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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16L
管理番号 1228781
審判番号 不服2010-707  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-13 
確定日 2010-12-17 
事件の表示 特願2005- 89601「圧送排水用管継手装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月 5日出願公開、特開2006-266479〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年3月25日の出願であって、平成21年10月5日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成21年10月13日)、これに対し、平成22年1月13日に拒絶査定不服審判請求がなされると共に、同日付で手続補正がなされたものである。


2.平成22年1月13日付の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成22年1月13日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「排水部から外部排出部に排水を圧送する管体を接続するための管継手装置であって、
差し込まれる管体の外径に応じた内径を有する端部と、管体の内径とほぼ同径の中央部とを有し、差し込まれた管体の端部を上記中央部の端面にて受け止める継手管と、管体の外周面に配置し、独立に管体の外周面を締め付けて管体に固定するグリップ部と、管体の外周面において上記継手管とグリップ部との間に配置する継手リングと、上記継手リングの内側斜面と継手管の内側斜面との間に挿入され、継手リングの内側斜面の分力によって管体の外周面に加圧される複数個の剛体球を配置したパッキングと、管体を接続するためにグリップ部と継手リング及び継手管の外周に等間隔で複数箇所設けた各突出部に挿通し、ナットを用いて緊締する数箇所のボルトを有し、上記ボルト、ナットの締め付け時に、継手管内部の中央部と管体の端部に取り付けたパッキングの端部、継手管端部の内側斜面、上記パッキング、継手リングの内側斜面及び継手リングとグリップ部が相互に接触し、かつグリップ部が管体外面に対して不動的状態を保つように構成された圧送排水用管継手装置。」
と補正された。

上記補正は、実質的に、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「継手管」について「差し込まれる管体の外径に応じた内径を有する端部と、管体の内径とほぼ同径の中央部とを有し、差し込まれた管体の端部を上記中央部の端面にて受け止める」と限定し、「グリップ部」について「管体の外周面を締め付けて管体に固定する」と限定し、「継手リング」について「継手管とグリップ部との間に」配置すると限定し、「ボルト」について「ナットを用いて緊締する」と限定し、更に「圧送排水用管継手装置」の全体構成について「ボルト、ナットの締め付け時に、継手管内部の中央部と管体の端部に取り付けたパッキングの端部、継手管端部の内側斜面、上記パッキング、継手リングの内側斜面及び継手リングとグリップ部が相互に接触し、かつグリップ部が管体外面に対して不動的状態を保つように構成された」態様を限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。


(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された登録実用新案第3099370号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

1-a「建物の排水管などの管体を接続する管継手に用いられるパッキングであって、管体と継手部との間に介装するように、弾性材によって形成されたパッキング本体を有し、このパッキング本体を、管体の外周に嵌合可能な環状部と、環状部の一端より延びる部分に、複数個等間隔で設けた剛体球と、環状部の他端から延び出た部分に設けた、管体の端部に配置される係止端部とによって構成し、管継手の締結時に、継手部の内側斜面により剛体球を管体の外周に加圧する構成を有する可撓管継手用パッキング。」(【請求項1】)

1-b「本考案は、建物の排水管などの管体を接続する管継手に用いられる可撓管継手用パッキングに関するものである。」(【0001】)

1-c「本考案は前記の状況に着目してなされたもので、その課題は、より高い耐引き抜き力を発揮し、必要にして十分なだけの可撓管継手としての能力を備えるとともに、継手の施工性を向上するこである。」(【0004】)

