• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01M
管理番号 1227802
審判番号 不服2009-17275  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-15 
確定日 2010-12-01 
事件の表示 特願2004-112303「建造物内への害虫侵入防止方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月27日出願公開、特開2005-295810〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成16年4月6日の出願であって,平成21年6月12日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年9月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。
その後,平成22年4月22日付けで,審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ,同年6月21日に回答書が提出された。

第2.平成21年9月15日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成21年9月15日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正の内容,補正後の本願発明
平成21年9月15日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲の請求項1を,補正前(平成21年5月26日付け手続補正書を参照)のものから,次のとおりに補正しようとする補正事項を含む。

「【請求項1】
建造物外部の出入口の上部またはその軒下に,蒸散した薬剤を蒸散させるためのファンおよび薬剤担持体を有する薬剤蒸散装置を設置し,建造物の出入口の面積1m^(2) あたり1?80mg/hの薬剤の蒸散量で,前記薬剤蒸散装置から薬剤を,薬剤蒸散装置の設置面から0?60度の蒸散角度でドア面に沿って下方に向けて蒸散させることを特徴とする建造物内への害虫侵入防止方法であって,前記薬剤が,メトフルトリン,トランスフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選ばれた少なくとも1種の常温蒸散性を有するピレスロイド系殺虫剤である,建造物内への害虫侵入防止方法。」

上記補正事項は,補正前の請求項1に係る発明の建造物内への害虫侵入防止方法の薬剤蒸散装置の設置箇所を建造物の「出入口」に限定し,薬剤の蒸散量を「1?80mg/h」に限定し,薬剤の蒸散方向を「ドア面に沿って下方に向けて」蒸散するものに限定し,薬剤を「メトフルトリン,トランスフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選ばれた少なくとも1種の常温蒸散性を有するピレスロイド系殺虫剤」に限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とする。

そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「補正発明」という。)が,特許出願の際,独立して特許を受けることができるものかについて検討する。

2.刊行物及びその記載内容
刊行物1 実用新案登録第3085104号公報
刊行物2 特開平11-169051号公報

(1)原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された上記刊行物1には,図面とともに,以下の記載がある。
(1a)「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】飲食店等に飛来する害虫を駆除するために玄関や裏口などで用いる殺虫プレートがむき出しのまま来客の目に入らないようにするために被う殺虫プレート挿入カセット。
【請求項2】殺虫プレートの成分が自然通風の中で設置個所周辺の全体に行き渡るように特定個所に通風口を空けた請求項1記載の殺虫プレート挿入カセット。
」(平成13年1月29日付け手続補正書)
(1b)「【考案の詳細な説明】
【0001】ファミリーレストラン等の出入口に通常飛来する害虫が扉開閉時に店内に侵入しないように,殺虫プレートを利用し出入口周辺を広範囲にわたり防虫体制にする。その際,殺虫プレートを挿入する挿入用カセットは目立たない造りにし,防虫対策を行っているイメージのないものにする。
【考案の属する技術分野】
【0002】建築物の特定個所における空気力学。
・・・
【課題を解決するための手段】
【0005】殺虫プレートの自然気化能力を利用し,設置場所周辺に害虫が寄付かないようにする。その際,殺虫プレートを特別に考案された挿入用カセットの中に入れ,害虫対策を行っていることをわからなくすると良い。
【考案の実施の形態】
【0006】飲食店出入口扉の両サイド上部分(屋外)に挿入用カセットを接着テープ等で固定し,中に殺虫プレートを挿入する。」

上述の記載事項(1a)?(1b)及び図面の記載から見て,刊行物1には,以下の発明が記載されているものと認められる。(以下,「刊行物1記載の発明」という。)

「飲食店の出入口扉の屋外側の両サイド上部分に,殺虫プレートの成分が自然通風の中で設置個所周辺の全体に行き渡るように特定個所に通風口を空けた殺虫プレート挿入用カセットを接着テープ等で固定し,中に殺虫プレートを挿入し,殺虫プレートの自然気化能力を利用して,出入口周辺を広範囲にわたり害虫が寄付かないようにし,出入口に通常飛来する害虫が扉開閉時に店内に侵入しないようにする方法。」

