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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B22C 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B22C |
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管理番号 | 1225239 |
審判番号 | 不服2008-27513 |
総通号数 | 132 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-12-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-10-29 |
確定日 | 2010-10-12 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第307888号「鋳放し表面仕上げが改良されたインベストメント鋳造」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 6月23日出願公開、特開平10-166105〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I.手続の経緯・本願発明 本願は、平成9年10月22日に特許出願(優先権主張:平成8年10月24日、米国)したものであって、平成19年10月9日付けの拒絶理由の通知に対して、平成20年1月9日付けで手続補正がされたが、同年7月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月29日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年11月20日付けで手続補正がなされたものである。 II.平成20年11月20日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成20年11月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.補正後の本願発明 本件補正のうち、請求項1についてする補正は、補正前に、 「鋳造部品の使い捨て模型の周りに鋳型を形成し、前記模型を加熱で溶融して前記鋳型から除去し、前記鋳型の中に溶湯を鋳込んで前記鋳造部品を形成するインベストメント鋳造法において、前記模型は、少なくとも1つのマトリックス構成要素と充填材微粒子とからなり、この充填材微粒子は、粒径が10ミクロン乃至70ミクロンの粒度範囲内にある略球形の粒子であることを特徴とするインベストメント鋳造法。」 であったものを、補正後に、 「鋳造部品の使い捨て模型の周りに鋳型を形成し、前記模型を加熱で溶融して前記鋳型から除去し、前記鋳型の中に溶湯を鋳込んで前記鋳造部品を形成するインベストメント鋳造法において、前記模型は、少なくとも1つのマトリックス構成要素と充填材微粒子とからなり、この充填材微粒子は、ビスフェノールA又はポリスチレンの樹脂粒子からなり、粒径が10ミクロン乃至70ミクロンの粒度範囲内にある略球形の粒子であることを特徴とするインベストメント鋳造法。」(以下、「本願補正発明1」という。) とするものである。 すなわち、上記補正は、補正前の請求項1に係る発明を特定する事項の一つである「充填材微粒子」について、「ビスフェノールA又はポリスチレンの樹脂粒子からなり」という特定事項を付加することによって、「充填材微粒子」を、材質の観点でさらに限定するものであるから、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当するといえる。 そこで、本願補正発明1が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かを、以下において更に検討する。 2.引用刊行物とその記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭63-49343号公報(以下、「引用例1」という。)、特開平5-38549号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。 引用例1:特開昭63-49343号公報 (1a)「この中子10Aは金型18内に固定され、この金型18内にワックスや発泡スチロールなどの消失模型型材料を射出して消失模型20を成形する(ステップ110、第2図E)。このように中子10Aを鋳ぐるんだ状態の消失模型20の外側には、耐火物がコーティングされる。すなわちスラリ槽に浸漬して(ステップ112)スタッコ粒を振りかける(ステップ114)工程を複数回繰り返し、所定厚さの耐火物層22を形成する(第2図D)。そしてこの耐火物層22を十分に乾燥させた後(ステップ116)、消失模型18を脱ろうして(ステップ118)さらに焼成する(ステップ120)。脱ろうにより中子10Aのワックス層16も消失し、中子10Aの表面にはコーティング層14が現れる。この焼成によって外側の耐火物層22と共に、内側のワックス層16を除去した中子10Aも同時に焼成される。この結果中子素体10、バインダ含浸層12およびコーティング層14を含むセラミックシェル鋳型24が出来上がる(第2図F)。 次にこの鋳型24内、すなわち耐火物層22とコーティング層14とで挟まれる間隙に金属溶湯が注湯される(ステップ122)。そして冷却後型ばらしされ(ステップ124)、中子素体10とコーティング層14が除去される(ステップ126)。