1-d「以下図示の実施形態により本考案をより詳細に説明する。各図において、符号11、12は管体、13、14は継手部を示しており、これら管体11、12と継手部13、14との間に、パッキング15が介装される。一方の継手部13は一方の管体11の端部に一体に設けられ、他方の管体12の端部を受け入れる。
パッキング15は代表的には図2に示したような構成を有しており、16はパッキング本体で、管体11、12と継手部13、14との間を埋める肉厚の環状部17を有する。例示の環状部17はほぼ台形状の横断面形状を有し、その両方の端部共に継手部13、14の内周に接触する部分は傾斜上18、19に形成されている。また、管体12の外周面に接触する部分には、シールリング20が設けられている。
環状部17の一端側には管体外周に沿って延びる一端部分21がテーパ状に設けられており、そこにボール状の剛体球22が複数個、周方向に等間隔で設けられている。23は環状部17と一端部分21間のスリットを示す。
環状部17の他端には延び出た筒状部分24があり、その先端に、他方の管体12の端部に配置される係止端部25が設けられている。係止端部25は、管体11、12の端部に挟まれて緩衝機能を果たす大きさ及び形状を有する。
パッキング本体16は一端部分21の内径が、管体12を差し込み易いように管体外径よりも大径に設定され、内方ほどより小径に形成され、筒状部分24では管体外径よりも小径に設定されているので、管体12に嵌め合わせると密着する。図3、図4はその特に筒状部分24の変形例を示しており、図3の例は蛇腹状の撓み部26を設け、さらにフレキシブルにしたもの、また図4の例は内径をより小径にした絞り部27を設けたものである。他の構成は図2のものと同じで良い。
また、図示の例において、継手部13、14には夫々3個ずつのボルト孔28、29が設けてあり、ボルト31及びナット32から成る締結手段によって締結がなされる。なお、例示のパッキング15はゴムを材料として形成されている。
このように構成された本考案のパッキング15を用いて、可撓管継手装置30を施工するには、予め他方の管体12に継手部14を嵌めておき、パッキング15を他方の管体12の端部に、嵌め合わせて取り付ける。その際、係止端部25が管体12の端部に係止されることにより、嵌合位置が決められるので、取り付けが正確に行なわれる。次いで、パッキング15を取り付けた他方の管体12を一方の管体11の継手部13に嵌め合わせ、予め他方の管体12に嵌めてある継手部14とボルト31、ナット32を用いて締結する。
ボルト31、ナット32の締結が完了すると、他方の継手部14の内側斜面33により剛体球22が管体12の外周面に加圧されて食い込む状態になる。図5の下半分に示した状態である。この状態では締結力によりパッキング本体16が変形34を起こし、係止端部25は管体11、12の端部間に挟まれた状態におかれる。故に、止水性が確保され、また管体端部の保護と防触が万全なものとなり、当たり音も発生せず、しかも必要な可撓性が確保される。」(【0013】-【0020】)

上記記載及び図1を参照すると、管体12を接続するために継手部14及び管体11の外周に等間隔で3箇所設けた各突出部に挿通し、ナット32を用いて緊締する3箇所のボルト31を有する構成が示されている。
上記記載及び図5を参照すると、差し込まれる管体12の外径に応じた内径を有する端部と、管体12の内径とほぼ同径の中央部とを有し、差し込まれた管体12の端部を上記中央部の端面にて受け止める管体11が示され、管体12の外周面において上記管体11と対向して配置する継手部14が示され、さらに、ボルト31、ナット32の締め付け時に、管体11内部の中央部と管体12の端部に取り付けたパッキング15の係止端部25、管体11端部の内側斜面、上記パッキング15、継手部14の内側斜面33が相互に接触するように構成された態様が示されている。

上記記載事項からみて、引用例1には、
「建物の排水管などの管体を接続する可撓管継手装置30であって、差し込まれる管体12の外径に応じた内径を有する端部と、管体12の内径とほぼ同径の中央部とを有し、差し込まれた管体12の端部を上記中央部の端面にて受け止める管体11と、管体12の外周面において上記管体11と対向して配置する継手部14と、上記継手部14の内側斜面33と管体11の内側斜面との間に挿入され、継手部14の内側斜面33によって管体12の外周面に加圧されて食い込む複数個の剛体球22を配置したパッキング15と、管体12を接続するために継手部14及び管体11の外周に等間隔で3箇所設けた各突出部に挿通し、ナット32を用いて緊締する3箇所のボルト31を有し、上記ボルト31、ナット32の締め付け時に、管体11内部の中央部と管体12の端部に取り付けたパッキング15の係止端部25、管体11端部の内側斜面、上記パッキング15、継手部14の内側斜面33が相互に接触するように構成された排水用の可撓管継手装置30。」
との発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されている。