(2) 同じく上記刊行物2には,図面とともに,以下の記載がある。
(2a)「【0002】
【従来の技術】従来より強制的に薬剤を揮散させる手段として,送風により薬剤を揮散させる方法が知られている。その例として,・・・。また,常温揮散性薬剤を保持した拡散用材を例えばファンの形として駆動手段により駆動させ,該揮散性薬剤を拡散させて殺虫する方法が知られている。この方法は送風下,かつ非加熱条件下で薬剤を揮散させる方法の一つである。」
(2b)「【0011】本発明は,薬剤供給部に薬剤を含むゲル状物を用いているため,薬剤保持体がネット状体の場合であっても,薬剤保持体に対する接触部分を広くとることができる。・・・特に,薬剤保持体がネット状体の場合薬剤揮散面の面積を大きくする利点がある。
【0012】このような薬剤保持体に供給する薬剤は,殺虫剤又は防虫剤などの害虫防除成分,大気中にその成分を揮散させることで一定の効果を得る薬剤であれば特に限定されることはない。本発明において,前記薬剤保持体に供給する薬剤として代表的なものを以下に例示する。まず,殺虫剤や防虫剤などの害虫防除剤成分としては,以下のようなものを挙げることができる。
・・・
【0015】・・・
・d-トランス-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチル-1-シクロプロパンカルボキシレート(一般名トランスフルスリン),
【0016】・・・害虫防除剤としては,これらの中でも,・・・トランスフルスリン・・・が好ましい。このような害虫防除成分は,単独で用いてもよく組み合わせて用いてもよい。」
(2c)「【0020】上記の薬剤を保持させるには,その他の補助成分とともにこれを保持させることができ,例えば,蒸散促進用助剤として昇華性物質を添加すると揮散効果が高まってよい。害虫防除成分としてピレスロイド系化合物を使用する場合には,これに対して有効な既知の共力剤を混合することも好ましい。さらにBHTやBHAなどの酸化防止剤や紫外線吸収剤を添加すると光,熱,酸化などに対する安定性が高まる。
【0021】薬剤保持体に上記の害虫防除成分及び/又は各種薬剤を供給するため,薬剤保持供給体に保持させる薬剤の量は,特に制限を受けない。前記薬剤(害虫防除成分など)をゲル状物に含有させる場合,通常であればゲル状物中に2mg/g?500mg/gの範囲,好ましくは5mg/g?100mg/gの範囲で保持させることができる。ネットに対する1日当たりの薬液の供給量を具体的例を示すと,例えば60×60mmの大きさのネットで,12時間/日で1ケ月使用する場合には,トランスフルスリンでは30?360mg/ネット・・・が示される。」
(2d)「【0023】このようなネット状体では,例えばその貫通方向に実質的に0.1?10リットル/秒・m2 の割合で送風し,保持している薬剤を空気中に揮散させる。・・・薬剤を揮散させるには例えば送風機を用いるとよい。図1は,そのようなネットから薬剤を揮散させる害虫防除装置1を示す。この害虫防除装置1は,ネット5を有する薬剤室3,直流モータ10とファン9を有するファン室8,電池14を収容する電池収容室13とからなる。害虫防除装置1の上面に入口枠2が設けられ,その下の薬剤室3には支持枠4によりネット5が張設され,ネット5の一端に下方が開放されており三方が薬剤不透過性の材料で作られた箱形の薬剤保持供給部6が乗せられ,その薬剤保持供給部6の内部に薬剤を含有するゲル状物7が充填されており,前記ゲル状物7から薬剤がネット5の全体に供給されている。
【0024】薬剤室3の下方のファン室9には,直流モータ10が設けられ,直流モータ10の駆動軸12の先端にファン11(この場合シロッコファン)が設けられ,ファン室9の側面に排気口12が形成されている。電池収容室13には電池14が収容され,その電極に接触する図に示さない端子を設けてあり,端子は図に示さない運転制御回路を介して直流モータ10へと接続している。従って,電池14から電流を流して直流モータ10を運転し,ファン11が回転することにより,上方の吸気口から外気が取り入れ,揮散面であるネット5を通過させると,薬剤を揮散させて薬剤を含有するガスとなり,ファン11により排気口12を通過して害虫防除装置1から外へ出て,害虫の防除を行うようになっている。そして,排気口12から出る風量範囲は,0.1リットル/秒?10リットル/秒,望ましくは0.2リットル/秒?6リットル/秒が例示される。」

