組成D)は、低メトキシルペクチンをアルギン酸ナトリウムと併用した場合(皮膜組成F)より腸溶性に優れており、低メトキシルペクチンをカラギーナンと併用した場合(皮膜組成G)は腸溶性を示さなかった。そして、同じペクチンであっても、高メトキシルペクチン(HMペクチン)は、腸溶性を示さなかった(皮膜組成H)。なお、ジェランガム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナンを単独で用いた皮膜組成(それぞれ皮膜組成A,皮膜組成B,皮膜組成C)は、低メトキシルペクチンを単独で添加した場合(皮膜組成D)より添加量が少ないが、それより添加量を増加させると、カプセル皮膜液の粘度が増大してカプセル成形が困難となった。以上のことから、ゼラチンを基剤とするカプセル皮膜に腸溶性を付与するためには、カプセル皮膜液に低メトキシルペクチンを単独で添加することが好適であると考えられた。
【0035】
次に、低メトキシルペクチンのエステル化度(DE)と腸溶性との関係について、検討した結果を示す。表2に示すように、エステル化度が異なる低メトキシルペクチンを、それぞれゼラチン100重量部に対して20重量部添加した皮膜組成I?Mのカプセル皮膜液を調製し、ロータリーダイ式成形装置でソフトカプセルを成形した。成形されたソフトカプセルについて、上記と同様の崩壊性試験を行った。その結果を表2に併せて示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2に示したように、低メトキシルペクチンとしてエステル化度が27?35%のものを用いた場合に、腸溶性に優れるソフトカプセルを得ることができた。エステル化度がこれより小さい皮膜組成Iでは、カプセル皮膜が硬くて脆い様子が観察され、そのために第一液中で皮膜が崩壊して内容物が漏出したものと考えられた。これは、エステル化度が小さい場合は、ゲル化のための結合を担うガラクチュロン酸の割合が大きいため、ゲル化が急速に進行すると共にゲル化の程度が高いことに起因すると考えられた。
【0038】
一方、エステル化度が上記範囲より大きい皮膜組成Mでは、カプセル皮膜のゲル強度が弱い様子が観察され、そのために第一液中で皮膜がつぶれて内容物が漏出したものと考えられた。これは、エステル化度が大きい場合は、上記と逆にゲル化のための結合を担うガラクチュロン酸の割合が小さいため、ゲル化のための結合点の数が少なく、ゲル化の進行が遅いと共にゲル化の程度が低いことに起因すると考えられた。
【0040】
上記のエステル化度の範囲内である低メトキシルペクチンとして、エステル化度27%の低メトキシルペクチンを使用し、低メトキシルペクチンの添加量と腸溶性との関係を検討した結果を次に示す。表3に示すように、ゼラチン100重量部に対する低メトキシルペクチンの配合割合の異なる皮膜組成N?Tについて、カプセル皮膜液を調製し、調製されたカプセル皮膜液の粘度を測定した。ここで、粘度測定は、B型粘度計(ロータNo.4,回転速度6rpm)を使用し、測定温度75℃で行った。更に、調製されたカプセル皮膜液を用いてロータリーダイ式成形装置でソフトカプセルを成形し、成形されたソフトカプセルについて、上記と同様の崩壊性試験を行った。粘度の測定結果及び崩壊性試験の結果を、表3に併せて示す。
【0041】
【表3】

【0042】
表3に示したように、ゼラチン100重量部に対して低メトキシルペクチンを10?30重量部添加した場合に、優れた腸溶性を示した。低メトキシルペクチンの割合が10重量部に満たない皮膜組成N,Oでは、低メトキシルペクチンのゲル化によってゼラチン皮膜に付与される耐胃液性が不十分であると考えられた。一方、低メトキシルペクチンが30重量部を超える皮膜組成Tは、カプセル皮膜液の粘度が非常に高かった。そのため、ロータリーダイ式成形装置を用いた成形において取り扱いが困難であると共に、ヒートシール性が悪く、ソフトカプセルの成形を行うことができなかった。なお、ロータリーダイ式成形装置による成形の際の取り扱いのし易さを考慮すると、カプセル皮膜液の粘度は60000mPa・sを超えないことが望ましく、このことから、低メトキシルペクチンの添加量はゼラチン100重量部に対して10?20重量部とすると、更に好適であると考えられた。
【実施例】
【0043】
本実施形態の構成要件を具備する皮膜組成P,Q,R(J),K,L,Sのソフトカプセル(実施例のソフトカプセル)について、崩壊性試験の結果をまとめて表4に示すと共に、対照のために市販品について同様の崩壊性試験を行った結果を表4に示す。また、実施例及び市販品について、外観の観察結果を表4に併せて示す。ここで、市販品は、ソフトカプセルの表面にセラック・ゼインがコーティングされることにより、腸溶性が付与されているタイプである。
【0044】
【表4】