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開2003-97775号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

2-a「受口管にパッキンを介して挿入されたプラスチック管の外周面に外嵌装着され、C型リング状を成したリング本体の両端面側に設けられたフランジどうしをボルト及びナットで締結することにより、プラスチック管の外周面に固定される離脱防止リングにおいて、該離脱防止リングを本締めしたときに、外径側の端面どうしは接合して成り、その時プラスチック管は縮径していることを特徴とするプラスチック管の離脱防止リング。」(【請求項1】)

2-b「本発明は、地中に埋設されるプラスチック製の水道管等の管継手等に用いられる抜止用(注:「抜止防止用」は誤記)の離脱防止リングに関するものである。」(【0001】)

2-c「硬質塩化ビニール管やインコア内装のポリエチレン管等のプラスチック管は、例えば、地中に埋設される水道管によく用いられている。図9は、従来のこのプラスチック管1の管継手部分の一例を示す縦断面図である。同図に示す如く、この管継手は、テーパー状受口部3の内径がプラスチック管1の外径よりも大きく設定され、軸線方向の中央部が太鼓状に膨れて内部に広い空腔4の形成された受口管としての継手本体2を有している。プラスチック管1は、この継手本体2の受口部3に挿口部5が挿入されている。そして、プラスチック管1(注:「継手本体2」は誤記)の挿口部外周面と、継手本体2の受口部3との間にシール用のゴムパッキン6を嵌挿し、背後から押輪7で継手本体2に対して押し込むようにしている。この押し込みは、継手本体2の端面外周に形成された突出部8のボルト孔10と、該ボルト孔10に対応する押輪7のボルト孔9とに、緊締ボルト11を挿通して袋状のナット12で緊締することにより行っている。
また袋状のナット12は筒状部12aと膨出径大部12bとを有しており、この膨出径大部12bがプラスチック管1の外周面に固定された離脱防止リング13の抜止用フランジ13aと係合することで、プラスチック管1の抜け止めを行うことができるようになされている。なお、離脱防止リング13は、図10に示すように、円周上の一部が開口し、該開口部の両端に締結用のフランジ13b及び13cが形成されており、緊締用ボルト11及び袋状のナット14で締結するようにしている。」(【0002】-【0003】)

2-d「図5及び図6は本発明をインコア内装のポリエチレン管へ適用した場合の第2の実施形態に係るものであり、図5は継手部分の縦断面図、図6は正面図である。同図に示す如く、ポリエチレン管21はステンレス製等のインコア22を継手部分に内装されている。この実施の形態の離脱防止リング23は、ボルト挿通孔24が楕円状に形成されており、その小径側の寸法は袋ナット12(注:「14」は誤記)の端面の外径よりも小さく設定されている。
而して、この離脱防止リング23では、先に袋ナット12と締付ボルト11で押輪7を介してパッキン6を押圧して縮径させ、ポリエチレン管21の外周面へ緊密に接合させてシール性を確保している。その後に、離脱防止リング23の袋ナット14と締付ボルト11で離脱防止リング23の締結を行えばよい。これにより、そのフランジ13b,13cの外径側に設けた凸部18a及び18bと凸部18c及び18dとにより、締付完了が目視により確認できること及び適正な締付トルクが維持でき、ポリエチレン管21を異常変形させないこと等の基本的な作用効果については、前記第1の実施の形態の場合と同じである。」(【0025】-【0026】)