上述の記載事項(2a)?(2d)及び図面の記載から見て,刊行物2には,以下の発明が記載されているものと認められる。(以下,「刊行物2記載の発明」という。)

「薬剤を揮散させるためのファン11および薬剤保持体としてのネット5を有する害虫防除装置1であって,害虫防除のための薬剤としてトランスフルトリンを使用することができ,害虫防除装置1を設置し,ネット5を通過して薬剤を含有するガスとなった外気を,ファン11により排気口12を通過して害虫防除装置1から外へ出して害虫の防除を行うことができる害虫防除装置1。」

3.対比
そこで,補正発明と刊行物1記載の発明とを対比する。

刊行物1記載の発明の「飲食店」,「飲食店の出入口扉の屋外側の両サイド上部分」及び「出入口周辺を広範囲にわたり害虫が寄付かないようにし,出入口に通常飛来する害虫が扉開閉時に店内に侵入しないようにする方法」は,それぞれ,補正発明の「建造物」,「建造物外部の出入口の上部」,「建造物内への害虫侵入防止方法」に相当する。

刊行物1記載の発明の殺虫プレートの成分は自然気化能力を有するものであるから,刊行物1記載の発明の「殺虫プレートの成分」と補正発明の「薬剤」とは,「常温蒸散性を有する薬剤」の点で共通する。
刊行物1記載の発明の「殺虫プレート」は,「成分」を保持するものであるから,補正発明の「薬剤担持体」に相当する。
刊行物1記載の発明の「殺虫プレート挿入用カセット及び殺虫プレート」と補正発明の「薬剤蒸散装置」とは,常温蒸散性を有する薬剤を保持する担持体を有する「薬剤蒸散装置」の点で共通する。
よって,補正発明と刊行物1記載の発明とは,

「建造物外部の出入口の上部に,薬剤担持体を有する薬剤蒸散装置を設置し,前記薬剤蒸散装置から薬剤を蒸散させる建造物内への害虫侵入防止方法。」である点で一致し,以下の点で相違する。

相違点1
補正発明の薬剤蒸散装置は,蒸散した薬剤を蒸散させるためのファンおよび薬剤担持体を有する薬剤蒸散装置であり,該薬剤蒸散装置から,建造物の出入口の面積1m^(2)あたり1?80mg/hの薬剤の蒸散量で,薬剤蒸散装置の設置面から0?60度の蒸散角度でドア面に沿って下方に向けて蒸散させるのに対し,刊行物1記載の発明の薬剤蒸散装置はファンを有しておらず,蒸散量や蒸散した薬剤の移動する方向が定まっていない点。

相違点2
補正発明は,常温蒸散性を有する薬剤が「メトフルトリン,トランスフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選ばれた少なくとも1種の常温蒸散性を有するピレスロイド系殺虫剤」に特定されているのに対し,刊行物1記載の発明はこのような特定をしていない点。

4.判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
上記相違点1について検討する。
刊行物2には,薬剤蒸散装置(害虫防除装置)を,薬剤を蒸散させるためのファンと薬剤担持体を有するものとして構成し,薬剤を含有するガスを排気口から排出することが開示されている。刊行物2記載の薬剤蒸散装置は,ファンで形成された気流により所定の方向に薬剤を蒸散可能なものである。