【0045】
表4に示したように、本実施例の腸溶性ソフトカプセルは、市販品より腸溶性に優れていた。また、カプセルにくすみが見られる市販品に対し、本実施例の腸溶性ソフトカプセルは、光沢を有すると共に透明性に優れた美しい外観を呈するものであった。
【0046】
上記のように、本実施形態の腸溶性ソフトカプセルの製造方法によれば、エステル化度が27?35%の低メトキシルペクチンを、ゼラチン100重量部に対して10?30%添加してカプセル皮膜を形成することにより、その他の条件は腸溶性を有しない通常のソフトカプセルの製造方法と同一として、特別な工程を要することなく、腸溶性に優れたソフトカプセルを製造することができる。
【0047】
そして、従来、温度によってゾル・ゲル変化する性質を有しない低メトキシルペクチンを使用して、ロータリーダイ法による腸溶性ソフトカプセルを成形することは困難であったところ、本実施形態によれば、ロータリーダイ法を適用して、大きさ及び形状の多様な腸溶性ソフトカプセルを良好な成形性で製造することができる。
【0048】
なお、ゼラチンについては、牛骨由来ゼラチン、牛皮由来ゼラチン、豚皮由来ゼラチン、豚骨由来ゼラチン、魚皮由来ゼラチンの何れを用いた場合であっても、本実施形態の製造方法によって、腸溶性に優れると共に美しい外観を呈するソフトカプセルを、良好な成形性で製造することができた。
【0049】
また、本実施形態では、腸溶性を付与するためにセラック等の腸溶性物質をソフトカプセル表面にコーティングする必要がないため、製造工程が極めて簡易であり、製造コストを低減できると共に、くすみのない透明感のある腸溶性ソフトカプセルを製造することができる。
【0050】
更に、従来技術とは異なり、低メトキシルペクチンをゲル化するために、多価金属イオンの非水溶性塩をカプセル皮膜液に添加する必要がないため、透明感のある腸溶性ソフトカプセルを製造することができる。
【0051】
加えて、従来技術とは異なり、成形されたカプセルを多価金属イオンを含有するゲル化液に浸漬する工程が必要ないため、製造工程が極めて簡易であり、製造コストを低減することができると共に、ゲル化液により硬化した外皮を有さず、表面が滑らかで透明感のある腸溶性ソフトカプセルを製造することができる。
【0052】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0053】
例えば、上記では、可塑剤として、ゼラチン100重量部に対して50重量部のグリセリンを添加する場合を例示したが、これに限定されず、グリセリンの含量はゼラチン100重量部に対して20?60重量部とすることができる。また、可塑剤の種類も、グリセリンに限定されるものではない。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチン、水、可塑剤、及び、エステル化度が27%?35%でゼラチン100重量部に対して10重量部?30重量部の低メトキシルペクチンを含有するカプセル皮膜液を調製する調製工程と、
ロータリーダイ式成形装置により、前記カプセル皮膜液から形成されたカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセルを成形する成形工程とを具備し、
低メトキシルペクチンをゲル化する多価金属イオンを含む塩は前記カプセル皮膜液に添加されないと共に、成形された前記ソフトカプセルを前記多価金属イオンを含むゲル化液に浸漬する工程は具備しない
ことを特徴とする腸溶性ソフトカプセルの製造方法。
【請求項2】
ロータリーダイ式成形装置で成形されたことにより形成された継ぎ目を有するソフトカプセルであって、
カプセル皮膜は、ゼラチン、可塑剤、及び、エステル化度が27%?35%でゼラチン100重量部に対して10重量部?30重量部の低メトキシルペクチンを含有していると共に、低メトキシルペクチンをゲル化する多価金属イオンを含む塩を含有しておらず、前記多価金属イオンによりゲル化した皮膜外皮を有していないことを特徴とする腸溶性ソフトカプセル。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2010-08-05 
出願番号 特願2008-215026(P2008-215026)
審決分類 P 1 113・ 537- YA (A61K)
P 1 113・ 121- YA (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三輪 繁  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 穴吹 智子
上條 のぶよ
登録日 2009-01-30 
登録番号 特許第4252619号(P4252619)
発明の名称 腸溶性ソフトカプセルの製造方法及び腸溶性ソフトカプセル  
代理人 大矢 正代  
代理人 大矢 正代  
代理人 前田 勘次  
代理人 前田 勘次  

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