2-e「以上説明したように本発明にあっては、受口管にパッキンを介して挿入されたプラスチック管の外周面に外嵌装着され、C型リング状を成したリング本体の両端面側に設けられたフランジどうしをボルト及びナットで締結することにより、プラスチック管の外周面に固定される離脱防止リングにおいて、該離脱防止リングを本締めしたときに、外径側の端面どうしは接合して成り、プラスチック管は縮径していることを特徴とする。この発明によれば、離脱防止リングを本締めしたときに、両フランジの外径側の端面どうしが接合するので、作業者は本締めが終了したことを目で確認することができる。このとき、プラスチック管は、前記離脱防止リングの締付力により縮径しており、離脱防止リングから容易に逸脱することはない。」(【0030】)

上記記載及び図5を参照すると、離脱防止リング23と押輪7及び継手本体2の外周に設けた各突出部に挿通する締付ボルト11が示されている。
上記記載及び図6を参照すると、離脱防止リング23の外周に、対向する2個の抜止用フランジ13aを設け、該抜止用フランジ13aに締付ボルト11を挿通するボルト挿通孔24を形成した構成が示されている。
図9を参酌して、上記記載及び図5を参照すると、ポリエチレン管21の外周面に配置し、独立にポリエチレン管21の外周面を締め付ける離脱防止リング23が示され、また、押輪7の内側斜面と継手本体2の内側斜面との間に挿入され、押輪7の内側斜面の分力によってポリエチレン管21の外周面に加圧されるパッキン6が示され、さらに、緊締ボルト11、袋ナット12の締め付け時に、継手本体2端部の内側斜面、パッキン6、押輪7の内側斜面及び押輪7と離脱防止リング23が相互に接触する構成が示されている。

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用例1発明とを対比すると、引用例1発明の「可撓管継手装置30」、「管体12」、「管体11」は、それぞれ本願補正発明の「管継手装置」、「管体」、「継手管」に相当する。
引用例1発明の「継手部14の内側斜面33と管体11の内側斜面との間に挿入され、継手部14の内側斜面33によって管体12の外周面に加圧されて食い込む複数個の剛体球22を配置したパッキング15」は、本願補正発明の「継手リングの内側斜面と継手管の内側斜面との間に挿入され、継手リングの内側斜面の分力によって管体の外周面に加圧される複数個の剛体球を配置したパッキング」に相当する。
引用例1発明の「パッキング15の係止端部25」は、本願補正発明の「パッキングの端部」に相当する。

引用例1発明の「建物の排水管などの管体」と、本願補正発明の「排水部から外部排出部に排水を圧送する管体」は、「排水用の管体」との概念で共通する。
引用例1発明の「管体12の外周面において管体11と対向して配置する継手部14」と、本願補正発明の「管体の外周面において継手管とグリップ部との間に配置する継手リング」は、「管体の外周面において継手管と所定関係に配置する継手リング」との概念で共通する。
引用例1発明の「管体12を接続するために継手部14及び管体11の外周に等間隔で3箇所設けた各突出部に挿通し、ナット32を用いて緊締する3箇所のボルト31」と、本願補正発明の「管体を接続するためにグリップ部と継手リング及び継手管の外周に等間隔で複数箇所設けた各突出部に挿通し、ナットを用いて緊締する数箇所のボルト」は、「管体を接続するために継手リング及び継手管の外周に等間隔で複数箇所設けた各突出部に挿通し、ナットを用いて緊締する数箇所のボルト」との概念で共通する。
引用例1発明の「ボルト31、ナット32の締め付け時に、管体11内部の中央部と管体12の端部に取り付けたパッキング15の係止端部25、管体11端部の内側斜面、上記パッキング15、継手部14の内側斜面33が相互に接触する」態様と、本願補正発明の「ボルト、ナットの締め付け時に、継手管内部の中央部と管体の端部に取り付けたパッキングの端部、継手管端部の内側斜面、上記パッキング、継手リングの内側斜面及び継手リングとグリップ部が相互に接触し」ている態様は、「ボルト、ナットの締め付け時に、継手管内部の中央部と管体の端部に取り付けたパッキングの端部、継手管端部の内側斜面、上記パッキング、継手リングの内側斜面が相互に接触する」との概念で共通し、引用例1発明の「排水用の可撓管継手装置30」と、本願補正発明の「圧送排水用管継手装置」は、「排水用管継手装置」との概念で共通する。