刊行物1記載の発明は出入口に通常飛来する害虫が扉開閉時に店内に侵入しないようにするものであるから,殺虫成分が出入口を上方から下方までその全体に行き渡るようにした方が好ましいことは当業者がであれば当然に理解できることであり,刊行物1記載の発明の薬剤蒸散装置として,刊行物2記載の薬剤を蒸散させるためのファンと薬剤担持体を有する,薬剤を所定方向へ蒸散可能な薬剤蒸散装置を採用して出入口の上部や軒下に設置するに際し,蒸散された薬剤が出入口全体を覆うよう,薬剤をドア面にそって下方に向けて蒸散させることは当業者が容易に想到し得ることである。
そして,薬剤をドア面にそって下方に向けて蒸散させるために薬剤蒸散装置の設置面からの蒸散角度を適宜決定することは,技術の具体的適用に伴い当業者が適宜なし得る設計的事項である。
また,害虫侵入阻止の薬剤の蒸散量を害虫侵入防止の達成すべき効果を考慮して好適な値に設定することも,技術の具体的適用に伴い当業者が適宜なし得る設計的事項である。

(2)相違点2について
上記相違点2について検討する。
刊行物2記載の発明は,害虫防除のための薬剤として,ピレスロイド系殺虫剤を用いるものであり,具体例としてトランスフルトリンを挙げている(記載事項(2b)(2c))。
また,メトフルトリン,プロフルトリンもトランスフルトリン同様の害虫防除用の薬剤であるから,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の薬剤蒸散装置を採用するにあたり,薬剤を「メトフルトリン,トランスフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選ばれた少なくとも1種の常温蒸散性を有するピレスロイド系殺虫剤」とすることは,当業者が容易になし得ることである。

(3)補正発明の効果について
補正発明の効果は,全体として,刊行物1,2記載の発明から当業者が予測できる程度のものである。

したがって,補正発明は,刊行物1及び2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.補正の却下の決定についてのむすび
以上のとおり,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり,同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成21年9月15日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成21年5月26日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】建造物外部の出入口または窓の上部またはその軒下に,蒸散した薬剤を蒸散させるためのファンおよび薬剤担持体を有する薬剤蒸散装置を設置し,建造物の出入口または窓の面積1m2 あたり0.5?80mg/hの薬剤の蒸散量で,前記薬剤蒸散装置から薬剤を,薬剤蒸散装置の設置面から0?60度の蒸散角度で下方に向けて蒸散させることを特徴とする建造物内への害虫侵入防止方法。」

2.刊行物の記載内容
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1及び2の記載事項は,前記第2.2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は,実質的に,前記第2.で検討した補正発明を,建造物の「窓」にも適用可能なものに拡張し,薬剤の蒸散量を「0.5?80mg/h」の範囲に拡張し,薬剤の蒸散方向について「ドア面に沿って」蒸散するとの限定を削除し,薬剤に関する限定事項を削除したものである。
前記第2.4.で検討したとおり,建造物内への害虫侵入防止方法の薬剤蒸散装置の設置箇所を建造物の「出入口」に限定し,薬剤の蒸散量を「1?80mg/h」に限定し,薬剤の蒸散方向を「ドア面に沿って下方に向けて」蒸散するものに限定し,薬剤を「メトフルトリン,トランスフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選ばれた少なくとも1種の常温蒸散性を有するピレスロイド系殺虫剤」に限定した補正発明が刊行物1,2記載の発明から容易になし得るものと判断されるものであるから,これらの限定をしない本願発明も,当然,刊行物1,2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
したがって,本願発明は,刊行物1,2記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.本願発明についてのむすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1,2記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4.むすび
したがって,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-06 
結審通知日 2010-10-07 
審決日 2010-10-20 
出願番号 特願2004-112303(P2004-112303)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A01M)
P 1 8・ 121- Z (A01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 三成伊藤 昌哉  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 伊波 猛
土屋 真理子
発明の名称 建造物内への害虫侵入防止方法  
代理人 細田 芳徳  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