この中子素体10およびコーティング層14の除去は、例えば振動や衝撃などの物理的手段により中子の大部分を除去し、残部を溶融苛性ソーダに浸漬してこれを溶融することにより行われる。この結果製品26が完成する(第2図G)。」(第4頁右上欄第6行-左下欄第16行) (1b)「以上の実施例はセラミックシェル鋳型を用いたインベストメント法に適用したものである・・・」(第4頁右下欄第9-10行) 引用例2:特開平5-38549号公報 (2a)「このようなロストワックス法による精密鋳造におけるワックス模型に使用される模型材料としてはその製造プロセスの特殊性及び製品が精密鋳造品であることから (1) 寸法精度のよいことすなわち凝固収縮率、面引け(平滑面の窪み)の小さいこと (2) 金型からの離型性のよいこと (3) ワックス模型の表面肌がすぐれていること、すなわちフローライン(金型内部でのワックスの流れの筋状の模様)や射出成形時の気泡の巻き込みがないこと (4) 流動性がよく、溶融粘度が低く成型温度範囲の広いこと (5) 使用後回収し、何回も再使用が可能なこと (6) 曲げ強さが大きいこと (7) 鋳型を作る際シェル割れのないこと 等が要求される。」(【0003】) (2b)「ワックス模型材料としては従来動植物系、鉱物系及び合成系の各種のワックス類、天然ロジン、ロジン誘導体及び石油樹脂等の樹脂が使用されていた。しかし、ワックス類は成型模型の収縮及び面引けが大きく、かつ曲げ強度が低くてもろいばかりでなく、成形時に金型からの離型性に劣る欠点があった。また、樹脂類は粘着性が大きくて離型性が著しく悪い欠点があった。」(【0004】) (2c)「これらの欠点を改良するものとして、ワックス類に種々の添加剤、たとえばテレフタル酸、イソフタル酸、安息香酸、ナフタリン、脂肪酸アミド、ペンタエリスリット等の多価アルコール及びそのエステル、ビスフェノール等の有機化合物、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリブチレン等の合成樹脂の粉体又は球体或いは澱粉等を添加して成形模型の強度を高め、金型からの取出時の損傷を防ぐことも既に提案されている。このような添加剤(以後フィラーと称す)は凝固収縮率を低減し、面引けの改善に対しては或る程度有効である・・・」(【0005】) (2d)「メラミン粉体は粒径が比較的粗いことが好ましく平均で20? 300μm ,更に好ましくは70? 130μm のものが用いられる。平均粒径が余りに細かい粉体を使用すると、ワックス模型の表面肌は滑らかで光沢はあるが、組成物の粘性が高くなり、添加量が制限される。反対に平均粒径が余りに粗いと模型の表面肌はきめ細かさがなくなり、光沢を失い、製品の鋳物肌に悪影響を与える。本発明の平均粒径の場合には表面肌には影響を与えることなく、ワックス組成物の粘度上昇が小さく、添加量を増加させることができる。」(【0010】) 3.当審の判断 3-1.引用例1に記載の発明 引用例1の上記摘記(1a)-(1b)を総合勘案すれば、引用例1には、 「ワックスなどの消失模型型材料で成形された消失模型の外側に所定厚さの耐火物層を形成し、消失模型を脱ろうしてさらに焼成してセラミックシェル鋳型となし、次にこの鋳型内に金属溶湯を注湯して製品を作製するインベストメント法。」の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。 3-2.対比・判断 (a)本願補正発明1と引用例1発明とを対比すると、引用例1発明の「消失模型」、「所定厚さの耐火物層」、「脱ろう」、「注湯」、「ワックス」、「製品」は、それぞれ本願補正発明1の「使い捨て模型」、「鋳型」、「加熱で溶融して鋳型から除去」、「鋳込」、「マトリックス構成要素」、「鋳造部品」に相当する。 (b)そうすると、結局、本願補正発明1と引用例1発明は、 「鋳造部品の使い捨て模型の周りに鋳型を形成し、前記模型を加熱で溶融して前記鋳型から除去し、前記鋳型の中に溶湯を鋳込んで前記鋳造部品を形成するインベストメント鋳造法において、前記模型は、少なくとも1つのマトリックス構成要素からなることを特徴とするインベストメント鋳造法。」である点で一致し、次の点で相違する。 相違点1: 本願補正発明1では、模型は、マトリックス構成要素に加えて、ビスフェノールA又はポリスチレンの樹脂粒子からなる略球形の充填材微粒子を有するのに対して、引用例1発明では、充填材微粒子を含むことが明記されていない点。 相違点2:本願補正発明1では、充填材微粒子が、粒径が10ミクロン乃至70ミクロンの粒度範囲内にある粒子であるのに対して、引用例1発明では、この点が明らかでない点。 上記各相違点について検討する。 ・相違点1について 引用例2は、ロストワックス法に関する技術的事項が記載された文献であるところ、当業者において、前記ロストワックス法が、インベストメント鋳造法の別名であることは周知の事項であるから、引用例1に記載された発明と、引用例2に記載された発明は、同一の技術分野に属する発明であるといえる。 そして、引用例2の上記摘記(2b)には、「ワックス模型材料としては従来動植物系、鉱物系及び合成系の各種のワックス類、天然ロジン、ロジン誘導体及び石油樹脂等の樹脂が使用されていた。しかし、ワックス類は成型模型の収縮及び面引けが大きく、かつ曲げ強度が低くてもろいばかりでなく、成形時に金型からの離型性に劣る欠点があった。」と記載されていることから、引用例1と、引用例2に接した当業者であれば、引用例1発明の「消失模型型材料」を、ワックスのみで構成した場合には、引用例2に記載された、前記「ワックス類は成型模型の収縮及び面引けが大きく、かつ曲げ強度が低くてもろいばかりでなく、成形時に金型からの離型性に劣る」という欠点が生じることを理解するものと認められる。 