したがって、両者は、
「排水用の管体を接続するための管継手装置であって、差し込まれる管体の外径に応じた内径を有する端部と、管体の内径とほぼ同径の中央部とを有し、差し込まれた管体の端部を上記中央部の端面にて受け止める継手管と、管体の外周面において上記継手管と所定関係に配置する継手リングと、上記継手リングの内側斜面と継手管の内側斜面との間に挿入され、継手リングの内側斜面の分力によって管体の外周面に加圧される複数個の剛体球を配置したパッキングと、管体を接続するために継手リング及び継手管の外周に等間隔で複数箇所設けた各突出部に挿通し、ナットを用いて緊締する数箇所のボルトを有し、上記ボルト、ナットの締め付け時に、継手管内部の中央部と管体の端部に取り付けたパッキングの端部、継手管端部の内側斜面、上記パッキング、継手リングの内側斜面が相互に接触するように構成された排水用管継手装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
排水用の管体に関し、本願補正発明は、「排水部から外部排出部に排水を圧送する」としているのに対し、引用例1発明は、かかる特定がなされていない点。
〔相違点2〕
本願補正発明は、「管体の外周面に配置し、独立に管体の外周面を締め付けて管体に固定するグリップ部」を備えているのに対し、引用例1発明は、かかる「グリップ部」を備えていない点。
〔相違点3〕
管体の外周面において、継手リングを継手管と「所定関係に」配置する態様に関し、本願補正発明は、「継手管とグリップ部との間に」配置するとしているのに対し、引用例1発明は、「継手管と対向して」配置しているのみである点。
〔相違点4〕
ボルトを挿通するために、継手リング及び継手管の外周に等間隔で複数箇所設けた各突出部に関し、本願補正発明は、「グリップ部」の外周にも該突出部を設けている構成であるのに対し、引用例1発明は、かかる構成を備えていない点。
〔相違点5〕
ボルト、ナットの締め付け時に、相互に接触する対象箇所に関し、本願補正発明は、「継手リングとグリップ部」が含まれているのに対し、引用例1発明は、かかる対象箇所を備えていない点。
〔相違点6〕
本願補正発明は、「グリップ部が管体外面に対して不動的状態を保つ」構成を備えているのに対し、引用例1発明は、かかる「グリップ部」を備えていない点。
〔相違点7〕
排水用管継手装置に関し、本願補正発明は、「圧送」排水用管継手装置であるのに対し、引用例1発明は、かかる特定がなされていない点。


(4)判断
相違点1及び7について
一般に、排水管などの管体として、排水を圧送する管体が実在することは明らかであり、また、管体に対してより高い耐引き抜き力を要求することは、管体の種類を問わず共通の課題であるから、引用例1発明における管体を、排水を圧送する管体に特定することにより、相違点1及び7に係る本願補正発明のようにすることは、当業者が適宜選択し得る事項である。

相違点2ないし6について
例えば、引用例2にも開示されているように、管体(「ポリエチレン管21」が相当)の外周面に配置し、独立に管体の外周面を締め付けて管体に固定するグリップ部(「離脱防止リング23」が相当)を備え、管体の外周面において継手リング(「押輪7」が相当)を継手管(「継手本体2」が相当)とグリップ部との間に配置するようにし、ボルト(「緊締ボルト11」が相当)を挿通するために、グリップ部の外周にも等間隔で複数箇所の突出部(「離脱防止リング23の外周に対向する2個の抜止用フランジ13a」が相当)を設けるようにし、ボルト、ナット(「袋ナット12」が相当)の締め付け時に、継手リングとグリップ部をも相互に接触させるようにし、さらに、グリップ部が管体外面に対して不動的状態を保つ(「離脱防止リング23の締付力によりポリエチレン管21を縮径させる」態様が相当)ように構成することで、管体の抜け止めを行うことは、継手管装置(「管継手」が相当)の分野において周知の技術である。

一般に、管体の抜け止めを強化する手法としては、管体に対する締め付け力を増強するか、より大きな摩擦力の生ずる形状・材質を用いるか、締め付け部材を追加するかのいずれかが想定されるところである。

そうすると、管体に対してより高い耐引き抜き力を発揮することを課題とする引用例1発明において、かかる課題を解決する範囲内のものとして、管体の抜け止めを強化する手法の一つである締め付け部材(「グリップ部」が相当)を追加する手法に相当する上記周知の技術を採用して相違点2ないし6に係る本願補正発明の構成とすることは、上記周知の技術の採用に際し格別の技術的阻害要因が認められない以上、当業者が容易に考えられるものと認められる。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用例1発明及び上記周知の技術から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用例1発明及び上記周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成21年8月21日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「排水部から外部排出部に排水を圧送する管体を接続するための管継手装置において、管体の外周面に継手リングを配置するとともに管体の端部に継手管を配置し、継手リングの内側斜面と継手管の内側斜面との間に、管体の外周面に喰い込む複数個の剛体球を配置したパッキングを挿入し、継手リングの締め付け時に内側斜面の分力によって剛体球を管体の外周面に加圧する構成を有し、かつ継手リングを締め付けるのとは独立に管体の外周面を締め付ける、グリップ部を継手部とは別部品として有し、グリップ部と継手リングとを数箇所のボルトによって共締めした構成を有し、グリップ部が継手リングを加圧する方向に作用するとき、継手リングはその加圧力に耐えるようにグリップ部は継手(注:「継ぎ手」は誤記)リングに接して配置されていることを特徴とする圧送排水用管継手装置。」
なお、上記手続補正書の請求項1には、「継手リングがグリップ部を加圧する方向に作用するとき」と記載されているが、平成22年6月23日付回答書にもあるように「グリップ部が継手リングを加圧する方向に作用するとき」の明らかな誤記と認められるため、本願発明を上記のように認定した。

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1及び、その記載事項は、上記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.(1)」で検討した本願補正発明から、実質的に、「継手管」について「差し込まれる管体の外径に応じた内径を有する端部と、管体の内径とほぼ同径の中央部とを有し、差し込まれた管体の端部を上記中央部の端面にて受け止める」との限定を省き、「グリップ部」について「管体の外周面を締め付けて管体に固定する」との限定を省き、「継手リング」について「継手管とグリップ部との間に」配置するとの限定を省き、「ボルト」について「ナットを用いて緊締する」との限定を省くと共に、「圧送排水用管継手装置」の全体構成について「ボルト、ナットの締め付け時に、継手管内部の中央部と管体の端部に取り付けたパッキングの端部、継手管端部の内側斜面、上記パッキング、継手リングの内側斜面及び継手リングとグリップ部が相互に接触し、かつグリップ部が管体外面に対して不動的状態を保つように構成された」態様への限定を省いたものである。

そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(3)及び(4)」に記載したとおり、引用例1発明及び上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1発明及び上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1発明及び上記周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-04 
結審通知日 2010-10-12 
審決日 2010-10-26 
出願番号 特願2005-89601(P2005-89601)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16L)
P 1 8・ 575- Z (F16L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 正浩  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 槙原 進
田良島 潔
発明の名称 圧送排水用管継手装置  
代理人 井澤 洵  

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