そしてさらに、引用例2の上記摘記(2b)に続く摘記(2c)には、「これらの欠点を改良するものとして、ワックス類に種々の添加剤、たとえば・・・ビスフェノール等の有機化合物、ポリスチレン・・・等の合成樹脂の粉体又は球体・・・を添加して成形模型の強度を高め、金型からの取出時の損傷を防ぐことも既に提案されている。このような添加剤(以後フィラーと称す)は凝固収縮率を低減し、面引けの改善に対しては或る程度有効である」と記載されていることから、当業者であれば、前記欠点の発生を回避するために、引用例1発明のワックスに、引用例2に例示された添加剤の中から、例えば、材質として「ポリスチレン」を、また、形態として「球体」のものを選択して添加することで、前記成形模型の強度を高め、金型からの取出時の損傷を防ぐとともに、凝固収縮率を低減し、面引けを改善することは、容易になし得たことであると認められる。 ここで、「ポリスチレンの球体」は、本願補正発明1の「ビスフェノールA又はポリスチレンの樹脂粒子からなる略球形の充填材微粒子」に相当することは明らかである。 そうすると、引用例1発明において、相違点1について、本願発明1の構成を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるといえる。 ・相違点2について 引用例1発明において、ワックスに、ポリスチレンの球体を添加することが当業者が容易になし得たことは、上記「相違点1について」の項で検討したとおりであるが、当該ポリスチレンの球体を添加するに際して、添加すべきポリスチレンの球体の具体的な粒径を特定する必要があることは当業者にとって自明の事項といえる。 一方、引用例2の上記摘記(2d)には、「メラミン粉体は粒径が比較的粗いことが好ましく平均で20? 300μm ,更に好ましくは70? 130μm のものが用いられる。平均粒径が余りに細かい粉体を使用すると、ワックス模型の表面肌は滑らかで光沢はあるが、組成物の粘性が高くなり、添加量が制限される。反対に平均粒径が余りに粗いと模型の表面肌はきめ細かさがなくなり、光沢を失い、製品の鋳物肌に悪影響を与える。本発明の平均粒径の場合には表面肌には影響を与えることなく、ワックス組成物の粘度上昇が小さく、添加量を増加させることができる。」と記載されているところ、添加剤の粒径についての前記事情が、メラミン以外の材料からなる添加剤についても類推して適用可能であろうことは、当業者にとって容易に理解できることである。 すなわち、引用例2の上記摘記(2d)の記載に接した当業者であれば、ワックスに添加するポリスチレンの球体の粒径を特定するにあたり、平均粒径が余りに細かい粉体を使用すると、ワックス模型の表面肌は滑らかで光沢はあるが、組成物の粘性が高くなり、添加量が制限され、反対に平均粒径が余りに粗いと模型の表面肌はきめ細かさがなくなり、光沢を失い、製品の鋳物肌に悪影響を与えるであろうことが予測されることから、ポリスチレンの球体の粒径を、本願補正発明1で規定する「10ミクロン乃至70ミクロンの粒度範囲」と一部重複する範囲を有する、引用例2に記載された20? 300μm程度の近傍において、実験等によって最適化して、必要とされる鋳造品の表面粗さ等に応じて、該粒径を10ミクロン乃至70ミクロンの粒度範囲内に含まれる値のものとすることは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないものといえる。また、このような値を採用したことによる効果も、当業者が予測し得た範囲内のものと認められる、したがって、この点において進歩性を認めることはできない。 4.むすび 以上のとおりであるから、本願補正発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 III.本願発明について 1.本願発明 平成20年11月20日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-7に係る発明は、平成20年1月9日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。 「鋳造部品の使い捨て模型の周りに鋳型を形成し、前記模型を加熱で溶融して前記鋳型から除去し、前記鋳型の中に溶湯を鋳込んで前記鋳造部品を形成するインベストメント鋳造法において、前記模型は、少なくとも1つのマトリックス構成要素と充填材微粒子とからなり、この充填材微粒子は、粒径が10ミクロン乃至70ミクロンの粒度範囲内にある略球形の粒子であることを特徴とするインベストメント鋳造法。」 2.引用刊行物とその記載事項 原査定の拒絶理由に引用された引用例1-2と、その主な記載事項は、前記「II.2.」に記載したとおりである。 3.当審の判断 本願発明1を特定するに必要な事項を全て含み、さらに具体的に限定したものに相当する本願補正発明1が、前記「II.3.」に記載したとおり、引用例1-2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も同様の理由で、引用例1-2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-05-18 |
結審通知日 | 2010-05-19 |
審決日 | 2010-06-02 |
出願番号 | 特願平9-307888 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B22C)
P 1 8・ 575- Z (B22C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 國方 康伸、池ノ谷 秀行、福島 和幸 |
特許庁審判長 |
徳永 英男 |
特許庁審判官 |
筑波 茂樹 加藤 浩一 |
発明の名称 | 鋳放し表面仕上げが改良されたインベストメント鋳造 |
代理人 | 西郷 義美 |